特殊研 F−121

中途失明者の個に応じた最適点字サイズ評価と点字触読指導プログラム及び教材の開発

(課題番号13610348)
平成13年度〜15年度

科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))研究成果報告書

平成16年3月
研究代表者 澤田真弓
(独立行政法人国立特殊教育総合研究所)


はじめに

 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部による「身体障害児・者実態調査」(2001)によると、18歳以上の視覚障害者数は30万1,000人、18歳未満は4,800人と推計されている。障害等級状況をみると、障害の程度が重度の1級が全視覚障害者数30万5,800人のうち、10万7,200人、その中で約3万人が点字を常用して読み書きを行っている。また、障害の原因別や発生時の年齢別の統計からみると中途で視覚障害になった者が多い。
 情報を得るために視覚活用をしてきた者にとって、それを触覚中心に代えるというのは、相当な困難をきたす。また、中途失明者は障害受容とも関連して、点字に対する抵抗感が強い場合もある。中途失明者の点字指導、とりわけ触読効率を高めるための指導法については、各教育現場によって様々であり、手探りの状態にあり、その指導の場である盲学校やリハビリテーションセンター、点字図書館等においての連携についても希薄な状況にある。
 そのような状況の中で、中途失明者の職業的自立や自己実現の手段の一つとなる点字を習得させるためには、それぞれの到達目標に合わせた点字指導プログラムと教材の開発が是非とも必要である。
 そこで本研究では、一旦普通文字を獲得した後に視覚障害となった者の点字触読能力の向上に焦点をあて、個に応じた最適な点字サイズと指導プログラム及び教材の開発を目指した。特に指導の実践的な場での活用を考え、「中途失明者の点字指導に関する学習会」を立ち上げ、その学習会で、指導プログラムや教材等の検証を行いながら研究を進めてきた。3年間の研究期間を一区切りとして、本報告書と指導者用の「中途失明者の点字触読指導マニュアル及び教材(CD・フロッピー付き)」を作成した。本研究の成果が中途失明者の点字習得の一助となれば幸いである。

平成16年3月
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
研究代表者 澤田真弓



目次


研究組織及び経費

研究成果の発表

第1章 研究の概要 (p.1〜2)

第2章 基礎研究 (p.3〜26)
 点字触読困難な中途失明者への指導アプローチ
  ―点字サイズの違いによる触読のしやすさの比較から―(p.3〜22)

 日本特殊教育学会発表資料 (p.23〜25)
  中途失明者の点字指導に関する研究(I)
   ―点字触読初期指導における縦読みの有効性についての検証―(p.24)
  中途失明者の点字指導に関する研究(II)
   ―カリフォルニアサイズ点字と国際サイズ点字の触読の違いにつての検証―(p.25)
  中途失明者の点字指導に関する研究(III)
   ―点字サイズの違いによる触読の比較―(p.26)

第3章 指導法及び教材 (p.27〜48)
 点字触読教材の実態 (p.27〜34)
  『点字入門2002年版―中途失明者の点字学習のために』発行について(p.35〜42)
 中途視覚障害者への点字指導導入教材について (p.43〜48)

第4章 「中途失明者の点字指導に関する学習会」の報告 (p.49〜79)
   学習会の趣旨 (p.49〜50)
 第1節 第1回学習会の報告 (p.51〜60)
  1.「点字指導について」講義記録 (p.52〜54)
  2.ナイトセミナー(グループ討議)の記録 (p.55〜60)
 第2節 第2回学習会の報告 (p.61〜69)
  1.日本ライトハウスでの点字指導 (p.62〜63)
      坂本式点字触読指導法 
  2.ナイトセミナー(グループ討議)の記録 (p.64〜69)
 第3節 第3回学習会の報告 (p.70〜79)
  1.L点字について (p.71〜73)
  2.ナイトセミナー(グループ討議)の記録 (p.74〜79)




研究組織



研究代表者
  澤田真弓 独立行政法人国立特殊教育総合研究所視覚障害教育研究部盲教育研究室主任研究官
  
研究分担者
  大内  進 独立行政法人国立特殊教育総合研究所視覚障害教育研究部盲教育研究室長
  中野泰志 東京大学先端科学技術研究センター特任教授
  
研究協力者
  原田良實 名古屋市総合リハビリテーションセンター
  管  一十 日本盲人会連合
  藤野克己 視覚障害者生活情報センターぎふ
  立花明彦 静岡県立大学短期大学部社会福祉学科
  松谷詩子 日本点字図書館
  伊藤和之 国立身体障害者リハビリテーションセンター更生訓練所理療教育部
  田辺正明 日本ライトハウス視覚障害リハビリテーションセンター第3訓
  小林貞良 福岡市立点字図書館
  猪野孝子 元名古屋市総合リハビリテーションセンター
  正井隆晶 奈良県立盲学校
  吉田道広 熊本県立盲学校
  
研究協力機関
  日本盲人社会福祉施設協議会リハビリテーション部会





研究経費
 
平成13年度   1,600千円
平成14年度     800千円
平成15年度   1,100千円

    合計   3,500千円







研究成果の発表
 
(1) 正井隆晶 澤田真弓 吉田道広:中途失明者の点字指導に関する研究(T)―点字触読初期指導における縦読みの有効性についての検証―,第40回日本特殊教育学会発表論文集,P297,2002.
(2) 吉田道広 澤田真弓 正井隆晶:中途失明者の点字指導に関する研究(U)―カリフォルニアサイズ点字と国際サイズ点字の触読の違いについての検証―,第40回日本特殊教育学会発表論文集,P298,2002.
(3) 正井隆晶 澤田真弓 吉田道広:中途失明者の点字指導に関する研究(V)―点字サイズの違いによる触読の比較―,第41回日本特殊教育学会発表論文集,P335,2003.
(4) 澤田真弓:点字触読困難な中途失明者への指導アプローチ―点字サイズの違いによる触読のしやすさの比較から―,国立特殊教育総合研究所紀要,31,2004.




第1章 研究の概要


T.目的及び研究の構成
 本研究は、一旦普通文字を獲得した後に視覚障害となった者(注1) の点字触読能力の向上に焦点をあて、個に応じた最適な点字サイズと指導プログラム及び教材の開発を目指した。この目的を遂行するにあたり、具体的な研究項目として次の3点をあげ、取り組んできた。

1.指導プログラムと教材開発のため、盲学校やリハビリテーションセンター等で行われている中途失明者に対する点字指導法と教材の実態を把握する。
2.点字初期指導時の個に応じた最適点字サイズの評価法を検討する。
3.点字触読能力を高めるための個に応じた指導プログラムと教材を開発する。

 本研究では、盲学校・リハビリテーションセンター・点字図書館等で実際に中途失明者の指導に携わっている人たちを対象として「中途失明者の点字指導に関する学習会」を年1回、計3回開、催してきた。この学習会においては、情報交換や演習を行いながら、点字触読能力を高めるための指導法や教材の工夫等について、実験的な試みを行ってきており、本研究の中心に位置づけているものである。研究全体の構造図を次にあげる。

個に応じた指導プログラムと教材の開発
基礎研究
・個に応じた点字サイズ、点間、マス間、行間の検討
・点字サイズ、点間、マス間、行間を変えた時、それが通常の点字のプロポーションに移行するか?
・中途失明者にとってどの方法が読みやすく効率的か?
・縦読みからスライド方式の早読みに変わるのは?
・聴覚を活用した学習方法の有効性は?
→→→→
←←←←

実態把握
・指導プログラム及び教材の洗い出しとその特徴等の検討
「点字学習指導のてびき」
「日本ライトハウス方式」
「名古屋方式」
「国リハ方式」
 ・・・・・・・・

 
↓↑
↓↑→→
↓↑←←
↓↑

点字触読指導の学習会

実際の指導からのフィードバック
→指導プログラム及び教材の手直し

  ↓↑
→→↓↑
←←↓↑
  ↓↑
 
個別指導プログラムの立て方
・指導前のアセスメントのポイント
・指導目標・指導内容・期間等
疾患、年齢、進路等により目標が違う
基礎コース(共通)と目標別(応用)コース?

→→→→
←←←←
教材
・モティベーションを高めるためのアイディア
個別指導・集団指導での教材
点字伝言ゲーム
ジャンル別単語の収集
クイズ
・・・・・・・・


U.研究の成果
 本研究の成果として、以下の内容のものを報告する。

研究成果報告書(本書)
1. 「基礎研究」として進めてきた中途失明者の初期指導時の点字サイズ、マス間、行間についての研究報告。
2. 「実態把握」として、各学校・施設等から提供のあった指導法や教材について、どのような特徴があるのか等を整理したもの。また、いくつかの教材の作成者から、その教材の特徴や指導事例についての報告。
3.学習会の報告(3回)
 ここでは、各学校・施設の「個別指導プログラムの立て方」や「教材」について、情報交換を行ってきた記録も含まれる。


指導者用「中途失明者の点字触読指導マニュアル及び教材(CD・フロッピー付き )」 (別冊)
 日本盲人社会福祉施設協議会リハビリテーション部会の協力を得て「中途失明者の点字触読指、導マニュアル」の内容や教材について、学習会等を通して検討してきた。この検討の中には、指導者が晴眼者の場合と点字使用者の場合との指導マニュアルについても話題となり、実際の学習会においては、両者に分けて実習及び検討を行ってきた。しかし、今回のまとめでは、指導者が晴眼者であることを前提としてマニュアルを作成した。そして、解説だけではなく、より分かりやすくするため、ポイントごとに指導の実際場面をビデオ収録し、CDに収め、教材のヒント集「おもしろ教材集」を作成し、この冊子に掲載した。また、これら教材の点訳電子データをフロッピーに収め、活用の便をはかった。



*1 本研究においては、「一旦普通文字(墨字)を獲得した後に視覚障害となった者で、普通文字の使用が困難な者」を中途失明者と表記している。また、本報告書中に「中途視覚障害者」という用語も使用しているが、これについても同様である。





