メルマガ連載記事「発達障害のある子どもも共に学び育つ通常の学級での授業・集団づくり」
第四回

学び合い、支え合い、高め合う協同学習が成立するための条件

 涌井 恵 (教育情報部 主任研究員)

 
 発達障害のある子どもが共に学ぶ通常の学級における学級経営や授業づくりは、学校現場の喫緊の課題の一つとなっています。

 そこで、この連載(全6回)では、このような課題の解決の一つのヒントとして、子どもたちの学力、社会性、仲間関係の改善や向上に効果があると指摘されている「協同学習(cooperative learning)」による授業づくりや集団づくりの解説や実践例を紹介します。

 前回の連載では、「学び方を学ぶ」授業で学んだことを協同学習の中で活かすことを目指した実践例をご紹介しました。前回紹介した実践事例は、授業の一コマの中で、「学び方を学ぶ」授業と協同学習とを一緒に行うスタイルの事例でした。今回紹介する事例も、「学び方を学ぶ」授業で学んだことを協同学習の中で活用したり、応用したりすることを目指した実践ですが、それぞれを別々の時間枠で行ったというところが異なっています。今回紹介する事例では、「学び方を学ぶ」授業は学級活動の時間に行っていました。どちらのスタイルを取るかは、各自の学校・学級の事情に合わせればよいと思います。

 「学び方を学ぶ」授業の詳しい内容については、メルマガ第54 号(9月号)をご参照頂くとして、本記事では、どんな協同学習を行ったのかについてご紹介していきたいと思います。具体的には、運動会のダンスの練習を協同学習のスタイルで行った実践となります。そして、この実践をふりかえり、学び合い、支え合い、高め合う協同学習が成立するための条件や協同学習を進めていくプロセスについて考えたいと思います。

 それでは、まず運動会のダンスの練習について実践の様子について、詳しく見てことにしましょう。


1) 協同学習の実践~運動会のダンス練習~

この実践は、運動会のダンスの振り付けについて、学年全体で一通り練習した後に行いました。まず、ダンスに必要な能力について、マルチ知能のピザ(図1)に当てはめて確認しました。この時には「やるきちゅ(やる気、記憶、注意)」の学習は未だしていなかったので、マルチ知能のピザにある8つ力のみから選びました。子どもたちからは、「体」、「音楽」といった意見が出ました。このようにして、「学び方を学ぶ」授業で習ったこととダンスの練習が結びつくよう意識づけを行いました。
 

図1 マルチ知能のピザ

図1 マルチ知能のピザ


 その後、踊りが得意な人と不安な人が混じるようにして、4人のチームに分かれました。チーム毎に練習をしていきます。

 全員で踊って練習するチームや、得意な人と不安な人とペアになって練習するチームなど様々でした。膝を曲げるタイミングにうまく手拍子を合わせることができなかったAさんは、同じチームの男の子に一対一で教えてもらっていました。Aさんは、いつも自信がない感じで動作がワンテンポ遅く、気になる児童として名前が挙がっている子どもでした。

 しばらく二人の様子を見ていた担任の先生は、Aさんではなく、相手の男の子の方に指導に行きました。どのように教えたらよいのかをアドバイスしたのです。その後、Aさんはみるみる上達し、二人ともとってもいい笑顔で踊るようになりました。

 このように、協同学習では困っている子どもに直接指導するのではなく、ペアやチームでどのように助け合えばよいのかを教える、というのがポイントです。

 さて一方、普段から体の使い方がぎこちなく不器用でリズムに動作を合わせることが苦手なB君のチームでは・・・。

 てっきり自分は踊りが得意な人になるとばっかり思い込んでいたB君は、最初のチーム分けのところでへそを曲げてしまいました。他のメンバーが優しく声をかけてくれて、しぶしぶ踊ってはみるのですが、手拍子と動作のテンポがうまく合いません。B君は自分ができていなかったことに気づくことはできたのですが、それを受け容れることは難しくなかなか気持ちを持ち直すことはできませんでした。加えて、あまりにもB君の身体能力や協調運動の能力が低く、他の子どもたちもどうダンスをおしえたらいいのか困惑してしまって、教え合うというのは大変難しい状況でした。

