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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
トップ(目次) > III章トップ(目次) > 2.フランス-06
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5.通常の学校における子どもの支援の実際
1)CRIS及びSIAM92(オードセーヌ県の視覚障害児支援)
 オードセーヌ県は、パリ市の西隣の県である。面積はパリ市(県の扱い)を除いては最小であるが、人口は143万人(1999年)であり、諸県のなかでは最大の部類に入る。
 この県には、文部省系のCRIS(統合教育リソースセンター)の視覚障害部門及び厚生省系のSIAM92(オードセーヌ県視覚障害児統合教育センター)があり、協同で、視覚障害児のための統合教育支援を行っている。
 なお、オードセーヌ県には盲学校は存在しない。また、県内にはシュレーヌ市があり、そこにシュレーヌ国立センターがある。その視覚障害部門も、統合教育支援に関わっている。
 以下、CRIS及びSIAM92の、それぞれについて説明する。

CRIS(統合教育リソースセンター)
 これは、統合教育支援のためのリソースセンターであり、視覚障害児のほか、聴覚障害児、運動障害児を担当する部門がある。オードセーヌ県の視学官の提唱により、1995年につくられた。この形態の機関はオードセーヌ県にしかないとのことだった。
 視覚障害の部門に関しては、スタッフとして、今回対応してくれたジョセフ先生を含めて2人の特殊教育教師(視覚障害教育の資格をもつ)がいる。
 この2人が、通常教育の場にいる視覚障害児に対して巡回で支援を行っている。支援の形態としては、子どもと一対一の場合、少人数グループを相手にする場合、通常学級のなかでの場合がある。その支援においては、後述のSIAM92の治療教育系のスタッフとも連携して支援を行う。
 対象の視覚障害児の数は、現在10人である。そのほとんどは弱視であり、一人だけ全盲に近い子どもがいるとのことだった。
 他に、不定期で、2人の子どもに係わっているが、これは、その子どもたちが在籍する通常学級の教師に対する一時的な支援である。
 今回の訪問では、中学校(パストゥール中学校)と小学校(オラグニクル小学校)にそれぞれ一人ずつ在籍する子ども達に対する支援の実際を見た。二人とも弱視であった。また、それぞれの学校には彼ら以外の障害児はいないとのことだった。
 中学校に在籍の子どもは1年生(日本で言えば、小学校6年生)で、現在は、週1時間、在籍学級とは別室で、コンピュータ上でワープロの入力・編集のやり方を学んでいる。なお、フランスでは、授業編成上、週のうち2時間しか、障害児を抜き出しての指導の時間はとれないとのことだった。
 見せてもらった授業では、子どもは、先生の指示に従ってコンピュータを操作し、文書の入力・編集を行っていた。コンピュータの画面は、白黒反転であったが、その子どもにとって文字の拡大は必要ないとのことだった。
 なお、そのコンピュータはジョセフ先生個人のものであった。中学校での、こうした機材に関する財政担当は県だが、県の財政上、コンピュータの導入は難しいとのことだった。一方、別の小学校ではコンピュータが導入されたが、それは、小学校の財政担当は市町村であるため、可能であったとのことだった。
 さらに、昨年、感覚障害児にコンピュータを与える国の助成金が、首相の提唱でつくられたとのことであり、こちらの予算でコンピュータを導入することを検討しているとのことだった。(4.4)参照)
 小学校に在籍の子どもは4年生で、見せてもらったのは、通常学級での幾何の授業であった。担当教員のほか、ジョセフ先生も、その子どもについて授業を行っていた。子どもの数は、その子どもを含めて11人であった。その時の授業の主眼は、種々の図形を、幾つかの分類基準に従って分類することであった。
 ジョセフ先生の役割としては、その際使われる教材の改変、子どもが授業を理解しているかを、その進行の時々でチェックすること等であった。紙に描かれたいくつかの図形を切り抜く作業については、あらかじめ切り抜いておくこと、また、それぞれの図形に付されている符号については拡大して記すことがなされていた。その切り抜き図形を分類する動作についての援助も行っていた。
 どの程度子どもが自力で行ったかは不明だが、その時間内に他の子どもと同様、図形の分類の作業が完了していた。

