障害のある子ども一人一人の教育的ニーズに対応した教育の実現に貢献します。

特別支援教育法令等データベース 総則 / 報告・答申等 - 学習障害児に対する指導について(報告)-

2 専門家チームにおける判断基準と留意事項
(1)判断基準
(2)専門的意見の内容と留意事項
(3) 専門家チームの意見に対する学校の対応
学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者


1 はじめに

いわゆる学習障害児に対する指導について,本協力者会議では,平成4年6月の発足以来,様々な側面から精力的に検討を行ってきたところである。

この間,平成7年3月には,学習障害の定義,実態把握の方法,指導についての基本的な考え方,指導内容・方法の工夫,指導に当たっての配慮事項等を取りまとめた中間報告を公表した。

その後,平成8年7月の中央教育審議会第1次答申に学習障害児に対する指導内容・方法等についての研究の推進の必要性が明記されたのを始め,平成10年4月には,本協力者会議から教育課程審議会に学習障害児に対する教育的対応の充実を要望したところ,これを受けて同年7月の教育課程審議会答申に学習障害児への対応が明記されたところである。

また,文部省においては,「みつめよう一人一人を」等の指導資料や理解啓発資料の作成・配布,調査研究協力校における実践研究,専門家による巡回指導等の措置を講じてきた。

こうした様々な施策の推進により,小・中学校の教員等の学習障害児に対する理解,関心が高まり,学習障害児に対する指導の充実が図られるとともに,一般社会においても幅広く「学習障害」あるいは「LD」という言葉が普及することとなった。

このように学習障害児に対する理解,関心が高まったことは喜ばしいことであるが,一方,学校関係者からは中間報告で示した学習障害の定義があいまいで理解することが難しい点があるのではないかとの指摘がなされ,また,それと関連して学習障害について語られるとき,必ずしも識者を含めて同一の対象が想定されていないといった状況が見られた。

このような状況を踏まえ,本協力者会議としては,平成9年12月に審議を再開し,学習障害の定義,判断基準並びに中間報告でさらに検討が必要とされた指導形態及び場等について検討を加え,以下のように審議の結果を取りまとめた。


2 学習障害の定義について

(1)学習障害の定義

本協力者会議においては,中間報告で次のとおり学習障害を定義した。

学習障害とは,基本的には,全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す, 読む,書く,計算する,推論するなどの特定の能力の習得と使用に著しい困 難を示す,様々な障害を指すものである。

学習障害は,その背景として,中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが,その障害に起因する学習上の特異な困難は,主として学齢期に 顕在化するが,学齢期を過ぎるまで明らかにならないこともある。

学習障害は,視覚障害,聴覚障害,精神薄弱(注),情緒障害などの状態や,家庭、学校、地域社会などの環境的な要因が直接の原因となるものではないが, そうした状態や要因とともに生じる可能性はある。また,行動の自己調整,対人関係などにおける問題が学習障害に伴う形で現れることもある。

(注)平成7年当時の定義のため,そのまま記載しているが,現在では「知的障害」に改められている。

この定義にあるとおり,学習障害は全般的な知的発達に遅れはないが,特定の能力の習得と使用に著しい困難を示すことが第1の要件である。しかし,実際には複数の能力の習得と使用に困難を示すことも多く,また,いわゆる2次的障害により,全般的に知的発達の遅れがある場合と明確に峻別し難いものも見られる。

また,学習障害は,その背景として,中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されているが,どのような機能障害があるかについては,現時点においては,医学的にも十分解明されていない。

このため,学習障害を明確に定義することには難しい点があるが,次のとおり定義の明確化を図った。

学習障害とは,基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を示すものである。

学習障害は,その原因として,中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環境的な要因が直接的な原因となるものではない。


(2)学習障害の定義の解説

(1) 学習障害の特徴

ア  学習障害とは,知能検査の結果から,基本的には知的障害のような全般 的な知的発達の遅れは見られないが,学業成績,行動観察,詳細な心理検査等により,学習上の基礎的能力である聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力を習得し,使用することについて,1つないし複数の著しい困難があると見られる様々な状態を総称するものである。

