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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
トップ(目次) > III章トップ(目次) > 2.イタリア-06
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5.第1次調査における小学校、中学校での聴き取り
1)ボローニャ市 マルコーニ(Marconi)小学校
 当小学校は、ボローニャ市の中心街(旧市街)から数キロ離れた住宅街にある。イタリアでいくつか学校をグループで管理しており、当校は近隣の3校のセンター的存在となっている。
 校長(女性)は、3校併せての小学校の指導管理を行っている(ボローニャ市には50の小学校群、15の中学校群、10の高校がある)。施設面では、昇降機の設置された階段が2カ所あるなど、インクルーシブな教育に対応するための整備が進んでいた。

写真1
写真1
(1)校長とのインタビューを通して
 Graziella RASPADORI校長の説明では、当校には、3校併せて、750名の児童数で、そのうち障害を持つ子ども合計20名程度在籍している。障害の種別は、盲、弱視、聾、難聴、知的障害等、12の疾病カテゴリーにわたっている。しかしながら、障害の認定証明書の発行に消極的な保護者もおり、実際に障害がある子どもの数は上記の20名よりも多い。イタリアでは、親が障害をなかなか認めようとしない傾向があるということであった。
 また当校では、ボローニャ市教育委員会が独自に立ち上げた計画に基づいて情報ネットワークを使ったインテグレーション促進の活動を行っている。学校間の情報交換や支援教師の養成コースを設立、展開するのにもこの横のつながりを利用している。USLは「障害者の援助、社会的統合及び諸権利に関する基本法」(1992年104法)に基づいた地域レベルでの社会的インテグレーションの条件整備に大きな役割を果たしている。
 障害の認定のプロセスにおいて、USLに設置された医学委員会が障害・困難性・永続的な援助の必要性、また残存した個人の能力の総体に関する認定を行う。また、USLのプロジェクトチームは障害のある子どもと出生時から継続的なつながりをもち、治療・訓練等の医療サービスをベースに、就学時の資料提供、入学後のフォローアップとして個別教育計画作成への参加、教師への研修を通した支援、学校の担任・保護者との定期的な懇談など様々な形で学校の指導へ深く関与している。その成果の一つとして、先日研修コースが終了した。さらに、教員間の連携や教員とセンター(USLや医療機関や盲人協会等)との連携もより充実したものになってきた。
 教育目標や教育目的を定めたナショナルカリキュラムが存在し、その範囲で各学校や各教師が工夫を行っている。当校における教師達は、それぞれが授業に関して工夫を行っているが、かえってそのことが、学校全体の統一性や評価基準の統一性を困難にすることがある。日本で現在問題となっている「いじめ」についてイタリアでは少なくとも小学校レベルにおいてはほとんどないといってよい。
 インテグレーションによる学習効果の成否の鍵は結局、児童生徒個々にあわせた、教育課題に対する教師や現場におけるフレキシブルな創意工夫である。

(2)クラス見学を通して
 各学年2クラスずつあり、肢体不自由(車椅子で軽度の知的障害、言語障害を伴う)児が在籍している、第3学年B組を訪問した。他の子どもたちは体育の授業で、本児はクラスにおいて支援教師と、個別の授業を行っていた。
 2学級に3名の担任制であり、1人の教師が週22時間担当している。児童生徒は、第2学年までは週27時間の授業で、その後第5学年までは週32時間である(1単位時間は60分)。
 3学年B組における支援教師等と担任の時間配分は、図2の通りである。


クラス・曜日
8:30〜9:30
 ED
A/E
 
9:30〜10:30
A/E
 
10:30〜11:30
  □☆
I/A
  □☆
  □☆
E/A
A/E
  □☆
 
11:30〜12:30
  □☆
I/A
 A/M
  □/☆
 
12:30〜13:30  
   
13:30〜14:30  
  □○
   
14:30〜15:30  
  □○
 I/M
  □○
   
15:30〜16:30  
  □○
 I/M
  □○
   
A・M・E…3年A・B組の担任(個人のイニシャル) ☆ …支援教師A ○ …支援教師B □ …介助員

図2.3学年B組における支援教師等との担任の時間配分

2)コレッキョ市 ジョゼッペ・ヴェルデイ(G.Verdi)小学校

 コレッキョ市は、人口12000人でパルマの近郊に位置し、乳製品、畜産加工業、農業製品加工業等の企業が多く、財政的に豊かな地方小都市である。当小学校は町の中心部近く、背後に緑豊かな住宅地をひかえた閑静な環境で、後述するガラヴェルナ中学校(Galaverna)や市の体育館等が隣接しているいわゆる文教地区に位置している。コレッキョ市には小学校が3校在り、当校はそれら3校のセンター的役割を果たしている。スクールバスは、4台あり、コレッキョ市に属しており、遠方に居住する子どもの通学や校外活動等に利用している。施設面では校内にも、国からの補助金により1〜2階にまたがる大規模なスロープが設置されていた。


