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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
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IV まとめ
 米国連邦政府及び各州の状況の報告全体を通して、その概略を以下のようにまとめた。


1.連邦政府の教育への関与
 連邦政府は教育に関する権限をもたないとされて来たが、福祉の概念を広義にとらえ、国民の幸福、生活の充足を目的として教育の支援を行っている。連邦教育省の使命は教育の機会均等と優れた教育実践の振興の2つとされている。具体的には各種補助金事業及び奨学金事業と教育情報の収集、統計、分析、提供及び研究・開発活動に大別出来る。

2.障害のある子の教育への関与の変遷とその法的背景
◇1964年『公民権法』が成立;教職員の処遇に対して人種等による差別を行った場合、連邦政府からの補助金が停止されると規定

◇1973年『職業リハビリテーション法』が成立;504条で障害のある人は政策上でも、習慣や慣習上でも、雇用やサービスの提供の上でも平等に扱わなくてはならないと定めた。

◇1990年『障害のあるアメリカ国民法』(ADA)の成立;504条で対象外だったすべての企業や団体が差別することを禁止

◇1975年『全障害児教育法』が成立;6歳から21歳までのすべての障害児は無償で適切な公教育が提供。その特色は最も制約の少ない教育環境を提供されること、個別教育計画(IEP)が導入されたこと、サービスの連続体が提供されることの3点。

◇1986年『全障害児教育法』の修正;3歳から5歳までのすべての障害児への無償で適切な公教育が提供とともに、個別家族サービス計画(IFSP)が導入。

◇1990年の再修正により「障害のある個人教育法」(IDEA)に名称変更の再修正;16歳以上の生徒に対し、卒業後の地域・職業への個別移行計画(ITP)をIEPの中に明記。

◇1994年『初等中等教育法』の改正(『2000年の目標:アメリカ教育法』);強調点は読み・書き・計算の能力を引き上げて、すべての子どもに就学までに学ぶ準備をさせていくこと、4・8・12年生の時に主要科目においてそのレベルまで学力が達成していること、算数と理科の学力が世界一となることなどが8項目を規定。

◇1997年『IDEA』の再々修正;主な修正点は、(1)障害のある児童生徒の学力を高めるため、IEPが通常のカリキュラムにより明確につながりをもち、学力達成目標を示し、全州及び学区の学力試験に障害児を含めること (2)両親の関与を高めること (3)通常教育を担当する教師もIEP会議のメンバーとなること (4)個別移行計画(ITP)の作成を14歳からにしたこと等。

3.各州の状況
1)テキサス州
(1)教育全般について
 テキサス州の学校には、多様なマイノリティ集団と学力格差がある。現在テキサスには約439,000人の障害のある生徒がおり、これは全生徒の中の12%ととなっている。その内、少なくとも90−95%の生徒は一日の内のある部分を通常学級で過ごしている。他の州と同様、学力を高めることへの強烈な圧力(連邦法によるため、全州に共通の課題)とアカウンタビリティの徹底が求められていると同時に、障害児のインクルージョンと州カリキュラムヘのアクセスの実現が1997年のIDEA修正によりさら求められている。

(2)特別な教育的ニーズのある子へのインクルージョンに関する地方レベルの法律及び規則
 テキサス州においては、他の州と同様、できるだけ多くの権限を地域の学区におろしていく方向にある。特殊教育については連邦法が細かい規定を設けているので、州政府はそれを学区におろす役割をとる。特殊教育に関する州の法律及び規則は連邦法に準じている。

(3)学区の財源
 学区には学区内のpropertyへ課税権利がある。学区の税収、州からの法令によって定められた法的割り当て、そして連邦政府からの連邦議会によって割り当てられた資金が財源となっている。98−99年度の教育財政に関する総収入は$28,961,166,554あり、学区税収42.7%、州39.2%、連邦7.4%、その他0.4%、負債10.4%からなっている。生徒一人頭の授業に係わる基礎割り当ては州法によって定められた算出基準にしたがってその年の収入から割り出される。基礎割り当ては州と学区の両者で負担するが、学区の税収に応じて州の負担率が変わる。特殊教育は、この基礎割り当てをベースに、措置の場による重みづけ、時間等を掛け合わせて算出される。この加算には、学区・州の資金と、指定されている連邦資金が使われる。

