吃音など話し言葉の流暢性にかかわる障害のある児童生徒への指導・支援を行うに当たっては、まず指導者が正しい知識をもつ必要があります。誤解や曖昧な知識による対応が児童生徒を苦しめることにもなりかねないからです。吃音については長年の研究にもかかわらず、未だ解明されていない要素も多いのですが、分かっていることも多くあります。ここでは、吃音についての基礎事項を整理した上で、それを踏まえながら吃音のある児童生徒への指導・支援について触れます。

  ア 吃音とは

 吃音の定義は定まったものがありませんが、確実にいえることは、話そうとする時に、同じ音が繰り返されたり、引き伸ばされたり、音がつまって出てこなかったりといった明確な言語症状(参照:本章第1節(2) )が現れるということです。脳、発語器官等、器質的に明確な根拠は認められません。誰でも、慌てたり緊張したりした時に上記の状態になることはありますが、それは吃音とはいいません。話す時に、顔をゆがめたり、手を動かしたりするなどの随伴症状を伴うこともあります。これは、吃音の症状から抜け出すためにしようとした動作が身に付いたものです。
さらに、吃音の問題は、こうした症状だけでなく、流暢に話せないことを予期し、話すことに不安をもち、回避するといったことが挙げられます。人や社会に対する恐怖、自己に対する否定感等、言語症状すなわち流暢に話せないことそのものの不便さはもとより、社会生活上の様々な問題を抱えることも少なくありません。このようなことから、吃音については言語症状だけはなく、言語症状があることによって生じる様々な問題も併せて考えることが大切です。

  イ 吃音の原因、発吃、治癒について

 吃音の原因は現在のところ未だ分かっていません。これまでに身体的な機能や素質等に関連を求める素因論、神経症説、学習説など様々な説が提唱されてきましたが、現在のところ吃音を説明できる決定的な原因は見いだされていません。したがって、現在、吃音のある児童生徒への指導に関して、原因に基づいた方法論が確立されているわけではありません。吃音の有病率は人口の約1%といわれています。女性よりも男性に多いことも分かっています。発吃(吃音が始まること)の時期は3、4才に多く、ほとんどが幼児期です。しかし、小学校入学以降、あるいは中学生期以降の青年期に発吃する例も報告されています。幼児期の吃音は自然治癒(何もしないで自然に吃音が消失すること)の確率が高いのですが、小学校入学以降では低いといわれています。治癒する場合とそうでない場合の特徴は分かっておらず、治癒の予測は現在のところ困難です。吃音は、自然治癒、指導による治癒も含め、治癒する場合もしない場合もあり、見通しがもちにくいところに特徴があります。

  ウ その他、吃音の一般的特徴

 吃音の症状は個人差が大きいのですが、一般的に共通している特徴もあります。まず、症状が目立つ時期と比較的目立たない時期の波があることです。波の現れ方も様々で、治ったと思っていたらまた症状が現れるというようなこともあります。症状の波に一喜一憂するのではなく、吃音の特徴としてとらえ、波に翻弄されないようにすることも大切です。また、吃音の症状は、他者と一緒に話す時、何か音を聞きながら話す時、いつもとは異なった話し方をする時などに減少すること、さらに、人によって異なりますが、苦手な音や場面があることなどが知られています。
吃音は発吃から時間が経過すると変化します。一般的に言語症状は、連発の症状から伸発、難発へと移行し、本人の意識は、吃音を気にしないで話す状態から、吃音を隠す、避けようとする状態へと移行します。しかしこの吃音の進展については個人差が大きく、言語症状と本人の意識が一致しているとも限りません。自分の話し方が他者によく評価されない経験の蓄積は、症状や意識の進展に関係すると考えられています。

  エ 吃音のある児童生徒への指導・支援

 これまでに述べたことからも分かるように、現在のところ吃音症状を確実に治癒できる指導法はありません。結果的に治癒する場合はありますが、吃音症状が完全には消失しないことも踏まえて、言語症状・話し方の改善に向けての指導だけでなく、吃音の症状をうまくコントロールする、吃音症状はあってもコミュニケーション意欲や表現力を高める、自分に自信を付ける、自己肯定感を高める等の指導、更には周囲への啓発等も含めて、指導・支援を多面的にとらえることが大切です。

