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特別支援教育法令等データベース 総則 / 報告・答申等 - 新しい時代の義務教育を創造する(答申) -


新しい時代の義務教育を創造する (答申) 平成17年10月26日 中央教育審議会

        新しい時代の義務教育を創造する(答申)                 目 次                                  ページ はじめに                               1 第I部 総論                              3 (1)義務教育の目的・理念                      3 (2)新しい義務教育の姿                       4 (3)義務教育の構造改革                       5 (4)国、都道府県、市区町村の役割の明確化と協力関係の強化      6 (5)義務教育の基盤整備の重要性                   7 (6)義務教育の費用負担の在り方                   8 第II部 各論                             11 序 章 義務教育の質の保証・向上のための国家戦略           11 第1章 教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する        12      -義務教育の使命の明確化及び教育内容の改善- (1)義務教育の使命の明確化                     12   ア 義務教育の目標の明確化                    12   イ 学校の役割の重要性の再認識                  13 (2)教育内容の改善                         14   ア 基本的な理念・目標                      14   イ 学習指導要領の見直し                     15   ウ 学習到達度・理解度の把握のための全国的な学力調査の実施    16   エ 関連する課題                         17 (3)義務教育に関する制度の見直し                  18 第2章 教師に対する揺るぎない信頼を確立する -教師の質の向上-   19 (1)あるべき教師像の明示                      19 (2)信頼される教師の養成・確保                   19   ア 基本的な考え方                        19   イ 教員養成・免許制度の改革                   20   ウ 採用、現職研修の改善・充実                  21   エ 教員評価の改善・充実                     22   オ 多様な人材の学校教育への登用                 22 第3章 地方・学校の主体性と創意工夫で教育の質を高める        24      -学校・教育委員会の改革- (1)学校の組織運営の見直し                     24   ア 学校の自主性・自律性の確立                  24   イ 学校・地方自治体の取組の評価                 25   ウ 保護者・地域住民の参画の推進                 26 (2)教育委員会制度の見直し                     26   ア 教育委員会の設置の在り方                   26   イ 教育委員会の組織の弾力化                   28   ウ 首長と教育委員会の権限分担の弾力化              28   エ 教育委員会と教育長との関係                  28 (3)国と地方、都道府県と市区町村の関係・役割            29   ア 基本的な考え方                        29   イ 地方の主体性を生かした教育行政の推進             29   ウ 市区町村への教職員人事権の移譲                30   エ 教職員配置の改善と市区町村、学校への学級編制に係る権限の移譲 31 第4章 確固とした教育条件を整備する                 33      -教育の質の向上、財源確保の確実性・予見可能性、       地方の自由度の拡大- (1)教育条件整備に関する共通理解                  33 (2)義務教育費国庫負担制度の在り方   ア 義務教育費国庫負担制度の概要とこれまでの経緯         34   イ 地方案を活かす方策と義務教育の在り方             35   ウ 義務教育費国庫負担制度の検討に関する3つの観点からの議論の概要 37   エ 地方案を活かす方策の検討                   41 (3)公立学校施設整備費負担金・補助金の在り方            42   ア 公立学校施設整備費負担金・補助金               42   イ 学校施設の耐震化                       43 (4)教科書無償給与制度の在り方                   44
はじめに ○ 中央教育審議会は、平成15年5月の「今後の初等中等教育改革の推進方策につい て」、平成16年3月の「地方分権時代における教育委員会の在り方について」、平 成16年10月の「今後の教員養成・免許制度の在り方について」の3つの諮問を受 け、義務教育の在り方について審議を進めてきた。 ○ また、①国庫補助負担金、②税源移譲を含む税源配分、③地方交付税の在り方を一 体的に見直すこととしている「三位一体の改革」において、義務教育費国庫負担金を はじめとする義務教育に係る費用負担の在り方が議論となった。  中央教育審議会では、平成16年5月に初等中等教育分科会教育行財政部会・教育 条件整備に関する作業部会が「義務教育費に係る経費負担の在り方について(中間報 告」において考え方をとりまとめている。) ○ その後、平成16年11月の政府・与党合意「三位一体の改革について」において、 平成18年度までの三位一体の改革に関して合意がなされており、その中で、「義務 教育制度については、その根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する。その方針の 下、費用負担についての地方案を活かす方策を検討し、また教育水準の維持向上を含 む義務教育の在り方について幅広く検討する」こととされ、「こうした問題について は、平成17年秋までに中央教育審議会において結論を得る」とされた。  これを受け、中央教育審議会では、義務教育の在り方について集中的な審議を行う ため、平成17年2月、総会直属の部会として義務教育特別部会を設置した。 ○ 義務教育特別部会は、平成17年2月28日の第1回以来、これまで8ヶ月の間に 41回の会議を開催した。  その審議経過については、まず、5月23日の総会に、子どもの現状、学力の問題、 教育内容、義務教育制度、教師像、学校像、教育委員会の在り方、国と地方の関係、 教育費総額とその内容などを中心とする「審議経過報告(その1)」が報告された。  続いて、合宿集中審議等を経て、7月19日の総会に、義務教育に関する費用負担 の在り方を中心とする「審議経過報告(その2)」が報告された。  また、今回の審議に当たっては、幅広く各界各層の意見を徴するため、有識者、関 係団体、関係省庁等からの意見聴取や、地方公聴会(一日中教審)の開催(水戸市及 び高知市)、文部科学省ホームページにおける意見募集、「義務教育に関する意識調 査」の実施などに積極的に取り組んだ。御協力いただいた方々にこの場を借りて厚く 御礼申し上げたい。  これらを踏まえ、8月以降、義務教育特別部会及び総会において、更に審議を深め、 このほど本答申をとりまとめたものである。 ○ 本答申は第I部総論と第II部各論から成っている。総論においては、我々の目指す 義務教育の改革の基本的な方向性を述べ、各論においては、この改革の実現のための 具体的な改革策を述べるとともに、審議の過程において出された様々な意見について も盛り込んでいる。したがって、第I部、第II部全体を通して我々の考えを御理解い ただきたい。 ○ 答申をとりまとめるに当たっては、できるだけ簡潔で分かりやすいものを目指した。 このため、委員から出された数多くの意見や提言をすべて盛り込むことはしていない。 これらの意見、提言については、審議経過報告や議事録もご覧いただき、本答申に至 る背景を御理解いただきたい。 ○ なお、義務教育の在り方に関する審議事項は極めて広範にわたることから、学習指 導要領の見直しを含む教育内容の改善や教育評価については教育課程部会で、教員養 成・免許制度の改革については教員養成部会で、また、教職員配置の改善に関しては 別途設置された調査研究協力者会議で、それぞれ専門的な検討が行われてきた。本答 申では、それらの検討の成果をも踏まえつつ、基本的な方向について提言を行ってい る。教育内容、教育評価、教員養成・免許制度に関しては、引き続き、関係部会等で 審議を深めることとしている。 ○ 義務教育は、国民一人一人の幸せな人生の実現の根幹であるとともに、国や社会の 発展の基礎である。  中央教育審議会としては、我が国の将来を見据え、新しい時代の義務教育の在り方 について総合的な展望を描くことを目指し、限られた時間の中で全力を尽くして議論 を行い、答申をとりまとめた。  政府においては、義務教育の在り方について中央教育審議会において結論を得ると された政府・与党合意のとおり、本答申の内容を責任を持って確実に実現していただ きたい。  国民の皆様には、本答申の内容が確実に実現されるかどうかをしっかりと見守って いただきたい。
第I部 総論 (1)義務教育の目的・理念
 変革の時代であり、混迷の時代であり、国際競争の時代である。  このような時代だからこそ、一人一人の国民の人格形成と国家・社会の形成者の育 成を担う義務教育の役割は重い。  国は、その責務として、義務教育の根幹(①機会均等、②水準確保、③無償制)を 保障し、国家・社会の存立基盤がいささかも揺らぐことのないようにしなければなら ない。
○ 憲法第26条は、すべての国民に教育を受ける権利を保障し、また、その権利を実 現するために、義務教育の制度が設けられている。  義務教育の目的は、一人一人の国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成の二 点であり、このことはいかに時代が変わろうとも普遍的なものである。 ○ 子どもたち一人一人が、人格の完成を目指し、個人として自立し、それぞれの個性 を伸ばし、その可能性を開花させること、そして、どのような道に進んでも、自らの 人生を幸せに送ることができる基礎を培うことは、義務教育の重要な役割である。  自らの頭で考え、行動していくことのできる自立した個人として、変化の激しい社 会を、心豊かに、たくましく生き抜いていく基盤となる力を、国民一人一人に育成す ることが不可欠である。 ○ 同時に、義務教育は、民主的、平和的な国家・社会の形成者として必要な国民とし ての資質を育成することをその責務としている。  文化・政治・経済・科学・技術などあらゆる面において、これからの社会の在り方 は、それを担う人材によって決定される。  我が国が、変動の激しいこれからの時代において、今後とも国際的な競争力を持つ 活力ある国家として、また、世界に貢献する品格ある文化国家として発展するために は、国民一人一人が、そのような国家・社会の形成者として、それぞれの分野で存分 に活躍することのできる基盤を、義務教育を通じて培う必要がある。 ○ こうした義務教育の目的に照らせば、学校は、知・徳・体のバランスのとれた質の 高い教育を全国どこでも提供し、安心し信頼して子どもを託すことのできる場でなけ ればならない。  国民が質の高い教育をひとしく受けることができるよう、憲法に定められた機会均 等、水準確保、無償制という義務教育の根幹は、国がその責務として保障する必要が ある。  特に、現代社会では、すべての国民に地域格差なく一定水準以上の教育を保障する 義務教育制度の充実は、格差の拡大や階層化の進行を防ぐセーフティ・ネットとして、 社会の存立にとって不可欠なものとなっている。 ○ 変革の時代であり、混迷の時代であり、また、国際競争の時代でもある今日、人材 育成の基盤である義務教育の根幹は、これまでのどの時代よりも強靭なものであるこ とが求められる。  教育を巡る様々な課題を克服し、国家戦略として世界最高水準の義務教育の実現に 取り組むことは、我々の社会全体に課せられた次世代への責任である。 (2)新しい義務教育の姿
 学ぶ意欲や生活習慣の未確立、後を絶たない問題行動など義務教育をめぐる状況に は深刻なものがある。公立学校に対する不満も少なくない。  我々の願いは、子どもたちがよく学びよく遊び、心身ともに健やかに育つことであ る。  そのために、質の高い教師が教える学校、生き生きと活気あふれる学校を実現した い。 学校の教育力、すなわち「学校力」を強化し、「教師力」を強化し、それを通じて、 子どもたちの「人間力」を豊かに育てることが改革の目標である。
