重複障害のある児童生徒は複数の障害が複雑に絡み合い、一人一人の障害の程度や状態は多様です。
そこで、重複障害のある児童生徒の教育課程を編成する時には、児童生徒の障害の状態により特に必要のある場合には、その状態等に応じて「重複障害者等に関する教育課程の取扱い」を考慮した弾力的な教育課程を編成することができます。「重複障害者等に関する教育課程の取扱い」には、学校教育法施行規則に規定されているものと、学習指導要領に規定されているものがあります。なお、従前は「重複障害者等に関する特例」としていましたが、今回の学習指導要領の改訂では、教育課程の取扱いに関する規定と重複障害者等の授業時数に関する規定をまとめて示すこととし、「重複障害者等に関する教育課程の取扱い」に改められました。

  ア 学校教育法施行規則に規定されているもの


学校教育法施行規則には、重複障害者等に関する教育課程の取扱いとして、次のように示されています。
具体的には、以下の内容です。
各教科を合わせて指導を行う場合の規定」では、重複障害者の授業について、各教科又は各教科に属する科目の全部又は一部について、特に必要がある場合は、合わせて授業を行うことができるとしています。
各教科等を合わせて指導を行う場合の規定」では、特別支援学校(小学部・中学部・高等部、以下「小・中・高」)で知的障害者である児童若しくは生徒又は複数の種類の障害を併せ有する児童若しくは生徒を教育する場合には、各教科、道徳、外国語活動、特別活動及び自立活動の全部又は一部について、合わせて授業を行うことができるとしています。
特別の教育課程に関する規定」では、特別支援学校(小・中・高)で、重複障害者を教育する場合と教員を派遣して教育を行う場合に特別の教育課程によることができるとしています。
教育課程改善のための研究に関する規定」では、特別支援学校(小・中・高)の教育課程に関し、その改善に資する研究を行うため特に必要があり、児童又は生徒の教育上適切な配慮がなされていると文部科学大臣が認める場合には、学校教育法施行規則や学習指導要領に定められている規定によらずに教育課程を編成し、実施することができるとしています。
特別支援学校又は地域の特色を生かした特別の教育課程の編成に関する規定」では、「文部科学大臣が、特別支援学校の小学部、中学部又は高等部において、当該特別支援学校又は当該特別支援学校が設置されている地域の実態に照らし、より効果的な教育を実施するため、当該特別支援学校又は当該地域の特色を生かした特別の教育課程を編成して教育を実施する必要があり、かつ、当該特別の教育課程について、教育基本法及び学校教育法第72条の規定等に照らして適切であり、児童又は生徒の教育上適切な配慮がなされているものとして文部科学大臣が定める基準を満たしていると認める場合においては、文部科学大臣の定めるところにより、第126条から第129条までの規定の一部又は全部によらないことができる」という規定です。
なお、この規定は、平成20年4月1日から施行されています。

  イ 学習指導要領に規定されているもの


学習指導要領では、重複障害者等に関する教育課程の取扱いとして、次のように示されています。

  • 障害の状態により特に必要がある場合の規定
    (小・中第1章第2節第5の1、高第1章第2節第6款の1)
  • 重複障害者の場合の規定
    知的障害を併せ有する児童生徒の場合の規定
    (小・中第1章第2節第5の2、高第1章第2節第6款の2)
  • 重複障害者のうち、障害の状態により特に必要がある児童生徒の場合の規定
    (小・中第1章第2節第5の3、高第1章第2節第6款の3)
  • 訪問教育の場合の規定
    (小・中第1章第2節第5の4、高第1章第2節第6款の4)
  • 重複障害者等に係る授業時数の規定
    (小・中第1章第2節第5の5、)
  • 療養中及び訪問教育の生徒の通信により教育を行う場合の規定
        (高第1章第2節第6款の5)


児童又は生徒の障害の状態により特に必要がある場合の規定」では、障害の状態により、例えば、当該学年の各教科の学習及び外国語活動の学習を行う際に、特に必要がある場合には、その実態に応じて、弾力的な教育課程を編成することができることが示されています。具体的には、以下の5項目です。


各教科及び外国語活動の目標及び内容に関する事項の一部を取り扱わないことができること。
例えば、肢体不自由のある児童生徒について、「体育」の内容のうちの器械運動等の学習の一部が困難又は不可能な場合、当該児童生徒にこの内容を履修させなくともよいという趣旨です。
「取り扱わないことができる」とは、一部を履修させなくてもよいことを意味します。

各教科の各学年の目標及び内容の全部又は一部を、当該学年の前各学年の目標及び内容の全部又は一部によって、替えることができること。
この規定は、視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校において、各教科の学年の目標及び内容の全部又は一部を該当学年の前各学年の目標及び内容の全部又は一部によって替えることができることを示しています。
例えば、小学部6年生の児童の場合は、小学部5年生以下の学年を指し、「社会」や「理科」の目標及び内容を「生活」の目標及び内容に替えて指導することも可能です。

中学部の各教科の目標及び内容に関する事項の全部又は一部を、当該各教科に相当する小学部の各教科の目標及び内容に関する事項の全部又は一部によって、替えることができること。
この規定は中学部の生徒に対して、その実態に応じて小学部の各教科の指導を行うことができることを示しています。
例えば、視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である生徒に対する教育を行う特別支援学校において、中学部の「数学」の目標及び内容に関する事項を、小学部の「算数」の目標及び内容に関する事項に替えることができます。
また、知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校において、例えば中学部の教科「社会」、「理科」、「保健体育」及び「職業・家庭」目標及び内容を、小学部の教科「生活」の目標及び内容によって替えることができます。

