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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
トップ(目次) > III章トップ(目次) > 3.ドイツ-02
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II.各州の状況
調査地域
 前述したように,ドイツ連邦共和国では州によって教育に関する取組みが異なっている。ドイツ班では調査地域の選択に当たり各州の情報収集を行い、統合教育を積極的に推進しているとされる州としてシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州及びノルトライン=ヴェストファーレン州、推進に消極的といわれる州としてバイエルン州の3州を調査対象候補としてあげた。今回は、ノルトライン=ヴェストファーレンとバイエルン州を調査対象地域とした。

1.ノルトライン=ヴェストファーレン州
(1)統合教育への経過と現状
 ノルトライン=ヴェストファーレン州は、1994年5月6日の常設州文部大臣会議決議「ドイツ連邦共和国における学校の特殊教育的対応について」を受け、1995年4月24日、「基礎学校において、障害児が特殊教育を受けることができる」とする「学校における特別教育的対応の一層の発展に関する法律」を成立させ、1995/1996学校年度から基礎学校における統合教育は実験段階から州の制度となった。なお、中等教育における統合教育は引き続き学校実験として行われている。ノルトライン=ヴェストファーレン州文部省は、義務教育児童生徒の約4%を障害児と算定しており、その10%が通常学校に在籍することを当面の目標として予算を組んでいる。
 基礎学校に障害児が在籍する場合は、特殊教育教員が障害児一人につき週当たり3.5時間の指導を行うように積算され配置される。中等教育(第1段階)では学校実験として統合教育が行われているが、その場合は、特殊教育教員が障害児一人につき週当たり3.75時間指導を行うように積算され配置されている。州全体で、総合制学校19校及び基幹学校11校で学校実験が行われている。
 教員は州の公務員であり、特殊教育教員、通常教育教員の双方とも州政府が予算措置している。一方、学校の施設設備については市町村が予算措置を行っている。また、障害のある児童生徒の通学費用(スクールバス及びタクシー)については、児童生徒が在籍する市町村が負担している。
 なお、ノルトライン=ヴェストファーレン州に、通常学校における特殊学級及びリソースルームの制度はない。

(2)障害のある子どもの通常学校〈基礎学校及び中等学校)就学
 障害児の通常学校入学にあたっては、保護者が子どもを通常学校に在籍させたい旨当該校に申し出、市町村が、通常学校での教育が必要かどうかの資料作成を特殊教育教員と通常学校教員に依頼する。当該校における試験的な入学による観察に基づいて作成された資料をもとに、市町村は基礎学校に在籍させるかどうかを決定する。通常学校の在籍が適さないという判断がなされれば、特殊学校に在籍することとなる。しかし、保護者が市町村の決定に不服がある場合には、郡に調停を依頼したり裁判を起こすことができる。

(3)通常学校に配置されている教職員
 基礎学校段階では特殊教育教員が障害児一人につき週当たり3.5時間の指導を行うように積算され配置される。したがって、障害児の在籍者数が少ない学校においては、フルタイムの特殊教育教員が在籍しないこととなる。特殊学校に籍のある特殊教育教員が規定の時間数でいくつかの学校を巡回し統合授業を通常教育教員と行う。学校実験段階から統合教育を行ってきた基礎学校の場合は下記に示すように、特殊教育教員に加えて理学療法士等の専門職が職員として配置されているが、1995年制度化以降に統合の実施を始めた多くの基礎学校の場合、それらの職員が配置されていないという差が生じている。
 学校実験段階から統合教育を行っている基礎学校と、現在学校実験段階の中等学校(総合制学校)に配置されている教育職員の例を挙げれば、次のようになっている。
 基礎学校の例では、通常教育教員の他に、社会教育士、ソーシャルワーカー、理学療法士、作業療法士、言語療法土、ツヴィルディンスト(Zivildienst)、看護婦、幼稚園教諭の職員がいる。なお、ツビィルディンストとは、兵役義務を学校や福祉施設等における労働で代替する制度である。中等学校(総合制学校)の例では、特殊教育教員、学校相談職員、学校心理士、相談員及び社会教育士、理学療法士、作業療法士、失業者雇用対策要員、ツィビルディンストの職員がいる。失業者雇用対策要員とは、進路指導と生徒の職域開拓を行う職員である。

