ア 自閉症及びそれに類する障害のある児童生徒の場合


       自閉症は、米国精神医学会の分類と診断(DSM-Ⅳ-TR:2000)において、広汎性発達障害に分類されている自閉性障害に概ね相当しています(ただし、一般的には非定型な自閉症に相当する特定不能の広汎性発達障害を含めることが多いです)。広汎性発達障害とは、社会性の障害を中心とする発達障害の総称で、自閉症の上位概念と理解できます。近年では、自閉症スペクトラム障害(ASD)と呼ばれることもあります。また、ここでいう「広汎性」というのは、発達において全般的に不均一に現れている状態を意味しています。
       自閉症の基本的な障害特性として、(ア)社会性の障害、(イ)コミュニケーションの障害、(ウ)反復的で常同的な興味・行動の3つが挙げられています。自閉症の児童生徒には、社会性の障害や言語コミュニケーションの問題など、障害が広汎に渡り、しかも、できることと苦手なことに大きな差があるというアンバランスな状態がみられます。
       また、高機能自閉症とは、知的発達の遅れを伴わない自閉症を指します。同様に、アスペルガー障害(アスペルガー症候群)も知的発達の遅れを伴わない自閉症の仲間、広汎性発達障害の一つに分類されます。アスペルガー障害とは、上記3つの自閉症の主症状のうち、コミュニケーションの障害が軽微であるグループを指し、言語発達の遅れは少なく、全体的な知能は正常範囲にあります。なお、広汎性発達障害の児童生徒には、不器用な者が多いという特徴があります。
       それでは、上記に挙げた自閉症の3つの基本的な障害特性について、もう少し詳しく説明します。(ア)に関連して現れる行動特徴の例としては、一人遊びに没頭していたり、自分の好きなことを質問し続けたりするなどです。かかわり方が一方的で、ルールに従った遊びが難しく、仲間関係をつくったり、相手の気持ちを理解したりすることが困難なのです。(イ)に関連して現れてくる行動特徴の例としては、話し言葉やジェスチャーを示さず反響言語(エコラリア)だけを話す子がいる一方で、流暢ではあるが奇妙な言葉遣いをする児童生徒もいます。また、(ウ)に関連する行動特徴の例として、毎日同じ色の服を着る、日課や物の配置、道順などがいつも同じであることに強く固執することが挙げられます。体を前後に揺すったり、手をひらひらさせたりするなどの常同行動を見せることもあります。また、自己を刺激する行動として、時には、手をかんだり、頭を何かにぶつけたりするといった自傷行動が見られることもあります。
       なお、これらの常同行動や自傷行動は、重度の知的障害のある児童生徒や大人でも見られます。

