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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
トップ(目次) > III章トップ(目次) > 2.アメリカ-05
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3.カリフォルニア州
1)調査の目的:
 米国カリフォルニア州における、通常の学級で特別な教育的ニーズのある児童生徒への支援の実際を、幾つかの学校を訪問して明らかにする。

2)調査の方法:
 (1)調査の期間:
  2001年4月3日(火)〜8日(日)
 (2)調査の対象:
  カリフォルニア州ロサンゼルス市内の3つの教育機関
  (a)Pacific School (パシフィック・スクール)
  (b)Forshay Learning Center (フォルシェイ・ラーニングセンター)
  (c)Harrsion School (ハリソン・スクール)
 (3)調査の手続き:
  実際の教育状況の見学(授業参観等)と関係者へのインタビュー

3)調査の概要:
(1)Pacific School (パシフィック・スクール)
(1)学校の概要
 ロサンゼルス中心部の南西の海岸沿いにある、マンハッタンビーチ地区をカバーするマンハッタンビーチ学校区に5校ある小学校の一つひとつで、最も大規模なスクール(幼稚園、小学校)である。この学校は、"ナショナル・ブルーリボン・スクール"、"カリフォルニアにおける際だったスクール"、そして、"アメリカのベスト・スクール"にそれぞれ選ばれている。
 小学校年齢の児童数は、全校で680名、Resource Room(リソースルーム)を使用している子28名、Special day Class(スペシャルデイクラス:特殊学級)の児童は11名、幼稚園は5クラスで100名、Speech Class(スピーチクラス)は60名、PEP(Pre Elementary Program:小学校前教育)は2クラスで40名(1クラス20名)となっている。また、特殊教育を受けている子どもの割合は、(28+11+60)/680=10%である。
(2)授業参観:Regular Classroom(通常学級)
 算数の授業で、三角形の概念を形成するための具体的な教材・教具を使った演習形式であった。この学級には聴覚に障害のある児童が在籍しており、行動上の問題や自閉的な傾向もあった。教師は、FM補聴器を使用して授業を展開していた。FM補聴器は子どもの親が用意したものとのことであった。また、この学級の児童は、ほとんど白人で、アジア系が1名であった。
 教師の他、アシスタントティーチャー(教員の資格はないが、大学を出て3年間働いている)が1名いた。また、「本来的には、そうすべきではないが、校長、職員等の判断で話し合い、子どものニーズを配慮して学級編成を考えている。」とのことであった。アシスタントティーチャーは、資格はいらないが試験と面接で採用しているとのことであった。
(3)授業参観:pull-out(取り出し)による言葉の授業
 1年生の児童(両耳の聴力・発音等に課題のある子)が、個別で授業を受けていた。この児童を、個別指導で週1回、グループで2回の計3回、フォローしているとのことであった。
 スピーチ・セラピストはこの地区に5〜6名いるが、常勤が指導をしている学校はこの学校のみとのことであった。また、現在は、本校のみの子どもを対象としている。この教室に通う子どもは、全部で60名程度いて、担当の教師は1名であった。この教師は、1日11〜12コマのセッション(授業)を担当している。ほとんど空き時間はないとのことであった。
