(表紙)

特殊研 B-154

平成12年度 一般研究報告書
点字及び触図に関する研究成果報告書

2001年3月

国立特殊教育総合研究所
視覚障害教育研究部 盲教育研究室



(まえがき)

まえがき
 目が見えない、あるいは視力が著しく低いといった視機能の障害は、日常の生活や学習などに様々な制約をもたらす。視覚障害教育研究部では、目の不自由な子どもたちがこれらの障害を乗り越え、学校や家庭、地域社会の中で自立し、社会参加に必要な力を育むための指導内容・方法を中心に研究を進めてきている。
 視覚障害児とりわけ視覚が活用できない盲児の場合、 「見る」ということは、触覚や聴覚などの保有する諸感覚を最大限に活用し、概念を形成することである。その一つに、手で触って見るという触覚認知がある。視覚障害教育研究部・盲教育研究室では、一貫してこの触覚認知についての研究を進めてきた。
 盲児の学習指導においては、効果的な読み書き能力の育成が不可欠であり、その基礎となる探索技能の分析並びに触覚教材の具備すべき条件など、触覚・聴覚認知の発達過程の研究に取り組んできたところである。平成12年度は、一般研究課題として「盲児のための個に応じた触覚・聴覚教材作成システムに関する研究」を立ち上げ、同時に特定課題として、 「盲乳幼児における触覚・聴覚情報の活用についての教育的処遇に関する研究」を開始した。
 その中で、学習活動の基盤となる"触る"ことに関して、 「触る絵本」を活用した教育的係わりや、両手読みを活用した「点字の触読指導」、そして漢字・漢語の理解を促す「漢字学習プログラム」の検討を行ってきた。
 本報告書は、研究の方向性を指向するために、これまで各自が行ってきたものを持ち寄り、まとめたものである。今後は、この"触る"ことと共に聴覚の活用を促す教育的対応について研究を進めていく予定である。
 本報告書が、視覚障害児とりわけ視覚が活用できない盲児の学習や暮らしに寄与できれば幸せである。関係各位からの忌悼のないご助言と今後の一層のご協力をお願いする次第である。

平成13年3月
国立特殊教育総合研究所
視覚障害教育研究部長
千田耕基




(目次)

目次



両手を活用した点字触読を促すための指導法の工夫
 大内進・千田耕基・澤田真弓

触り心地のよい立体コピー用紙開発の試み
 大内進・中田英雄

点字使用者のための漢字学習プログラム
 澤田真弓

視覚障害教育における漢字指導に関する研究(I)
 澤田真弓・大内進・千田耕基・木塚泰弘

触る絵本の作成と活用に関する研究 −2事例における試行による検討−
 金子健・菅井裕行




(p.1〜4)

両手を活用した点字触読を促すための指導法のエ夫
 大内進・千田耕基・澤田真弓(国立特殊教育総合研究所)

key words:点字触読スタイル,両手リレー読み,点字読速度


I.問題の所在と目的
 点字触読における左右の手の使い方については、伝統的に両手を活用して読めることが最適であるとされている。例えば、黒川(1977)は、点字触読における片手読みと両手読みの効率について比較している。片手読みとは左右どちらか一方の手だけを使って点字を読み進める読み方であり、両手読みとは、左右の両方の手を活用する読み方である。それによると、優れた読み手は両手読みをしており、右手の触読力の方が優れている傾向にあることが示唆された。また、両手読みにもいろいろなタイプがあり、両手の機能分担の様式については、手の動きの映像もとにした分析による研究がなされてきている。例えば、草島(1982)は、点字触読時の両手の使い方の動きの分析からfig.1に示したような6つのパターンを明らかにしているが、その中で、 (II)(III)(IV)の読み方が、両手を活用した効率的な読み方であると主張している。黒川(1987)は点字触読時における手の機能分担についてさらに検討し、優れた読み手は最初に左手だけで行の初めを読み始め、行の半ばにくると両手を揃えて読み進め、行末にくると右手のみで読み、その間に左手は次の行を検索している草島の(II)の読み方をとるものが多いことを明らかにしている。また、点字の読みの熟達者の中には、右手で行の終末を読んでいるとき、同時に左手が次の行頭の点字を読んでいるような例のあったことも報告している。このような先行研究から熟達者の点字触読では右手と左手が状況にじて、協調したり独立したりして、効率よく働いていることがわかる。
 幼少期からの点字指導において、このような両手を効率よく活用した点字触読法を習得させるためには、そのベースとして左右どちらの手でも不自由なく点字が触読できる力を育てることが重要になってくる。しかしながら、盲学校における点字の初期指導において、こうした左右それぞれの手の触読力の向上を意図した指導プログラムが十分に検討され、それが指導の場で生かされているとは言い難い状況にある。両手の活用は読書効率の面だけでない。視覚に比べて触覚による認知活動では認知範囲が狭く継時的な活動になるというハンディを最小限にとどめることも可能であるし、片手が読書に使えないときに、どちらの手でも読めれば臨機応変に柔軟に対応することもできる。基本的な両手の触読力を育てておけば、その後、利き手となる方の手での触読能力の向上を図り、全体的な触読力をアップしていくことも可能であり、また片手偏重の読み手を育ててしまう危険性も回避されやすくなるであろう。

[fig.1 左右の手の使い方による両手読みの型 草島時介(1982)より (図版割愛)]

 そこで本研究では、左手と右手それぞれの触読力の向上を働きかけながら、左右の手を協応させて読みつないでいく両手読みと発 展させていく指導法の開発を目的として、1名の視覚障害児を対象に点字の初期指導を試みることにした。その指導法の効果について 主に読速度の変化の観点から検討した。

II.方法
 1.対象児
 小学5年の女子児童。眼疾はレーベル黒内障。視力は裸眼で、右:0.02、左:光覚であった。本児は海外での生活が長く、小学校入学時か ら普通文字で学習していたが、学習効率などを考慮し、帰国をきっかけに盲学校に転入し、点字での学習を開始することになった。点字の導入段階はTセンターで指導を受け、1998年9月の盲学校転入時には、点字の五十音が触認知できるようになっていた。
 指導期間および指導時間: 1998年9月から1999年3月までの国語科の時間。週3単位時間(40分)。本事例では、特別な時間を設定するのではなく、国語科の指導時間内を利用して教科学習をしながら点字触読の方略と速読力の向上をめざした指導を行った。
 2.使用材料
 5年生用盲学校点字国語教科書の物語および説明文教材。
 3.指導方法
 左右それぞれ独立した触読力を高めるため次のような原則に基づいて点字触読学習を進めた。
1)国語科の読みもの教材を主教材とする。各教材は内容に考慮して数ブロックに分割し、それぞれのブロックを指導の1単位とした。
2)各教材の1単位ごとに、以下のア)、イ)どちらかのストラテジーで触読練習をすすめた。
 ア)左手優先触読(はじめに左手のみで触読する。読み慣れたら、右手のみで同じ文章を確認する。ついで「両手読み」の基本型として位 置づけた「両手リレー読み」で読む。これは両手を使った読み方であるが、行の前半部は左手で読み、中央部で右手にリレーし、行末までは右手のみで読みすすめ、その間に左手を次行の行頭に移動しておく読み方である。)
 イ)右手優先触読
 右手読み・左手読み・両手リレー読みの順で読む。
 なお、左手優先と右手優先はランダムに組み合わせ、どちらかのスタイルに偏ることのないようにした。
3)リレー読みのための補助具
 リレー読みでは、中央部での指の切り替えのタイミングのきっかけを与えるために、導入段階では紙ばさみを利用して行の中心を示す補助具を利用した。経1mmのビニル線を中心に張り付け、この上に読材料をおいて読むと、中央部で、 Katz (1925)のいわゆる透明蝕の原理で下のビニル線の凸を認知できる。この認知をきっかけに読みの手を左から右に切り替えるように働きかけた。

[fig.1 リレー読み促進用補助具 (図版割愛)]

4)点字触読力の評価
 各単位での触読の所要時間を測定するとともに、定期的に速読テストを実施し、1分間の読速度(左、右、両手)を測定した。指導をしながら確実にデータを記録するために、fig.2に示したような記録表を表計算ソフトExcelを用いて作成した。これは点字教材の1ページ分をマスあけや行替えを原教材に忠実にかなで表し、その右側に各行の音節数とその累計を記した欄を設けて読音節数が簡便に算出できるようにし、下段には触読スタイル、音節数、各読書単位での触読に要した所要時間の記入欄を設けて、自動的に読速度(毎分)が記されるようにしたものである。

III.結果
 期間中、 「一秒が一年をこわす」 「大造じいさんとガン」 「宇宙の仲間を求めて」 「わらぐつの中の神様」 「ことばと気持ち」 「月夜のみみ く」の6つの読み物教材について本指導法に基づいて点字読みの指導をした。fig.3は、そのうちの読み物教材「大造じいさんとガン」の触読における各ブロック初読時の左手および右手の読速度の変化を示したものである。この教材は8ブロックに分割して指導した。この期間に左手の読速度が毎分57.4音節から105.2音節と1.8倍伸び、右手が56.8音節から92.8音節と1.64倍伸びた。読速度の向上については、内容の理解や繰り返して出てくる語の影響が反映していることも考えられるが、ここでは、左右の読速度が、若干左優位から右優位と変化しつつも、双方がバランス良く同様の傾向で伸びていっている点に着目したい。

[fig.2 記録表の一例 (図版割愛)]
[fig.3 「大造じいさんとガン」の各単位の初読時における読速度の変化 (図版割愛)]

 fig. 4は、定期的に測定した点字速読テストの結果を左手、右手、両手リレー読みについて示したものである。このテストでは学習している教材とは無関係の文章を用いた。6ケ月の指導期間中に7回の点字読みのテストを実施した。初回のテストでは、両手リレー読み、右手、左手の順で読速度が速かったが、最終の3月のテストでは、左手、右手、両手リレー読みという結果に変化した。それぞれの手の使い方のスタイル別にみると、「左手」が33音節から131音節、「右手」が140音節から103音節、「両手」が48音節から119音節に向上した。各スタイルの読速度の変化の相関については、「左手と右手」 「左手と両手」 「右手と両手」それぞれについて.88、.91、.95と強い相関がみられた。

[fig.4 点字速読テストによる読速度の変化 (図版割愛)]

 これらの結果は、左手右手それぞれの独立した読み能力を育てながら、その基礎力の上に両手を活用した読み方を働きかけていく方法で指導することが、両手をバランスよく活用した触読方略を体得させるために有効な指導法であることを示唆していると思われる。

