特別支援学校の学習指導要領では、「自立活動の指導に当たっては、個々の児童又は生徒の障害の状態や発達の段階等の的確な把握に基づき、指導の目標及び指導内容を明確にし、個別の指導計画を作成するものとする。その際、六つの区分に示す内容の中からそれぞれに必要とする項目を選定し、それらを相互に関連付け、具体的に指導内容を設定するものとする。」と示されています。
自立活動の内容は、人間としての基本的な行動を遂行するために必要な要素と障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するために必要な要素を挙げ、それを分類・整理したものです。自立活動の六つの区分は、実際の指導を行う際の「指導内容のまとまり」を意味しているわけではありません。つまり、「健康の保持」、「心理的な安定」、「人間関係の形成」、「環境の把握」、「身体の動き」又は「コミュニケーション」のそれぞれの区分に従って指導計画が作成されることを意図しているわけではないことに留意する必要があります。
一方、「小・中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」(以下「ガイドライン」)では、「個別の指導計画は、児童生徒一人一人の障害の状態等に応じたきめ細かな指導が行えるよう、学校における教育課程や指導計画、当該児童生徒の個別の教育支援計画等を踏まえて、より具体的に児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して、指導目標や指導内容・方法等を盛り込んだもの」であるとしています。  
通級による指導の場合には、自立活動に基づく指導を行うことが必要となります。しかしながら、通常の学級での指導の場合、特に自立活動の項目に基づいて個別の指導計画を作成するよりも、ガイドラインに示されているように、学校における教育課程や指導計画、当該児童生徒の個別の教育支援計画等を踏まえて、個別の指導計画を作成すればよいでしょう。ただし、特別支援学校の学習指導要領に示されているように、「個々の児童又は生徒の障害の状態や発達の段階等の的確な把握に基づき、指導の目標及び指導内容を明確にする。」「長期的及び短期的な観点から指導の目標を設定して、達成するために必要な指導内容を段階的に取り上げる。」「各教科、道徳、特別活動及び総合的な学習の時間の指導と密接な関連を保つようにし、組織的、計画的に指導が行われるようにする。」といったことに配慮して作成する必要があります。
個々の児童又は生徒の障害の状態を把握し、これに基づいて長期的及び短期的な観点から指導の目標を設定するなどの個別の指導計画の作成上の配慮は、通常の学級の担任から見ると、あまり経験したことのないことです。そのため個別の指導計画は、担任が一人で作成するのではなく、校内関係者との連携のもとに校内委員会で作成することになっています。校内委員会のメンバーには特別支援教育に精通した教員もいます。また必要があれば、学校外の専門家チームのメンバーや巡回相談員に相談することも可能です。

  ア 作成の手順


個別の指導計画の作成の手順や様式は,それぞれの学校が児童生徒の障害の状態や発達の段階等を考慮し,指導上最も効果が上がるように考えるべきものです。
個別の指導計画に基づく指導は,計画(Plan)-実践(Do)-評価(Check)-改善(Action)の過程で進めていく必要があります。まず、児童生徒の実態把握に基づき、長期的及び短期的な観点から目標(ねらい)を設定した上で、具体的な指導内容を検討して計画が作成されます。作成された計画に基づいた実践の過程においては、常に児童生徒の学習の状況を評価し指導の改善を図ることが求められます。さらに、評価を踏まえて見直された計画により、児童生徒にとってより適切な指導が展開されることになります。このように、個別の指導計画に基づく指導においては、計画、実践、評価、改善のサイクルを確立し,適切な指導を進めていくことが極めて重要になります。

  イ 実態把握


児童生徒の障害の状態は、一人一人異なっており、一人一人の指導内容や指導方法も異なってきます。そのため、個々の児童生徒について、障害の状態、発達や経験の程度、興味・関心、生活や学習環境などを的確に把握することが実態把握の目的になります。
実態把握の具体的な内容としては、病気等の有無や状態、生育歴、基本的な生活習慣、人やものとのかかわり、心理的な安定の状態、コミュニケーションの状態、対人関係や社会性の発達、身体機能、視機能、聴機能、知的発達や身体発育の状態、興味・関心、障害の理解に関すること、学習上の配慮事項や学力、特別な施設・設備や補助用具(機器を含む)の必要性、進路、家庭や地域の環境等様々なことが考えられます。
児童生徒の実態を的確に把握するに当たっては、保護者等からも生育歴や家庭生活の状況、教育に対する考えを聴くようにします。保護者から話を聴く際には、その心情に配慮し共感的な態度で接することが大切です。また、教育的立場からの実態把握ばかりでなく、心理学的な立場、医学的な立場からの情報を収集したり、児童生徒が支援を受けている福祉施設等からの情報を収集したりして実態把握を行うことも重要です。