第2章 基礎研究


点字触読困難な中途失明者への指導アプローチ
―点字サイズの違いによる触読のしやすさの比較から―

国立特殊教育総合研究所
澤田真弓

 要旨:一旦普通文字を獲得した後に視覚障害となった者(以下,中途失明者)の多くは,「点字の書き」については比較的容易に取り組めても,「点字の触読」 にはかなりの困難を示す。そこで,本研究の目的は,中途失明者の点字触読初期指導時の点字サイズの違いによる学習の有効性を明らかにすることにある。まず,研究1では,マス間隔(点字一文字と次の点字一文字の間)の違う2種類の点字を用いて,点字触読に慣れていない晴眼者と点字触読に慣れている点字使用者とを対象に,読速度, 誤読数,読みやすさ感の比較を行い,マス間隔が触読に及ぼす影響について検討した。次に,研究2では,点字触読に慣れていない晴眼者を2グループに分けて,点の大きさを含めたサイズの異なる点字(便宜上,通常サイズとLサイズ)を触読順序を変えて提示し,読速度,誤読数,読みやすさ感の比較を行い,Lサイズでの教材の提供が触読に及ぼす影響について検討した。研究1,研究2の結果,触読に困難を示す中途失明者の点字触読初期指導時には,マス間隔の広い点字及びLサイズの点字の活用が有効な方法の一つであることが分かった。

見出し語: 中途失明者 点字初期指導 点字サイズ 点字触読

T.研究の背景
1.中途失明者の点字触読の現状
 視覚障害者が自ら読み書きできる文字としての点字は,まだまだ不十分ではあるが,市民権が認められつつある。具体的には,選挙での点字投票や,司法試験・公務員試験・大学入試での点字受験,駅の券売機,銀行や郵便局の,階段の手すりやエレベータ等の点字表示であり,我々のATM周囲でよく点字が見かけられるようになってきている。現在の社会は情報化社会であり,情報の獲得は社会で生活していく上で必要条件となってきており,視覚障害者にとって,点字は,情報を得る手段の一つとして重要な文字なのである。
 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部による「身体障害児・者実態調査」(2001) 3)によると,18歳以上の視覚障害者数は30万1,000人,18歳未満は4,800人と推計されている。障害等級状況をみると,障害の程度が重度の1級が全視覚障害者数30万5,800人のうち,10万7,200人,その中で約3万人が点字を常用して読み書きを行っている。また,障害の原因別や発生時の年齢別の統計からみると中途で視覚障害になった者が多い。
 情報を得るために視覚活用をしてきた者にとって,それを触覚中心に代えるというのは,相当な困難をきたす。管(1988)は,更生援護施設であん摩はりきゅうを学ぶ中途失明者197名の点字触読状況を8年間にわたり調査している。それによると,1分間の読字数と点字触読年数の比較で1)は,20歳代で,2年半で100文字,30歳代では,2年半で85文字,40歳代では,30歳代と同じ85文字を触読するのに,4年半かかっている。50歳代においては,60文字を触読するのに3年半かかっている。このように,高年齢になるにしたがい,点字の読みの習得に要する期間は長くなってきている。また,盲児の触読力との比較においては,20歳代の若い中途失明者で,小学部4年生程度の読速度であった。これらは,加齢による機能の減退と考えれば当然ではあるが,今まで情報収集の手段を視覚中心で行っていた者にとっては,強度な焦燥感に駆られるであろう。
 盲学校においても,理療科等に入学してくる中途失明の生徒で,入学時に学習を進める上で必要な点字の読み書き能力を身につけている者はそう多くない。盲学校では入学後すぐに教科学習が始まり,一定の点字の読み書き能力が要求される。しかし,教科学習と並行して進めていかざるを得ない点字学習に,必要な時間が十分確保できない状況等があり,苦慮している。
 このように,中途失明者の点字触読が困難であれば,当然,教科学習や積極的な情報収集への意欲も低下してしまう。また,障害受容とも関連して,点字に対する抵抗感が強い場合もある。点字触読のモチベーションを高め,あるいは維持しながら,効率的に点字触読力を習得できる指導プログラムや教材の工夫が必要である。

2.指導法及び教材をめぐって
 中途失明者の点字指導,とりわけ触読効率を高めるための指導法については,各盲学校や点字指導を行っているリハビリテーションセンター・点字図書館等によって様々であり,また教材も少なく,手探りの状態にある。
 中村(1993)6)は,パーキンスブレイラー(図1)で作成した点字が他の点字器で作成したものよりも,点間隔(1・4点間)やマス間隔(4・1点間)が多少広いので,点字触読初期指導時に有効であると報告している。点間隔・マス間隔等の点字の構成については図2に示す。

図1 パーキンスブレイラー (省略)

図2 点字の構成 (省略)

 また,管(1988)1)は,初期指導時に一マスあけの教材の提示を提案している。そして,文部省の「点字学習の手引き」(1995)によると,「点字の読みとりに困難を感じている児童生徒の場合には,マス間隔を少し広げた点字教材を作成して指導することが効果的である。その上で次第にマス間隔を狭くしていき,普通の点字に慣れさせるようにすることが望ましい」5)と記載されている。黒田らは(1995)4) ,点字に習熟していない人や触覚の機能に制約がある人にとって,文字の大きさ,マス間隔,行間隔などを変えることによって,読みやすさが変化するのではないかと考え,点字の習熟の異なる被験者に対してマス間隔,行間隔の変化が触読効率に与える影響について検討している。その結果,点字触読に習熟していない被験者は,マス間隔,行間隔が広い条件の方が読みやすかったと述べている。しかし,被験者数が3名しかおらず,結果の信頼性を高めるためには,被験者数を増やして分析をしていく必要があろう。
 点字の大きさについては,国によって,あるいは同じ国であっても,点字出版社や点字プリンター等,点字器の種類によって様々である。
 欧米では,中途失明者の触読を容易にするために,一定の大きさではあるが,ジャイアント・ドットと呼ばれる大型の点字も開発されてきている。日本では,各メーカーからだされている点字プリンターや点字器の違いによって,大きさに多少の違いがある程度で,自由に点の大きさや行間隔,マス間隔を設定して教材を作成することはできない。しかし,最近,点図を印刷できるプリンターや,従来の点字より大きめの点字が印刷できるプリンターが開発されてきており,大きさの違う点字出力の選択肢は限られているものの,今までより,選択の幅が広がった。
 それでは,点字の大きさを単に制限なく大きくすれば良いのかと言えば,当然そうではなく,個々の触覚の2点弁別域の違いや,点間隔とマス間隔の比率の関係「読み慣れ」の問題,読速度との関係等,さまざまな関係要因がある。例えば,マス間隔が広すぎても読みにくい場合が出てくる。それは,日本の点字表記上の特徴でもある,濁音や拗音のように2マスで表記する場合,マス間隔が広すぎると,間延びがしてしまって次のマスが捉えにくく,実用的でなくなってしまうおそれもある。それから,たとえ,個々の中途失明者の状況によって,最適な点字サイズがあったとしても,先に述べたように,現在の点字プリンターの技術から,実際に各教育現場で簡単に教材として提供できる可変可能なプリンターにも限界がある。
 このような状況の中で,実際の現場で教材として提供が可能である点字サイズ(点の大きさ,点間隔,マス間隔)の範囲で,その違いが,中途失明者の点字触読指導にどのように影響を及ぼすのかを明らかにしていくことは指導アプローチを検討するために意義あることだと考える。その上で, 読みやすい教材の提示や指導法の工夫につなげていければと考える。


U.研究目的
 本研究の目的は,中途失明者の点字触読初期指導時の点字サイズの違いによる学習の有効性を明らかにすることにある。
 本研究は【研究1】【研究2】から構成し,【研究1】では,マス間隔の違いが触読に及ぼす影響について検討した。【研究2】では,点の大きさを含めたサイズの異なる点字(便宜上,通常サイズとLサイズ)の比較から,Lサイズでの教材の提供が触読に及ぼす影響について検討した。これら2つの研究から,本研究の目的にアプローチした。


V.研究方法
【研究1】
 点字触読初心者である晴眼者と点字触読熟達者(点字常用者)である全盲者を対象に,マス間隔に大きな違いのある点字2種類を触読させ,読速度,誤読数,読みやすさ感を比較した。
(1)対象者
 23才〜58才(平均年齢43才)の晴眼男女32名及び,点字使用男女10名(平均年齢39才,点字使用歴平均25年)を対象とした。

(2)実験用読材料
 触読が比較的簡単な「な,に,い,れ,め,ふ」の6種類の点字を使用し,無意味綴り2文字あるいは3文字を続けて,1マス空ける組み合わせで,1行19文字のものを4パターン作成した(図3)。これらを「米イネーブリング・テクノロジーズ社」の点字プリンター「ET」を用いて,国際サイズ,カリフォルニアサイズ,それぞれ2パターンずつ出力した。なお,国際サイズ,カリフォルニアサイズというのは,このプリンターで命名されていたサイズ名である。各サイズで打ち出した点字の行頭には,いずれも「■(め)」の字を置き,触読の起点とした。
 それぞれの点字のサイズを比較したものを表1に示す。点の大きさは共に1.4oであるが,マス間隔(4・1点間)に大きな違いがある。

図3 記録用紙および点字読材料カード(研究1用) (省略)


表1 点字サイズの比較

  点字の種類   点の大きさ  1・4点間  4・1点間  1・2点間

  国際サイズ      1.4     2.38     4.17     2.34
  カリフォルニアサイズ    1.4     2.65     5.13     2.65

                                  (単位:o)

(3)触読テスト
 読みに使用する手や指,方法については対象者に任せた。対象者は(晴眼者は遮眼をした),サイズの違う読材料を1行ずつ,それぞれ1分を上限として声を出して読み,その読速度と誤読数を調べ,2パターンを読み終わってから,1行目と2行目の点字のどちらが読みやすかったか,5段階(1行目・やや1行目・わからない・やや2行目・2行目)で答えた。

