メルマガ連載記事「発達障害のある子どもも共に学び育つ通常の学級での授業・集団づくり」
第五回

障害のある子どもも参加する協同学習における配慮や手立て

 涌井 恵 (教育情報部 主任研究員)

 
 発達障害のある子どもが共に学ぶ通常の学級における学級経営や授業づくりは、学校現場の喫緊の課題の一つとなっています。
 そこで、この連載(全6回)では、このような課題の解決の一つのヒントとして、子どもたちの学力、社会性、仲間関係の改善や向上に効果があると指摘されている「協同学習(cooperative learning)」による授業づくりや集団づくりの解説や実践例を紹介しています。


 前回の連載では、協同学習の5つの基本要素(Johnson, Johnson, & Holubec, 2002)(図1参照)を紹介しました。これは、協同学習が単なるグループ作業で終わることなく、本物の協同学習となるための大変重要な条件です。本連載では、さらに詳しく、障害のある子どもも協同学習に参加する場合、どのような配慮や手立てが必要なのか考えていきたいと思います。


図1 協同学習の5つの基本要素

図1 協同学習の5つの基本要素(Johnson, Johnson, & Holubec, 2002)の関係図(涌井, 2011)


 まずは、協同学習の5つの基本要素(Johnson, Johnson, & Holubec, 2002)の一つである「互恵的な相互依存関係」を上手く働かせるために、障害のある子どもが参加する場合にどのような配慮事項や支援の工夫が必要なのかについて説明することにしましょう。

 「互恵的な相互依存関係」とは、チームメンバーが互いに協力し合い、助け合い、支え合うことができるような関係を、課題(目標)や教材や役割の設定によって作ることです。互恵的な相互依存関係がある場合、メンバーがそれぞれの課題を解決したり役割を果たすことによってチーム全体の目標が達成され、チーム全体に強化子(例えばチームとしての達成感であったり、賞状や得点やごほうびシールなど)が与えられることになります。このことを応用行動分析学では、「集団随伴性」が働いているといいます。
 
 筆者はこれまで集団随伴性について一連の研究(涌井, 2002; 2006aなど)を行ってきました。これらの研究や先行研究等の知見から、発達障害等の障害のある子どもの集団において配慮すべき点として、以下の8点を挙げました。これらは主として障害のある子どものみの集団においての研究による知見です。しかし、筆者が通常の学級での協同学習の授業観察を行った経験からは、障害のある子どもと障害のない子どもを含む集団においても、また典型発達の子どものみの集団であっても共通して配慮すべき事項であると感じています。とはいうものの、本連載は発達障害のある子どもも共に学ぶ通常学級での実践を対象としていますので、以下では特に障害のある子どもと典型発達の子どもを含む集団を想定して説明していきます。
 

① ソーシャルスキルや協同・協働スキルの指導やおさらいをする。
② 上述①を実際に活用できるように指導場面を物理的に構造化する。
③ チームや個々人の目標達成までの遂行状況を逐次フィードバックする。
④ 障害のある子どもやメンバーの遂行能力に加えて、数的処理能力や集団全体のサイズや強化が随伴する集団単位(クラス全体、班毎、ペアなど)の大きさ等に配慮して、チームや個々人の達成目標(行動)を設定する。
⑤ 障害のある子どもの理解度に応じて強化子の種類を選ぶ。
⑥ 集団随伴性(=互恵的相互依存関係)を理解しているか指導前と指導中にアセスメントする。
⑦ 教師はチーム内の仲間関係に常に注意を払っておく。
⑧ 教師は集団への同調が強いられないように常に注意を払っておく。
 

 ①については、典型発達の子どものみの集団においても言えることですが、チームで作業していくときに必要なソーシャルスキルや協同・協働スキルがまだ獲得されていない場合にはその指導が必要ですし、獲得されている場合でもクラス全体で定期的におさらいすると、チームでの協同がスムーズにいくでしょう。

 ②は、ソーシャルスキルや協同・協働スキルを子どもたちがより活用しやすくするための工夫です。障害のある子どもたちはソーシャルスキルを苦手とする場合が多いですから、協同スキルを実施する相手を限定したり、立ち位置に足形のマークを貼る、机の配置を考慮するなどして、子ども同士が関わりやすい環境を整えてあげることが重要です。