  ウ 目標の設定

    
目標の設定において重要となる情報は実態把握から得られます。本人、保護者のニーズが高いかどうか、早急を要する事柄かどうか、児童生徒の現在の状態像にあっているかどうか、学校生活を円滑におくるために優先すべき事柄かどうか、二次的な障害への対応もしくは予防として重要な事柄かどうか、本人が意欲的に取り組める目標かどうかなどのことを考えながら、情報を整理し優先すべき長期的な目標を検討します。可能であれば、本人と一緒に優先すべき目標を設定するなどの方法を用いてもいいと思います。自分で決めた目標は目標達成への動機付けを高めるための有効な手立てとなります。
多くの場合、長期的な目標に1年後の姿を、短期的な目標には学期終了時の姿や単元終了時の姿などを想定します。長期的な目標を達成するためには,個々の児童生徒の実態に即して必要な指導内容を段階的,系統的に取り上げることが大切です。段階的に短期の指導の目標が達成され,それが長期の目標の達成につながるように設定するようにします。
重要なことは、長期的な目標では指導の意図や育てたい力を明確にすること、短期的な目標では達成すべき目標を具体的に記述すること、短期的な目標と長期的な目標のつながりを明確に意識すること、短期的な目標は日々の指導を積み重ねた結果であることを忘れないことです。そのため、これらの指導の目標には一貫した方向性が必要となります。指導の一貫性について考えるためには、短期的な目標や長期的な目標に向けて、より高次の課題・難易度の高い課題を解決できるようになるためのステップとして設定されているか、独力で実行するためのステップとして設定されているか、場面や反応が多様になるためのステップとして設定されているか、などのことを意識して作成するといいでしょう。また、下位の目標がすべて満たされることで上位の目標に到達できる場合もあります。この場合には、並列的に目標が並ぶことになります。
目標が短期になればなるほど児童生徒対してより具体的な目標を設定し、評価できる目標にすることが求められます。例えば「学習の準備をする」よりも、「授業前にリストを見て学習に必要なものを友達と一緒に机の上に出す」の方がより具体的な目標です。次の段階として「授業前にリストを見て一人で必要なものを机の上に出す」というステップを考えることができます。また、目標を具体的にするには、「いつ、どんな時の目標なのかといった目標に沿った行動を求める時の条件」と「何を評価するのかが明確となっている行動水準」,また「達成の基準」が示される必要があります。条件は「○○した時」や「○○の支援がある時」などで記述されます。行動水準は「理解する」や「気付く」などの表現ではなく、「書く」や「線を引く」「口頭で答える」などの目で見える表現が望ましいといえます。「達成の基準」は、「8割以上」や「○分間」などと記述します。

  エ 具体的な指導内容の設定


指導の手立ては、児童生徒の実態把握から得られた情報を基に、児童生徒の特徴に応じて作成される必要があります。これは目標を達成するための具体的な方策です。ただし、短期的な目標が具体的に記述されていれば、その中に大枠となる手立ては記述されるようになります。日々の指導における目標を想定していれば、短期的な目標の手立ても段階的に考えられます。

  オ 協働を促すツールとしての活用

  
小中学校における指導では、「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」対応するのかを明確にし、関係する教員が共通理解をしておく必要があります。例えば、通級指導教室や特別支援学級の教員による指導を活用したり、オープン教室を設置して活用したりする場合があります。このような時には、それぞれの場でどのような目標が設定されているのか、通級指導教室等の指導における目標は通常の学級の指導にどのように関連付けられているのか、また通級による指導の成果や有効と思われる指導方法を通常の学級の中でどのように生かすのかなどを考え、目標の設定や指導の手立てを検討します。また、児童生徒が教室から出てしまった場合など担任一人では対応できない問題もあります。教室から出ないように配慮することは重要ですが、出てしまった場合に、「誰が」「どこで」「どのように」対応するのかを決めておく必要があります。このように複数の教員がかかわる必要がある場合、設定した目標と手立てに関する情報を共有し、誰が対応する時であっても一貫した手立てが適用されるように共通の理解をもって対応することが必要です。
個別の指導計画は、次の学年で担任が変わったり、進学や転学等があったりしても、適切な指導が一貫して行われるように、児童生徒の状態を引き継ぐ役割を果たします。引継ぎには、個別の指導計画を渡すだけではなく、話合いをもつことが重要です。個別の指導計画は、個人ファイルなどにより個々の児童生徒の指導記録を適切に管理し、記載された情報を共有することによって、関係教員間の協働を促す役割を果たすツールとして利用することができます。