障害のある子ども一人一人の教育的ニーズに対応した教育の実現に貢献します。

特別支援教育法令等データベース 総則 / 報告・答申等 - 今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ) -


今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)

はじめに
第1章 特殊教育から特別支援教育へ
・特殊教育の果たしてきた役割
・障害のある児童生徒の教育をめぐる諸情勢の変化
第2章 今後の特別支援教育の在り方についての基本的な考え方
・特別支援教育における基本的視点
・「個別の教育支援計画」の必要性
・特別支援教育コーディネータの役割
・地域における教育、医療、福祉等の連携支援体制の構築
第3章 特別支援教育を推進する上での盲・聾・養護学校の在り方について
・盲・聾・養護学校の制度
・障害種にとらわれない学校制度へ
・地域における障害のある児童生徒等の教育のセンター的機能を有する学校へ
・「特別支援学校(仮称)」の役割
第4章 特別支援教育を推進する上での小・中学校の在り方について
・特殊教育に係る小・中学校の制度
・LD,ADHD等の現状と対応
・学校内における特別支援教育体制の確立の必要性
第5章 特別支援教育体制の専門性の強化
・総合的な取組の必要性
・国立特殊教育総合研究所の在り方
・国立久里浜養護学校の在り方
参考資料
1.「個別の教育支援計画」について
2.「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」調査結果
3.定義と判断基準(試案)等
4.学校数・児童生徒数等の概要
【別添】
・特別支援教育の在り方に関する調査研究について
・今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)概要


今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)

はじめに

①特殊教育を取り巻く最近の状況の変化を踏まえ、21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議が、平成13年1月に「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」をとりまとめ、乳幼児期から学校卒業後まで一貫した障害のある子どもとその保護者等に対する相談支援体制の整備、盲学校、聾学校又は養護学校(以下「盲・聾・養護学校」という。)に就学すべき児童生徒の障害の程度に関する基準や就学指導の在り方の見直し、学習障害(LD)等の特別な教育的支援を必要とする児童生徒等への対応などについて提言を行った。この提言の中に見られる基本的な考え方は、障害のある児童生徒等の視点に立って一人一人のニーズを把握して必要な教育的支援を行うという考え方に基づいて対応を図る必要があるというものである。

②国及び地方公共団体においては、この考え方に基づいて同提言に盛り込まれた内容の実施に努めてきている。例えぱ、国は、本年4月に、障害のある児童生徒の就学指導の在り方の見直しを内容とする学校教育法施行令の改正を行い、平成15年4月の入学者から新しい制度による就学が開始されることとなった。

③また、本年は、ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)が1992(平成4)年に決議した「アジア太平洋障害者の十年」の最終年に当たり、障害者の社会参加や生活改善に向けた新たな行動目標について関係国の参加の下で議論されている。国内では、平成15年度を初年度として10年間を見通した障害者関連施策の基本理念、方向性等を盛り込んだ新しい「障害者基本計画」の策定に向けた作業が行われており、年内には新たな計画が策定される予定である。

④このように、障害のある者の自立や社会参加を支援するという観点から様々な取組が行われている中にあって、特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議は、「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」の提言の基本となっている考え方の下に、障害のある児童生徒等に対する教育の一層の充実を図るという観点から、障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校の在り方(障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校に関する作業部会)、小・中学校におけるLD、注意欠陥/多動性障害(ADHD)等への教育的対応(小・中学校等における特別支援教育に関する作業部会)について2つの作業部会を設け、様々な分野の有識者や専門家により検討を進めてきた。


第1章 特殊教育から特別支援教育へ

-特殊教育の果たしてきた役割-

①これまでの特殊教育は、障害の種類やその程度に対応して教育の場を整備し、そこできめ細かな教育や指導を効果的に行うという視点で展開されてきた。具体的には障害の状態によって就学の猶予又は免除を受けることを余儀なくされている児童生徒が多くいる事態を重く受け止めて、教育の機会を確保する観点から、障害の重い、あるいは障害の重複している児童生徒の教育に軸足を置いて環境整備が行われてきた。平成13年5月現在で、盲・聾・養護学校は全国に996校設置され、その在籍者数を義務教育段階でみると約5万人が在学しており、特殊級についても全国の小・中学校の約半数に設置され、その在籍者数は約7万7千人にのぼる。また、障害の状態によって通学が困難な場合には教員が家庭等において必要な指導を行う訪問教育の制度を設けて積極的な対応を図ってきた。この結果、障害があることを理由に保護者の申請により就学が猶予又は免除された児童生徒は非常に少なくなっている(全学齢児童生徒数の約0.001%)。また、通常の学級に在籍してほとんどの授業を通常の学級で受けながら一部特別な指導を行う通級による指導(いわゆる通級指導教室)の対象となっている児童生徒数は約3万人であり、特殊学級の在籍児童生徒数を加えると、特殊教育を受けている児童生徒の約7割が小・中学校に就学して障害に応じた教育を受けている(義務教育段階)。

②この間、盲・聾・養護学校等において、障害の種類や程度に対応した教育や指導上の経験、ノウハウ等の蓄積、障害に対応した施設や設備の整備等の条件整備が進められた結果、障害のある児童生徒の教育については一定の水準で量的な面での基本的な基盤整備がほぼ行われたものと考えられる。このように、特殊教育は障害のある児童生徒の教育の機会の確保のために重要な役割を果たしてきた。


-障害のある児童生徒の教育をめぐる諸情勢の変化-

③障害者の自立と社会参加は重要な課題であり、近年、教育、福祉、労働など各分野にわたって中長期的な観点からノーマライゼーションの理念を実現するための取組が国内外を問わず進められている。また、特殊教育については、障害の重度・重複化や多様化、より軽度の障害のある児童生徒等への対応の二ーズの高まり等を背景に、平成13年1月の「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」においても、障害のある児童生徒に対する教育は、一人一人の教育的二ーズを把握し、必要な支援を行うとの考え方に基づいて対応を図る必要があることが指摘されている。

④障害のある児童生徒の教育をめぐっては、(1)最近では、養護学校や特殊学級に在籍している児童生徒が増加傾向にあり、通級による指導を受けている者も平成5年度の制度開始以降増加してきていること、(2)また、本年文部科学省等が実施した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」の結果から、LD、ADHD、高機能自閉症により学習や生活について特別な支援を必要とする児童生徒も6%程度の割合で通常の学級に在籍していることが考えられること、(3)さらに、盲・聾・養護学校に在籍する児童生徒の障害の重度・重複化が進んでおり、概ね半数近くの児童生徒はその障害が重複しており、肢体不自由の養護学校等では日常的に医療的ケアを必要とする児童生徒が増加していること、知的障害養護学校に多く在籍している自閉症の児童生徒に対する適切な指導法の開発が求められていること、等の情勢の変化があり、これらを踏まえて今後の適切な教育的対応を考えていくことが求められる。

⑤また、これまで障害の判断や指導方法の確立等十分な対応が図られてこなかったLD、ADHD、高機能自閉症に代表される障害の軽い児童生徒への教育的対応が重要な課題となっている。今後は、障害の重い、あるいは障害が重複している児童生徒と分けて考えることなく、一人一人の教育的二ーズに応じて特別の教育的支援を行うという視点に立って、教育的対応を考えることが必要である。特に、近年の国・地方自治体の厳しい財政事情等に鑑みれば、人的・物的資源の量的な拡充を単純に図るという考えは現実的ではなく、盲・聾・養護学校や特殊学級等においてこれまで蓄積された指導の経験やノウハウ等を有効な資源として最大限に活用するという視点で取り組む必要がある。


第2章 今後の特別支援教育の在り方についての基本的な考え方

-特別支援教育における基本的視点-

①これまでの特殊教育は、障害の種類と程度に応じて盲・聾・養護学校や特殊学級に就学させる等により、手厚くきめ細かい教育を行うことを基本的な考えとしていた。他方、最近の情勢変化に見られるとおり、通常の学級に多く在籍すると考えられるLD、ADHD、高機能自閉症により学習や生活について特別な支援を必要とする児童生徒に対する教育的対応については、従来の特殊教育は必ずしも十分に対応できていない状況にある。これらの障害のある児童生徒を含めて、障害のある児童生徒一人一人の教育的二ーズを把握し、適切な対応を行うという考え方に基づいて対応を図ることが特別支援教育における基本的視点として重要である。

②また、障害のある児童生徒にとって、自立や社会参加は重要な目標である。可能な限り自らの意思及び力で社会や地域の中で生活していくために、教育、福祉、医療等様々な側面から適切な支援を行っていくことが求められている。自立や社会参加のための基本的な力を培うため、特殊教育で行われてきた障害に起因して生じる種々の困難の改善・克服のための指導という機能は今後も引き続き不可欠なものである。しかしながら、近年の国際的な障害観の変化も踏まえれば身体機能や構造の欠陥を補うという視点でのみ捉えることは必ずしも適切ではなく、教育の機能を幅広く捉えて、生活や学習上の困難や制約を改善・克服するために適切な教育及び指導を通じて、障害のある児童生徒の主体的な取組みの支援を行うことを特別支援教育の視点として考えていく必要がある。

③上記のことを踏まえれば、特別支援教育とは、これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく、その対象でなかったLD、ADHD、高機能自閉症も含めて障害のある児童生徒に対してその一人一人の教育的二ーズを把握して、当該児童生徒の持てる力を高め、学校における生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものと言うことができる。もとより、この特別支援教育は、障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するためのものと位置づけられる。この場合に、一人一人の児童生徒の教育的ニーズが何かについて、市町村の教育委員会は、児童生徒本人の視点に立って、専門家はもちろん保護者等関係者の意見等を踏まえて正確に把握するとともに、教育的支援を行う関係者、関係機関等の役割分担を明らかにして適切な教育を行うことが重要である。その際、都道府県の教育委員会との連携や協力も重要な要素の一つになると考えられる。児童生徒一人一人の教育的ニーズは多様であり、また不変のものでもない。小学校又は盲・聾・養護学校の小学部に入学した者もその実態等に応じて就学先を変更した方が当該者の教育的ニーズに対応した教育が可能な場合があることに留意する必要がある。また、小・中学校の特殊学級や盲・聾・養護学校等の利用可能な人的・物的資源を児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて弾力的に活用して適切な教育を行っていくという観点からも、教育の場を固定したものと考えるのではなく、児童生徒の実態等に応じて弾力的に教育の場を用意するという考え方に立って取り組むことが必要である。

④平成11年7月に関係法令が改正され、地方分権の実現に向けて国と自治体との新しい関係の構築や地方行政体制の整備等が図られたが、この中で、就学事務等は機関委任事務から地方自治体が行う自治事務に変更された。今後は、児童生徒の教育についても、地域の実情を踏まえ、また、特色のある地域づくりを行うとの観点に立って自己決定・自己責任の原則の下で各種責務を行うことが求められるため、例えば就学段階においては教育委員会が中心になって、一人一人の児童生徒の教育的ニーズを踏まえた適切な対応が図られることが必要である。これまでの特殊教育においては、障害の程度に応じて、教育や指導上の条件が整った場で手厚くきめ細かな教育を行うことを重視し、障害のある児童生徒の就学指導の制度としては、やや画一的な面があった。前述の「21世紀の特殊教育の在り方(最終報告)」の提言を受け、国は、学校教育法施行令を改正し、盲・聾・養護学校へ就学すべき基準(就学基準)と就学手続の見直しを行った。これにより、障害のある児童生徒一人一人の教育的二ーズに応じた教育的対応を適切に行うことが制度的に可能となり、今後は、地方分権の趣旨も踏まえて盲・聾・養護学校など特殊教育において整備された人的・物的資源を活用して、現行制度の一層の弾力化・効率化、教育、福祉、医療等の関係機関の連携の充実等により、一層質の高い教育を行うことが重要である。

⑤障害のある児童生徒への質の高い教育的対応を考えるに当たっては、障害の程度、状態等に応じて教育や指導の専門性が確保されることが必要であることは言うまでもない。教科指導や自立活動の指導を通じて学校生活において中心的に児童生徒と関わる教員は、障害のある児童生徒の身近な理解者であり、日常的なコミュニケーションを通じて相互の信頼関係が醸成されることは教育において非常に重要な要素であり、その意味で、児童生徒の指導に直接関わる教員は、特別支援教育の中でも重要な役割を果たすことは言うまでもない。これまでも、このような認識の下で教員の指導の専門性の向上に向けて様々な取組が行われてきたが、今後は、児童生徒一人一人の教育的二ーズに対応して一層質の高い教育の実現を目指して、教員自ら指導面での専門的な知識や技能の蓄積に努力することはもちろん、児童生徒の理解者という認識の下で保護者の相談にも親身に対応していく努力が求められる。