【研究2】
 点字触読初心者である晴眼者を2グループに分け,サイズの違う点字を各グループによって順序を変えて提示し,読速度,読み誤りの有無,読みやすさ感を調べ,点字サイズによる触読効率の違いと,提示順序の影響について比較した。

(1)対象者
 24才〜69才の晴眼男女28名を対象とし,2グループ(A・B)に分けた。各グループの人数,平均年齢は表2の通りである。

表2 対象者の人数と平均年齢

   グループ  グループ人数(名)  平均年齢(才)

      A        13         41.3
      B        15         41.5


(2)実験用読材料
 触読が比較的簡単な「う,れ,め,ふ,あ,い,に,な」の8種類の点字を使用し,無意味綴り2文字と4文字で,各20文字,4パターンずつ作成した(図4)。2文字綴りの場合は,それぞれの文字が必ず前後で使われるように,4文字綴りの場合は,最初(1文字目),中(2文字目あるいは3文字目),最後(4文字目)で使われるように組み合わせた。これは,表3に示すように,読材料の8文字のうち,左半マスで構成される点字「あ」「い」「に」「な」があり,これらの文字と次にくる文字との間隔が広くなり,正規のマス間隔をとらえられず,なんらかの影響があるかもしれないと考えたからである。

表3 読材料8文字 (省略)

図4 記録用紙および点字読材料カード(研究2用) (省略)

 これら2文字綴り4文字綴りの各4パターンを表4の2種類のサイズで2パターンずつ用意しカード形式にした。通常サイズはジェイ・ティー・アール社の「ESA 721」の点字プリンターで出力し,Lサイズは,同じくジェイ・ティー・アール社の「ESA 2000/L」の点字プリンターで出力した。各サイズで打ち出した点字の行頭には,いずれも「■(め)」の字を置き,触読の起点とした。

表4 点字サイズの比較

  点字の種類   点の大きさ  1・4点間  4・1点間  1・2点間

  通常サイズ      1.4      2.0     3.2      2.25
  Lサイズ        1.9      2.4     3.84     2.7

                                  (単位:o)

(3)触読テスト
 Aグループは通常サイズ2文字綴り,Lサイズ2文字綴り,通常サイズ4文字綴り,Lサイズ4文字綴りの順で,Bグループは,Lサイズ2文字綴り,通常サイズ2文字綴り,Lサイズ4文字綴り,通常サイズ4文字綴りの順で試行した。これは,サイズの違う点字の触読が,順序によって触読効率になんらかの影響があるかもしれないと考えたからである。読みに使用する手や指,方法については対象者に任せた。対象者は遮眼をし,サイズの違う読材料をそれぞれ1分を上限として声を出して読み,4試行の各読速度と誤読文字を調べ,2文字綴り,4文字綴りごとに,通常サイズとLサイズを比較して,その読みやすさ感を5段階(1枚目・やや1枚目・わからない・やや2枚目・2枚目)で答えた。


W.結果と考察
【研究1】
 点字触読初心者である晴眼者32名の国際サイズとカリフォルニアサイズでの一文字あたりの読速度を比較し,その差を表したのが図5である。Y軸上,正の方向がカリフォルニアサイズの読速度が速くなった数値である。
 次に,国際サイズあるいはカリフォルニアサイズのいずれかで,19文字全て1分以内で読めた晴眼者20名と,点字使用者10名を,読速度の速かったサイズと読みやすさ感,読み誤りの有無から分類したものを表5ー1から表7ー2に示す。

図5 一文字あたりの読速度の比較 (省略)


表5−1 速く読めたサイズと読みやすさ感    人数(%)
晴眼者
20名
速く読めたサイズ
カリフォルニア 変わらない 国際サイズ
読みや
すさ感
カリフォルニア 11 (55) 0 (0) 3 (15)
変わらない 1 (5) 0 (0) 0 (0)
国際サイズ 0 (0) 0 (0) 5 (25)
12 (60) 0 (0) 8 (40)


表5−2 速く読めたサイズと読みやすさ感    人数(%)
点字使用者
10名
速く読めたサイズ
カリフォルニア 変わらない 国際サイズ
読みや
すさ感
カリフォルニア 1 (10) 0 (0) 1 (10)
変わらない 1 (10) 0 (0) 0 (0)
国際サイズ 0 (0) 2 (20) 5 (50)
2 (20) 2 (20) 6 (60)


表6−1 速く読めたサイズと誤りの有無     人数(%)
晴眼者
20名
速く読めたサイズ
カリフォルニア 変わらない 国際サイズ
誤りあり 両方 3 (15) 0 (0) 2 (10) 14 (70)
カリフォルニア 1 (5) 0 (0) 4 (20)
国際サイズ 3 (15) 0 (0) 1 (5)
誤りなし 5 (25) 0 (0) 1 (5) 6 (30)


表6−2 速く読めたサイズと誤りの有無    人数(%)
点字使用者
10名
速く読めたサイズ
カリフォルニア 変わらない 国際サイズ
誤りあり 両方 0 (0) 0 (0) 1 (10) 1 (10)
カリフォルニア 0 (0) 0 (0) 0 (0)
国際サイズ 0 (0) 0 (0) 0 (0)
誤りなし 2 (20) 2 (20) 5 (50) 9 (90)


表7−1 読みやすさ感と誤りの有無     人数(%)
晴眼者
20名
速く読めたサイズ
カリフォルニア 変わらない 国際サイズ
誤りあり 両方 5 (25) 0 (0) 0 (0) 14 (70)
カリフォルニア 2 (10) 0 (0) 3 (15)
国際サイズ 3 (15) 0 (0) 1 (5)
誤りなし 4 (20) 1 (5) 1 (5) 6 (30)


表7−2 読みやすさ感と誤りの有無    人数(%)
点字使用者
10名
速く読めたサイズ
カリフォルニア 変わらない 国際サイズ
誤りあり 両方 1 (10) 0 (0) 0 (0) 1 (10)
カリフォルニア 0 (0) 0 (0) 0 (0)
国際サイズ 0 (0) 0 (0) 0 (0)
誤りなし 1 (10) 1 (10) 7 (70) 9 (90)


 図5より,点字触読に慣れていない晴眼者32名中22名がマス間隔の広いカリフォルニアサイズの点字の方がよく読めていることが分かる。
 表5ー1,表5ー2は,読速度の速いサイズと読みやすさ感を表したものである。
 晴眼者においては,カリフォルニアサイズの方が読速度の速かったケースが20名中12名(60%)であり,それらの対象者の読みやすさ感は,変わらないと答えた1名を除き,カリフォルニアサイズの方が読みやすいと答えている。国際サイズが速く読めた対象者も8名(40%)いたが,これらの者の読みやすさ感については,国際サイズ,カリフォルニアサイズに分かれた。
 点字使用者においては,国際サイズの方が読速度の速かったケースが10名中6名(60%)であり,これらの対象者の読みやすさ感はカリフォルニアサイズと答えた1名を除き,国際サイズの方が読みやすいと答えている。両サイズで読速度の変わらない対象者は国際サイズの方が読みやすいと答えている。カリフォルニアサイズの方が読めていた2名の読みやすさ感はカリフォルニアサイズが1名,変わらないと答えた者が1名であった。
 表6ー1,表6ー2は,実際に読めたサイズと読み誤りの有無から分類したものである。晴眼者においては,20名中14名(70%)の対象者が読み誤りをしているが,読み誤りのない対象者6名中5名は,カリフォルニアサイズの方がよく読めていた。
 点字使用者においては,1名の対象者にのみ読み誤りを認めたが,点字を常用している対象者にとっては,サイズの違いによる大きな読み誤りの差は出てこなかった。
 表7ー1,表7ー2は,読みやすさ感と読み誤りの有無から分類したものである。晴眼者においては,読み誤りのない対象者6名中4名がカリフォルニアサイズの方が読みやすいと答えており,残りの対象者は変わらない,あるいは国際サイズと答えていた。読み誤りはあるものの,カリフォルニアサイズの方が読みやすいと答えていた対象者は,読み誤りのある14名中10名であった。
 点字使用者においては,読み誤りのない対象者9名中7名が国際サイズの方が読みやすいと答えており,残りの対象者が変わらない,あるいはカリフォルニアサイズと答えている。
 以上の結果から,点字触読に慣れている点字使用者においては,国際サイズが読みやすく,実際にも読めており,慣れていない晴眼者では,マス間隔の広いカリフォルニアサイズの方が読みやすく,実際にも読めていることが分かった。これらにより,中途失明者の点字触読初期指導時において,マス間隔の広い点字の活用の有効性が分かった。


【研究2】
 Aグループ,Bグループの2文字綴り,4文字綴りでの効率の良いサイず(読速度の速いサイズ),正しく読めたサイズ,読みやすさ感の結果を表8ー1から表9ー2ーに示す。



表8ー1 Aグループ2文字綴りでの比較

 対象者   効率の良いサイズ  正しく読めたサイズ  読みやすさ感

   1          L           L           L
   2          L           L           L
   3          L           L          ややL
   4          L           L           L
   5          L          同じ           L
   6          L          同じ         ややL
   7          L           L           L
   8          L          同じ           L
   9          L           L          ややL
  10          L           L           L
  11          L           L           L
  12          L           L          ややL
  13          L           L           L


表8-1-a Aグループ2文字綴りでの比較集計  人数(%)
効率の良いサイズ 正しく読めたサイズ 読みやすさ感
L     13 (100) L      10 (77) L        8 (62)
同じ    0 (0) 同じ     3 (23) ややL     4 (30)
通常    0 (0) 通常     0 (0) わからない  1 (8)
    やや通常   0 (0)
    通常      0 (0)
                           (対象者13名)



