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特別支援教育法令等データベース 総則 / 報告・答申等 - 重度・重複障書児に対する学校教育の在り方について(報告) -


重度・重複障害児に対する学校教育の在り方について(報告)
       特殊教育の改善に関する調査研究会 (昭和50年3月31日)




昭和50年3月31日



文部省初等中等教育局長 安嶋 彌 殿


特殊教育の改善に関する調査研究会 会長 辻村 泰男




重度・重複障害児に対する学校教育の在り方について(報告)




我が国の特殊教育は近年著しく振興されているとはいえ,今日なお心身障害児の早期発見・早期教育の問題,義務教育終了後の教育の問題,軽度心身障害児に対する教育の問題などをかかえているが,特に,障害が重度であったり重複している児童・生徒の教育については,その遅れが目立っており,今後の早急な整備・充実が必要な時期に至っている。
本調査研究会は,過去二年間,心身障害児に対する教育の在り方を,その生涯にわたる人間としての生活を考えつつ,医療,福祉などの関係分野とのかかわりの中で調査研究してきたが,養護学校教育の義務制との関連で,特に当面の急務とされている重度,重複障害児に対する学校教育の在り方について検討した結果,別紙のようにとりまとめたので,ここに報告する。








別紙

I 重度・重複障害児に対する教育のための基本的な考え方

心身障害児に対する教育は,その者の障害がいかに重度であり重複している場合であろうとも,もとより教育基本法に掲げる目的の達成を目指して行われるべきものであって,そのために不断 の努力が払われなければならない。このような考えのもとに,重度・重複障害児に対する学校教育の課題を考えてみると,学校という具体的な教育の場を通じてこれらの者一人一人の人間としての発達を促し,その能力を十分に伸ばすためにはいかにしたらよいかが,今後この教育を進めるうえでの最大の課題として取り上げられる。
この課題解決のための基本的な方向としては,重度・重複障害児の複雑なかつ多岐にわたる実態からみて,まず,多様な教育の場を設けることが考えられなければならないそして,その際特に重要なことは,重度・重複障害児の多くは,通常,医療上,生活上の規制を必要とすることが多いから,医療,福祉等と一体となってその教育が行われるよう配慮しなければならないということである。次に,この多様化された教育の場のなかで,これらの者にとって,その心身の状況に応じ,いずれが最もふさわしい教育の場であるかを考えることが必要であり,このために,これらの者の心身の状況を,医学,心理学等の関連諸科学との連携のもとに教育的に把握する方策が考えられなければならない。さらに,重度・重複障害児の教育にあたる教職員を確保し,これに一層の専門的知識・技能を修得させることも,この多様な教育の場を設けることと並行して考えなければならない。
要は,重度・重複障害児といっても,その実態はさまざまであることにかんがみ,現実の教育にあたっては,これを画一的に考えることなく,まず個々の者の心身の状況を出発点としてこれに対応した教育を行うことが必要なのである。

II 重度・重複障害児に対する教育の改善のための施策

以上の基本的な考え方に基づき,重度・重複障害児に対する教育の改善のための施策として,次のものが考えられる。
1 盲・聾・養護学校の整備
盲・聾・養護学校教育の対象となる者の実態を把握し,その実態に応じてこれらの学校,特にこれらの学校の重度・重複障害児のための学級を増設するとともに,その施設・設備等の充実を図るものとする。
この場合,多くの障害が重複していたり,障害が著しく重度であるため教育が特に困難なものについては,介護的な業務が必要であるので,その職員組織についての配慮が必要である。また,医療施設又は児童福祉施設に入所中の者で,施設の中で教育することが適切な者については,施設の設置者と協議のうえ,当該施設にこの学級を設置し,又はこれらの学校から教員を派遣して教育を行うべきである。
なお,これらの学校や学級が併設されている医療施設又は児童福祉施設において行われる学校教育,特に養護・訓練,特別活動等の教育活動に,これらの者の教育に熱意をもち,その実態をよく理解している経験豊富な施設職員等の協力,参加が得られるような道も開くことが必要である。
2 在宅児に対する訪問指導
心身の状況によって,上記の措置のほか,在宅のままで教育せざるを得ない者については,その者が在籍する盲・聾・養護学校から教員を派遣してその教育を行うこととする。
なお,派遣される教員が行う教育の内容・方法については,集団によって教育する機会の確保を含め,さらに調査研究する必要がある。
3 就学猶予・免除の運用
以上の措置を進めることにより,たとえ医療又は生活規制を必要とするものであっても,その心身の状況が教育を受け得る状態にある限り,医療と並行して教育を行うことが可能となる。したがって,仮にも就学猶予・免除の措置を行う場合は,いわゆる就学指導委員会の判断を得る等の慎重な手続きを要件とすることによりその適正を期することとし,また,この措置を行った後もたとえば教育相談や医療・福祉機関との連絡等を通じて,常にその就学の可能性を把握し,機に応じて就学させる体制をとるようにすべきである。
4 就学指導体制の整備
重度・重複障害児の教育措置としては,おおむね以上のようなものが考えられるが,個々の者に対し具体的にどのような教育措置をとることが最も適切であるかを判断するため,心理学・教育学の専門家,学校の教員,医師,児童福祉機関の職員など各方面の専門家をもつて構成するいわゆる就学指導委員会を,教育委員会の諮問機関として早急に整備・充実すべきである。
なお,就学指導委員会は,単に就学時のみならず,これらの者の心身の状況に応じてその教育措置を変更する必要がある場合にも,そのつど,諮問に応じることができるようにする必要がある。
これらのためにも,心身障害児に関する教育相談に応じ,適切な指導が行えるようにするとともに,早期発見とこれに伴う指導の機会を拡大するため,特殊教育センター等の常設の専門的な教育相談機関の整備が急がれなければならない。
5 専門教員の養成・確保
重度・重複障害児に対する教育においては,相当の教育学的,心理学的,医学的な知識・技能を要するものであるから,この教育にあたる者の養成については,特殊教育教員の免許状等を所有する者に対する実習を含めた現職教育の機会を大幅に拡充するとともに,大学の特殊教育教員養成のカリキュラムにおいて重度・重複障害児教育に適切な配慮を加える等により,これらの専門的知識・技能の修得を図る必要がある。また,これらの特別の教育を受けてこの教育に携わる教員に対しては,給与等において特別の待遇をするなど,その確保の方策を積極的に進める必要がある。