(1)校長とのインタビュー
 Silvana BELLI校長は以下のように語った。
 「当校は、420名の児童生徒数、20クラスの規模である。現在、障害がある子どもは在籍していないが、学習に困難がある子どものためのリソースルームがある。当校では、現在、104条法(障害者の援助、社会的統合および諸権利に関する基本法)による、学校教育改革の最中であり、その一環としてインテグレーションを促進するために、教師以外の役割を持ったポスト(支援教師の働きと、学校全体の教育活動をコーディネート)を学校内に設置するとともに、インテグレーション促進のためのプロジェクトを組織(保護者、校長、保健 機関の代表、教師等が参加)し、様々な人間形成計画の立案とそれに基づく教育活動の実施を行っている。これらの教育活動を実施するに当たり、学校独自で、週の時間割り当てが設定できるが、当校の学校の場合、週のうち3日は午後も授業を行っている。具体的な時間割については、教師が作成し、保護者にも提示して、決定される。教師の創意工夫、柔軟性に関しては申し分ない。
 インテグレーションの理念とは、「人間は皆が権利によって等しい、人間は個々の能力によって異なる、グループには異なった者が必要であり、それが基本となっている。子どもが持つディスアビリティーの側面に対しては、言語療法士、PT、STとも連携はしているが、それらの関わりは教育の現場(範疇)における役割ではない。」

3)コレッキョ市 オッツアーノ・タロー(Ozzano−Taro)幼稚園・小学校
 コレッキョ市から車で約20分の距離にある、小さな町に位置する。小学校第2学年までのクラスと幼稚園が併設されており、それぞれのクラスは隣接している。幼稚園は1クラスの園児が18名で、2クラス(3〜5才混合)の規模である。ここに1名の全盲児G君(男5才、就学前は盲人協会においてトレーニングを受けている)が在籍していた。幼稚園には2学級に3名の担任、1名の支援教師が配置されているが、支援教師が休職中のため、介助員1名が代用として活動していた。ここでは自校給食が行われている。
 幼稚園での授業の内容は、G君がクラス全員の前に立ち、呼名をされた者が自分の写真を壁に貼っていくという出欠調べから始まった。活動の中心は、先生から聞いた物語の情景を各自が切り紙を貼って表した自作絵本(切り紙のためG君にとっては触覚的手がかりとなる)を教材としながら、子どもたちどうしで再び物語を語り合う、というものであった。
 G君のための触覚教材を含めて、園児全員が興味を失わず学習活動ができるよう数多くの自作教材が工夫されており、教師の教育に対する意欲の高さと、熱心さをうかがうことができた。教材の多くはUSLからの専門家と支援教師、担任の協力による自作教材であった。G君用に盲人協会からの専門的な教材もあったが、そのほとんどがG君本人にとって不要だったと担任は述べていた。G君は、活発で声も大きく、学習態度も積極的であり、クラスではいわゆる日本のどこの幼稚園にもいるガキ大将といった感じであった。額のいくつもの小さな傷はそのことを証明するものとして印象的であった。

4)コレッキョ市 ガラヴエルナ(Galaverna)中学校
 前述のジョゼッペ・ヴェルデイ小学校に隣接しており、近代的な建物である。当中学校には現在7名の障害児が在籍しており、4名の支援教師(内3名は非常勤)、1名の介助員がいる。中学校における教育活動は、教科の授業を中心に展開され、障害児といえども一定の評価基準を満たさない場合には、留年もあり得る。当校においては、実際の授業場面の観察は行えなかった。
 校長(女性)と支援教師(全員が女性)とのインタビューを通して、以下のようなことが明らかになった。
 支援教師の役割は、障害児の学習支援のみならずクラス全体のサポートを行うことであり、したがってクラスの教育プログラムにも深く関与している。
 障害児に対する具体的な教育活動としては、クラスにおける学習内容の進度とのバランスをとりながら、個々の生徒の状態にあわせて指導の内容や方法の工夫をし、生徒の学習の援助を行うことである。
 それぞれの支援教師は、担当する生徒の個別指導計画を作成し、それに基づいて日々の学習支援活動を行うと同時に、指導記録を作成、評価を行う。
 当校の支援教師の勤務時間は担任と同じく週18時間で、給与も担任と同額である。
 カリキュラム編成に当たっては、当校におけるインテグレーション推進グループ(教育委員会、USL、保護者、教員)が関与し、新年度開始前にそのための会合を開くことになっている。
 支援教師からは、それぞれの障害児について障害の程度や学校での様子、教育的課題等について報告があった。全ての支援教師が、生徒の学校内の状況ばかりではなく障害児の家庭状況までも詳細に把握していることに驚かされた。
 ただし、重度の肢体不自由と知的障害を有する生徒に対する指導に関しては、理解の程度が判断できないこと、関わりの具体的な方向性がなかなか見つからないこと等、日本と同様の困難さを吐露していた。また、支援教師それぞれが担当する生徒がインタビューを行っている部屋へ出向いてきたときの印象では、日本の養護学校教員の多くが示すような、生徒と教師との親密な関係性の在り方は感じられなかった。

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