 練習の最後に、まとめとしてクラス全員でダンスを踊ったところ、B君以外はみんなテンポがしっかり合い、手足がピンと伸びて切れがよく、とても上手に踊れました。

 この実践の後、担任の先生は、訂正されたり、やり直しをされられたりすることを極端に嫌うなどの発達障害のある子どもの個々の特性に配慮し、それに見合っためあてを設定することが大切だと気づかされましたと述べています。また、この解決策として、自分が教えた経験があれば他者から教えられるもの受け入れやすくなるだろうという考えから、協同学習の最初の学習内容は、気になる児童が得意なものを選ぶという工夫もあげて下さいました。

 上記の点以外に、協同学習をうまく成立させるためには、特に発達障害のある子どもなどが含まれる個人差の幅が広い集団では、目標とする達成基準をどのレベルにするのかが大変重要になります。実践が終わってからふりかえってみると、全員が100点満点の踊りを目指すのではなく、ある子どもは手拍子がそろうようにする、また別の子どもは○○のポーズの時に腕を真っすぐに伸ばすなど、個人毎に目標を決めて、それぞれの個人目標をグループの全員が達成できるよう助け合うという設定もあったかもしれません。

 ところでB君の後日談ですが、この授業のあと、今までずっと苦手だったラジオ体操を自分から練習したいと担任の先生のところへやってきたとのことです。B君がこうした気持ちになれたのは、グループ練習のときに他の子どもたちがB君を責めたりせずに、なんとかうまくできないかと四苦八苦して教えようと関わってくれたことも大きかったでしょう。できないことに傷ついたけれど、それを乗り越えて練習しようと前向きになれたB君と、そんな気持ちを育ててくれたクラスの子ども達に拍手を送りたいと思います。


2) 協同学習の5つの基本要素とうまくいくための工夫や配慮

 さて、前号、本号と協同学習の具体的な事例を紹介してきました。読者のみなさんには実践のイメージをつかんで頂けたと思いますので、この項では少し理論的なお話をしたいと思います。

 協同学習には、5つの基本要素(Johnson, Johnson, & Holubec, 1993)というのがあります。これは、協同学習が単なるグループ作業で終わることなく、本物の協同学習となるための大変重要な条件です。

 図2は5つの基本要素を図示したものです。この5つの基本要素とは、(1)互恵的な相互依存関係がある、(2)対面的なやりとりの機会がある、(3)個人の責任があり、明確である、(4)ソーシャルスキルや協同・協働スキルが教えられ、頻繁に活用しなければならない、(5)チームのふりかえりを行う、のことです。


図2 協同学習の5つの基本要素

図2 協同学習の5つの基本要素(Johnson, Johnson, & Holubec, 2002)の関係図(涌井, 2011)


 「互恵的な相互依存関係がある」とは、授業のめあて、教材、役割分担、評価や成果(例えば、でき上がった作品のほか、賞状、達成のごほうびシールなど)などについて、互いに協力を必要とするような関係、つまり「運命共同体」の関係を作ることを意味します(応用行動分析学ではこれを集団随伴性といいます)。「クラス(または班)の全員が課題をクリアする」、「班で各自が自分の役割を果たし、協力して壁新聞を作る」など、みんなで協力しないとできないような関係を設定することが必要です。

 「対面的なやりとりの機会がある」とは、実際に対面してこの問題はああだ、こうだと議論したり、教え合ったり、みとめ合ったり、ほめあったりできるような機会を設定しておくということです。「じゃあ、みんなで協力してやって下さい」と指示しても、実際は課題が難しすぎて、自分の課題(役割)にかかりっきりで、友達と考えを交流したり、教え合ったりする時間がほとんどない、というのは悪い例です。『学び合い』(西川,2006)では、45分授業場合、クラスのできる子2,3名が15分で解ける課題を設定するのが最も適している、としています。このように、課題の難易度やめあての設定と行った互恵的な相互依存関係とも関連してきます。そのため、図2では互恵的な相互依存関係の円と対面的なやりとりの円が一部重なるように配置されています。また、5つの要素のすべてが重なり合うように配置されていますが、これは他の要素もそれぞれ5つの要素と互いに重なり合った関連性をもっているということを示しています。

 「個人の責任があり、明確である」というのは、メンバーのいわゆる手抜きやさぼりを防ぐために必要です。例えば、班で新聞を作ることが課題なのに他のメンバーは作業せず遊んでいて、結局は班長一人で新聞を完成させたというのはよくないパターンです。一人一人がチームに貢献できるよう、やるべき役割分担や責任をはっきりさせます。