(4)通常学校に在籍する障害のある児童生徒
 州内の郡(州内には、5つの郡がある)および市における通常学校に在籍する児童生徒の割合は次の通りである。
 義務教育は基礎学校(6歳で入学)から中等学校の第1段階までの9年間である。義務教育段階において、全体の児童生徒数に対する通常学校に在籍する障害がある児童生徒の割合は、ケルン郡では0.4%、ケルン市では0.5%である。一方、特殊学校に在籍する障害がある児童生徒の割合は、ケルン郡では3.8%、ケルン市では4.9%となっている(1999/2000学年度)
 また、ノルトライン=ヴェストファーレン州では10種類の障害分類を用いている。障害分類による基礎学校、中等学校、及び特殊学校に在籍する児童生徒数を見ると、ケルン郡及びケルン市のいずれにおいても、また、特殊学校、基礎学校及び中等学校のいずれにおいても在籍する児童生徒数は、学習困難、教育援助(行動障害)、肢体不自由の順となっている。知的障害については、基礎学校及び中等学校に少数在籍している。
 以下に関連する統計(1999/2000学年度)を示す。

・義務教育対象児童生徒数
 ケルン郡 525204名、ケルン市 101826名

・義務教育対象児童生徒の内、特殊教育の対象となる児童生徒数
 ケルン郡 21564名、ケルン市 5503名

・義務教育対象児童生徒数の内、通常学校に在籍し特殊教育を受けている児童生徒数とその割合
 ケルン郡 2155名 0.4%、ケルン市 514名 0.5%

・義務教育対象児童生徒数の内、特殊学校に在籍し特殊教育を受けている児童生徒数とその割合
 ケルン郡 19409名 3.8%、ケルン市 4989名 4.9%

・基礎学校、中等学校及び特殊学校における障害種別毎の在籍児童生徒数

 障害種別:学習困難(Lernbehinderte;LB)、知的障害(Geistigbehinderte;GB)、肢体不自由(Körperbehinderte;KB)、教育援助(Erziehungshilfe;EZ)、聾(Gehörlose;GH)、難聴(Schwerhörige;SG)、言語障害(Sprachbehinderte;SB)、盲(Blind;BL)、視覚障害(Sehbehinderte;SH)、病弱(Kranke;KR)

表1.ケルン郡
  LB GB KB EZ GH SG SB BL SH KR 合計
特殊学校 8921 605 1705 163 411 272 2320 254 347 411 19409
基礎学校 1653 50 142 376 7 25 228 2 17 0 1653
中等学校 180 25 82 187 1 4 19 0 4 0 502
障害種別: LB;学習困難、GB;知的障害、KB;肢体不自由、EZ;教育援助(行動障害)、GH:聾、SG;難聴、SB;言語障害、BL;盲、SH;視覚障害、KR;病弱

表2.ケルン市
  LB GB KB EZ GH SG SB BL SH KR 合計
特殊学校 2272 470 277 761 0 0 586 254 258 111 4989
基礎学校 189 17 38 120 0 3 34 0 0 0 401
中等学校 32 9 34 32 0 1 5 0 0 0 113
障害種別: LB;学習困難、GB;知的障害、KB;肢体不自由、EZ;教育援助(行動障害)、GH:聾、SG;難聴、SB;言語障害、BL;盲、SH;視覚障害、KR;病弱

(5)課題となっていること
 当面の制度化された基礎学校の課題として、実験学校段階から統合を行っていない学校において、障害のある子どもの在籍が増えないこと、専門職員が配置されないこと、並びに、入学後障害がわかった子どもに対して通常学校教員の対応が充分でないことがあげられている。
 また、通常教育教員が統合教育への理解を深め、障害のある子どもを受け入れるようになることが課題としてある。そのためには、通常学校におけるカリキュラム開発と通常教育教員の研修がより必要となっている。さらに、通常学校に勤務する特殊教育教員については、通常学校教員との連携によるチームでの指導をどう行うかが課題となっている。

(滝坂信一、早坂方志、當島茂登)
 