表8ー2 Aグループ4文字綴りでの比較

 対象者   効率の良いサイズ  正しく読めたサイズ  読みやすさ感

   1          L           L           L
   2          L           L           L
   3          L           L           L
   4          L           L           L
   5          L          同じ          L
   6          L          同じ         通常
   7          L           L           L
   8          L           L          ややL
   9          L           L          ややL
  10          L           L           L
  11          L           L          ややL
  12          L           L           L
  13          L           L           L


表8-2-a Aグループ2文字綴りでの比較集計  人数(%)
効率の良いサイズ 正しく読めたサイズ 読みやすさ感
L     13 (100) L      11 (85) L        9 (69)
同じ    0 (0) 同じ     2 (15) ややL     3 (23)
通常    0 (0) 通常     0 (0) わからない  0 (0)
    やや通常   0 (0)
    通常      1 (8)
                           (対象者13名)



表9-1 Bグループ2文字綴りでの比較

 対象者   効率の良いサイズ  正しく読めたサイズ  読みやすさ感

   1          L           L           L
   2         通常         通常        やや通常
   3         通常         同じ          通常
   4         通常         通常        やや通常
   5         同じ          同じ          L
   6          L           L           L
   7          L           L           L
   8         通常         通常        わからない
   9          L           L          ややL
  10         通常         通常           L
  11          L           L          ややL
  12          L          同じ           L
  13         通常         通常        わからない
  14          L           L          ややL
  15          L           L          ややL


表9-1-b Bグループ2文字綴りでの比較集計  人数(%)
効率の良いサイズ 正しく読めたサイズ 読みやすさ感
L      8 (53) L       7 (4) L        6 (40)
同じ    1 (7) 同じ     3 (20) ややL     2 (13)
通常    6 (40) 通常     5 (33) わからない  2 (13)
    やや通常   2 (13)
    通常      1 (7)
                           (対象者15名)

表9-2 Bグループ4文字綴りでの比較

 対象者   効率の良いサイズ  正しく読めたサイズ  読みやすさ感

   1         通常         通常          L
   2          L           L           L
   3         通常         通常        やや通常
   4          L           L         わからない
   5         同じ         同じ           L
   6         同じ         同じ           L
   7         同じ         同じ         ややL
   8          L          同じ           L
   9         通常         通常          L
  10          L          同じ           L
  11          L          同じ           L
  12          L           L           L
  13         通常         同じ         わからない
  14          L           L           L
  15          L          同じ         ややL


表9-2 Bグループ4文字綴りでの比較集計  人数(%)
効率の良いサイズ 正しく読めたサイズ 読みやすさ感
L      8 (53) L       4 (27) L       10 (67)
同じ    3 (20) 同じ     8 (53) ややL     2 (13)
通常    4 (27) 通常     3 (20) わからない  2 (13)
    やや通常   1 (7)
    通常      0 (0)
                           (対象者15名)


 また,各グループの通常サイズとサイズの一文字あたりの読速度の差を図6−1から図7−2 Lに示す。Y軸上,正の方向が通常サイズよりもLサイズの方が速く読めていることを表す。

図6−1 Aグループ2文字綴りの読速度の差の比較 (省略)
図6−2 Aグループ4文字綴りの読速度の差の比較 (省略)
図7−1 Bグループ2文字綴りの読速度の差の比較 (省略)
図7−2 Bグループ4文字綴りの読速度の差の比較 (省略)


 次に,各グループごとに,通常サイズ,Lサイズの2文字綴り,4文字綴りでの誤答例を表10ー1から表11ー2に示す。

表10−1 Aグループ2文字綴り誤答例
通常サイズ 誤答数 Lサイズ 誤答数
■(い)→■(に) ■(れ)→ ■(め)
■(ふ)→■(な) ■(い)→ ■(に)
■(れ)→■(あ) ■(な)→ ■(ふ)
■(な)→■(あ)    
■(め)→■(れ)    
■(う)→■(あ)    
■(な)→■(ふ)    


表10−2 Aグループ4文字綴り誤答例
通常サイズ 誤答数 Lサイズ 誤答数
■(ふ)→■(な) ■(い)→ ■(に)
■(い)→■(あ) ■(な)→ ■(ふ)
■(に)→■(い) ■(れ)→ ■(め)
■(な)→■(に)    
■(あ)→■(な)    
■(う)→■(か)    


表11−1 Bグループ2文字綴り誤答例
通常サイズ 誤答数 Lサイズ 誤答数
■(い)→■(に) ■(ふ)→■(な)
■(ふ)→■(な) ■(め)→■(れ)
■(あ)→■(う) ■(に)→■(い)
■(め)→■(ふ) ■(い)→■(あ)
■(ふ)→■(う) ■(あ)→■(う)
■(れ)→■(め) ■(う)→■(あ)
■(に)→■(な) ■(う)→■(な)
■(め)→■(れ) ■(ふ)→■(に)
■(う)→■(あ) ■(う)→■(め)
■(な)→■(に) ■(い)→■(れ)


表11−2 Bグループ4文字綴り誤答例
通常サイズ 誤答数 Lサイズ 誤答数
■(な)→■(に) ■(う)→■(あ)
■(に)→■(な) ■(い)→■(に)
■(い)→■(な) ■(あ)→■(う)
■(う)→■(あ) ■(い)→■(あ)
■(に)→■(ふ) ■(う)→■(い)
■(う)→■(い) ■(あ)→■(い)
■(な)→■(あ) ■(め)→■(ふ)
■(ふ)→■(な) ■(に)→■(い)
■(め)→■(れ) ■(い)→■(な)
    ■(め)→■(い)
    ■(ふ)→■(あ)
    ■(に)→■(な)


 また,これら誤答例を各グループ及び各サイズで集計したのが,表12である。


表12 各グループ及び各サイズごとの誤答例集計
誤答例 通常サイズ Lサイズ
Aグループ Bグループ Aグループ Bグループ
い→に 4 3 2 2 11
に→い 2     3 5
ふ→な 3 3   3 9
な→ふ 1   2   3
め→れ 1 2   2 5
れ→め   1 3   4
う→あ 1 3   4 8
あ→う       4 4
な→に 2 4     6
に→な   4   1 5
な→あ 1 1     2
あ→な 1       1
い→あ 2     4 6
あ→い       1 1
い→な   3   1 4
ふ→あ       1 1
あ→ふ   2     2
め→ふ   1   1 2
う→い   1     1
い→う       1 1
れ→あ 1       1
う→な       1 1
ふ→に       1 1
に→ふ   1     1
う→め       1 1
い→れ       1 1
ふ→う   1     1
め→い       1 1
う→か 1       1


 表8−1から表8−2−a,図6ー1,図6ー2に示したとおり,通常サイズから試行したAグループは,全ての対象者が2文字綴り,4文字綴りともにLサイズの方が効率よく読めていた。正しく読めていたサイズは,2文字綴りの場合,77%がLサイズであり,通常サイズ, Lサイズともに同じであったのは23%であった。4文字綴りについては,85%がLサイズ,同じであったのが15%であった。読みやすさ感については,2文字綴り,4文字綴りともに,「Lサイズ」,「ややサイズ」 と答えた対象者が12名,92%であり,残り8%が,2文字綴りで「わからない」,4文字綴りで「通常」と答えていた。しかし,どちらも実際に効率よく読めたのはLサイズであった。
 次に, サイズから試行したグループは,表9−1から表9−2−b,図7−1,図7−2に示した通り,2文字綴り, 4文字綴りともに53%の対象者がLサイズの方が効率よく読めていた。2文字綴りの場合,通常サイズの方が効率よく読めていたのが40%,両サイズ同じであったのが7%であった。4文字綴りでは,通常サイズの方が効率よく読めていたのが,27%,両サイズ同じであったのが,20%であった。正しく読めたサイズの割合は,2文字綴りでは,Lサイズが47%,通常サイズが33%,両サイズ同じであったのが20%であった。4文字綴りにおいては,サイズが27%,通常サイズが20%,両サイズ同じであったのが53%であった。読みやすさ感については,2文字綴りにおいては,「サイズ」,「ややサイズ」と答えた対象者が10名,67%で,そのうち8名の対象者が,実際にもLサイズの方が効率よく読めていた。効率よく読めたサイズが通常サイズや両サイズとも同じであっても,読みやすいサイズはLサイズと答えていた対象者が7名中2名であった。次に「通常サイズ」,「やや通常サイズ」が読みやすいと答えた,対象者は3名,20%で,実際効率よく読めていたサイズも通常サイズであった。「わからない」と答えた対象者は13%であり,実際には通常サイズの方が効率よく読めていた。また,4文字綴りにおいて,読みやすさ感を「Lサイズ」,「ややLサイズ」と答えた対象者は12名,80%であり,実際に効率よく読めていたサイズがLサイズであったのが,12名中7名であった。「やや通常サイズ」と答えた対象者は7%で,実際に効率よく読めていたのも通常サイズであった。「わからないと答えた対象者は13%であり実際に効率よく読めていたサイズは両サイズに分かれた。
 次に表10−1から表11−2に示した各サイズでの誤答例をみると, Aグループは2文字綴り,4文字綴りともに,Lサイズの方が誤答例が少なかった。Bグループについては,通常サイズ,Lサイズの差はなかった。また,表12の誤答例の集計をみると,各サイズにおいて,■(い)→■(に),その逆の■(に)→■(い)の誤りが16と多く,ついで,■(ふ)→■(な),その逆の■(な)→■(ふ)と,■(う)→■(あ),その逆の■(あ)→■(う)がそれぞれ12,■(な)→■(に),その逆の■(に)→■(な)が11,■(め)→■(れ),その逆の■(れ)→■(め)が9,■(い)→■(あ),その逆の■(あ)→■(い)が7であった。これらは,マス間隔や一マスの感覚が指先でとらえられていないためであろう。また,■(な)→■(に),その逆の■(に)→■(な)の誤答例をみると,Lサイズでの誤答が少ない。これは,通常サイズではとらえにくい2の点が,Lサイズにしたことによってとらえやすくなったのではないだろうか。
 これらの結果から,通常サイズで読みの習得に苦慮している中途失明者の触読初期指導に,Lサイズでの教材の提供が有効な手段の一つであることが分かった。


