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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
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2.保健省(Minisetero della Sanita)
 保健省では、国際渉外部長Gaetano Della GATTA氏、保障部長Dina CARAFFA氏、法務医師Francesca FRATELLO氏、保障部Guido DITTA氏に面会し、聞き取り調査を行った。

1)イタリアの社会保障制度
 イタリアの社会保障制度は、一般に「社会保険」「保健医療」「社会的援助」の三つに分類される。「社会保険」は、年金制度、労災保険制度、家族手当制度、失業者手当制度など何らかの理由で所得を喪失した国民に対してそれを補完、代替えするものである。
「保健医療」とは、公的医療である「国民保健サービス制度」を指している。
「社会的援助」とは、その他の社会保障では保護、支援の対象とならない困窮状態を予防あるいは除去することを目的とするものである。
 イタリアではこれらの社会保障を実施する官庁が分かれており、「保健医療」の領域については保健省が担当している。
 地域住民に保健医療サービスを提供する組織として、USL(地域保健機構 Unita Sanitaria Locale)が設置されている。

2)インクルーシブな教育と保健省
 インクルーシブな教育を実施するためには、公教育省の管轄下にない機関の協力が必要であり、そのために関係機関が協力する義務を負うことが1992年の基本法104号に明記されている。また、障害の認定の業務に関してほ、基本法第4条に、USLに設置された医学委員会によって行われることが規定されている。
 保健省の障害児教育に対する基本的な姿勢は、1992年の法律104号「障害者の援助、社会的統合および諸権利に関する基本法」に基づいており、担当者の説明においても、どのような重い障害児者であっても通常の学級で生活することが基本であり、公教育省と緊密な連携の基に対応がなされていることが強調された。
 インクルーシブな教育の推進にあたっては、保健省の管轄下のUSLが障害のある子どものケアについて重要な役割を果たしていることが明らかになった。また、イタリアでは「家庭医」の制度が充実しており、障害児の発見およびケアに重要な役割を果たしていることも無視できない点である。

3)USL(地域保健機構)の役割
 USLは、総合性の原理と普遍性の原理に基づいて地域単位で住民に保健サービスを提供する新しい組織である。
 原則として、人口5〜20万人に一つ直営の医療施設(公立病院、専門医療施設など)と、外部の医療施設と契約して住民に保健医療サービスを行っている。障害児のケアについても、USLは「障害者の援助、社会的統合及び諸権利に関する基本法」(1992年104法)に基づいて、中心的な役割を果たしている。
 USLは家庭医の紹介を経て利用することができる。障害者用の補装具、車椅子などの器具、温泉療養などもUSLで処方、給付されることになっている。
 障害の認定のプロセスにおいて、USLに設置された医学委員会が障害・困難性・永続的な援助の必要性、また残存した個人の能力の総体に関する認定を行う。また、USLのプロジェクトチームは障害のある子どもと出生時から継続的なつながりをもち、治療・訓練等の医療サービスをベースに、就学時の資料提供、入学後のフォローアップとして個別教育計画作成への参加、教師への研修を通した支援、学校の担任・保護者との定期的な懇談など様々な形で学校の指導へ深く関与している。

4)家庭医制度と障害児のケア
 家庭医は0歳から14歳までを地域の小児科医が担当し、障害の有無にかかわらず、一人の児童の状態を縦断的に継続して把捉していくことになっている。14歳を越えると、成人の範疇になり成人の専門医が担当医となる。住民は地域の家庭医を選択して登録専門医による検査、薬剤の給付、病院への入院など、すべて家庭医の処方が必要となる。イタリアには、就学時健康診断のシステムはないが、この家庭医の制度や予防接種時の診断などにおいて、児童の心身の実態を把握することが可能である。
 通常の学校における障害児者への専門的なケアについては、実際にインクルーシブな教育の始まった20年前には不安な状態であったが、支援教師の制度が導入されてから、それは克服されつつあり、教育と医学の軋轢も少なくなってきているということであった。1992年の基本法により、USLと学校が協調して一人の障害児者に関わるようになってきている。保健省側からの見解としては、支援教師の質の向上が課題との見解が示された。
 障害の重い児童に対しては、教育・厚生・社会システム3つの柱で支援している。社会システムでは、介護用具や医薬品の補助、経済的支援、補助金、デイケアサービスなどを実施している。これらの支援活動については、兵役に代わるボランティア活動(Servizio Civile)などとも関わっているところがある。

5)重度障害児への対応
 重度・重複障害児の教育について、保健省の見解について、次のような見解が示された。
(1)原則として、障害がどんなに重篤でも通常の学校へ通うものとする。
(2)厚生省と公教育省は緊密に連携しており、児童生徒が学校に通えない場合は、地域的に学校の教員を病院等に派遣することもある。
(3)障害のある子どもを長期療養の必要な子ととらえ、通信を利用した遠隔教育などを行うこともある。


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