○ 学ぶ意欲や生活習慣の未確立、後を絶たない問題行動など義務教育をめぐる状況に は深刻なものがある。学力低下への懸念、塾通い等、特に公立学校に対する不満は少 なくない。それらは時代や社会の変化に起因するものもあるが、学校教育、教育行政 が十分対応できなかったことも否めない。  義務教育は子どもが成長発達していく上で不可欠な学力、体力、道徳性を養う責任 を担っている。義務教育の失敗は、国家・社会の存立基盤を揺るがすことになる。 ○ 小・中学校等の義務教育学校は、保護者や地域の期待に応え、子どもの社会的自立 を支え、一人一人の多様な力と能力を最大限伸ばす場とならなければならない。 ○ 我々は、これからの新しい義務教育の姿として、子どもたちがよく学びよく遊び、 心身ともに健やかに育つことを目指し、高い資質能力を備えた教師が自信を持って指 導に当たり、そして、保護者や地域も加わって、学校が生き生きと活気ある活動を展 開する、そのような姿の学校を実現することが改革の目標であると考える。  学校の教育力(「学校力」)を強化し、教師の力量(「教師力」)を強化し、それを 通じて、子どもたちの「人間力」の豊かな育成を図ることが国家的改革の目標である。 ○ 学校は、目指す教育の目標をこれまで以上に明確に示し、それに即して、子どもた ちに必要な学力、体力、道徳性をしっかりと養い、教育の質を保証することが求めら れる。指導力不足など問題のある教師が教壇に立つことがないようにし、優れた教師 を称え、信頼され尊敬される教師が指導に当たる学校にならなければならない。 ○ 同時に、これからの学校は、保護者や地域住民の意向を十分反映する、信頼される 学校でなければならない。また、学校運営協議会(コミュニティ・スクール)や学校評 議員の積極的活用を通じて、保護者や地域住民の学校運営への参画を促進することも 求められる。教育を提供する側からの発想ではなく、教育を受ける側である保護者や 子どもの求める質の高い教育の場となる必要がある。教育現場の意識改革がその鍵を 握っている。 ○ 義務教育の改革を通じて、子どもたちが、知力、体力を身に付け、徳を備えた人間 として成長し、それぞれの志や希望を実現して幸せをつかむとともに、我が国が活力 と誇りに満ちた、世界から尊敬される国として発展することが可能になるものと確信 する。 (3)義務教育の構造改革
 今こそ、義務教育の構造改革が必要である。  義務教育システムについて、①目標設定とその実現のための基盤整備を国の責任で 行った上で、②市区町村・学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、 ③教育の結果の検証を国の責任で行い、義務教育の質を保証する構造に改革すべきで ある。
○ 新しい義務教育の実現に向けて、現在の教育システム全体を真摯に検証することが 必要である。我が国の義務教育の良さや強みは維持する一方、これまでの政策につい て、実証的な立場から検証し、反省すべき点は反省し、改めるべき点は改めるという 姿勢に立って、義務教育の構造改革に取り組むことが求められる。 ○ 義務教育の構造改革の基本方向として、①国が明確な戦略に基づき目標を設定して そのための確実な財源など基盤整備を行った上で、②教育の実施面ではできる限り市 区町村や学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、③教育の結果につ いて国が責任を持って検証する構造への転換を目指すべきである。  いわば国の責任によるインプット(目標設定とその実現のための基盤整備)を土台 にして、プロセス(実施過程)は市区町村や学校が担い、アウトカム(教育の結果) を国の責任で検証し、質を保証する教育システムへの転換である。 ○ こうした義務教育の構造改革により、国の責任でナショナル・スタンダードを確保 し、その上に、市区町村と学校の主体性と創意工夫により、ローカル・オプティマム (それぞれの地域において最適な状態)を実現する必要がある。  国の責任と分権改革は、車の両輪である。両者が相まって、時代を切り拓く新しい 義務教育を実現する必要がある。 (4)国、都道府県、市区町村の役割の明確化と協力関係の強化
 義務教育の中心的な担い手は、学校である。  国、都道府県、市区町村の協力で、学校を支えなければならない。  国は義務教育の根幹保障の責任を、また、都道府県は域内の広域調整の責任を十全 に果たした上で、市区町村、学校が、義務教育の実施主体として、より大きな権限と 責任を担うシステムに改革する必要がある。
○ 現実の教育の在り方を考えるとき、子どもたちの最も身近なところで教育活動を担 っているのは学校であり、市区町村である。  義務教育の構造改革に当たっては、こうした学校や市区町村が、それぞれの地域の 状況を踏まえた最適な教育を行うことができるよう、できる限りその権限と責任を拡 大する改革を進めることが必要である。  併せて、教育委員会と学校との関係をより良いものにすることにより、自立して質 の高い教育を提供する学校を実現することが必要である。  義務教育について、今後求められる分権改革の重点は、都道府県から市区町村への 分権、教育委員会から学校への権限移譲である。 ○ 同時に、義務教育は、国家・社会の存立基盤であり、国全体で共同して支えること が不可欠である。  全国的に一定水準の教育を保障する最終的な責任は、国が担うべきものである。国 は、その責務として、各学校、市区町村が創意あふれる教育に取り組むために必要な 基盤整備を行う必要がある。 ○ 国、都道府県、市区町村の役割を明確にし、三者の協力関係を強化した上で、学校 の存分な取組を支援する仕組みが必要である。  すなわち、国が義務教育の根幹を保障する観点から、また、都道府県が域内の広域 調整の観点から、それぞれの役割を十全に果たした上で、市区町村、学校が、義務教 育の実施主体として、これまで以上に多くの権限と責任を持つシステムへの転換を図 る必要がある。 (5)義務教育の基盤整備の重要性
 義務教育を支える基盤整備は確固たるものでなければならない。  そのため財源措置を含め、国・都道府県・市区町村がそれぞれの役割と責任を果た すことが必要である。  とりわけ重要なのは教職員である。 教育の成否は、資質能力を備えた教職員を確実に確保できるか否かにかかっている。 教職員の養成、配置、給与負担の在り方は、教育基盤の中で最も重要なものである。
○ 義務教育の構造改革を行い、質の保証・向上を図る上で、それを支える教育基盤の 整備は極めて重要である。教職員の養成・配置、学校施設、設備、教材などの教育基 盤は確固たるものである必要がある。そのため財源措置を含め、国・都道府県・市区 町村がそれぞれの役割と責任を果たすことが必要である。 ○ とりわけ重要なのは教職員である。  教育は、教師と子どもたちとの人格的ふれあいを通じて行われる営みである。  人間は教育によってつくられると言われるが、その教育の成否は教職員にかかって いると言っても過言ではない。  どの国においても、教職員の質と量を確保するための戦略は大きな課題である。 資質能力を備えた教職員を安定的に確保できるか否か、教職員が安心して職務に従 事できる環境があるか否か、教職員を尊敬する社会であるか否かは、教育の成否の鍵 を握る問題である。 ○ 義務教育こそ、外交や防衛とともに国が担うべき最重要政策であり、そのために必 要な教育費の総額は確実に確保されなければならない。  特に、機会均等や水準の維持向上などの義務教育の根幹を保障するためには、優れ た教職員の必要数を全国どこでも確保できることが不可欠である。  教職員の人件費は義務教育費全体の四分の三を占める最大の要素であり、教職員の 養成、配置や給与負担の在り方は、教育基盤の中で最も重要なものである。 (6)義務教育の費用負担の在り方
 義務教育の構造改革を推進すると同時に、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任 を引き続き堅持するためには、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額 が保障されるという意味で、現行の負担率二分の一の国庫負担制度は優れた保障方法 であり、今後も維持されるべきである。その上で、地方の裁量を拡大するための総額 裁量制の一層の改善を求めたい。  教材購入費や図書購入費など教育環境整備に不可欠な経費も、その総額が確実に確 保されるよう努める必要がある。  公立学校施設の整備についても、地方の自由度を拡大した上で国として目的を特定 した財源を保障する必要がある。特に、子どもの生命の安全を守るため、耐震化は国 が責任を持って推進すべきである。
○ 義務教育の経費の大半を占める教職員の確保と適正配置のため、昭和15年に義務 教育費国庫負担法が成立しており、国と地方の共同により教職員給与費を負担してい る(終戦後の昭和25-27年度にシャウプ勧告により一時的に廃止されたが、全国 知事会からの要請もあり昭和28年度に復活。これにより、教職員給与費として都) 道府県が実際に支出した額の二分の一を国が負担することを通じて、教職員人件費の 総額確保が果たされている。  また、負担金の交付に当たって、地方の裁量を拡大する仕組み(総額裁量制)も導 入されている。 ○ 平成16年11月の政府・与党合意「三位一体の改革について」において、義務教 育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する方針の下、費用負担についての 地方案を活かす方策と、教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方の検討が、中央 教育審議会に求められた。 ○ 地方六団体は、義務教育費国庫負担金の全額を廃止し税源移譲の対象とすることを 前提として、まず中学校分8500億円に係る負担金を移譲対象補助金とすることを 求めている。一方、平成17年度には1044の市区町村( 全国の市区町村の47%) の議会から義務教育費国庫負担制度の堅持を求める意見書が提出されている(10月 25日現在)。これは平成16年度から通算すると全国の市区町村の65%に達する。  中央教育審議会は、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する方 針の下で、地方の意見を真摯に受け止め、費用負担についての地方案を活かす方策に ついて審議を行った。 ○ 地方六団体から推薦された委員(以下「地方六団体委員」という。)は、国が義務 標準法や学習指導要領を定めた上で、税源移譲による一般財源化を行って、地方の自 由度を拡大し、自らの責任と判断で義務教育を運営する方法が地方分権の観点からも 最も適切であるとの意見を述べた。  しかし、多くの意見は、地方公共団体間の財政力格差や教育格差が生じることを懸 念するものであった。税源移譲を行った場合、47の都道府県のうち40の道府県で 義務教育費国庫負担金による配分額よりも税源移譲額が下回ることが推計されてい る。 ○ 一方、義務教育の質の向上のためには、最も確実性・予見可能性の高い方法を選択 すべきであり、そのためには義務教育に使途が特定された財源保障の制度、すなわち 国庫負担制度が不可欠であるとの意見が多く出された。 ○ 義務教育の主たる経費である教職員の給与を保障する方法としては、①全額を国庫 負担する制度、②現行の国庫負担制度のように国と地方が負担割合を法定し、それに より給与費の全額が保障される制度、③全額一般財源化により、地方が全額を負担す る制度、などが考えられる。 ○ 義務教育の機会均等と水準の維持向上を図ることは国の存立に関わるもっとも重要 な基本政策である。義務教育の成果は、一地方にとどまらず、国全体に関わるもので あり、義務教育の経費はこの観点から考えられなければならない。また、教育の質の 向上のためには、教職員が安心して職務に従事できる基盤の保障と強化が重要である。 ○ 義務教育の構造改革を推進すると同時に、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任 を引き続き堅持するためには、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額 が保障されるという意味で、現行の負担率二分の一の国庫負担制度は、教職員給与費 の優れた保障方法であり、今後も維持されるべきである。その上で、地方の裁量を拡 大するための総額裁量制の一層の改善を求めたい。 ○ 中学校に係る国庫負担金を対象から外すという考え方については、同じ義務教育で ある小学校と中学校の教職員の取扱いを分けることになり、合理性がなく、適当では ない。 ○ 教材購入費や図書購入費など教育環境整備に不可欠な経費についても、国と地方の 協力により、その総額が確実に確保されるよう努める必要がある。 ○ さらに、重要な教育基盤である公立学校施設の整備は、大きな地域間格差が生じて はならないものであり、地方の自由度を拡大した上で国として目的を特定した財源を 保障する必要がある。特に、子どもの生命の安全を守るため、耐震化は国が責任を持 って推進すべきである。 ○ 地方六団体が目指す教育の地方分権についての提案は、本答申を貫く一つの理念と して十分尊重されている。学校や市区町村が、特色ある教育活動、柔軟な学級編制な どを行い、それぞれの地域の伝統や独自の文化を生かし、個性ある多様な人材を育て ることが重要である。それは、学校とその設置者である市区町村の裁量権限と自由度 の拡大を進めることにより実現されるものであり、義務教育費国庫負担金や公立学校 施設整備費負担金等を通じ国がその財源を担保することが重要であると考える。
第II部 各論 序章 義務教育の質の保証・向上のための国家戦略 ○ 資源に恵まれない我が国は、教育を通じて人材育成を充実することが何より重要で ある。  国際的な大競争時代の今日、どの国においても義務教育の質の保証・向上が国家戦 略の中核に据えられている。我が国においても、諸外国に遅れをとることなく、世界 最高水準の教育を目指し、人材育成の基盤である義務教育の質の向上に国家戦略とし て取り組む必要がある。 ○ 第I部で述べた新しい義務教育の創造に向けた構造改革の方向を具体的な改革策と して整理すると、以下の4つの教育国家戦略になる。そこで、第II部では、以下の戦 略に即して、義務教育の改革策を述べたい。 ① 教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する  義務教育の到達目標を明確化し、教育内容の改善を図るとともに、質の高い教 科書を確保する。また、実際に教育の成果が上がっているか結果を評価・検証す るための方策を講じる。これらにより、すべての子どもたちに質の高い教育を保 証する。 ② 教師に対する揺るぎない信頼を確立する  教師に対して児童生徒・保護者・国民から尊敬と揺るぎない信頼が得られ、国 際的にも教師の質が高いものとなるよう、国の責任で、教員養成の質的な水準を 高め、採用後も教師の質が常に向上するような仕組みの充実を図る。 ③ 地方・学校の主体性と創意工夫で教育の質を高める  地方・学校の主体性と創意工夫によって教育の質の向上を図るため、国がナシ ョナル・スタンダードを設定しそれが履行されるための財源保障など諸条件を整 備した上で、市区町村が行うべきことは市区町村が、学校が行うべきことは学校 が担うシステムを確立する。学校は、自主性・自律性の確立のため、権限と責任 を持つとともに、保護者・住民の参画と評価で透明性を高め説明責任を果たすシ ステムを確立する。 ④ 確固とした教育条件を整備する  義務教育の質の保証・向上を図るため、教職員配置、学校施設、設備、教材な ど教育の実施を支える財源などの教育条件の整備については、国際的にも誇れる 確固たるものとなるよう、国の責任でその確立に万全を期す。
