メルマガ連載記事 「諸外国におけるインクルーシブ教育システム構築の状況」
第4回


韓国国立特殊教育院(KNISE)について

 生駒 良雄(企画部 総括研究員)
  

 本研究所では、平成28年1月21日(木)にインクルーシブ教育システムの構築に関する国際シンポジウムを開催します(参加募集は11月24日から開始しております)。
 このシンポジウムでは、基調講演に続いて、本研究所と協定を締結しているフランス国立特別支援教育高等研究所(INS-HEA)及び韓国国立特殊教育院 (KNISE)の専門家からの報告により、初等中等教育におけるインクルーシブ教育システム構築に向けた現状、課題を検討し、今後の展望を明らかにしていく予定です。本連載は、このシンポジウムの開催に向けたカウントダウン連載の形で、フランスと韓国の特別支援教育の状況や両国の特別支援教育のナショナルセンターについて、企画部の調査・国際担当職員が全7回で紹介していきます。第4回は、KNISEについて紹介します。
 

 韓国国立特殊教育院(KNISE)と韓国政府教育部との関係

 韓国においては、1977年に「特殊教育振興法」が制定され1979年に施行され ると当時の障害者向け初等教育を担っていた、特殊学校、特殊学級及びその他初等学校で提供される障害者向け教育が無償となりました。1988年ソウルパラリンピックをはさみ、1994年に同法が改正され、特殊教育対象者の初等学校課程、中学校課程は義務教育化されました。この改正時に、韓国政府の中央省庁である教育部(当時)は、特殊教育の研究、政策の開発、教育課程・教科書の開発を行う直轄機関として国立特殊教育院を設置しました。その後教育部は省庁再編で改組がありましたが、2013年3月の再編で発足した現在の教育部においてもKNISEは教育部の直轄機関となっています。
 特殊教育振興法は2007年に「特殊教育法」に全面改正され、幼稚園から高等学校までの特殊教育を義務教育とし、高等教育を受ける権利の確保についてはじめて規定しています。
 

 KNISEの組織

 韓国国立特殊教育院の現在の組織をスライドに示します。
 

CLIS

 KNISEの役割は、特殊教育の発展と障害者の生活の質向上を目的に特殊教育に関する研究・政策開発、教育課程及び教科書の開発、特殊教育担当教員の研修、特殊教育情報化事業の遂行としています。
 職員数は、院長を含め、2015年11月現在、46名となっています。
 各課の所掌は、以下の通りです。
 ○総務課:事務方として、庶務、経理、施設の業務を行います。
 ○企画研究課:①特殊教育の実態調査および政策・基礎研究、②特殊教育の診断および評価ツール開発、③特殊教育研究学術誌の発刊、国際および国内セミナーの開催など、④特殊教育拡散のための国内交流協力、⑤大韓民国特殊教育の世界化のための国際協力、を主として所掌しています。
  ・教育課程教科書チーム:特殊教育の教育課程および教科用図書の開発、普及を行います。
 ○研修課:①特殊教育の専門性向上のための研修運営、②遠隔教育研修院の運営および研修コンテンツの開発、を主として所掌しています。
  ・人権保護チーム:障害学生の人権保護および支援のための事業運営を行います。
 ○情報支援課:①障害学生の学習支援のための情報支援事業、②障害学生の情報化力量の強化及び情報格差の解消、を主として所掌しています。
  ・進路職業チーム:障害学生の進路・職業教育支援事業運営を行います。
  ・高等生涯教育チーム:障害学生の高等・生涯学習支援事業運営を行います。
 