⑥児童生徒の指導に直接関わる教員の役割に加えて、校長、教頭等学校教育における指導的・管理的役割を果たすべき者の専門的知識に根ざした児童生徒や地域の実態等を踏まえたリーダーシップの発揮等が重要である。また、障害の多様化を踏まえ、養護教諭、学校医等の学校内の人材の効果的な活用は今後ますます重要になるものと考えられる。また、学校内に限らず、医師、教育心理学者、教員の経験者など専門家を幅広く活用して障害に応じた適切な教育を行う必要がある。例えば、盲・聾・養護学校においては、作業療法士(OT)、理学療法士(PT)、言語聴覚士(ST)等の専門家が教育・指導に参画するほか、小・中学校においても専門家チーム(障害や障害のある児童生徒への指導等について専門的な知識等を有する者の集団で都道府県の教育委員会等に置かれるもの)が巡回相談などの形で学校の教育において有効に活用されている場合がある。このように学校内外の人材の総合的な活用を図るという視点が大切である。

⑦また、家庭において障害のある児童生徒に、教育はもちろん生活全般で幅広く関わる保護者等の役割も重要であることを踏まえれば、保護者も重要な支援者の一人である。保護者が家庭等において子どもと接し、教育や療育との関わりの中で適切な役割を担うことは重要なことであり、そのためには障害や子どもの成長や発達についての知識を深めていくことが必要となる。このため、福祉等とも連携をとりながら相談や情報提供を通じて適切な支援を行うとともに、一般講座やセミナー等の開催を通じて保護者の理解、啓発の促進を図っていくことがこれまで以上に重要なものとなると考えられる。

⑧障害のある児童生徒一人一人の教育的二ーズに対応して効果的・効率的に教育を行うためには、盲・聾・養護学校と小・中学校の日常的な情報交換はもちろん児童生徒の教育・指導における密接な連携が不可欠である。また、両機関の教員が気軽に意見や情報の交換を日頃から円滑に行えるように都道府県の教育委員会と市町村の教育委員会が密接に連携協力することが重要となる。さらに、障害のある児童生徒の二ーズは教育、福祉、医療等様々な観点から生じ得るものである。これらの二ーズに対応した施策はそれぞれ独自に展開できるものもあるが、類似していたり、密接不可分なものも少なくない。従って、教育という側面から対応を考えるに当たっても、福祉、医療等の面からの対応の重要性も踏まえて関係機関等の連携協力に十分配慮することが必要となる。また、福祉、医療等の面からの対応が行われるに当たっても、教育の立場から必要な支援・協力を行うことが重要である。
 また、障害のある児童生徒の教育の重要性を理解し、また、草の根的に、独自のネットワークを活用し、献身的に取り組む「親の会」やNPO等の活動の中には、教育の充実や効果的な展開において重要な役割を果たしてきたものもある。今後、行政関係部局や学校において障害のある児童生徒一人一人の教育的二ーズに対応して質の高い教育をより効果的に推進するためにもこれらの会等とも連携を図るという視点が重要である。


-「個別の教育支援計画」の必要性-

⑨このため、現在、各都道府県等で進めつつある、教育、福祉、医療、労働等が一体となって乳幼児期から学校卒業後まで障害のある子ども及びその保護者等に対する相談及び支援を行う体制の整備をさらに進め、一人一人の障害のある児童生徒等の一貫した「個別の教育支援計画」の策定を通じて、適切な教育的支援を効果的かつ効率的に行うため教育上の指導や支援の具体的な内容、方法等を計画、実施、評価(Plan-Do-See)して、より良いものに改善していく仕組みを取り入れていくことについて積極的に検討を進めていく必要がある。

⑩一人一人の児童生徒の教育的ニーズに応じた教育的対応を行うという取組は、現在、盲・聾・養護学校の自立活動又は障害が重複している児童生徒について作成する個別の指導計画や卒業後の円滑な就労支援を目的とした「個別移行支援計画」の実践研究など、部分的に進められつつあるが、一貫した「個別の教育支援計画」の策定により、障害のある児童生徒の視点に立った各種の教育支援のより効果的・効率的な実施が期待できる。

⑪障害のある児童生徒に対する教育的支援は、教育のみならず、福祉、医療、労働等の様々な側面から多様な取組が求められるため、関係機関、関係部局の連携協力をこれまで以上に密接にすることにより、専門性に根ざした質の高い教育的な支援が可能となる。こうした関係機関等の連携を効果的に行う上でも、「個別の教育支援計画」は有効なものと考えられる。

⑫また、「個別の教育支援計画」の策定に当たっては、就学前(小学校又は盲・聾・養護学校の小学部就学前までの段階)、就学中(小・中学校、高等学校に就学している段階)、卒業後(高等学校、盲・聾・養護学校の高等部卒業後の段階)、それぞれの段階において、教育、福祉等の関係機関の中から中心となる機関等を定めつつ、地域、都道府県、国の各レベルで連携協力体制を構築していくことが必要である。この場合、例えば、就学中は、盲・聾・養護学校、小・中学校、高等学校等教育関係機関が中心となり、就学前は福祉、医療関係機関、卒業後は福祉、労働関係機関が中心になることが考えられる。これら策定を担当する機関と関係機関との連携協力が円滑に実施されるようコーディネータ的な役割を果たす者の存在が重要であり、また、関係機関においては協力担当者を明らかにすることが効果的である。また、盲・聾・養護学校など策定を担当する機関の中でも、策定を担当する者を明確にするほか、機関内はもちろん他機関との連携や協力を円滑に進めるためのコーディネータ的な役割を果たす者を明確にしたうえで、これらの者の円滑な業務実施を支援する体制の構築が図られることが大切である。

⑬「個別の教育支援計画」の策定に当たっては、例えば、盲・聾・養護学校においては、学級担任や児童生徒の指導を担当する教員が中心となって、また、小・中学校等においては、障害のある児童生徒の教育の知識・経験を有する特殊学級の教員等が中心となって、他の教科や学級担当の教員の協力を得つつ、児童生徒の障害等の状況の分析、教育的な支援の目標や基本的な内容等からなる「個別の教育支援計画」の作成を行うことが考えられる。また、例えば、教育、福祉、医療等の分野の専門家や有識者から構成される委員会を関係機関等の連携により設けること は計画の策定作業の円滑化のために有効な方法と考えられる。その際、保護者との話合いをもとにその意向を把握し、児童生徒の状況の分析や指導の目標について理解を得て、教育的支援の目標に向けて学校や家庭における活動の連携を図ることが大切である。

⑭「個別の教育支援計画」については、多様な教育的支援の円滑な実施を確保する性格から複数の関係者や関係機関がその作成、実施等の過程で関与する。例えば、乳幼児期において福祉や医療関係機関が得た障害や発達に関する情報や盲・聾・養護学校が教育相談を行うに当たり、保護者から得た情報など様々なものが考えられる。これらは、適切な方法及ぴ内容の教育的支援を行う上で必要なものであるが、個人情報であることに留意してその情報の取り扱いについては保護者の理解を得られるようにすることが不可欠である。このため、各自治体において、例えば、教育委員会が中心になって、または教育と福祉部局が共同で検討の場を設定する等により情報の取扱いの方法について具体的な検討を行っていくことが重要と考えられる。


-特別支援教育コーディネータの役割-

⑮教育の立場から適切な対応が求められる学校については、学校内の協力体制だけでなく、学校外の関係機関との連携協力が不可欠である。盲・聾・養護学校には、専門性のある教員や障害に対応した施設や設備があり、ほとんどの教育・指導上の活動は学校内で工夫・実施されることが多いが、例えば、医療的ケアの必要な児童生徒への対応など、医療機関や福祉機関との連携協力が不可欠な場合や、学校外の専門家を非常勤講師に活用することにより、効果的な指導が期待できる場合があるなど、常に児童生徒の二ーズに応じた教育を展開していくための柔軟な体制作りを検討することが肝要である。また、小・中学校においては、教職員の配置又は施設若しくは設備の状況から盲・聾・養護学校や医療・福祉機関との連携協力が一層重要である。学校内及び関係機関との連携を円滑に行うためには、障害のある児童生徒等の発達や障害に関する知識を持った者が連絡調整役として学校内の関係者、関係機関、保護者等と情報や意見交換を的確に行うことが求められる。このため、各学校において、例えば「特別支援教育コーディネ一タ」(仮称)のような、学校内及び関係機関との連携調整役としてコーディネータ的な役割を担う者を指名することにより、関係機関の連携協力の体制整備を図ることが重要である。


-地域における教育、医療、福祉等の迎携支援休制の構築-

⑯さらに、各都道府県の実態に応じつつ、一定規模の地域を全体的にとらえて、盲・聾・養護学校や小・中学校、医療・福祉機関等が連携協力しながら、地域全体で障害のある児童生徒の多様な教育的二-ズに柔軟に対応していく体制を構築していくことについて積極的に検討を進めていく必要がある。この場合、都道府県において教育委員会から福祉等関係部局を含めた部局横断型の委員会を設置するなど、各地域の特別支援教育の推進体制を促進するための企画・調整・支援等を行う組織を設けることが有効と考えられる。また、地域によっては都道府県又は盲・聾・養護学校と連携を図りつつ市町村が地域の取組の中心となる場合があるが、その場合には都道府県がその取組への協力や支援を行うことが重要となる。

⑰このような仕組みは、障害のある児童生徒が在籍する学校や地域での取組を中心としつつ、当該児童生徒の教育的二ーズに十分対応しきれない部分について関係機関が眉りから当該児童生徒の支援を補完していく体制を構築していくものであり、盲・聾・養護学校は、各地域においてその専門性を十分発揮してセンター的役割を果たしていくことが期待され、都道府県教育委員会等においては、関係部局と連携しながら全体的な企画調整を積極的に進めていく必要がある。また、国は、このような各都道府県、各地域の取組を支援していくため、モデル案の提示や、先進的な取組の紹介等、調査研究や情報提供等を進めていく必要がある。


第3章 特別支援教育を推進する上での盲・聾・養護学校のあり方について

-盲・聾・養護学校の制度-

①明治23年小学校令において盲唖学校の設置等に関する規定が設けられ、盲唖学校の制度上の基礎が明確となった。また、大正12年には、盲学校及び聾唖学校令が規定された。その後、盲・聾学校以外にも特別な教育に対する要望が高まり、昭和16年の国民学校令及び同令施行規則によって養護学校が制度上の位置付けを得た。また、昭和22年に制定された学校教育法で、「盲学校、聾学校又は養護学校は、それぞれ、盲者、聾者又は精神薄弱(現在の知的障害のこと)、身体不自由その他心身に故障のある者に対し教育等を行う」旨規定され、その後、養護学校の対象者の明確化が図られ(昭和36年改正)、現在のように「知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)」に対し教育等を行う学校とされている。
 学校教育法により、各学校の設置義務が都道府県に課されるほか、各学校の小学部・中学部への就学義務が規定されたが、養護学校については各都道府県における整備が十分でなかったため、盲学校・聾学校に遅れて段階的に施行され、昭和54年に養護学校の設置義務及び就学義務の部分の施行により各学校の義務化が完了した。

②盲・聾・養護学校は平成13年5月時点で996校あり、近年はゆるやかに増加している。障害種別にみると知的障害養護学校が増加傾向にあり、養護学校への就学が義務化された昭和54年時点と比較して1.3倍となっている(肢体不自由は1.25倍、その他は同数かやや減少)。これを在籍児童生徒数でみると、知的障害者が大きく増加しており、また、盲者、聾者、病弱者の順で減少している。また、近年、障害の重度・重複化の傾向がはなはだしく、小・中学部全児童生徒数に占める重複障害学級在籍者の割合は45%であり、肢体不自由養護学校においては75%である(平成13年5月)。


-障害種にとらわれない学校制度ヘ-

③盲学校は盲者、聾学校は聾者、養護学校は知的障害者、肢体不自由者、病弱者に対する学校として制度上位置づけられているため、例えば、盲学校において知的障害等他の障害のある者を教育(盲との重複障害を除く)することができないなど、地域や子どもの障害の状態に応じて柔軟な学校を設置することは困難である。一方、養護学校においては、知的障害者、肢体不自由者、病弱者及びこれらの障害を含む重複障害のある子どもに対する教育を行う学校の設置運営が可能である。今後は、障害種毎の学校制度から、地域において障害のある子どもたちの教育をより適切かつ柔軟に行えるように学校を設置できるような制度について積極的に検討していく必要がある。

