メルマガ連載記事「発達障害のある子どもも共に学び育つ通常の学級での授業・集団づくり」
第三回

学び方は一人一人ちがっている! 

~「学び方を学ぶ」授業と協同学習でユニバーサルデザインな学びをめざす(2)~

 涌井 恵 (教育情報部 主任研究員)

 
 発達障害のある子どもが共に学ぶ通常の学級における学級経営や授業づくりは、学校現場の喫緊の課題の一つとなっています。
 この連載(全6回)では、このような課題の解決の一つのヒントとして、子どもたちの学力、社会性、仲間関係の改善や向上に効果があると指摘されている「協同学習(cooperative learning)」による授業づくりや集団づくりの解説や実践例を紹介しています。
 前回の連載では、「学び方を学ぶ」授業について、その理論背景やその実際を紹介しました。この「学び方を学ぶ」授業を基盤におき、協同学習のなかに「学び方を学ぶ」授業で学び得たことを活用していくことで、一人一人の学びの多様性に柔軟に対応できる授業づくりが可能となります。また、一人一人の学びの多様性に柔軟に対応できる授業とは、近年話題になっているユニバーサルデザインな授業と言い換えることができます。筆者はこのような授業は、安心して自分を発揮できるクラス、そして違いを認め合い、自己効力感を育てるクラスへとつながっていくと考え、実践研究を行ってきました(図1に「学び方を学ぶ」授業を基盤にした協同学習とユニバーサルデザインな授業との関係を示しました)。
 そこで、今回は「学び方を学ぶ」授業で学んだことを協同学習の中で活かすことを目指した実践例をご紹介したいと思います。


図1 「学び方を学ぶ」授業を基盤にした協同学習とユニバーサルデザインな授業との関係

図1 「学び方を学ぶ」授業を基盤にした協同学習とユニバーサルデザインな授業との関係


 下記に紹介する実践は、 「学び方を学ぶ授業」をミニレッスン形式にして協同学習と組み合わせた実践で、漢字学習を題材に行ったものです。
 この実践では、一時間の授業スケジュールを次のように設定し、原則毎回同じスケジュールで漢字学習を進めました。その授業スケジュールとは、最初の15分ほどをとって「ミニレッスン」と称して「学び方を学ぶ」授業を行い、その後漢字についての協同学習(本実践では『学び合い』の手法により行いました)、漢字テスト、最後に、本時の「学び方」をふりかえり、次時の「学び方」を考えるふりかえりを行うというものでした(図2)。原則毎回同じスケジュールにしたのは、子どもたちに見通しを付けやすくさせるためです。さらに、スケジュールはミニ黒板で子どもたちに見通しがつくように、いつも掲示されていました(写真1)。
 

図2 授業スケジュール

図2 授業スケジュール
 

写真1 実際に黒板に掲示したスケジュール

写真1 実際に黒板に掲示したスケジュール
 

  ミニレッスンでは、漢字の憶え方にはどんな方法があるかクラスで出し合った後、それをマルチ知能のピザ[Armstrong(2000)を参考にして作成]からマインドマップ状に枝を伸ばし、図示することもやりました。毎回毎回のミニレッスンで学んだことを、少しずつ書き足していき、最終的に図3のようになりました。
 

図3 ミニレッスン「学び方を学ぶ」で学んだことのまとめ

図3 ミニレッスン「学び方を学ぶ」で学んだことのまとめ


  漢字練習の『学び合い』(西川,2008)では、「みんなが合格点(前半は90点、後半は100点)をとる」という目標を達成することを子どもたちに求めました。ただし、特に班やグループを指定することなく、誰とでも、あるいは一人で学習してもよいという設定でした。最初は自分一人で練習して、後からみんなの様子を見に行く子もいれば、ペアやグループで問題を出し合うテスト方式で学習する子、難しいところを友達と言い合いながら学習する子など様々でした。「何度も見る」という方法で学習し、テストの点数も取れていた子もいました。また、注意集中の問題があるため、自分から隣の多目的教室(空き教室)で一人で学習することを選ぶ子もいました。
 漢字テストの後にはふりかえりとして、学びノートに①どんな方法で憶えたか、②次はどんな方法で憶えたいかを子どもたちに書いてもらいました。また後半からは、「ふりかえりシート」への記入も行いました。
 

図4 子どもたちの学びノートや「ふりかえりシート」の記述

図4 子どもたちの学びノートや「ふりかえりシート」の記述


  図4の子どもたちの学びノートや「ふりかえりシート」の記述結果から、子どもたちそれぞれに、いろいろな学び方を自分で考え、やってみた結果も考慮して、次回の学び方を選んでいる様子が見とれます。また、これらの様子から、本当に学び方はさまざまであるなぁと実感できたと、担任の先生からの感想がありました。
 また、子どもたちの学びノートには、仲間意識や協同意識が伺われる記述もありました。例えば、AさんやB君は次のように記しています。

こんどはもっと多い人ずうでやって、みんながいい点をとれるようになりたい。なぜかというと、みんな(と)やった人はみんな100点とれてたから、80点とかだった人とやって100点みんなとれるようになりたい。こんどは20人くらい100点とりたい。(Aさん)

次は同じ列の人と多ぜいでやりたいです。なぜかというと、多ぜいの人とやった方が考えがいろいろあって、もっとじょうたつしそうだからです。あとほかの人の考えやしつ問をきけば、その人たち全員が100点をとれそうだからです。それと次はいけんやしつ問をみんな、どんどんいって苦手な人も楽しく、自身(自信)をもってやってほしいです。(B君)

※ 注:文中の( )内は著者が加筆したもの。
 

 この実践についてまとめると、マルチ知能や記憶について学んだ「学び方を学ぶ」授業を行ったことで、従来書いて憶えるのみといったやり方ではなく、多様な学び方を選べ、どの子どもも学びやすい授業を行うことができました。また、子どもたちには、人によって得意または苦手とするマルチ知能に違いがあることを知り、できないことは特別なことではないこと、また違いを当たり前と受け止めるという意識の変化がありました。このことで、注意集中のため別室(隣の空き教室)で勉強するということも、ごく自然に本人にも、他の子どもたちにも受け止められていました。別室で勉強していても、クラスの“みんな”と勉強しているという感覚はどの子どもたちも持っているようでした。これについては、協同学習で“みんな”で課題達成をすることを意識させてきたということもよい影響を与えていると思われます。
 担任の先生は特別な支援がとても自然にやりやすくなったと感想を述べています。通常学級で特別な支援を行う場合、周りからからかわれたり、ひいきだといわれたり、また本人のプライドや抵抗感があって、実施が難しい場合がありますが、本実践は、こういった問題を解決してくれるヒントとなるでしょう。 

 さて次回は、また別の実践例を紹介したいと思います。次回もどうぞお楽しみに♪
 

<文献>
1) Armstrong, T. (2000):Multiple Intelligences in the Classroom (2nd Ed.). ASCD publications, Verginia USA. 吉田新一郎訳(2002):「マルチ能力」が育む子どもの生きる力, 小学館.
2) 西川純 (2008) : 気になる子の指導に悩むあなたへ−学び合う特別支援教育, 東洋館出版社.


<謝辞>
 本原稿で紹介した実践研究は平成21~23年度文部科学省科学研究費補助金・若手研究(B) 課題番号21730730(研究代表者:涌井恵,発達障害児の在籍する通常学級における協同学習のユニバーサルデザイン化に関する研究)の助成を受けました。また、研究の実施にあたり、東京都杉並区の田中博司先生、青森県野辺地町の三浦真子先生、杉村徳子先生の協力を得ました。ここに記して謝意を表します。


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