第1章 教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する -義務教育の使命の明確化及び教育内容の改善- (1)義務教育の使命の明確化 ア 義務教育の目標の明確化 ○ 義務教育については、憲法第26条において、「すべて国民は、法律の定めるとこ ろにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有すること」、また、「そ の保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」ことが規定されており、具体的 には、学校教育法において、保護者にその子女を満6歳から9年間、小学校、中学校 等に就学させる義務が課されており、市区町村には小・中学校を設置する義務が課さ れている。 ○ 義務教育の目的は、一人一人の国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成の二 点に集約することができ、この両者の調和のとれた教育を実現することが必要である。  このため、学校では、子どもたちに「確かな学力」として基礎的な知識・技能と思 考力、創造力などを育むとともに、「豊かな心」、「健やかな体」を培い、これらをバ ランスよく育成することが求められる。  このような義務教育の内容・水準は、ナショナル・スタンダードとして、全国的に 一定基準以上のものを定め、その実現が保障されることが必要である。 ○ 国際的に質の高い教育の実現のためには、義務教育の目的に照らし、今日のグロー バル社会、生涯学習社会において、義務教育段階の学校教育で具体的にどのような資 質能力を育成することが求められるのかを明らかにすること、すなわち、義務教育の 到達目標を明確化することが必要である。  このため、義務教育9年間を見通した目標の明確化を図り、明らかにする必要があ る。その内容としては、一人一人の子どもたちの個性や能力を伸ばし、生涯にわたっ てたくましく生きていく基礎を培うととともに、国家・社会の形成者として必要な資 質能力を養うということを基本に据え、今後、教育基本法の改正の動向にも留意しな がら、更に検討を進める必要がある。 ○ 国は、このような義務教育の目標が確実に実現されるよう、義務教育への十分な投 資を行い、教育条件の整備に万全を期すとともに、示した目標が実現されているかど うかについて評価し、それを踏まえ、義務教育の質の保証と更なる向上に取り組んで いく必要がある。 教育条件に関しては、義務教育の目標を実現する上で最も基本的な要素、すなわち、 教育を直接担う教職員、子どもたちが学ぶ場である学校施設、主たる教材である教科 書については、特に確実な条件整備が図られる必要がある。  また、義務教育の目標の実現状況の評価・検証について、今後、国として力を注い でいく必要がある。学力だけではなく、体力や道徳性の育成なども含め、地域性や教 師の指導方法などとの関係を含めて結果を検証し、それを学校の指導や国の施策の改 善に生かし、義務教育の質の保証・向上を図っていくことが必要である。 イ 学校の役割の重要性の再認識 ○ 学校は、子どもたちが集団生活をする中で、義務教育の目標が実現されるよう、発 達段階に応じて、教育内容を体系的に編成して提供し、組織的、計画的な教育を行う ことを、その基本的な役割としている。また、学校がその役割を果たす上で、家庭や 地域との連携・協力が大変重要である。 ○ 特に、平成8年7月の中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在 り方について(第一次答申)」以来、学校の役割を巡っては、学校、家庭、地域の連携、 とりわけ家庭、地域の教育力の充実が必要であるとの基本的な方向がとられ、それに 沿って、学校週5日制が導入され、子どもの居場所づくりなどの施策が推進されてい る。 ○ 学力の向上をはじめ子どもたちの健全な育成のためには、睡眠時間の確保、食生活 の改善、家族のふれあいの時間の確保など、生活習慣の改善が不可欠である。子ども の育成の第一義的責任は家庭にあり、教育における保護者の責任を明確化することが 必要である。  また、学校外の多様な学習活動について、情報提供や支援を行い振興を図っていく ことも有効である。  さらに、大人が家庭や地域で子どもの教育に十分役割を果たせるようにするために は、大人の働き方の問題がかかわっており、企業の協力も必要である。男女共同参画 社会において、職業を持つ母親が増えており、子育てと職業が両立できるようにする ための行政や企業の取組、父親の子育てへの参画のための環境作りも求められる。 ○ 他方、今日、朝食をとっていない子どもの問題など、家庭や地域の教育力が依然と して不十分な現状、あるいは今後更にそれらの教育力が低下する懸念、格差拡大の懸 念などを背景として、学校と家庭、地域との役割分担の在り方が改めて議論されてい る。  本審議会でも、家庭や地域の教育力を取り戻すことは難しく、学校への期待は大き いとの意見、一方で、本来家庭や地域が果たすべき機能を学校に持ち込むのではなく、 家庭や地域がその責任を果たすことが必要であるとの意見、家庭の教育力が低下して いるからといって学校の役割を拡大しても、子どもの心の満足は得られず、家庭の教 育力は学校で代替できる性質のものではないとの意見などが出された。学校週5日制 についても、両方の立場から様々な意見が出された。  このほか、家庭の支援のための福祉行政との連携の必要性、ゲーム・テレビの影響 などマスメディアを含め大人社会の在り方の問題なども意見として出された。また、 学校と、家庭・地域とが共同し、両方が教育力を高めるべきとの意見も出された。 ○ これらも踏まえると、学校週5日制についても、学校、家庭、地域の三者が互いに 連携し、適切に役割を分担し合うという基本的な考え方は今後も重要であり、それを 基本にしつつ、地方や学校の創意工夫を生かすことについて、今後さらに検討する必 要がある。その際、特に、学校、家庭、地域の協力・共同の取組をこれまで以上に強 化するための方策、土曜日や長期休業日の有効な活用方策等を更に検討する必要があ る。 ○ 工業化社会から知識基盤社会へと大きく変化する21世紀においては、単に学校で 知識・技能を習得するだけではなく、知識・技能を活かして社会で生きて働く力、生 涯にわたって学び続ける力を育成することが重要である。  そのためにも、21世紀の学校は、保護者や地域住民の教育活動や学校運営への参 画等を通じて、社会との広い接点を持つ、開かれた学校、信頼される学校でなければ ならない。 (2)教育内容の改善 ア 基本的な理念・目標 ○ 「ゆとり」の中で「生きる力」をはぐくむことを理念とした現行の学習指導要領に ついては、実施されて3年以上が経過しており、そのねらいは十分達成されたのかを、 しっかりと検証していく必要がある。 ○ 現行の学習指導要領の学力観について、様々な議論が提起されているが、基礎的な 知識・技能の育成(いわゆる習得型の教育)と、自ら学び自ら考える力の育成(いわ ゆる探究型の教育)とは、対立的あるいは二者択一的にとらえるべきものではなく、 この両方を総合的に育成することが必要である。  これからの社会においては、自ら考え、頭の中で総合化して判断し、表現し、行動 できる力を備えた自立した社会人を育成することがますます重要となる。 したがって、基礎的な知識・技能を徹底して身に付けさせ、それを活用しながら自 ら学び自ら考える力などの「確かな学力」を育成し「生きる力」をはぐくむという、 基本的な考え方は、今後も引き続き重要である。 ○ 他方、子どもたちの学力の現状については、昨年12月に公表された国際的な学力 調査の結果から、成績中位層が減り、低位層が増加していることや、読解力、記述式 問題に課題があることなど低下傾向が見られたところである。  また、本年4月に公表された国立教育政策研究所の教育課程実施状況調査の結果か らは、国語の記述式の問題について正答率が低下するなどの課題が見られた。  しかし、同調査からは、学校における基礎的事項を徹底する努力等、学力向上に向 けた取組による一定の成果も現われ始めている。一方、学習意欲、学習習慣・生活習 慣などは、若干の改善は見られるが、引き続きの課題である。 このような子どもたちの学力の状況を踏まえると、現行の学習指導要領については、 基本的な理念に誤りはないものの、それを実現するための具体的な手立てに関し、課 題があると考えられる。 ○ 以上のことを踏まえつつ、学習指導要領の見直しに当たっては、   ・「読み・書き・計算」などの基礎・基本を確実に定着させ、教えて考えさせる教 育を基本として、自ら学び自ら考え行動する力を育成すること   ・将来の職業や生活への見通しを与えるなど、学ぶことや働くこと、生きることの 尊さを実感させる教育を充実し、学ぶ意欲を高めること   ・家庭と連携し、基本的な生活習慣、学習習慣を確立すること   ・国際社会に生きる日本人としての自覚を育てること などを重視する必要がある。 イ 学習指導要領の見直し ○ 前項で述べた基本的な考え方のもとに、以下のような点について、教育内容の改善 を図る必要がある。 ○ 義務教育の目標を明確化するため、学習指導要領において、各教科の到達目標を明 確に示すことが必要である。  また、学習の評価についても、目標に照らして子どもたちのより確実な修得に資す るようにすることなど、具体的な評価の在り方について今後検討が必要である。 ○ 学習指導要領は、すべての児童生徒に対して指導すべき内容を示す基準であり、学 校においては、必要がある場合には、これに加えて指導することができるものである。 国民として共通に学ぶべき学習内容を明確に定めた上で、学校ができるだけ創意工夫 を生かして教育課程を編成できるようにすることが求められる。 ○ 国語力はすべての教科の基本となるものであり、その充実を図ることが重要である。 また、科学技術の土台である理数教育の充実が必要である。このため、全体の見直し の中で、それらの授業時数の在り方について検討する必要がある。また、グローバル 社会に対応し、小学校段階における英語教育を充実する必要がある。具体的な実施方 法については専門的な検討が必要である。さらに、社会のIT化に対応し、学校の情 報環境を整備し、情報リテラシーを高める教育を充実することも重要である。 ○ 総合的な学習の時間については、大きな成果を上げている学校がある一方、当初の 趣旨・理念が必ずしも十分に達成されていない状況も見られる。 また、義務教育に関する意識調査の結果によると、総合的な学習の時間については、 全体として評価は高いが、小学校と中学校とでは教師、保護者、子どもの意識や評価 に差があることが明らかになった。  思考力、表現力、知的好奇心などを育成する上で総合的な学習の時間の役割は今後 とも重要であるが、同時に、授業時数や具体的な在り方については、各教科との関係 を明確化するなど改善を図ることが適当である。その際、全国的に一律に定めるのか、 学校の裁量による弾力的な取扱いができるようにするのかなどを考慮する必要があ る。  また、学習が効果的に行われるよう、学校に対する支援策を充実することが必要で ある。さらに、総合的な学習の時間の充実のためには、学校外の人材の協力や地域と の連携が重要である。 ○ 学校図書館は、子どもたちの読書活動や主体的な学習を支えるために欠くことので きないものであり、その充実を図る必要がある。その際、司書教諭や学校図書館を担 当する職員の役割が更に重要になることから、それらの充実を図る必要がある。 ○ 指導方法については、従来の一斉指導の方法も重視することに加えて、習熟度別指 導や少人数指導、発展的な学習や補充的な学習などの個に応じた指導を積極的かつ適 切に実施する必要がある。これらの指導形態における指導方法の確立が望まれる。 ○ 教科書、教材の質、量両面での充実も必要である。特に、教科書については、義務 教育の質の向上を図る上で主たる教材として重要な役割を果たすものであり、子ども たちが学習内容について十分に理解を深め、基礎・基本を確実に身に付けられるよう 工夫され、かつ、特色ある教科書が提供されることが必要である。 ○ 子どもたちの健やかな心と体の育成も重要な課題である。学校生活を通じて社会性 や集団性を育成すること、健康で安全に生活できる能力を身に付けさせること、子ど もたちの創造力や体力をはぐくむ教育活動の充実を図ることが必要である。 ウ 学習到達度・理解度の把握のための全国的な学力調査の実施 ○ 各教科の到達目標を明確にし、その確実な修得のための指導を充実していく上で、 子どもたちの学習の到達度・理解度を把握し検証することは極めて重要である。客観 的なデータを得ることにより、指導方法の改善に向けた手がかりを得ることが可能と なり、子どもたちの学習に還元できることとなる。このような観点から、子どもたち の学習到達度・理解度についての全国的な学力調査を実施することが適当である。な お、実施に当たっては、子どもたちに学習意欲の向上に向けた動機付けを与える観点 も考慮しながら、学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必 要である。 ○ 具体的な実施の方法、実施体制、結果の扱い等について更に検討する必要がある。 その際には、自治体や学校が全国的な学力状況との関係でそれぞれの学力状況を把握 することにより、教育の充実への取組の動機付けとなることが重要な視点であると考 えられる。 ○ また、併せて、収集・把握する調査データの取扱いに慎重な配慮をしつつ地域性、 指導方法・指導形態などによる学力状況との関係が分析可能となる方法を検討する必 要がある。なお、学力調査の調査内容に関しては、知識・技能を実生活の様々な場面 などに活用するために必要な思考力・判断力・表現力などを含めた幅広い学力を対象 とすることが重要である。 エ 関連する課題 ○ 小・中・高等学校の各学校段階を通じて、自然体験、職場体験、就業体験(インター ンシップ、デュアルシステム、奉仕体験などの体験活動を計画的・体系的に推進す) る必要がある。ニートやフリーターの問題が指摘される中、キャリア教育の推進が求 められており、このような観点からも、苦労して成果をあげる体験は意義が大きい。 さらに、少子化の中で、兄弟姉妹の少なくなっている子どもたちが年齢や学年、学 校種を超えて交流する機会や、自然の中での長期の集団宿泊体験の機会などを拡大す ることが必要である。 ○ 家庭教育や幼児教育との連携を図り、基本的な生活習慣を確立し、学ぶ意欲を高め るため、幼児教育と小学校教育との連携を図ることが重要である。 ○ 教育活動の充実のためには、子どもたちが過ごす学校の規模が適正であることも必 要と考えられる。 ○ 義務教育において、個性的で特色ある教育機会を提供する上で、私立学校の役割は 重要である。平成14年には小学校及び中学校の設置基準が制定され、私立の小・中 学校の数も増加傾向にあるが、今後とも、公立学校、私立学校それぞれの充実が図ら れ、互いにその役割を発揮し合うことが重要である。 ○ 公立の小・中学校については、学力の育成の面で不安があり、これが理由となって 子どもを学習塾に通わせる保護者が少なくないとの指摘がある。また、このことが、 教育費の家計負担の増大や家庭の経済的な条件による教育格差の拡大につながってい ることも懸念されている。  義務教育においては、教育の機会均等や一定の水準確保が損なわれたり、無償制が 損なわれたりすることは許されない。公立義務教育諸学校は、子どもたちが成長発達 していく上で必須不可欠な学力、体力、道徳性を育成する責任を負っている。関係者 はこのことをしっかりと自覚し、基礎・基本の確実な定着、家庭と連携した学習習慣 の確立などに取り組む必要がある。 (3)義務教育に関する制度の見直し ○ 義務教育を中心とする学校種間の連携・接続の在り方に大きな課題があることがか ねてから指摘されている。また、義務教育に関する意識調査では、学校の楽しさや教 科の好き嫌いなどについて、従来から言われている中学校1年生時点のほかに、小学 校5年生時点で変化が見られ、小学校の4~5年生段階で発達上の段差があることが うかがわれる。研究開発学校や構造改革特別区域などにおける小中一貫教育などの取 組の成果を踏まえつつ、例えば、設置者の判断で9年制の義務教育学校を設置するこ との可能性やカリキュラム区分の弾力化など、学校種間の連携・接続を改善するため の仕組みについて種々の観点に配慮しつつ十分に検討する必要がある。 ○ 少子化、家庭の教育力の低下などの状況の中で、幼児教育の充実、幼小連携の推進 に資するため、幼稚園への就園を一層推進し、そのための奨励事業を拡大する必要が ある。また、幼稚園の保育内容の改善充実や預かり保育の拡充、幼稚園と小学校の教 育課程の連携、幼稚園と保育所との連携、就学前の教育・保育を一体として捉えた一 貫した総合施設の実現などを図ることも重要である。 ○ 不登校への対応を考えるに当たっては、不登校児童生徒の減少に成功した学校の取 組例を参考にすることも重要である。さらに、不登校等の児童生徒について、一定の 要件のもとで、フリースクールなど学校外の教育施設での学修を就学義務の履行とみ なすことのできる仕組み等について検討することも求められる。 ○ 特別支援教育について、障害の種別ごとの盲・聾・養護学校を、障害の重度・重複 化に対応し、小・中学校等を支援するセンター的機能をもつ特別支援学校に転換する こと、また、小・中学校等において、特別支援教育の体制を整備し、等LD、ADHD の児童生徒への支援を充実することが必要である。 ○ このほか、幼稚園や高等学校を義務教育の対象とするなど義務教育の年限を延長す べきとの意見、義務教育への就学年齢を引き下げ5歳児からの就学とすべきとの意見 なども出されたが、これらについては、学校教育制度全体の在り方との関係など慎重 に検討すべき点があること、義務教育に関する意識調査の結果ではこれらの事項につ いて賛成する割合が全体として低かったことなども踏まえ、今後引き続き検討する必 要がある。
第2章 教師に対する揺るぎない信頼を確立する -教師の質の向上- (1)あるべき教師像の明示 ○ 人間は教育によってつくられると言われるが、その教育の成否は教師にかかってい ると言っても過言ではない。国民が求める学校教育を実現するためには、子どもたち や保護者はもとより、広く社会から尊敬され、信頼される質の高い教師を養成・確保 することが不可欠である。 ○ 優れた教師の条件には様々な要素があるが、大きく集約すると次の3つの要素が重 要である。 ① 教職に対する強い情熱  教師の仕事に対する使命感や誇り、子どもに対する愛情や責任感などである。  また、教師は、変化の著しい社会や学校、子どもたちに適切に対応するため、 常に学び続ける向上心を持つことも大切である。 ② 教育の専門家としての確かな力量  「教師は授業で勝負する」と言われるように、この力量が「教育のプロ」のプ ロたる所以である。この力量は、具体的には、子ども理解力、児童・生徒指導力、 集団指導の力、学級作りの力、学習指導・授業作りの力、教材解釈の力などから なるものと言える。 ③ 総合的な人間力  教師には、子どもたちの人格形成に関わる者として、豊かな人間性や社会性、 常識と教養、礼儀作法をはじめ対人関係能力、コミュニケーション能力などの人 格的資質を備えていることが求められる。また、教師は、他の教師や事務職員、 栄養職員など、教職員全体と同僚として協力していくことが大切である。 (2)信頼される教師の養成・確保 ア 基本的な考え方 ○ 教師の質の向上のためには、養成、採用、研修、評価等の各段階における改革を総 合的に進める必要がある。これらの改革に当たっては、教師を励ますような方向で進 めるとともに、教職員の処遇の改善が図られるなど、教職や学校が魅力ある職業、職 場となるようにすることが重要である。  教職が魅力あるものとなるためには、教職員の地位や処遇が安定したものであって 安心して子どもたちの教育に取り組めることは特に重要であり、資質能力を備えた教 職員を安定的に確保するための確実な条件整備が欠かせない。  そうした土台と合わせて、以下に述べるように、教員養成・免許制度の改革や教員 評価の充実等により、教師が常に自己研鑽に努める環境整備が必要である。 ○ 現在の教師の年齢構成を見ると、大量採用期の40歳代から50歳代前半の層が多 くなっており、今後、この世代が退職期を迎えることになることから、量及び質の両 面から優れた教師を養成・確保することに十分留意する必要がある。特に、このよう な時期こそ、養成段階における教職課程の改善・充実を図ること、採用段階でより優 れた教師を確保するための採用選考方法の工夫・改善を図ることは極めて重要とな る。 ○ 教師の質の向上のためには、職場の同僚同士のチームワークを重視し、全員のレベ ルを向上させる視点と、個々の教師の能力を評価し、向上を図っていく視点の両方を 適切に組み合わせることが重要である。その際には、校長のリーダーシップ及び学校 を支える教育委員会の役割が重要である。 イ 教員養成・免許制度の改革 ○ 一般大学学部と教員養成系大学学部とが、それぞれの特色を発揮しつつ教員養成を 行う「開放制」の原則は、幅広い視野と高い専門的知識を兼ね備えた人材を広く教育 界に求める上で意義があり、今後とも尊重する必要がある。  また、子どもの人格形成にかかわる教師には総合的な人間力が求められることを踏 まえ、教員養成を担う大学においては、哲学、倫理学、歴史学等の人文科学や基礎科 学等を幅広く履修し、広く豊かな教養を身に付けた人材を育成することが求められる。  一方、国際的に質の高い教育を実現するためには、質の高い教師が養成されるよう、 大学における教員養成の質の維持・向上を図る必要がある。また、教員免許状につい ても、教師としての資質能力を確実に保証するものとなるようにする必要がある。 ○ 大学での養成段階は、教師として最小限必要な資質能力を身に付けさせる段階であ り、学校の実態やニーズも踏まえた資質能力の育成を含め、カリキュラム編成や成績 評価の改善・充実を図ることが重要である。また、(1)で述べたようなあるべき教 師像に示された教師を養成するという使命の重大さにかんがみ、教職課程認定の際の 審査の在り方や、外部機関等が教職課程を事後評価する仕組みについても検討する必 要がある。 ○ 高度な専門性と実践的な指導力を有する教師の養成や、現職教師の再教育の充実を 図っていくため、学部段階における教員養成の着実な改善・充実とともに、とりわけ 大学院段階における教員養成・再教育の格段の充実を図ることが必要である。このた め、学校の様々な課題に即した実践的な教育を高度なレベルで行う教員養成分野にお ける専門職大学院制度を創設する方向で検討することが適当である。その際には、現 行の大学院修士課程との関係や、社会人を含めた幅広い分野からの入学者の受入れ等 について検討する必要がある。 ○ 教師が、国民や社会から尊敬と信頼を得られるような存在となるためには、教員免 許状が、教職生活の全体を通じて、教師として必要な資質能力を確実に保証するもの となるようにする必要がある。このため、まず、免許状の授与の段階で、大学で養成 すべき教師として必要な資質能力を確実に保証するものとなるよう、教員免許制度の 在り方について見直すことが必要である。 ○ また、教員免許状を取得した後も、社会状況の変化等に対応して、その時々で求め られる教師として必要な資質能力が確実に保持されるよう、定期的に資質能力の必要 な刷新(リニューアル)を図ることが必要であり、このための方策として、教員免許 更新制を導入する方向で検討することが適当である。なお、我が国の教師の指導力が 高いことについて正当な評価がなされないまま、教師に対する不信感のみから教員免 許更新制を導入するのであれば、教師の意欲を喪失させる恐れがある。このため、教 師の意欲を高める視点が必要であり、教員免許更新制の導入により、教師への人材登 用の途を狭めることや、教師の身分を不安定にしたり、過剰な負担感を与え教職の魅 力を低下させることのないよう留意する必要がある。 ウ 採用、現職研修の改善・充実 ○ 採用や初任者研修、10年経験者研修等の現職研修を通じて、実力ある教師の確保 ・育成を図ることが必要である。  採用については、教師としての確かな指導力や総合的な人間力を見極めるため、人 物評価を一層重視するとともに、大学の成績やボランティア等の諸活動の実績を評価 する選考方法の改善を進めるなど、採用段階でより優れた教師を確保するための積極 的な工夫・改善が必要である。また、今後、大量採用時代を迎えることが見込まれる ため、民間企業経験者や退職教員等、多様な人材を登用するための工夫・改善も必要 である。 ○ 研修については、校内研修や任命権者等が実施する研修といった体系的な研修と教 師の主体性を重視した自己研修の双方の充実が必要である。また、国として、各地域 において中核的な役割を担う教師等を一堂に集めて行う研修や、喫緊の重要課題に関 する研修について、今後とも、一層の充実を図るとともに、都道府県教育委員会等に 対する指導・助言・援助の機能も一層充実・強化する必要がある。研修の在り方につ いては、講義形式だけでなく、実践的な指導力を向上させるとともに、内容・方法の 工夫・改善を図ることが必要である。また、大学と教育委員会や学校との一層の連携 を図っていくことが重要である。 ○ 教員養成・免許制度の改革が検討される中で、初任者研修や10年経験者研修等に ついては、これまでの実績を検証し、研修内容・方法や受講者の評価の在り方も含め、 一層の改善・充実を図ることが必要である。 ○ 教師の優れた指導実践を蓄積し、他の教師に継承していくことで、教師全体の指導 力の向上を図ることができるような方策についても検討する必要がある。 エ 教員評価の改善・充実 ○ 学校教育や教師に対する信頼を確保するために、教員評価への取組が必要である。 教師の評価は、民間企業で行われるような成果主義的な評価はなじみにくいという教 師の職務の特殊性等に留意しつつ、単に査定をするのではなく、教師にやる気と自信 をもたせ、教師を育てる評価であることが重要である。 ○ 教員評価に当たっては、主観性や恣意性を排除し、客観性をもたせることが重要で あり、教師の権限と責任を明確にし、それに基づいて行うことが効果的である。 ○ 優れた教師を顕彰し、それを処遇に反映させたり、教師の表彰を通じて社会全体に 教師に対する信頼感と尊敬の念が醸成されるような環境を培うことが重要である。 ○ 高い指導力のある優れた教師を位置づけるものとして、教育委員会の判断で、スー パーティーチャーなどのような職種を設けて処遇し、他の教師への指導助言や研修に 当たるようにするなど、教師のキャリアの複線化を図ることができるようにする必要 がある。 ○ 多くの教師は、教育活動や自己研鑽に熱心に努めているが、一方で、熱意や指導力 の不足、必要な人格的資質の欠如など、問題のある教師がいることも事実である。安 心し、信頼して子どもを託すことのできる学校を実現するためには、これら問題のあ る教師に対し毅然と対処することが重要である。また、各教育委員会に設置されてい る相談窓口を通じ、教師に関する保護者の意見や苦情に対応していくことが必要であ る。 オ 多様な人材の学校教育への登用 ○ 優れた知識・技能と社会経験を持つ学校外の多様な人材を学校教育に積極的に登用 していくことは、子どもたちに実社会と触れる機会を与え、社会とのかかわり方を身 に付けさせるとともに、学校の活性化につながるものであり、有意義である。  このため、特別非常勤講師制度や特別免許状制度を積極的に活用したり、学校ボラ ンティアとして多様な外部人材の協力を得ることが重要である。 ○ 多様な人材の登用に当たっては、優れた指導力を有する退職教員を含む教職経験者 や企業等において、種々の専門的な知識・技能を有する職業人、教員志望の学生など、 地域や学校の実情に応じて様々な人材に協力を得る工夫が考えられる。  その際、例えば、学校が中心となって組織を作ったり、活動の場を積極的に提供す ることなどによって、学校の教育活動にこれらの人材の協力を得ていくことが重要で ある。 ○ 校長や教頭といった管理職に人を得ることは肝要である。教頭については、管理職 として民間企業等で培った経営感覚を生かすことが期待されることから、校長と同様 に民間人などを登用できるよう、資格要件を緩和することが適当である。