 「ソーシャルスキルや協同・協働スキルが教えられ、頻繁に活用しなければならない」というのは、ソーシャルスキルや協同・協働スキルは我々が生まれながらにして持っているものではないからです。相手の話を聞く、相手を非難したり攻撃せずに間違いを指摘する、意見が違っても建設的に話す、応援する、勇気づける・・・などチームで協同・協働して課題解決するために必要なスキルはいろいろあります。典型的な発達の子どもたち、特に高学年の子どもたちでしたら、特に教師が教えなくてもすでに何らかのソーシャルスキルや協同・協働スキルを持っているかもしれません。また、協同・協働スキルが上手な子どもの様子をみて自然に獲得していく(これをモデリングといいます。)、ということもあるでしょう。しかし、その場合でも、クラスでどんなソーシャルスキルや協同・協働スキルがあるのか出し合ったり、掲示したりするなどして、意識化していくことが大切です。
 
 「チームのふりかえりを行う」というのも、欠くことができない大切な要素です。どんな風に援助し合ったら、また協力し合ったらチームがうまくいったのかについてチームでふりかえる機会を設ける。このことで、仲間同士がうまく課題に取り組めるような関係を維持するよう意識させたり、チームの目標達成を喜び合ったり、チームメイトの積極的な行動を引き出したりすることができます。授業の中でふりかえりを行う場合もありますし、帰りの会を利用するという方法もあるでしょう。実際には、協同学習に取り組んだばかりの時期では、ふりかえりの時間を取ることが難しい場合もあるかもしれません。協同学習のやり方に徐々に慣れてきたら、導入するとよいです。
 
 今回紹介したダンスの事例を協同学習の5つの基本要素に照らし合わせてみてみると、4人のチームでダンスを上手く踊れるようにするという「互恵的な相互依存関係」がありました。そして、4人毎に対面してダンス練習し、やりとりする機会が設けられていました。「個人の責任」については、得意な人が教え、不安な人が教えてもらうという役割分担がありました。「ソーシャルスキルや協同スキル」については、担任の先生は教える役の子ども達に、どのように教えたらよいか声かけしたり、実際見本を見せたりして各チームを廻っていきました。今回は「チームのふりかえり」は行いませんでした。

 協同学習の手法を取り入れた授業をやってみたいと思われた方は、協同学習の5つの基本要素を軸に、授業の構成を考え、授業づくりしていくのがよいでしょう。『子どものソーシャルスキルとピアサポート―教師のためのインクルージョン・ガイドブック』(レイチェル ジャネイ, マーサ・E. スネル 著)にも授業づくりのためのステップやチームのふりかえりに使ったシートなどが掲載されています。さらに詳しく知りたい方はこちらもご覧下さい。また、研究協力して頂いた先生方からは、実践をやってみての感触として、体育や漢字学習、算数の九九の暗唱などは「体」、「絵(空間把握力)」、「音楽」、「人」など様々なマルチ知能を活用しやすく、「学び方を学ぶ」授業で学んだこと活かす協同学習がやりやすいと思われるということでした。

 さて次回は、障害のある子どもがチームメンバーの時の配慮点等について、掘り下げていきたいと考えています。次回もどうぞお楽しみに♪
 

<文献>
1) Armstrong, T. (2000) Multiple Intelligences in the Classroom (2nd Ed.). ASCD publications, Verginia USA. [吉田新一郎訳(2002)『「マルチ能力」が育む子どもの生きる力』 小学館.]
2) Janney, R. & Snell, M.E. (2006) Social Relationships and Peer Support. Paul H. Bookes Publishing Co., Baltimore, Maryland. 高野 久美子・涌井 恵 監訳(2011):子どものソーシャルスキルとピアサポート―教師のためのインクルージョン・ガイドブック, 金剛出版.
3) Johnson, D. W., & Johnson, R. T., & Holbec, E. J.(2002): Circles of Learning: Cooperation in the Classroom(4th ed.). Interaction Book Company. 石田裕久・梅原巳代子訳 (2010): 学習の輪 改訂新版―学び合いの協同教育入門, 二瓶社.
4) 西川純 (2008) : 気になる子の指導に悩むあなたへ−学び合う特別支援教育, 東洋館出版社.
 


<謝辞>
 本原稿で紹介した実践研究は平成21~23年度文部科学省科学研究費補助金・若手研究(B) 課題番号21730730(研究代表者:涌井恵,発達障害児の在籍する通常学級における協同学習のユニバーサルデザイン化に関する研究)の助成を受けました。また、研究の実施に当たり、東京都杉並区の田中博司先生、青森県野辺地町の三浦真子先生、杉村徳子先生の協力を得ました。ここに記して謝意を表します。


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