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      国立特別支援教育総合研究所(NISE)メールマガジン
         第86号(平成26年5月号)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NISE(ナイセ)━━━
■目次
【NISEトピックス】
・世界自閉症啓発デー2014シンポジウムの報告
・知的班の研究班活動による調査「知的障害特別支援学級(小・中)の担任
が指導上抱える困難やその対応策に関する全国調査(平成24~25年度)」結
果の概要について
・NISEの活動紹介 (1)企画部の活動について
【海外情報の紹介】
・韓国特殊教育院(KNISE)訪問の報告(平成26年3月)
【連載コーナー】
・インクルーシブ教育システム構築に向けて(全7回連載)
 第3回 中央教育審議会初等中等教育分科会報告「共生社会の形成に向け
 たインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」の要点
(後編)
【NISEダイアリー】
【研修員だより】
【アンケートのお願い】
【編集後記】

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【1】NISEトピックス
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●世界自閉症啓発デー2014シンポジウムの報告
                梅田 真理(教育情報部 総括研究員)

 世界自閉症啓発デー2014は、テーマを「共に支え合う-みんなで作ろう、
やさしい街を-」として、3月29日に霞ヶ関灘尾ホールで開催されました。
 当日は天候に恵まれたこともあり、約360名の参加がありました。シンポ
ジウム1では、北海道芽室町、千葉県柏市、兵庫県明石市の各首長より「暮
らしやすい街づくり」をテーマに取組の報告があり、シンポジウム2では、
支援者の立場から「私たちの街では」をテーマに、地域での取組について報
告がありました。
 また、4月2日には東京タワーのブルーライトアップが実施されました。ブ
ルーライトアップは、日本全国で、また海外でも行われています。

○ライトアップの詳細はこちら→
 http://happy-autism.com/home.html

 本研究所では、なかなか理解されることの難しい自閉症について、世界自
閉症啓発デーを機会に多くの人たちに知っていただき、それによって支援の
充実が図られるよう、志を共にする多くの方々と協力して情報普及に努めて
いきたいと考えています。
 当日の様子の動画は、準備が整い次第公式Webサイトで公開を予定してい
ます。ぜひご覧ください。

○世界自閉症啓発デー日本実行委員会公式Webサイトはこちら→
 http://www.worldautismawarenessday.jp/

○本研究所の世界自閉症啓発デー特設Webサイトはこちら→
 https://www.nise.go.jp/waad/

●知的班の研究班活動による調査「知的障害特別支援学級(小・中)の担任
が指導上抱える困難やその対応策に関する全国調査(平成24~25年度)」結
果の概要について
                 涌井 恵(教育情報部 主任研究員)

 本研究所の知的障害教育研究班では、知的障害特別支援学級の担任に必要
な研修やサポート等を明らかにすることを目的として、知的障害特別支援学
級の担任が抱えている課題や困難、効果的な対応策や研修等についてアンケ
ート調査を実施しました。結果は、学級設置状況別の群(単学級のみの設置
群など)と、担任の知的障害特別支援学級の経験年数別の群別に分析しまし
た。
 どの群においても、種々の課題や困難に対して回答者が最も効果的と思う
対応策には、「校内の先輩・同輩に相談して対応」という回答が多い傾向が
ありました。このことから、知的障害特別支援学級担任が日々の授業につい
て相談できるネットワークの構築が必要であると指摘できます。特に知的障
害特別支援学級の設置が単学級のみの場合は、市内担当者の情報交換会や定
例研修会等によるサポートが必要であると言えます。
 この他、調査結果から、知的障害特別支援学級担任に必要な研修や支援と
して、「(1)障害の状態が多種多様な学級集団における集団指導の好事例の
収集や情報発信、(2)経験年数の多少にかかわらず、障害の状態が多種多様
な児童に応じた指導に関する研修、教材・教具の研修、事例検討会など個に
応じた指導についての研修、(3)単学級のみの設置群の担任は特別支援教育
初任者でも特別支援教育コーディネーターを担当することが多いため、それ
を考慮したコーディネーター研修内容」が求められていることを指摘しまし
た。

 詳しい数値や内容については下記の資料をご参照ください。

○調査結果の概要についてのリーフレットはこちら→
 小学校版
 https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/8994/20140401-185559.pdf
 中学校版
 https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/8994/20140401-185648.pdf