④また、盲・聾・養護学校における教育課程編成の基準となる学習指導要領についても、学校制度に対応して、その内容等が規定されているため、例えば、養護学校においても、原則としては異なる障害のある児童生徒を同一の学校に受け入れることを想定した規定とはなっていない。障害種にとらわれない学校制度を構築するに当たっては、障害のある児童生徒一人一人の教育的二ーズに対応した教育がより効果的かつ弾力的に行えるようにするとの観点から、学習指導要領の在り方についても検討する必要がある。


-地域における障害のある児童生徒等の教育のセンター的機能を有する学校ヘ-

⑤盲・聾・養護学校は、従来特定の児童生徒に対してのみ教育や指導を行う特別の機関として制度上も位置づけられ、多くの人々が同様の認識を有しているものと思われる。しかしながら、今後、小・中学校等において専門性に根ざしたより質の高い教育を行うためには、盲・聾・養護学校は、これまで蓄積した教育や指導上の経験やノウハウを活かして地域の小・中学校等における教育について支援を行うなどにより、地域における教育の中核的機関として機能することが必要である。
 盲・聾・養護学校の学習指導要領等においては、盲・聾・養護学校は、「地域の実態や家庭の要請等により、障害のある幼児児童生徒又はその保護者に対して教育相談を行うなど、各学校の教師の専門性や施設・設備を生かした地域における特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすよう努めること」と規定されている。その学校に在籍する児童生徒の教育・指導やその保護者に対する相談に加えて、地域の小・中学校等に在籍する児童生徒やその保護者に対する相談、個々の児童生徒に対する計画的な指導のための教員への個別の専門的・技術的な相談、地域の小・中学校への巡回による指導など地域の小・中学校への教育的支援を積極的に行うことにより、地域の特別支援教育のセンターとしての役割を果たすことが重要である。こうした取組を部分的にではあるが既に行っている盲・聾・養護学校もあるが、今後は、地域のセンターとしての役割を踏まえ、この相談等の業務をこれまで以上に重要なものと考えていくことが必要である。盲・聾・養護学校においては、教育相談の専門の部署を設ける等によりこれらの業務を積極的に行い、地域の教育機関の核となり地域社会の一員として積極的にその役割を果たしていくことを目指した取組が求められている。


-「特別支援学校(仮称)」の役割-

⑥このように、今後の盲・聾・養護学校は、障害が重い、あるいは障害が重複していることにより専門性の高い指導や施設・設備も含めた教育的支援の必要性が大きい児童生徒に対する教育を地域において中心的に担う役割とともに、障害の状態により必要となる児童生徒の教育的支援の程度がそれに至らないものが就学する小・中学校における児童生徒の教育や指導に関し、教員や保護者に対する相談を行うなど、小・中学校に対しても教育的な支援を積極的に行う機能を併せ有する学校に転換していく必要がある。また、多様な教育的二-ズに対応するとの観点から特定の障害種のみを受け入れる「盲・聾・養護学校」の制度から、地域の実情に応じて障害のある児童生徒に対する教育的支援を充実することが柔軟にできるように、各自治体において教育的支援の必要性が大きい児童生徒のための教育の場として障害種にとらわれない学校を設けることを可能にする学校制度として「特別支援学校(仮称)」としていくことについて法律改正を含め具体的に検討していく必要がある。

⑦この「特別支援学校(仮称)」の制度では、各自治体が地域の実情に応じて視覚障害、聴覚障害、知的障害等複数の障害の各々に対応して専門の教育部門を有する学校を設けることが可能となるが、地域によっては視覚障害、聴覚障害等に対応して特定の教育部門のみを有する学校を設けることが可能であり、どのような障害に対応した教育や相談の機能を持たせていくかは、地域の実情にも応じて各自治体が弾力的に判断することになる。また、他の「特別支援学校(仮称)」や福祉・医療・労働関係機関とも連携を密にし、地域の障害のある児童生徒の多様な教育的ニーズに柔軟に対応していく必要がある。障害のある児童生徒に対する指導や教育的な支援を行う地域の特別支援教育のセンター的役割を果たす学校への転換を図るためには、校長のリーダーシップはもちろん必要な諸機能を適切に発揮できるような組織体制の整備が重要であり、学校のマネジメントについて十分な配慮が求められる。


第4章 特別支援教育を推進する上での小・中学校の在り方について

-特殊教育に係る小・中学校の制度-

①視覚障害者・聴覚障害者以外にも教育の機会を保障する必要性から、昭和16年の文部省令において、身体虚弱、精神薄弱(現在の知的障害のこと)その他心身に異常のある児童であって特別養護の必要があると認められる者のために教育を行う特別な場として、養護学校とともに、「養護学級」が法制度上位置づけられた。また、昭和22年に制定された学校教育法においては、小・中学校に特殊学級を置くことができる旨規定され、いわゆる中軽度の知的障害者、肢体不自由者、身体虚弱者等に対して、その障害区分毎に、発達の遅れやその特性から小集団における発達段階に応じた特別な教育課程や指導法により固定式の場で教育を行うものとされた。
 特殊学級の設置目的は上述のとおりであるが、その整備の過程では、知的障害者等の受入れのための養護学校の整備が十分に進まない中で、障害のある児童生徒の教育機会を確保するために小・中学校に特別な教育の場として整備が進められた面もあった。特殊学級については、その設置の立ち後れから、昭和29年の中央教育審議会答申においてその計画的設置が提言され、漸次、その整備が進められてきた結果、平成13年5月時点で小・中学校において27,711学級が設置され、77,240人が同学級に在籍し教育を受けている。最近は、学級数の増加傾向が顕著であることに比し、在籍児童生徒数の増加傾向はそれほどではなく、一学級当たり2.79人(平成13年5月現在)となっている(盲・聾・養護学校の一学級当たりの在籍児童生徒数は3.04人)。
 特殊学級では、在籍児童生徒への障害に応じた特別の教育指導に加えて、通常の学級や他校の児童生徒と交流する交流学習を行うほか、通常の学級に在籍する軽度の障害を有するものへの指導やその教員からの相談を受け必要な支援を行うなど、その専門性に応じた役割を果たしている例もある。

②通級による指導は、教科等の指導のほとんどを通常の学級で受けつつ、障害の状態に応じた特別の指導を特別の場で受けるという指導形態で、平成5年に制度化され、その対象児童生徒数は大きく増加している。平成5年度に12,259人であったものが、平成10年時点では倍増し、平成13年5月現在で、義務教育段階では、言語障害、情緒障害、弱視、難聴、肢体不自由、病弱・身体虚弱を対象に29,565人が通級による指導を受けている(うち、言語障害が24,850人を占める)。通級による指導は、障害の状態の克服・改善を目的とした特別の指導を行うものであり、特に必要な場合に教科の内容の補充指導を併せて行うものとされている。また、指導の時間も年間35~105時間(週1~3時間が標準)と短時間である。
 なお、平成5年の制度化に当たってはLDを対象とすることについては、定義や判断基準が明らかになっていない等の理由により引き続き検討すべき課題とされている。
 他方、通常の学級に在籍する児童生徒が、特定の時間、特定の場所で教科指導を含め必要な教育を受ける指導の形態は、学校によっては、LDの児童生徒に限らず、教科学習につまづきのある児童生徒をも対象に、放課後に自由に参加できるいわゆるオープン教室の形で指導を行い成果を上げている事例が報告されている。これは今後の各学校の取組の参考にもなるものと考えられることから国においても事例紹介をする等、こうした各学校の創意工夫を奨励していくことが重要である。

③平成14年4月に行われた就学指導の在り方の見直しのための学校教育法施行令の改正により、盲・聾・養護学校に就学すべき障害の基準(いわゆる就学基準)に該当しても市町村の教育委員会が障害の状態や学校の状況等を踏まえて総合的な判断を行い、小・中学校において適切に教育を受けることができる特別の事情があると認める場合には小・中学校に就学することが可能となった。こうした児童生徒については、これまで特殊教育で培ってきた指導方法、ノウハウを生かすことがますます重要となるため、小・中学校の学校全体での指導体制の充実や盲・聾・養護学校との連絡・連携が重要である。このため、特殊学級、通級指導教室の教員等障害のある児童生徒の教育についての理解や知識のある者がコーディネータとしての役割を果たすことが求められる。


-LD、ADHD等の現状と対応-

④LD、ADHD、高機能自閉症のある通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への教育的対応は緊急かつ重要な課題となってきている。こうした児童生徒が学級にいる場合、担任教員の理解や経験または学校内での協力体制が十分でないこと等から適切な対応ができない、また、時には、学級としてうまく機能しない状況に至る事例もある。
 これらの児童生徒は多様な障害の状態像を示すことがあり、その状態に応じて情緒障害、言語障害等の通級指導教室や特殊学級において教育を受けている状況はあるが、総合的、体系的な対応はなされてこなかった。

⑤LDについては、通級指導教室に関する調査研究協力者会議の報告(平成4年)(※4-⑤)で初めてその対応についての検討の必要性が取り上げられ、LDに関する調査研究協力者会議の報告(平成11年7月)により、その定義、判断基準、実態把握基準(試案)、指導の方法などが示された。また、平成12年度から、LDのある児童生徒に対する指導体制の充実事業が全国で展開されてきており、同会議の示した定義、判断基準、実態把握基準等の検証や学校における適切な指導体制の整備に向けて取り組んでいる。具体的には、小・中学校に校内委員会を設置し学校における実態把握を行うとともに、教育委員会に置かれる専門家チームの意見を踏まえてLDの判断や適切な教育的対応を決定するほか、専門家による巡回指導の有効性の検証を行ってきている。
 しかしながら、ADHD、高機能自閉症等については、定義や判断基準が明確になっていないこと等から学校における適切な対応が行われてこなかった。

⑥LD、ADHD等の児童生徒数は、現在の特殊教育の対象者の割合(義務教育段階で約1.4%)に比べて多く6%程度と考えられること、また、特定の学習面で著しい困難を示すLDと、行動面で困難を示すADHDや高機能自閉症とを併せもつ児童生徒がいること、LD、ADHD等については指導内容や指導上配慮すぺき点について類似する点も少なくないことから個々の障害毎にではなく総合的に対処することが効率的な場合も考えられることから、これらの実態を踏まえて効果的かつ効率的に対応することが求められる。

⑦本調査研究協力者会議では、ADHDや高機能自閉症について、別添資料にあるように定義と判断基準(試案)、学校における実態把握のための観点、指導方法等について作業部会を設置して検討してきた。今後は、同作業部会のとりまとめた内容が実際に学校教育の場で効果的に活用できるよう検証するとともに、学校における適切な指導体制を早急に構築する必要がある。国においては、上述のLDへの指導体制の充実事業を通じて整備を進めている支援体制を拡充し、ADHDや高機能自閉症をも含めた総合的な支援体制の確立に向けて取り組むことが必要である。
 ADHDや高機能自閉症は、近年、その対応の重要性が認識されてきている新しい障害であることから、管理職を含む教職員や保護者等への幅広い理解の推進が必要である。
 また、LDとともに、ADHDや高機能自閉症といった通常の学級に在籍する特別な教育的支援の必要な児童生徒に関わる教職員の養成や研修を、国立特殊教育総合研究所や都道府県等の教育センター等において積極的に行う必要がある。
 ADHDや高機能自閉症等は、個々の児童生徒により多様な状態を示すことがあり、例えば、ADHDの児童生徒が同時に高機能自閉症と判断されたり、同時にLDと判断されることもある。このため、これらの児童生徒の教育的ニーズは多岐に渡ることもあることから、国立特殊教育総合研究所においては、当該児童生徒への具体的な指導方法の実践的な研究を引き続き進めるとともに、これまでの研究成果や実践事例を取りまとめ活用し易いものにするなど、学校や都道府県の教育センター等に対して的確に情報提供することが必要である。