視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である生徒に対する教育を行う特別支援学校の中学部の外国語科については、外国語活動の目標及び内容の一部を取り入れることができること。
例えば、視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である生徒に対する教育を行う特別支援学校中学部において、小学部において新たに示された外国語活動の目標及び内容の一部を取り入れることができます。ただし、指導を行う際には、目標の一部を取り入れることができますが、全部を替えることはできないことに留意する必要があります。

幼稚部教育要領に示す各領域のねらい及び内容の一部を取り入れることができること。
この規定は、小学部の児童又は中学部の生徒に対し、特に必要がある場合は、幼稚部教育要領に示す各教科のねらい及び内容の一部を取り入れることができることとしています。
なお、これらの(ア)~(オ)までの規定を適用する際には、取り扱わなかった事項や替えた事項を学年進行とともに、どのように事後措置するかを十分考慮した指導計画を作成することが必要です。
次に「重複障害者の場合の規定」では、重複障害者のことを、複数の種類の障害を併せ有する児童又は生徒とし、以下の2項目が示されています。

 

    (ア)知的障害を併せ有する児童生徒の場合の規定

 この規定は、視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である生徒に対する教育を行う特別支援学校に就学する知的障害を併せ有する児童生徒に対して、知的障害者である児童又は生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科又は各教科の目標及び内容の一部によって替えることができ、児童生徒の実態に応じた弾力的な教育課程の編成ができることを示したものです。


1)各教科を替える場合
視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である児童又は生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科(小学部・中学部)や各教科・科目(高等部)を、知的障害者である児童又は生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科によって替えることができると示されています。

2)各教科の目標、内容に関する事項の一部を替える場合
視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である児童又は生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科(小学部・中学部)や各教科・科目(高等部)の目標及び内容に関する事項の一部を、知的障害者である児童又は生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科の目標及び内容の一部によって替えることができると示されています。
ただし、各教科の目標、内容に関する事項の一部を替えるのであるから、教科の名称を変えることはできないことに留意しなければなりません。

3)小学部の外国語活動及び総合的な学習の時間、中学部の外国語科の取扱い
視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である児童又は生徒に対する教育を行う特別支援学校で知的障害を併せ有する児童生徒に対して、障害の状態によっては、知的障害である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校と同様の教育課程編成上の取扱いを必要とすることが考えられます。したがって小学部においては、外国語活動及び総合的な学習の時間、中学部においては外国語科をを設けないこともできることが示されています。
 

(イ)重複障害者のうち、障害の状態により特に必要がある児童生徒の場合の規定

この規定は、重複障害者のうち、障害の状態により特に必要がある場合には、各教科、道徳、外国語活動若しくは特別活動の目標及び内容に関する事項の一部又は各教科、外国語活動若しくは総合的な学習の時間に替えて、自立活動を主として指導を行うことができることを示しています。重複障害者については一人一人の障害の状態が極めて多様であり、発達の諸側面にも不均衡が大きいことから、心身の調和的発達の基盤を培うことをねらいとした指導が特に必要となることから、自立活動の指導を中心に行うことについて規定しているわけです。
次に「訪問教育の場合の規定」では、通学して教育を受ける困難な児童又は生徒に対して教員を派遣して教育を行う場合の教育課程の取扱いについて示しています。 障害のため通学して教育を受けることが困難な児童生徒は、一般的に障害が重度であるか又は重複しており、医療上の規制や生活上の規制を受けていたりすることがあります。そこで、こうした児童生徒に教員を派遣して教育を行う場合(訪問教育)には、個々の実態に応じた指導を行うため、弾力的な教育課程を編成することが必要となります。そのため、訪問教育の際は、小学部・中学部学習指導要領第1章総則第2節第5の1から3に示す教育課程の取扱いによることができると規定しています。
次に「重複障害者等に係る授業時数の規定」では、重複障害者や療養中の児童生徒の場合又は訪問教育を行う場合に、実情に応じた授業時数を適切に定めることができることを示しています。
重複障害者や医療機関に入院している児童生徒の場合又は訪問教育を行う場合、各学年の総授業時数及び各教科等の年間授業時数は、いずれも小学校又は中学校に「準ずる」のではなく、特に必要があれば各学校で適切に定めることができます。
この場合は、児童生徒の実態を的確に把握するとともに、医療上の規制や生活上の規制等も考慮して、どのような教育課程を編成するのが最も望ましいのかについて総合的に検討する必要があります。
次に「療養中及び訪問教育の生徒の通信により教育を行う場合の規定」では、療養中の生徒及び訪問教育を受ける生徒について、各教科・科目等の一部を通信により教育を行う場合の指導回数等について示しています。療養中の生徒や訪問教育を受ける生徒について、各教科・科目等の一部を通信により教育を行う場合の1単位あたりの添削指導、面接指導の回数及び試験の実施等については「実情に応じて適切に定めるものとする」としており、弾力的な取扱いができます。しかし、その回数等を定めるに当たっては、各教科・科目の目標が達成できるようにする必要があります。
また、本規定では、療養中の生徒のみならず、訪問教育を受ける生徒で各教科・科目の履修が可能な場合にも、通信による指導を合わせて行うことにより、単位を修得することができることを示しています。
さらに本規定はすべての特別支援学校の療養中の生徒と訪問教育が必要な生徒に対して適用できるものとして示しています。
なお、知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校においては、単位制ではないので、通信により教育を行うこととなった各教科の一部の授業時数に相当する添削指導及び面接指導の回数等については、実情に応じて適切に定めるものと示しています。