X.まとめと課題
 研究1,研究2の結果から,通常サイズでの点字触読が困難な中途失明者に対して,マス間隔の広い点字やLサイズでの点字の活用が有効であることが分かった。冒頭の「研究の背景」で述べたように,点字の大きさ,マス間隔を制限なく大きくすれば良いのではなく,さまざまな要因が関係してくる。また,点字サイズ可変可能なプリンターにも限度がある。木塚(1999)は点字の大きさについて「点字の大きさの問題を考えていくと,絶対的な寸法だけではなく,一マスの中の点と,点の間隔と,隣のマスとの比率が問題となってくる。また点と点の間隔と,点の直径との比率も見逃すわけにはいかない」2)と述べており,各国の点字の点間隔とマス間隔の長さの比を比較している。その中で発泡点字による触読の比較実験ではあるが,比率1.41の点字が最も良く,1.65比率ではマス間隔が空きすぎているという感想が聞かれ,その上で,比率がおおよそ1.4〜1.8の間であれば通常慣れている範囲であると述べている。それでは,本研究で検証を行った国際サイズ,カ リフォルニアサイズ,通常サイズ,Lサイズの比率はどのようになっているのだろうか。木塚の比率表に追加して比較してみたのが表13である。

表13 点間隔とマス間隔の長さの比
点字の種類 点間  (4・1)÷(1・4)=比
ソ連 3.93 ÷3.17 =1.24
チェコ 3.97 ÷3.00 =1.32
ブラジル 3.53 ÷2.60 =1.36
台湾 3.13 ÷2.27 =1.38
仲村製 2.98 ÷2.10 =1.42
韓国 3.17 ÷2.17 =1.46
日本 3.27 ÷2.13 =1.54
中国 3.97 ÷2.53 =1.57
フランス 3.80 ÷2.30 =1.65
点字毎日 3.80 ÷2.30 =1.65
アメリカ 4.05 ÷2.35 =1.72
パーキンス 4.00 ÷2.30 =1.74
ジャイアンツ 6.70 ÷3.10 =2.16
国際サイズ 4.17 ÷2.38 =1.75
カリフォルニアサイズ 5.13 ÷2.65 =1.94
通常サイズ 3.20 ÷2.00 =1.60
Lサイズ 3.84 ÷2.40 =1.60
木塚(1999) 4)より引用し,4種類のサイズを追加

 カリフォルニアサイズを除き,通常慣れている比率の1.4〜1.8の範囲内であり,その上限に近い比率であった。カリフォルニアサイズについては,上限より比率が高いが,欧米で中途失明者に使われているジャイアント・ドットよりは。低い木塚の示した読み慣れているという比率の範囲は,中途失明者におけるものではないので,単純には比較はできないが,中途失明者の点字触読の初期指導期から段階を踏んだ指導の中での点字サイズの移行の問題を考えていった場合は,大変参考になるデータであると考える。

 視覚活用をしていた者が,中途で失明するということは,かなりの精神的打撃を受ける。失明後,ある程度の期間を経たにせよ,情緒的には不安定な状態にある。その上,加齢による指先の感覚機能の減退や,特に最近,失明原因として増加している糖尿病性網膜症による中途失明者の場合は,末梢神経の障害を伴っていることが多く,点字触読において,指先の感覚が鈍く,点の集まりを識別するのも困難である。ともすれば,学習への意欲を失いがちとなる。したがって,導入段階が非常に重要であり,「読めた」という達成感等,具体的な学習成果を通して,自信と意欲をもたせるように配慮する必要がある。今後,そのような状況にある中途失明者の点字触読初期指導に,今回の研究でその有効性が明らかとなったマス間隔の広い点字やLサイズで教材提供をし,具体的に実証していきたい。また,通常サイズへの移行も視野にいれた指導マニュアルや教材の作成へとつなげていきたい。


<引用文献>

1) 管一十: 視覚障害者と点字,福祉図書出版, 18-30, 1988.
2) 木塚泰弘: 中途視覚障害者の触読効率を向上させるための総合的点字学習システムの開発―点字サイズの評価法,サイズ可変点字印刷システム,学習プログラム・CAIの開発―,国立特殊教育総合研究所, 143-160, 1999.
3) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部: 身体障害児・者実態調査結果の概要,2001.
4) 黒田浩之・佐々木忠之・中野泰志(他): 点字サイズが触読効率に及ぼす影響,第21回感覚代行シンポジウム発表論文集, 55-58, 1995.
5) 文部省: 点字学習指導の手引き(改訂版, 慶應通信, 252-265, 1995)
6) 中村透: 点字教材に関する一考察, 第2回視覚障害リハビリテーション研究発表論文集, 34-37, 1993.






第3章 指導法及び教材


点字触読教材の実態


国立身体障害者リハビリテーションセンター
伊藤和之


1 はじめに
 ここで述べるところの中途視覚障害者とは、いわゆる学齢期を過ぎた成人を対象としている。社会人として使い慣れていた墨字から、新たな文字としての点字を獲得していく過程は、学齢期以上の努力を要する。この過程を快適なものとし、効率よく点字触読に慣れるためには、教材の果たす役割は計り知れない。
 教育の場においては、指針となる文部科学省の『点字学習指導の手引き』が刊行されている。
 しかし、中途視覚障害者に提供する点字触読教材の作成と指導に関する拠り所はなく、各施設、盲学校等で経験を基にして独自に作成しているのが現状である。
 この項では、中途視覚障害者に対してどのような触読教材が用意されているのか、集められた教材からその実態を明らかにする。

2 収集した教材
(1) 対象施設と教材数
 平成12年度に日本盲人社会福祉施設協議会リハビリテーション部会が、加盟施設を対象として、「中途視覚障害者に対する点字指導についての実態調査」を実施した。その中で「点字読み指導、教材について」以下のような結果を報告している。
 点字指導方法についてのマニュアルの有無については、65施設中、32%にあたる21施設が「ある」と答えており、68にあたる44施設が「ない」と答えている。また、点字読み指導教材について、「独自の指導教材」がある施設が30施設、日本点字図書館の点字入門を利用しているのが19施設、他施設の指導教材を利用しているのが15施設であった。

図1 点字指導方法のマニュアルの有無 (回答施設65) 省略
図2 点字読み教材の使用状況 (複数回答) 省略


 そこで、点字指導法のマニュアルのある施設と独自の教材で指導をしている施設に、マニュアルや教材の提供依頼をした。応じていただいた18施設、26教材(表1)について、教材の内容や構成について整理した。

表1 教材提供の施設一覧
施設番号 施設名 教材数 教材番号
@ 旭川盲人福祉センター 1 a
A 東京都視覚障害者生活支援センター 1 b
B 東京ヘレン・ケラー協会 1 c
C 横浜市総合リハビリテーションセンター 1 d
D 神奈川県ライトセンター 2 e f
E 川崎市盲人図書館 1 g
F 神奈川県総合リハビリテーションセンター
七沢ライトホーム視覚障害者更生施設
3 h i j
G 新潟県点字図書館 2 k l
H 石川県視覚障害者協会 1 m
I 視覚障害者生活情報センターぎふ 2 n o
J 愛知視覚障害者援護促進協議会 2 p q
K 名古屋市総合リハビリテーションセンター 2 r s
L 名古屋ライトハウス名古屋盲人情報文化センター 1 t
M 京都ライトハウス生活訓練部・鳥居寮 2 u v
N 日本ライトハウス職業・生活訓練センター 1 w
O 日本ライトハウスジョイフルセンター 1 x
P 大阪市身体障害者団体協議会 1 y
Q 国立神戸視力障害センター 1 z


(2) 収集期間
 集められた時期は平成13年(2001年)8月から12月である。

3 教材の特徴
(1)発行年
 発行年が記載されている8教材のうち、1990年代に発行されているものが7教材、200年発行が1教材であった。最も古いものは1991年であった。

(2)教材の頁数  18施設26教材の総ページ数は966頁、平均53.7±33.98頁であった。最も短いものは8頁であり、最も長いものは130頁である。
 内訳では、7教材(26.9%)が10頁以上19頁以下、6教材(23.1%)が20頁以上29頁以下の範囲に分布した。一方では4教材(15.4%)が50頁以上59頁以下の範囲に分布した。

(3)マス数・行数の設定
 各教材1頁当たりのマス数は、6種類(26・27・29・30・32・33マス)であり、19教材で32マス(73.1%)であった。
 次に、実質的に使用されている行数は7種類(11・12・15・16・17・18・21行)であり、17行が最も多かった(15教材 57.7%)。22行設定でそのまま教材を配列しているのは1教材のみであった(教材b)。教材l・p・uで1頁11行(11.5%)、教材kで12行(3.8%)設定が見られた。教材uはサーモフォーム使用だが、他は22行設定で1行抜いて教材を配列していた。

(4)印刷面
 片面印刷は16教材、両面印刷は10教材に見られた。

(5)印刷用紙
 点字プリンター用紙を用いているのは12教材、点字用紙は13教材、サーモフォームの使用は1教材であった。

(6)複数教材  7施設において複数教材が用意されていた。内訳として以下の3種類に分類された。
@ 指導項目を分割しているもの(施設番号FJK 例: 50音までと、濁音からアルファベットまでなど)
A 到達目標は同じだが教材が2種類あるもの(施設番号DM 例:サーモフォーム教材と点字用紙教材など)
B 基本教材と応用教材に区別したもの(施設番号GI 例:特殊音までと文章編など)

(7)教材の内容
 配列の違いはあるものの、以下の18項目について触読教材が作成されていた。
@ 触知覚に関するもの(点、線、面など点字形の把握)
A 触運動に関するもの(行辿りなど)
B 50音
C 促音
D 長音
E 濁音
F 半濁音
G 拗音
H 拗濁音
I 拗半濁音
J 数字
K 特殊音
L アルファベットと仮名及び数字
M 英単語・英文
N 句読符
O 符号(囲み符号・関係符号・文章構成関連符号・伏せ字など)
P 単位記号
Q 単語教材
R 短文教材
S 文章教材