IV.考察
 点字触読においてバランスのとれた両手読みを確立するために、点字の初期学習から左右独立した触読力の育成を意図的に働きかけ る学習法を取り入れた結果、「左手」 「右手」 「両手(両手リレー読み)」いずれのスタイルの読みでも同じ水準で点字触読力を向上させてい くことができ、1事例ではあるが、この指導法の有効性が示唆された。
 また、左右の独立した読みを意識づけることにより、点字触指が学習者本人に明確に意識され、両手を使った読みにおいても、より左 右の活用を意織づけることができ、そのことにより両手読みの基礎を培うことができたと考えられる。今回は1事例の報告にとどまったが、本指導法の効果については、今後より多くのケースで検証していく必要がある。さらに、本指導では十分対応できなかった点として、リレー読みから両手読み-発展、つまり、平滑な触読運動の習得をはかりながら、中央部での左右の同伴部を広げていくという方略の発展の課題がある。これについても今後検討を重ねていきたいと考えている。
 また、触知覚活動では、とくに能動的な態度が重視されるが、そのためには学習者に触読の様子や点字読速度などを適切にフィードバックしていくことも重要になってくる。本指導ではできるだけ指導者に負担をかけずに記録を取り、リアルタイムにその結果を児童にフィードバックできるようデータベースソフトを利用した。こうした方法を取ることにより効率よく指導でき、また児童も意欲的に学習に参加することができたと思われる。点字の指導は特別に設定した時間だけでなく、日常の教科とくに国語科の学習の中でも常に配慮していく必要がある。本指導も国語科の学習の一環として行ったが、こうした教科学習の中でも効果的に点字力を身につけさせていくためにも記録方法を工夫することには意味があると思われる。

謝辞
 本研究のきっかけを与えてくださったTEさんならびにご両親に心より感謝いたします。また指導に際してご配慮いただいた筑波大学附属盲学校の皆様に心より感謝いたします。

付記
 本研究は研究代表者である大内が筑波大学附属盲学校で指導した記録を基にまとめたものである。

文献
1) Katz, D. (1925) Der Aufbau der Tastwelt. Z. Psych., Erg.Bd. 11. (1989 translated by Krueger, L. E. The World of Touch. Lawrence Erlbaum associates.)
2) 草島時介 (1982) 点字読書と普通読書. 秀英出版.
3) 黒川哲宇 (1977) 点字のIegibilityと触野について. 心身障害学研究, 1, 11-18.
4) 黒川哲宇 (1987) 点字触読時における手の機能分担について. 視覚障害教育・心理研究. 5, 1・2, 1-6.





(p.5〜8)
触り心地のよい立体コピー用紙開発の試み
 大内進(国立特殊教育総合研究所)・中田英雄(筑波大学心身障害学系)

An atempt of improvement to Capsule paper with good touching feelings
 Susumu Ouchi(The National Institute of Special Education ** Institute of Special Education)
 Hideo Nakata(University of Tsukuba)

抄録:立体コピー用紙の改良を試み、主に点字触読に及ぼす効果について検討した。改良型の立体コピー用紙は表面に特殊用就をコーティングしたものである。被検者は、全盲者9名である。用祇の触り心地は、全員がコーティングした用紙を選択した。点字の触琴では、熟達者は指の滑りのよいコーティングされた用紙を好んだが、未熟達者は凸がはっきりしているオリジナル用概を選択する傾向が認められた。点字の読速度に差はなかった。

1.はじめに  立体コピーは、視覚障害者用の点字や触図を立体形状にコピーできるものである。この立体コピーのシステムは、カプセルペーパーとも呼ばれる立体コピー用紙、コピー機、現像機で構成される。立体コピー用紙には、特殊紙の表面に微少な熱発泡性マイクロカプセルが均一に塗布されている。複写機で立体コピー用紙に元図をコピーした後、現像機にかけると、立体コピー用紙のトナーがついた部分が0.2mm〜1mm程度の高さに盛り上がる。現像機には赤外線ヒーターが組み込まれており、黒くコピーされた部分が熟せられてカプセルが発泡するのである。立体コピー用紙の盛り上がりの高さは、トナーの濃淡、赤外線の熱のかけ方によって変化する。
 絵や地図、グラフなどの触図が簡便に作製できるために、この立体コピーの登場により視覚障害者用の立体形状印刷が非常に容易になり、広く普及している。
 立体コピーには、簡便に立体印刷ができる反面、問題点も指摘されている。一つは用紙そのものの問題である。もう一つは、作製される作品の質の問題である。ここでは用紙について検討する。
 用紙の問題点としては、黒色の部分だけが発泡するのではなく周辺も若干変化するため形や文字の精密な再現性がないこと、線の太さなどによって盛り上がり方が異なること、盛り上がっていない面の触感が湿っぽく感じられたり、指に吸い付くように感じられたりすること、特有の匂いが残るものがあること、保存状態が良くないと盛り上がり部分が別の紙に張り付いて剥がれてしまうこと、頻繁に触っていると黒く印刷された部分が色落ちして汚れやすくなること、などの点である。

 本研究では、こうした問題点のうち、面の感触の問題に焦点をあてて検討する。初期の立体コピー用紙は、触れると紙面に水分が含まれているような感じが強く、指が吸い付くような違和感があった。その後製品に改良が加えられ、触り心地が改善されてきており、図や絵などの探索においては違和感を感ずることが少なくなってきている。しかし、まだ立体コピー用紙の感触を苦手とする点字使用者は多い。そこで、触り心地のよい立体コピー用紙の改良を試みることにした。
 立体コピー用紙の触感に問題が生ずるのは、表面のマイクロカプセル塗布面に直接触れるためである。そこで、マイクロカプセル塗布面に直接触れないように用紙の表面に薄い紙をコーティングする工夫を試みた。

2.立体コピー用紙の改良
 立体コピー用紙の表面にコーティングした紙は、厚さ0.02mmのコーティング用特殊用紙(AFT 14gm2天間特殊製紙製)である。この紙は、白色のレーズライター用紙にコーティングされているものと同一のものである。この紙を立体コピー用紙に水性接着剤を用いて張り合わせた。オリジナルの用紙の紙厚は0.19mmで、コーティングした用紙の紙厚はO.21mmとなった。

3.コーティングした用紙の試用
(1)材料
 点字読材料の原版は、Mac用点字エディタ(dot to dot)で作成し、点字フォントを用いてパーキンスプレーラーと同等のサイズで出力した。点字読材料の原文は、 「手と心」 (大島健甫、光村出版「国語4年上」所収)から抜粋したものを用いた。
 特殊紙をコーティングした用紙と加工していないオリジナルの用紙に同一の内容の点字文章をコピーし、それを現像機 にかけて、盛り上がらせて読材料を作製した。コピーの浪度は同一の条件とし、現像についてはそれぞれ最良の状態に盛 り上がるように調整した。出力した読材料の点のサイズはTable.1のようになった。また凸点の一部分と断面の拡大図をfig. 1に示した。コーティングした用紙とオリジナルの用紙では凸の盛り上がり方が異なっていることがわかる。点字の 1点について比較すると、コーティングした用紙では、中央部が最も盛り上がり、周辺に行くに従って徐々に凸が低くなっているのに対し、オリジナルの用紙では、黒い部分がほぼ均一に盛り上がり、周辺部も若干膨れているが、印刷部分とは段差がある感じである。また凸の境界部分ではカプセルが不規則にふくれあがっている。

Table.1 Profiles of swelling point

  コーティング用紙   オリジナル用紙

点の高さ 0.31     0.35
1点の径 1.30     1.32



[Fig.1 Swellingof points in coating capsule paper and original capsule pa (図版割愛)]


(2)被験者
 被験者は、日常生活で点字を常用している視覚障害者の成人9名(男性5名、女性4名)である。
(3)手続き
 被験者には、コーティング用紙とオリジナル用紙で作製したそれぞれの読材料について、 a)内容の異なった部分を得意な読み方で音読しでもらった後、 b)用紙の表面に触ったときの触り心地の印象を尋ねた。点字触読については、被験者ごとに読音節数と所要時間を計測した。それを基に1分間あたりの読音節数を算出した。

4.結果と考察
(1) 点字の読みについて
 両用紙の読材料におけるそれぞれの被験者の点字読速度の結果は、 Fig.2に示したとおりである。コーティング用紙で作製した読材料の1分間あたりの平均読音節数は、201.3 (SD95.4)であり、オリジナル用紙の読材料では、1分間あたりの平均読音節数は、181.1 (SD85.2)であった(Fig.3) 。この結果について、1要因分散分析を行ったところ、両者に有意な差は認められなかった。

[Fig.2 Speed of braille reading in coating capsule pa and original capsule pa (図版割愛)]

[Fig.3 Average and SD atspeed of braille reading (図版割愛)]

 Table.2は、各被験者の触り心地についての感想をまとめたものである。これによると、どの被験者も、コーティング用紙の方が滑りがよい反面、点の高さが低く感じられ、オリジナル用紙は、指の滑りは良くないが、点の盛り上がりはわかりやすいという回答で一致していた。どちらの用紙の感触を好むかという問いに対しては、反応が分かれた。母数が少ないため、明確な判断はできないが、今回の結果の範囲でほ、点字読速度の比較的速いグループがコーティング用紙を好み、相対的に点字読速度がゆっくりしているグループがオリジナル用紙を好む傾向が認められた。熟達者グループから「オリジナル用紙が指に引っかかって煩わしい」 「点の高さが低くても指の滑りやすい方が好みだ」という反応があった。この結果は、点字を読むという点に限ってみると、弱い触圧で触読できる熟達者には紙面のなめらかさが重要な要因であり、コーティングの効果があったといえる。

Table.2  Touching feelings of capsule pas and easiness of braille to read

     A   B   C   D   E   F   G   H   I

表面の触感   1   1   1   1   1   1   1   1   1
読みやすさ    1   1   1   2   2   2   2   2   2

      (1-コーティング用紙 2-オリジナル用紙)

 一方、未熟達者にとっては、読材料の触覚的刺激が明瞭であることが重要な要素である。オリジナル用紙の盛り上がり方はコーティング用紙に比べると盛り上がり方にメリハリがあり、 1点1点が把握しやすい。この点で点字未熟達者にとっては、オリジナル用紙の方が引っかかりがあって、凸がとらえやすく好まれたものと考えられる。しかしながら、実際の読速度の結果では、未熟達者においてもオリジナル用紙とコーティング用紙に差は少なかった。点字の形状は、印象ほどわかりにくいものではなかったことが示唆された。

(2)触り心地について
 紙面の触り心地という点では、被験者全員がコーティング用紙の方がよいという判断を示した。しかし、今回の試みで は、十分な凸の高さが得られなかったので、用紙のコーティングに際しては凸の浮き上がりをどれだけ損なわずにすむかという点が大きな課題として示された。コーティングの用紙の選択も含めて今後検討していく必要がある。
 また、点字だけでなく触図の認知に及ぼす影響や用紙の保存性、色の定着度などの諸点からもコーティング用紙の効果 についてさらに検討していきたい。


謝辞
 本研究にあたっては、立体コピー用紙については松野守甫氏に、コーティング用紙については横井章氏に情報提供等のご協力を頂きました。心より感謝申し上げます。


参考文献

1) 小柳恭治・山梨正雄・木壕泰弘・山県浩・千田耕基・志村洋: 盲教育における「レーズライター」の効果的な利用.
 国立特殊教育総合研究所紀要, 4, 49-61,1978.
2) 山梨正雄・山県浩・志村洋: 盲教育における立体コピーの活用. 日本特殊教育学会第18回大会発表論文集,
 114-115, 1980.