   (ア)言語症状への指導・支援

  •  a 自由な雰囲気で楽に話すことを経験させる指導
    吃音のある児童生徒にとって、自分の言いたいことを楽に話せた、分かってもらえたという満足感をたくさん味わわせるようにします。話すことに対する意欲や、人と話す楽しさ、話しやすさなどは周囲の受け止め方によっても随分異なります。したがって、吃音により話しにくさを抱えている児童生徒にとって、吃音症状が出ないように気を付けるのではなく、症状を伴いながらも、楽しく受容的な雰囲気の中で、楽に話をする経験を積むことが必要になります。すなわち、話し方に注意を向けるのではなく、話す内容に注意を向け、話したいことを話すということです。この場合、指導者、聞き手に求められることは、話し手と同様に、話し方に注意を向けて聞くのではなく、話そうとしている内容に注意を向け、話し手が話したいと思えるような、楽しい雰囲気を作るということになります。児童生徒の好きな遊びなどを通して、指導者とのかかわりの中で主体的な発話を促すようにします。児童生徒と指導者が共通に好きな話題、夢中になって取り組める事柄を見付けるとよいでしょう。また、日々の日常生活の中での様々な出来事やその時の思いなど、児童生徒が何でも話せるような状況を作ることも大切です。
  • b 流暢に話せたという自信を体験させる指導
    児童生徒によっては、流暢に話せたという経験をもたせることで、自信につながり話す意欲がわいたり、症状にもよい変化をもたらしたりすることがあります。例えば、国語教材などを一緒に読む、リズムを付けて読むといったことで、流暢性が得られる場合があります。ただし、ここで得られる流暢性は一時的な効果に止まることが多いので、結果として期待通りにならないことの強調や、自己否定に陥らないように留意する必要があります。ほかに、流暢性をねらった指導としては、速度を変えて読む、変わった読み方をする(例えば、お経読み、ロボット読み等)、ゆっくり話す(例えば、おばあさんに話しかけるように等)などがあります。
  • c 楽に、流暢にどもる指導
    緊張の高い難発症状、強い予期不安を伴う児童生徒にとっては、苦しい吃音ではなく、楽な吃音にする、すなわち楽にどもることの指導も有効な場合があります。いわば、わざと楽にどもることで、苦しい吃音症状が現れるのを防止するというものです。基本的には苦しい話し方(難発)を楽な話し方(連発、伸発)に変えるものです。具体的には、吃音のない普通の話し方、連発などの軽い吃音を含む楽な話し方、難発を含む重い話し方の3種類の話し方を提示し、吃音に楽な話し方と苦しい話し方があることを理解させた後、単語をわざと楽に吃る練習をします。そして実際に、難発や強い予期不安が生じた時に利用できるようにするというものです。
    上記「b」も含めて、こうした話し方そのものに対する指導は、児童生徒が話す自信を得たり、少しでも話しやすい話し方を得たりすることにねらいがあり、児童生徒が吃音を治さなければいけないものとしてとらえてしまわないよう配慮する必要があります。吃音を治さなければいけないものととらえると、吃音のある自己を否定し、様々に自信をなくすことになりかねません。
  • d 難発の状態からの脱出法の指導
    児童生徒によっては難発の状態から抜け出す方法を指導することが必要な場合もあります。最初の音を引き伸ばして発音する方法や、口の構えを一度解消して始めからやり直すという方法、息を少しずつ出すようにして発音する方法などがあります。ただし、これらの方法は誰にでも有効というものではなく、個々に考える必要があります。
  • e 苦手な語や場面に対する緊張の解消
    児童生徒が特定の語や場面に対する苦手意識から、不安や恐怖を抱いている場合もあります。過去の失敗経験からもたらされていることが多く、その場面を設定し、繰り返し練習する、緊張の低い場面から高い場面へと段階的に練習する等、苦手な語や場面に対して自信を得る指導をすることが必要な場合もあります。