イ 中間報告の定義では,能力の範囲に「など」をつけ,解説において,「など」による能力には,運動・動作の能力,社会的適応性に係る能力が考えられるが,具体的な内容とその限界について更に検討を進めるとしていた。

しかし,全米学習障害合同委員会の定義では対象となる能力は限定列挙であること,都道府県教育委員会等からも学習障害の範囲が不明確になるという意見があったこと,運動・動作の能力や社会的適応性に係る能力の欠如が学習障害に重複して現れることはあるが,その能力の欠如のみでは学習障害とは認定し難いことから,学習障害の対象となる習得と使用に著しい困難を示す能力の範囲は,「聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力に限定することとした。

ウ なお,推論する能力には,図形や数量の理解・処理といった算数や数学における基礎的な推論能力が含まれていることに留意する必要がある。

(2) 学習障害の原因

ア 学習障害の直接の原因は,個人に内在するものであり,中枢神経系の何ら かの機能障害によるものと推定される。つまり,様々な感覚器官を通して入ってくる情報を受け止め,整理し,関係づけ,表出する過程のいずれかに十分機能しないところがあるものと考えられる。しかし,中枢神経系のどの部分にどのような機能障害があるかについては,まだ医学的に十分には明らかにされていない状況にある。

学習障害は,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの他の障害,あるいは児童生徒の生育の過程や現在の環境における様々な困難といった外的・環境的な要因による学習上の困難とは異なる。また,ある教科に対する学習意欲の欠如や好き嫌いによるものでもない。

イ 除外すべき障害の例示につけた「など」の障害には,言語障害,肢体不自由,病弱・身体虚弱がある。 なお,言語障害については,器質的又は機能的な構音障害や吃音等の話し言葉のリズムの障害そのものは,学習障害の直接の原因となるものではないが,話す,聞く等言語機能の基礎的能力に発達の遅れがあるという状態については,学習障害でも同様に見られることがあることに留意する必要がある。

(3) 他の障害や環境的要因との重複

ア 中間報告の定義では,他の障害や環境的な要因が学習障害の直接の原因ではないが,「ともに生じる可能性」があるとした。しかし,他の障害や環境的要因が重複する場合,それらによってより困難な状態が生じることはどの障害でも同様であり,学習障害以外の障害の定義では重複する障害との関係は示されていないこと等から,重複障害についての記述は定義ではふれないこととした。

イ 知的障害と学習障害の関係については,教育上の措置を考えるに当たっては,(1)にも述べたように基本的には全般的な知的発達の遅れがないことの確認を要件としていることから,知能検査等の結果,明らかに知的障害が見られれば,知的障害の養護学校や特殊学級で教育を行うことが適当である。  ただし,知的障害でありながら話す,書く等の学習の基礎的能力に大きな能力上のアンバランスがみられる等学習障害と同様の状態を示す場合がまれに見られるが,そのような場合は,知的障害児を対象とした教育の場の中で,必要に応じて学習障害としての配慮をすることが適当である。

ウ 知能検査の結果が,知的障害との境界付近の値を示すとともに,聞く,話す,読む,書く等のいずれかの学習上の基礎的能力に特に著しい困難を示す場合の教育的な対応については,その知的発達の遅れの程度や社会的適応性を考慮し,学習障害として,通常の学級等において学習上の基礎的能力の困難を改善することを中心としだ配慮を行うか,知的障害として特殊学級において学習上の困難への対応を工夫することが適当である。

エ 視覚障害,聴覚障害等他の障害と学習障害が重複する場合についても,主たる障害に対応する盲・聾・養護学校や特殊学級における教育,通級による指導等の中で,必要に応じて学習障害としての配慮をすることが適当である。

(4) 行動の自己調整・対人関係の問題

ア 学習障害児には,行動の自己調整や対人関係などに問題が見られる場合がかなりあることから,これらの問題が「学習障害に伴う形で現れることもある」旨を中間報告の定義に記述した。具体的には,例えば学校生活において,注意集中の困難や多動,対人関係などの社会的適応性の問題が現れることもある。このような問題は,一次的に学習障害と重複して現れている場合と,学習障害による学習上の困難の結果,そのような問題が二次的に生じている場合がある。

