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本文 III 主要国における特別な教育的ニーズを有する子どもの指導について
トップ(目次) > III章トップ(目次) > 2.イタリア-10
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まとめおよび今回の調査から示唆されるもの
1.イタリアにおけるインテグレーションと表現されることばの概念には、既にインクルージョン(障害者その他のハンディキャップを持つ人々の社会的な統合)の概念が包括されている。

2.イタリアにおいて障害のある児童生徒に対する学校内での教育活動は、端的に「治療・訓練+障害に対する配慮+教育活動」という図式ではなく、「障害に対する配慮+教育活動」であり、この部分を担当し、さらに障害児支援を行う他の機関とのコーディネートを行うのが支援教師の役割であるといえよう。統合教育を支えるのは、このような支援教師の存在であるといっても過言ではない。しかも、支援教師の視野は、障害のある児童生徒ばかりではなく、クラス全員に向けられている。
1)教育活動と、トレーニング(医療的訓練や点字トレーニングあるいは医療的なケア等)が明確に分離されており、学校内ではトレーニングは行っていない。支援教師は上記児童生徒の障害に配慮した教育活動(クラス全体を視野に入れた)を行うと同時に、彼らのために行われる他の機関でのトレーニング活動のコーディネートを行う(支援教師と他の教師との給料の差はない)。
2)初等教育段階においては、インテグレーションの基本に関与する指導はもとより、いわゆる日本における「総合的な学習」の概念に基づく指導を中心に、その内容や方法の工夫が活発に行われている。また、中学校段階の授業は、教科中心に行われ、障害のある生徒の教材も同様なものを使用することを原則としている。この段階における支援教師の主たる教育的活動は、それら教科の内容に適した内容や方法を如何に個別に作成し展開するかにある。
3)USL、盲人協会(視覚障害教育相談センター)あるいは知的障害者協会(この存在は現地において情報として把握した)等の存在がいわゆる障害がある子どものトレーニングおよび教育活動に関与している。
4)兵役義務の代替としてのServizio Civile(青年の社会的奉仕活動義務)制度の存在は、障害者の社会的統合施策を底辺から支える大きな力となっている。


3.地方分権(教育施策においても)が進み、それぞれの県市独自の工夫や活動が行われている。さらに、このことと連動して教育現場においても、教師側から主体性を持った教育内容や方法の工夫が活発に行われていると同時に、学校自体でも積極的に地域との連携活動が行われている。これら一連の教育的活動は、人間形成計画に基づいて様々な種類のプロジェクトとして成立している。

1)特に小学校、幼稚園段階において、障害がある児童生徒のみならず、その他の児童生徒にもモチベーションが持てるような教材の工夫や2クラス3担任制での教師間の連携が行われている。
2)学校内において、インテグレーション促進プロジェクト(学校関係者、保護者、関連機関の代表から構成される)が組織され、インテグレーションに関するさまざまな活動を企画、推進している。さらに、この活動には地域の会社や団体も関与している。

4.少なくともイタリアにおける統合教育施策の決定や実施の背景には、法律的解釈(等身大からの観点)ではなく教育理念(哲学)に基づいた発想がうかがえる。
 訪問先全てにおいて、教育施策に関与している行政官、教育現場の管理者との対話を通じ、彼ら個々人の教育に関する視野の広さ、深さ(教育理念の徹底)を感じると同時に、教育と連携する他の分野(医療、福祉)に携わる行政官その他の個々においても、同様な理念が徹底していることを痛感した。

 5.重度の障害があったり、学校に通学できなかったりする児童・生徒のために、病院内学級での指導や通信を活用した指導などが支援教師を中心に実施されていることが明らかになった。病院内学級については、我が国の実態と共通点も多いが、制度的に異なっているのは、病院内学級の母体となる学校が養護学校等ではなく、通常の小学校・中学校である点である。

 6.統合教育に関する今後の課題は、支援教師の資質向上を図ること。そして、ややもすれば個別的、個人的に陥りやすい施策上、教育上の実際的な活動を如何にして全国的によりシステム化し、統一していくかにある。
1)支援教師の資質の向上は教育施策上重要な課題であるが、全国的に統一された資格取得システムは未だ徹底しておらず、その統一的な確立化が急務とされている(ボローニャ市教育委員会での懇談より)。
2)学校、地方市、レベルにおける教育施策上の連携は維持されているものの、県レベル、州レベルと広範囲のレベルになるほど、情報交換も少なく統一性がとれていない状況であり、今回は踏み込んだ調査ができなった。また、南北での格差の大きいことも指摘されており、これらを究明していくことが今後の課題でもある。

参考文献
1)Ministero della pubblica istruzione(1999):The Italian Education System
2)パオロ・トリヴェッラート(1999):学校と教育.(馬場康雄・奥島孝康編、イタリアの社会.)早稲田大学出版部.
3)鹿倉真理子(1999):障害児教育.(仲村優一・一番ケ瀬康子、世界の社会福祉5フランス イタリア).旬報社.
4)落合俊郎(1998):障害児教育からみた教育改革−イタリア.(岩波講座12現代の教育 世界の教育改革)岩波書店.
5)OECD(1994):通常教育への障害のある子どものインテグレーション理想とその理論及び実践(徳永 豊・袖山啓子訳)全国心身障害教育財団.
6)Esposito A.(2001):La normativa sulla integrazione degli handicappati nella scuola. Edizioni del cerro.

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