ア 児童生徒の実態に応じた表現する力の育成


肢体不自由のある児童生徒は、身体の動きに困難があることから、様々な体験 をする機会が不足しがちであり、そのため表現する意欲に欠けたり、表現するこ とを苦手としたりすることが少なくありません。近年、児童生徒の障害が重度化 するにつれて、表現に対する困難さも大きくなっており、児童生徒の実態に応じ て表現する力の育成に努めることが大切です。
表現する力を育成するためには、体験的な活動を通して表現しようとする意欲 を高めることが大切です。そのためには、日常生活や学習活動において、不思議 なことや面白いことに気付いたり、美しいものに感動したりする機会が十分にな くてはなりません。そのために、各教科等の指導においては、自分の手で触れた り、実際の場面を見たり、具体物を操作したり、いろいろな素材に親しみ作品を 作ったりする体験的な活動を計画的に確保することが必要です。こうした具体的 な体験を通して得られた気付きや感動が、生き生きとした表現へとつながります。
表現しようとする意欲を高めながら、個々の児童生徒の言語発達の程度や身体 の動きに応じて、表現するために必要な知識や技能、態度や習慣の育成に努める ことが大切です。言語発達の程度については、話したり書いたりする力だけでな く、言葉の意味理解や語彙なども把握する必要があります。
また、表現は、話し言葉や書き言葉をはじめとして、絵画や歌唱など様々な方 法によって行われます。指導に当たっては、感じたことや考えたことを自由に表 現させるなど児童生徒の意欲を大切にしながら、次第に多様な表現ができるよう に指導の順序や方法を工夫することが大切です。

  イ 指導内容を適切に精選し、基礎的・基本的な事項に重点を置いた指導


特別支援学校(肢体不自由)においては、児童生徒の身体の動きやコミュニケ ーションの状態等から学習に時間がかかること、自立活動の時間があること、肢 体不自由児施設等において治療や訓練が行われていることなどの関係から、授業 時数が制約されるなどの理由によって、指導内容を精選することが必要です。
指導内容の精選に当たっては、児童生徒一人一人の身体の動きの状態や生活経 験の程度等実態を的確に把握し、それぞれの児童生徒にとって、基礎的・基本的 な指導内容は何かということを十分見極めることが大切です。さらに、指導内容の精選と共に、各教科の目標と指導内容との関連を十分に研究し、その重点の置き方や指導の順序、まとめ方を工夫し、指導の効果を高めるようにすることも必要です。

  ウ 身体の動きの状態やコミュニケーション等に関する指導


各教科、特に音楽、図画工作(小学部)、美術(中学部)、家庭(小学部)、技術・家庭(中学部)、体育(小学部)、保健体育(中学部)などの実践的・体験的な活動が中心となる教科の内容には、自立活動の「身体の動き」や「コミュニケーション」等に関するものが数多く含まれています。身体の動きやコミュニケーション等が困難な児童生徒に対して、各教科における実践的・体験的な活動を展開する際には、その状態を改善・克服するように指導や援助を行うことが必要です。そのためには、特に、自立活動の時間における指導との密接な関連を図り、学習効果を高めるよう配慮しなければなりません。したがって、指導計画の作成に当たっては、一人一人の児童生徒についてどのような点に配慮して指導を行うのかを明確にしておくとともに、指導に当たっては、具体的な方法を身に付けておくことが求められます。
なお、このような実践的・体験的な活動の際には、児童生徒の身体の動きやコミュニケーション等の困難の改善に重点が置かれ過ぎて、各教科の目標を逸脱してしまうことのないよう留意することが必要です。

  エ 学習時の姿勢や認知の特性等に応じた指導方法の工夫


肢体不自由のある児童生徒が、効果的に学習を行うためには学習時の姿勢に十分 配慮することが重要です学習活動に応じて適切な姿勢を保持できるようにすることは、疲労しにくいだけでなく、身体の操作等も行いやすくなり、学習を効果的に進めることができます。例えば、文字を書くこと、定規やコンパスを用いること、粘土で作品を作る際などは、体幹が安定し上肢が自由に動かせることが大切です。また、よい姿勢を保持することは、学習内容を理解する点からも重要です。例えば、位置、方向、遠近の概念は、自分の身体が機転となって形成されるものであるから、安定した姿勢を保つことにより、こうした概念を基礎とする学習内容の理解が深まることになります。このように、学習活動に応じて適切な姿勢がとれるように、いすや机の位置や高さを調整することについて、児童生徒の意見を聞きながら工夫するとともに、児童生徒自らがよい姿勢を保つことに注意を向けるよう日頃から指導することが大切です。
一方、肢体不自由のある児童生徒の認知の特性に応じて指導を工夫することも重 要です。脳性疾患等の児童生徒の場合には、課題を見て理解したり聞いて理解することに困難がある場合があります。こうした場合には、課題を提示するときに、注目すべき所を強調したり、視覚と聴覚の両方を活用できるようにするなど、指導方法を工夫することが大切です。また、地図や統計のように多数の要素が盛り込まれている課題や理科の実験のようにいろいろな要素を考慮する必要がある課題について、順序立てて考えることを繰り返し指導することが必要です。

  オ 補助用具や補助的手段の工夫、情報機器の活用


身体の動きや意思の表出の状態等により、歩行や筆記などが困難な児童生徒や、話し言葉が不自由な児童生徒などに対して、補助用具や補助的手段を活用し、指導の効果を高めるようにすることは極めて大切なことです。
補助用具の例として、歩行が困難な児童生徒については、松葉づえ、車いす、歩行器などが、また、筆記の困難な児童生徒については、筆記用自助具や筆記の代替をするコンピュータ等が挙げられます。また、補助的手段の例としては、身振り、コミュニケーションボードの活用などが挙げられます。
なお、補助用具や補助的手段の使用の是非は、児童生徒の身体の動きや意思の表出等の状態やその改善の見通しに基づいて、慎重に判断することが重要です。将来、改善が見込まれる児童生徒については、自立活動の指導との関連に配慮することが大切です。