(p.9〜18)

点字使用者のための漢字学習プログラム
 澤田真弓(視覚障害教育研究部 盲教育研究室)


※ 準備中






(p.19)
視覚障害教育における漢字指導に関する研究(T)
- 「点字使用者のための漢字学習プログラム」漢字提示順序の検証-

澤田真弓(国立特殊教育総合研究所)
大内進(国立特殊教育総合研究所)
千田耕基(国立特殊教育総合研究所)
木塚泰弘(静岡文化芸術大学デザイン学部)

KEYWORDS: 点字使用者 漢字学習 指導方法


1.目的   「点字使用者のための漢字学習プログラム」では対象漢字1,965字を表1のように2-10段階に分けて学習する。ここでは、その漢字の提示順序を画数及び使用額皮から検証した。
2.方法
(1) 「点字使用者のための漢字学習プログラム」の概要
 漢字は、象形文字や指事文字など、基本的な漢字を学んだのち、それらや部首を構成要素として組み立てることによって、形声文字や会意文字など大多数の漢字を学ぶことができる.このプログラムの構成は、 @漢字の基本となる象形文字は、具対物の曲線を直線にかえて表している。そこで、直線・そり・折れ線・はね・点等の要素、及び、平行・交差・接続・分離等の相互関係に慣れさせ、イまた、片仮名と漢字の字形の類似関係を理解させ、導入をはかる。 A基本的漢字として漢数字・指事文字・象形文字・会意文字の一部を自然・植物・動物・人体・道具・生活・その他と、意味上の分類ごとに学ばせる。その際、具対物のイメージから中間体を通って漢字が成り立っていることと、その漢字の意味・訓・昔を関係付け、用例を通して理解させる。 B身近な言葉を表す漢字や既習の基本的漢字を構成要素とする漢字を学び、新しい漢字が合成されることを理解させる。さらに、偏・旁・冠・脚・垂・構・続の七つの部首とその位置を学び、漢字を構成する要素間の配置関係を理解させる。 C 「単語家族」の分類ごとに同類の漢字を学ぶことを通して、形声文字などの漢字の派生関係を理解させる。その場合、意味上の分類で提示し、理解を容易にさせる。以上のことから第一段階は導入、第二から第四段階で基本的な漢字や身近な言葉をあらわす漢字(280字程度)を学ぶ。第五・第六投階で構成要素間の関係を学び、第七から第九投階で単語家族で漢字を学習し、第十段階では、その他の漢字を部首別に学ぶ構成である。取り扱う漢字の範囲は、新聞の漢字の使用頻度順位を参考とし、義務教育段階で学習する常用漢字1,945字(学年別漢字配当1,006字を含む)の使用頻度順位を調べ、新聞の漢字が90%以上カバーできるよう、総数1,965字を学習対象漢字とした。各段階の漢字数は表1の通りである。特に第二から第四段階で学ぷ基本的漢字(単位)約280字は、それ以降の漢字の構成要素となる。基本的漢字を確実に学習すれば同類の漢字を関連付けて発展的に学習ができる。

表1 各段階に含まれる学年別漢字配当等の数
  1年 2年 3年 4年 5年 6年 常用 人名 第1 (学年等)
2 50 22 14 8 5 5 8 0 1 113
3 7 17 6 13 3 7 16 2 0 71
4 11 39 17 13 1 6 11 0 0 98
5 2 8 14 15 22 18 62 3 3 147
6 3 12 26 23 26 20 84 3 0 197
7 3 29 40 34 39 41 180 0 0 366
8 3 16 49 53 42 35 164 0 2 364
9 2 20 35 41 47 51 219 0 1 416
10 0 0 0 0 0 0 188 4 1 193
80 160 200 200 185 181 939 12 8 1,965
(段階)


* 1形・音・義を共有する基本部分に他の構成要素を加えたグループ。例:「主」という親字(基本部分)があり「住−注−柱−駐」などの子どもの字が生まれ、 シュ・チュウ(ジュウ)と読み、 「じっとたちどまる」という意味をもつ。
(2)手続き
 学習プログラム各段階ごとに、六書・学年別漢字配当等の分類を行い、その含まれる割合、また画数・使用額度順位などの平均値や中央値を比較し、分析を行った。 3.結果ならびに考察
 図1より基本的漢字となる象形・指事文字の大多数が2-4段階に位置づけられていることがわかる。表1からは学年別漢字配当の漢字とある程度共通した側面がみられ、児童の馴染みの高いものから低いものへ、また難易度の低いものか'b高いものへとグルーピングされているこ・とがいえる。また、画数の平均値で比較してみたのが図2である。2-4段階までは漢字の構成要素の基本であり、 5段階以後は、これを組み合わせたものであるから、画数が多いのは当然であるが、漢字の構成要素ごとに意味のまとまりを持つので、画数の多さが漢字の難易度に直接影響することは少ないと考えられる。次に図3の使用額度からみると、よく使われる漢字から順次学習していくように作成されていることがわかる。以上のようにこのプログラムは漢字提示順序が適切であるといえる。
 今後、提示法の工夫を含めた教材作成と、それを用いた実証的な評価が課題である。

【図1・2・3 割愛】

<文献>
澤田真弓: 平成4年度国立特殊教育総合研究所長期研修成果報告書「視覚障害教育における漢字指導に関する研究−点字使用者のための漢字学習プログラム−」

< NAME >
SAWADA Mayumi
OOUCHI Susumu
CHIDA Kouki
KIZUKA Yasuhiro






(p.21)
(原著論文)
触る絵本の作製と活用に関する研究
−2事例における試行による検討−

金子健  (視覚障害教育研究部)
菅井裕行 (重複障害教育研究部)

要旨: 視覚障害児が触って分かる絵本として「触る絵本」がある。これは、台紙に触素材を貼りつけるなどして絵を作製し、触って絵が分かる本である。この触る絵本について、できるだけ発達の早期から、視覚障害児が触ってよく分かり、かつ楽しめるものを作製するにはどうしたらよいだろうか。触る絵本によって触察の仕方の向上を促すためにはどのような絵本であればよいだろうか。既存の絵本を触る絵本に翻案する際にはどのような点に留意したらよいだろうか。これらの点について、実際に触る絵本を作製し、二人の視覚障害児に3歳前後の時点から導入し.試行を繰り返して検討した。その結果、 @絵の特性となる諸属性(触素材、大きさ、形、提示位置等)を適切に操作して絵を作製することの有効性、 Aそれぞれの絵を異なる触素材で作製することの有効性、 B絵の諸属性のうちの1属性のみをページごとに変化させることの有効性、 C触る絵本に、ある種の条件を組み込むことで、 「さがす」動き、 「たどる」動きという触察を促すことが可能であること等が見いだされた。
見出し語: 触る絵本、視覚障害幼児、触察



T はじめに


 視覚障害児が触って分かる絵本として、 「触る絵本」がある。これは、絵を、ページに触素材を貼りつけて作成したり、点図や立体コピーで作成したりするものである。このうち、点図は、点線や点のパターンによる図のことであり、点字用紙にその点を浮き出させるものである EDEL(藤野稔寛氏作)などのコンピュータソフトウエアを用いると、点字プリンターで図を点字用紙に打ち出すことが出来る。また立体コピーは、原図を立体コピー専用紙に複写して、それを立体コピー現像機にかけると、その図の部分を浮き上がらせることのできるシステムである。これらの方式によって絵が触って分かる他文章部分も点字になっていて視覚障害児自身が読めるようになっている触る絵本も多い。
 視覚が活用できない場合、通常の絵本でも、そのお話を大人に読み聞かせてもらったりテープに吹き込んだものを聞いて楽しむことはできるが、絵が理解できる方式として、触る絵本は有効である。
 しかし、実際に作製されたものを、視覚障害児がなかなか楽しめない場合がある3)6)。特に、その絵に触っても、それが何であるか、何を意味しているかよく分からない、従って、楽しむこともできないという場合が多いようである。しかし、通常、絵本とは、絵が理解されるということが前提とされるものであって、それは「触る絵本」でも同様と考えるべきだと思われる。
 絵が触ってよく分かり、かつ楽しめるような触る絵本を作製するためには、どのようにしたらよいのだろうか。
 また、絵本は絵本として楽しめればそれでよいとも考えられるが、触る絵本を視覚障害児がみる(触る)ことば、その触察の仕方の向上を促すためのよい機会であるとも考えられる。それを促すためには、どのような触る絵本を作製したらよいのだろうか。
 また、晴眼児の場合は、通常、 1歳前後で、すでに絵本に興味をもち、それ以降、その絵を見たり、ストーリーを読み聞かせてもらうことを楽しむようになる。例えば、津守式の乳幼児精神発達診断法8)で、絵本に関わる項目を拾ってみると、 11か月の項目として「絵本をあきずにみる」「絵本などのページをめくる」、 15か月の項目として「絵本をみて知っているものの名まえをいったり、さしたりする」、18か月の項目として「本(絵本)を読んでとせがむ」、 24か月の項目として「本(絵本)をひとりでかなりながい間みて、楽しんでいる」等の項目を拾うことができる。また、絵本に関わる多くの実践記録(中村他2)、佐々木他4)、徳永7)等)が示すように、絵本をみることは子どもにとって重要な活動の一つとなっている。
 視覚障害児においても、できるだけ早期から、同様の活動を行うことはできないだろうか。
 以上のことから、次のことを本研究の目的とした。
(1)絵が触ってよく分かり、かつ楽しめるような触る絵本を作製すること
(2)触察の仕方の向上を促すような触る絵本を作製すること
(3)できるだけ発達の早期から視覚障害児が利用可能な触る絵本を作製すること
 これらのことを目指して、実際に触る絵本を作製し、 2人の視覚障害幼児に3歳前後の時点から導入して、その妥当性を検討した。


   U 研究の方法

1.触る絵本の作製形式と研究の進め方
 触る絵本の作製形式として、一般には既存の通常の絵本を触る絵本に翻案する形式が多いようである。しかし、この形式で絵を作成すると、その絵本の視覚的な絵にとらわれて触覚的には分かりにくい絵になるおそれがある。また、触覚的に分かりやすい絵を作製することを重視するなら、絵を主眼として、ストーリーはその絵に合わせて作ることが可能な方がよい。しかし、この翻案による形式では、当然ストーリーを自由に変更することはできない。
 一方、絵もストーリーも筆者等が自作する形式ならば、以上のような問題は生じない.本研究の第一の目的である、 「絵が触ってよく分かり、かつ楽しめるような触る絵本を作製する」という点に関しては、この自作による形式の方がよいと考えられる。かつ、 「触察の仕方の向上を促すような触る絵本を作製する」という本研究の第二の目的に関しても、絵の条件もストーリーの条件も自由に操作できるので有利である。
 そこで、本研究では、まず、絵もストーリーも筆者等が自作する形式で触る絵本を作製することにした。そして、上記二つの目的を達成するために、各々の目的に対応させて幾つかの方針を立て、それらに基づいて5種類の触る絵本を作製した。それを、 2人の視覚障害幼児に3歳前後の時点から導入して、その結果から、方針の妥当性を検討した。また、このことは、本研究の第三の目的である「できるだけ発達の早期から視覚障害児が利用可能な触る絵本を作製すること」にも関連している。即ち、同結果から、導入した絵本が、 3歳前後という低年齢の視覚障害幼児でも利用可能な絵本であったかどうかも分かるので、その検討も行った。
 次いで、自作によって得られた成果を基にして、翻案形式の触る絵本の作製も試みた。ここでは、自作形式のものと同様に触ってよく分かる絵を提供することの他、その既存の物語の理解をたすける絵を作製することを目指した。
 その際、自作形式のものを作製した時の方針のうち、翻案形式でも妥当であると考えられたものは、そのまま方針として取り上げ、その妥当性を検討した.また、翻案に際して新たな方針も考え、その妥当性も検討した。この形式では2種類の絵本を作製し、 1人の視覚障害幼児(先の2人のうちの1人)に導入して、その結果から方針の妥当性を検討した。