(4)授業参観:Resource Room(リソースルーム)
 2人のグループ(1年生、2年生)と4年生のグループが学習に取り組んでいた。リソースを使用する児童は、600名中28名(約5%程度)である。
 低学年の子どもは、子ども達にとって負担の無い時間帯でリソースを受けているが、高学年の子ども達は、通常のクラスで実施している内容を、より丁寧に指導するようなシステムで、子どもがリソースに抜ける時間帯と同じ内容で実施している。
(5)授業参観:Special Day Class(特殊学級)
 教師は1名、エイドが2名、児童11名であった。週に3回の割合で親のボランティアがついている。また、作業療法士(OT)も関わっている。この学級では、児童により一日の日課が異なり、本人の強い部分(得意な部分)はレギュラークラスで実施し、弱い面をスペシャルデイクラスで行うとのこと。通常は体育、音楽、アート(美術)、音楽はレギュラークラスで行うが、子どもにより、参加する内容が異なっているとのことであった。
(6)授業参観:OTによる授業
 1対1でバスケット(飾りかご)作りをしていた。ナイロン性の紐にビーズを通し(色の指定は特に無く、続けて通していく形)、1本の長いビーズの紐を完成させ、それをバスケットの柄の部分や周りの部分に装飾していく作業である。作品を完成させたあとで、子どもにバスケットの単語を1つずつ確認したり、紙にスペルを書いたりする作業をしていた。
(7)授業参観:プレスクール(5歳児のクラス)
 小学校入学前のクラスで、1クラス20名が2クラス(午前と午後で分けている)あった。蟻や毛虫がさなぎになり、蝶に変化する様子などを観察したり、絵に描いたりすることで、科学・数学・美術・発音などのさまざまなことを教えていく、という目的の授業がなされていた。
 ここでは、Full Inclusion(フルインクルージョン)の考えで教育がなされているとのことであった(午前のクラスにダウン症の子どもがいる)。インクルージョンスペシャリスト(通常の教育・特殊教育を受けた人)が学校区に1人いる。その人が各学校を周って、特別な配慮の方法などをアドバイスしたり、親との話し合いにも参加してくれる。インクルージョンスペシャリストはロサンゼルス郡のものではなく、この学校区の特徴になっているとのことであった。
 また、マンハッタンビーチとハンザビーチのみにある就学前のプログラム、ほとんどの学校区は幼稚園のみだが、ここではPEP(Pre-Elementary Program)を持っている。
(8)インタビュー:予算について
 学校のBudjet(予算)は学校区からの資金が出ているが、その他にもPTAからの予算(Pacific Schoolでは多いときは20万ドル)、教師が申し込むことのできる助成金(学校で2〜3人程度で500ドルからもっと高額なものまである)、マンハッタンビーチ教育基金、教師がワークショップに参加するための資金(欠席した代替教師の予算も含めて)などがある。その他、シェブラン(大手の石油会社)からの補助金等もあり、総額は不明とのことであった。
(9)資料:学校アカウンタビリティー報告書
 この学校では、年報を発行している。2000-2001版では、校長からのメッセージの後、クラスサイズや民族、アチーブメントテストの結果、年間予算等が盛り込まれている。さらには、教員評価や、学校運営や活動に関する親、児童、教師による評価等も示されてる。この報告書は、学校区、教師、親等に配布されている。(Pacific Elementary School, 2001)

