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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
トップ(目次) > III章トップ(目次) > 3.ドイツ-03
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III.まとめと考察
1)ドイツは連邦制をとっており教育制度に関しても各州法が基本である。
(1)州による差異は前提とされている。
(2)国としての調整は年3回開かれる「文部大臣会議」で最低限の内容に関し行う。
(3)実務レベルでの州間情報交換はあまり行われていない。

2)1994年、文部大臣会議において基礎学校(初等教育段階)の「統合教育」を推進することとする決議を行った。これにより、各州は「統合教育」を推進する方向で法整備、学校システム改革等の作業に入った。
(1)各州においてすでに、学校実験というかたちで基礎学校における統合教育は試行されていた。
(2)ノルトライン=ヴェストファーレン州は法を改正し「基礎学校において特殊教育を受けることができる」とした。
(3)バイエルン州は法改正を行わずに基礎学校において特殊教育を受けられる仕組みを工夫している。
(4)いずれの州も「特殊教育」、「○○障害」という語句がマイナスイメージに基づく語用だったとして表現を変える作業を行っている。

3)「統合教育」の実態
(1)具体化計画:調査した2州とも数値目標を上げ、段階的な推進・実現を図っている。急速な実現を阻む最大の要因は教員配置に関する財政的な問題であると言われている。

(参考)
・ノルトライン=ヴェストファーレン州:障害のある子どもの発生率を4%とみおり、当面そのうちの10%の子どもの統合を実現するとしている。
・バイエルン州:障害のある子どもの半数を通常学校へ、他の半数を特殊学校へという目標を立てている。

(2)推進力:
・保護者の要請(1970年代以降行われてきた「統合幼椎園」を経験した子どもの保護者からの強い要求)
・国際的な動向を背景とする社会における認識の変化

(3)学級規模:1クラス児童24人、教員2名(通常教育教員1、特殊教育教員1)で考えられている。障害のある児童、保護者の孤立化を避けるため、1クラスに障害のある生徒は2名以上がよいという考え。

(4)特殊教育教員の配置:特殊教育学校に所属しており、統合基礎学校に出かける。

<障害のある生徒1人あたりの対応時間数>
・ノルトライン=ヴェストファーレン州:週3.5時間、
・バイエルン州:週1〜2回、時間数は学校が決定

(5)財政負担:教員は州職員、建物、交通手段は市の負担。教員以外の専門職、必要な機器等については(1)市が負担、(2)学校支援組織が負担。

(6)対象児童:「知的障害」、「自閉症」及びこれらをともなう重度で重複した障害を有する児童の統合についての困難が解決されていない。

(7)就学校の決定:(ノルトライン=ヴェストファーレン州の場合)
(1)保護者からの基礎学校に対する入学希望、
(2)希望の出されている基礎学校の通常教育教員、特殊教育教員による基礎学校における行動観察及び所見作成、
(3)行動観察結果及び所見の市当局への提出、
(4)市当局による就学校の決定。
*要請による郡、州の調整

(8)中等教育第I段階(5〜9年生)における統合教育:学校実験として総合制学校、基幹学校で行われている(ノルトライン=ヴェストファーレン州)

4)統合教育の推進に向けての課題
(1)知的障害、自閉症及びこれらを伴う重度・重複した障害のある児童・生徒の統合をどのように具体化するか。
(2)教員、特に通常教育教員の意識改革をどのようにして行うか。
(3)特殊教育教員の恒常的な配置をどのように実現するか。
(4)すべての学校における統合教育の積極的な取り組みをどのように推進するか。
(5)中等教育以降の統合教育、特にギムナジウムにおける統合教育をどのように行うか。
(6)学校及び教員に対する支援体制をどのように整備するか。

5)統合教育の推進に向けて必要な対策
(1)統合を前提にした教員養成(大学内との連携協力を含む)
(2)通常教育教員及び特殊教育教員の研修;意識の転換、教授法、障害に関する知識
(3)統合を前提にしたカリキュラム開発
(4)統合を具体化する教授法の開発
(5)通常教育及び特殊教育双方の教員配置とチーム・ティーチング
(6)教員以外の専門職の配置
(7)実践に関するスーパービジョン
(8)開発推進のための養成機関、研究機関、研修機関、行政の連携協力
(9)通常教育における諸課題と連動させた改革

6)ドイツの状況を理解する際、日本との対比において留意する必要があると思われる点
(1)特殊教育の歴史:
 個々の子どもの教育的ニーズに応じるという観点から特殊教育が細分化、特化し広範な子どもたちが対象となってきた。
(1)学習障害特殊学校(スローラーナーのための学校)
(2)教育困難特殊学校(知能の原因によらない教育困難を有する子どもの学校)
教育困難とは、生徒が教育に対して持続的に心を閉ざしたり、また反抗したり、通常の学校では授業を受けることができず、自信の発育や同級生の発育を著しく危険にさらすことである(1995、就学義務法)。

(2)早期からの進路選択:
 初等教育(基礎学校4年)終了後、中等教育第I段階(5年生〜9年生)で将来の進路を念頭に3種類(ギムナジウム、基幹学校、実科学校)に分かれる。その目安となるのは、教科学習における到達度である。特殊学校はこれとは独立に初等教育と中等教育が連続したユニットになっている。また、総合制学校は3種類(ギムナジウム、ハウプト・シューレ、レアル・シューレ)の機能をもつ中等教育第I段階及び第II段階(10年生〜12年生)学校である。

(3)教育修了の仕組み:
 修了試験制度と終了認定制度の併用である。すなわち、修了試験合格あるいは終了認定が卒業を意味している。

(4)教員の専門性:
 教員資格を得、教員として採用されるためには最低4年の大学教育を受けた後2年間の現職教育を受けなければならない。多くの州で通常教育教員と特殊教育教員は大学においてそれぞれ別の養成課程で養成され、特殊教育教員は2つの障害に関し専門性を修得しなければならない。

(5)教員の学校間異動:
 教員の学校間異動は基本的に考えられていない。個人的な理由があり、希望する学校に空席があった場合のみ異動がある。

(6)教員の職務時間:
 週あたりの授業時間数が決められており、これが教員の職務時間である。原則的には、会議もこの時間の範囲内で行われる。

(7)多職種の積極的な導入:
 統合学校には多職種の導入が図られている。わが国と決定的に異なり、特筆しておく必要があるのはツィヴィルディーンストの存在である。これは兵役代替役務制度で、統合学校、特殊学校では5人前後の席が確保されている。彼らは13ヶ月間障害のある子どもの移動、日常的な介護等を担当する。女性に兵役はないが同様の役務を選択的に行うことができる。この体験を契機にその後特殊教育教員、高齢者・障害者福祉施設職員等の進路選択をする青年が多いとする調査結果もある。

(滝坂信一、早坂方志、當島茂登)
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