自閉症(自閉性障害)の特徴
                   図1 自閉症(自閉性障害)の特徴

これらの三つの基本的な障害特性に加えて、「感覚知覚の過敏性・過度の鈍感性」「刺激の過剰選択性」、「知能テストの項目に著しいアンバランス」が見られることなどが指摘されています(Schuler、 1995)。
      感覚知覚の過敏性や過度の鈍感性は、個人差はありますが、多くの自閉症の児童生徒に見られますが、その現れ方は多様です。例えば、普通は不快であると感じるガラスを爪でひっかいたような音には平気だったりする反面、特定の人の声や、教室内の雑音には極端な恐怖を示したりすることがあります。人に触られることを嫌がったり、怪我をしても痛みを感じたりしていないように見えることもあります。また、おそらく一般の児童生徒は興味を示さないと思われる銀紙やセロファンなどの光る物、換気扇や扇風機などの回転する物に強い興味を示す児童生徒もいます。
      感覚知覚の過敏性や過度の鈍感性は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの様々な感覚において見られます。自身も自閉症であるTemple Grandin氏は、「幼い頃、人々が私を抱きしめた時、私を圧倒せんばかりの刺激の大波がやってきて、私の体中にあふれかえった(Grandin、1995)。」と記しています。さらに、パニックなどの問題行動の原因の多くは、感覚が鋭敏すぎることによって引き起こされている可能性があると指摘しています。問題行動を回避するためにも、どのような物に対して、どの感覚の過敏性や過度の鈍感性が見られるのか、良く観察し実態把握しておく必要があります。
      また、「刺激の過剰選択性」とは、事物のある一つの刺激要素だけに、いつでも同じ反応することや、ある一つの刺激要素でしか物事を捉えていない状態を指します。例えば、あごひげを生やした人には誰でも「パパ」と言ってしまったり、あるいは、父親がメガネを外してしまうと、父親はどこかへ消えてしまったような反応を示したりすることがあります。父親という刺激には、男性、親、顔の特徴(ひげがある、メガネをかけている)など様々な多次元的な要素が含まれていますが、その一つにだけ反応することがあるのです。
      学習時に、「形」と「色」の二つの属性でマッチングを考えねばならない場面において、自閉症の児童生徒の中には混乱してしまう子どもがいます。これも「刺激の過剰選択性」を背景にして起こっていると考えられます(なお、これらの「刺激の過剰選択性」に関する現象はシングルフォーカスという用語で説明されることもあります)。
      この「刺激の過剰選択性」は、社会的行動、言語の習得、新しい行動の習得、そして学習したことの般化に重大なマイナスの影響を与えていると考えられています(Rosenblatt、Bloom、 Koegel、 1995)。こうした影響を防ぐために、Rosenblatt、Bloom、 Koegel(1995)は、課題の刺激要素を一つずつ与えるのではなく、常に多次元の刺激要素を同時に処理するような指導、つまり、二つ以上の手掛かりに反応する(例えば、「青色はどれ?」ではなく、「青いセーターを着なさい」ということ)ことを求めるような指導が適切であると提言しています。
      最後に、「知能テストの項目に著しいアンバランス」が見られることに関しては、様々な研究が報告されています(DeMyer、 1975; Prior、 1979)。自閉症の多くの者は、知的発達に遅れを示すことが知られています。一般に、知的障害のある児童生徒は、各下位検査間であまり偏りはなく、全般的に一様な遅れを示すのに対して、自閉症の児童生徒は、言語性の下位検査に比べて動作性の検査の成績が良い傾向があり、例えば、見本を見て同じように何かを組み合わせるなどの問題で成績が良いことが指摘されています。ですから、ジグソーパズルや型はめ、見本を見て積み木を構成するような空間構成課題が得意であり、さらには、メロディの再認や再生など、視覚であれ聴覚であれ、情報をそのまま記憶することに優れた能力をもっています(Prior、 1979)。このことから、様々な指導の際に、視覚的な手掛かりを提示することが有効であると指摘できます。
      自閉症の児童生徒の実態把握には、一般的な知能検査や発達検査のほか(全訂版田中ビネー知能検査、WISC-Ⅲ、新版K式発達検査など)、自閉症及び関連する障害のための「自閉症児・発達障害児教育診断検査(PEP-3)」があります。行動面や社会性については、自閉症を対象とした精研式CLAC-Ⅱ、精研式CLAC-Ⅳなどがあります。
      自閉症の大まかな特徴について述べてきましたが、自閉症の臨床像は、知的能力や年齢によって、個々人の間でも、あるいは個人の経過の中でも多様であることが分かっています。検査等に加えて、さらに行動観察などを併せて行い、自閉症の児童生徒の知的発達のレベルや、言語面、社会・対人面、運動面などや、障害特性について、その児童生徒独自の情報を集めて実態把握を行うことが大切です。

  イ 主として心理的な要因による情緒障害のある児童生徒の場合


       杉山(2000)によれば、主として心理的な要因による情緒障害に関して、具体的に生じる行動の問題を分類すると以下のようになります。
        (1) 食事の問題(拒食、過食、異食など)
        (2) 睡眠の問題(不眠、不規則な睡眠習慣など)
        (3) 排泄の問題(夜尿、失禁など)
        (4) 性的問題(性への関心や対象の問題など)
         (5)神経性習癖(チック、髪いじり、爪かみなど)
         (6)対人関係の問題(引っ込み思案、孤立、不人気、いじめなど)
         (7)学業不振
         (8)不登校
         (9)反社会的傾向(虚言癖、粗暴行為、攻撃傾向など)
        (10)非行(怠学、窃盗、暴走行為など)
        (11)情緒不安定(多動、興奮傾向、かんしゃく癖など)
        (12)言語の問題(吃音、言語発達遅滞など)
        (13)選択性かん黙、
        (14)無気力
       これらの具体的な行動上の問題は、いくつかが組み合わさって現れることがほとんどです。例えば、日常的に失敗経験が多く、叱責を受けることが多い児童生徒は、行動が抑制されて無気力な状況が生じやすくなります。その結果、学校内での孤立や学業不振、あるいは怠学といった問題が生じることがあります。児童生徒がどのような発達段階にあり、周囲がどのようにかかわっていたかによって、生じる問題も異なってきます。したがって、情緒障害があるかどうかを判断する際には、具体的に現れている問題行動だけでなく、周囲の環境とどのような相互作用が起きているのかを分析することが重要です。
       ここでは、情緒障害の代表的な例として、選択性かん黙について取り上げます。
      選択性かん黙とは、言語中枢や発声器官に障害が認められないのにもかかわらず、発語や発話がない状態のことを指します。全く話をしない状態から、小さな声では話ができる状態まで、その程度は様々ですが、例えば、家庭内や近隣など、ある限られた場面では会話が可能なところに特徴があります。
       加藤(1989)によると、選択性かん黙児の心理的特徴として、未成熟な人格、非社会性、自主性の欠如、非協調性、自己統制の不足、依存的傾向(浪花、1983)、過敏、臆病、恥ずかしがり、頑固(流王、1971; 大井、 1983)といった特徴が挙げられています。そして、これらの性格特性が直接的に、ないしは間接的にかん黙症状の発現と維持に関与していることが指摘されています。 
       かん黙の実態把握については、かん黙場面の範囲、筋肉緊張の程度、発症時期と症状の持続期間、発症原因についてアセスメントすることが重要です。