(2)Forshay Learning Center(フォルシェイ・ラーニングセンター)
(1)学校の概要
 ロサンゼルス中心部のすぐ南西に位置するこの学校は、小学校、中学校、高等学校が一緒になった学校で、School(学校)とは言わず、Learning Center(ラーニング・センター:学習センター)という。全校の児童生徒数は約3500名で、70%が黒人、30%がヒスパニック系であった。特殊教育を受けている子どもの70%は男子。その内、スペシャルデイクラスとリソースルームを利用している児童生徒は約350名(レギュラークラスの子ども30名を含めて)であり、これは、全児童生徒数の10%にあたる。リソースルームは教師1名とアシスタント教師が各2名という配置で実施されている。各ルームには12〜13名程度で、児童生徒数が多いので、リソースルームは固定ではなく、時間帯によって教室が変わる。特に、高校のリソースルームには現在85名が在籍しており、30名が待機している状態である。教師が足りないので、学校区のほうに教師の増加の希望を出している。
 一方、スペシャルデイクラスは7年生8年生を統合して、全部で6クラスある。英語、数学、国語はスペシャルデイクラスで行い、社会、体育、科学はレギュラークラスで行っている。
 この学校では、特殊教育のサービスを希望する人数が増えている。1週間で希望者が20名いたときもあったとのことである。
(2)インタビェー:スクールサイコロジスト
 この学校では、スクールサイコロジストは1名定員である。しかし、カリフォルニアの学校区では1人のスクールサイコロジストで可能な児童生徒の規模を1200人から1500人と定めているので、この学校は3500人ということから3人は必要という計算になる。
 役割は、Behavioral Therapy(行動療法)の適用、特殊教育の評価、スタッフのためのワークショップ、評価モデルの構成、カウンセリングなど。この地区でIQテストは禁止されているので実施していない。ただし、Gifted Children(ギフティト:優秀児童)には実施しても良いことになっている。また、親とのミーティングを仕切ることも役割であり、IEPの会議への参加は初回と3年目の評価時に行う。その他、必要に応じて随時対応している。
 学校にはスクールサイコロジストは1名のみで、その他にカウンセラーが1名と、カウンセリングのソーシャルワーカーが2名いる(それぞれ異なる基金等からの補助で)。また、USC(University of Southern California:南カリフォルニア大学)からスペシャルでデイクラスを担当しているワーカー(週に4日でインターンの段階)が参加している。
(3)授業参観:Reading Program(読みプログラム)
 図書室での1対1のプログラム。英単語や読み、書きの練習を学生やボランティアを主体としたお兄さん、お姉さんと共に1対1で学習する。ほとんどはUSCの学生が主体。別にお金を支払って来てもらい教えてもらっているボランティアもいる。
(4)授業参観:Host Program(ホストプログラム)
 52州全部で実施できるプログラムである。マニュアルが確立されていて、構造化されているため、誰でも参加が可能である。
 1978年から全米各地で取り組まれており、プログラムを行いたいと思う学校もしくはコミュニティーが実施できる。アセスメントとして「ジェリージョーンズ」というアセスメントのパッケージがある(単語力などの判断)。この学校では6〜8年生を主体としているが、年少の子どもや20歳以降の人へのプログラムも作成可能(学年段階によるプログラムに使用する本がグレード別に色分けされている)。読み書きのテストをベースに読む、書く、話す、単語力等に関するプログラムを企画していく(コーディネーターの役目)。
 プログラムを州から買うことで州レベルで専門のプログラムを受けたコーディネーターによるサービスが受けられる(学校、コミュニティーでも可能)。
(5)インタビュー:予算
 レギュラークラスは出席率で予算が出る仕組みになっている。したがって、児童生徒数が多くても出席率が低いと予算は下がる。特殊教育は1人につきプラス500ドルが提供される。通常教育は小学校(3800ドル)、中学校(4200ドル)、高校(4500ドル)。リソースルームの子どもの場合は、予算はレギュラークラスと同じ。これらは州からの予算である。使い道は、学校区がある一定の率で集めて、教師の給与等は支払っている。
 「特殊教育の場合、予算が少ないので学校長としてはあまり積極的に設けたくないという意識はある(備品としても700ドル)」という返答もあった。また、「教育側の水準として大学院の修士(マスターレベル)のものが必要だが、給料は変わらないため、現在では意欲のある人が頑張って実施してくれているという段階である。」とも。
 公立の学校なので他の予算は持っていないが、教師が申し込む助成金(コンピューターを購入した)や、州が申し込むように依頼してくる助成金等もある。
 特殊教育の予算は少ないが、アシスタント教師や大型バスの運行など、学校の中で工夫して活用している。また、学校区からのサービスとして、カウンセリング等の心理学者を雇用したり、体育(PE)の補助教師の派遣、サマースクールに関するサービスなどもある。「特殊教育の教師になるには、大学院の修士(マスター)以上の資格がいる割に教師の待遇が良くないのが課題である。」との指摘もあった。

