ア LDの特性に応じた指導


LDのある児童生徒には、学力全般にわたる遅れはありません。しかし、「聞く」、「話す」、「読む」、「書く」、「計算する又は推論する」などの学習の特 定の領域につまずきが見られます。例えば、会話は学年相当以上にできても、読みはできないといった不均一な特徴です。
LDのある児童生徒のつまずきの背景には、知覚、注意、記憶、思考などの様々な認知過程の問題が関与していると推定されています。したがって、LDの児童 生徒に対してどのような指導が有効であるかを検討するためには、このようなつまずきの背景にある認知過程を把握し、個々に応じた学習の仕方を探っていくこ とが重要といわれています。
具体的には、LDのある児童生徒のつまずき要因がどのようなタイプであるかということに加え、得意としていることが何であるかを検討することが大切です。 例えば、「聞く」ことにつまずきを示す子どもの中には、集中して聞いたり、聞いて意味を理解したりすることが苦手でも、見て理解することが得意な児童生徒 がいます。このような児童生徒においては、言葉よりも絵などを利用して視覚的に情報を提供することで、内容の理解や注意の持続が改善されることがありま す。また、「書く」ことにつまずきを示す児童生徒の中には、目で見て理解することが苦手でも、聞いて理解することが得意な児童生徒がいます。このような児 童生徒では、先例の児童生徒とは反対に、絵などの視覚的な情報よりも、言葉で聞くなど聴覚的な情報を提供する方が有効なことがあります。
このように、LDのある児童生徒が苦手としていることであっても、それを得意な処理過程に置き換えることにより、他の児童生徒と同じような学習の内容に取 りかかることができます。

  イ ADHDの特性に応じた指導


ADHDのある児童生徒には、周りのことが気になって勉強に集中できないなどの不注意の問題、突然話はじめてしまうなどの衝動性の問題、ソワソワして座っ て話を聞いていられないなどの多動の問題が顕著に見られます。
ADHDのある児童生徒のつまずきの背景には、セルフコントロールの問題があるといわれています。彼らは、行動の結果や遠い将来のことを予測して、コツコ ツと計画的に目的を達成していくことが苦手なのです。時々、周りの人には、不適切な行動を「わざとやっている」という印象を与えますが、実際に本人にはそ のような意地悪な気持ちはありません。むしろ、うまくセルフコントロールできない故に、「やってはいけない」と分かっていることも「やめられない」ので す。したがって、そのような行動に対して厳しく叱責したり、強制的にそれを抑えたりしても問題の根本的な解決にはつながりません。大切なことは、セルフコ ントロールできないで苦しんでいる彼らの特性を十分に理解することです。
ADHDのある児童生徒への主な指導の一つとして、環境調整があります。これは、児童生徒のセルフコントロールを助ける枠組みや手掛かりを提供す ることを指しています。例えば、注意の持続が短い児童生徒の場合、一回の課題時間を短くして繰り返し課題を行うようにすると、集中しやすいことがありま す。また、彼らは、比較的すぐに結果や評価を求める傾向があり、即時的に、かつ頻繁に賞賛を与えていくことで目標の達成につながることもあります。また、 立って活動してもよいといった条件をうまく利用することで、多動などの調整も可能です。このように枠組みや手掛かりを提供すると、セルフコントロールの苦 手なADHDのある児童生徒も周囲の要求に十分適応できます。
一方で、環境調整は、どのような状況でも望めるわけではありません。ADHDのある児童生徒が学校や社会の様々な場面に柔軟に適応していくために は、自身のセルフコントロールの力を高めていく指導も大切です。具体的には、望ましい行動や結果など将来のことを見据えて計画を立てたり(プランニン グ)、あるいは、ビデオなどを使って実際の自分自身の行動や周囲の状況を振り返ったりすること(モニタリング)など、セルフコントロールにかかわる知識、 スキル、そして、それらの運用の仕方を整理して学習していくことが効果的なようです。
以上のことのほかに、一部のADHDには、薬物治療が有効であることが知られています。医療との連携を図り、薬物治療の可能性を検討することも重 要な視点の一つです。

  ウ 高機能自閉症等の特性に応じた指導


高機能自閉症、あるいはアスペルガー障害のある児童生徒は、社会的な相互交渉の問題やコミュニケーションの問題など対人関係を維持することに顕著なつまず きを示します。また、これに加え、極端に限定された興味/関心、あるいは独特な認知/感覚が、学校生活での不安を高め、適応を難しくしていることがありま す。ここでは、これらの特性を踏まえて、「不安の軽減」と「社会的スキル」の二つの指導を述べます。

   (ア)不安の軽減

高機能自閉症等のある児童生徒は、障害のない児童生徒が何も感じないような状況で不安を感じることがしばしばあります。例えば、日課や教室内の環境の変更 を受け入れられなかったり、大きな音など特定の感覚刺激を避けたり、さらには集団の中にいることにさえ耐えられなかったりすることもあります。
このような不安を軽減するためには、まず、何が不安を引き起こしているのか、その「引き金」をきちんと考えてみましょう。そして、予想外の出来事が起こら ないようにできる限り見通しのもてる環境作りをします。集団の中に無理に誘うといった無理強いは望ましくありません。また、不安に対処できるように、安心 が得られる避難場所を確保しておくことも必要です。さらに、彼らは、激しい感情や常同行動などの不適切な行動でしか、自身の不安な状態を表現できないこと があります。不安が起こった時には、それを厳しく叱責したりせず、落ち着くまで待つといった辛抱強い対応により、彼らの不安への理解を示すことも必要で しょう。しかし、どれだけ配慮しても、不安の引き金をすべて取り除けるわけではありません。予告した上での予定の変更や小集団活動などを利用して、段階的 に、様々な状況を受け入れられるように練習していくことも大切です。
不安の軽減は、すべての学習を進める上での前提となります。

   (イ)社会的スキル

高機能自閉症等のある児童生徒は、社会的な観念に無頓着なことが多く、言葉やジェスチャーの実用的な使い方を学習することが苦手です。結果として、集団活 動や会話など対人関係を維持することに顕著なつまずきを示します。
対人関係をより良く改善していくためには、社会的スキルの指導が重要と考えられています。まず、社会的なルールの理解や会話に必要な言語スキルがどの程度 獲得されているのかを正しく捉えておきましょう。彼らは、豊富な語彙をもっていて、大人のような話し方をすることがあるため、一見すると会話が成立してい るように見えることもありますが、実は、意味が分からないまま言葉を使っていることもしばしばあります。また、彼らは、「こういう時には、こうする」と いった典型的な場面での型にはまった知識やスキルの学習は比較的容易にできますが、例えば、相手の気持ちを読んで会話の継続を判断するなど、学習した知識 やスキルを様々な場面で応用していくことは苦手です。彼らが様々な場面で社会的スキルを発揮していけるようにするためには、指導の場や学習内容を段階的に 難易度の高いものにしていくなどの工夫が必要です。