このような場合には,学習障害児に対する指導の中で,それらの問題の改善につき配慮する必要がある。

イ しかしながら,このような問題のみが生じていたり,そのことが主たる原因として学習の遅れが生じている場合は学習障害ではないことから,定義では触れないこととしたが,その困難の程度に応じて,情緒障害の特殊学級における教育や通級による指導などの対応を考慮するか,通常の学級において授業に集中しやすい環境の整備や対人関係等の改善に配慮する等の教育的対応を考慮する必要がある。


3 学習障害の判断・実態把握基準

学習障害児を効果的に指導するためには,まず当該児童生徒が学習障害であるか否かを判断する必要がある。特に学習障害は,その状態が知的障害や情緒障害と部分的に同様な状態を示す場合もあることから,的確な実態把握を行い,判断することがきわめて重要である。

中間報告においては,専門家による総合的かつ慎重な実態把握をどのように行うかについての考え方を示したところであるが,今回さらに学習障害の判断・実態把握の体制・手続き,基準,留意事項について検討を行い,その結果を別紙のとおり試案として取りまとめた。

今後,これを参考として各教育委員会や学校において,学習障害児であるか否かが的確に判断され,効果的な指導が進められることが期待される。


4 学習障害児に対する指導方法

(1) 従来の特殊教育の特徴は,教科の指導と並んで障害に基づく種々の困難の改善・克服を目指す自立活動(養護・訓練)の指導を行うことにある。これに対し,学習障害児に対する指導は,特定の能力の困難に起因する教科学習の遅れを補う教科の指導が中心となる。このため,学習障害とは別の理由により教科学習に遅れが見られる児童生徒に対する指導内容・方法と重複する部分も少なくなく,学習障害に特有の指導内容・方法を明確に示すことは現時点では困難である。ただし,反面これは,障害のない児童生徒に対する指導においても,学習障害児に対する指導内容・方法を広く活用することができるということも意味している。

(2) また,従来の特殊教育においては,障害の種類や程度に応じた固有な指導内容・方法,あるいは指導形態があるが,学習障害児については,困難のある特定の能力の種類により指導方法等が異なることもあり,学習障害児に共通した一般的な指導方法は現時点では確立されていない。

さらに,同一の能力に困難を有していても,個々の学習障害児に生じている学習上のつまずきや困難などは様々であり,これらを改善するためには,個々の実態に応じた指導を行うことが必要である。

その際,個々の児童生徒の認知能力の特性に着目した指導内容・方法を工夫することが有効である。

(3) 具体的指導方法については,調査研究協力校や国立特殊教育総合研究所等における研究が参考となる。

まず,調査研究協力校における研究では,学習障害児又はそれに類似した児童生徒に対する指導方法として,学習障害児等が興味・関心を持つて授業に参加できるような指導や,達成感を持てるような指導が大きな効果を上げたことが報告されている。具体的には,困難のある能力を補うための教材を用いた指導,スモールステップによる指導,自信をつけさせたりやる気を持たせることができる指導,同?の課題を繰り返して実施する根気・集中力を養う指導といった例が挙げられている。

また,国立特殊教育総合研究所における研究では,児童生徒のつまずきに速やかに気付いて個に応じた指導をすることが可能なテイームテイーチングの活用や,集団の中では落ち着きがないため一斉指導では学習に集中できない児童生徒に対する個別指導が効果を上げたことが報告されている。とりわけ,それぞれの児童生徒の認知能力の特性や学習の仕方に配慮して個別に指導計画を設け,苦手な分野の学習にも長所を生かせるような指導が重要であること,具体的には,