SIAM92(オードセーヌ県視覚障害児統合教育センター)
 これは、「通常環境での特殊教育および治療教育のサービス」(SESSAD)のうちの視覚障害児が対象である「自立および統合教育支援サービス」(SAAAIS)である(2.4).B.参照)。即ち、厚生省系の医療-教育部門のサービスである。SIAM92は1998年に開設された。
 その設立母体は、APAJH(Association Pour Adultes et Jeunes Handicapés; 全国障害児・者協会)、ANPEA(Association National des Parents d'Enfants Aveugles et Malvoyants; 全国視覚障害児親の会)、およびAssociation Cécile Sala(セシル・サラ協会。施設の場所を提供)である。
 スタッフは11人おり、一人を除いては全て厚生省系のスタッフである。その一人とは、所長であり、彼女は特殊教育の校長(ディレクター)の資格を持っており、文部省からの配属である。今回、その所長に話を聞いた。
 この機関は、オードセーヌ県の3歳から20歳までの視覚障害児を支援の対象としている。支援の定員は20人である。
 その目的は、視覚障害児の統合教育および社会的統合を保障することである。この中には、狭く教育のみではなく、文化や余暇活動へのアクセス支援も含まれている。また、通学に関しての支援も行っている。
 スタッフとしては、所長の他、眼科医師、視能訓練士(orthoptiste)、心理運動士(psychomotricienne)、歩行訓練士、作業訓練士(ergothérapeute)、心理士(psycologue)、ケースワーカー、情報処理とコピー推進者(animateur en informatique et reprographie spécialisée)、秘書、点訳者の10人である。
 これらのスタッフがチームで、個々の子どもにとって必要と考えられる支援を行う。親の同意のもと、個別の計画が立てられ、実施される。支援の実施の認可を行うのは県特殊教育委員会(CDES)である。
 その内容としては、眼科医師による医学的スーパーバイズのもとでの、視能訓練士による視機能評価・補助具の活用援助、心理運動士による身体概念や空間概念の獲得援助・歩行の基礎技能の獲得援助、歩行訓練士による歩行指導、作業療法士による日常生活動作の指導、情報処理とコピー推進者による情報処理機器の活用援助、点訳者による教科書や教材の点訳等が行われる。
 さらに、心理士による子どもおよび親の心理的サポート、ケースワーカーによる社会福祉資源の活用援助等も行われる。
 支援のパートナーとしては、教育関連では、子どもが在籍する通常学校の教師、視覚障害統合学級の特殊教育教師、CRISの特殊教育教師が挙げられる。医療関連では、<15/20>国立眼科医療センター (Le Centre Hospitalier National d'Ophtalmologie des 15/20)、シュレーヌ市医療センター (Le Centre Médical Municipal de Suresnes) が挙げられる。