2.触る絵本の作製方法
 触る絵本の作製方法は、 「Tはじめに」でも述べたように、触素材を台紙に貼りつける形式のものや、点図や立体コピーによるものがある。これらは、それぞれに長所、短所があると思われるが、筆者等は.台紙に触素材を貼りつけて絵を作製する方法を選んだ。
 その理由は、触素材のもつ触感(触り心地)の情報(つるつる、ざらざら、布の感じ、毛の感じ・・・)は、低窄齢の視覚障害児でも抽出しやすいと考えられ、このことは、本研究の第三の目的である「できるだけ発達の早期から視覚障害児が利用可能な触る絵本を作製する」ということにかなうと考えられたからである。
 また、絵に対応する文章については、墨字(通常の文字)で記し、それを係わり手が読み聞かせるという方法をとった。これは.対象とした子どもが3歳前後であり、まだ点字を読むことができなかったからである。
 また.ページの台紙としては、表面にケント紙が貼ってある1mm厚のボール紙を使用した。 1ページの台紙の大き さはB5判かA4判の大きさで、それを縦、場合によっては横にして使用した。その台紙の右側を綴じて本の形式にし、左から右へとページをめくることにした。絵は、その見開き2枚の台紙のうちの左にのみ、前述のように触素材を貼りつけて作製した。そして、その絵の下か、見開き隣のページに、絵に対応するストーリーの文章を配置した。

3.対象児
 K :女児で、 1993年10月生まれである。 10か月時頃までは順調に発達していたが、その時点で、視神経萎縮により視力が低下した。その程度としては光覚もないと思われた(光覚を活用している様子はうかがわれなかった)。 2歳時より、視覚障害幼児の適所施設に週1回通いだした。筆者等との係わり合いの場はこの適所施設であった。本研究での触る絵本についての係わりをもった時期は、 2歳10か月−4歳8か月(1998年7月現在)であった。触る絵本の導入時点で、音声言語による発語、理解に問題はなかった。また、本のページを自分でめくることも可能になっていた。

 M :女児で、 1995年5月生まれである。在胎23週、出生時体重696gで、未熟児網膜症により視力は光覚程度であった。 2歳時より、 Kと同じ適所施設に週1回通いだした。筆者等との係わり合いの場も]と同じくこの適所施設であった。本研究での触る絵本についての係わりをもった時期は、3歳0か月-3歳2か月(1998年7月現在)であった。触る絵本の導入時点で、 Kと同じく、音声言語による発語、理解に問題はなかった。また.本のページを自分でめくることも可能になっていた。


     U 触る絵本の自作と翻案

1.作製の基本方針
 以下で、自作形式による触る絵本の作製及び翻案形式による触る絵本の作製について述べるが、その前に、両方の形式を通して、筆者等が触る絵本を作製する際の基本的な方針としたことについて述べる。

 触る絵本の絵を作製する場合に、勘や経験に頼らず、また通常の視覚的な絵の引き写しでもなく、あくまで触覚的に適切な絵を作製するためには、その絵の諸条件を自覚的に操作することが重要であると考え、以下のことを基本的な方針とした。  絵の作製において、その絵(及びその構成要素)の特性を決定すると考えられる諸属性を適切に操作する。その属性としては、触素材、大きさ、敬、形、提示位置、向き、傾き等である。これらの属性を、それぞれどのようなものにするか(どのような値にするか)を考えて絵を作製する。例えば、風船の絵を作成する場合には、触素材はゴム、大きさは直径6cm、数は1個、形は円、提示位置はページの中央等である。

2.自作形式による触る絵本
 ここでは、本研究の第一の目的である「絵が触ってよく分かり、かつ楽しめるような触る絵本を作製する」ことについて、および第二の目的である「触察の仕方の向上を促すような触る絵本を作製する」ことについて取り上げる。二つの目的は同一の絵本において同時に実現可能なものであり、実際両者を目的とした絵本も作製したが、説明の都合上、分けて述べる。
2.1.絵が触ってよく分かり楽しめる絵本について
1)作製の方針
 絵が触ってよく分かり、かつ楽しめるような触る絵本を作製するために.以下の方針をとった。

@ 触覚的に分かりやすい絵を提供することを第一義として、原則として絵の方を優先し、それに合わせてストーリーを作る。
A 絵が何であるか容易かっ確実に分かるように、そこに手(や指)をおいただけでも分かるものにする。その輪郭を手指でたどって形を知ることでようやく分かるものにはしない。そのために、触素材をその絵に合わせて別々のものにする。また.実物の触感と出来るだけ同じ触感の触素材を選ぶ。例えば、風船の絵はゴムの素材、ネコは毛の素材、流しはステンレスの触感の紙等である。
B また絵の形としては.単純な形にすることとして、できるだけ直線、円、四角等の簡単な形にするか、あるいはそれらを要素として絵を構成する。
C 絵本の楽しさの-つとして、めくると何かがあり、次にめくるとまた何かがあり・・・・という楽しさがあるものと考え、ページごとの絵の変化、ストーリーの展開の両方で、その楽しさを味わえるようにする。このうち、絵の変化については.ページごとに異なる絵を作製するのみではなく、同じ絵(及びその構成要素)を複数のページを通して作製し、その属性の値のみをページごとに変化させる部分も作る。例えば、同じ絵の、大きさという属性のみをページごとに変化させることなどである。

 以下、最初に作製した2冊の触る絵本について、次いで、その結果に基づいて新たに作製した触る絵本について、この順で述べる。 2)最初の2冊について−「風船」と「石鹸」の絵本−
(1)作製と導入の経緯
 以上の方針に基づいて.最初に「風船」の絵本と「石鹸」の絵本の2冊を作製した。 「風船」の絵本は、概略、風船がページをめくるごとに大きくなり、上昇し、破裂するという内容であった。 「石鹸」の絵本は、流しの上の石鹸が殊に落ちることから始まって、石鹸が次々とページ上でその位置を変えていくというものであった(絵本の詳細については、図1及び表1を参照)。

【図1.触る絵本の実例(絵の素材名を矢印先に付加している) 割愛】
 (a) 「風船」の絵本の第1ページ 割愛
 (b) 「石鹸」の絵本の第1ページ 割愛


表1.自作による触る絵本(表中の番号は各ページに対応。絵のなかで図があるものはカッコつきで表示)


1.「風船」の絵本   〔台紙はB5版縦〕

<ストーリー>女の子が手に持っている風船が、少しずつ大きくなり、女の子とともに上昇し、それがカラスにつつかれてばらばらになってしまうが、実は夢だった。

<絵>@女の子(高さ6.5cm、服をフェルト、顔をコミュニケーションボード(注1)による円形)(注2)が風船(ゴムの触素材の円)(直径2cm)を持っている絵。(風船は台紙の中央下、女の子はその左下)(風船と女のこの手は紐でつながっている)A風船が少し大きくなった絵(風船の直径4cm)。(女の子の絵はなし)Bさらに大きくなった絵(直径6cm)。(同上)Cさらに大きくなった絵(直径8cm)。(同上)D風船が上へと位置を変えた絵。Eカラス(毛の素材。くちばしの部分は固い紙の素材)がそれをくちばしでつつく絵。F風船が破裂してはばらばらになる絵(扇型に8等分して、それらの間を5mmあける)。(同上)G最後に風船の形も大きさも元どおりになり、それを女の子が持っている絵(最初の@の絵と同じ)

<文章>@女の子は、お祭りで、おかあさんに、ちいさな風船を買ってもらいました。A「この風船、もっと大きくならないかな。」と思っていると、あらら不思議、どんどん膨らみはじめました。Bどんどん膨らみます。Cもっと膨らみます。Dするとどうでしょう。風船をしっかり持っていた女の子はフワフワと空に浮かびあがりました。Eすると、カラスがやってきて「こりゃ、なんだ?」と風船をくちばしでチョンとつつくと。F「パアアン」風船は破裂してしまいました。女の子が落ちるよ。G女の子は、はっとして目をさましました。そう、夢をみていたのです。女の子の手にはしっかりと風船が握られていました。

<導入時期> Kに対して1996年9月より。 Mに対して1998年5月より。


2.「石鹸」の絵本   〔台紙はB5版縦〕

<ストーリー>流しの上の石鹸が床に落ちて、それをネコがくわえて公園の滑り台の上に置き、次いで滑り台の斜面を転がり落ちて、さらに池の中に落ち、次いで溶けてなくなってしまう。

<絵の説明>@ページ中央に、流し(大きな正方形、その一辺7cm。厚紙を土台としてステンレスの触感の紙を貼ってある)の上辺右に石鹸(小さな長方形、1.5cm×2cm。厚紙を土台としてつるつるの紙を貼ってある)がある絵。A石鹸が流しの右辺下にある絵。Bネコ(左を向いて口を開けている、5.5cm×12cm、毛の素材で作製)がくわえている絵(ネコの口に石鹸)。C備考に示すような滑り台(階段を直角の連続3つで、斜面を幅7mm長さ7.5cmの斜線で。素材は木の板)の上にある絵。D滑り台の斜面(斜線)の先(下)にある絵。E池(輪の形、直径7cm、幅7mmのプラスチックによる)の中にある絵。F池だけで中に石鹸のない絵。

<文章>@ながしの せっけんを とろうとしたら ツルッ。すべって したに おちました。Aせっけんは ゆかに おちて おとを たてました。 コトン。Bそれを ねこが パクッ。くわえて にげました。Cねこは せっけんを こうえんの すべりだいの うえに おきました。トン。D それを とろうとしたら また ツルッ。せっけんは すべりだいを ころがりました。 コロコロ。Eせっけんは さらに コロコロ ころがって いけの なかに おちました。チヤポン。Fせっけんは ブクブク あわを だし やがて きえて なくなりました。

<導入時期> Kに対して1996年9月より。Mに対して1998年5月より。


3.「おもち」の絵本   〔台紙はB5版縦〕

<ストーリー>お正月におもちを焼いたら、それが三角にふくれ、四角にふくれ、丸くふくれ、大きくふくれ、破裂してもとどおりの形になり、焼き上がる。

<絵>@長方形(1.5cmX6cm。プラスチックの素材)のおもちの絵。A長方形の上部に三角形が加わった形の絵。B同様に四角が加わった絵。C半円が加わった絵。D長円が加わった絵。Eもとの長方形に戻った絵。(以上、図3)

<文書>@おしょうがつに おもちを やいたら、Aさんかくに ふくれ、Gしかくに ふくれ Cまるく ふくれ Dおおきく ふくれ、 Eばん とはれつして もとどおり。でも おいしく やきあがりました。

<導入時期>Kに対して1996年12月より。 Mに対して1998年7月より。


4.「木の実」の絵本   〔台紙はB5版縦〕

<ストーリー>女の子が高い木の上にある木の実を取ろうとするが、手が届かない。台に乗っても届かない。ゾウが来て取ろうとしても届かず、キリンが来て取ろうとしても届かない。しかし、サルが来て、木に登って木の実を取る。それを女の子と分け合って食べる。

