自閉症・情緒障害特別支援学級は小学校及び中学校に設置されていることから、教育課程の編成は、原則的には小学校又は中学校の学習指導要領によることになります。しかし、対象とする児童生徒の実態から、小学校又は中学校の通常の学級における学習には困難が伴うため、前述したように、特別支援学級の教育課程については、学校教育法施行規則第140条に基づき、特別の教育課程を編成することができることになっています。この場合、学級の実態や児童生徒の障害の状態等を考慮の上、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考にするなど、実情に合った教育課程を編成することになります。
自閉症・情緒障害特別支援学級の対象は、(1) 自閉症又はそれに類するもの、(2) 主として心理的な要因による選択性かん黙等のあるもののうち、その障害により、社会的適応が困難になり、学校などで集団生活や学習活動に支障のある行動上の問題を有する児童生徒です。したがって、自閉症・情緒障害特別支援学級の主目的は、自閉症や心理的な要因による選択性かん黙などによる適応困難の改善です。
そのため、自閉症・情緒障害特別支援学級では、情緒の安定を図り、円滑に集団に適応していくことなどができるようにするために、多様な状態に応じた指導を行うことが大切です。基本的な生活習慣の確立を図ること、適切に意思の交換を図ること、円滑な対人関係を築く方法を獲得すること、目標をもって学習に取り組むこと、不登校等による学習上の空白を埋め基礎的・基本的な学力を身に付けることなど、個々の児童生徒によって指導目標や指導内容・方法が異なってきます。
特に、自閉症やそれに類するもの(以下、自閉症等という。)と、主として心理的な要因の関与が大きい場合とでは、それぞれの原因や指導内容・方法、学習環境の調整の仕方が大きく異なります。それぞれの指導が適切にできるようにするなど、配慮と工夫が必要です。
自閉症等があるために、意思疎通や対人関係、行動に問題が認められ、通常の学級での学習では成果を上げることが困難である児童生徒に対しては、特別な教育内容・方法による指導を必要としますが、その際、学校教育法施行令第22条の3の知的障害者の項に達しない程度の知的障害を併せ有する場合は、障害の状態に応じて知的障害特別支援学級における教育を受けることについても検討する必要があります。
選択性かん黙、不登校などは、その状態の的確な把握や原因の究明等がかなり困難な場合もあるので、その教育内容や方法については、情緒や社会的適応の状態を十分に考慮し、医療・相談機関等との連携を密にして、慎重に進める必要があります。それらの児童生徒の状態に応じては、適応指導教室等における対応が適切である場合もあります。特に、中学校段階からは、成人と同じような不安神経症、強迫神経症などの状態を示す者も見られるので、関係諸機関との連携を十分に図る必要があります。
自閉症や情緒障害のある児童生徒が知的障害や病弱などを伴っている場合には、それぞれの状態に応じて、知的障害特別支援学級、特別支援学校(知的障害)、病弱特別支援学級、特別支援学校(病弱)などにおいて教育を受けることを考慮する必要があります。
小学校に設置されている自閉症・情緒障害特別支援学級の多くは、自閉症等への対応を中心に指導が行われており、主として心理的な要因によるものについては、情緒障害児短期治療施設や病院(精神科等)などに設置されている特別支援学級等において対応している場合があります。また、中学校に設置されている自閉症・情緒障害特別支援学級では、自閉症等への対応を中心とする学級もありますが、不登校や選択性かん黙などの生徒を中心としている学級も小学校に比較して多く見られます。
自閉症や情緒障害のある児童生徒への各教科等の指導に当たっては、特別支援学校学習指導要領における自立活動を取り入れるともに、自閉症等のある児童生徒は、生活技能が十分に身に付いていないことが多く見られることから、特別支援学校(知的障害)の各教科等や指導方法を参考にします。不登校等のために、学習に空白が生じていることがあることから、指導内容を下学年の内容に替えたり、基礎的・基本的な内容を重視して精選したりするなどしていきます。

  ア 日常生活習慣の形成のための指導


日常生活における生活習慣を身に付けることは社会生活の基本であり、自閉症・情緒障害特別支援学級では、食事、排泄、衣服の着脱などの指導を学校生活の中で行います。発達的な観点を考慮し、例えば、食事領域では、「スプーンやフォークで食べる」「箸を使って食べる」「スプーンやフォーク、箸を使い分ける」「マナーを守って食べる」など、段階的に指導目標を立てていきます。
自閉症等のある児童生徒は、発達の遅れによる技能の習得の困難さよりも、「箸が使えるのに手を使ってしまう」「勝手に人のものを食べる」などの社会生活における判断力の弱さや衝動的な行動が見られ、「極端な偏食や異食」「場所が変わると食べられない」などの固執性、「靴下や帽子、手袋などを特に嫌がる」「洗面や歯磨きができない」など、刺激に対する過敏性などが障害特性に起因する困難さとして多くの課題になります。
それまでの生活や学習において、課題解決の際に失敗したことがあったり、不快な体験をしていたりする場合は、それらの課題に対して強い抵抗感をもっていることが良く見られます。そのため、できるだけ失敗をさせないように、環境面の配慮を十分に行い、スモールステップで小さな目標を少しずつ達成していくことができるように配慮します。
やり方や手順を書いたメモを用意するなど、視覚的な手掛かりがあると、活動の内容がわかりやすくなります。一日の学校生活の流れを理解できるようにしたり、日課等をわかりやすくしたりすることは、活動内容の見通しがもちやすく、心理的にも安定した取り組みにつながります。
達成できたことはこまめに評価し、○印を付したり好みのシールを貼ったりするなど、視覚的にフィードバックしていくことができるように工夫していきます。
また、同じ活動が家庭ではできるのに学校ではできない場合などもあります。日常生活習慣は、特に学校と家庭との連携を密にすることによって、より確実に身に付けることができていきます。取り組む課題について共通の認識をもち、事前に対象となる児童生徒の特徴について十分な情報交換をすることが大切です。家庭で使用している用具を学校にもってきてもらったり、似たような状況を設定したりすることを検討することも必要です。