   (イ)コミュニケーションに関する指導

 コミュニケーションは話し手と聞き手の間で情報や情動を伝え合う作業であり、両者の共同作業といえます。したがって、コミュニケーションは話し手、聞き手のどちらか一方の問題ではなく、双方の関係の問題ともいえます。話し手と聞き手の間に通じやすい関係、共感関係を構築することが大切です。相手に伝えたい、分かってほしいという意欲・気持ち、相手の言いたいことや思いを理解したいという気持ちが大切です。そのような気持ちが生じるような関係を、児童生徒と指導者との間で築くことが必要です。コミュニケーションは流暢に話さなければ成立しないものではなく、相互の関係や意欲、気持ちが大切であることを理解させるようにします。
したがって、会話を十分楽しむこと、人の話の内容に耳を傾けること、どもっても言いたいことを伝えることが大切になります。どもらないように話すのではなく、どもってもより伝わる工夫、生きたおもしろい表現の工夫をすることなどが指導内容となり得ます。具体的な実践としては、演劇、詩の朗読、様々な声や話し方による会話・音読、実況アナウンス等の取組などが考えられます。

   (ウ)心理面に関する指導・支援

 吃音があることで話すことや人とのかかわりに自信をなくし、不安が生じたり失敗経験などから自己を肯定的にとらえられなくなるといった問題が生じる場合も多くあります。うまくいかないことをすべて吃音のせいだと考えたり、何事にも積極的になれず、逃避したりするといったことにもなります。吃音が児童生徒の生き方にまで負の影響を及ぼさないよう、肯定的な自己観を支えていくことが重要な指導・支援になります。
そのためにはまず、指導者が吃音を否定しないこと、吃音のある児童生徒のありのままを認め、どもることは悪いことではないことを伝えることが重要です。指導者が吃音を否定しては、児童生徒が吃音を、吃音のある自分を肯定することは困難です。さらに、児童生徒が吃音とうまく向き合う、付き合うことが大切になります。それには、指導者と児童生徒の間で吃音の話をする、吃音の話ができる雰囲気を作ることも必要です。自分の話し方について話題にするというのは難しい場合もありますが、日常生活の具体的な場面、出来事に関する思いなどを話している時に、結果的に吃音のことに触れられたりもします。吃音の話ができれば、具体的な場面での悩み、困っていることに対して、児童生徒と指導者が一緒に対策を考えることもでき、これが日常生活に有効に働き、自信を得ることにもつながります。個々の内面を十分踏まえて指導・支援を考える必要がありますが、吃音に関する本、話し方に関するゲーム、吃音の子どもが登場する物語などを利用して、児童生徒が自己の吃音をうまくとらえ、向き合えるよう支援するといった実践も考えられます。
また、他の吃音のある児童生徒と共通の指導の場を設定するなどして、同じ悩みをもつ仲間と出会う、語ることが、自信や勇気を得られるだけでなく、将来に向けて支え合っていく仲間を得ることにもなり重要な支援となります。さらに、児童生徒が得意なことを見付け、それを伸ばすことも自己肯定感を支える支援として重要と考えられます。

   (エ)家庭・通常の学級等、周囲への啓発

 吃音は周囲の態度・反応によっても左右されます。周囲がよい聞き手であると、症状にも、話す意欲等本人の気持ちの面でもよい影響が表れます。
家族や通常の学級の担任等、児童生徒の周囲に対して、吃音に対する正しい情報を提供することが必要です。どもると周囲が嫌な顔をする、悲しそうな顔をする、叱るといったことは吃音にとって悪影響を与えます。基本的には周囲によい聞き手になってもらうよう啓発することが重要です。また、家庭において吃音の話がオープンにできるような雰囲気を作ってもらえるようにすることも大切です。
保護者は我が子に吃音があるということで様々な不安、心配を抱えるのは当然です。指導者としてその不安に寄り添い、必要な情報を提供することに加え、他の吃音の児童生徒の保護者や、吃音者のグループなどを紹介することも支援の一つです。保護者同士あるいは吃音当事者から、様々な体験談や情報を得て、将来の見通しがもてたり、日常生活の上で安心感が得られたりすることも多く、貴重な支えになります。