<絵>@台紙の右側に実の成っている木(幅7mm、長さ15cmの木製の板で木の幹を表す。その上端に接して丸い木の実として直径1.5cmのプラスチックの円形の板。その周囲に造花の葉を4枚放射状に配置。)とその左に木の実へと手を伸ばしている女の子の絵(高さ5.5cm。女の子の手と木の実とはかなり隔たっている)。A木は変わらず左の女の子が台(高さ3cm、木製)に乗っている絵。B同様に木は変わらず左に、右向きのゾウの絵(鼻を木の実へと伸ばしていて、高さ12cm)。C同様に木の左に、右向きのキリンの絵(首を木の実へと伸ばしていて、高さ13.5cm)。その口は左下の葉にくっついている。D右向きのサル(高さ4.5cm)が木の左側下端にいて、横に伸ばした手を木に接触させている絵。Eサルが木の左側真ん中にいて、横に伸ばした手を木に接触させている絵。Fサルが木の左側上端にいて、伸ばした手を木の実に接触させている絵。G木の左側で女の子とサルが向かい合いそれぞれの手を伸ばして真ん中の木の実に接触させている絵(木の上端には木の実はない)。 (ゾウ、キリン、サルはそれぞれ異なる毛の素材による)

<文章>@女の子は、きのみをたべに森にやってきました。きのみは木のてっぺんにあって、とても高くてとどきません。A女の子は、台のうえにのってみましたが、まだとどきません。Bそこへ、ぞうさんがやってきました。ぞうさんもきのみをとりたくて、長い鼻をのばしてみましたが、やっぱりたかくてとどきません。C今度はきりんさんがやってきました。きりんさんもきのみをとりたくて、長い首をのばしてみました。葉っぱにはなんとかとどきましたが、きのみにはとどきません。Dさるがやってきました。さるもきのみをとってみようと思いました。「よし、この木にのぼっちゃえ。」Eさるはするすると木をのぼっていきます。F木のてっぺんまでのぼると、ちゃんときのみをとることができました。Gさるは、とったきのみを女の子と分けあってたべました。「ああ、おいしい。」

<導入時期>Kに対して1997年5月より。


5.「ねこ」の絵本   〔台紙はB5版縦〕

<ストーリー>散歩が好きなねこが、散歩に出かけて、塀の上を歩き、家の屋根の上で昼寝をして、目が覚めて下に下りると苦手なイヌに出会い、慌てて家に逃げ帰ると、晩ご飯として大好きな魚が用意されている。

<絵>@ページの下方にねこの絵(ネコは毛の素材で作製、6cm大)。ねこは左向き。Aねこはページの真ん中にいてその下は塀(長方形、その下端は先にねこがいた位置)。Bねこはページの上方にいてその下は家の屋根(さらにその下は家の屋根以外の部分)(同上)。Cねこはページの下方右側にいてその左側にはイヌ(イヌはネコとは異なる材質の毛の素材、7cm大)。二匹は向かい合っている。Dねこは先と同じ位置にいて左側には魚の絵(ざらざらのプラスチックの素材、長さ5cm)。

<文章>@あるところに、いっぴきの ねこが いました。さんぽが だいすきな ねこでした。「きょうも てんきが いいなあ。さんぽに でかけよう」 そして、そとに でかけました。Aへいの うえを あるいて、Bとなりの いえの やねに のぼってひるねをしました。Cめが さめて、 したに おりると、にがてな いぬに であって びっくり。あわてて いえに にげてかえりました。Dいえに かえると ばんごはんのよういが できて いました。しかも、 それは だいすきな さかなでした。さかなを いっぱい たべて おなかいっぱいに なりました。

<導入時期>Mに対して1998年6月より。


(注1) 発泡スチロールにケント紙が貼ってある。発泡スチロールがはさまっているため.同じケント紙でも台紙の触感とは異なる触感がする。
(注2) 以下、他の絵本でも人物の造形はこれを基本として、他、足や手を顔と同じコミ>ニケーシタンボードで作ったものもある。


 この2冊の絵本を、 Kに対して1996年9月( 2歳10か月時)から導入した。また、 Mに対しても、同2冊の絵本を1998年5月( 3歳0か月時)から導入した。
(2)導入の結果と考察
 まず、 Kについては、方針@ABに関わることとして、「風船」の絵本の風船、カラス等、 「石鹸」の絵本の流し、石鹸等、絵本の中の各々の絵について、それが何であるかは導入の当初から確実に分かっている様子であった。特に、Aのとおり、触素材の違いによって、それらの絵に手をおいただけでもその絵を同定することができた。また、 「風船が大きくなる」 「風船が破裂する」 「石鹸が流しの上から下に落ちる」 「石鹸が池に落ちる」等、絵が表現している内容についても、ストーリーを聞きながら絵を触ることで、当初からよく分かっているようであった。
 また、方針Cに関わることとして、 「風船」の絵本では、風船の大きさがページをめくるごとに大きくなっていくこと、 「石鹸」の絵本では、石鹸がページをめくるごとにページの上での位置を変えていくことを楽しんでいる様子がみえた。その変化を触って分かって笑うこともみられた。
 そして、以上のような諸要因によるものと考えられることだが、 Kは、それ以降、 3か月間(1996年12月まで)、はとんど毎回の係わり合いにおいて(その間、全12回の係わり合いのうち10回)上記2冊の触る絵本をみる(触る)ことを係わり手に要求してきた。要求しない場合にも係わり手が誘えば応じた(「風船」の絵本を9回、 「石鹸」の絵本を7回みた)。Kにとって、それらの触る絵本をみることは楽しいこと、やってみる価値のあることであると考えられた。また、それ以降、現在までも.断続的にみている。
 また、 Mの場合もKと同様、絵を触ってそれが何であるかは、よく分かっていた。また、Mの場合も、 「風船」の絵本は好まれ、毎回の係わり合いで、みる(触る)ことを係わり手に要求したり、係わり手が誘うと、みることに応じた。風船の大きさの変化についても興味を示した。しかし、 Kとは異なり、 「石鹸」の絵本は、 Mにとっては、やや複雑なストーリーであったようであり、この絵本は「風船」の絵本のようには、よくみなかった。
 以上のように、方針@〜Cは、絵がよく分かり、かつ楽しめる絵本を作製する上で、有効な方針であったと考えられた。言い換えれば、このような方針に基づいて触る絵本を作製すれば、絵がよく分かり、かつ楽しめる絵本を作製することが可能であると考えられた。
3)新たに作製した触る絵本について−「おもち」の絵本−
(1)作製と導入の経緯
 上述のように、 Kにおいて、 「風船」の絵本での風船の大きさの変化、 「石鹸」の絵本での石鹸の提示位置の変化(図2)が好まれたことから、絵やその構成要素の諸属性のうち一つの属性のみをページごとに変化させることが有効ではないかと考えられた。この場合、変化させるべき属性としては、上記の、大きさ、提示位置の他、形、数、触素材、向き、傾き・・・・等様々考えられた。


【図2. 2冊の絵本における絵の属性の変化  割愛】 (a) 「風船」の絵本での風船の大きさという属性の変化(第1〜4ページ) 割愛 (b) 「石鹸」の絵本での石鹸の提示位置という属性の変化の例(第1〜2ページ) 割愛

 そこで、以上の諸属性のうち、形という一つの属性のみが変化する絵本として、 「おもち」の絵本(表1、図3)を新たに作成した。この絵本は、おもちの絵が、平たい長方形、三角形、長方形、半円、長円、平たい長方形と変化するものであった。また、この絵本については、 「風船」や「石鹸」の絵本とは異なり、それ以外の絵は加えなかった。

【図3. 「おもち」の絵本での形という属性のみの変化(全ページ) 割愛】

 この絵本を、 Kに、 「風船」、 「石鹸」の絵本を導入してから3か月後、 1996年12月(3歳1か月時)から導入した。また、 Mに対しても、 1998年7月(3歳2か月時)から、同絵本を導入した。
(2)導入の結果と考察
 Kはこの「おもち」の絵本を楽しんでみた。この絵本については、 1度に2〜3回、繰り返しみることがみられた。それぞれのページのおもちの形の違いをページをめくりつつ、触って弁別し、その変化を楽しんでいたようである。また、 Mも、この絵本を好んでみていた。
 この「おもち」の絵本のように、同じ触素材、同じ提示位置のおもちの、形のみがページごとに変化していくだけで、それ以外の要素がないという単純な絵本でも、十分興味を引くものであったようである。触る絵本作製上の問題点として、絵が触って分かるためには、視覚的な絵に比べて単純なものにしなければならないが、そうすると楽しめる絵本にならないということがある。それに対して、同じ絵を全ページに提示し、その絵の一つの属性のみを変化させるという方法は、単純でありながら、しかし楽しめる触る絵本を作製する方法の一つであると考えられた。 「おもち」の絵本では、おもちの絵の形という属性を変化させたが、変化させる属性としては、他に、触素材、大きさ、数、提示位置、向き、傾き・・・・等様々なものが考えられる。従って、どのような絵のどのような属性を変化させるかを考えることで、多種類の、単純でありながら楽しめる絵本を作製することができるものと考える。


2. 2.触寮の仕方の向上を促す絵本について
1)作製の方針
 触察の仕方の向上を促すような触る絵本を作製するために、以下の方針をとった。

@ 手指で「さがす」動きを生じさせるための設定として、絵本の中に.特定の絵やその構成要素の提示位置をページごとに変化させる部分をつくる。
A 手指で「たどる」動きを生じさせるための設定として、絵本の申に.たどることが起こりやすいと思われる直線、直角の線、輪の形等を絵(あるいはその構成要素)として配置する。

2)作製と導入の経緯  上記の方針に基づさ、 5冊の触る絵本を作製した。その5冊のうち3冊は、前出の「風船」 「石鹸」 「おもち」の絵本であった。その他、 「木の実」の絵本、 「ねこ」の絵本を新たに作製した(絵本の詳抑こついては表1を参照)。それら各々の絵本の中の所々に、上記の方針@およびAの設定を組み込んだ。例えば、 「風舟別の絵本では、方針@に対応するものとして、風船の位置がページをめくると上方へと位置を変える部分を作った。また、 「石鹸」の絵本でほ、方針Aに対応するものとして、滑り台の絵の階段部分を直角に曲がる線の連続で、また斜面部分を斜線で表現した。
 上記5冊のKおよびMへの導入の経緯については、 「風船」「石鹸」 「おもち」の絵本に関しては「2.1」で述べたとおりである。また、 「木の実」の絵本については、 1997年5月(3歳7か月時)から、 Kに対してのみ導入した。 「ねこ」の絵本については、 1998年6月(3歳1か月時)から、 Mに対してのみ導入した。
3)導入の結果と考察
 以下、方針@とAに対応させて、 「さがす」動き、「たどる」動きに分けて、この順に述べ考察する。次いで、同じ絵を触っても、 KとMでは触り方に違いがみられたので、その違いに関しても述べる。
(1) 「さがす」動きについて
 Kにおいて、 「風船」の絵本で、風船がページをめくると、上方へと位置を変えるのに対応して、それを手指でさがす動きが生じた。また、 「石鹸」の絵本でも同様に、石鹸の位置の変化に対応して、それをさがす動きが生じた。方針@のとおり、絵(やその構成要素)の提示位置がページごとに異なるという設定が、それをさがす動きをひき起こし得るものと考えられる(図4参照)。