 このうちKLOSについては、施設で特化した3教材が作成されていた。いわゆる触知覚並びに触運動に関する2教材は、基本教材のはじめに用意されていることがわかった。触知覚ではテスト形式にしている教材が施設に見られ( 教材 g,r )、点字触図形による触知覚教材も2施設にあった( 教材 g,x )。行辿りについては、メの字のほか、レ・ウ・フも使用されている。これらの字を組合せた教材は、むしろ触知覚教材とみなすものである。

(8)教材の分量―指導項目の反映―
 a 全26教材のうち、清音で完結している教材は3教材、文章のみで構成されている単独は教材であった。
 b 触知覚並びに触運動に関する20教材は、対象となる教材の平均で12.2±12.2%を占めていた。5頁以内の分量を有するものが15教材(75.0%)であり、10教材で全頁数の10%以下の分量が割り当てられていた。教材mでは全10頁のうち5頁、教材kでは全51頁のうち15頁(29.4%) 、教材tでは全99頁のうち23頁(23.2% )が四部構成のひとつ「指先訓練」という 名称で、独立した教材として位置づけられていた。
 c 50音は、対象となる23教材のうち、促音並びに長音とセットで教材化されているものが20教材(87.0%)と高い傾向を示し、促音符並びに長音符を含む清音の単語、短文が教材として採用されていた。
 次に、50音の触読を習得するための教材が全体に占める割合は、平均で42.1±21.6%であり、特に30%以上60%未満に集中している(15教材 65.2%) 。どの教材でも中心となる指導項目として位置づけられている。例えば、教材p(90.9%)、教材r(92.0%)では、それぞれ「初級編」「五十音編」という名称で完結した教材として1分冊を成していた。
 d 濁音、半濁音は26教材のうち清音教材以外の23教材全てにおいて取り扱われていた。拗音、拗濁音が22教材(88.5%)でこれに続き、拗半濁音は17教材(65.4%)であった。特殊音まで取り上げる教材は14教材(53.8%)に留まっていた。拗半濁音が取り上げられていない9教材のうち5教材では、拗濁音か特殊音が取り上げられている。何等かの原因によって拗半濁音が脱落したものと捉えられる。
 e 数字は17教材(65.4%)で取り上げられていた。

 f アルファベットは13教材(50.0%)で取り上げられ、仮名や数字との組合せで習得できるものとなっていた。また、短文に英単語や英文を含むものも見られたが、9教材(34.6%)であった。さらに、生活だけでなく、学習上必要となる単位記号は8教材(30.8%)であった。
 g 句や文、文章に用いられる各種符号・記号については、22教材(84.6%)が基本となる句読符を用いているが、このうち6教材は句点のみを取り上げていた。各種符号については14教材(53.8%)で取り上げているが、紹介程度のものと用例まで踏み込んでいるものとに分かれた。
 h 単語教材は文章単独教材を除いて25教材(96.2%) 、短文教材は24教材(92.3%)が用意されているのに対して、文章教材は12教材(46.2%)に見られた。

(9)教材作成上の工夫
 a 触知覚教材は、主に、@ウレメフの4字の区別や長さの違い、A1の点、2の点、3の点の数や高さの比較、B1・4点、2・5点、3・6点の長さや高さの比較などで練習する教材が作成されていたが、その他次の2教材に工夫が見られた。
  @ 触図形(□△○◇)や、点文字( あめ「雨」を点で表現)を用意したもの(教材g)
  A メの字であみだくじの形状や迷路を表現したもの(教材x)
 b 50音について、対象となる21教材のうち9教材が独自の構成で作成されていた(表2) 。そのうち6教材は、はじめに「基本の文字」が用意され、その後、ア行の次にナ行などと行単位に練習を進める形式か、数文字をグループにして進める形式に分かれていた。

表2 独自の50音配列を有する教材
項目
−−−
教材
1 メフレウ
ニナイア
メレウフ
ニイアワナ
メアイナニワ
ウフレン
ランダムに
配置され
た単語
教材
メレ メウレフ
アイニナ
アイニナ
ウレメフ
ア行+ワ ヲ
ア行カ行ナ行
2 コスタネヒ ア行+ヲ ア行+ヲ ウーフ タキスリ タキスリ カ行 ハ行ラ行マ行
3 ワエッー ナ行。 ナ行 アイニナ サケエミ サケエミ サ行タ行 サ行タ行ヤ行ワヲン
4 リルロン カ行+ー ハ行 タキスリ ハコラチ ハコラチ ナ行 ハ行
5 クヌハユ ハ行 カ行   サケエミ シクツオ シクツオ マ行 ラ行
6 オラソチ マ行 ラ行   ハコラチ ノロカモ ノロカモ ヤ行  
7 サノヨキ サ行 サ行   シクツル マントヌ マントヌ    
8 ケツホマ タ行+ッ タ行   ノロカモ セルネヘ セルネヘ    
9 ヘム カヤ ラ行 マ行   マントヌ ワヒヲソ ワヒヲソ    
10 シト セテ ヤ行+ワン ヤ行+ーッ   セオネヘ ユテヨム ユテヨム    
11 ミモヲ       ワヒヨソ。 ホヤッー ホヤッー    
12         ユテヲム        
13         ホヤッ、        

 c 清音の単語読み教材は殆どが2字から4字単語で構成されており、促音符や長音符との組合せを入れても、7字単語までであった。
 例) カー□□キッテ□ □コーヒー□□キッサテン□□オーストラリア( 教材n)
 d 単語教材をひとマスあけで作成しているものは4教材(16.0%)であった。
 例) ノ□キ□□ノ□ キ□シ□タ□□ノ□チ□ ノ□チ(教材a)
 e 単語教材にしりとり形式を取り入れているものが4教材(15.4%) に見られた。特に教材lでは、50音、促音、長音教材318単語(2から3字)について、しりとり形式が採用されていた。
 例) ――□シマ□―― □マチ□――□チエ□――(教材b)
 例)|マリモ|□| モケイ|□|イルカ|( 教材l 「|」 は 「ニ 」 )
 f 文教材の量を文節数でみると、2文節から25文節まで様々なタイプがあったが、比較的統一されている教材では、2から8文節(教材b)、4から7文節(教材k)、2から7文節(教材r)以内であった。
 例) ヤマエ□イク(教材b)。
 例) アツイ□ナツノ□ ヨモ□ツメタイ□フユノ□ヨモ□ワタクシワ□ スコシモ□
    オコタル□コト□ ナク□チチハハノ□イエニ□ユキ□イロイロナ□ ハナシニ□タノシイ□
    ヒトトキヲ□オクル□コトヲ□タイセツナ□ ツトメノ□ヒトツニ□ シテ□イマス(教材t)。
 g 文章教材は指導項目の流れの中で作成されているものと、触読の応用編として独立しているものとに分けられた。指導項目の流れの中で作成されているものでは例えば清音の段階では、2段落7行程度で、数字の段階まで訓練が進むと7段落33行ものというように徐々に量を増やす教材が見られる。また、各指導項目ごとに文章教材を用意するものと、最終教材として用意するものとがあった。

4 考察
(1) 教材の体裁について
 分量は点字用紙で30頁以内のものと50頁台のものとに大別されたが、指導項目の数が全体の頁数に反映されていると考えられる。1頁のマス数・行数については32マス18行設定を標準としているものの、教材によって違いが見られた。使用マス数を少なくすることと、点間の幅が広がることとは一致しないので、1行内のレイアウトを整える目的がおも立ったものと言える。
 これに対して、行数の違いは点字触読に対する考え方の反映と捉えることができる。一般的に触読の初心者は、22行設定よりも18行設定が行間の判別がしやすい。実質的に点文字が使用されている行数が1頁当たり15・16・17・18行の教材はこれに則っている。
 1頁が11行・12行の教材は3施設で導入され、2分冊教材になっていた。2施設は50音・促音・長音までが11行、その後の教材は17行ものであった(教材p, qとu, v) 。1施設は数字までの教材を12行、「推測読みテキスト」と称する教材を11行で作成していた(教材k, l) 。教材uのサーモフォームでは行間が約15.5o、最大で約22.5o開いていた。他の教材はすべて点字プリンターでの印刷で約16o開いていた。通常、18行設定の行間は約9o、22行設定で約5oである。行間が広い場合、2行以上にまたがる文などの触読は行移しがスムーズにできにくくなる可能性があり、単語もしくは1行以内の短文を配列するのが適当と考えられるが、教材p, qとu, vでは2〜3行にまたがる文節数の文が教材とされていた。教材kでは、文教材は1頁と分量は少ないが、すべて行以内、4〜7文節の文で統一されていた。見解が分かれるところである。
 複数教材が用意されていることについては、訓練のニーズや到達目標に基づく指導項目の量的な違いに呼応していると考えられる。
(2) 教材の内容と分量について  20の指導項目が抽出された。その中で50音教材が中心になっていることが分量の割合から明らかになった。直前には触知覚並びに触運動教材が配置され、直後には濁音教材が続く構成は、標準的な教材作成のパターンである。50音を習得する順序は3(9)b に示した結果のとおり特徴的な違いが見られたが、習得過程は1字の読み取りから、2字以上の単語、2文節以上の短文というように、簡単なものから徐々に負荷を加えていく積み上げ型の教材配列が主流である。
 しかし、これに続く文章教材が半数に満たないという結果は意外であった。中途視覚障害者用の文章教材が少ない点として、読速度の到達度の問題が考えられる。1頁400字程度の教科書の文章(標準的な点字教科書1頁当たり30マス18行)内容を触読によって理解するためには、中途視覚障害者であっても、1頁を5分程度で読まないことには実現が不可能である。およそ80字/分の速さである。しかし、平均的な中途視覚障害者の読速度は、およそ20〜30字/分程度である。この現実は、中途視覚障害者にとっても指導者にとっても払拭できない課題である。教材の良し悪しで解決できない面があり、それが文章教材の少なさに反映しているものと考えられる。
 促音と長音はセットで取り扱われ、50音の習得と併せて練習していくようになっている。促音符や長音符の弁別は単語の中でこそ意味があるので、自然な形式と言える。濁音・半濁音、拗音・拗濁音・拗半濁音はそれぞれセットで教材化されているが、教材によって「カ・キャ・ギャ」のような組合せもあり、教材間の関連性を重視されている。
 数字、アルファベット、各種符号、単位記号はそれぞれ取り上げる教材にばらつきが見られたが数字に関しては全体の6割を超える教材で取り扱われていることから、必須項目のひとつとしての位置づけがなされていると言える。
 気がかりな点は拗半濁音が何らかの理由で脱落している教材があることで、特に文章教材に見当たらないのは、教材作成上の盲点と言える。