(3)Harrsion School(ハリソン・スクール)
(1)学校の概要
 ロサンゼルス中心部からしばらく東側に行ったところに位置するこの学校は、Kinder(キンダ−:幼児)から8年までの学校、幼児児童生徒数は1200名。その内、特殊教育を受けている児童生徒、すなわちIEP(Individualized Education Program)を持つ者は150名いる(12.5%)。そのほかにat risk(アットリスク)の子、すなわち、IEPは持たないが何らかのサポートが必要な子どもが100名程度いるが、その2割はLearning Disabilities(学習障害)の子どもで、あとの8割は未学習等による言語の問題のある子どもである。また、この地域では、言葉の問題と親の教育の問題が大きいとのことであった。また、98%がヒスパニック系である。
(2)授業参観:リソースルーム
 2つの教室を使用して、一方ではパソコン等を用いて学習を進め、他の教室を使用して、グループ又は個別による学習を展開。個別グループでは児童9名に対して教師5名。
 知的発達が軽度(Mild)と中度(Moderate)の子どもはレギュラークラスに語学や算数でインクルージョンしている。課題を抱える子どもは、まず、リソースルームから開始し、その後個別のニーズが大きければスペシャルクラスに移動したり、問題が改善の方向に行けばレギュラークラスに戻したりしている。
 周辺の子ども達の状況で、最も大きな課題は語学の問題である。これは、学習困難によるものではなく未学習によるものである。
 DIBELSというアセスメントがありそれを用いて子どもの診断に役立てている。これは、公式なものではないが、学校としてのアセスメントとして定着している。
 6〜8年生はat riskという形でインテグレーションしている。
(3)授業参観:特殊学級
 レベルとしては重度の子ども達が学習している。レギュラークラスにインクルージョンされている子どもは一人一人異なるが、多い子ども(高学年)では毎日1時間程度、少ない子どもの場合(低学年)では週に1時間で遊びの時間や給食などで実施していることが多い。タイプとして学習障害、情緒障害などがいるが去年は9名の中で、6名が中学の通常のクラスに移ることができた(1年間で)。
 最初から特殊学級というケースは無く(親の要望もあるため)、リソースルームから始めている。しかし、養護学校へ行くような重度な子どもはいない。途中から移動してくることもない。また、近隣の養護学校との交流授業はない。
(4)インタビュー:訴訟
 5年前に親からIEPの問題で訴訟を受け(学校区に対して)、親が勝訴し、その後、語学の問題等について、学校の中でより真剣に取り組むようになっている。
(5)インタビュー:インクルージョン・スペシャリスト
 学校にInclusion Resource Specialist(インクルージョンの専門職)がいて、その人がレギュラークラスとリソースやスペシャルクラスとの調整等を実施している。子ども達も、いつ頃に通常のクラスに戻れるかなどを相談することもできるし、教師側からの相談や、親からの相談にものれるため、効果があると捉えられている。彼らは、特殊教育の大学院修士(マスター)を出て、学校の中でスーパーバイズも受けている。
(6)インタビュー:予算
 カリフォルニア州からの予算、各種のグラント、教師が個人的に取る助成金、地元企業とのタイアップによるお金(基金等)で実施している。グラントはさまざまだが、大きなもの(コンピュータサーバーの設置)では初年度14万ドル、2年目は20万ドル程度の予算がついた。一人の子どもに対する州からの予算は、子ども1人につき4000ドル程度だが、特殊教育を受けている子どもに関しては、それにプラスして600ドル(計4600ドル)の予算がつく。
 Charter School(チャータースクール)への移行については、予算の増加はあるが、子ども一人一人のニーズに応じたサービスを提供していくには予算がかかり過ぎることが予想されるので特に考えていない。また、企業とのタイアップなどを強固にしていかないと、特に特殊教育のサービスとしては難しいだろうとのことであった。

4)おわりに
 同じロサンゼルス市内の学校と言いながら、学校によってこれほどまでに違うのかという印象である。そもそも、小学校とか中学校ではなく、幼稚園と小学校や中学校が一緒になっていたり、高等学校までが一緒になっていたり、また、校名も、「学校」ではなく「ラーニング・センター」になっていたりする。さらにぞれぞれが、特殊教育に限ってみても、今回訪問した3校が3校ともたいへん特徴的な教育実践をしていることが分かった。学校区とか市ということで、幾つかの共通部分があるものの、アメリカでは各学校での独自の展開がなされていることを改めて感じた。また、特徴的なのは、その様な教育の在り様や教育システムだけではなく、例えば予算についても、公立という共通部分はあるものの、学校によって独自の収入状況になっていることが分かった。

写真1 Regular Class
写真1 Regular Class
写真2 Special Day Class
写真2 Special Day Class

資料
Pacific Elementary School (2001)School Accountability Report Card 2000-2001.
(文責 柘植雅義 是枝喜代治 横尾俊)
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