⑧LD、ADHD等について、さらに幼児期からの支援を進めるためには、幼稚園全体で支援しあえるような体制を整備したり、日頃から保護者への理解推進を進めていくような研修等の充実が必要である。また、幼稚園と比べて保育園の在籍幼児数が多い実情を踏まえれば、障害に対応した適切な教育的対応を考えていく上で保育園の役割を軽視することはできない。保育園においても幼稚園と同様の視点から取り組むことが期待され、また、小学校や盲・聾・養護学校の小学部において幼稚園や保育園と日頃からの情報交換を行うことが就学後に児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応した教育を行う上で重要と考えられる。
 親の会やNPOの中にはLD、ADHD等の理解の促進等を目的に活発に活動を行っているものがある。こうした草の根的な活動は、教育の充実や効果的な展開を図る上で、重要な役割を果たしうるものと考えられることから、親の会等との連携も図りながら取組みを行うことも重要なことと考えられる。
 また、中学校を卒業した後は、高等学校へ進学する生徒も多いことから、LDやADHD等へ対応した特別な支援体制を構築することや、研修などを通じて理解推進を進めることが期待される。また、都道府県等の教育委員会に設置された専門家チームが、必要に応じて高等学校への支援を行なうことについて検討 する必要がある。さらに、養護学校高等部との連携も重要である。
 高等教育段階においても、障害に応じた配慮が各学校においてなされつつあるが、大学で学ぶLD、ADHD等の学生についても、支援の在り方についての研究を進めるとともに、様々な機会を通して大学関係者の理解の促進が図られることが重要である。


-学校内における特別支援教育休制の確立の必要性-

⑨このように多様な障害のある児童生徒が小・中学校に就学することを考慮すれば、教職員の理解促進を含め学校全体が組織として一体的に取り組むことを確保する対応体制の構築、特殊教育により培った指導方法・ノウハウの効果的な活用が不可欠であり、また、一人一人の教育的二ーズを把握して適切な教育・指導を行うための計画を作成し、実行するためには盲・聾・養護学校や福祉・医療機関等との連携が非常に重要である。これを踏まえて、ADHDや高機能自閉症等をも含めた、通常の学級に在籍する特別な教育的支援の必要な児童生徒への総合的な支援体制を確立する必要がある。この点で、LDへの最近の教育実践にもみられるように、校内委員会等により学校内の体制整備、専門家チームによる的確な指導、関係機関との連絡・調整役としてのコーディネータ的な役割を果たす者による対応や、少人数指導や個別指導を行うティーム・ティーチング(TT)の活用は、今後の支援体制を考える際に参考となるものといえる。
 なお、コーディネータ的な役割を果たす者は、障害のある児童生徒の教育についての知識が求められることから、特殊学級や通級指導教室の担当教員や特殊教育の経験者等がその役割を果たすことが考えられる。

⑩小・中学校においてこのような体制整備を図るに当たって、小・中学校に蓄積された人的・物的な資源を積極的に活用することに加えて、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務の教員等の外部人材の積極的な活用を図るという視点が重要である。また、盲・聾・養護学校から巡回による指導等による支援を効果的に受けるための連携協力も重要であり、その意味で、これまで特殊教育で培われた教育や指導上の経験やノウハウを総合的に活用していくことが必要である。
 なお、小・中学校においては、学力の向上を目指した個に応じた指導の充実、不登校問題への対応等種々の取組が今後展開されていくことが想定されるが、これらとの有機的な連携に十分留意して、適切な特別支援教育体制の構築を検討していくことが必要である。

⑪特殊学級は、盲・聾・養護学校の対象でない比較的障害の軽い児童生徒等に対して適切な教育を行う場として設けられたが、この特殊学級については、特定の児童生徒に対する専門的な指導が可能であるという点を評価する意見がある一方で、その在り方については検討すべき点があるとする指摘もある。たとえば、(1)障害のない児童生徒との交流の重要性に鑑み多くの時間を交流学習にあて通常の学級に在籍する児童生徒と共に学習する機会を設けている実態を踏まえれば、必ずしも、固定式の教育の場を設ける必要はないのではないか。(2)障害のある児童生徒の発達や障害等について専門的な知識や技能を有する特殊学級の担当教員は、小・中学校においては重要な役割を担うべき者であり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の教育のためにはもちろん、教育上必要となる関係機関との連携・調整のためのコーディネート役として活用するべきではないか。(3)特殊学級に蓄積された教育・指導上のノウハウや設備・機器は、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の指導にも広く生かされるべきであり、特定の児童生徒のみの特別の場として位置づけることは適当ではないといったものである。このような意見等を踏まえ、特殊教育の中で培われた資源を有効に活用してより質の高い教育的支援を行うということを念頭に特別支援教育の在り方を考えていく中で、特殊学級の在り方を検討することが必要である
 なお、特殊学級を設ける場合には、現行制度上は、障害種別の区分毎に設けなければならない(学校教育法施行規則)。障害に起因する困難を改善・克服するとともに障害に応じた教育を行うために指導上の専門性が確保されることが必要であり、障害の区分毎に教育を行うことは今後も合理的なものと考えられるが、特殊学級は比較的軽度の障害のある児童生徒に対する教育を行うための制度であることを踏まえれば、障害によっては、比較的指導内容等が類似しており、その双方について指導できる能力を有する教員がいるような特別な場合には複数の障害を対象とするなど、各自治体における弾力的な対応も可能とすることができないか併せて検討することが必要と考えられる。

⑫通級による指導は、通常の学級に在籍する軽度の障害のある児童の教育・指導のための制度として設けられ、近年対象児童生徒数が増えていることからもその二ーズは高いといえる。しかしながら、(1)障害の状態の克服・改善を主たる目的としており、LDのように特定の能力の困難に起因する教科学習の遅れを補う指導が中心となる場合を想定していない。(2)指導時間数が1~3時間と短時間であり、LD、ADHD等については適切な対応が困難な場合がある。このため通級による指導の制度の目的や指導時間について、より弾力的な対応ができないか検討する必要がある。また、通級による指導の担当教員は、学校内又は関係機関との連絡・調整を行うコーディネータ的な役割を果たして成果をあげている場合が多く、その高い専門性等に鑑み、小・中学校においてコーディネータ的な役割を果たすことが期待されている。

⑬このため、特殊学級や通級指導教室について、その学級編制や指導の実態を踏まえ必要な見直しを行いつつ、障害の多様化を踏まえ柔軟かつ弾力的な対応が可能となるような制度の在り方について具体的に検討していく必要がある。
 この際、単に、特殊学級や通級指導教室の教員、設備等の資源のみで対応するのではなく、学校内の教員全体の理解の促進と支援体制の構築、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務の教員等の活用、「特別支援学校(仮称)」や都道府県等の設置する特殊教育センターに相談し、指導・助言が受けられるような体制を構築して総合的に対応するための仕組み作りに取り組むという視点が重要である。

⑭制度の在り方について具体的な検討を行う場合に、特殊学級や通級指導教室の制度に必要な改善を行うことのみでなく、固定式の学級を設けず通常の学級に在籍した上で障害に応じた教科指導や障害に起因する困難の改善・克服のための指導を必要な時間のみ特別の場で教育や指導を行う形態(例えば「特別支援教室(仮称)」)とすることの必要性も含めて検討されるべきものと考える。また、今後の小・中学校等における教育や指導の在り方を考えるに当たっては、その教育や指導に関わる教員が当該小・中学校等の児童生徒への教育的対応のみならず、学校内において障害のある児童生徒に対する適切な指導体制を構築する際や盲・聾・養護学校等から教育上の支援を受ける際の連絡や調整を行うコーディネータ的な役割を担うことにより学校の特別支援教育の先導的な役割を果たすことが重要であり、この点を念頭に学校運営が行われることが必要である。


第5章 特別支援教育体制の専門性の強化

-総合的な取組の必要性-

①障害のある児童生徒等に対して適切な教育を行うために、教員等の配置、学級編制、施設・設備の整備等様々な面で手厚い措置を講じてきたが、盲・聾・養護学校において、または、小・中学校における特殊学級等においてそれぞれ教育や指導の専門性の向上や両者間における連携・協力、福祉、医療等関係機関との連携・協力が十分であるとは言えない状況にある。今後は、校長、教頭をはじめとした教員一人一人の教育や指導上の専門性を高めること、学校外の専門家等の人材を学校で有効に活用すること、組織として一体となった取組が可能となるような学校内での支援体制を構築すること、関係機関との有機的な連携・協力体制を構築すること等により特別支援教育体制の専門性の強化に向けた取組が重要である。また、国として指導内容や方法の面で重要と考える課題や先進的な課題について積極的に研究が行われ、その成果が研修等により、各自治体や学校における教育の現場に普及させていくことも質の高い教育を行う上で重要な課題である。このため、国立特殊教育総合研究所、国立久里浜養護学校、関係の大学等について特別支援教育を推進していく上での資源として捉え、積極的に活用する総合的な教育体制の構築を目指す必要がある。

②「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」を踏まえ、各都道府県において特殊教育免許状の保有率の向上の取組が進められるとともに、国の中央教育審議会教員養成部会において特殊教育免許状制度の改善について審議が進められている。現在の特殊教育免許は教育のできる学校種が盲・聾・養護学校と特定されているが、児童生徒の障害の重度・重複化や多様化の状況に対応して免許制度について改善が図られることは特別支援教育を実現していく高い専門性を確保する基盤を形成する上で極めて重要であり、本協力者会議の審議結果も踏まえながら検討が進められることを期待する。

③担当教職員の基本的な資質能力を確保する免許制度は特別支援教育を支える重要な基盤の一つである。盲・聾・養護学校の教員を量的な面で確保するため特殊教育教諭免許状を有していなくても教員となることができる特例が設けられていること等の理由から同免許状の保有率が十分でないという実状にあるが、今後は、「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」を踏まえて、各自治体において特別支援教育における専門性の重要性を十分に理解し保有率の向上に向けた一層の取組が求められる。また、盲・聾・養護学校の教職員、特殊学級や通級指導教室担当教員について、教育はもちろん、コーディネートに関する資質・能力の向上のため、地域の二ーズも踏まえつつ、国立特殊教育総合研究所、都道府県の教育センター、大学等により適切な研修プログラムの提供を行うことが重要である。

④就学前の子どもに対する教育相談や、乳幼児期からの「個別の教育支援計画」の作成に盲・聾・養護学校の幼稚部や小学部が積極的に取り組むことが重要であり、乳児期から療育に取り組む福祉関係機関の取組に対し積極的に協力、支援を行うことが求められる。また、障害のある者に対し、卒業後の学習機会の充実のため、盲・聾・養護学校は、関係機関と連携して、生涯学習を支援する機関としての役割を果たしていくことも重要である。

⑤障害の状態に応じた適切な教育や指導を行う上で先導的な指導方法の開発や体制の構築等が重要であり、これまでも国立特殊教育総合研究所、大学等において関連の調査及び研究が行われてきているが、この成果が円滑に普及され学校で実際に活かされるようにすることが重要である。なお、最近では、脳の発達と学習方法、コミュニケーション等脳科学からの知見の蓄積を育児や学習指導に活かしていくことが重要との認識の下で国内外で脳科学と教育との関わりを重視した取組が行われている。文部科学省においても、個人が有する能力の健全な発達や維持又はその障害の除去を適切に行うとの視点に立って「脳科学と教育」研究を重要な研究分野として捉え今後の取組方策等について検討を行ってきている。言語障害、LDのように脳の発達と密接な関連があるものもあり、障害のある児童生徒等についても脳科学の成果を踏まえて適切な教育的対応を図ることが一層効果的と考えられるものがあるため、これを脳科学との関わりの中で重要な課題として位置づけることについて具体的な検討が望まれる。この場合に、国立特殊教育総合研究所等教育に関わる機関 や研究者も積極的な対応を図ることが期待される。


-国立特殊教育総合研究所の在り方-

⑥国立特殊教育総合研究所は、平成13年4月に独立行政法人になった。同研究所の独立行政法人への移行に当たっては、平成13年1月の「21世紀の特殊教育の在り方(最終報告)」において、我が国の特殊教育のナショナルセンターとしての機能を高めることが必要であり、このため、国の行政施策の企画立案及ぴ実施に寄与する研究の推進と実践的な研究の充実、体系的、専門的な研修の充実、教育相談活動の研究と教育相談に関する情報提供等の機能の充実の必要性が提言された。ここで提言されている内容は、今後も有効なものである。