(文責 金子 健)
2)APIDAY
 APIDAYはS.S.E.S.D.(Service de Soins et d'Education Spécialisée à Domicile; 在宅(「在宅の」であるが、これは「自宅から通える地域の学校における」が、実態をよく表している)における聴覚障害児のためのケアと特殊教育サービスの略)であり、聴覚障害児の教育に関する家族の選択の自由に関する法律である1991年1月18日のFabius法の第91/73号、ならびに1988年4月22日付政令88-423号の付則24法4章(l'annexe XXIV quarter)に従うサービスとされる。また、APIDAYはA.P.A.J.H.(Association Pour Adultes et Jeunes Handicapées; 全国障害児・者協会)のYvelines県委員会が管轄運営する13の施設、機関の一つであり(図3参照)、このS.S.E.S.D.という名称は、フランス厚生省系の正式なサービス名ではS.E.S.S.A.D.にあたるものと考えられる.Yvelines県の場合「養護・ケア(Soins)」が先に来て、特殊教育(Éducation Spécialisée)が続く語順となっているが、厚生省のサービス名称では、これが逆になっている。なお、これらの施設のうち、APIDAYのCAILLABET所長は視覚障害児のための自立および統合教育支援サービス部門(S.A.A.A.I.S.)と適応・統合教育部門(A.I.S.)の責任者を兼ねていた。
 APIDAYでは、幼児・児童等の定員20名で、前述(2.フランスの特殊教育の現状)の「家庭支援と早期教育サービス(S.A.F.E.P.)」に5名枠と、「家庭教育および統合教育の支援サービス(S.S.E.F.I.S.)」に15名枠、中度から最重度の聴覚障害児へのサービスを行っている。前者としてMaurice-Genevoix幼稚園の普通教室内での聴覚障害児の統合教育支援、後者として隣接するPoirier-St-Martin小学校のCL.I.S.(統合学級)内の聴覚障害児の統合教育支援を行っている。
 APIDAYでは、「家庭」、「社会保険局(DDAS)・健康保険の地方事務所(CRAMIF)」、「特殊教育委員会(CDES)、教育関係(たとえば就学前ならびに初等教育委員会(CCPE)、中等教育委員会(CCSD)、統合学級(CLIS)」、「耳鼻咽喉科医師(ORL)」、「言語療法士」、「他の施設・団体」、「早期医療・社会センター(CAMSP)や、医療・心理・教育センター(CMPP)」など、さまざまな組織等との連携を図りながら運営を行っている。
 専門スタッフとして、パラメディカルと教育関係職員に「言語療法士(orthophonistes)」、「心理判定士」、「フランス手話(L.S.F.:Langue des Signes Française 注:フランス語とは異なる文法を持つ。Cf.Français signé)の指導員」、医療心理職では「耳鼻咽喉科医師」、「聴覚音声学者(audiophonologiste)」、「心理学者(psychologue)」、「補聴器等の専門家(audioprothesiste)」、社会福祉に関しては「ソーシャルワーカ(assistante sociale)」を擁して、必要なサービスが提供されるが、全てが常駐ではない。
 今回はSSESD APIDAYの指導室や事務所とMaurice-Genevoix幼稚園の統合教育場面を見学した。APIDAYのオフィスと指導室は幼稚園の建物にあり、スタッフルームの入り口に模造紙と色を付けた紙で"SSESD APIDAY"と表示するなど子どもたちが親しみやすい工夫がされていた。

図3.全国障害児・者協会 Yvelines県委員会の組織図
図3.全国障害児・者協会 Yvelines県委員会の組織図
(クリックで拡大します。)

 統合教育場面では、6人ずつ程度がグループになり1教室に3グループが一緒に学習をしていた。各グループに1人の障害のある幼児が入っていた。クラスには、自閉傾向のある幼児も入っているとのことだった。APIDAYは聴覚障害のある子どものサービス機関ではあるが、この学校に通学が可能な子どもたちの統合教育のサポートを行うために設立されていることと、親団体であるAPAJHが全ての障害種別をサポートしているためなど、実際的な便宜が図られているものと思われた。APIDAYのスタッフは、必要に応じて、障害のある子どもの横について対応するが、通常は、クラス全体の指導者の一部として指導に加わっているようであった。これらに加えてAPIDAY内の指導室では、フランス手話と口話(L.P.C.: Langage Parlé Complété)の両立(Communication bilingue)を目標として、小集団での指導を行うとのことであった。
 このSESSED APIDAYのシステムについて、通常学級の担任は、障害児を受け入れているが、自分に障害児教育の専門性がないので、フランス手話の指導員、言語療法士などの専門家のサポートがあることは、実際の指導をする上で、とても役だっているとのことであった。一方、APIDAYの専門スタッフ側も、オフィスが学校内にあるので、普通教員との連携がスムーズにできると話していた。

(文責 棟方哲弥)
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