 

付 重度・重複障害児に関する考え方
本報告でいう「重度・重複障害児」には,これまで「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」等で定められている重複障害児(学校教育法施行令第二二条の二に規定する障害-盲・聾・知的障害・肢体不自由・病弱-を2以上あわせ有する者)のほかに,発達的側面からみて,「精神発達の遅れが著しく,ほとんど言語を持たず,自他の意思の交換及び環境への適応が著しく困難であって,日常生活において常時介護を必要とする程度」の者,行動的側面からみて,「破壊的行動,多動傾向,異常な習慣,自傷行為,自閉性,その他の問題行動が著しく,常時介護を必要とする程度」の者を加えて考えた。
これらの教育措置を決定するための障害の判定にあたっては,少なくとも,次に示すような検査の項目例を参考にすることが必要である。
この場合,一時の審査だけで判定するのではなく,一定期間観察したり,これらの者に対して指導してきた関係者の意見を聞くなど慎重を期さなければならない。

(参考) 重度・重複障害児の判定にあたっての項目例

1 障害の状況(学校教育法施行令第22条の2に規定する障害をもっているかどうか)

ア 盲  イ 聾  ウ 知的障害  エ 肢体不自由  オ 病弱

(疾病の状況)



2 発達の状況(次に示すような身辺自立,運動機能,社会生活の程度は,どの程度か)
(発達の状況をチェックする具体的行動の例-次のような行動ができるかどうか-)
(1)身辺自立 ア.食事 ・ スプーンで食物を運んでやると食べられる ・ 手でどうにかつかんで食べられる ・ スプーン等を使つてどうにか一人で食べられる
イ.排泄 ・ 排泄の処理をしてもらう時静かにしている ・ 汚すと知らせる(おむつをしている) ・ 排泄の予告ができる
ウ.衣服 ・ 衣服を着せてもらう知己静かにしている ・ 衣服を着せてもらう時手や足を出す ・ 衣服を一人でどうにか脱げるが,一人で着ることはできない
(2)運動機能 エ.大きな動作 ・ 支えなしで座れる ・ つかまり立ちできる ・ 5,6歩歩いて立ち止まれる
オ.小さな動作 ・ 手から手へ物を持ち替えられる ・ 指先で物がつまめる ・ クレヨンなどでなぐり書きができる
(3)社会生活 カ.言語 ・ 人に向って声を出そうとする ・ 意味のある単語が2,3個いえる ・ 意味のある単語が数個いえる
キ.反応 ・ 自分の名前を呼ばれると反応できる ・ 身近なものの名前がわかる ・ 簡単な指示が理解できる
ク.対人関係 ・ 知らない人にも関心を示す ・ ひとの関心をひくための動作ができる ・ 特定の子供といっしょにいることができる



3 行動の状況(次の示すような問題行動があるかどうか)

(行動の状況をチェックする具体的行動の例-次のような問題行動が著しいかどうか-)

ア. 破壊的行動

他人に暴力を加えたり,器物を破壊するなど破壊的傾向がある

イ. 多動傾向

まったくじっとしていないで,走りまわったり,とびはねるなど多動傾向がある

ウ. 異常な習慣

異物を食べたり,ふん尿をもてあそぶなど異常な習慣がある

工. 自傷行為

自分を傷つけたり,着ている衣服を引きさくなど自傷行為がある

オ. 自閉症

自閉的でコミュニケーションが成立しない

カ. 反抗的行動

指示に従うことを拒んだり,指導者に敵意を示すなど反抗的行動がある

キ. その他

その他,特別の問題行動がある



上記の検査に従い,おおむね次のような者が重度・重複障害児と考えられる

a.「1 障害の状況」において,2つ以上の障害をもつている者

b.「2 発達の状況」からみて,精神発達が著しく遅れていると思われる者

c.「3 行動の状況」からみて,特に著しい問題行動があると思われる者

d.「2 発達の状況」,「3 行動の状況」からみて,精神発達がかなり遅れており,かつ,かなりの問題行動があると思われる者



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