【図4. 「さがす」動きを引き起こす絵の提示位置の変化  割愛】
(a)「風船」の絵本での風船の提示位置の変化 (第4〜5ページ) 割愛
   (b) 「石鹸」の絵本での石鹸の提示位置の変化例 (第4〜6ページ)(図2(b)も参照) 割愛


 ただし、そのことは、絵の特性のみによるのではなく、ストーリーの支えにもよっていると考えられた。例えば「風船がふわふわと空に浮かび上がった」とか「石鹸を取ろうとしたら流しの上から床に落ちた」等、スト-リーによって、さがす動きが促されているようであった。係わり辛がそのストーリーを読み聞かせるのに合わせて、さがす動きが起こった。また、何度も絵本をみて、ストーリーが十分記憶されたあとでは、そのさがす動きが、より明確になった。
 また、以上のことは、 Kだけではなく、 Mにおいても同様であった。また、 Mについては、前述のように「ねこ」の絵本も導入したが、この絵本についても、 Mは、ページごとに位置を変えるねこを、よくさがしてみつけていた。
 なお、この、 「さがす」動きについては、 KについてもMについても、時々、係わり手が言葉のみによって「上に行ったよ」「下に行ったよ」等と言ったり、あるいは、 「どこに行ったかな?」と尋ねることは行っているが、その手を取ってさがさせるガイドははとんど行っていない。したがって、この、さがす動きについては、それらの絵本の導入の当初から、はとんどの場合、 KやMが自発的に行っているものであった。
 この「さがす」動きについては、それまでに、床上や机上のおもちゃ等をさがす、あるいは、皿の中のお菓子をさがす等のさがす行動が成立していれば、それらの行動が土台となって、比較的容易に発現するものなのかもしれない。KもMも、それらの行動については、触る絵本の導入以前にすでに十分に成立していた。
(2) 「たどる」動きについて
 Kにおいて、 「石鹸」の絵本で、導入から4か月後には、滑り台の階段(直角に曲がる線の連続、木の板)と斜面(斜線.同上)を手指でたどる明確な動きが生じた。それは、階段を下から上へとたどり、さらに斜面を下へとたどる動きであった(図5参照)。この絵は、前にも述べたように、方針Aに従って、たどる動きが生じやすいと考えて作製した絵であった。また、 「石鹸」の絵本を導入してから8か月後に導入した「木の実」の絵本(表1、図5)でも、木の幹(垂直線、 7m幅、木の板)を下端から上端へとたどる明確な動きが生じた。この絵についても、方針Aに従って作製した絵であった。


【図5. 「たどる」動き(矢印によって、その動きを示す) (a)滑り台 (b)木の実  割愛】

 このように、 「たどることが起こりやすいと思われる直線、直角の線、輪の形等を絵(あるいはその構成要素)として配置する」という方針Aは有効な方針であったと考えられる。
 しかし、以上のことも、単純に絵の特性のみによるのではないと考えられる。これにも、 「さがす」動きと同様に、ストーリーの支えがあったようである。即ち、滑り台では、「ネコによって滑り台の上に置かれた石鹸が、斜面を滑って下へと落ちる」というストーリーであり、木の幹では、「その上端に接して存在する木の実を取ろうとする」こと、及び、 「なかなか取れなかった木の実を.最後にサルが木を下から上へと登って手に入れる」ことである。
 なお、先に導入した「石鹸」の絵本では、手をとって滑り台の絵をたどらせるガイドも何度か行っており、導入してから4か月後(みた回数としては9回)には、非常に明確な動きを示している。この明確な手指の動きがみられてから4か月後に導入した「木の実」の絵本については、ほとんど手を取るガイドは行っていないが、導入の当初から、明確なたどる動きがみられた。
 なお、 Mに関しては、 1998年7月の時点までで、以上のような明確な「たどる」動きは生じなかった。
 この「たどる」動きについては、前記の「さがす」動きと比較すると、それよりは、発現しにくい行動なのかもしれない。それは、前述の「さがす」行動とは異なり、 「たどる」行動は、日常活動の中では生じがたいもの、生じる必然性が乏しいものだからかもしれない。
(3)触り方の逢い
 「風船」の絵本での風船の触り方について、 Kは、この絵本の導入当初から、手のひらと広げた指5本を風船の表面にくっつけて触っていた(手のひらは絵の表面につける場合とつけない場合があった)。この触り方によって、風船の大きさを把握していた。風船の大きさが、手に対して小さい場合には、 5本の指を立てるかたちで、その絵の縁 を包み込む触り方をしていた(図6参照)。


【図6.触り方の違い(「風船」の絵に対してのもの。風船の素材はゴム。)  割愛】
(a) Kの触り方(5本の指全てを風船の表面につけている。風船の直径は8cm)
(b) Mの触り方(人指し指先のみを風船の表面につけている。風船の直径は8cm)
(c) Mへのガイドの運動方向
(d) Mが自発した運動方向


 一方Mは、人指し指先のみを風船の表面の任意の場所につける触り方が優勢であった。これでは大きさが分からないので、係わり手が、その指先をとって、風船表面の左端(あるいは右端)のはずれから右端(左端)のはずれまでたどらせるガイドを行った。何度かこのガイドを行った後、Mは、この触り方を自発するようになった。ただし、その運動の方向については、風船の左端(右端)のはずれから右端(左端)のはずれまでたどるのではなくて、上のはずれから下のはずれへとたどる動きであった。この触り方で、風船の大きさを把握しているようであった(図6参照)。「おもち」の絵本でも同様に、 Eでは、上記の触り方が基本であった。また.上記の、指で形の縁を包み込む触り方もしていた。また、この触り方の後で、ときどき縁に触れた指で三角や円形部分を少したどることがみられた。この触り方で、それぞれの形が弁別されているようであった。三角形については、触って「さんかく」と言っていた。
 一方Mでは、やはり指先を絵の表面につける触り方が基本であり、少し、絵の表面を上から下へとたどる動きもみられたが、 1998年7月の時点では、その触り方で形を弁別するには至らなかった。
 大きさを知るには、 Kの触り方が理にかなっているようにも思われたが、 Mの触り方でも分かるようであった。形を知るには、輪郭をたどることを、有効な触り方として挙げることができるが、 Kの触り方でも、分かるようであった。すくなくとも、円、三角、四角など簡単な形について、それぞれの違いを弁別する上では、それでもよいようであった。

3.既存の絵本の翻案による触る絵本
 上記のように、絵もストーリーも筆者等が自作した触る絵本は、幾つかの有効な成果を生むことができたと考えられた。しかし世の中には通常の絵本が数多く存在し、それを視覚障害児がよりよく理解し得ることも、非常に重要なことであると考えられた。そこで、上記の自作による触る絵本の成果を生かし、通常の絵本の翻案による触る絵本を作製することにした。翻案形式の絵本でも、その絵が触ってよく分かることは、基本的な前提とされるべきことであると考えられる。従って、自作における「絵が触ってよく分かり、かつ楽しめるような触る絵本を作製する」ための方針@〜C(2.1.参照)のうち、 ABは、ここでも、触ってよく分かる絵を提供するための方針として、採用することにした。ところで、既存の絵本は、お話を耳で聞いているだけでも理解できないわけでほないが、より確実に把握し得るためには、触ることのできる絵がたすけになると考えられる。そこで、既存の絵本の翻案では、その物語の理解をたすける絵をつくることを目指すことにした。 以下、前述の自作形式による触る絵本の成果を応用しやすいと考えた絵本の翻案の例と、自作の結果にかかわらず任意の絵本を選んで翻案した例について述べる。

3. 1.自作形式による触る絵本の成果の応用
 −「三匹の子豚」について−
1)作製の方針
 既存の絵本の翻案に際して、まずは、先の自作形式による触る絵本の成果を応用しやすいと考えられる絵本を選んで翻案することにした。先の自作においては、絵の諸属性のうち、一つの属性をページごとに変化させることが有効であると考えられた(2.1.参照)。そこで、そのような内容を含み、しかもそのことが、その物語を理解する上で本質的な部分ともなっている既存の絵本を取り上げ.触る絵本に翻案することとした。その例として「三匹の子豚」5)を選んだ。
 この絵本では、以下の三つのことが属性の変化として表現し得ると考えられた。また、それらのことが物語を理解する上で本質的な部分でもあると考えられた。
 1. 三匹の子豚が、次々に、それぞれ異なる家を建てることに関して、その藁の家、木の家、レンガの家のそれぞれの違いを、それぞれ触素材を変えて表現する(触素材の変化)。2. 藁の家や木の家がオオカミに吹き飛ばされてバラバラになる様子を、完成されている家をいくつかの部品で作り、次のページではその部品をページ上でバラバラに配置することで表現する。また、レンガの家については、完成された家を、次のページでも同じ絵にして表現する(様態の変化)。3. レンガの家を吹き飛ばせなかったオオカミが煙突の上から家に入ろうとする場面を、オオカミが、家の前にいる絵から、次のページでは煙突の上に移動している絵によって表現する(提示位置の変化)。
2)作製と導入の経緯
 以上三つのことを取り入れて、 「三匹の子豚」の触る絵本への翻案を行った。また、その際、前述のように、自作の際の方針ABも、触ってよく分かる絵を作るための方針として採用した(表2、図7参照)。そして.この「三匹の子豚」の触る絵本もKに対して、 1997年9月(3歳10か月時)から導入した。
3)導入の結果と考案
 3種類の家の触素材の変化については、その変化自体を楽しむ様子はみられなかったが、それぞれの家を弁別するのには役だっていた。また、オオカミの提示位置の変化についても、それ自体を楽しむというのではなく、ストーリーに合わせて、手をその位置の変化に対応して動かしていた。これら、物語のこの場面の理解には責献しているようであった。完成した藁の家と木の家がバラバラになるという様態の変化については、絵を触って、非常に楽しんだ。バラバラになった絵を触っては笑っていた。また、バラバラにならないレンガの家について.絵を触りながら、なぜバラバラにならなかったのかと尋ねることもみられた。
 以上ように、この絵本の絵はKにとって、その物語の理解をたすけるものであると考えられた。また、完成しているものがバラバラになるという様態の変化については、それ自体を楽しめるものだと考えられた。
 このように、既存の絵本の中には、絵の属性をページごとに変化させるという方式で触る絵本に翻案できるものがあり、Kの結果からは、有効な方式であると考えられた。そのような絵本としては、 「三匹の子豚」の他にも、例えば「大きなかぶ」9)などが考えられる。この絵本では、なかなか地面から抜けない大きなかぶを抜くために、次々に人や動物が増えていくことを、その数という属性の変化として表現できると考えられる。そして、このことが、この物語を理解する上で、本質的な部分でもあると考えられる。

【図7 「三匹の子豚」の絵本のページ例  割愛】 表2.翻案による触る絵本(表中の番号はページ番号に対応。絵のなかで図があるものはカッコつきで表示。)