(4)デル・バレ学区の特殊教育行政
(1)デル・バレ学区の状況
 訪問したデル・バレ学区は、英語を習得していないヒスパニック系生徒そして低所得層が半数以上を占める地域である。このような状況において、学校では州学力試験通過率を高めること、それと連動して英語力が不足している生徒の母国語での初期教育の提供と英語力の育成などが要求されている。同時に、障害のある生徒をより通常のカリキュラムにアクセスし、インクルージョンを促進することが要求されている。学校が置かれているこの状況のなかに特殊教育も位置づけて理解する必要がある。
 デル・バレ学区は、州平均よりも、ヒスパニック系とアフリカ系の生徒の試験通過率が高く、通常教師のパーセンテージが州平均よりも高い。一方、特殊教育を受ける生徒の率が州平均よりも高いのに、逆に特殊教育教師のパーセンテージが州平均よりも低い。通常教育への予算の振り分けが多くなっており、低学力の生徒の学力の底上げにウェイトが置かれていることが伺えた。
 この結果、学力の全体的な上昇が示されていたが、もっとも多くの障害児がサービスを受けるリソースルームに十分な特殊教育教師の配置がなされておらず、担当者自身もその教員不足による困難を述べていた。

(2)ヒルクレスト小学校
 デル・バレ学区の中の3つの小学校を訪問したが、そのなかのヒルクレスト小学校を選んで記す。98年度までは3−6学年の小学校であったが、幼稚部−6年の学校に今年度から変わった。提供された資料は97年度のもので、まだ学年が3−6年のものだが、基本的な生徒構成に変化はあまりないため、97年の統計資料をもってその概要を報告する。

 a)生徒の概要
・全学生徒の学年別内訳
 3年−100名 4年−199名 5年−198名 6年−229名
 計 726名
・民族構成
 アメリカインディアンあるいはアラスカネイティブ0.6%、アジア系1.4%、黒人あるいはアフリカ系アメリカ人14.0%、ヒスパニックあるいはラテン系(州平均38%)、70.0%、白人(州平均44%)14.0%
・英語力が十分でない生徒40%(290名)
・無料あるいは補助給食の対象生徒84%(609名、低所得層)
・特殊教育を受けている生徒16%(116名、州平均12%、全学区対応の特別学級があるため)
・障害種別と人数
・特異的学習障害 89名・言語障害 31名・その他の健康障害 23名・精神遅滞10名・重度情緒障害 6名・重複障害 6名・難聴 2名・視覚障害 1名

 b)教職員の職種
 行政職−2、学級教師−52、特殊リソース教師/専門家−22(内非常勤1)、教育補助員−9、支援スタッフ(食堂、守衛等)−11教職員計 96名(内非常勤1名)
 特殊リソース教師/専門家の内訳:リソース特殊教育教師(15人以上のリソースルーム担当)、コンテンツ・マスタリー・センター教師(個別あるいは3、4人の集団担当)、特殊学級教師、二言語教師・第二外国語としての英語教師、スクールサイコロジスト、カウンセラー、言語療法士、数学専門教師、看護婦。PT、OT、視覚専門家、歩行訓練士は必要に応じ学区が派遣。PT、OTの派遣には医師の診断書要。

 c)通常学校の中の支援の場
・通常学級:普通教育教師と特殊教育教師とが協力するco-teachingが盛ん。・コンテンツ・マスタリー・センター:抽出個別/小集団、通常学級で担任を支援。・リソースルーム:抽出中集団、もっとも多く活用、集団が大きく教師の負担過重・特別学級(中度):生徒はより多くの時間を通常学級で過ごす。・特別学級(重度):全学区対応、多く分離型教室で過ごすが、できるかぎり、通常学級でも過ごす。・言語療法:抽出用の個室があるが、できるかぎり言語療法も教室のなかで行う。構音訓練などは抽出して個別あるいは小集団で行うことがある。・その他:二言語および第二外国語としての英語のクラスがある。また、巡回支援を学区から受けながら、英才教育を提供しているケースがある。
 一般のカリキュラムにアクセスすることが障害児にも求められており、該当する通常の学級が国語の時は、特別学級あるいは抽出でも国語あるいはそれに準じた内容を教える。デル・バレ学区では、障害のある生徒で、州統一試験が免除されている生徒について、代替試験を行うために、CLASSという総合評価プログラムを採用している。IEPが作成されない程度の軽い障害のある生徒については、504条に基づき学級で配慮をしている。