○調査報告書はこちら→
 https://www.nise.go.jp/cms/7,8994,16.html

●NISEの活動紹介 (1)企画部の活動について
                原田 公人(企画部 上席総括研究員)

 障害者の権利に関する条約が、平成18年12月、第61回国連総会において採
択され、我が国は平成19年9月に同条約に署名し、昨年12月4日に、締結のた
めの国会承認を得ました。そして、本条約の批准書を国際連合事務総長に寄
託し本年2月19日より効力が生ずることになりました。本条約の批准に際し
て、障害者基本法の一部改正、障害者総合支援法や障害者差別解消法の制定
等、諸般の制度の整備が行われています。
 また、平成24年7月23日、文部科学省の中央教育審議会初等中等教育分科
会において、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築の
ための特別支援教育の推進(報告)」がまとめられました。この報告を踏ま
えて、学校教育法施行令が一部改正され、就学基準の見直しや保護者及び専
門家からの意見聴取の機会拡大等が示されました。
 このような特別支援教育に関する動向を踏まえつつ、本研究所の企画部で
は、次のような業務を行っています。
・研究に関する総合的な企画及び立案・調整
・障害のある子どもの教育に関する政策課題、関係法制及び行財政施策に
 関する調査・分析
・研究所の業務に関する評価の企画及び立案
・研究所が実施する調査の全体計画の立案及び調整
・特別支援教育に関する基本データ調査の企画・実施・分析
・諸外国の障害のある子どもの教育に関する調査・分析
 これらの中で、特別支援教育に関する基本データ調査の企画・実施・分析
に関しては、毎年度実施している「全国小・中学校特別支援学級及び通級指
導教室調査」について、都道府県・指定都市教育委員会のご協力をいただい
て実施しています。また、全国特別支援学校長会が実施する各調査との情報
共有を進め、本研究所として整備すべき統計資料の体系化を進めています。
 企画部の業務は、教育支援部、教育研修・事業部、教育情報部だけでなく
総務部総務企画課の業務とも関連が深く、これらの部門と連携を取りながら
業務を推進しています。

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【2】海外情報の紹介 
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●韓国特殊教育院(KNISE)訪問の報告(平成26年3月)
         新平 鎮博(教育情報部(総合特別支援教育情報担当)
             兼企画部(調査・国際担当)上席総括研究員)

 本研究所と韓国特殊教育院(KNISE)は、それぞれの国の特別支援教育に
関するナショナルセンターとして研究・研修等を行っています。2012年度ま
で、両研究機関の共催で日韓セミナーを実施しておりましたが、現在、本研
究所では、それに代わる新しい研究協力体制等を検討しています。また、海
外の情報収集業務の一環として、韓国の新しい体制(メルマガ第83号「平成
25年度海外出張報告会及び諸外国の教育政策動向に関する講演会」参照)に
ついての情報収集とともに、今年度予定の訪問調査の調整なども行ってきま
した。
 特別支援教育の研究や研修を担うナショナルセンターを有する国は意外と
少なく、アジアの拠点として、両研究機関間の日常的な研究協力が期待され
ます。
 今回は、3月25日(火)から27日(木)までの3日間の日程で、KNISEと大
田ヘグァン学校、アサン市特殊教育センターを訪問してきました。KNISEの
研究員とは、今後の研究に役立てるための、活発な意見交換をすることがで
きました。
 ヘグァン学校では、学校企業型職業訓練室を参観しました。「学校企業」
は、教育機関の技術を民間に移転して事業化を進める組織で、一般的には高
等教育における産学連携の一環で設置されています。ヘグァン学校では、こ
の学校企業型のコーヒーショップやクリーニング業、ギフト用石鹸の生産・
販売を行っており、近隣の住民がよく利用します。生徒は、実践を積みなが
らバリスタの資格などを取得して一般企業に就職します。韓国では、162校
の特殊学校のうち、20校がこういった取組をしています。
 次に訪問したアサン市特殊教育支援センターは、わが国の特別支援学校が
担っている、いわゆるセンター的機能を果たしている機関で、各地方の教育
局が所管しています。同様の支援センターは、全国200か所に設置されてお
り、その機能は特殊教育対象者の診断・評価、進路・職業教育支援、放課後
学校の運営、巡回指導と多岐にわたっています。施設設備や教材教具が充実
しており、人材も確保されていることから、必要な支援を即時的に行うこと
ができるという点で非常に優れた制度であると感じました。
 百聞は一見にしかずで、得た知見は今後の情報提供に役立たせます。
 欧米の取組を参考にすることは大事ですが、日韓双方の特別支援教育は、
アジアのリーダとして期待されていることを、外国から訪問される方との意
見交換で日々感じております。今後も、双方での情報発信が必要であると感
じました。