⑦特殊教育を巡る諸情勢の変化、財政的な事情等を踏まえ、より質が高く、より社会的要請に対応した研究を効果的に行う必要があり、このため、LD、ADHD、自閉症等の新たな課題の研究への取組はもちろん、国内外の大学、研究機関等とのネットワークの構築により効果的かつ効率的に研究を実施するための組織体制の構築が重要であり、社会的な二ーズの高い課題に応じて総合的かつ弾力的に研究に取り組めるような体制を整備することが必要である。

⑧また、同研究所は、長期又は短期研修、講習会等を通じて、学級担任から指導的な立場にある者も含め教員等の資質の向上のために幅広い分野、領域で貢献してきた。近年では、都道府県等各自治体における研修も活発に行われるようになってきており、今後は、自治体独自で実施することが困難な内容の研修の開催や自治体の研修活動への協力等により、また、情報技術の活用等を通じて、研修活動の一層効率的、効果的な実施に向けて具体的な検討を行うことが求められる。

⑨このように、研究、研修等各種の活動を実施するに当たっては、社会的要請に対応しつつ、障害種にとらわれず弾力的に対応するという視点に加えて、地方自治体、関係機関の取組を補完する、または、支援する機能を有するとともに、関係機関とのネットワークを通じて共同研究・事業の企画、調整を行う役割を担う機関として、我が国全体を視野に入れて、特別支援教育の研究や研修を総合的に推進していくという視点が重要である。

⑩国立久里浜養護学校との連携においても、同研究所は、昭和48年に国立久里浜養護学校が設立されて以来、重度・重複障害の児童生徒を中心に、実際的な研究の推進や研修面における教育実践のための相互協力を行ってきた。これにより、同研究所の研究や研修活動の成果は、養護学校における重度・重複障害の児童生徒に対する適切な教育や指導法の確立に生かされ、これら児童生徒の学習機会の保障の実現に大きく貢献してきた。

⑪今後とも、新たな課題に対応して国立久里浜養護学校との相互協力により研究、研修活動等に取り組むことが必要であり、特に、これまで養護学校において様々な教育が実践されてきたにもかかわらず有効な指導方法が十分確立されていない自閉症について、大学等の関係機関との連携を図りつつ、国立久里浜養護学校との相互協力の充実を図る必要がある。


-国立久里浜養護学校の在り方-

⑪国立久里浜養護学校は、昭和48年9月に重度・重複障害の児童生徒を受け入れる国立の養護学校として設置され、国立特殊教育総合研究所との相互協力の下で、教育研究や研修の充実に取り組んできた。養護学校への就学の義務化を控えて重度・重複障害の児童生徒の教育や指導の方法を開発することは重要な政策課題であり、実際的な教育研究や研修面での臨床実践の場として機能し、当該児童生徒の就学の確保に大きく貢献した。しかしながら、全国的に養護学校が整備され、また、重度・重複障害の児童生徒の受入れも進められてきている一方で、国立大学の法人化が具体化し、国立久里浜養護学校を含め国立学校の今後の在り方が問題となっている。

⑫現在、前述のように自閉症の児童生徒に対する教育・指導の方法の開発が重要な課題となっており、教育研究の成果の体系的な蓄積やそれに基づく研修等のプログラムの提供等が重要である。「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」においても、自閉症の児童生徒の教育的対応については、知的障害との違いを考慮しつつ障害の特性に応じた対応について今後も研究が必要であり、国においては、知的障害養護学校等における効果的な指導の在り方について調査研究を行う必要があることが指摘されている。これらを効果的かつ効率的に実施するためには、自閉症の児童生徒の教育研究を行う場として、あるいは、教員が指導の技術、ノウハウ等を実践し体得する研修の場としての機能を有する学校が必要である。

⑬近年、国立久里浜養護学校においても自閉症の児童生徒が増加しており、指導プログラムの開発のための実践研究を進めているが、今後は、国立特殊教育総合研究所、大学等関係機関との連携協力の下で、自閉症の児童生徒の教育研究の場として、または、指導や研修の実践の場として機能することにより、我が国の自閉症の児童生徒への教育的対応についての研究や研修に積極的に貢献していくことが必要である。その場合、自閉症の児童生徒への指導の経験を有する教員を在籍する児童生徒数やその障害の状態を考慮して計画的に配慮する等、自閉症の児童生徒への指導を的確に行うために必要な体制整備を都道府県等とも連携しながら進めていく必要がある。なお、国立大学等の法人化に伴い国立学校の一つとして国立久里浜養護学校の設置形態の検討が必要となるが、自閉症の児童生徒への教育・指導方法の研究を効果的に進めるためには、基礎的な研究を含め総合的な取組が必要となることまた、幅広い研究スタッフ、蓄積された研究のノウハウの活用が円滑に行えること等にも十分に配慮する必要がある。このため、障害のある子どもの教育について研究実績の豊富な大学の附属学校となるなど、大学の基礎研究と国立特殊教育総合研究所の実際的な研究との密接な連携を確保し自閉症の児童生徒の教育研究を支える教育研究学校としての機能が最大限に発揮できるように適切な設置・運営の形態が決定されることを期待する。

注:※4-⑤
「学習障害児に対する指導について(報告)」
学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議


(参考1)

「個別の教育支援計画」について

1.計画の概要

(1)作成の目的

「個別の教育支援計画」は、障害のある児童生徒の一人一人の二ーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考えの下、長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫して的確な教育的支援を行うことを目的とする。
 また、この教育的支援は、教育のみならず、福祉、医療、労働等の様々な側面からの取組が必要であり、関係機関、関係部局の密接な連携協力を確保することが不可欠である。他分野で同様の視点から個別の支援計画が作成される場合は、教育的支援を行うに当たり同計画を活用することを含め教育と他分野との一体となった対応が確保されることが重要である。
(2)対象範囲

障害のある児童生徒で特別な教育的支援の必要な幼児児童生徒で、幼稚園から盲・聾・養護学校の高等部、高等学校段階までのものを中心に考える。

○障害の範囲

視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱、言語障害、情緒障害、学習障害(LD)、ADHD、高機能自閉症等

(3)内容

計画の作成を担当する機関を明らかにして、以下の内容を盛り込んだ計画を作成・改訂を行う。

1)特別な教育的二ーズの内容

2)適切な教育的支援の目標と内容

障害の状態を克服・改善するための教育・指導を含め必要となる教育的な支援の目標及び基本的内容を明らかにする。福祉、医療等教育以外の分野からの支援が必要となる場合はその旨を併せて記述する。なお、従来より、盲・聾・養護学校において具体的な指導の目標、内容等を盛り込んだ年間の指導計画として毎年作成されてきた個別指導計画は、児童生徒一人一人の教育的二ーズに対応して指導の方法や内容の明確化を図るものであるが、乳幼児期から学校卒業後までを通じて長期的な視点で作成される。「個別の教育支援計画」を踏まえ、より具体的な指導の内容を盛り込んだものとして作成される。

3)教育的支援を行う者・機関

保護者を含め、教育的支援を行う者及び関係機関と、その役割の具体化を図る。

(4)プロセス

作成を担当する機関が以下の手順で計画の作成・点検を行う。

①障害のある児童生徒等の実態把握

②実態に即した指導目標の設定

③具体的な教育的支援内容の明確化

④評価

○作成担当者及び機関:

就学段階においては、盲・聾・養護学校又は小・中学校、若しくは高等学校が中心となって作成する。学校内及び他機関との連絡調整役となるコーディネータ的役割を有する者が中心となって具体的な内容を確定する。

2.計画作成のための組織休制・システムの整備

1)各自治体の役割

市町村等は、一定地域内の教育、福祉、医療、労働等関係機関の役割が機能的に実施されるように全体的なコーディネートを行う役割を有しており、部内の関係部署の連携・調整する組織の設置等適切なシステムの構築を図る。

2)盲・聾・養護学校、小・中学校の組織休制

学校内外の関係者の意見を集約して円滑な計画策定が可能となるよう.コーディネータ的役割を有する者を置くほか、学校内において計画作成委員会(仮称)のような組織を設けるなど組織体制の整備を図る。この場合、障害のある児童生徒の指導を担当する教員等が計画案の作成、実施等の中心となる。

3)小・中学校等への支援休制

盲・聾・養護学校と比べて個別の指導計画の作成の実績が少ない小中学校等においては、教育委員会に置かれる専門家チームの相談、巡回指導、盲・聾・養護学校、特殊教育センター等の支援が得られるような体制の整備が重要である。

4)計画の引継の休制

対象幼児児童生徒の進学や転学等に際し、計画の作成担当機関が変更となる場合には、引き続き適切な教育が一貫して行われるように、計画に係る責任の明確化の観点から計画の作成、改訂の業務の引継のシステムの構築を図る。

5)福祉、医療、労働等との連携

教育以外の分野との連携が円滑に行われるよう日常的な機関間の連携が重要であり、計画作成担当機関におけるコーディネータ的役割の者及び関係機関の協力部署及び担当者の明確化を図るなど地域内での連携システムを構築する。特に、他分野で個別の支援計画が作成されている場合は、それらとの連携・接続を図り、一人一人の子どもに応じた総合的な支援計画の構築を目指すことが重要である。

6)保護者との連携

児童生徒等への適切な教育的支援を行う場合に、保護者は重要な役割を担うものであり、「個別の教育支援計画」の作成作業においては、保護者の積極的な参画を促し、計画の内容について保護者の意見を十分に聞いて計画を作成・改訂することが必要である。

7)個人情報の保護

「個別の教育支援計画」については、個人情報の保護が確保されることが不可欠である。その管理や使用の具体的なあり方について十分に検討することが必要である。

(参考2)


「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」調査結果

1.調査の日的

学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、高機能自閉症等、通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態を明らかにし、今後の施策の在り方や教育の在り方の検討の基礎資料とする。

2.調査の方法

(1)調査研究会

以下のメンバーから成る調査研究会により、対象や質問項目等について検討した。

代 表    大南英明   帝京大学教授  
副代表  草野弘明   聖母学院中学校・高等学校校長  
     上野一彦   東京学芸大学副学長  
     上林靖子   中央大学文学部教授  
     市川宏伸   都立梅ヶ丘病院副院長  
     渥美義賢   独立行政法人国立特殊教育総合研究所情緒障害教育研究部長  
     柘植雅義   文部科学省初等中等教育局特別支援教育課特別支援教育調査官  
     石塚謙二              〃          特殊教育調査官  
     東條吉邦   独立行政法人国立特殊教育総合研究所分室長  
     廣瀬由美子            〃          分室主任研究官  
     花輪敏男              〃          情緒障害教育研究室長  
     海津亜希子            〃          病弱教育研究部研究員  


(2)質問項目

①学習面(「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」)

米国の研究者における学習障害(LD)に関するチェックリスト(LDDI)、及び、日本の研究者におけるチェックリスト(LDI×現在標準化中)を参考にして作成。

②行動面(「不注意」「多動性-衝動性」)

米国の研究者によって作成された、ADHDに関するチェックリスト(ADHD-RS)を参考にして作成。

③行動面(「対人関係やこだわり等」)

スウェーデンの研究者によって作成された、高機能自閉症に関するスクリーニング質問紙(ASSQ)を参考にして作成。

※質間項目は別添。

(3)調査対象

全国5地域の公立小学校(1~6年)及び公立中学校(1~3年)の通常の学級に在籍する児童生徒41,579人を対象として、学級担任と教務主任等の複数の教員で判断の上で回答するよう依頼した。これは、対象地域の全児童生徒数の2.5%にあたる。

(4)調査時期

2002年2月から3月にかけて実施。

(5)回収率

対象学校は370校で回収率は98.9%。対象学級では4328学級で回収率は98.6%。

(6)基準

質問の試行による信頼度の確認とともに,諸外国の調査で利用された基準を踏まえて本調査における基準を設定。

①学習面(「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」)

該当する項目が12ポイント以上をカウント。

②行動面(「不注意」「多動性-衝動性」)

該当する項目が6ポイント以上をカウント。ただし、回答のO.1点をO点に、2.3点を1点にして計算した。

③行動面(「対人関係やこだわり等」)

該当する項目が22ポイント以上をカウント。

(7)留意事項

本調査は、担任教師による回答に基づくもので、学習障害(LD)の専門家チームによる判断ではなく、医師による診断によるものでもない。従って、本調査の結果は、学習障害(LD)・ADHD・高機能自閉症の割合を示すものではないことに注意する必要がある。

3.集計結果

知的発達に遅れはないものの、学習面や行動面で著しい困難を持っていると担任教師が回答した児童生徒の割合は、表1に示すように6.3%である。

表1 知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示すと担任教師が回答した児童生徒の割合

学習面か行動面で著しい困難を示す 6.3%
学習面で著しい困難を示す 4.5%
行動面で著しい困難を示す 2.9%
学習面と行動面ともに著しい困難を示す 1.2%