第3章 地方・学校の主体性と創意工夫で教育の質を高める        -学校・教育委員会の改革- (1)学校の組織運営の見直し ア 学校の自主性・自律性の確立 ○ 学校が主体的に教育活動を行い、保護者や地域住民に直接説明責任を果たしていく ためには、学校に権限を与え、自主的な学校運営を行えるようにすることが必要であ る。  現状でも、校長の裁量で創意工夫を発揮した特色ある教育活動を実施することが可 能であるが、人事面、予算面では不十分な面がある。  権限がない状態で責任を果たすことは困難であり、特に、教育委員会において人事、 学級編制、予算、教育内容等に関し学校・校長の裁量権限を拡大することが不可欠で ある。 ○ 教職員の人事について校長の権限を拡大することが必要である。人事権を有する教 育委員会において、例えば、教員の公募制やFA(フリー・エージェント)制などを 更に推進することが求められる。 ○ 学級編制を含めた指導方法の工夫改善については、各学校がそれぞれの実情に応じ て個別に判断することが適当である。このため、各学校が個別に学級編制を行うなど 学校の判断が尊重されるよう現行の学級編制の仕組みを見直す必要がある。 ○ 教育内容に関する学校の裁量を拡大するとともに、予算面で、学校の企画や提案に 基づいた予算の配分や、使途を特定しない裁量的経費の措置など、学校裁量の拡大を 更に進めることが必要である。このため、学校の設置者である教育委員会においては、 教育委員会規則の改善や学校予算の配分方法の工夫などを一層進めることが求められ る。 ○ 以上のように、学校の裁量を拡大し、地域や学校の特色を生かした多様で個性的な 教育が展開されるようにするためには、その土台として、確固とした教育条件が整備 されていることが不可欠である。次章で述べるように、教職員、学校施設、教科書と いう教育の最も基本的な条件の整備は、特に確実に行われることが必要である。 ○ 学校運営を支える機能の充実のため、教頭の複数配置を引き続き推進したり、主任 が機能するよう更にその定着を図ることが重要である。それとともに、今後、管理職 を補佐して担当する校務をつかさどるなど一定の権限を持つ主幹などの職を置くこと ができる仕組みについて検討する必要がある。  また、事務の共同実施や共同実施組織に事務長を置くことを検討するなど、学校へ の権限移譲を更に進めるための事務処理体制の整備を進めることが必要である。 ○ 機動的な学校運営のため、前述の教頭の複数配置や主任制、主幹制なども活用しつ つ、校長が、その権限と責任において決定すべき事項と、職員会議等を有効に活用す ることがふさわしい事項とを区別して学校運営に当たることが重要である。  これによって、学校の意思決定が、校長のリーダーシップの下に、高い透明性を確 保し、公平・公正に行われることが重要である。また、決定した事項についての教育 委員会や校長等の説明責任が常に意識されることが重要である。 ○ 教師が以前に比べ多忙になり、子どもと触れ合う時間が確保できないという指摘が ある。今後、学校が処理する事務・業務の見直しや、国・都道府県・市区町村が行う 調査等の精選により、学校の負担軽減を図ることが必要である。 イ 学校・地方自治体の取組の評価 ○ 学校や地方自治体の裁量を拡大し主体性を高めていく場合、それぞれの学校や地方 自治体の取組の成果を評価していくことは、教育の質を保証する上でますます重要と なる。また、近年の学校教育の質に対する保護者・国民の関心の高まりに応えるため にも、学校評価を充実することが必要となっている。 ○ 現在、学校評価は、学校が教育活動の自律的・継続的な改善を行うとともに「開、 かれた学校」として保護者や地域住民に対し説明責任を果たすことを目的として、自 己評価を中心に行われている。また、この評価は、教職員のほか、保護者、地域住民、 学校評議員などが参加して行われており、これらの者が情報や課題を共有しながら学 校の改善を進めていく上で重要な役割を果たしている。その一方で、各学校における 実施内容のばらつきや、評価結果の公表が進んでいないなどの課題も見られる。 ○ 今後、更に学校評価を充実していくためには、学校・地方自治体の参考に資するよ う大綱的な学校評価のガイドラインを策定するとともに、現在、努力義務とされてい る自己評価の実施とその公表を、現在の実施状況に配慮しつつ、今後全ての学校にお いて行われるよう義務化することが必要である。 ○ また、自己評価の客観性を高め、教育活動の改善が適切に行われるようにしていく ためには、公表された自己評価結果を外部者が評価する方法を基本として、外部評価 を充実する必要がある。設置者である市区町村の教育委員会は、各学校の教育活動を 評価するとともに、学校に対する支援や条件整備など自らの取組について評価し、ど のような対応が必要なのかを明らかにしていくことが必要である。国は、評価に関す る専門的な助言・支援を行うとともに、第三者機関による全国的な外部評価の仕組み も含め、評価を充実する方策を検討する必要がある。 ○ なお、学校評価の実施に当たっては、学校の序列化や過度の競争、評価のための評 価といった弊害が生じないよう、実施や公表の方法について十分に配慮する必要があ る。また、評価に関する事務負担を軽減するための工夫や支援も重要である。全国的 な外部評価の仕組みの検討に当たっても、地方自治体の役割と国の役割を十分整理し ながら、我が国の事情に合った方法を開発していく必要がある。 ウ 保護者・地域住民の参画の推進 ○ 地域に開かれ信頼される学校を実現するためには、保護者や地域住民の意見や要望 を的確に反映させ、それぞれの地域の創意工夫を生かした特色ある学校づくりを進め ることが不可欠である。それと同時に、保護者や地域住民が、学校に要求するばかり でなく、学校とともに地域の教育に責任を負うとの認識のもと、学校運営に積極的に 協力していくことも求められる。学校が責任を果たすことは当然であるが、これから の時代に求められる教育の実現のため、保護者や地域住民には、学校教育に積極的に 参画することが重要であるという意識を持つことが期待される。 ○ このため、学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)や学校評議員制度の積 極的な活用を通じて、保護者や地域住民の学校運営への参画を促進する必要がある。 その際には、校長との権限関係を明確にすることや、委員に適材を得ることが必要で ある。また、国や地方自治体は、保護者や地域住民の学校運営への参画に関する取組 の成功例について幅広く情報提供を行うなど、その促進のための支援策を講じること が必要である。 ○ 学校運営への保護者や地域住民の参画は、学校運営が透明性を高め、公平・公正に 行われるようにするとともに、教育活動等についての評価及び公開を通じ十分な説明 責任を果たすという民主主義のルールに基づいて行われるようにする上で重要な意義 を有するものである。 ○ 学校施設の地域への開放や余裕教室の有効利用により、学校が地域住民の活動の場 となり、学校が拠点の一つとなって地域づくりが進められていくことも必要である。 (2)教育委員会制度の見直し ア 教育委員会の設置の在り方 ○ 教育委員会制度の在り方については、平成16年3月の諮問「地方分権時代におけ る教育委員会の在り方について」以来、地方教育行政部会において審議が行われ、平 成17年1月に部会まとめが出されている。 ○ 教育委員会制度は、首長からの独立、合議制、レイマン・コントロールにより、政 治的中立性の確保、継続性・安定性の確保、地域住民の意向の反映を図るものとして 我が国に導入され、地方教育行政の基本的な制度として定着している。 ○ 一方、現在の教育委員会の現状については、会議が形骸化している、国の示す方針 に従う縦割りの集権型の仕組みになっている、合議制のため責任の所在が不明確とな っている、迅速な意思決定ができない、などの問題が指摘されている。 これらを理由として、教育委員会の設置を地方自治体の選択に委ねるべきとの意見、 その際の代替措置として教育に関する審議会を設置するという意見、特に小規模な町 村でその必要があるなどの意見が出された。 ○ しかし、教育行政における政治的中立性や継続性・安定性の確保、地方における行 政執行の多元化(首長に権限が集中することへの危惧、首長が広範な事務を処理す) る中で専門の機関が教育を担当することのメリット(安定した行政執行、義務教育) 実施の確実な担保などの重要性を踏まえると、教育委員会の設置は選択制にすべきで はなく、必要な運用や制度の改善を図ることが必要であると考えられる。特に、今後、 後述するように、教職員人事や学級編制など義務教育に関する市区町村の権限と責任 が拡大することを考慮すると、市区町村の教育行政における政治的中立性の確保や教 育行政の専門性の発揮、行政執行の多元化等の要請は一層強まり、教育委員会の機能 の強化が求められると考えられる。また、指摘される問題の多くは、首長や議会の在 り方に起因するものであり、教育委員の選任などについて首長や議会が本来期待され ている権能を行使すれば解決できるとの意見も出された。 ○ したがって、教育委員会制度の今後の在り方については、全ての地方自治体に設置 することなど現在の基本的な枠組みを維持しつつ、それぞれの自治体の実情にあわせ た行政が執行できるよう制度をできるだけ弾力化するとともに、教育委員会の機能の 強化、首長と教育委員会の連携の強化や教育委員会の役割の明確化のための改善を図 ることが適当である。 ○ なお、教育委員会の機能の強化については、平成17年1月の地方教育行政部会の 部会まとめにおいて様々な方策が指摘されているところであり、特に、教育委員に適 材を確保するための選任の改善、教育委員会が責任を持って意思決定できるようにす るための教育委員会会議の工夫や公開、住民の意向や教育現場の実情の把握、指導主 事など事務局体制の強化、市町村教育委員会の事務処理の広域化等を進めることが重 要である。 イ 教育委員会の組織の弾力化 ○ 教育委員会の組織や運営は、自治体の種類や規模等にかかわらずほぼ一律のものと なっている。しかし、自治体は人口規模や行政資源が多様であることから、その状況 に応じ、例えば委員の数などについて各自治体が選択できるよう弾力化することが適 当である。また、前項で述べたように、教育委員の選任方法や教育委員会会議の運営 等について、各自治体が地域の実情に応じ主体的に工夫改善することが重要である。 ウ 首長と教育委員会の権限分担の弾力化 ○ 教育委員会は、学校教育のほか、社会教育、文化、スポーツ、生涯学習といった幅 広い事務を所掌している。今後、地域づくりの総合的な推進をはじめ、他の行政分野 との連携の必要性、さらには政治的中立性の確保の必要性等を勘案しつつ、首長と教 育委員会との権限分担をできるだけ弾力化していくことが適当である。このため、教 育委員会の所掌事務のうち、文化(文化財保護を除く)、スポーツ、生涯学習支援に 関する事務(学校教育・社会教育に関するものを除く)は、地方自治体の判断により、 首長が担当することを選択できるようにすることが適当である。また、高等教育機関 である高等専門学校については、首長が所管できるようにすることが適当である。 ○ 首長は、現行制度でも、教育関係の予算の編成・執行の権限を持つなど、教育行政 に大きな責任を負っているところであり、教育委員と首長との協議会の開催など、首 長と教育委員会との連携を強化していくことが重要である。特に、自治体の判断で、 文化、スポーツ、生涯学習支援に関する事務を首長が担当することとする場合、首長 と教育委員会との連携を十分図る必要がある。 エ 教育委員会と教育長との関係 ○ 教育委員会の使命は、地域の教育課題に応じた基本的な教育の方針・計画を策定す るとともに、教育長及び事務局の事務執行状況を監視・評価することであることを制 度上明確化する必要がある。また、教育委員会と教育長及び事務局が適度な緊張関係 を保ちながら教育事務を執行する体制を実現することが必要である。このため、教育 長が教育委員の中から教育委員会によって選ばれるような現在の教育長の位置づけ・ 選任方法は見直すことについて、今後引き続き検討することが適当である。 (3)国と地方、都道府県と市区町村の関係・役割 ア 基本的な考え方 ○ 義務教育の実施にあたって、ナショナル・スタンダードを設定しそれが履行される ための諸条件を担保する観点から、国は、学校制度の基本的な枠組みの制定や教育内 容に関する全国的な基準の設定を行い、その上で、地方は、それぞれの地域の実情に 応じ、主体的に教育の質を高め、ローカル・オプティマム(それぞれの地域において 最適な状態)を実現するとともに、国、都道府県、市区町村それぞれが必要な財源措 置を行っていくことが必要である。 ○ 教育行政における国、都道府県、市区町村の関係・役割については、平成10年の 本審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」において整理がなされ、それ をもとに、教育長の任命承認制度の廃止や、国や都道府県の行う指導、助言、援助等 の在り方の見直し等、教育行政における地方分権改革が行われた。 ○ 現在、国は、教育制度の枠組みの設定や、学習指導要領等の基準の制定、地方自治 体に対する財源保障を行っている。また、都道府県は、教職員の給与負担をするとと もに、広域で人事を行い、市区町村は、小・中学校を設置しその管理運営に当たるな ど義務教育の直接の実施主体となっている。  義務教育については、地方自治体が学校の設置管理を行うなど直接的な責任を負っ ている一方、教育の機会均等や全国的な教育水準の維持向上といった義務教育の根幹 の保障については国が責任を負っている。 ○ 義務教育については、今後の分権改革の重点は、都道府県から市区町村への分権、 教育委員会から学校への権限移譲であると考えられる。  地方の中でも、義務教育の直接の実施主体である市区町村や学校に権限の移譲を進 めるとともに、市区町村が設置者としてその地域の状況に応じて独自の教育方針や基 準を設定するなど、地域の実情に応じた教育を実現できるようにしていくことが必要 である。これに対応し、都道府県は、広域人事など市区町村間の調整や小規模市町村 に対する支援にその役割を一層重点化し、市区町村の自主性を尊重しつつ、義務教育 の質の保証・向上に責任を果たしていくことが求められる。  このように、都道府県から市区町村へ権限を移譲した上で、国、都道府県、市区町 村が協力しながら、その責任と役割を果たしていくことが重要である。 イ 地方の主体性を生かした教育行政の推進 ○ 教育行政に関しては、文部科学省、都道府県教育委員会、市区町村教育委員会の間 で、上意下達の中央集権的な行政になっており、地方の創意工夫を阻害しているとの 指摘がある。 ○ 義務教育の機会均等や水準確保などの根幹の保障は国の責任であり、その責任を果 たす上で、都道府県や市区町村に対し必要な指導・助言や援助を行うことは必要であ る。  一方、教育行政における国と地方の関係については、これまでも、指揮監督による 権力的な作用よりは、指導・助言や援助による非権力的な作用によって、地方の主体 的活動を促進することが基本となっており、今後も、この方針を重視していく必要が ある。  さらに、国の定める教育内容、教職員配置、学級編制などに関する基準を、できる 限り大綱化・弾力化したり、最低基準性を明確にするなど、地方の裁量を拡大するこ とが必要である。 ○ 地方の主体性により義務教育の質の向上を図るためには、その基盤となる財源保障 が安定的で確実であることが重要である。  義務教育費国庫負担制度が、地方や学校の創意工夫の発揮を妨げ、国からの指示待 ちの状態を招き、主体的に行政執行しようとする意識改革を阻害している、あるいは、 特色ある教育活動の実施や人材の活用、教材の開発などにおける地方の独自の取組を 阻害しているとの意見が少数ながら出された。しかし、現在も、学習指導要領や義務 標準法などの基準・法令を遵守した上で、地方の独自性を活かした取組を行うことが 期待されている。次章で述べるように、現在認められている以上に地方独自の創意工 夫を活かすためには、義務教育費国庫負担制度に基づく確実な財源保障の下で、学習 指導要領や義務標準法などの基準・法令を地方の自由度を高める方向で見直すことが 必要である。 ○ 市区町村教育委員会や学校に対して、都道府県教育委員会から過度の関与が行われ ているとの指摘もある。義務教育に関しては、市区町村の権限と責任を拡大し、都道 府県教育委員会から、瑣末な部分にまで及ぶ指導の行き過ぎが行われないようにする ことが必要である。  さらに、義務教育の実施主体である市区町村の側において、教育委員会が教育行政 の責任ある担い手として、地域の教育課題に主体的に取り組むなど、市区町村教育委 員会の機能の強化を図る必要がある。また、首長が、教育委員への適材の選任など、 本来期待されている機能を果たし、市区町村教育委員会が自立し主体性を発揮するこ とが重要である。 ウ 市区町村への教職員人事権の移譲 ○ 現在、県費負担教職員の給与負担(給与の支出責任)と人事(任命)権は、基本的 に都道府県にあるが、例外的に政令指定都市については人事権が、中核市については 人事権のうち研修に関する実施義務のみが、都道府県から移譲されている。 ○ これについて、義務教育諸学校は、市区町村が設置し教職員も市区町村の職員であ りながら、給与負担と人事権が都道府県にあるため、県費負担教職員が地域に根ざす 意識を持ちにくくなっていること、また、より教育現場に近いところに権限をおろす べきであることなどから、人事権についても都道府県から義務教育の実施主体である 市区町村に移譲する方向が望ましいと考えられる。 ○ とりわけ、中核市については、既に研修実施義務が移譲されており、これに加えて 人事権全体についての移譲を求める意見が強かった。また、大都市周辺部等には、中 核市相当やそれに準ずる規模を有する市区も多いことなど、一定の規模を有する市区 町村についても人事権の移譲を求める意見があった。 ○ 一方、とりわけ町村には小規模なところも多く、給与や人事権の行使に伴う負担に は耐えられないとの意見や、中核市など大規模な市区町村抜きでの広域の人事異動は 考えられないなどの意見、また、県内に一又は複数の人口50万人程度の広域連合に よる「教育機構」を作るなどの意見があった。 ○ これらの意見を踏まえ、教職員の人事権については、市区町村に移譲する方向で見 直すことが適当である。  一方、現在の市区町村の事務体制で人事関係事務を処理できるか、離島・山間の市 町村を含めた広域で人材が確保できるかにも留意する必要がある。 このため、当面、中核市をはじめとする一定の自治体に人事権を移譲し、その状況 や市町村合併の進展等を踏まえつつ、その他の市区町村への人事権移譲について検討 することが適当である。 また、人事権の移譲に伴い、都市部と離島・山間部等が採用や異動において協力し、 広域で一定水準の人材が確保されるような仕組みを新たに設けることが不可欠であ る。  なお、教職員人事権を市区町村に移譲する場合には、その財源保障は安定的で確実 なものであることを前提に、人事権者と給与負担者はできる限り一致することが望ま しく、人事権移譲に伴う給与負担の在り方も適切に見直すことを検討する必要がある。 ○ さらに、人事権が移譲されない市区町村でも、現在、構造改革特別区域において行 われている市町村費負担教職員任用事業の全国化により、市区町村独自の教職員の任 用を可能とすることが適当である。 エ 教職員配置の改善と市区町村、学校への学級編制に係る権限の移譲 ○ 義務教育のナショナル・スタンダードを設定しそれが履行されるための諸条件を整 備する観点から、国が学級編制及び教職員配置についての基準を明確にすることは重 要であり、早急に次期定数改善計画を策定する必要がある。これにより、少人数教育 の一層の推進や、学習指導や特別支援教育の充実、養護教諭、栄養教諭、事務職員、 司書教諭の配置充実、外国人児童生徒への支援の充実など、今日的な教育上の課題に 迅速かつ適切に対応した教職員配置の改善を進める必要がある。 ○ その上で、今後は学校の判断により地域や学校の実情に合わせた指導形態・指導方 法や指導組織とするため、現行制度を見直し、学級編制に係る学校や市区町村教育委 員会の権限と責任を拡大する必要がある。  例えば、義務標準法による教職員の標準定数について都道府県ごとの算定から市区 町村ごとの算定に改めることや、学校や市区町村教育委員会の判断で学級編制が弾力 的に実施できるようにすることなど現行の学級編制の仕組みを見直す必要がある。 また、学校や市区町村教育委員会の判断で少人数学級編制を可能とすることができ るよう、これまで例外的な措置とされていた40人学級を下回る学級編制が自由に選 択できる制度とする必要がある。  その際、各都道府県に対し教育上の特別な事情に基づきさらに必要とされて加えら れる定数(いわゆる教職員定数の加配定数)について、その配分と運用ルールの見直 しを検討すべきである。
第4章 確固とした教育条件を整備する      -教育の質の向上、財源確保の確実性・予見可能性、地方の自由度の拡大- (1)教育条件整備に関する共通理解 ○ 義務教育を支える教育条件の整備に関しては、以下の2点を大きな前提として具体 的な在り方を考えていく必要がある。 ① 義務教育は、国全体を通じての最重要事項であること   ・ 義務教育は国全体を通じての最重要事項であり、その質の向上のため、国と地 方が協力して、教職員配置、設備・教材、学校の施設など教育を支える条件整備 を確固たるものとする必要がある。 ② 義務教育に必要な財源を確実に確保する必要があること   ・ 義務教育費は全ての予算において最優先すべき経費であり、教職員給与費をは じめとする必要な教育費は、確実に確保される必要がある。 ○ また、義務教育の質の向上のためには、学校の施設、設備・教材、教職員配置等の 条件整備が十分充実していることが肝要であり、特に、義務教育への投資の在り方に ついて、多くの委員から以下の意見が出された。   ・ OECDの調査によれば、1995年から2001年の6年間における公財政による教育費 支出の変化を国際的に比較すると、多くの国が教育費支出を伸ばしている中で、 我が国の公財政支出は微増にとどまっている状況にある。   ・ また、初等中等教育について、OECD平均(2001年)では対GDP比3.5%が公財政 支出に充てられているのに対して、我が国は2.7%にとどまっている。   ・ 今後とも我が国が教育立国としての地位を確保し続けるために、また、保護者 の経済的格差が子どもたちの教育環境の格差につながらないようにするために、 公財政支出を一層拡充する必要があると考える。   ・ また、教育に対する公財政支出の拡充のためには、公債発行対象経費である投 資的経費に比べて、消費的経費が大半を占める教育支出が増えにくい財政制度や 公財政支出構造の仕組みを見直すことが必要である。   ・ なお、公財政支出の拡充について、国民の理解を得るためには、教育の成果に ついての評価を行うことや、必要な効率化を図ることも併せて検討する必要があ る。 ○ さらに、教育条件の整備に関連しては、以下も重要である。   ・ 教育の分権改革を推進するため、教育内容、学級編制、人事、予算の執行等に ついて、できる限り市区町村や学校の裁量を拡大する必要がある。   ・ 地方・学校現場の裁量に委ねつつ、教職員配置の改善を通じて、少人数教育を 一層推進する必要がある。   ・ 教職員給与費は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関 する法律」(義務標準法)に基づいて算出される人数に対応して、所要額が確保 される必要がある。   ・ 学校の教材、図書等の整備や、司書の配置など、子どもたちの教育環境を充実 させる必要がある。   ・ 条件整備の状況を把握するための学校の評価制度の導入を検討する必要がある。 評価の具体的な実施方法については、学校の序列化などの弊害を生じさせないよ う十分な配慮が必要である。 ○ なお、費用負担の在り方を検討する際には、義務教育の経費の7割以上を占める教 職員人件費(給料・諸手当に、退職手当、共済費などを加えたもの)の将来の動向を 踏まえるべきであるとの観点から一定の前提条件の下に推計を行った。  これによると、平成16年度の公立義務教育諸学校の教職員人件費は5兆8900億円と 見込まれるが、今後、教職員の定期昇給や退職手当、共済費の負担の増大等のため、 教職員配置基準を現状のまま改善しない場合でも、平成18年度には6兆円を超え、平 成26年度には6兆3200億円とピークを迎えることが推測される(平成30年度には6兆 2000億円)。これに公立高等学校の分を加えると、教職員人件費の合計は、平成16年 度の8兆2400億円が、平成28年度には8兆8600億円(平成16年度比6200億円増)でピー クを迎え、平成30年度においても8兆8400億円となる。平成16年度から平成30年度ま での負担増の累積は6兆4300億円に達することが推測される。 (2)義務教育費国庫負担制度の在り方 ア 義務教育費国庫負担制度の概要とこれまでの経緯 ○ 現在、全国的な義務教育水準の維持向上と教育の機会均等を保障するため、公立義 務教育諸学校の基幹的職員の給料・諸手当に係る経費については都道府県が負担する こととされており(以下、これらの教職員を「県費負担教職員」という。)、国は都道 府県が負担する経費の二分の一を負担する義務を負うという「義務教育費国庫負担制 度」が設けられている。  この国庫負担制度を規定する「義務教育費国庫負担法」は、「学校教育の水準の維 持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」(人材確 保法)及び義務標準法と相まって、義務教育の水準確保の機能を果たすとともに、国 による義務教育費の最低保障の基礎をなしてきた。 ○ 教職員の確保と適正配置という目的を達成するため、義務教育費国庫負担制度にお いては、昭和15年の制度創設以来、義務教育の経費の大半を占める教職員給料と諸手 当を一貫して負担対象としている(終戦後の昭和25-27年度にシャウプ勧告により一 時的に廃止されたが、全国知事会からの要請もあり昭和28年度に復活)。  その間、国と地方の役割分担、国と地方の財政状況等を踏まえて、国庫負担の対象 の見直しが行われてきた。昭和18年度に旅費が、昭和23年度に退職手当が、昭和28年 度に教材費が、昭和31年度に恩給費が、昭和37年度に共済費が、それぞれ国庫負担の 対象として追加されている。その後、昭和60年度の旅費及び教材費の一般財源化、平 成元年度の恩給費の一般財源化等を経て、最近では平成15年度の共済費長期給付等の 一般財源化(平成16年度に所得譲与税による財源措置)、平成16年度の退職手当等の 一般財源化と税源移譲予定特例交付金による財源措置が講じられた。平成17年度には、 その年度限りの暫定措置として4,250億円の減額が行われ、減額相当分が税源移譲予 定特例交付金で措置されている。 ○ 平成16年度には、人件費のうち中核をなす給料と諸手当については、その二分の一 負担を根幹としつつ、国が総額を確保した上で地方の裁量を拡大する「総額裁量制」 が導入されている。  平成13年度から学級編制の弾力的運用が可能になったことにより、平成15年度には 30道府県で少人数学級が実施されていたが、総額裁量制の導入等により、その傾向が さらに進み、平成16年度には42の道府県に、平成17年度には45の道府県に広がってい る。 イ 地方案を活かす方策と義務教育の在り方 ○ 地方六団体「国庫補助負担金等に関する改革案」(平成16年8月)においては、義務 教育費国庫負担金に関し、「第2期改革(平成19-21年度)までにその全額を廃止し税 源移譲の対象とすることとした上で、第1期改革(平成16-18年度)においては、中 学校教職員の給与等に係る負担金を移譲対象補助金とする」とされている。  さらに、「併せて実施・検討すべき」事項として以下をあげている。   ・ 国は、義務教育における地方公共団体との適切な役割分担を踏まえ、その責務を 法律上明記するとともに、都道府県間において教育費の水準に著しい格差が生ずる ことのないよう法令に明記するなどの措置についても考慮すべきであること   ・ 地域の実態に即した義務教育の推進のため、運営全般について、小中学校の設置 者である市区町村の意向を十分に尊重するとともに、市区町村の義務教育に関する 権限と役割の拡大を推進すること   ・ 義務教育等に対する財源確保のため、企業から寄せられる教育・文化等に係る寄 付金について、非課税措置を拡大すること ○ なお、地方六団体案には、義務教育費国庫負担金の一般財源化への反対意見又は慎 重論に関する13都県の知事の意見が掲載されている。 ○ 平成16年11月の政府・与党の合意に基づき、中央教育審議会では、義務教育制度の 根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する方針の下、費用負担についての地方案を 活かす方策を検討するとともに、教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方につい て幅広く検討することとされている。そして、平成17年秋の中央教育審議会の答申を 得て、平成18年度において恒久措置を講ずることとされている。 ○ こうした経緯を受けて、本審議会において、地方六団体委員から義務教育費国庫負 担金に関して以下のような説明がなされた。   ・ 地方六団体は、平成18年度までの三位一体の改革として概ね3兆円規模の国庫補 助負担金改革の具体案を取りまとめるように政府から要請され、平成16年8月24日 に内閣総理大臣に「国庫補助負担金等に関する改革案」を提出している。   ・ 義務教育費国庫負担金の全額一般財源化により、地方が自主的・自立的な教育を 実施することを提案する。その際、平成18年度までの第1期改革においては中学校 教職員の給与等に係る負担金を一般財源化する。   ・ 地方案の提案の背景の一つは、平成5年の衆・参両議院における「地方分権推進 に関する決議」を契機にして、地方分権が時代の大きな流れとなり、平成12年の地 方分権一括法の施行により、義務教育に関する事務についても自治事務になったこ とがあげられる。   ・ また、昭和60年以降、文部科学省も、義務教育財源の一般財源化を推進している。 国の一方的な都合により、なし崩し的に、しかも必ずしも税源移譲を伴わない形で の一般財源化(税源移譲のない地方交付税の振替)よりも、税源移譲で義務教育財 源を確保する方が確実である。   ・ 政府・与党合意に沿って、地方案を活かす方策を検討するべきであり、地方自治、 住民自治を尊重し、地方を信頼する、財政力格差については地方交付税で対応する ということを前提にした上で、義務教育費国庫負担金を税源移譲した場合に、どの ような問題があるか、仮にあるとすれば、それをどう解決するのか、そういう方向 で議論する必要がある。 ○ 義務教育に関する事務が自治事務になったことについては、以下の観点から、自治 事務の在り方と費用負担は直接関係しないことに留意する必要がある。   ・ 地方分権一括法が地方分権の推進に果たした役割は評価されるべきであるが、公 立小・中学校の設置管理は、戦後一貫して市区町村の事務であり、地方分権一括法 の前後で、市区町村の事務ということが変わったわけではない。   ・ 「自治事務」とは、「法定受託事務」を除く様々な性格を有する事務の総称であ り、地方公共団体がどのような裁量をもつか、その処理に国がどの程度関与するか、 国と地方の経費負担の在り方をどうするかは、それぞれの事務の性格によって判断 されるものであることなどから、「自治事務」であることと、その費用を誰が負担 するかは直接には関係しない。   ・ 平成10年5月に閣議決定された地方分権推進計画において、地方公共団体の担う 事務に要する経費については、その地方公共団体が全額負担することが原則とされ ている。一方、同計画においては、真に国が義務的に負担を負うべきと考えられる 分野として義務教育があげられている。 ○ なお、平成17年度には1044市区町村(全国の市区町村の47%)の議会から義務教育 費国庫負担制度の堅持を求める意見書が提出されている(10月25日現在)。これは平 成16年度から通算すると全国の市区町村の65%に達する。 ○ 地方の意見に関して、三位一体の改革により地方が真に税源移譲を求めているのは、 配分に当たって国の裁量が大きく地方の主体性を阻害しているもの、国の補助基準に 合わせるために無駄な事業を招いているもの、国に陳情をして配分を求める必要があ るものなどであって、教職員給与費のための義務的経費である義務教育費国庫負担金 のようなものではないとの意見が出された。 ○ 政府・与党合意は、義務教育制度に関して、その根幹の維持と、国の責任の堅持を 大きな前提としており、中央教育審議会も、このことを審議の全体を通じて優先すべ き理念と位置づけている。  さらに、政府・与党合意は、費用負担についての地方案を活かす方策と、教育水準 の維持向上を含む義務教育の在り方の検討を中央教育審議会に求めている。これらの 検討は、「義務教育制度の根幹の維持と国の責任の堅持」という優先すべき理念の中 で行われる必要があり、中央教育審議会では、その前提で義務教育費国庫負担制度に 関する検討を行った。  義務教育費国庫負担制度の検討に当たっては、大きく3つの観点に着目した。 ウ 義務教育費国庫負担制度の検討に関する3つの観点からの議論の概要 【観点1:教育の質の向上】 ○ 義務教育の根幹である無償制、機会均等、水準の維持向上を具体的に保障するには、 地方が学校を設置管理し、国が学習指導要領により全国的な教育水準を明らかにした 上で、その水準を維持・向上するための資質・能力を備えた教職員を確保することが 必要である。  多くの委員から、義務教育費国庫負担制度は、こうした教職員を確保するための最 も確実な財源保障制度であり、我が国の質の高い義務教育を支える前提となっている との意見が出された。 ○ 地方六団体委員からは、義務教育費国庫負担金の一般財源化による教育上の効果と して、①公立小・中学校が地方の税によって運営されることになると、住民は自分の 納めた税の使途である学校をより厳しい目で見ることとなる、②児童生徒・保護者だ けでなく、地域全体への責任を実感することにより、教職員の自覚が高まり、ひいて は教師の質の向上にもつながる、との意見が出された。  また、地方六団体委員から、国庫負担制度と義務教育の根幹を維持するということ は関係ない、現在、義務教育費において国が負担している割合が3割にも満たず、こ れを税源移譲して一般財源化してもなんら影響はない、国庫負担金制度を廃止しても、 税源移譲と地方交付税により確実に財源を確保できるのであるから、義務教育の根幹 は維持される、との意見が出された。 ○ この議論に関しては、住民が学校を厳しい目でみるかどうか、あるいは教職員の自 覚が高まるかどうかといった議論は、学校の組織運営の見直しや、教師の質の向上に よって可能になるものであり、義務教育費国庫負担金の一般財源化により生じるもの ではない、例えば、義務教育費について地方が負担している割合が7割を超えている 現在でも、住民意識が高いと言えないのであれば、残り3割弱を一般財源化して住民 意識が高まることになるのか、むしろ、住民は国庫負担事業かどうかに関わらず学校 に厳しい目を向けているのではないか、住民税のフラット税率化により住民の学校を 見る目が高まるということの必然性が明らかでなく、むしろ、地方で教育目的税を導 入した方が、自らの税で学校が運営されているということがわかりやすくなるのでは ないかとの意見が出された。 ○ 地方六団体委員からは、義務教育費国庫負担金の一般財源化による教育上の効果と して、以下のような意見が述べられた。   ・ 地域住民の間では学校まかせという意識が低くなり、地域ぐるみで教育を支えよ うという意識が高まり、開かれた学校、開かれた教育が実践されることになる。   ・ 家庭、地域、学校が、それぞれの立場を尊重しながら、連携を深めていくこと、 また、地域の資源や伝統行事などを教育活動の場としたり、地域の人材を実技指導 員等として学習活動に参画させることにより、総合的な教育が展開できる。 ○ これに関して、以下のような意見が述べられた。   ・ 現時点でも、地域と密接に連携した活動を行っている学校は多く、義務教育費国 庫負担制度が、地方が目指している教育上の効果の実現に対する妨げになっている ということはない。   ・ 例えば、多くの地域で取り組まれている少人数指導やティーム・ティーチングな どのきめ細かい指導方法は、現行制度でも行われており、一般財源化の教育上の効 果として新たに生じるものではない。   ・ 地方六団体からは、義務教育費国庫負担金の一般財源化による教育上のメリット や、地方における教育のあるべき姿について、財源とそれ以外の問題を整理した上 で、説得力のある説明がなされていない。 【観点2:財源確保の確実性・予見可能性】 ○ 義務教育費国庫負担制度は、義務教育費国庫負担法により、都道府県が教職員給与 費として実際に支出した額の二分の一を国が負担することを義務づけているものであ る。また、地方財政法第10条は、教職員人件費を、国と地方の相互の利害に関係があ り、国が進んで経費を負担するものとして位置づけている。  このことから、多くの委員から、義務教育費国庫負担金は、国の責任で必ず予算措 置されるものであり、一般財源化するよりも、財源確保の確実性・予見可能性が高い との意見が出された。 ○ 地方六団体委員からは、以下の意見が出された。   ・ 義務教育費国庫負担金については、その100%が税源移譲され、地方財政全体で 財源不足は生じない、地方公共団体によっては、国庫負担金に見合う税収が税源移 譲では確保されないところもあるので、そうした団体に対しては、地方交付税によ り適切な財源調整がなされる。このことは総務省の説明にもあったとおりである。   ・ 内閣総理大臣も、平成17年2月22日の衆議院本会議における質疑の中で、「三位一 体の改革においては補助金を廃止して税源移譲を行う場合であっても、個人住民税 の税率をフラット化することなどにより税源分布の偏りを緩和するとともに、地方 交付税の財政調整機能によって地域間の財政力格差に対応する考えであります」 「地方交付税の財源保障機能については、その全般を見直し、縮小する一方、地域 間の財政力格差を調整し、一定水準の行政を確保する機能は今後とも必要としてお ります」と答弁している。   ・ 国庫負担法があっても、昭和60年度以降負担率の引下げなどで義務教育費国庫負 担金はカットされてきている。   ・ 今後、教職員人件費が推計通り増大するとしてもピーク時においても7%程度の 伸びでしかなく、かつ、地方財政計画全体の規模の中で0.7%程度を占めるに過ぎ ないことから、十分吸収可能である。また、現実には、退職者が生じても、そのす べてを新規採用でまかなうことはせずに、退職者の再任用や嘱託の制度を活用する ことで人件費を抑制するので、将来推計のような人件費の増加は生じない。   ・ 義務教育費国庫負担金の一般財源化は、地方交付税ではなく税源移譲によって行 われ、国庫負担金と同額が税源移譲されること、各都道府県ごとの国庫負担金の減 少額と税源移譲額との過不足は地方交付税により調整されること、したがって地方 交付税総額を変える必要がないことから、地方交付税総額に関する将来の不安は義 務教育費国庫負担金の一般財源化とは関係がない。 ○ この議論に関しては、以下の意見が出された。   ・ 「三位一体の改革」は、①国庫補助負担金、②税源移譲を含む税源配分、③地方 交付税の在り方を一体的に見直すことである。国から地方への税源移譲を基本とす ると同時に各地方公共団体の税源移譲の不足分を地方交付税で補うことを前提とし ている。しかしながら、その地方交付税の総額は、将来的に抑制される方向であり、 今後、教職員人件費の増額が見込まれる中で、教育費が確保されるか懸念がある。   ・ 義務教育費国庫負担制度について「カットされてきている」と言うが、制度創設 以来、教職員を必要数確保するために必要な財源のうちその大半を占める給料・諸 手当については、国が一貫して負担してきている。   ・ 義務教育費国庫負担金が一般財源化されれば、これまで現金で地方に届いていた お金が地方税と交付税と地方債でまかなわれることになるが、基準財政需要額に占 める地方債の元利償還費の割合が増加している。平成16年度には地方交付税と臨時 財政対策債をあわせた金額が2兆8600億円、対前年度比で12%も減少しており、今 後もそうしたことが生じない保障がない。地方交付税が「瀕死の重傷」であるとの 意見もある。   ・ 基準財政需要額は、実際の支出と乖離があり、必ずしも実際の地方における支出 を反映していないので、基準財政需要額に算入することでは財源保障にはならない。   ・ 教職員の給与費については、国庫負担金が100%税源移譲されたとしても、他の 国庫補助負担金の中には全額税源移譲されないものもあるため、全体のやりくりの 中で、教育費の削減が生じかねない。   ・ 義務教育費国庫負担金を一般財源化すると財政力の弱い県ほど地方交付税依存度 が高まり、将来、地方交付税が削減された場合の打撃が大きくなる。   ・ 現在計画中の中期財政ビジョンでは、地方財政の総額が将来的に減少する見込み であり、その状況で、今後増大が見込まれる教職員人件費の増額が保障される担保 はない。   ・ むしろ、義務教育費については、全額国庫で負担することがもっとも確実な財源 保障制度である。 【観点3:地方の自由度の拡大】 ○ 多くの委員からは、①義務教育費国庫負担制度は、教育の機会均等とその水準の維 持向上を図ることを目的とするものであり、地方における教育活動に関して制約を課 すものではない、②義務教育費国庫負担制度の運用については、総額裁量制の導入に よりかなり柔軟なものになっている、③地方六団体が目指している地方における教育 の裁量の拡大は、現行の負担金制度の下でも実現されているとの意見が出された。 ○ 地方六団体委員からは、①義務教育費国庫負担金を一般財源化することにより、国 の予算に頼ることなく、独自の教育競争をやっていこうという意識改革の観点から三 位一体の改革を進めようとしている、②地方公共団体によっては、国庫負担金に見合 う税収が税源移譲では確保されないところもあるので、そうした団体に対しては、地 方交付税により適切な財源調整がなされる、③一般財源化により、地方では、義務標 準法などの国の基準を満たしつつ、当事者意識を持って、地域の教育環境や児童生徒 の実情に応じた学校配置や弾力的な学級編制、教職員配置が可能となるとの意見があ った。  また、一般財源化により地方の裁量が拡大する例として、①教職員の配置や学級編 制に関して国の基準を満たした上で、多種多様な取組が促進される、②教職員給与に 限らず、教育効果の高い外部人材の活用や外部委託、教材の購入・開発、教育関係施 設の整備等のさまざまな取組に財政資源を効果的に配分できるとの意見があった。 ○ この議論に関しては、①国庫負担は、都道府県の実支出額の二分の一を国が後払い するものであり、都道府県の予算編成の自由を奪っているかのような主張はあたらな い、②教育行政で、学校やその設置者である市区町村が拘束性を感じているとすれば、 それは教育内容や教職員配置等の他の法令によるものであり、国庫負担金とは関係の ないものである、③一般財源化で拡大する自由として具体的にあり得るのは、地方に おいて教育費を“減らす自由”だけである。しかしながら、義務的経費である教職員 給与費の一般財源化で自由度は拡大せず、結局、地方六団体の主張する教育行政の在 り方には具体性がないものと解さざるを得ない、との意見が出された。 エ 地方案を活かす方策の検討 ○ 以上、3つの観点に関する検討を通じて、義務教育の主たる経費である教職員の給 与を保障する方法として、①全額を国庫負担する制度、②現行の国庫負担制度のよう に国と地方が負担割合を法定し、それにより給与費の全額が保障される制度、③全額 一般財源化により、地方が全額を負担する制度、などが考えられる。 ○ 義務教育の機会均等と水準の維持向上を図ることは国の存立に関わるもっとも重要 な基本政策である。義務教育の成果は、一地方にとどまらず、国全体に関わるもので あり、義務教育の経費はこの観点から考えられなければならない。また、教育の質の 向上のためには、教職員が安心して職務に従事できる基盤の保障と強化が重要である。 ○ このような観点からは、本来は、義務教育費の全額保障のために、必要な経費の全 額を国庫負担とすることが望ましいと言える。 ○ 義務教育の構造改革を推進すると同時に、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任 を引き続き堅持するためには、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額 が保障されるという意味で、現行の負担率二分の一の国庫負担制度は、教職員給与費 の優れた保障方法であり、今後も維持されるべきである。 その上で、地方の裁量を拡大するための総額裁量制の一層の改善を求めたい。例え ば、国庫負担における対象職種の拡大や、小中盲聾学校と養護学校の二本立てとなっ ている現行の国庫負担制度を一本化し、教職員配置の弾力化を図ることなどが考えら れる。 ○ 中学校に係る国庫負担金を対象から外すという考え方については、同じ義務教育で ある小学校と中学校の教職員の取扱いを分けることになり、合理性がなく、適当では ない。 ○ 教材購入費や図書購入費など教育環境整備に不可欠な経費は、現在、地方の一般財 源により措置されており、その措置実績が国の基準を下回っている、あるいは地域ご とに格差が生じている状況にある。今後、国と地方の協力により、その総額が確実に 確保されるよう努める必要がある。 ○ 地方六団体が目指す教育の実現についての提案は、本答申を貫く一つの理念として 十分尊重されている。学校や市区町村が、特色ある教育活動、柔軟な学級編制などを 行い、それぞれの地域の伝統や独自の文化を生かし、個性ある多様な人材を育てるこ とが重要である。それは、学校とその設置者である市区町村の裁量権限と自由度の拡 大を進めることにより実現されるものであり、義務教育費国庫負担金や公立学校施設 整備費負担金等を通じ国がその財源を担保することが重要であると考える。 (3)公立学校施設整備費負担金・補助金の在り方 ○ 平成16年11月の政府・与党合意「三位一体の改革について」において「公立文教施 設費の取り扱いについては、義務教育のあり方等について平成17年秋までに結論を出 す中央教育審議会の審議結果を踏まえ、決定する」とされており、公立学校施設整備 費の扱いについても審議を行った。 ア 公立学校施設整備費負担金・補助金 ○ 公立学校施設の整備は、設置者である地方自治体が行っているが、教育の機会均等 を担保し、全国的な教育水準の維持向上を図る観点から、国は、地方自治体に小・中 学校等の設置義務を課すとともに、義務教育諸学校施設費国庫負担法及び地方財政法 第10条等に基づき、新増改築について所要経費の一定割合を進んで負担しなければな らず、加えて、耐震補強等について所要の補助を行っている。 ○ 地方六団体委員からは、以下の理由により、公立学校施設整備費負担金・補助金を 廃止し、一般財源化するべきであるとの意見が出された。   ・ 公立学校施設整備費負担金・補助金の額は、当初予算ベースで年々減額されてお り、負担金・補助金があるからといって、安定的に必要額が確保され、施設整備が 進んでいるという状況にはなっていない。   ・ 義務教育は自治事務ということであり、公立学校施設の整備については、当該地 域の児童・生徒数や配置の現状、将来の見込み、教育の方針等を踏まえつつ、各地 域が自主的、計画的に整備していくものである。全国的に経常的に行われる公立学 校施設の整備については、より幅広い地域のニーズに応えるため、税源移譲を行い、 地方自治体が自らの判断で計画的に整備できるようにする必要がある。   ・ その際の財源措置として、地方に確実に税源移譲をするとともに、個別の地方自 治体に対しては、地方債と地方交付税により万全の措置を講じる必要がある。   ・ 施設整備費が建設国債を財源としていることは税源移譲の障害とはならない。   ・ 負担金・補助金の現状について、金額算定の基礎となる建築単価が現実と乖離し ていることや、対象となる施設部分が限定されていることから、多くの地方自治体 では、制度上の補助率を大きく切り込んだ補助金しか受け取ることができず、地方 の超過負担が大きい、国による事業採択時期が地方自治体の事業計画と合わない、 全国で画一的な補助基準であるため住民のニーズに十分応えられない、補助申請に 係る手続きが煩雑である、などの問題がある。 ○ これに関しては、 ① 義務教育における機会均等を実質的に担保するためには、公立学校施設が確実に 整備されることが重要であるが、法律上一定の財源措置が担保されている負担金等 について一般財源化すれば、公立学校施設の整備に優先的に使われる担保がない、 ② 公立小・中学校施設の耐震化率などにみられるような地方自治体間の格差につい ては、国の責務として是正する必要がある、 ③ 税源移譲のほか、一般財源化した場合の財源の一つとして考えられている地方交 付税については、その総額は将来的に抑制傾向にあり、例えば公立高等学校の改築 事業の償還財源に充てられていた事業費補正に係る地方交付税措置が平成17年度以 降廃止されたことにみられるように、地方交付税措置による財源確保は安定的とは いえない、 ④ 地方交付税とともに、一般財源化した場合の財源の一つとして考えられている起 債については、長期にわたって償還が続くことになることから、長期間にわたる償 還や金利の上昇が、将来的に地方財政を圧迫することが予想される、 ⑤ 補助対象の限定や煩雑な補助手続き等の課題は、制度の改善によって解決すべき である、 などの理由から、国が公立学校施設の整備に目的を特定した財源を保障することが適 当である。 ○ なお、公立学校施設整備費負担金・補助金においても、地方の自由度を拡大し、 公立学校施設を整備するインセンティブを高める観点から、義務教育費国庫負担制 度における総額裁量制のように地方の裁量を拡大するための改革を行うべきである。 イ 学校施設の耐震化 ○ 公立学校施設は、重要な教育基盤であり、子どもの生命の安全に直結するとともに、 地域住民の応急避難場所ともなるものであるが、公立小・中学校施設で耐震性が確認 されている建物は半数程度にすぎず、その耐震性の確保を図ることが喫緊の課題とな っている。 ○ 地方六団体委員からは、耐震化について、以下の理由により、一般財源化すれば地 方自治体の判断による計画的な施設整備が進むはずであるとの意見が出された。   ・ 公立学校施設整備費負担金・補助金の予算額が足りないため、補助金待ちが生じ ている。   ・ 現在、施設整備に対する負担・補助制度のない公立高等学校と、負担・補助制度 のある公立小・中学校を比較した場合、耐震診断実施率と耐震化率は、ともに高等 学校が上回っている。 ○ これに関しては、 ① 耐震化が進まないのは補助金待ちというよりむしろ、地方財政の硬直化により、 地方自治体の自主財源が教育関係に回っていない実態があるためであり、目的が特 定されている財源がなくなれば、従来以上に財源の確保が困難になる、 ② 都道府県と市区町村の間に大きな財政力格差があるのに、市区町村が設置する公 立小・中学校と都道府県が設置する公立高等学校の耐震診断実施率、耐震化率を比 較してもほとんど変わらず、その耐震化の進捗状況に大差がないが、これは公立 小・中学校施設への負担・補助制度によるところが大きい、 などの理由から、一般財源化により耐震化が急速に進捗することにはならず、公立学 校施設の整備に目的を特定した財源を国として保障し、その耐震化は国が責任を持っ て推進することが適当である。 ○ なお、膨大な公立学校施設の早急な耐震化を図るためには、改築(全面建て替え) からコストの安い改修への転換など、より効率的な整備手法に重点を移すとともに、 国が耐震化のための整備方針を示した上で、期間を定めて重点的・計画的な整備を進 めることが必要であり、国としてもそのための十分な財源を確保すべきである。 (4)教科書無償給与制度の在り方 ○ 義務教育の教科書については、憲法第26条に掲げる義務教育無償の精神をより広く 実現するものとして、我が国の将来を担う児童生徒に対し、国民全体の期待をこめて、 国民の負担によって無償給与されている。  この制度に対しては、これまでも財政制度等審議会から貸与制の導入を含め有償化 の実現に向けた検討を進めるべきなどとする指摘がなされてきている。 ○ 教科書については、一部の教科を貸与とすることについて議論の余地があるが、予 習・復習など家庭学習においても使用し、教師の指導上、様々な創意工夫を可能とす ることから貸与ではなく自分自身の教科書を所有することが求められ、保護者に新た な負担を課すことなく、家庭の経済力に係わらず無償給与される必要がある。 ○ 義務教育教科書の無償給与制度については、教科書の質の向上を図りながらコスト を下げる努力をしつつ、義務教育無償の精神から今後とも国による義務教育に係る費 用負担の重要な施策として必要である。
第3期中央教育審議会委員 会 長  鳥居 泰彦 慶應義塾学事顧問、日本私立学校振興・共済事業団理事長 副会長  木村  孟 独立行政法人大学評価・学位授与機構長 副会長  茂木友三郎 キッコーマン株式会社代表取締役会長      相澤 益男 東京工業大学長      赤田 英博 社団法人日本PTA全国協議会会長      安彦 忠彦 早稲田大学教育学部教授      安西祐一郎 慶應義塾長      飯野 正子 津田塾大学長      石井 正弘 岡山県知事      猪口 邦子 上智大学法学部教授(平成17年8月29日まで)      江上 節子 東日本旅客鉄道株式会社顧問      衞藤  隆 東京大学大学院教育学研究科教授      梶田 叡一 兵庫教育大学長      加藤 裕治 全日本自動車産業労働組合総連合会会長      金子 元久 東京大学大学院教育学研究科教授      黒田 玲子 東京大学大学院総合文化研究科教授、東京大学総長特任補佐、            総合科学技術会議議員      見城美枝子 青森大学教授,エッセイスト・ジャーナリスト      郷  通子 お茶の水女子大学長      佐藤友美子 サントリー株式会社次世代研究所部長      角田 元良 聖徳大学人文学部教授・附属小学校長      寺島 実郎 株式会社三井物産戦略研究所所長、            財団法人日本総合研究所理事長      中嶋 嶺雄 国際教養大学理事長・学長、            アジア太平洋大学交流機構(UMAP)国際事務総長      野中ともよ 三洋電機株式会社代表取締役会長兼CEO      野依 良治 独立行政法人理化学研究所理事長      増田 明美 スポーツジャーナリスト、大阪芸術大学芸術学部教授      増田 昌三 香川県高松市長      松下 倶子 独立行政法人国立少年自然の家理事長      山本 文男 福岡県田川郡添田町長      湯川れい子 音楽評論家、作詩家      横山 洋吉 東京都副知事
中央教育審議会義務教育特別部会委員 〔委員〕 部会長  鳥居 泰彦 慶應義塾学事顧問,日本私立学校振興・共済事業団理事長 副部会長 木村  孟 独立行政法人大学評価・学位授与機構長      赤田 英博 社団法人日本PTA全国協議会会長      石井 正弘 岡山県知事(地方六団体委員)      梶田 叡一 兵庫教育大学長      加藤 裕治 全日本自動車産業労働組合総連合会会長      見城美枝子 青森大学社会学部教授、エッセイスト、ジャーナリスト      角田 元良 聖徳大学人文学部教授・附属小学校長      野中ともよ 三洋電機株式会社代表取締役会長兼CEO      茂木友三郎 キッコーマン株式会社代表取締役会長      増田 昌三 香川県高松市長(地方六団体委員)      山本 文男 福岡県田川郡添田町長(地方六団体委員)      横山 洋吉 東京都副知事 〔臨時委員〕      吾妻 幹廣 福島県石川郡石川町教育委員会教育長      阿刀田 高 小説家      荒谷 信子 広島県東広島市教育委員会教育長      井上 孝美 放送大学学園顧問      小川 正人 東京大学大学院教育学研究科教授      陰山 英男 広島県尾道市立土堂小学校長      片山 善博 鳥取県知事      苅谷 剛彦 東京大学大学院教育学研究科教授      高竹 和明 社団法人日本青年会議所会頭      田村 哲夫 学校法人渋谷教育学園理事長、渋谷幕張中学・高等学校長      千代 忠央 前埼玉県北葛飾郡松伏町長      土屋 正忠 前東京都武蔵野市長(平成17年8月29日まで)      渡久山長輝 財団法人全国退職教職員生きがい支援協会理事長      藤崎 武利 東京都港区立三田中学校長      藤田 英典 国際基督教大学教授      無藤  隆 白梅学園短期大学長      山本 恒夫 八洲学園大学教授、筑波大学名誉教授      吉野 直行 慶應義塾大学教授      若月 秀夫 東京都品川区教育委員会教育長
中央教育審議会総会(第52回)における「答申案」の採決状況 1.日時: 平成17年10月26日(水曜日) 14:00~17:00 2.出席委員   ○ 出席者:  31名  (委員)   鳥 居 会 長  相 澤 委 員  赤 田 委 員  石 井 委 員   江 上 委 員  衞 藤 委 員  加 藤 委 員  金 子 委 員   黒 田 委 員  見 城 委 員  郷   委 員  佐 藤 委 員   角 田 委 員  中 嶋 委 員  増田昌三委 員  松 下 委 員   山本文男委 員  横 山 委 員  (臨時委員)   吾 妻 委 員  阿刀田 委 員  荒 谷 委 員  井 上 委 員   小 川 委 員  片 山 委 員  田 村 委 員  千 代 委 員   渡久山 委 員  藤 崎 委 員  藤 田 委 員  無 藤 委 員   山本恒夫委 員 3.答申案の採決状況   ○ 賛成:  22名   相 澤 委 員  赤 田 委 員  江 上 委 員  衞 藤 委 員   金 子 委 員  見 城 委 員  郷   委 員  佐 藤 委 員   角 田 委 員  松 下 委 員  横 山 委 員  吾 妻 委 員   荒 谷 委 員  井 上 委 員  小 川 委 員  片 山 委 員   千 代 委 員  渡久山 委 員  藤 崎 委 員  藤 田 委 員   無 藤 委 員  山本恒夫委 員   ○ 反対:   3名   石 井 委 員  増田昌三委 員  山本文男委 員   ○ 棄権: 2名   加 藤 委 員  中 嶋 委 員  (参考)採決前に所用のため途中退席:   3名   阿刀田 委 員  黒 田 委 員  田 村 委 員
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