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【3】連載コーナー
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●インクルーシブ教育システム構築に向けて(全7回連載)

○第3回 中央教育審議会初等中等教育分科会報告「共生社会の形成に向け
たインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」の要点
(後編)
            新谷 喜之(国立特別支援教育総合研究所理事)

 今号は前号の続きとして、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育
システム構築のための特別支援教育の推進」(以下、報告と言う)の
 (3)障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及び
その基礎となる環境整備
 (4)多様な学びの場の整備と学校間連携等の推進
 (5)特別支援教育を充実させるための教職員の専門性向上等
について述べます。

○続きはこちら→
 https://www.nise.go.jp/cms/6,9289,13,257.html

○この記事に関する詳しい内容は、インクルーシブ教育システム構築支援 
データベース「基礎的情報」をご覧ください→
 http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=45

○次回以降の内容(予定)
 第4回 インクルーシブ教育システム構築支援データベース
 第5回 本研究所におけるインクルーシブ教育システム構築に関する研究
 第6回 本研究所におけるインクルーシブ教育システム構築に関する研修
 第7回 合理的配慮の実践事例の公表

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【4】NISEダイアリー
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            「pDcAサイクル」

 学校現場において、「PDCAサイクル」という言葉が広く用いられるよ
うになったのは、学校評価との関連からだと思う。平成18年3月に文部科学
省において「義務教育諸学校における学校評価ガイドライン」が策定され、
それを基にしてパンフレットが作成され、配布された。その中に、PDCA
サイクルの説明が図示されている。Plan(目標設定)→Do(実行)→Check
(評価)→Action(改善)の流れで、各学校が教育の改善に努め、結果とし
て義務教育の質の保証とその向上を目指すこととなった。
 学校評価が話題となった経緯や背景についてはここでは省略する。義務教
育費国庫負担制度の見直しなどと相俟って、今日のような学校の姿に至る一
つの大事な要因でもあること故、調べてみると興味深いと思う。
 さて、そんなことから頻繁にお目に掛かるようになったPDCAサイクル
だが、特別支援教育においても活用されることが多い。授業改善との関わり
において。
 特別支援教育においては、平成21年の学習指導要領等の改訂で個別の教育
支援計画と個別の指導計画については、特別支援学校で必ず作成することと
された。その作成においてもPDCAサイクルを活用することが学習指導要
領解説において提案されている。
 こうした流れを受けて、学校現場では実際にどうだろうか。聾学校で実際
に授業に取り組んでいた者としては、その運用が気に掛かる。つまり、PD
CAサイクルを通して授業の質を向上させる、教育効果を上げるなどのこと
以前に、ある部分にばかり集中し過ぎて、全体としてこの取組の成果を上げ
ていない場合もあるのではと思った。具体的には、Plan(実態把握と目標設
定、計画立案)にエネルギーをかけ過ぎ、本来重視すべきDo、つまり、実際
の授業時間における子供との関わりが疎かにされていないかという危惧であ
る。聾学校では、授業場面におけるアドリブが大切だと、私は現場で教わっ
た。授業は、いくら細かく指導案を考えても、予定通りに進むものではない
と思う。しかし、あれやこれやと考えたり、細かく指導案を考えたりする経
験をしておかないと、実際にアドリブを効かせることはできないことも経験
した。そんな意味で、聾学校では「p→D→c→A」が重要ではないかと、
関係者には話してきた。
 要は、メリハリが大切だと思う。P(実態把握と目標設定、計画立案)を
行うのにエネルギーを使い果たしてしまい、Dを行う意欲が乏しかったら元
も子もない。そして、C(評価)に力を注ぐ余り、A(授業改善)が疎かに
なってしまったら、これも本末転倒であろう。
 ともかく、子供に即して指導を考えるとしたら、例えば、「pDcAサイ
クル」というようなメリハリを付けた取組があってもよいのではないだろう
か。
           宍戸 和成(国立特別支援教育総合研究所理事長)

