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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
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6.特殊教育諸学校における子どもの支援の実際
1)国立盲学校
(1)はじめに
 この盲学校は世界初の盲学校として1784年にバランタン・アウイによって創立された。点字考案者のルイ・ブライユはここの盲学校の卒業生であり、教員でもあったということで視覚障害教育において歴史的にも有名な学校である。
 ここは、現在、リソースセンター的役割を担った学校となっている。
 ここでは、校長(施設長)M.Gonzalez氏、教頭(教育部門の長)M.Tessier氏、そして各部門担当者からの説明をうけた。

(2)組 織
 図4の組織図のように、校長(施設長)(Directeur de l'INJA)、教頭(教育部門の長)(Directeur de des Enseignements)のもとに、管理運営部門(Service Administration Générale)、障害補償部門(Service de la Compensation Technique du Handicap)−この中に情報と研究(Informatique et Recherche)、点訳及び拡大教材作成(Transcription et Edition Adaptée)、点訳資料の全体的管理(Documentation et Information BDEA-)のセクションがある−、教育部門(Service des Enseignants)、生徒への教育サービス部門(Service des Eléves)、歩行指導部門(Service de la Locomotion)、生活指導部門(Service Educatif)、社会福祉援助部門(Assistante Sociale)、家族支援部門(Service d'Aide aux Familles)−これは、0歳から6歳までの子どもへの支援である−、そして医療部門(Service Médical)がある。

図4.国立盲学校の組織図 (学校要覧より)
図4.国立盲学校の組織図 (学校要覧より)
(クリックで拡大します。)

(3)学校の概要
 この学校では「一般教育」「職業教育」「音楽教育」を行っており、現在、職業教育では、ピアノの調律士養成のみとなっている。職業高校(リセ)にインテグレートしている生徒では、電話交換手・PTなどを目指して学習している者もいる。障害者の就職率については、あまりよくない。雇用されない場合は国が手当てを出しており、それで生活をしている。OECDでの話にも出ていたことだが、フランスでは障害者雇用法もあるのだが、障害者を雇用するより、罰金を支払う方を選択する事業者が多い。その罰金は障害者の職業教育に使われているわけだが、教育しても障害者の職がないという状態であるようだ。
 小学校・中学校・高等学校・大学入学資格(バカロレア)までの生徒を対象として教育を行っており、全盲・弱視の単一障害の者のみである。重複障害の児童生徒は別の特殊学校に入っている。現在、児童生徒数140名であり、この内、17名がこの学校の周りの通常学校で授業を受けている。この子どもたちは二重学籍であり、盲学校でのサポートや施設・設備を使うことができる。地方から来ている児童生徒も多いので、ここの寄宿舎を利用して通常学校へ登校しているケースもある。
 盲学校内の各クラスには、担任と生活指導員(éducateur)が配置されている。
 この学校で重視していることは、「自立支援」であり、そのために、コンピュータ等各種ツールの積極的な活用と、専門スタッフを充実させ指導にあたっている。専門スタッフは、正規の教員はもちろんのこと、小児科医・眼科医・視能訓練士(orthoptiste)・看護婦・心理学者・歩行訓練士・日常生活訓練士・アシスタント・点訳校正専任者・拡大等への対応の専任者がおり、それぞれの専門性を生かしたアプローチをおこなっている。また、個々の児童生徒に応じてそれぞれのスタッフがチームを組んで指導を進め、そのメンバーについては、柔軟に考えており、社会に同化して自立していくための教育プログラムを作成し、実践している。
 学校の方針としては、「インテグレーションの推進」を目指している。盲学校内で国民教育(通常の教育)を実施しているが、通常学校でも受けられるようにプログラム化している。それは、全ての時間を通常学校で学習する者もいれば、一部の教科、あるいは行事のみというように、個々の児童生徒に応じた時間や内容で実施している。そして、早期に視覚障害の専門教育を受けさせ、通常学級に組み込むようにしている。

(4)点訳及び拡大教材作成 Transcription et Edition Adaptée
 ここでは、学内・学外(インテグレーション生)の児童生徒を対象として、教科書・日常のドキュメン卜・図等の教材を点訳・拡大をして提供している。また、フランスでは同じものを国内各所で点訳することのないように、点字文書の全国的コーディネーションをおこなっており、全国点訳委員会で一括管理をし、点訳は各コミュニティーが行うという方式をとっている。
 ここでのスタッフは翻訳者5人、校正者3人(点字使用者)、秘書1人、配送係1人で、コンピュータによる自動化がなされている。
 通常教育の中の全盲者のための教材作成が重要な仕事となっており、それが増加傾向で、現状では手狭となってきている。

(5)コンピュータ教育Informatique et Recherche
 ここでは、障害のない人たちと同じ環境で仕事ができるようにコンピュータ教育をしている。視覚障害者の場合、どのようにして画面に現れたものを読むかが問題であり、それができれば後は晴眼者と同じである。したがって、指導の初期に徹底的に画面の読み方の操作を学習させる。
 中学3年生から一人一台のコンピュータを利用し、授業中、ノートパソコンを活用し、コンピュータ室で点字・墨字印刷をする。それ以下の学年の生徒も1時間30分のコンピュータ学習の時間があり、児童生徒個々の時間、補習学習など、それぞれに対応している。