※小数点以下の四捨五入の扱いにより下記の表1.2の数値から計算すると6.2%になる。

※「学習面で著しい困難を示す」とは、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の一つあるいは複数で著しい困難を示す場合を示し、一方、「行動面で著しい困難を示す」とは、「不注意」の問題、「多動性-衝動性」の問題、あるいは「対人関係やこだわり等」の一つか複数で著しく示す場合を示す。

学習面や行動面の各領域で著しい困難を示す割合を表2に示す。

表2 知的発達に遅れはないものの学習面や行動面の各領域で著しい困難を示すと担任教師が回答した児量生徒の割合

A:「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」に著しい困難を示す 4.5%
B:「不注意」又は「多動性-衝動性」の問題を著しく示す 2.5%
C:「対人関係やこだわり等」の問題を著しく示す 0.8%


※「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」に著しい困難を示すとは、その一つあるいは複数で著しい困難を示す場合を示す。

A・B・Cの重なり状況を表3に示す。

表3 A・B・Cの関連

AかつB 1.1%
BかつC 0.4%
CかつA 0.3%
AかつBかつC 0.2%

各領域の下位項目毎の集計を表4に示す。

表4 領域別集計

「聞く」又は「話す」に著しい困難を示す 1.1%
「読む」又は「書く」に著しい困難を示す 2.5%
「計算する」又は「推論する」に著しい困難を示す 2.8%
「不注意」の問題を著しく示す 1.1%
「多動性-衝動性」の問題を著しく示す 2.3%
「対人関係やこだわり等」の問題を著しく示す 0.8%

男女別の主計を表5に示す。

表5 男女別集計

8.9%
3.7%


4.参考資料

・学習障害(LD):
「公立学校の生徒の約5%が学習障害を有すると同定されている。」
 (アメリカ精神医学会DSM-Ⅳ1994)
「6-17歳で5.59%」
(アメリカIDEA第22回議会報告書、教育省2000)
・注意欠陥/多動性障害(ADHD):
「有病率は、学齢期の子供で3~5%と見積もられている。」
 (アメリカ精神医学会DSM-Ⅳ1994)
・高機能自閉症(HFA):
上記のいずれの資料にも記載なし

質間項目

<「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」>

・聞き間違いがある(「知った」を「行った」と聞き間違える)
・聞きもらしがある
・個別に言われると聞き取れるが、集団場面では難しい
・指示の理解が難しい
・話し合いが難しい(話し合いの流れが理解できず,ついていけない)
・適切な速さで話すことが難しい(たどたどしく話す。とても早ロである)
・ことばにつまったりする
・単語を羅列したり、短い文で内容的に乏しい話をする
・思いつくままに話すなど、筋道の通った話をするのが難しい
・内容をわかりやすく伝えることが難しい
・初めて出てきた語や、普段あまり使わない語などを読み間違える
・文中の語句や行を抜かしたり、または繰り返し読んだりする
・音読が遅い
・勝手読みがある(「いきました」を「いました」と読む)
・文章の要点を正しく読みとることが難しい
・読みにくい字を書く(字の形や大きさが整っていない。まっすぐに書けない)
・独特の筆順で書く
・漢字の細かい部分を書き間違える
・句読点が抜けたり、正しく打つことができない
・限られた量の作文や、決まったパターンの文章しか書かない
・学年相応の数の意味や表し方についての理解が難しい
 (三千四十七を300047や347と書く。分母の大きい方が分数の値として大きいと思っている)
・簡単な計算が暗算でできない
・計算をするのにとても時間がかかる
・答えを得るのにいくつかの手続きを要する問題を解くのが難しい
 (四則混合の計算。2つの立式を必要とする計算)
・学年相応の文章題を解くのが難しい
・学年相応の量を比較することや、量を表す単位を理解することが難しい
 (長さやかさの比較。「15cmは150mm」ということ)
・学年相応の図形を描くことが難しい(丸やひし形などの図形の模写。見取り図や展開図)
・事物の因果関係を理解することが難しい
・目的に沿って行動を計画し、必要に応じてそれを修正することが難しい
・早合点や、飛躍した考えをする
 (0:ない、1:まれにある、2:ときどきある、3:よくある、の4段階で回答)

<「不注意」「多動性-衝動性」>

・学校での勉強で、細かいところまで注意を払わなかったり、不注意な間違いをしたりする
・手足をそわそわ動かしたり、着席していても、もじもじしたりする
・課題や遊びの活動で注意を集中し続けることが難しい
・授業中や座っているべき時に席を離れてしまう
・面と向かって話しかけられているのに、聞いていないようにみえる
・きちんとしていなければならない時に、過度に走り回ったりよじ登ったりする
・指示に従えず、また仕事を最後までやり遂げない
・遊ぴや余暇活動に大人しく参加することが難しい
・学習課題や活動を順序立てて行うことが難しい
・じっとしていない。または何かに駆り立てられるように活動する
・集中して努力を続けなければならない課題(学校の勉強や宿題など)を避ける
・過度にしゃべる
・学習課題や活動に必要な物をなくしてしまう
・質問が終わらない内に出し抜けに答えてしまう
・気が散りやすい
・順番を待つのが難しい
・日々の活動で忘れっぽい
・他の人がしていることをさえぎったり、じゃましたりする
(0:ない、もしくはほとんどない、1:ときどきある、2:しばしばある、3:非常にしばしばある、の4段階で回答)

<「対人関係やこだわり等」>

・大人びている。ませている
・みんなから、「○○博士」「○○教授」と思われている(例:カレンダー博士)
・他の子どもは興味を持たないようなことに興味があり、「自分だけの知識世界」を持っている
・特定の分野の知識を蓄えているが、丸暗記であり、意味をきちんとは理解していない
・含みのある言葉や嫌みを言われても分からず、言葉通りに受けとめてしまうことがある
・会話の仕方が形式的であり、抑揚なく話したり、間合いが取れなかったりすることがある
・言葉を組み合わせて、自分だけにしか分からないような造語を作る
・独特な声で話すことがある
・誰かに何かを伝える目的がなくても、場面に関係なく声を出す(例:唇を鳴らす、咳払い、喉を鳴らす、叫ぶ)
・とても得意なことがある一方で、極端に不得手なものがある
・いろいろな事を話すが、その時の場面や相手の感情や立場を理解しない
・共感性が乏しい
・周りの人が困惑するようなことも、配慮しないで言ってしまう
・独特な目つきをすることがある
・友達と仲良くしたいという気持ちはあるけれど、友達関係をうまく築けない
・友達のそばにはいるが、一人で遊んでいる
・仲の良い友人がいない
・常識が乏しい
・球技やゲームをする時、仲間と協力することに考えが及ばない
・動作やジェスチャーが不器用で、ぎこちないことがある
・意図的でなく、顔や体を動かすことがある
・ある行動や考えに強くこだわることによって、簡単な日常の活動ができなくなることがある
・自分なりの独特な日課や手順があり、変更や変化を嫌がる
・特定の物に執着がある
・他の子どもたちから、いじめられることがある
・独特な表情をしていることがある
・独特な姿勢をしていることがある
 (0:いいえ、1:多少、2,はい、の3段階で回答)

(参考3)

定義と判断基準(試案)等

1.ADHDの定義と判断基準(試案)
1-1.ADHDの定義

ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。 また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

※アメリカ精神医学会によるDSM-IV(精神疾患の診断・統計マニユアル:第4版)を参考にした。

1-2.ADHDの判断基準

以下の基準に該当する場合は、教育的、心理学的、医学的な観点からの詳細な調査が必要である。

1.以下の「不注意」「多動性」「衝動性」に関する設問に該当する項目が多く、少なくとも、その状態が6カ月以上続いている。

○不注意

・学校での勉強で、細かいところまで注意を払わなかったり、不注意な間違いをしたりする。
・課題や遊びの活動で注意を集中し続けることが難しい。
・面と向かって話しかけられているのに、聞いていないようにみえる。
・指示に従えず、また仕事を最後までやり遂げない。
・学習などの課題や活動を順序立てて行うことが難しい。
・気持ちを集中させて努力し続けなければならない課題を避ける。
・学習などの課題や活動に必要な物をなくしてしまう。
・気が散りやすい。
・日々の活動で忘れっぽい。

○多動性

・手足をそわそわ動かしたり、着席していてもじもじしたりする。
・授業中や座っているべき時に席を離れてしまう。
・きちんとしていなければならない時に、過度に走り回ったりよじ登ったりする。
・遊びや余暇活動におとなしく参加することが難しい。
・じっとしていない。または何かに駆り立てられるように活動する。
・過度にしゃべる。

○衝動性

・質問が終わらないうちに出し抜けに答えてしまう。
・順番を待つのが難しい。
・他の人がしていることをさえぎったり、じゃましたりする。

2.「不注意」「多動性」「衝動性」のうちのいくつかが7歳以前に存在し、社会生活や学校生活を営む上で支障がある。

3.著しい不適応が学校や家庭などの複数の場面で認められる。

4.知的障害(軽度を除く)、自閉症などが認められない。

※アメリカにおけるチェックリストADHD-Rs(学校用)、及びDSM-Ⅳを参考にした。

2.高機能自閉症の定義と判断基準(試案)

2-1.高機能自閉の定義

高機能自閉症とは、3歳位までに現れ、①他人との社会的関係の形成の困難さ、②言葉の発達の遅れ、③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいう。

また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

※本定義は、DSM-Ⅳを参考にした。

※アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである(DSM-Ⅳを参照)。なお、高機能自閉症やアスペルガー症候群は、広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders…PDDと略称)に分類されるものである(DSM-Ⅳを参照)。

2-2.高機能自閉症の判断基準

以下の基準に該当する場合は、教育的、心理学的、医学的な観点からの詳細な調査が必要である。

1.知的発達の遅れが認められないこと。

2.以下の項目に多く該当する

○人への反応やかかわりの乏しさ、社会的関係形成の困難さ

・目と目で見つめ合う、身振りなどの多彩な非言語的な行動が困難である。
・同年齢の仲間関係をつくることが困難である。
・楽しい気持ちを他人と共有することや気持ちでの交流が困難である。

【高機能自閉症における具体例】
・友達と仲良くしたいという気持ちはあるけれど、友達関係をうまく築けない
・友達のそぱにはいるが、一人で遊んでいる
・球技やゲームをする時、仲間と協力してプレーすることが考えられない
・いろいろな事を話すが、その時の状況や相手の感情、立場を理解しない
・共感を得ることが難しい
・周りの人が困惑するようなことも、配慮しないで言ってしまう

○言葉の発達の遅れ

・話し言葉の遅れがあり、身振りなどにより補おうとしない。
・他人と会話を開始し継続する能力に明らかな困難性がある。
・常同的で反復的な言葉の使用または独特な言語がある。
・その年齢に相応した、変化に富んだ自発的なごっこ遊びや社会性のある物まね遊びができない。

【高機能自閉症における具体例】
・含みのある言葉の本当の意味が分からず、表面的に言葉通りに受けとめてしまうことがある
・会話の仕方が形式的であり、抑揚なく話したり、間合いが取れなかったりすることがある

○興味や関心が狭く特定のものにこだわること

・強いこだわりがあり、限定された興味だけに熱中する。
・特定の習慣や手順にかたくなにこだわる。
・反復的な変わった行動(例えば、手や指をぱたぱたさせるなど)をする。
・物の一部に持続して熱中する。

【高機能自閉症における具体例】
・みんなから、「○○博士」「○○教授」と思われている(例:カレンダー博士)
・他の子どもは興味がないようなことに興味があり、「自分だけの知識世界」を持っている
・空想の世界(ファンタジー)に遊ぶことがあり、現実との切り替えが難しい場合がある
・特定の分野の知識を蓄えているが、丸暗記であり、意味をきちんとは理解していない
・とても得意なことがある一方で、極端に苦手なものがある 
・ある行動や考えに強くこだわることによって、簡単な日常の活動ができなくなることがある
・自分なりの独特な日課や手順があり、変更や変化を嫌がる