(5)分離型の特別学校−その一例としてのテキサス州立盲学校
 テキサス州には一つの州立盲学校と一つの州立聾学校がある。また、州南部に、知的障害のための特殊学校があるがこれは漸次縮小に向かっている。連邦法により、より制約の少ない教育環境を保障すると同時に、教育サービスの連続体を用意することが定められており特殊学校は存続している。
 特殊学校への措置には、IEPによる決定と教育庁の承認が必要であり、毎年その措置はIEPの会議によって見直されている。
 テキサス州立盲学校は州内で唯一の盲学校である。教育庁の管轄ではなく、議会から直接予算を受けている。盲学校は州内の全視覚障害幼児児童生徒の把握・登録し、毎年州政府に報告する責任がある。現在約6,600人の視覚障害のある0歳から21歳までの幼児児童生徒が州内で把握されている。

(1)地域へ戻すことを前提とした集中的教育を行う寄宿制特殊学校として
 寄宿制の盲学校として、6歳から21歳の主として重複障害のある視覚障害生徒と盲ろう生徒を受け入れている。現在約140名が在籍している。平均すると、盲学校の在籍期間は約2年である。ただし、重度の重複障害のある生徒などでは、それ以上長く在籍している場合もある。盲学校では、キャンパス内に幅広い専門家を擁しており、学際的なアプローチをとっている。

(2)地域での教育を支える資源・研修センターとして
 地域の学区において視覚障害のある生徒が教育を受けることを支援している。学区において、視覚障害のある生徒への直接サービスを盲学校から求めるには、IEP会議を経なければならない。しかし、教員への研修や技術支援を盲学校に求める場合は、学区はIEP会議を経ないで盲学校へ直接依頼することができる。盲学校は視覚障害教育に必要な教材センターとしても機能しており、地域の学校でIEP作成ができるようにするための、カリキュラム開発、手引き書の作成もおこなっている。

(3)地域で学ぶ生徒のための夏期・短期集中コースの提供
 地域で教育を受けている視覚障害生徒に、地域では提供できない視覚障害に不可欠な教育サービスを提供することと、同じ障害をもつ同年代の仲間との出会いの場を提供するために、3種類の集中コースが発展してきた。すべて盲学校の寄宿舎に宿泊して行い、盲学校の資源と専門スタッフを活用して実施する。

2)「ヴァージニア州」
(1)州政府の教育
(1)障害のある子どもの教育
 IDEA(Individuals with Disabilities Education Act)に基づき、障害のある子どもの教育は、3歳から22歳までを義務教育として行っている。
 教育対象の子どもの総数約100万人の内約13%の15.7万の子どもが特殊教育の対象となっている。IDEA(Individuals with Disabilities Education Act)に基づき、LRE(LeastRestrictive Environment)を推進し、多くの障害のある子どもは通常の学校での教育を受けている。障害のある子どもの教育の場は、通常クラス42.24%、リソースルーム29,21%、分離クラス25.33%(3歳から21歳までのすべての障害児:1996−1997)となっているが、通常の学校での教育に加えて、寄宿制の州立盲・聾学校が地域別に2校設立され、重複障害の子ども、行動に問題のある子ども、保護者の希望のある子ども等約170人が教育を受けている。

(2)障害のある子どもの教育を行うための費用
 州政府は、学区に対して障害のある子どもの教育に関わる費用の26%を拠出している。連邦政府から8.8%の予算の拠出があり、残りの65.2%が学区の支出となっている。支出する教育費用は、特殊教育を受けている約13%の子どもに対して、全体の教育費用の25%をかけている。これは、一人当たり、障害のない子どもの約2倍の費用をかけていることになる。

(3)州の教育の基本方針
 a)インクルージョンの推進
 IDEAにしたがってインクルージョンを推進しているが、州立の盲・聾学校を設置して重複障害、行動障害等に対応している。また、学区には、分離型の特殊教育センターや各学校に併設された特殊教育センターが置かれ障害に対応した特殊教育プログラムが実施されている。
 b)障害のある子どもの教育課程と評価
 州政府は、州を挙げて学力の向上に力を入れている。州では、カリキュラムの基準(SOL:Standards of learning)を設け、その基準を特殊教育にも適用しているが、障害のある子どもには、障害に対応した配慮がなされている。
 c)インクルージョンの課題
 インクルージョンには、特殊教育と通常教育の双方から反対があったが、その推進には、通常教育の教師と特殊教育の教師が連携し協同で仕事をしていくことが重要であることから、コラボレーション(協働:collaboration)の必要性が教員の研修と共に強調されていた。以前は、通常の学級の中にいる障害のある子どもにだけを対象に、指導や支援を行ってきたが、近年は、通常教育と特殊教育が共に協力するようになって、特殊教育がクラス全体の利益を生むことに繋がった。