(1) 教材の種類とその示し方,板書の仕方,ノートの取り方の指導などの工夫が大切であること

(2) 読み書き計算と強い関係のある,文字,記号,図形の認知等に配慮した指導や手指の巧緻性を高める指導も有用であること

(3) 「書くこと」や「計算すること」が特別に困難な場合には,ワープロやコンピュータあるいは電卓など本人が取り組みやすい機器等の併用が効果的であること

が報告されている。

こうした具体的な指導方法を体系化し,一層効果的なものとするため,今後,国立特殊教育総合研究所において,内外の各方面で実施されている研究の成果を取りまとめていくことが望まれる。


5 学習障害児に対する指導の形態と場

学習障害児の指導には,個に応じた指導の一層の充実を図る観点から,教科の学習の困難の程度に応じた指導の形態とそのための場が必要である。

(1)通常の学級における指導

学習障害児の多くは通常の学級に在籍していることから,これらの児童生徒に対する指導は,中間報告で指摘したとおり,通常の学級における指導を基本に対応していくことが重要である。

具体的には次のような方法が考えられるが,学習障害児の指導を担任のみに委ねるのではなく,学校全体で取り組むことが重要である。このため,校内研修会等を通じて学習障害児の抱えている困難について教職員が共通理解を深めるとともに,学校全体の支援体制を構築する必要がある。

(1) 担任が配慮して指導

学習上の困難が軽度な者については,通常の授業の中で担任が配慮して指導することが適当であることから,基本的には,全ての教員がこうした児童生徒の特徴を理解し,その指導方法を実践できるようにすることが求められる。

このため,国立特殊教育総合研究所と連携を図りながら,各都道府県の特殊教育センター等の専門機関における研修の機会の充実を図るとともに,各大学の判断により,教員養成課程において学習障害児に対する理解・指導方法等について取り扱うことが望まれる。

(2) ティームティーチングによる指導

平成5年から,基礎・基本の徹底と個に応じた多様な教育が展開できるよう,複数の教員が協力して小人数による指導や個別指導を行う,いわゆるティームティーチング等を実施するための教職員の配置が図られ,効果を上げている。

学習障害児は,その特性から通常の一斉授業の形態による指導では十分に学習内容を理解することができないことがある。しかし,本人の理解できる能力に応じた個別の指導方法がとられれば,十分通常の学級の中で学習できる者が相当数存在する。こうした児童生徒の指導に際しては,このティームティーチングの活用が大きな力を発揮すると考えられる。

したがって,ティームティーチングの幅広い活用の中で,学習障害児の指導にも十分配慮することが望まれる。

なお,ティームティーチングの教員が一斉授業において指導するのみでなく,一部の授業を別の場で個別に指導することも―つの方策であると考えられる。

(2)通常の学級以外の場における指導

(1) 通常の学級における授業時間外の個別指導

ティームティーチングによる指導形態がとれない場合又はそれのみでは十分な教育効果が期待できない場合については,必要に応じて放課後等通常の授業時間外に個別指導を行うことも効果的な場合がある。  また,この個別指導を有効に進めるためには,全ての指導を担任に委ねるのではなく,非常勤講師等の活用を図ることも考えられる。

なお,児童生徒の中には授業時間外に当分だけが個別指導を受けることに抵抗を感じる者もおり,こうした感情を持つものにあっては,個別指導が十分な効果を上げることができない場合も予想される。このような事態を避けるため通常の授業時間外の指導の実施に際しては,こうした児童生徒が参加しやすいよう対象を学習障害児に限定せず,当該教科につまずきを持つている児童生徒が自由に参加できるいわばオープン教室を設置することも一つの方策として考えられる。

(2) 特別な場での個別指導

学習障害児に対する指導の場として,特定の教科については通常の学級以外の特別の場を設けることや,平成5年度から実施された「通級による指導」に類似した指導の場を設けることが考えられる。しかしながら,例えば次のような未解決の課題があり,引き続き研究を進めることが適当であり,今後,国立特殊教育総合研究所を始め各方面において精力的な検討が進められることが求められる。