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【5】研修員だより
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 今号は、平成10年度第二期短期研修を修了された都丸和好先生からお寄せ
いただきました。

母なる愛の地-ふるさと、久里浜
               都丸 和好(群馬県伊勢崎市立境小学校)

 今から15年ほど前、初めて京急久里浜駅に降り立った日はまだ夏の余韻を
残し、太陽の陽がぎらぎらして眩しいくらいでした。全国各地から多くの先
鋭が集う研修であるという重さや地元を離れる不安などに、押しつぶされそ
うな気がしたのを覚えています。
 その頃の私は「難聴・言語障害教育の担当として、県の難聴・言語障害教
育を支える事務局として、自分がどのような役割を果たしていくのか」とい
う悩みをもっていました。実践してきたことの理論付けも必要だと感じてい
ました。短期研修では、最新の情報を特総研の先生方や様々な分野の講師の
方々から学ぶことができました。講義の中で理論と実践が結び付く瞬間は雲
が晴れていくようでした。群馬県ではお目にかかれない講師の方々の話が思
う存分に聴け、また全国の先生方といつでも情報交換できる、とても贅沢な
2か月間を過ごしました。
 あれから15年、特総研で得た知見や人脈を生かしながら、特別支援教育、
とりわけ通級指導の充実に力を注いできました。全国各地の通級指導教室の
仲間ができ、それぞれの実践に触れたこと、人との出会いの素晴らしさを実
感したことが大きな財産になりました。今、まさに地域でのネットワークづ
くりや専門性の向上が特別支援教育の大きな課題になっています。あの時の
短期研修の学びを通して得られた出会いは、形を変えながらも今現在につな
がっています。これからもつながりを大切にし、目の前の子どもたちのため
に通級の実践を重ねていきたいと思います。
 当時、宿泊棟から青く眩しく輝く海を眺めていたことが、懐かしく思い出
されます。久里浜はいつの日も深く大きく、そして、変わらず温かく優しく
迎え入れてくれます。「母なる愛の地-ふるさと」、それが私にとっての久
里浜です。

○伊勢崎市立境小学校のWebサイトはこちら→
 http://www.isesaki-school.ed.jp/sakaisyo/

※「短期研修」は、平成19年度以降、「特別支援教育専門研修」と名称及び
内容を変えて実施しています。

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【6】アンケートのお願い
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 今号の記事について、以下のアンケートにご回答いただきたく、ご協力の
ほどよろしくお願いいたします。

○アンケートはこちら→
 https://www.nise.go.jp/limesurvey/index.php?sid=67528&lang=ja

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【7】編集後記
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 新緑の季節となりました。この一ヶ月、新しい環境に緊張の毎日を過ごさ
れた方も、大型連休(といっても今年は曜日の並びが今ひとつですが)で、
ちょっと一息といったところでしょうか。本研究所では、年度当初より今年
度の諸事業を展開させているところですが、連休明けには、第一期特別支援
教育専門研修(視覚障害・聴覚障害教育コース)が始まり、全国各地から研
修員を迎えて、一層活気に満ちた日々となります。
 今号の研修員だよりに、伊勢崎市立境小学校の都丸先生が、研修での出会
いや学びが今の自分につながっている、久里浜が「ふるさと」になっている
との嬉しいことばを寄せてくださいました。本研究所が、各地で特別支援教
育に携わっておられる皆様、多くの関係の皆様の「ふるさと」、「拠り所」
となれるよう、今後も誠実に努力していきたいと気持ちを新たにしたところ
です。本メルマガも一層の充実を図って参りたいと思いますので、引き続き
ご愛読、ご支援の程、よろしくお願い申し上げます。
                   (第86号編集主幹 牧野 泰美)

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次号も是非ご覧ください。
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国立特別支援教育総合研究所メールマガジン 第86号(平成26年5月号)
       発行元 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所内
           国立特別支援教育総合研究所メールマガジン編集部
           E-mail a-koho[アットマーク]nise.go.jp
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