(4)学区(Schools Division)の教育
 フェアーファックス郡学区(FCPS:Fairfax County Public School)の教育行政は、教育委員会(The school board)のもとに教育事務所(Administration)がおかれ、約15.5万人の子どもが小学校(幼稚園5歳−6学年)133校、中学校24校で教育を受けている。
 障害のある子どもの教育は、IDEAに基づきLREを推進し、多くの障害のある子どもは通常の学校での教育を受けている。2歳から22歳までの子どもに特殊教育を提供している。特殊教育を受ける人数の割合は約15.5%となっている。
 通常の学校においては拠点校を設置し特定の障害に特化して特殊教育担当の教員を配置したり、施設や設備の充実を図っている。(視覚障害教育の拠点校)その他、特定の障害(情緒障害・聴覚障害等)については、特殊教育センター(分離型施設あるいは学校の別棟に設置)を設置し、IEPに基づいてリソースとしてプログラムを提供している。(聴覚障害については、手話の教育プログラムがある。)また、地域の学校(ベーススクール)には、障害に対応した教員が巡回して指導に当たっている。重度の子どもについては、学区外の施設に教育を委託している。(特殊教育全体の1%未満)学習障害のある子どもの教育については、各学校でのCo-teachingによる指導、リソースルーム(ラボと呼称)での指導などが行われている。
 教育事務所が中心になって教員研修を進めてきた。最近になっての関心は、通常の教師と特殊教育の教師が協同して通常の学級の中で支援をするかというところにステップアップしている。
 また、通常の学校で子どものアセスメントができるような体制をつくること、通常の学級の教師の対応を生かすこと、適切な教育を通常の学級の中でできるような体制作り等を進めている。これは、拡大し続ける特殊教育予算を効率的に運用することが求められているからである。

3)カリフォルニア州
 カリフォルニア州ロサンゼルス市内の3つの教育機関を訪問した。

(1)Pacific School (パシフィック・スクール)
 小学校年齢の児童数は、全校で680名、Resource Room(リソースルーム)を使用している子28名、Special day Class(スペシャルデイクラス:特殊学級)の児童は11名、幼稚園は5クラスで100名、Speech Class(スピーチクラス)は60名、PEP(Pre Elementary Program:小学校前教育)は2クラスで40名(1クラス20名)となっている。また、特殊教育を受けている子どもの割合は、(28+11+60)/680=10%である。
 (1)参観した一つの通常学級には聴覚に障害のある児童が在籍しており、行動上の問題や自閉的な傾向もあった。教師は、FM補聴器を使用して授業を展開していた。教師の他、アシスタントティーチャー(教員の資格はないが、大学を出て3年間働いている)が1名いた。 (2)pull-out(取り出し)による言葉の授業では、1年生の児童(両耳の聴力・発音等に課題のある子)が、個別で授業を受けていた。スピーチ・セラピストはこの地区に5〜6名いるが、常勤が指導をしている学校はこの学校のみとのことであった。 (3)Resource Room(リソースルーム)2人のグループ(1年生、2年生)と4年生のグループが学習に取り組んでいた。リソースを使用する児童は、600名中28名(約5%程度)である。 (4)Special Day Class(特殊学級)教師は1名、エイドが2名、児童11名であった。週に3回の割合で親のボランティアがついている。また、作業療法士(OT)も関わっている。この学級では、児童により一日の日課が異なり、本人の強い部分(得意な部分)はレギュラークラスで実施し、弱い面をスペシャルデイクラスで行うとのこと。 (5)OTによる授業は、1対1でバスケット(飾りかご)作りをしていた。 (6)ここでは、Full Inclusion(フルインクルージョン)の考えで教育がなされているとのことであった。インクルージョンスペシャリスト(通常の教育・特殊教育を受けた人)が学校区に1人いる。その人が各学校を周って、特別な配慮の方法などをアドバイスしたり、親との話し合いにも参加してくれている。