(3) 教材作成上の工夫について。
 中途視覚障害者のための触知覚や触運動を高める訓練教材は、まだまだ未開発と考えられる。その中で3(9)a に挙げた触図形教材は参考になる。また、比較的少ない分量の教材が主流の中で、15頁、23頁という分量を持つ教材も、教材の多様性を考える上で示唆を与えてくれる。
 次に、教材は文字処理や文章の読解における概念推進型処理(トップダウン式処理)を活用する成人向けの教材として評価される。単語はしりとり形式で配列されているため、語頭の文字が何であるかが暗黙裡に表示される。訓練生にとってはストレス感が軽減されながらも、繰り返して同じ字に触ることができるので、満足感及び達成感を得られる教材である。

(4) 教材と触読指導の考え方との関係について
 教材には指導の考え方が直接反映されるという点で、指導法との関係を無視することはできない。その観点から今回収集された教材を見渡すと、点字を固まりで捉えさせる、または、点の位置を捉えさせる、いわゆる点字形の形態的な側面から読み取りを行うことを目指した教材が多く認められた。同じ形の字を探す教材、変わり目を探す教材などがそれに当たる。さらに、3(9)b に示した表の教材c, p, r, tのように、点字を形態上から分類して教材を配列したものもこれに該当する。
 また、メの字とメの字の間にニとCDEの点を並べて判別させる縦半マスを読み取る触知覚教材は若干見られたものの、いわゆる継時的に点字を読み取る系統的な教材は今回の調査からは見られなかった。
 運指の観点から見ると、教材kに代表されるように手指を水平運動に慣れさせる意図を持った教材と、教材r, sのように縦に動かしてから、ひとマス分水平にスライドさせる読み方を勧める教材とが挙げられた。


5 おわりに
 各教材にそれぞれの理念と工夫が看取され、中途視覚障害者の点字触読教材作成にたゆみない努力が注がれている実態を把握することができた。
 それを踏まえたうえで敢えて述べると、これからは触知覚並びに触運動教材の開発がより一層求められる。教材全体の1割程度の練習で、すぐに点文字の触読に入るという従来の教材配列と分量では、生活習慣病から視覚障害者になられる方々が、快適に点字を身につけていくことは困難であろうと考えられる。
 今後の研究が待たれるところである。


<参考文献>
木塚泰弘、小田浩一、志村洋: 「点字パターン認識を規定する諸要因」,国立特殊教育総合研究所研究紀要第12巻別刷,pp107-115,国立特殊教育総合研究所, 1985年3月.

木塚泰弘、小田浩一、藤井健造: 「点字読み取り過程の階層モデル」,日本特殊教育学会第23回大会発表論文集, 1985年10月.

木塚泰弘、小田浩一、大城英名: 「点字の読み速度を高める効果的な指導法に関する研究(1)」 ,「視覚障害」,102,pp4-5,1986年9月.

管一十: 『視覚障害者と点字』,福祉図書出版,1988.

文部省: 『点字学習指導の手引(改訂版)』,慶応通信,1995.

木塚泰弘: 「点字のサイズと手触り」,日本の点字第23号,pp19-23,日本点字委員会,1998年2月.

坂本洋一: 『視覚障害リハビリテーション概論』,中央法規,2002.

日本盲人社会福祉施設協議会リハビリテーション部会編: 『中途視覚障害者点字指導担当者研修テキスト点字指導マニュアル・教材』,日本盲人社会福祉施設協議会, 2002.



『点字入門2002年版―中途失明者の点字学習のために』発行について

立花明彦(静岡県立大学短期大学部)
松谷詩子(社会福祉法人日本点字図書館)


 筆者らは2002年5月、標記点字学習教材を日本点字図書館から発行した。その編集作業には約2年を要したが、そこには、筆者らがこれまでの点字指導の中で感じたり考えたりしたことなどを繁栄させ、新たな試みも盛り込んだ。
 以下に本教材の発行の経緯、編集方針、その内容と特徴、発行後の反応、および残された課題等について報告する。


1.発行の経緯
 (社福)日本点字図書館では、1940年の開館以来、全国の視覚障害者を対象に図書の貸出サービスを行なっている。その歩みの中で、「点字の読める利用者へのサービス」からさらに歩を進め、利用者開拓の重要性としての中途視覚障害者への点字の普及に目を向けるようになった。1955年、そのための点字学習書として『点字入門』の初版が当時の館長本間一夫によって企画・発行された。1960年からは点字教室の事業を開始し、今日に到るまで来館が可能な多くの中途視覚障害者に点字学習の機会を提供し続けている。
 言うまでもなく点字学習は、情報提供施設における点字教室や、リハビリテーション施設等の専門機関で適切な援助を受けながら行なうのが望ましいが、さまざまな理由によりそれが不可能なケースも少なくない。したがって、そうした点字学習希望者のための独習用教材として『点字入門』の需要は、初版発行以来変わっていないと思われる。
 一方で、1890年に日本独自の点字体系が確立し、その普及が進むにつれ、表記の全国的な統一が求められるようになった。1966年には、現在日本の点字表記を決定する唯一の機関と位置付けられる日本点字委員会の発足をみる。1980年同委員会が特殊音の整理と点字における仮名づかいの見直しを行ない『改定日本点字表記法』を表した。この動きを受けて『点字入門』も大幅に手を加える必要が生じ、1982年『新定番点字入門』を発行することになった。
 初版以来『点字入門』は、一部の浮き出し文字、点字文、およびその内容を記した墨字からなる冊子形態の教材であったが、新定番の編集を機に、カセットテープに録音した解説を付け、独習書としての内容強化を図った。1986年、国語審議会が「改定現代仮名遣い」を公表したのを受け、点字の仮名づかいについていくつかの変更を加えて『新訂第2版』を1989年に発行したが、その後、2002年に到るまで見直しは行なわれなかった。
 2001年、『日本点字表記法2001年版』が世に出たのを機に、『点字入門』の内容について、分かち書きや網羅すべき文字など、表記上の変更が必要になった。また点字教室における中途視覚障害者への点字学習支援の経験から、指導法の見直しも必要と考えられた。そこで今回は点字教室の担当者が、現場での指導経験を踏まえつつ時代のニーズに沿った新たな『点字入門』の編集に取り組んだ。


 〈参考〉改訂の流れ
1955年  5月20日  初版発行
1964年  7月30日  改訂版発行
1982年  5月1日  新訂版発行
1989年  11月1日  新訂第2版発行
1998年  9月1日  新訂第2版4刷
2002年  5月1日  「点字入門2002年版」初版発行

2.編集方針
 2002年版の編集にあたっては、次の6点の基本的方針を掲げた。

(1) 独習書を継承するとともに、学習にあたってのナビゲーションを充実させる。
 先にも記したように、本教材は視覚障害者のための独習書として発行された。点字の学習にあたっては、独習よりも指導者の下で学ぶべきと考えるが、様々な事情によりその形態をとれない人々がいる。日本点字図書館用具課へは、そうした人々からの学習書についての問い合わせが絶えない。また従来の版は目立つ数ではないものの、常に買い求められている。こうした状況を考えると、独習書へのニーズは常時あり、これに応える必要があると判断された。ついては、独習上の精神的、肉体的負担を軽減すると同時に、可能な限り学習しやすい条件を提供することから、ナビゲーションの充実を編集方針の一つに掲げた。

(2) 網羅する文字の範囲  独習書であることから、点字の文字および記号・符号の全てを取り上げ紹介することは不可能であると考えられた。そこで本書は入門書であることを鑑み、網羅する文字は五十音・濁音・半濁音・拗音・拗濁音・拗半濁音・数字・特殊音・アルファベット、およびよく用いられる記号数種とした。

(3) UV点字を採用する
 点字の学習を始めた直後は、点字を触れるときの触圧が高く、合わせて同じページを何度も読み直すことが多い。そのため、エンボス式の点字では、用紙に打ち出された点が早い時期に摩滅してしまう。これは一見、当然の結果のようでもあるが、一方で学習の継続が困難となり、学習上の負担を迫ると同時に、学習者の意欲を削ぐことにもつながる。そこで、これらの問題への対応としてUV印刷による点字を採用することにした。またUV点字では点の摩滅がないものの、用紙の厚さによっては点字を読むとき他のページの点が感じられ、それが触読の妨げとなることもある。この点については、可能な限り厚い用紙を用いるよう配慮した。
 今日、UV点字の印刷を手がける業者は複数存在するが、業者によって点の形状や品質に差が見られる。このため、いくつかの業者の点字を比較し、コスト面をも含め完成度の高い業者の選定に努めた。