 ③は、チーム内の協力をより促進するために、誰が助けが必要なのかを可視化するために行うものです。例えば、ある体育のハードル走の授業では、自己ベスト記録をクラスのみんなが更新することを目標にした授業を行っていたのですが、その際、自己ベスト記録を更新できた者は体操帽を赤、未だの者は白とすることでフィードバックを行っていました。黒板に子どもたちの名札カードを貼って、課題ができた人は右側に移すという方法もあります。ポイントは、障害のある子どもの個々の実態に合わせて、だれもが理解できるフィードバックの方法を取ることです。

 ④についてですが、障害のある子どもも含めた一人一人の遂行能力に合わせた目標設定をすることが重要です。障害のある子どもがいわゆる「みそっかす」のような存在になるのではなく、チームの積極的に貢献できるような目標設定を考えてください。加えて、例えば「漢字テストでチーム平均が80点以上取る」というように数値目標が入っている場合、障害のある子どもの数的処理能力について考慮する必要があります。班員6名の平均値を計算することは無理でも、ペア単位ならは理解できるならば、ペアでの目標設定をすればいいでしょう。それも無理な場合は、数値目標の設定を見直す必要があります。また、達成目標となっている指導したい行動が「駅伝」のような個々人の遂行の蓄積なのか、「二人三脚」のような行動自体に相互依存的性質があるものかによって、子どもたちの反応が変わってきます。チームで助け合って協力するということに理解が乏しい段階では、「二人三脚」のような指導する行動自体に相互依存的性質があるものを選ぶとよいでしょう。

 ⑤の強化子の種類の選定は、障害のある子どもやクラスの子どもたちが体験や物を共有するという感覚がどの程度理解できているかによって変わってきます。班で賞状一枚というだけで、チームメンバー一人一人が達成感を感じられるかどうかということです。みんなで協力し合っているのだ、みんなで達成したのだという集団随伴性(互恵的相互依存関係)の理解がしやすい強化子を子どもに合わせて選びましょう。

 ⑥は上述の④や⑤とも関連しますが、本当に集団随伴性を理解しているかどうか指導前、指導中にアセスメントすることが必要です。比較的障害の程度が軽度のこどもであっても、意外と理解できていない場合があります。ある発達障害の疑われる子どもは、「答えを教え合ってもよい、協力しあって」と言われてもピンときていない様子で、自分で解かずに友達に聞くことは悪いことだと思い込んでいて、なかなか友達とのやりとりを始めなかったというエピソードがありました。最初は理解できていなくても、経験を重ねる毎に理解が進みますので、定期的に集団随伴性(=互恵的な相互依存的関係)を理解しているかどうかチェックし、誤解を正すなどの支援をすることが必要です。

 ⑦は、チーム内で成績の悪いメンバーを責め、手や口が出るなどの暴言や攻撃行動を回避するために大切なことです。⑦の他に、上述の④や⑥も暴言や攻撃行動の回避のために大切です。誰かが責められたりせず、一人一人がポジティブにチームに貢献できるような目標設定をすることが肝要です。協同学習による授業では、子どもの活動中心の授業形態になるので、授業中に教師が子どもの様子を観察できる時間を多く確保することができます。座席表をアレンジしたチェック表などを活用して子どもの様子を見取りましょう。

 ⑧については、「チームに逆らわず同調することは、協同では決してない」ということを教師は胸に留め、子どもたちの様子に気をつけていて欲しいと思います。リヒテルズ(2006)は、協同とは集団への同調を強いるものではないと述べ、何か問題が起きたときや失敗したときに日本ではよく安易にチームに責任を取らせることを批判しています。集団で協同する場合には、すくなからず集団の圧力が生じます。それがポジティブに作用すれば、意見がぶつかり合って初めてお互いを理解し、どのように協同の課題解決を進めたらよいのかを学ぶ大変有用な学習機会になります。ネガティブに作用すれば、本当は自分は違う意見だが声の大きな人に従うといったことになりかねません。自分の気持ちを抑えることなく素直に表現できるようなクラスの雰囲気作りのために、相手を尊重しながら自己主張するというアサーションスキルの指導を①のソーシャルスキルや協同・協働スキルの指導に取り入れるといいだろうと考えています。また、第2回と第3回の連載で紹介した「学び方を学ぶ」授業も、安易な集団内の同調を防ぐ役割を果たしてくれるのではないかと期待しています。それは、「学び方を学ぶ」授業はひとりひとりが違っていて、それぞれ違う良さを持っているという価値観を子どもたちやクラスに育むものだからです。