ア 学習障害児のうち特別の教育課程を編成して指導することが適当な者の範囲・要件

イ 困難のある特定の能力それぞれに対応した特別の教育課程における具体的な指導方法

ウ 特別な教育課程による指導の終了後に円滑に通常の学級で対応するための方策

なお,学習障害児のうち,言語障害あるいは情緒障害と重複している者の場合には,学習障害児であつても,それぞれの通級による指導の場において,言語障害あるいは情緒障害についての必要な指導を受けることが可能である。

(3)専門家による巡回指導

学習障害児に対する指導は,学習障害に関する専門的な知識・技能を持つ専門家との連携協力を図りながら進めていくことが重要である。このため,専門家が教員に対して児童生徒への指導方法等を直接指導する機会を広げるため,既に一部地域で実施している専門家による巡回指導を充実する必要がある。

さらに,巡回指導を行う際,必要に応じて専門家が直接児童生徒を指導することも検討すべきである。

また,専門家による巡回指導を効果的なものとするためには,専門家の資質の確保・向上を図ることが不可欠である。学習障害の専門家は,教育学のみでなく心理学,医学等様々な分野についての知識が必要であるが,このような専門家を単独で確保することは容易ではなく,また,地域的な偏在も大きいと考えらねる。

こうした実態を踏まえ,国立特殊教育総合研究所において,従来からの教員を中心とした研修とあわせて専門家養成のための研修の在り方を検討すべきである。


6 おわりに

本報告は,学習障害児に対する教育的対応について,現時点において考えられる内容を取りまとめたものである。学習障害児の特性や指導方法等については研究途上にあり,今後明らかにすべき課題も多いところであるが,学習障害児及び学習障害に類似した困難を有する児童生徒が相当数存在していることにかんがみ,まず当面実施可能な方策を速やかに講じることが必要である。

今後,中間報告とあわせてこの報告で提言された方策が実施されることにより,学習障害児に対する指導が一層充実されることを期待するものである。



別紙


学習障害の判断・実態把握基準(試案)


I 判断・実態把握の体制・手続き


1 学校における実態把握

2 専門家チームにおける判断


II 判断・実態把握基準と留意事項


1 校内委員会における実態把握基準と留意事項

(1)実態把握のための基準

A.特異な学習困難があること

(1) 国語又は算数(数学)(以下「国語等」)という。)の基礎的能力に著しい遅れがある。

・現在及び過去の学習の記録等から,国語等の評価の観点の中に,著しい遅れを示すものが1以上あることを確認する。この場合,著しい遅れとは,児童生徒の学年に応じ1-2学年以上の遅れがあることを言う。

小2,3年     1学年以上の遅れ

小4年以上又は中学 2学年以上の遅れ

なお,国語等について標準的な学力検査の結果があれば,それにより確認する。

・聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力のいずれかに著しい遅れがあることを,学業成績,日頃の授業態度,提出作品,ノートの記述,保護者から聞いた生活の状況等,その判断の根拠となった資料等により確認する。

(2) 全般的な知的発達の遅れがない。

・知能検査等で全般的な知的発達の遅れがないこと,あるいは現在及び過去の学習の記録から,国語,算数(数学),理科,社会,生活(小1及び小2),外国語(中学)の教科の評価の観点で,学年相当の普通程度の能力を示すものが1以上あることを確認する。

B.他の障害や環境的な要因が直接の原因ではないこと

・児童生徒の記録を検討し,学習困難が特殊教育の対象となる障害によるものではないこと,あるいは明らかに環境的な要因によるものではないことを確認する。

・ただし,他の障害や環境的な要因による場合であっても,学習障害の判断基準に重複して該当する場合もあることに留意する。

・重複していると思われる場合は,その障害や環境等の状況などの資料により確認する。

(2)実態把握に当たっての留意事項

(1) 学習障害と疑われる状態が一時的でないことを確認する。

・概ね1学期間は,対象児童生徒の行動観察,就学時の資料の検討,保護者との面談など専門家チームの判断のための基礎的な資料の収集に努めるとともに,対象児童生徒の学習の進捗状況に十分な注意を払う。