(2)Forshay Learning Center (フォルシェイ・ラーニングセンター)
 全校の児童生徒数は約3500名で、その内、スペシャルデイクラスとリソースルームを利用している児童生徒は約350名(レギュラークラスの子ども30名を含めて)であり、これは、全児童生徒数の10%にあたる。リソースルームは教師1名とアシスタント教師が各2名という配置で実施されている。この学校では、スクールサイコロジストは1名定員である。役割は、Behavioral Therapy(行動療法)の適用、特殊教育の評価、スタッフのためのワークショップ、評価モデルの構成、カウンセリングなど。Reading Program(読みプログラム)では、図書室での1対1のプログラム。予算は、レギュラークラスは出席率で予算が出る仕組みになっている。したがって、児童生徒数が多くても出席率が低いと予算は下がる。特殊教育は1人につきプラス500ドルが提供される。

(3)Harrsion School (ハリソン・スクール)
 IEP (Individualized Education Program)を持つ者は150名いる(12.5%)。そのはかにat risk(アットリスク)の子、すなわち、IEPは持たないが何らかのサポートが必要な子どもが100名程度いるが、その2割はLearning Disabilities(学習障害)の子どもで、あとの8割は未学習等による言語の問題のある子どもである。特殊学級は、レベルとしては重度の子ども達が学習している。レギュラークラスにインクルージョンされている子どもは一人一人異なるが、多い子ども(高学年)では毎日1時間程度、少ない子どもの場合(低学年)では週に1時間で遊びの時間や給食などで実施していることが多い。タイプとして学習障害、情緒障害などがいるが去年は9名の中で、6名が中学の通常のクラスに移ることができた(1年間で)。5年前に親からIEPの問題で訴訟を受け(学校区に対して)、親が勝訴し、その後、語学の問題等について、学校の中でより真剣に取り組むようになっている。学校にInclusion Resource Specialist(インクルージョンの専門職)がいて、その人がレギュラークラスとリソースやスペシャルクラスとの調整等を実施している。予算は、一人の子どもに対する州からの予算は、子ども1人につき4000ドル程度だが、特殊教育を受けている子どもに関しては、それにプラスして600ドル(計4600ドル)の予算がつく。

 同じロサンゼルス市内の学校と言いながら、学校によってこれほどまでに違うのかという印象である。そもそも、小学校とか中学校ではなく、幼稚園と小学校や中学校が一緒になっていたり、高等学校までが一緒になっていたり、また、校名も、「学校」ではなく「ラーニング・センター」になっていたりする。さらにぞれぞれが、特殊教育に限ってみても、今回訪問した3校が3校ともたいへん特徴的な教育実践をしていることが分かった。学校区とか市ということで、幾つかの共通部分があるものの、アメリカでは各学校での独自の展開がなされていることを改めて感じた。また、特徴的なのは、その様な教育の在り様や教育システムだけではなく、例えば予算についても、公立という共通部分はあるものの、学校によって独自の収入状況になっていることが分かった。

4)ニューヨーク州
 米国ニューヨーク州における特殊教育の現状をシラキウス地区、マンハッタン地区にある学校、教育機関を訪問して調査した。

(1)シラキウス地区について
 シラキウス地区にはシラキウス大学がある。この大学の中にはBurton Blatt博士(1927−1985)が設立したCenter on Human Policyがある。Blatt博士は、アメリカ国内の障害者の施設における処遇の問題を世に問う活動をされた方である。また、北米におけるノーマライゼーションの理論化に大きな影響を及ぼしたウォルフェンス・ヴェルガー博士もシラキウス大学名誉教授である。
 この地域には、現在Special Schools(養護学校)は存在せず、Self-contained Classes(特殊学級)を有している学校とインクルージョンに取り組んでいる学校の2種類に分けることができた。

(1)プライベートのプレスクール
 The Jowonio School (ジュオニスクール:Private Preschool)
 この学校は、プライベートのプレスクールである。現在は、140人以上の子供と40にのぼる教師、パラメデカルスタッフ、ソーシャルワーカー、心理士などスタッフから構成されている。この学校は、プレスクールとしての機能の他に地域の保育所に巡回して障害のある子どもの保育を支援している。インクルージョンの教育形態を採用している。健常児と障害のある子どもの比率は原則として2:1である。訪問したクラスは、17名中7名がIEPを持っていた。指導体制としては、主教師、副教師のチームの他にそのクラスに固定された補助教師と曜日替わりで入る補助教師がいた。