 以上が、障害のある子どもも参加する場合に配慮すべき事項や手立てです。協同学習の5つの基本要素(Johnson, Johnson, & Holubec, 2002)の中の「互恵的相互依存関係」(=集団随伴性)の観点から配慮すべき事項や手立てについて見てきましたが、①~⑧の各項目は、他の協同学習の基本要素とも密接に関連していることがわかると思います。図1では5つの円が重なり合って示されてあるように、5つの要素が相互に関連し合って協同学習が成り立っているのです。

 さて、表1にこれらをチェックリスト形式にした指導者のための集団随伴性実施チェックリスト(涌井,2006a;字句を一部改変)を示しました。教師が対象集団に適した集団随伴性の操作を決定するための一助となるでしょう。なお、このチェックリストの項目は応用行動分析の「セッティング事象—先行事象—行動—結果・強化」という四項随伴性の理論的枠組みに沿って並べています(涌井,2006a; 2006b)。応用行動分析からの理論的説明や集団随伴性についてもっと詳しく知りたい方は参考文献の3)や4)を参照して下さい。

 次回はこれまでの連載のまとめ(予定)です。次回もどうぞお楽しみに♪
 

 表1 指導者のための集団随伴性実施チェックリスト(涌井,2006a;字句を一部改変)

<表1のダウンロード> [98KB pdfファイル] 

  項目 チェック欄
セッティング
要因に関する
事項
1. 対象児の数的処理能力のアセスメントを行ったか。  
2. 対象児のソーシャルスキルや協同・協働スキルのアセスメントを行ったか。  
3. 対象児にソーシャルスキルや協同・協働スキルのレパートリーがない場合、協同学習実施前に短期トレーニングを行ったか。  
4. 指導中にソーシャルスキルや協同・協働スキルのおさらいをすることを指導手続きに入れたか。  
5. 指導場面は、ソーシャルスキルや協同・協働スキルの遂行が想定される場面が頻出する文脈になっているか。  
先行刺激に
関する事項
6. 仲間の標的行動遂行状況のフィードバックを指導手続きに入れたか。  
7. 仲間の標的行動遂行状況のフィードバックするために、仲間モニタリング(他者評価)手続きは使用できるか。  
8. 強化の随伴単位を縮小し、被援助者を限定したか。  
9. ソーシャルスキルや協同・協働スキルの遂行が想定される場面の構造化を行ったか。  
10. 標的行動の評価表を対象集団に合わせて簡素化したか。  
結果・強化に
関する事項
11. 集団随伴性の理解に関するアセスメント(暗黙の了解事項の理解、強化子の共有関係の理解)を行ったか。  
12. 対象集団に適合した強化基準値になっているか。  
13. 対象集団が強化子の共有関係を理解していない場合、強化随伴単位で共有できる1つの強化子を用意したか。  
14. 指導中、定期的に集団随伴性のアセスメントを実施することを指導計画に含めたか。  

 注:標的行動とは、個々人やチームの達成目標になっている行動のことである。     


<文献>
1) Johnson, D. W., & Johnson, R. T., & Holbec, E. J.(2002): Circles of Learning: Cooperation in the Classroom(4th ed.). Interaction Book Company. 石田裕久・梅原巳代子訳 (2010): 学習の輪 改訂新版―学び合いの協同教育入門, 二瓶社.
2) リヒテルズ直子 (2006) オランダの個別教育はなぜ成功したのか:イエナプラン教育に学ぶ,平凡社.
3) 涌井恵(2002)仲間同士の相互交渉に困難を示す児童への集団随伴性による社会的スキル訓練―自発的な援助行動への副次的な効果も含めた分析―.発達障害研究,24(3),304-315.
3) 涌井恵 (2006a) 発達障害児の仲間同士の相互交渉促進に関する研究―社会的スキル訓練における集団随伴性の有効性―. 風間書房.
4) 涌井恵 (2006b) 平成14年度~平成17年度文部科学省科学研究費補助金(若手研究(B))研究成果報告書「協同学習による学習障害児支援プログラムの開発に関する研究―学力と社会性と仲間関係の促進の観点から―」(課題番号:14710117)[http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_f/F-140.htmlより入手可能]
5) 涌井恵(2011)学び合い、支え合い、高め合う協同学習が成立するための条件, 連載「発達障害のある子どもも共に学び育つ通常の学級での授業・集団づくり」,国立特別支援教育総合研究所メールマガジン第56号(11月)


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