  イ 運動機能、感覚機能を高めるための指導


運動機能、感覚機能を高めるための指導は、運動発達や知覚の発達の基礎となり、情緒の安定や言語の発達、時間・空間等の概念形成にもつながっていきます。
動作の模倣、遊具や道具を使った運動などにより、自ら身体を動かそうとする意欲を育て、協応動作等の運動機能の調和的発達を図るように指導を進めます。
特に、視覚、触覚などを正しく活用することにより、目的のある行動を形成することをねらいとし、さらに、教材・教具を工夫するなど指導方法に留意が必要です。
自閉症等の児童生徒は個人差もありますが、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの感覚刺激に対して、過敏性等の問題がある場合があります。これらの感覚知覚の問題が、日常の生活環境において不安や苦痛の原因となっていることもあるので、過敏性等への対応には十分に配慮する必要があります。できるだけ不安を軽減できる環境を工夫し、改善に向けて自己調整ができるように指導していくことが大切です。

  ウ 言葉の内容を理解するための指導


人の声に注意を向ける、人の話を聞く、返事やあいさつをするなどの必要な態度を形成し、人とのかかわりを深めるための基礎をつくることをねらいとして指導を進めます。注意力や集中力を身に付け、言葉を理解するとともに、実際の生活に必要な言葉を適切に使用できるようにコミュニケーションの指導を行います。
コミュニケーションには、自分の意思や要求を相手に伝えるものと、周囲から何を要求されているのかを理解することの二つの面があります。
特に、周囲や社会から何を要求されているのかを理解することは、社会生活を営む上で重要になってきます。相手とコミュニケーションする手段には、サイン、絵カード、写真、文字、ジェスチャー、表情など、様々なものがあります。これらの手段を使って、必要最低限の相手とのやりとりができるようにしていきます。そのためには、どのような手段を使うことができるかを確認して、その内容を深めていくことが大切です。
例えば、模型の電話やマイクを使って話すことなどの場面の設定、創意工夫された絵カードや文字カードなどの教材・教具等を活用しながら、自分の気持ちを相手に適切に伝える方法を指導するとともに、相手に伝えることができるという経験をたくさん積むことが、コミュニケーションの能力を高めていきます。
コミュニケーションの指導においても、児童生徒の日常生活が自然な形で展開されていくことを支援していく姿勢が望まれます。音声言語は、日常生活の中で、家族や身近な人たちと自然なやりとりが可能な手段です。絵カードや写真、身振り・サインなどの音声言語以外のコミュニケーションの手段を用いる場合も、周囲の多くの人たちが日常用いているコミュニケーションの手段に接していることは大切です。

  エ 人とのかかわりを深めるための指導


人とのかかわりの中に存在するルールや社会性を指導することは、社会的な自立に向けて必須なものとなります。人が関与しなくても獲得できる知識や技術とは異なり、社会性は人とのかかわりでのみ獲得されていきます。
人とのかかわりが苦手な児童生徒に対して、強引に他の児童生徒と一緒の集団活動に参加させることは、人とのかかわりの困難さを強くしてしまいがちです。大人との一対一の関係の構築から始めて、少しずつ小集団の児童生徒との関係に広げていくようにします。
一日の生活リズムや時間割に沿って活動する習慣が身についてくると、学級の環境が分かり、活動の見通しをもつことができるため、情緒が安定して活動に参加することができるようになります。「いつ」「どこで」する活動なのか、場や時間の設定を明確にしたり、「何をしなければならないのか」「期待されている活動はどのようなことか」など、活動の内容をわかりやすく伝えたりして指導することが大切です。
安定した環境の中で、他の児童生徒や教員と一緒に活動する喜びや楽しさを味わい、集団の雰囲気に慣れることをねらいとした指導を行います。例えば、動作の模倣、遊び、劇、係活動などいろいろな活動を通じて、集団での役割を理解し、相手の立場が理解できるようにすることなどがあります。
また、一人一人の児童の学習の状況等に応じて、通常の学級での授業や特別活動に参加して交流及び共同学習を進め、人間的なふれあいを深め、集団参加が円滑にできるようきめ細かな配慮を行います。