(6)歩行訓練Service de Locomotion
 ここでの担当者は5人で、体育やPT等の基礎資格に運動機能士の国家資格を取得した歩行訓練の専門家である。指導対象者はインテグレーション生も含めた全員である。
 まず、対象者と面接をし、見え方の評価を行い、「個別指導プログラム」を作成する。個々の実態に合わせた指導回数と場所をきめ、保護者にその内容を知らせる。そして、実際に指導を行い、評価をする。その過程では、保護者の参観も自由である。また、パリ周辺に限るが、訪問指導も行われ、全天候型(雨の日、夜間等)の指導が行われている。
 医療スタッフ・視能訓練士(orthoptiste)・生活指導員・心理学者・日常生活訓練士・教員等、他の専門家とチームを組み指導にあたっている。
 自立に結びつく歩行訓練を目指しているが、それには一定の条件が必要であり、「知的・心理的に安定していること」「親離れしていること」「運動障害がないこと」などがあげられる。
 「個別指導プログラム」については、保護者からの要望や意見を聞きながら、指導者が決定していく。しかし、保護者の意にそえるものとそえないものがあり、子どものレベルによって無理な場合はそれを説明するが、反応は様々である。親が子どものレベルを把握して学校側を信頼している場合、そうではなくて、過剰な要望を出してくる場合、また、文化的な背景によちても違いがでてくる。例えば、女の子の自立を認めない文化もまだある。様々な反応があるが、話し合いの場を大切にして合意を得るようにしている。
 保護者から将来の様々な不安を訴えられるが、それに出来るだけこたえて支援していくことが大切であり、保護者の悩みの相談室の必要性を感じている。残念ながら現状ではそのようなシステムはない。
 また、ここでは各専門家がチームを組んで指導にあたっているが、全てのスタッフによる会議が3ヶ月に1回の割合で行われる。生徒・保護者・教員で行われる成績評議会の前にスタッフ会議がもたれ、問題のある生徒、特別指導プログラムの必要な場合やプログラムの見直しの必要な場合の検討が行われる。そして必要に応じて、小チームでの会議がもたれたり、保護者も参加しての会議が行われる。臨機応変に柔軟に対応している。

(文責 澤田真弓)
 
2)カサノバ統合学校
 1988年4月22日付政令88−423号の付則24法4章(l'annexe XXIV quarter:1956年3月9日付政令および、1970年12月16日付政令で修正、後に1988年4月22日付政令88−423号で修正された、聴覚障害の児童・青年のためのサービスと施設のための許認可に関する部分)によって契約がなされている。厚生省系の施設(E.M.P.:Etablissment MédicoPédagogique)で、私立、運営母体はバルドアーズ県公教育在籍孤児協会(A.D.PEP95:Association Départmentale des Pupilles de l'Enseignment Public du Val d'Oise)。聴覚障害に対応する厚生省系(医療・治療教育系)のスタッフを擁している。
 この学校そのものは聴覚障害児のみが在籍する学校だが、遠隔の学級や指導体制を持っている。小学校段階では学籍をEcole intégrée CASANOVAとして、例えば、隣接する普通学校や、それ以外の場所で聴覚障害児の統合教育を行っており、中学校段階以降では、それぞれの学校に在籍する聴覚障害児の統合教育支援を個別に、あるいは集団で行っている。入学者は、保護者の同意書と、特殊教育就学委員会(C.D.E.S.)によって決定される。
 現在行われているサービス・設置部門は6つで235名へのサービスを行っている。0歳から12歳そして12歳から20歳までを分けて「家庭支援と早期教育サービス(S.A.F.E.P.)」、「教育ならびに特殊教育部門(SEES.:Section d'Éducation et d'Ensegnement Spécialisés)」、「重複障害部門(S.E.H.A.:Section pour Enfants présentant des Handicaps Associés/内部呼称で医療教育受け入れグループGAME: Groupe d'Accueil Médico Éducatif)」、「家庭教育と統合教育の支援サービス(S.S.E.F.I.S)」、「初級職業訓練部門(S.P.F.P.:Section de Premiére Formation Professionnelle)」、「中学校・高等学校における特殊教育ユニット(内部呼称でU.E.S.: Unité d'Enseignement Spécialisé aux collèges et Lycées)」が用意されている。(図5参照)上記のうち、S.A.F.E.P.とS.E.H.A.の指導担当は、通常、指導員(Educateurs)で、そのほかは教員(EnseignanteあるいはProfesseurs)である。また、手話の指導員・教員はS.E.E.S.のみに配置されている。