・なお,小学校1年生時は,1学期間では不十分な場合もあり,1年程度かける必要がある場合が多いので,原則として,基礎的な資料の収集に留めることとする。

(2) 専門家チームヘ判断を求める前には,保護者の了解を確認する。

・校内委員会と保護者の見解が一致しなければ,原則として専門家チームヘの判断の申し出は行わない。

・ただし,保護者が希望しない場合でも,児童生徒の学習の状況によっては,必要に応じて再度適宜協議し,専門家チームの判断を求めることを勧める。

(3) 行動の自己調整や対人関係の問題が併存する場合には,次の事項にも配慮する。

・行動の自己調整や対人関係の問題が併存する場合もあるので,それへの十分な配慮が必要である。当面,行動の自己調整や対人関係の問題のみへの対応が必要と考えられる児童生徒も,それらの問題が一応の解決を見た後で特異な学習困難が明らかになる場合もあることに留意する。

・行動の問題が学習障害と重複している疑いがあると考える場合は,学校における生活態度,保護者から聞いた生活態度,生育歴,環境上の問題等を記述した資料を収集する。

(4) 学習障害の判断は,専門家チームに委ね,学校では行わない。


2 専門家チームにおける判断基準と留意事項

(1)判断基準

次の判断基準に基づき,原則としてチーム全員の了解に基づき判断を行う。

A.知的能力の評価

(1) 全般的な知的発達の遅れがない。

・個別式知能検査の結果から,全般的な知的発達の遅れがないことを確認する。

・知的障害との境界付近の値を示すとともに,聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論するのいずれかの学習の基礎的能力に特に著しい困難を示す場合は,その知的発達の遅れの程度や社会的適応性を考慮し,知的障害としての教育的対応が適当か,学習障害としての教育的対応が適当か判断する。

(2) 認知能力のアンバランスがある。

・必要に応じ,複数の心理検査を実施し,対象児童生徒の認知能力にアンバランスがあることを確認するとともに,その特徴を把握する。

B.国語等の基礎的能力の評価

○国語等の基礎的能力に著しいアンバランスがある。

・校内委員会が提出した資料から,国語等の基礎的能力に著しいアンバランスがあることと,その特徴を把握する。ただし,小学校高学年以降にあっては,基礎的能力の遅れが全般的な遅れにつながっていることがあるので留意する必要がある。

・国語等の基礎的能力の著しいアンバランスは,標準的な学力検査等の検査,調査により確認する。

・国語等について標準的な学力検査を実施している場合には,その学力偏差値と知能検査の結果の知能偏差値の差がマイナスで,その差が一定の標準偏差以上あることを確認する。

なお,上記A及びBの評価の判断に必要な資料が得られていない場合は,不足の資料の再提出を校内委員会に求める。さらに必要に応じて,対象の児童生徒が在籍する学校での授業態度などの行動観察や保護者との面談などを実施する。

また,下記のC及びDの評価及び判断にも十分配慮する。

C.医学的な評価

○ 学習障害の判断に当たっては,必要に応じて医学的な評価を受けることとする。

・主治医の診断書や意見書などが提出されている場合には,学習障害を発生させる可能性のある疾患や状態像が認められるかどうか検討する。

・胎生期周生期の状態,既往歴,生育歴あるいは検査結果から,中枢神経系機能障害(学習障害の原因となり得る状態像及びさらに重大な疾患)を疑う所見が見られた場合には,必要に応じて専門の医師又は医療機関に医学的評価を依頼する。

D.他の障害や環境的要因が直接的原因でないことの判断

(1) 収集された資料から,他の障害や環境的要因が学習困難の直接的原因ではないことを確認する。

・校内委員会で収集した資料から,他の障害や環境的要因が学習困難の直接の原因であるとは説明できないことを確認する。

・判断に必要な資料が得られていない場合は,不足の資料の再提出を校内委員会に求めることとする。さらに再提出された資料によっても十分に判断できない場合には,必要に応じて,対象の児童生徒が在籍する学校での授業態度などの行動観察や保護者との面談などを実施する。