1.「三匹のこぶた」の絵本   〔台紙はB5版縦〕

<ストーリー>母親の安から出された三匹の子豚達が、それぞれ藁の家、木の家、レンガの家を建てる。しかし、藁の家と木の家は子豚を食べようとするオオカミに吹さ飛ばされてしまう。しかしレンガの家は吹き飛ばされず、オオカミはその家の煙突から中に入ろうとする。しかし、子豚達はその下で鍋にお湯を沸かして待ちかまえる。中に入ったオオカミはお湯の中に落ち、逃げていく。 (オリジナルのストーリーでは、この他にレンガの家を建てた子豚とオオカミとの知恵比べのストーリーが、オオカミが煙突から中に入る前にあるが、これは省略した。)

<絵>@ページの右に縦に並べて子豚の顔を3つ(それぞれ、四角、三角、円の形の顔、素材はフェルト、大きさは5cm大)および左側に大きく全身がある母親の豚の絵(高さ11cm)。 A左側に四角の子豚の顔、右側に畢の家(桂を木の板で、それ以外の部分を藁に似た触感の素材を貼りつける、 8.5cm大)。B左側にオオカミの顔(家のある右方を向いた横向き、口を大きく開けている。素材は毛。 4cm×8.5cm)、右側にバラパラになった家(前のページの家の部品と同じ物を散在させて貼りつける)。 C左側に三角の子豚の顔、右側に木の家(柱を細長い木の板、それ以外の部分を長方形の板。 8.5cm大)。 (図7a)D左側にオオカミ(同上)、右側にバラパラになった家(同上)。 (図7b) E左側に円の子豚の顔、右側にレンガの家(レンガの触感の紙で小さな長方形を作り、それをモザイク状に粘りつけて家を構成、屋根の上には煙突。煙突以外8.5cm大 煙突の高さ5cm)。 F左側にオオカミ(同上)、右側に前のページと変わらないレンガの家。 (図7c) Gレンガの家はそのまま、その煙突の上にオオカミの顔。 (図7d) H鍋(ステンレスの触感の紙を貼ってある)とその上にオオカミの顔。 I子豚の顔が3つの絵。
<文章>@あるところに、としとった かあさんぶたと、 3びきのこぶたが いました。びんぼうな かあさんぶたは、こぶたに たっぶり たべもの をやれません。これから みんな、じぶんのちからで いきていくんだよ と、 3びきを そとへ おくりだしました。A1ぴきの こぶたは、わらのたばをかついだひとに あいました。「おじさん そのわら くれんかなー? ぼく、うちを たてるけん」おじさんが わらを くれたので、こぶたは わらで うちを たてました。そこへ やってきたのは、おおかみ。B「こぶたどん こぶたどん いれとくれ」「ぶーっだめ。ほんの ちっとだってあけないよ」「そんなら おまえの うちなんか いち、にの、ふーっと ふっとばしてやるど!」ほんとに、いち、にの、ふーっと、おおかみは うちを ふっとばしてしまいました。C2ひきめの こぶたは、きのえだのたばを かついだ ひとに あいました。「おじさん その きのえだくれんかなー? ぼく うちをたてるけん」おじさんが きのえだを くれたので、こぶたは すぐに うちを たてました。そこへ やってきたのは、また おおかみ。 D「こぶたどん こぶたどん いれとくれ」「.ぶーっだめ だめ だめ。ほんのちっとだって あけないよ」「そんなら おめえの うちなんか いち、にの、 ふーっと ふっとばしてやるど!」いち、にの、ふーっ、まだ だめか。よし もいっちょ さん、しの ふーっ!そうして きのうちを ふっとばして しまいました。E3ばんめの こぶたは、れんがをやまのように はこんでいる ひとにあいました。「おじさん れんがを くれんかなー? ぼく うち を たてるけん」おじさんに もらった れんがで、こぶたは うちを たてました。そこへ やってきたのは、またまたおおかみ。F「こぶたどん こぶたどん いれとくれ」「ぶ-つだめ だめ。ほんのちっとだって あけないよ」「そんなら おめえの うちなんか いち、にの、ふ一つと ふっとばしてやるど!」いち、にの、ふーっ、まだ だめか。よし もいっちょ さん、しのぷーっ!ありゃ まだ だめか。なな、やの、ぷ〜〜〜つ!まだ たおれません。Gふいても ふいても だめでした。そこで おおかみは えんとつに のぼりました。「よし えんとつから へえって、くってやるど!」 こぶたは おおなべに たっぶり みずを いれ、ひを ばんばんもやしました。Hおおかみが えんとつから おりてきたとたんに なべのふたを とると、じゃ、ぽん!おおかみは なべのなか。「ぎゃー あっちっち」と おおかみはさけんで にげていきました。Lそれから こぶたは ほかのきょうだいと いっしょに ずーっとしあわせに くらしました。ぶふふっ。

<導入時期> Kに対して1997年9月より。

2.「あかずきん」の絵本   〔台紙はA4版横〕

<ストーリー> ビロードの赤いずきんがよく似合う女の子がいて、 「あかずきん」と呼ばれていた。ある日、母親からおばあさんの家にお見舞いに行くように言われたあかずきんが、途中、悪いオオカミにだまされて花を摘んでいる間に、オオカミはおばあさんの家に先回りしておばあさんを飲み込み、おばあさんになりすます。そこへやって果たあかずきんは、おばあさんになりすましているオオカミの大きな耳、大きな目、大きな手、大きな口を怪しむが、結局オオカミに飲み込まれる。満腹して寝込んでいたオオカミを、狩人がみつけて、オオカミのお腹を切って二人を助け出す。そして、 3人で石をオオカミのお腹に詰め込んで、オオカミをやっつける。あかずきんがお見舞いに持ってきたお菓子とワインでおばあさんはすっかり元気になる。

<絵> @ページの中央にあかずきんが正面を向いて立っている絵(頭にずきんとして三角形のビロードの布を貼ってある。高さ7cm)。 (図8a) A左側にあかずきん、右側に母親(その身体にはエプロンとして他と区別できる素材の布を貼ってある。高さ10cm)がいて、向かい合っている絵。 B左側にあかずきん、右側にオオカミの絵(毛の素材。大きさ8cm×12cm)。向かい合っている。 C左側に花を一本持ったあかずきん(左向き)、右側に4本の花の並列。(図8b) Dベッド(長方形の木の板,3cm×12cm)にふとん(長方形の布の素材をベッドの上に)をかけて寝ているおばあさん(顔だけふとんから出ていて、つるつるの布の帽子をつけている)の絵(その周囲を家を示す輪郭線で囲んである)。 (図8c) Eベッド、ふとん 家の輪郭線は先のページと同じで、顔の部分だけがオオカミになっている絵。 F台紙いっぱいにオオカミの顔(大きな耳。目と口は大きくくりぬいて地の台紙を露出。 15cm大)と、左右下にオオカミの手(5cm大)。 (図8d) G左側に仰向けに寝ているオオカミ(お腹を非常に大きく長円状にふくらませてある)、右側に狩人(服の部分を皮の素材、手に鉄砲を持っている。高さ10cm)。 H左側にあかずきん、右側におばあさん(高さ10cm)。 I仰向けに寝ているオオカミ(お腹は平らになっている)、その上に石(実物の小石)を散在させて粘りつけた絵。 J左側にあかずきん、右側におばあさん、二人の真ん中にテーブル(木の素材、 5cmX7cm)、その上にワインのビンとお菓子。

<文章>@むかし、ちいさな おんなのこが いました。びろーどの あかい ずきんが とても よくにあう おんなのこでした。そこで、みんなから あかずきん と よばれて いました。Aあるひ、おかあさんが あかずきんに いいました。「あかずきん おばあさんの おみまいに いってちょうだい。おかしと わいんを もっていって ちょうだい。でも、みちくさは しないのよ。」Bおばあさんの いえは もりの なかに ありました。その もりには わるい おおかみが います。あかずきんを たべようと まちかまえて いました。おおかみは あかずきんに いいました。 「ここは はなも たくさん さいてるよ。おばあさんに つんで いったら いいよ。」「それは いい かんがえね。」Cあかずきんは むちゅうで はなを つみ はじめました。「しめしめ。さきまわりして おばあさんを さきに たペてやれ。」Dおおかみは おばあさんの いえに つくと、おばあさんを「がぶり。」と、ひとのみしました.Eおおかみは それから おばあさんのきものを きて、おばあさんの ばうしを かぶり おばあさんのべっどに ねて あかずきんをまちぶせ しました。Fあかずきんが はなを たくさん つんで おばあさんの いえへやって きました。おや。ねている おばあさんの ようすが いっもと ちがいます。「まあ おばあさん。なんて おおきい みみ!」「おまえの こえが よく きこえる ようにさ。」「まあ おばあさん。なんて おおきい め!」「おまえが よく みえるようにさ。」「まあ おばあさん。なんて おおきな て!」「おまえを つかまえやすいようにさ。」「まあ おばあさん。なんて おおさい くち!」「おまえを たペるためにさ!」あかずきんに とびかかり「がぶり。」と、のみこんで しまいました。Gおおかみは おなかが いっぱいで ぐっすりと ねむりこみ「ぐーぐ-ぐ-。」おおきな いびきを かいています。それを かりうどが ききつけました。「おおかみめ!おばあさんを たべたな。ねている あいだに おなかを きって おばあさんを たすけだそう。」 Hすると なかから おばあさんと あかずきんが とびだしてきました。I「よし。おおかみを こらしめてやれ。」そこで みんなは いしを あつめ、おおかみの おなかに つめこみました。めが さめた おおかみは びっくり しました。おなかが おもくて うごけません。そのうち とうとう しんで しまいました。Jおばあさんは あかずきんが もってきた おかしを たペ わいんをのみ すっかり げんきに なりました。わるい おおかみを たいじ したので それからは みんなあんしんして くらしました。

<導入時期> Kに対して1998年6月より。




3.2.任意の絵本の翻案
 −「あかずきん」について− 1)作製の方針  自作形式の触る絵本の結果にとらわれず、任意の絵本を選んで、それを触る絵本に翻案する試みも行った。その中で、作成上の方針、活用上の注意点など抽出することにした。その絵本として「あかずきん」1), 10), (注)を選んだ。
 その作成の過程における方針と実際の作成経過を以下述べる。