2.バイエルン州
 この項は、バイエルン州文部省特殊教育部長にインタビューした内容である。
(1)統合教育の現状と課題について
 バイエルン州における統合教育は法的に根拠づけられていないが、現在1万1千人の障害のある子どもが通常の学校で学んでいる。今後、全ての障害のある子どもの半分を通常学校で教育する計画である。
 現在、視覚障害者の約半数、聴覚障害の約半数、身体障害者の80%、言語障害者の80%、知的障害者の3%、学習障害児の約半数、情緒障害児の90%が通常の学校で学んでいる。中等学校段階では、言語障害児の殆どは基礎学校で学んでいる。聴覚障害児と身体障害者の15%が特殊学校で学んでいる。
 一般に,ドイツの法律は「〜しなければならない」という規定ではなく、「〜することもできる」という規定である。従って地域によって柔軟な対応が可能である。
 バイエルン州では盲学校と弱視学校を統合するための法律をつくり、2001/2002学校年度から実施された。
 今後の課題として、知的障害児の統合教育を進めるには一人の子どもに対して2人の教師(通常教育教員と「移動特殊教育教員(Mobiler Sonderpädagogischer Dienst;以下、MSDと略)」)を必要としており莫大な予算がかかる。バイエルン州では全員の統合教育する予算がないとのことである。
 また、統合教育に関して全員統合することは不可能で、障害のある子どもには特殊教育も必要であるし、通常の子ども達と一緒に学ぶことを必要であるとしている。

表3.ミュンヘン(言語障害学校)の移動特殊教育教員(Mobiler Sonderpädagogischer Dienst: MSD)へのインタビュー
●言語障害学校
バイエルンには言語障害学校が2校ある
言語障害児学校はIQ90以上の子を対象としている
言語治療に関するMSDは言語障害児特殊学校に所属している
●発話治療教育指導相談センター
  言語障害学校が少ないので,移動教育教師が各学校へ巡回するのは時間的に難しい。基礎学校に発話治療教育指導相談センターを州の学校教育局が設置した(2001年3月開設)
  このセンターには2人の移動特殊教育教師がいる
<利用する時> 電話で予約を申し込む(相談時間は適宜決める)
<相談対象> 音の聞き分けの障害,軽い言語障害児
  子どもたちに対する相談(診断を含む)
  保護者からの相談
  教師からの相談
  関連機関と連携し、専門機関へ紹介する
●MSDの授業時数
週授業時数26時間の内週2日8時間だけ所属の学校でも授業を行い、残りの18時間は移動特殊教育教師として授業を行っている
●MSDの通常学校での支援
通常学校で対象児の診断と抽出による指導
抽出指導は一対一の指導をしたり、スペルの書けない子どもの小グループによる指導を行っている。通常学級での共同授業は行っていない
保護者からの相談
教師からの相談
指導の経過について担任にクラスでの配慮事項などを説明し、その後担任と保護者と三者で話し合う
定期的に訪問するとことで子どもの理解と教師間の連携が良好になる
●MSDの資格
資格は特にないが、ある程度の特殊教育経験が必要
●MSDの課題
指導教室の不足(授業の場の確保)
教材購入の予算は少ない
学校に常駐する


(2)教員の研修
 バイエルン州では教員の研修機関としてアカデミーがある。州立の教育研究所は文部省の直轄下にあり教育課程や指導法等に関する研究を行っている。州立の研究所は研修機関であるアカデミーに対して研修に関する学術的な援助と研究所の研究員を講師として派遣をしている。
 障害のある子どもの教育に関する研修対象は通常学校の教員と特殊教育教員を対象としている。5年〜10年次研修がある。障害のある子どもを受け入れている通常学校の教員はここで研修を受けることになっている。また、MSDになるためにはここで研修を受け、MSDとなった後も引き続き研修を受ける。
 研修内容として、(1)インテグレーションに関すること、(2)新しいメディアに関すること、(3)新しい学校経営に関すること、(4)学校実験の成果等である。MSDに対する特別研修は(1)通常の学級の教師とのコミュニケーションに関すること、(2)教授法に関することが主な内容である。研修費用は無料で、研修講師は大学の教官、学校の経験のある教員、教育研究所の研究員である。
 学校実験を行った学校を会場としても研修を行っている。また、隣接している州と合同の研究や研修を行っている。

(3)学校実験について
 現在バイエルン州では11件の学校実験を行っている。そのうちインテグレーションに関する内容は3件である。残り8件は授業の改善に関する内容である。学校実験の期間は2〜3年である。学校実験の費用は文部省が負担している。学校実験が成功したときには予算の範囲内で他校へ普及させている。学校実験の課題は文部省の特殊教育部長が最終決定する。学校実験校の決定は文部省と学校が話し合って決める。
 現在、新しい学校実験の試みとして、障害のない子どもを特殊学校に受け入れる逆インテグレーションについての学校実験を行っている。この場合、子どもの意思と家族の同意が必要である。

(當島茂登、早坂方志、滝坂信一)
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