○その他の高機能自閉症における特徴

・常識的な判断が難しいことがある
・動作やジェスチャーがぎこちない

3.社会生活や学校生活に不適応が認められること。

※DSM-Ⅳ及び、スウエーデンで開発された高機能自閉症スペクトラムのスクリーニング質問紙ASSQを参考にした。

※定義、判断基準についての留意事項

○ADHDや高機能自閉症等は、医学の領域において研究、形成された概念である。教育的対応のための定義や判断基準は、現在ある医学的な操作的診断基準に準じて作成する必要がある。

○判断基準は、都道府県教育委員会がその判断及び指導方法等について学校を支援するために設置することになろう専門家で構成された組織(以下、「専門家チーム」という)において活用することを想定した。

○専門家チームでは、医療機関と連携して、必要に応じて医学的診断が受けられるようにしておく必要がある。

3.学校における実態把握のための観点(試案)

3-1.実態把握の基本方針と留意事項

(基本方針)


○学校における実態把握については、担任教員等の気付きを促すことを目的とすることが重要である。

○障害種別を判断するためではなく、行動面や対人関係において特別な教育的支援の必要性を判断するための観点であることを認識する必要がある。

○学校では、校内委員会を設置し、同委員会において、担任等の気付きや該当児童生徒に見られる様々な活動の実態を整理し、専門家チームで活用できるようにすることが求められる。専門家チームでは、このような学校における実態把握をも含めて、総合的に判断をすることになる。

(留意事項)

○ADHDや高機能自閉症等、障害の医学的診断は医師が行うものであるが、教員や保護者は、学校生活や家庭生活の中での状態を把握する必要がある。

○授業や学校生活において、実際に見られる様々な特徴を把握できるような観点を設定する必要がある。

○高機能自閉症等の一部には、行動としては現れにくい児童生徒の内面的な困難さもあることに留意する必要がある。

○授業等における担任の気付きを、注意集中困難、多動性、衝動性、対人関係、言葉の発達、興味・関心などの観点から、その状態や頻度について整理し、校内委員会に報告する。

3-2.実態把握のための観点(試案)

<知的発達の状況>
・知的発達の遅れは認められず、全体的には極端に学力が低いことはない

<教科指導における気付き>
・本人の興味のある教科には熱心に参加するが、そうでない教科では退屈そうにみえる
・本人の興味ある特定分野の知識は大人顔負けのものがある
・自分の考えや気持ちを、発表や作文で表現することが苦手である
・こだわると本人が納得するまで時間をかけて作業等をすることがある
・教師の話や指示を聞いていないようにみえる
・学習のルールやその場面だけの約東ごとを理解できない
・一つのことに興味があると、他の事が目に入らないようにみえる
・場面や状況に関係ない発言をする
・質問の意図とずれている発表(発言)がある
・不注意な間違いをする
・必要な物をよくなくす

<行動上の気付き>
・学級の児童生徒全体への一斉の指示だけでは行動に移せないことがある
・離席がある、椅子をガタガタさせる等落ち着きがないようにみえる
・順番を待つのが難しい
・授業中に友達の邪魔をすることがある
・他の児童生徒の発言や教師の話を遮るような発言がある
・体育や図画工作・美術等に関する技能が苦手である
・ルールのある競技やゲームは苦手のようにみえる
・集団活動やグループでの学習を逸脱することがある
・本人のこだわりのために、他の児童生徒の言動を許せないことがある
・係り活動や当番活動は教師や友達に促されてから行うことが多い
・自分の持ち物等の整理整頓が難しく、机の周辺が散らかっている
・準備や後片付けに時間がかかり手際が悪い
・時間内で行動したり時間配分が適切にできない
・掃除の仕方、衣服の選択や着脱などの基本的な日常生活の技能を習得していない

<コミュニケーションや言葉遣いにおける気付き>
・会話が一方通行であったり、応答にならないことが多い
 (自分から質問をしても、相手の回答を待たずに次の話題にいくことがある)
・丁寧すぎる言葉遣い(場に合わない、友達どうしでも丁寧すぎる話し方)をする
・周囲に理解できないような言葉の使い方をする
・話し方に抑揚がなく、感情が伝わらないような話し方をする
・場面や相手の感情、状況を理解しないで話すことがある
・共感する動作(「うなずく」「身振り」「微笑む」等のジェスチャー)が少ない
・人に含みのある言葉や嫌味を言われても、気付かないことがある
・場や状況に関係なく、周囲の人が困惑するようなことを言うことがある
・誰かに何かを伝える目的がなくても、場面に関係なく声を出すことや独り言が多い

<対人関係における気付き>
・友達より教師(大人)と関係をとることを好む
・友達との関係の作り方が下手である
・一人で遊ぶことや自分の興味で行動することがあるため、休み時間一緒に遊ぶ友達がいないようにみえる
・口ゲンカ等、友達とのトラブルが多い
・邪魔をする、相手をけなす等、友達から嫌われてしまうようなことをする
・自分の知識をひけらかすような言動がある
・自分が非難されると過剰に反応する
・いじめを受けやすい
※DSM-Ⅳ、ASSQ、「ADHD児の理解と学級経営」(仙台市教育センター、平成13年度)、「注意欠陥/多動性障害(ADHD)等の児童・生徒の指導の在り方に関する研究」(東京都立教育研究所、平成11年度)を参考にした。

4.指導方法

4-1.基本的な考え

(ADHDの指導・高機能自閉症等の指導共通)
・ADHD・高機能自閉症等のある児童生徒の教育的二ーズは多様であることから、一人一人の実態把握を、単に行動上の問題の把握のみならず、教科学習や対人関係の形成の状況、学校生活への適応状況など様々な観点から行うことが必要である。
・ADHD・高機能自閉症等のある児童生徒の保護者、クラスメイト、クラスメイトの保護者への理解推進も積極的に進める必要がある。
・ADHD・高機能自閉症等のある児童生徒に対して、個別の指導計画による指導が見られ、効果を上げている例も見られるが、当該児童生徒への一層の教育の充実ということから、その作成にあたっては、通級指導教室や特殊学級など校内の特殊教育の担当者からの支援を得ることが望ましい。個別の指導計画を作成し、運用するに当たっては、保護者への十分な理解と連携が求められる。個別の指導計画の作成や運用の在り方については、研究開発学校における取り組みの成果等を参考に検討することが考えられる。
・知的発達には遅れがないものの学習面や行動面で様々な状態を示し、社会的適応にも困難を示すことがあることから、生徒によっては中等教育段階の早い時期から、障害の特性に配慮した職業に関する教育が必要である。
・多動行動等に対応するためには、小学生など低年齢段階からの適切な指導が重要である。
・生活技能(主として対人関係技能)を身に付けることが大切である。その際には、適切な行動に向けての自己管理能力を高めることも大切である。
・問題行動、非行等への配慮が必要である。
・自信回復や自尊心(自己有能感)の確立、さらには自分で自分の行動を振り返ったり、他者が自分をどうとらえているのかを理解したりすることも大切である。
・投薬(中枢刺激剤等)の効果が認められる場合があることから、医療との連携が重要である。
・光や音、身体接触などの刺激への過敏性があること、問題を全体的に理解することが不得意であること、過去の不快な体験を思い出してパニック等を起こすこと等の特性に対応することが大切である。
・主として心因性の要因による選択かん黙等への対応とは異なり、その特性に応じた指導ができるように指導の場に関する検討が必要である。その際には、通常の学級における特性に応じた補充的な教育内容やその指導方法等について検討が必要である。
・2次的障害が顕著に現れる場合もあることから、特に思春期には丁寧な対応が重要である。
・アスペルガー症候群は、言語機能に大きな困難性を有しないが、その他の行動特性は自閉症と同様であることから、教育的対応上は高機能自閉症と同様と考えることができる。

4-2.具休的な配慮

(ADHDの指導・高機能自閉症等の指導共通)
(a)共感的理解の態度をもち、児童生徒の長所や良さを見つけ、それを大切にした対応を図る。
(b)社会生活を営む上で必要な様々な技能を高める(ソーシャルスキルトレーニング)。それらは、ゲーム、競技、ロールプレイング等による方法が有効である。
(c)短い言葉で個別的な指示をする(受け入れやすい情報提示、具体的で理解しやすい情報提示)。
(d)いじめ、不登校などに対応する。
(e)本人自らが障害の行動特性を理解し、その中で課題とその司能な解決法、目標を持つなど対処方法を編み出すよう支援する。
(f)校内の支援体制を整える。
(g)周囲の子どもへの理解と配慮を推進する。
(h)通級指導教室での自信と意欲の回復を図る(スモールステップでの指導等による)。
(i)通級指導教室担当者は、在籍学級担任への児童生徒の実態や学習・行動の状況等に関する情報提供や助言をする。

(ADHDの指導)
(a)叱責よりは、できたことを褒める対応をする。
(b)問題行動への対応では、行動観察から出現の傾向・共通性・メッセージを読み取る。
(c)不適応をおこしている行動については、その児童生徒と一緒に解決の約束を決め、自力ですることと支援が必要な部分を明確にしておく。
(d)グループ活動でのメンバー構成に配慮する。
(e)刺激の少ない学習環境(机の位置)を設定する。

(高機能自閉症等の指導)
(a)図形や文字による視覚的情報の理解能力が優れていることを活用する。
(b)学習環境を本人に分かりやすく整理し提示する等の構造化する。
(c)問題行動への対応では、問題行動は表現方法のひとつとして理解し、それを別の方法で表現することを教える。
(d)環境の構造化のアイディアを取り入れること(見通しがもてる工夫や、ケースによっては個別的な指導ができる刺激の少ないコーナーや部屋の活用等)が効果的である。
(e)情報の受け入れ方や心情の理解などにおいて、障害のない者とは大きく異なることを踏まえた対応をする。

※上記の具体的な配慮は、すべての年齢層に共通というわけではなく、年齢によって、異なることに注意する必要がある。また、同年齢であっても、個々の状態に応じて配慮事項は変わることに注意する必要がある。
※また、いくつかの指導実践では、通常の学級で可能な配慮と、通級指導教室等における配慮が有効な場合もあることが報告されている。

(参考4)

学校数・児童生徒数等の概要

(1)盲・聾・養護学校の学校数、在学者数及び教職員数-国・公・私立計-

区分 学校数 在学者数(人) 本務教員数 本務職員数
幼稚部 小学部 中学部 高等部
盲学校 71校 239 698 471 2,593 4,001 3,439 1,911
聾学校 107 1,357 2,078 1,422 1,973 6,829 4,896 2,080
養護学校 818 127 26,170 19452 35,494 81,242 50,282 12,394
知的障害 525 62 17,070 13,466 28,269 58,866 32,457 7,942
肢体不自由 198 63 7,588 4,586 6,053 18,289 14,212 3,719
病弱 95 2 1,512 1,402 1,172 4,087 3,613 733
総計 996 1,723 28,946 21,344 40,060 92,072 58,617 16,385

(平成13年5月1日現在)


(2)特殊学級数、特殊学級在籍児童生徒数及ぴ担当教員教-国・公・私立計-

区分 小学校 中学校 合計 担当教員数
学級数 児童救 学扱数 生徒数 学級数 児童生徒数 小学校 中学校 合計
知的障害 学級
11,308

33,119
学級
5,697

17.767
学級
17,005

50,886
20,320 9,357 29,677
肢体不自由 1,180 2,178 412 638 1,592 2,816
病弱・虚弱 555 1,212 248 475 803 1,687
弱視 107 139 42 55 149 194
難聴 365 745 163 323 528 1,068
言語障害 317 1,155 25 56 342 1,211
惰緒障害 5,214 14,003 2,078 5,375 7.292 19,378
総計 19,046 52,551 8,665 24,689 27,711 77,240

※中等教育学枝の特殊学扱は無し。(平成13年5月1日現在)


(3)通級による指導の実施状況

区分 小学校 中学校
言語障害 24,725人
(86.2%)
125人
(14.1%)
24850人
(84.1%)
情緒障害 2,571
(9.0%)
515
(58.3%)
3,086
(10.4%)
弱視 148
(0.5%)
12
(1.4%)
160
(0.5%)
難聴 1,235
(4.3%)
231
(26.1%)
1,466
(5.0%)
肢体不自由 2
(0.0%)
1
(0.1%)
3(0.0%)

病弱・身体虚弱 0
(0.0%)
0
(0.0%)
0
(0.0%)