(2) 他の障害の診断をする場合には次の事項に留意する。

・注意欠陥多動障害や広汎性発達障害が学習上の困難の直接の原因である場合は学習障害ではないが,注意欠陥多動障害と学習障害が重複する場合があることや,―部の広汎性発達障害と学習障害の近接性にかんがみて,注意欠陥多勣障害や広汎性発達障害の診断があることのみで学習障害を否定せずに慎重な判断を行う必要がある。

・発達性言語障害,発達性協調運動障害と学習障害は重複して出現することがあり得ることに留意する必要がある。

・知的障害と学習障害は基本的には重複しないが,過去に知的障害と疑われたことがあることのみで学習障害を否定せず,「A.知的能力の評価」の基準により判断する。

(2)専門的意見の内容と留意事項

A.専門的意見の内容

○ 専門家チームは,(1)の基準により学習障害と判断した場合は,以下の留意点に配慮しつつ,望ましい教育的対応についての専門的意見を述べる。

専門的意見の内容には,次の内容が含まれる。

(1) 学習障害と判断した根拠

(2) 指導を行うにふさわしい教育形態

(3) 教育内容についての指導助言

(4) 教育に際しての留意事項

B.専門的意見の留意事項

(1) 他障害との重複の際の留意事項

・他障害と学習障害が重複している場合にも,必要に応じて,学習障害児として配慮するべき内容等を意見の中で述べる。

・行動の自己調整や対人関係の問題が顕著である学習障害児の場合,必要に応じて,情緒障害等のための特殊学級における教育又は通級による指導を行うことも考えられる旨の意見を述べる。

(2) 通常の学級における指導が適切な場合の留意事項

・学習上の困難の程度に応じて,必要に応じて,担任が留意して指導を行うことが適当か,ティームティーチングによる指導が適当かの意見を述べる。

(3) 通常の学級以外の場での指導が適切な場合の留意事項

・通常の授業時間以外の個別指導が必要な場合には,必要に応じて,個別指導の方法について意見を述べる。

(4) 専門的意見の適用期間

・学習障害児として通常の学級における指導又は通常の学級以外での指導を行う際の特別の配慮に関する専門的意見については,概ね2-3年の見通しをもって行うこととする。

(3) 専門家チームの意見に対する学校の対応

学校は,専門家チームの意見を踏まえて適切に対応する。特殊教育による対応が必要な場合は,保護者の理解を得つつ,市町村教育委員会に所要の手続きを行う。

なお,校内委員会は,必要に応じて,随時専門家チーみの意見を再度求めることができる。


学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者



     上野 一彦  東京学芸大学教授
     太田 昌孝  東京学芸大学教授
     荻野 一郎  港区赤坂中学校長(~H10.3)※
     川村 秀忠  秋田大学教授
     神保 信一  愛知県立大府養護学校長(元愛知県教育委最会特殊教育課長)
     辻重 五郎  兵庫県立教育研修所長(H11.4~)
     砥柄 敬三  東京都立教育研究所相談部心身障害研究室統括指導主事
     中根  晃  実践女子大学教授
     中野 善達  佐野国際情報短期大学教授
     長澤 泰子  慶廳義塾大学教授
     野村 束助  大正大学教授
     原田美知子  三鷹市立南浦小学校長(H10.4~)
     福田 哲治  世田谷区立桜木中学校教諭(H10.4~)
     松本喜代子  品川区立杜松小学校長(~H10.3)※
     村井  和  富山県教育委員会指導課長(H10.4~H11.3)※
     安田由美子  横浜市立日野養護学校長(元横浜市養護教育総合センター所長)(H10.4~)
[主査] 山□  薫  東京学芸大学名誉教授
     山田 兼尚  国立教育研究所教育指導研究部長(~H10.3)※
     渡辺 幸夫  杉並区立中瀬中学校長(H10.4~)

       [50音順,敬称略]
       〔平成11年7月1日現在(ただし,※の職名は協力者当時のもの)〕


このページの上へ
サイトポリシー情報公開個人情報保護調達情報・契約監視委員会| Copyright © 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所