図5.カサノバ統合学校のサービス組織
図5.カサノバ統合学校のサービス組織
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 2000年から2001年における実績は、例えば0歳から12歳について1)CASANOVA小学枚でのS.E.H.A.では、12名の子どもに対して、指導員3名、教員11名、言語療法士(orthophoniste)1名、心理判定士(0.5名分)がサービスを提供している。2)JOLIOT CURIE小学校のS.E.E.S.では、12名の子どもに対して、教員(Enseignante)2名、中等教員(Professeur C.A.P.E.J.S.)が手話指導に非常勤で0.33名分、言語療法士1.5名分が担当。また、12歳から20歳では、1)Fernand Léger高等学校のS.S.E.F.I.S.では、33名を対象に、教員1.5名分、中等教員4.15名分が割り当てられている。2)Jean-Jaurès高等学校のS.S.E.F.I.S.では、14名を対象に、中等教員4名分が割り当てられている。また、3)S.P.F.P.では、教員1名、教員(Professeurs d'accompagnement)2.5名分、言語療法士1.5名分が担当している。
 今回、実際に見学を行ったのは、0歳から5歳までの「家族援護と早期教育サービス(S.A.F.E.P.: Service d'Accompagnement Familial et d'Éducation Précoce)」であった。この学校での考え方として、幼稚部段階では、専門家による統合教育への準備を集中的におこなうことが非常に大切であるということで、統合保育ではなく、聴覚障害幼児のみで指導を行っていた。訪問した時は、7名ほどの補聴器を装用した幼児が、3名の指導員の指導のもとに自由に活動を行っていた。言語療法士室には、さまざまな幼児用の教具や発声・発語訓練機が置かれていた。また、教室内には、非常に教材・教具が多く準備されていおり、さまざまな活動が行われているようであった。また、幼稚園の校舎の外壁は古いものであったが、教室の内装は新しく、特に、幼児用トイレは、色とりどりのタイル張りで、明るく、清潔感あふれる作りであった。0歳から12歳段階の責任者であるCamille NOËL氏によると通常の学校よりも、予算的に恵まれているとのことであった。

(文責 棟方哲弥)
 
3)ジャック・ブレル地域適応学校
 この学校は、運動障害児のための文部省系のEREA即ち地域適応学校(2.4).A.参照)である。ただし、この学校は、中等教育のみではなくて、2歳から20歳までの子どもを対象にしている。
 訪問においては、副校長および数人のスタッフが対応してくれた。
 この学校は、運動障害のためのセンターであるレイモンド・ポアンカレ病院に併設されている。この病院に入院する子どもを受け入れ、教育している。この病院に入院する子どもの教育は1947年に2人の教師が配属されて始まった。当時は小児麻痺の子どもの教育が問題だった。1992年に病院とは別に学校の建物が併設して作られ、1993年、ジャック・ブレル地域適応学校が開設された。
 病院が提供する主要なサービスとして、外科・整形外科治療、多価的蘇生(réanimation polyvalente)・神経科治療、重い障害児のリハビリテーションがあり、この学校はこれらのサービスの対象となる子どもの教育を担当する。したがって、運動障害児のための学校とはいっても、肢体不自由のみというのではなく、病気/障害をもった子どもで、先天あるいは後天的な運動障害および認知障害の子どもを対象としている。
 この学校では、通常教育の幼稚園から職業教育までの課程の他に、初等教育(幼稚園及び小学校)の課程での言語障害教育、中等教育での頭蓋外傷の子どもの援助サービス、初等中等教育の課程での生活指導(service educatif)教育、ベッドサイド教育サービスも行われている。
 子どもの数としては、年間約130人の子どもを受け入れる。受け入れの限度は、病院のベッド数である235に対応している。
 子供たちは、1〜3年で、退院し、学校から転出する。転出先は、様々で、通常学校、特殊教育学校、医療部門の施設、医療-教育部門の施設などである。
 統合教育との関連で言えば、ここの役割として、退院し学校から転出する時、通常学校への転出即ち統合を支援するということである。この際、通常学校への転出が適切であるかどうかは、県あるいは区の特殊教育委員会によって判断される。例えば、その学校の建物のバリアフリーの状況が、その改善のための予算も含めて、判断の材料になるとのことだった。
 学校のスタッフは、特殊教育教師資格オプションC(身体疾患、身体障害、運動障害担当)所持の特殊教育教師が26人、小学校及び中学校の通常教育教師が6人である。病院には、医師の他、運動療法士、眼球運動担当士、発声訓練士、作業療法士といったリハビリテーションのスタッフがいる。
 他に、非常勤で、特別援助ネットワーク(2.4).A.参照)に所属するリハビリテーション担当(特殊教育教員資格のオプションG所持)のスタッフ2人が関わっている。このサービスは、この学校にとって有効に機能しているとのことだった。
 この学校では、病院のスタッフによる医療および上記のリハビリテーションスタッフによるリハビリテーションと並行して、上記教師達による教育が行われる。従って、この学校では、教師と医師およびリハビリテーションスタッフが協調して、個々の子どもによりよい教育を行うことが課題となる。例えば、教育の時間と治療やリハビリテーションの時間を、どのように割り振るかも課題であるとのことだった。

(文責 金子 健)
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