(4)義務教育段階の児童生徒就学状況

全学齢児童生徒数 11,343,210人 100.0%
特殊教育を受けている児童生徒数(A+B+C) 157,094 1.385
盲・聾・養護学校在籍者数(A) 50,289 0.443
特殊学級在籍者数(B) 77,240 0.681
進級による指導を受けている児童生徒数(C) 29,565 0.261
障害により就学猶予・免除を受けている者 147 0.001
*就学猶予・免除者の内訳 盲・弱視 1人(0.052%) }147(7.640%)
聾・軟聴 1人(0.052%)
知的障害 39人(2.027%)
肢体不自由 25人(1.299%)
病弱・虚弱 81人(4.210%)
児童自立支援施設・少年院 250人(12.994%)
その他 1,527人(79.366%)

(平成13年5月1日現在)


(5)特殊教育の対象となる児童生徒教の推移(義務教育段階)



(6)重複障害学級在籍率の推移

 小・中学部

区分 55年度 60年度 2年度 7年度 12年度 13年度
総計 %
31.0
%
36.6
%
38.3
%
43.8
%
45.1
%
44.6
盲学校   26.6 30.9 35.4 41.9 43.3
聾学校   12.7 12.7 15.7 17.9 17.4
知的障害養護学校   34.1 34.0 37.2 37.6 36.7
肢体不自由養護学校   53.9 59.9 71.4 75.0 74.9
病弱養護学校   33.3 33.0 31.4 32.5 34.1

(各年度5月1日現在)


(7)盲・聾・養護学校教の推移-国・公・私立計-

区分 54年 60年 2年 7年 12年 13年
盲学校
73

72

70

70

71

71
聾学校 110 107 108 107 107 107
養護学校計 654 733 769 790 814 818
知的障害養護学校 400 453 482 501 523 525
肢体不自由養護学校 158 185 188 192 196 198
病弱養護学校 96 95 99 97 95 95
盲・聾・養護学校合計 837 912 947 967 992 996

(各年度5月1日現在)


(8)盲・聾・養護学校在籍者数の推移-国・公・私立計-

区分 8年 9年 10年 11年 12年 13年
盲学校
4,442

4,323

4,199

4,172

4,089

4,001
聾学校 6,999 6,841 6,826 6,824 6,818 6,829
養護学校計 74,852 75,280 76,420 77,818 79,197 81,242
知的障害養護学校 52,102 52,824 53,561 54,987 57,078 58,866
肢体不自由養護学校 18,314 18,046 18,464 18,467 17,886 18,289
病弱養護学校 4,436 4,410 4,395 4,364 4,233 4,087
盲・聾・養護学校合計 86,293 86,444 87,445 88,814 90,104 92,072

(各年度5月1日現在)


(9)特殊学級在籍者数の推移(小・中学校)

(10)特殊学級数の推移(小・中学校)

(11)通級による指導を受けている児童生徒数の推移(小・中学校)

(12)特殊学級設置校数及び担当教員数

(13.5.1現在)

学校別 小学枝 中学校
区分
特殊学級を設置する学校数 12,428校 5,925校 18,353校
設置者別向訳 国立 8 8 16
公立 12,419 5,916 18,335
私立 1 1 2
全学校数 23,964 11,191 35,155
特殊学級担当教員数 20,220人 9,357人 29,677人
設置者別内訳 国立 33 31 64
公立 20,272 9,318 29,590
私立 15 8 23
上記のうち、盲・聾・養護学校教諭免許状所有者 6,003 2,330 8,333

(13)特殊学級一学級当たりの在籍者教の推移(小・中学校)

(14)盲・聾・養護学校一学級当たりの在籍者教の推移(小・中学部)



(別添)

特別支援教育の在り方に関する調査研究について

平成13年10月9日

初等中等教育局長決定

1 趣旨

 近年の児童生徒の障害の重度・重複化に対応するため、障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校の在り方を検討することが必要となっている。また、小・中学校等に在籍する注意欠陥/多動性障害(ADHD)児、高機能自閉症児など特別な教育的支援を必要とする児童生徒への対応が求められている。このため、全国の実態を踏まえながら特別支援教育の在り方に関して調査研究を行う。

2 調査研究事項

(1)特別支援教育の内容等について

(2)障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校の在り方等について

(3)小・中学校等の特別支援教育の今後の在り方について

①注意欠陥/多動性障害、高機能自閉症等への教育的対応について

②特殊学級、通級による指導の今後の在り方について

3 実施方法

研究協力者の協力を得て、調査研究協力者会議を開催し、調査研究を行う。なお、必要に応じ、協力者以外の関係者に対して協力を求めることができる。

4 実施期間

平成13年10月9日から平成15年3月31日までとする。

5 その他

この調査研究に関する庶務は、初等中等教育局特別支援教育課において行う。



特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者

(五十音順、敬称略)



    安彦忠彦   早稲田大学教育学部教授  
    上野一彦   東京学芸大学副学長  
副座長  大南英明   帝京大学文学部教授  
    緒方直助   全日本手をつなぐ育成会理事長  
    河端静子   日本障害者協議会代表  
    上林靖子   中央大学文学部教授  
座長  小林登    東京大学名誉教授、チャイルド・リサーチ・ネット所長、国立小児病院名誉院長  
    曽根秀敏   神奈川県教育長  
    斎藤佐和   筑波大学教授、筑波大学附属聾学校長  
    杉山登志郎  あいち小児保健医療総合センター心療科部長  
    長澤泰子   日本橋学館大学教授  
    西條一止   筑波技術短期大学長  
    野崎弘    国立博物館理事長  
    細村迫夫   国立特殊教育総合研究所理事長  
    本堂元規   日野市立大坂上中学校長  
    三浦和    全国特殊教育推進連盟理事長  
    宮崎英憲   東京都立青鳥養護学校長  
    森原良浩   京都市教育委員会養護育成課長  
    吉川光子   渋谷区立加計塚小学校長 


(以上19名)


(別添)

今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)
-概要-

Ⅰ 特殊教育から特別支援教育へ

①特殊教育は、障害のある児童生徒等の障害の種類や程度に対応して教育の場を整備し、そこできめ細かな指導を効果的に行うという視点で展開され、当該児童生徒の教育の機会の確保のために重要な役割を果たしてきた。

②しかしながら、障害の重度・重複化、多様化、より軽度な障害のある児童生徒への対応の必要性等、近年の障害のある児童生徒等の教育をめぐる諸情勢の変化を踏まえ、今後は、近年の厳しい財政事情等に留意して、これまでの特殊教育において蓄積された指導の経験、ノウハウ等を有効な資源として最大限に活用して、「障害のある児童生徒一人一人の教育的二ーズを把握して、必要な支援を行う」という考え方を一層明確にしていくことが必要である。

Ⅱ 特別支援教育の在り方についての基本的考え方

本協力者会議では、これまでの特殊教育の対象だけでなく、その対象でなかったLD、ADHD、高機能自閉症も含めて、障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するため、当該児童生徒に対して、その一人一人の教育的二ーズを把握して、その持てる力を高め、学校における生活や学習上の困難の改善又は克服に向けて適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うことを特別支援教育と捉えることとする。

①障害のある児童生徒等一人一人の教育的二ーズを正確に把握して、盲・聾・養護学校をはじめ、これまで特殊教育において整備された人的・物的資源を最大限に活用して、教育、福祉、医療等の関係機関の連携の充実等により、一層質の高い教育を行う。

②障害の状態等に応じて、教育や指導の専門性が確保されることが必要であり、教員の指導の専門性の向上、学校長、教頭等のリーダーシップの発揮に加え、学校外の多様な分野の専門家の総合的な活用を図ることが重要である。保護者も障害のある児童生徒の教育において重要な役割を担うものであり、これまで以上にその理解や協力を得て教育を行うことが必要である。

③このため、乳幼児期から学校卒業後までを通じて、一貫して関係機関の密接な連携の下、適切な教育的支援を行うことを目的とする「個別の教育支援計画」(以下、「支援計画」という。)を作成する。支援計画は、障害のある児童生徒等の成長の過程に応じて、学校、福祉関係施設等の中から適当な機関が策定するもので、計画-実施-評価(Plan-Do-See)の考え方の下で、一人一人の教育的二ーズに応じた指導目標の設定や教育的支援の内容の明確化を目的とする。

④支援計画の策定に当たっては、障害のある児童生徒の教育について知識や経験を有する者が中心となり、学校内においては、関係者の連携協力の確保はもちろん、学校と福祉、医療等の関係機関との連携協力が不可欠であり、関係者及び関係機関間の連絡調整を行うコーディネータ的な役割を果たす者の役割が重要である。このため、各学校にこのような役割を果たす「特別支援教育コーディネータ(仮称)」を指名するなど、指導体制の整備を図ることが必要である。

Ⅲ 特別支援教育を推進する上での盲・聾・養護学校及び小・中学校の在り方

【盲・聾・養護学校】

①盲・聾・養護学校は、障害による教育的支援の必要性が大きい児童生徒に対し適切な教育を行う学校として、今後とも重要な役割を果たすものであるが、今後は、地域において、障害のある児童生徒の教育をより適切、かつ柔軟に行えるように、障害種にとらわれない学校制度について検討する必要がある。

②また、在籍する児童生徒の教育に加えて、地域における保護者等に対する相談、小・中学校の教員への専門的・技術的な相談、巡回による指導を併せて行う等地域における障害のある児童生徒等の教育のセンター的機能を有する学校へと転換を図っていくことが求められている。

③このため、特定の障害種のみを受け入れる盲・聾・養護学校の制度から、地域の実情に応じて、教育的支援の機能を充実するとの観点から、障害種にとらわれない形で学校を設けることを可能とする制度としていくことについて、法改正を含め、具体的に検討する必要がある。この場合、どのような障害に対応した教育や相談の機能を持たせるかは、地域の実情を踏まえ、各自治体が判断することになる。

【小・中学校】

④LD、ADHD、高機能自閉症のある通常の学校に在籍する児童生徒については、これまでの特殊教育の対象ではなかった。これらの児童生徒は、通常学級在籍者の6%程度と考えられ、当該児童生徒に対する教育的支援を適切に行うことは緊急かつ重要な課題である。

⑤このような多様な障害のある児童生徒が小・中学校に就学することを考慮すれば、教職員の理解促進を含め、学校組織として一体的に取り組むことを確保する対応体制の構築、支援計画の作成による関係機関との円滑な連携、外部人材の活用等、障害による教育的支援の必要性が比較的小さい児童生徒に対する総合的な特別支援教育体制の確立が必要である。小・中学校において、特別支援教育コーディネータ(仮称)の役割は大きく、専門的知識を有する特殊学級や盲・聾・養護学校の教員経験者等がその役割を担うことが期待される。

⑥特殊学級や通級指導教室についても必要な見直しを行いつつ、小・中学校において、障害の多様化を踏まえて柔軟かつ弾力的な対応が可能となるよっな制度の在り方について、具体的に検討していく必要がある。

Ⅳ 特別支援教育体制の専門性の強化

①障害のある児童生徒に対して、より質の高い教育を行うために、教員一人一人の教育、相談等の専門性を高めること、学校外の専門家等の人材の活用、組織として一体的な取組を可能とする学校内での支援体制を構築すること、関係機関との有機的な連携協力体制の構築等、特別支援教育体制の専門性の強化に向けた取組が重要である。

②教育のできる学校種を盲・聾・養護学校ごとに特定する現在の特殊教育免許の制度が、近年の児童生徒の障害の重度・重複化、多様化の状況に対応して改善されることは、特別支援教育の実施のための高い専門性を確保する基盤を形成する上で極めて重要であり、改善に向けた審議が進められることを期待する。

③国立特殊教育総合研究所は、特殊教育をめぐる諸情勢の変化等を踏まえ、より質が高く、より社会的要請に対応した研究を効果的に行う必要があり、LD、ADHD、自閉症等の社会的ニーズの高い課題に対し、総合的かつ弾力的に研究に取り組めるような体制整備が必要である。また、研究のみならず、研修等についても、我が国全体を視野に入れて、特別支援教育に関連する事業を総合的に推進していくことが重要である。

④国立久里浜養護学校は、今後は、自閉症の児童生徒の教育研究の場として又は指導や研修の実践の場として機能することにより、我が国の自閉症の児童生徒への教育的対応の確立のため、積極的に貢献していく必要がある。国立大学の法人化が具体化し、同養護学校を含め、国立学校の今後の在り方が問題となっている中で、障害のある子どもの教育について研究実績の豊富な大学の附属学校になる等、自閉症の児童生徒の教育研究を支える学校としての機能が最大限に発揮できるように適切な設置・運営の形態が決定されることを期待する。



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