(2)シラキウス学区 (Syracuse School District)の公立校
 シラキウス学区の公立校は、2校見学することができた。時間の関係で非常に足早の訪問であったが概要は以下の通りであった。
 a)Salem-Hyde Elementary School (セイラムハイド小学校)
 この学校の校長は、インクルージョンに学校を通して取り組みたいと考えている先生であった。しかし、彼によるとこの学校の現状は、先生の意思統一がうまくいかず、現在はインクルージョンを実践している学年とそうでない学年があるとのことであった。子ども、親、教師と3つのグループのなかでインクルージョンにもっとも受け入れやすいのが子ども達であり、次に子どもの変わる様子を見ながら親が変わり最後に教師が残されるが、ここが一番難しいといった話をしてくれた。
 b)Henniger High School (へニンガー高等学校)
 シラキウス大学に一番近い公立高校である。特殊学級用のスペースで数名の生徒と会うことができた。その中の一人を特殊教育担当の教師「彼はファシリテーティド・コミュニケーションをつかってコミュニケーションができるのよ」と紹介してくれた。彼は機器と教師の助けをかりながらコミュニケーションをとる様子を示してくれた。

(3)リバプールセントラル学区 (Liverpool Central School District)
 この学校区の特徴は、学校区を挙げて、インクルージョンに取り組んでいる。
 a)Willowfield Elementary School (ウィローフィールド小学校)
 広い廊下と各学年ごとのオープンスペースとしての一つのあき教室を持っていた。この教室はIEPを持つ子どもが特別なプログラムを行うスペースとして使われていた。校内は、電動車椅子や、コミュニケーションボードを積んだ車椅子の子どもみられた。校内には感覚統合などが行える部屋や言語療法士の使う部屋などがあった。各教室にはパソコンが最低3台ほどあり、スペースに恵まれていることもあわせて今回訪問した学校でもっとも裕福な学校との印象を受けた。
 b)Longbranch Elementary School (ロングブランチ小学校)
 参観した4年生のクラスは23名中7名がIEPを持っているとのことである。どの子どもがIEPを持っているかは、教えられるまでなかなかわからない状態の子どもたちであった。通常級の担任と特殊教育の教師の授業中の役割は固定しておらず、どちらが特殊教育の教師の教師かは尋ねなければわからない状態であった。
 c)Liverpool High School (リバプール高等学校)
 この高校はこの地区唯一の公立高校である。この高校も単位制であるので、それぞれ個人によってカリキュラムがことなる。この学校にもIEPを持つ生徒達の教室のスペースが用意されていた。彼らはここを拠点に授業を受けにいく。必要がある場合は補助教師がつきそって授業に参加する。後期中等教育におけるインクルージョンは、取り組まれ始めたばかりで非常に挑戦に満ちているとのことであった。

(4)シラキウス地区の整理
 シラキウス地区はコミュニティーでの教育や支援を子どものニーズにあわせて取り組もうとする雰囲気のあるところである。学校区が異なれば異なる考えの基に教育があり、同じ学校区でもまた、取り組み方が異なっている。インクルージョンの在り方も一様ではなくむしろ学校の施設等の制限によりことなった実相を呈している。しかし、子どものニーズにあわせた専門家の巡回等もしっかり行われておりコミュニティーにおいて個のニーズを満たす方向性を確固として持っている。これらの学校におけるインクルージョン教育実践の一つの特徴として、チームテーチングや職階制などの教授組織の工夫が見られること、また、あまりふれなかったが、グループ学習を頻繁に用いていることなどが挙げられる。ただし、高校では授業を見る回数がすくなかったためかそのような場面を見ることはできなかった。

(2)マンハッタン地区 「Lighthouse International」
 Lighthouse International(以下LH)は、ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタンにある視覚障害をもつ乳児から老人までの全ての人々を対象としたサービス機関である。運営は、州からの補助、寄付金、および利用者の負担(日本の措置費に類似するものが個人保険、メディケアが負担をしている)によって行われている。
 日本の類似施設(日本ライトハウス・大阪など)と大きく違っている点は以下である。LHは乳幼児から老人までを利用対象とし幅広い年齢層に対応している。医師およびオプトメトリストによる専門の医療施設を持っている。セミナーをひらき専門家の養成をおこなっている。研究施設をもっている。
 対象年齢に乳幼児および学齢期までがふくまれていることは、統合教育を学校教育のそとから支援する社会資源の1つとなっていると考えられる。日本では、現在、LHのもっているほとんどの機能(歩行訓練、ADL、余暇活動など)は学齢期の児童については特殊教育諸学校がになっている。今後、統合教育が推進された場合にはこれらの学校が持っているいくつかの機能をこうした社会資源によって補完する可能性も検討し視野にいれていくことも考えられるだろう。

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