@ 物語の本質的な部分を理解する上で、重要と考えられる場面を選んで、その場面を絵にして、触って分かるようにする。また、その場合、触覚でも確実に分かるように、できるだけ単純な絵にするために、原則として、その目的のために必要な最小限の場面を選び、必要であれば、それ以外の場面のも加える。それは、この絵本では、あかずきんが最初に登場する場面、次いで母親があかずきんにおばあさんの家へおつかいを頼む場面、次いであかずきんがオオカミに出会う場面等の11場面となった(表2参照)。ちなみに、絵の翻案の元となった絵本1)では、全部で18の場面の絵があった。
A 選んだ場面を絵にする場合、@と同様、できるだけ単純な絵にするために、物語の理解の上で絶対に必要と思われる情報をもることを優先し、それ以外の情報については原則として省略する。この絵本では、あかずきんの登場の場面では、ページの中央にあかずきんの絵を作製し、それがあかずきんと分かるように、その頭に三角形のビロードの布をつけた。それ以外の絵は作らなかった。ちなみに、元となった絵本では、あかずきんの他、草原、樹木、道、太陽、家などがあった。
B また、 Aで述べた必要な情報を、場合によってはそれだけが抽出されやすいように、強調して表現するようにする。この絵本では、おばあさんになりすましたオオカミをあかずきんが不審に思って、オオカミに質問する周知の場面では、オオカミの正面を向いた顔だけをページいっぱいの大きさで作り、左右の手は、顔から左右に少し離して手のみを大きく作った。そして顔については、その耳を大きく作り、目と口は、その素材を大きくくりぬいて台紙を露出させて作った。それは、オオカミが大きな耳、目、手、ロをもっていることが理解されることが、この場面の本質的な部分だと考えたからである。ちなみに元となった絵本では、その場面はベッドに寝て顔だけを出したオオカミと、その寝室のカーテン、オオカミをみるあかずきん等で構成されており、オオカミの顔や手は小さく、これをそのまま触覚的な絵にしても上記の点は理解されがたい。
C 同様に、できるだけ単純な絵にするために、絵の同じ構成要素がページを通して出現する場合には、その構成要素の提示位置を固定する。この絵本では、当然ながらあかずきんがページを通して出現することが多いが、それが他の構成要素と共に登場する場合、その位置は、ページの左側に固定した。そして、その右側に、その他の構成要素として、お母さん、オオカミ、花畑等を配置した。ちなみに、元となった絵本では、あかずきんの位置はページごとに変化していた。
2)作製と導入の経緯
 以上の方針に基づいて「あかずきん」の触る絵本への翻案を行った。また、その際、前述のように、自作の際の方針ABも、触ってよく分かる絵を作製するための方針として採用した(表2、図8参照)。そして、その「あかずきん」の触る絵本を、 Kに対して、 1998年6月(4歳7か月時)から導入した。


【図8. 「あかずきん」の絵本のページ例(絵の部分のみを示す) 割愛】
(a)第1ページ、(b)第4ページ、(c)第5ページ、(d)第7ページ


 この導入に関しては、それまでのやり方と同様、係わり手がストーリーを読み聞かせながら. Xが絵を触るというやり方で導入してみたが、この程度の複雑さの物語になると、絵を触りながらストーリ--も聞くことはKにとって負担が大きすぎるようであった。 K自身が、 「難しい」と言った。そこで、絵は触らず、先に係わり手がストーリー全部を通して読み聞かせることのみを行い、その後で、もう一度ページを最初からめくりつつ、絵を触ってもらうという方法をとった。
3)導入の結果と考察
 まず、上記の方針全てに関わることとして、 Kは.絵を触りながら、それが何を意味するかはよく分かっていた。あかずきんの絵については、ページを通して、ずきんの部分(ビロードの素材)を触ることで、それがあかずきんと分かっていた。それを触りながら「あかずきん」と言っていた。同様に、オオカミ、寝ているおばあさん、オオカミのお腹につめた石なども、その部分を触りつつ、それぞれの名称を言っていた。物語の理解についても、絵を触ることをたすけとして、よく理解できているようであった。例えば、おばあさんがベッドに寝ている場面について、ふとんから出ているおばあさんの顔の部分を触って「おばあさん」と言うので、係わり手が「おばあさんはどうしてるの?」と尋ねると、ふとんの部分を触りながら「寝てる」と言い、次ページのオオカミがベッドに寝ている場面では「だれが(おばあさんを)食べたの?」と係わり手が尋ねると、ふとんから出ているオオカミの頑の部分を触って「オオカミ」と答えていた。
 また、方針Bに関わることとして、ページいっぱいの大きさのオオカミの顔の絵について、目の部分を触りながら「おめめ」と自ら言った。そこで係わり手は「『どうしておばあさんのおめめはそんなに大きいの?』 『おまえがよく見えるようにさ』だよね」と教え、次いで、口、手へも触ることをガイドして、同様に、それに関わる物語の内容を教えた。
 以上のように、この絵本は、 Kにとってやや難しいもののようであったが、ストーリーのみをあらかじめ読み聞かせるという方法であれば、絵を触ることにより、その意味(絵及びストーリーの)を読み取ることが可能であった。この絵本の絵は、物語を理解する上で役立っものであると考えられた。
 以上のKの結果から、 「あかずきん」を作製した際の方針@〜Cは有効な方針であったと考えられるが、他の絵本の翻案に際しても有効な方針ではないかと思われる。

W 全体的考察

1.方針についての検討
 自作と翻案を通して、 「絵の作製において、その絵(及びその構成要素)の特性を決定すると考えられる諸属性(触素材、大きさ、数、形、提示位置等)を適切に操作する」ということが基本方針であった。本研究で取り上げたすべての触る絵本はこの方針を前提として作製された。それらの絵本を実際にKやMに導入した結果から、この方針は有効な方針であったと考えられる。
 自作の絵本を作製した際の、「絵が触ってよく分かり、かつ楽しめるような触る絵本を作製する」という本研究の第一の目的に対応した方針@〜C(IIの2.1.参照)も有効であった。また、「触察の仕方の向上を促すような触る絵本を作製する」という第二の目的に対応した方針@A(IIIの2.2.参照)も有効であった。しかも、最初の「風船」と「石鹸」の絵本を導入したのは、 Kについては2歳10か月、 Mについては3歳0か月の時であり、これらの絵本はこのような低年齢の視覚障害幼児でも利用可能であった。即ち、本研究の第三の目的であった「できるだけ発達の早期から視覚障害児が利用可能な触る絵本を作製すること」にもかなうものであった。
 既存の絵本の触る絵本への翻案においては、自作の際の成果に基づき、絵の諸属性のうち、一つの属性をページごとに変化させるということの応用として作製できる絵本もあることが分かった。その例は「三匹の子豚」であったが、他に「大きなかぶ」なども考えられる。また、 「三匹の子豚」での.完成された藁と木の家がバラバラになるという様態の変化は、 Kにとって非常に楽しめるものであった。任意の絵本の翻案としての「あかずきん」の絵本の作製においては、翻案のための方針@〜C(IIIの3.2.参照)が抽出されたが、これらの方針も、 Kにおける結果からは有効であったと考えられる。
 また、翻案においても、自作の際の、触ってよく分かる絵を作製することに関わる方針AB(Uの2.1.参照)は有効な方針であったと考えられた。


2.絵が触ってよく分かり楽しめる絵本について
 本研究で作製された触る絵本の絵は. KやMにとって触ってよく分かるものであったと思われる。その分かりやすさの最大の理由は、それぞれの絵やその構成要素をそれぞれ異なる触素材で作製したこと(IIの2.1.の方針A)であると考えられた。風船はゴム、ネコやオオカミはそれぞれ異なろ毛の素材、あかずきんのずきんはビロード等であった。
 絵を作製する場合、視覚的には、その輪郭を重要視することが多いと考えられる。そして、視覚的には、輪郭線だけの線画でも、十分にそれが何であるか知ることができる。しかし、触覚的な絵を作製する場合には輪郭を重視して絵を作製しても、その輪郭を触る(たどる)ことで、それが何であるか知ることは難しい場合があると考えられる。しかち.その輪郭線が複雑なものであればあるほど(線の方向の変化が多ければ多いはど).難しくなると考えられる。それに対して、それぞれの絵やその構成要素の触素材を異なるものにする方法は、容易かつ確実にそれが何であるか分かる方法として有効であると考えられる。特に.本研究の目的の一つであった、 「できるだけ発達の早期から視覚障害児が利用可能な触る絵本を作製する」という目的にとっては、低年齢の視覚障害幼児であっても絵本の絵を触って分かる方法として重要であると考えられる。本研究の結果におけるKとMの2事例からみると、 3歳前後という年齢でも有効な方法であるといえる。
 ところで、上記のように、絵の輪郭を重視しないとすると.単純な形の絵しか作製されないことになって、それでは興味を引く絵本にならないおそれがあるかもしれない。
 しかし、本研究で示されたように、絵および絵本の楽しさは、狭義の形にのみ依存するものではなく、絵のその他の属性としての、触素材、大きさ、ページ上での提示位置、数、向き、傾きなどにも依存するようである。特に、これらの属性のうちの一つだけをページごとに変化させるという方式は、単純でありながら楽しめるものとして有効であると考えられる。また、このことも、対象となる子どもの年齢が低くても、よく理解できて楽しめるものとして、重要であろう。

3.触察の仕方の向上など視覚障害児の発達への寄与
 絵本は絵本自体として楽しめれば、それでよいとも考えられるが、視覚障害児の発達ということを考えた場合、触る絵本は、いくつかの点で、その発達に寄与しうる可能性をもっていると考えられる。
 視覚障害児が図形・絵の情報をよりよく得る上で、触察の仕方の向上が望まれるが、本研究では、触る絵本によって、その絵を工夫することにより、手指でさがす動き.たどる動きを促すことができた。これらは、それぞれ、絵本を作製する際に、絵の提示位置をページごとに変化させること、たどることが生じやすい直線、直角に曲がる線などを絵として配置することという設定に対応して促された動きであった。
 また、本研究で採用した、絵を作製する場合に触素材、大きさ、数、形、提示位置、向き、傾きなどの諸属性を配慮するという方針は、分かりやすい絵を作製するためのものであったが;そのような配慮に基づく絵を提供することは、一方で、それら事物の基本的属性を、 2次元図形において.学習する機会ともなると考えられる。本研究で作製した触る絵本では、大きさ、形、位置などの概念の学習の機会を提供しているとも考えられる。また、本研究では作製しなかったが、向きや傾きなどについても、それらの属性を配慮した絵を含んだ絵本を提供することは重要であると考えられる。例えば.向きについては、人の顔が.正面を向いていたり、横を向いたていたり、後ろを向いていたりするというような絵本が考えられる。また、傾きについては、まっすぐに立っている樹木が風に吹かれて傾いたり、反対側に傾いたりするような絵本が考えられる。これらの属性は、視覚が活用できる場合には自明のことであると考えられても、視覚が活用できない場合には、このような絵を提供しなければ、学習する機会はなかなか得られないと考えられる。

謝辞
 触る絵本の作製及び活用方法の検討にご協力いただいた、Kさん、Mさん及びそのご家族に感謝します。また、本研究の実践にご協力いただいた、宗知美氏(神奈川県ライトセンター)、若松万里子氏(同上)他のスタッフの方々に感謝します。


引用文献

1)バーナデイツト・ワッツ絵、生野幸吉訳: 赤ずきん(グリム). 岩波書店、 1976.
2)中村悦子、松隈玲子編: 絵本・童話 子どものあそびシリーズB. 中央法規出版、 1983.
3)中野尚彦: 触る絵本−触画の発生についての考察と試行−. 群馬大学教育学部紀要人文・社会科学編、 45、 301-312、 1996.
4)佐々木宏子、宇都宮絵本図書館編著: 幼児の心理発達と絵本. れいめい書房 1984.
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8)津守真、稲毛教子: 増補 乳幼児精神発達診断法0才〜3才まで. 大日本図書、 1995.
9)内田莉莎子訳、佐藤忠良画(ロシア民話. A.トルストイ再話) : おおきなかぶ. 福音館書店.  1966.
10)わらべきみか: あかずきん(あかちゃんめいさく). ひさかたチャイルド. 1995.

(受稿年月日:平成10年9月1日)