 KNISEの事業、とくに研修事業について

 KNISEの主な事業は、①研修事業、②研究事業、③教育課程教科書事業、④情報支援事業、⑤人権保護・進路職業事業、⑥高等生涯教育事業に大別され、前節に示した組織図に沿った区分になっています。教育課程教科書事業では、教育課程の開発と研究だけでなく、教科用図書の作成も行います。研究事業では、ODAに係る国際協力も所管していまして、2015年8月には、KNISEはエクアドル政府の教育省との間で事業協力に係る了解覚書(MOU)を締結しています。研修事業は対象が日本のNISEと比べ対象が幅広になっていることから、ここでKNISEの研修事業の概要を紹介します。
 韓国政府の特殊教育担当教員現職研修は、国立特殊教育院、地方政府である市・道の教育研修院、大学校付設教員研修院で行われていますが、このうち、KNISEで実施されているのは、
 ・集合研修と遠隔通信研修
 ・幼稚・初等・中等教育・副専攻教育の研修
 ・職務研修、海外研修 
となります。 
 ○集合研修:31コース計画人員1,807人。
  ・資格研修3コース計画人員302人(特殊学校(幼稚)1級・特殊学校(初等)1級正教師研修など19日間)
  ・職務研修21コース計画人員1,150人(①教育研修院長・教育長向け、②校長・校監(日本でいう副校長を指す)・教育専門職(韓国でいう奨学官・奨学士などを指す)向け、③特殊学校特殊学級教員・(通常学級で実施する)統合教育の担任教員向け、④海外研修の事前研修対象者向けなど3日間)
  ・海外研修2コース計画人員65人(①特殊教育の専門家海外研修、②障害のある学生とその家族が参加する国外体験研修など9日間)
  ・その他研修5コース計画人員290人(①(韓国における)特殊教育支援センター常設モニター団向け、②障害のある学生の親向けなど2日間)
 ○遠隔通信研修:48コース計画人員15,644人。
  ・職務研修31コース計画人員11,844人(①教員・教育専門職向け、②統合教育の担任教員向け、③治療教育表示科目の変更者向けなど19日間)
  ・その他研修17コース計画人員3,800人(①教員・教育専門職向け、②特殊教育補助要員・関連要員向け、③障害のある学生の親向けなど12日間)計画人員は、合計79コース17,451人となっています。最長のコースであっても19日間となっています。
 ただし、これらのコースのなかには、集合研修にあっては、親研修3コース計90人として、「職業素養コース」「職業訓練コース」「親子共同創業コース」が設定され、また、遠隔通信研修にあっては、親研修3コース計300人として、「親が知っておくべき特殊教育概論」「家庭での障害学生支援策」「親が知っておくべき治療支援サービス」が設定されています。
 

 eスポーツへの取り組み

 eスポーツ(エレクトロニックスポーツ)とは、複数のプレーヤーが入力するテレビゲームについてスポーツ大会のように順位付けや勝敗を決める場合に用いられる用語で、米国、欧州、中国、韓国で主として実施されています。eスポーツは、障害者が参加可能であり、リハビリなどの分野での活用が期待されています。
 KNISEは韓国政府の外郭団体及び韓国企業との3者主催で、「国際障害学生招請eスポーツ交流戦」を企画し、2015年9月韓国ソウルにて、韓国、日本、台湾の対抗戦が開催されました。KNISEは、「障害学生の情報化力量の強化および情報格差の解消」の観点からeスポーツに取り組んでいます。
 

 日本との関係

 KNISEは、発足の翌年である1995年11月、本研究所との研究交流協定を締結しています。2001年から2012年まで12回にわたり二国間の特別支援教育に関するセミナーを開催して、協力して教員の研鑽につとめました。
 2007年12月には、筑波技術大学と研究交流協定を締結しています。

 (なお、本項において、韓国国立特殊教育院の研修事業に係る記述については、2013年12月20日に本研究所で実施された鄭 仁豪教授(筑波大学人間系)の講演「韓国特殊教育の現状と動向」を参考としました。それ以外の記述は、KNISEのホームページの2015年11月19日に閲覧した内容を訳出したものです。)

 次回は、韓国における障害のある子どもの教育についてご紹介します。
 

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