(4) 点字のサイズに配慮する
 中途失明者に対して点字の触読を困難にしている原因はいくつかあるが、その一つは点字のサイズにある。点字のサイズと触読の関係についての研究は既に幾人かの人々によって取り組まれており、日本の点字サイズは海外のものに比べ中途失明者には読みにくいとの結果も示されている。筆者らも点字触読指導の経験の中から点字サイズの問題を実感する。このため、学習者の点字への抵抗を和らげ、少しでも触読できる自信を得ていただきたいとの願いをも込め、パーキンス製点字に近いサイズの使用を業者へ依頼した。このとき、用紙サイズA4、 1行のマス数30を条件に加えた。その結果、採用した点字のサイズは以下のようになっている。(数値は、業者が実物を顕微鏡で測定した値)
 直径:1.8mm  高さ:0.35mm
 タテ点間(1-2間):2.3mm、ヨコ点間(1-4間):2.3mm、マス間(4-1間):3.8mmである。木塚泰弘(1993)が「日本の点字」に表している日本の点字のサイズはタテ点間(1-2間):2.37o、ヨコ点間(1-4間):2.13o 、マス間(4-1間):3.27oで、パーキンス製点字のそれはタテ点間(1-2間):2.35o、ヨコ点間(1-4間):2.35o、マス間(4-1間):4.05oである。これからすれば、本書での点字のサイズはマス間が0.2mm異なるだけで、他においてはほぼパーキンス製点字のそれに等しいと言える。

(5) 浮き出し文字によるページ数の表示
 従来の版でもページ数は、点字による数字のほか、墨字を浮き出させた点線文字をも併記していた。これは、まだ点字を触読できない段階での学習者にとってページを検索するうえで有効である。そこで今回の版においてもこれを継承することとした。その大きさは縦18mm、横は11mm〜14mmである。旧版と同様の大きさとしたが、結果的には縦横とも2mm小さくなっている。各ページの1行目はこの数字の記入に当て、他の点字との区別を図るため、リード線を挿んで記した。

(6)晴眼者の支援を受けやすいよう墨字を併記
 点字の学習を進めていく過程では、示されている文字や語例などの言葉について確認したいことも生じるであろう。独習書とはいえ、こうしたとき他者の援助を受け易いように配慮することも必要と考える。この点において、従来の版では点字の内容を墨字でも印刷し、見開き状態で左側のページにこれを付けた。
 今回、UV点字を用いることの副産物として、点字と墨字の併記が可能になったので、全ての点字には、各点字の上方に対応するカナを付した。合わせて、点字の印刷は片面のみとし、旧版同様、見開きページの左側は点字が示されている右ページの内容をそのまま墨字で表し、援助者への便を図った。


3.各ページの構成と特徴
 点字を示した部分は30ページからなる。このうち、1〜2ページは点たどりの練習に当て、3ページから12ページでは清音を紹介している。続いて13ページから17ページで濁音・半濁音を、18ページで数字を取り上げた。拗音・拗濁音・拗半濁音は19ページから25ページで、特殊音・アルファベット・文章記号は26ページから29ページで紹介した。最終の30ページは総復習としての腕試し的な内容に当てている。
 以下、各ページの構成と特徴について述べる。

(1)点たどり(p1〜p2)  多くの点字学習テキストは、最初のページを点たどりに当てるが、本書もまたそれらに倣うかのように1〜2ページは点たどりとなっている。
 1ページの上半分は、線の長さ、太さを見分ける課題としての点線を数本並べた。また下半分には、点と空白部の区別を理解する課題としての各種点線と、スムーズな横移動を図るため、点と点の間隔に変化をつけた点線数本を記した。
 2ページ前半では、横移動のスキルアップとして上下に変化する点線、上下に変化しながら、かつ線の太さも異なる点線を並べた。また後半では1マス内での縦の点の長さ、太さを区別すると同時に、縦の指運動のための課題を提示した。点線の長さは、実際の点字文でのわかち書きでのマス数の長さと大きく乖離しないよう留意し、15マスを越えるような点線は避けた。また各行の先頭部をわかりやすく示すため、行頭にランドマーク的な「メ」の字を付した。

(2)清音(p3〜p12)
 3ページからは1マス中の点の組み合わせを形として捉え、それぞれに読みを付していく「文字学習」の段階に入る。ここでは、独習用教材であるという本書の特性と全体的なページ立てを念頭に置き、文字導入に当たって次の諸点に配慮した。 @ 10ページで清音を学習し終えるよう、各ページの新出文字数は5文字前後とする。
A 各ページの導入文字は、学習者が形とその読みを結び付け、整理して記憶しやすいよう、五十音の行ごとに取り扱うが、行の配列は、触読の難易度を考慮して、認知しやすい順に導入する。
B 長音符は「か行」(p7) 、促音符は「た行」(p10) 、句点は「や行」(p12)の導入時、それぞれ同時に提示し、点字の表記上の特徴について具体例を示しながら解説テープの中でごく簡単に触れる。

 各ページは、最初に新出文字を提示し、その後に1文字ずつの触読練習のために、新出文字を順不同に2マスあけで提示している。
 次に、新出文字を含んだ単語の読み方練習、さらに次の段階として、p5からは短文の読み方練習を提供している。これは、文字だけを追うのではなく、単語単位、さらには短文単位で点字を読み、「意味」が判る喜びをできる限り早い段階から学習者に味わってもらうことを目的にしたものである。
 単語は、2文字の短いものから、徐々に文字数を増やして提示するように配慮した。また、短文の長さは、学習者の内容把握の限界を考慮し、1行30マス以内に収めるように考慮した。

(3)濁音
 五十音のページ同様、最初の行は新出文字の紹介に当てている。既に五十音の学習を終了しているので、その提示順序は五十音どおりとした。続けて4行にわたり新出文字を含む単語を記している。各単語の長さは3文字から7文字までで、新出文字が単語の頭・中・末尾に位置するような語それぞれの収録に努めた。
 各ページは短文八つを入れた。短文で用いる濁音の言葉は、基本的に単語で提示したものとの重複を避けている。文の内容はオリジナルの文がほとんどであるが、推測しながら読み進める力を養う観点から、童謡の1節や教養として知っていると思われる俳句・諺も含めている。

(4)数字(p18)
 数字のページでは、新出文字として数符ならびに1から0までの数字、小数点、つなぎ符を提示している。読み方練習では、基本的な数字だけでなく、数字とカナで構成される語句も例示して、つなぎ符の役割を紹介している。
 また、短文の読み方練習の最後に電話番号を具体的に示し、日常生活の中でごく身近な点字の活用例をイメージできるよう配慮した。

(5)拗音・拗濁音(p19〜p25)
 新出文字の提示順序は濁音同様、五十音順とした。また各五十音の行において拗音のほか拗濁音も存在する行については、それらを含めて1ページにまとめた。したがって、ハ行では、拗音・拗濁音・拗半濁音の3種を一つのページで取り上げている。ページの構成は、基本的に濁音のそれと変わらない。新出文字を含む単語の提示には4行を当て、短文は八つ示している。1単語の長さは、3文字から7文字の間に留まっている。拗音・拗濁音を含む言葉は、濁音などに比べ全体的に少ない事から、やむを得ず単語・短文両方に提示した言葉もある。また他のページに比べ、外来語を多く採用せざるを得なくなったページもある。短文の内容としては、必ず数字を含む文を二つ設けるよう考慮している。

(6)特殊音、アルファベット、文章記号等(p26〜p30)
 これらのページでは、それぞれ網羅的な一覧を示し、実際に点字を日常生活の中で活用するようになった時に、参考資料となりうるよう配慮した。『点字入門』の学習段階では、これらすべての点字を完璧に習得することが目的ではないので、特殊音のページでは読み方練習のための単語は、頻出する特殊音を含んだ典型的な単語の例示にとどめた。アルファベットのページにおいても、読み方練習のための例示は、外字符や大文字符、外国語引用符の役割の理解を主目的にした。
 記号や符号類は、基本的に一覧に掲げるのみとしたが、単位を表すのに用いる特殊な記号や、URL、メールアドレスは、理解を容易にするため具体例を附すことにした。
 最終ページには、点字で6,7行程度の短い文章を二つ、腕試しとして収録した。短い中にも話の展開があり、結末でちょっと笑えるような内容のものを選択し「読んで内容を楽しむ」体験をしてもらうことを狙いとした。


4.ナビゲーションテープの内容と特徴
 ナビゲーションテープへ録音した原稿の量は約51,000字になった。これは、独習書としてナビゲーションを充実させるとの編集方針と、制作面でのコスト、およびテープの品質上、極端に長いテープの使用は避けるとの各条件をクリアした結果である。旧版では、60分テープ2本を使用していたが、今回は100分テープ2本を用いることになった。
 内容的に本文の解説に入る前の段階では、本書発行の目的、使用法、点字を学習することの意義、学習の進め方、点字の歴史、点字の市民権の広がりなどについて簡単に触れている。
 本文の点たどりのページでは、点字の触れ方を細かく、かつイメージしやすいようその説明に努めた。またこのページでの課題を達成するため、解説をしながらも学習者にいくつかの問いを示している。
 清音のページでは、新出文字について、その文字の形をイメージしやすくするための配慮として、可能な限り文字の形の特徴を紹介している。「ア」や「ワ」など、ともに1点から成る文字ではその違いを触読のうえからも述べた。また読みの練習として単文が盛り込まれるページや長音符を紹介するページでは、点字の仮名づかいについて墨字とは異なる点の解説を簡潔に行なった。
 以下、ナビゲーションテープの特徴を記す。

(1)検索に考慮しチャイム音を導入
 カセットテープは手軽であるが故に目覚しい普及を遂げ、特別高価なものでもなくなった。一方で、テープの劣化や検索しにくいなどの欠点をもつ。本書におけるカセットテープはナビゲーションの役割を担うので、少しでも検索しやすいよう工夫が求められた。そこで、各ページの解説が終了するごとにチャイム音を入れた。また点字文の各ページは基本的に新出文字の提示、単語の読み練習、短文の読み練習のブロックから構成されていて、それぞれ点線で区切られている。このため、テープでもそれらの区別をつけられるよう先のチャイムとは異なる音を入れた。

(2)行番号で誘導指示
 ナビゲーションテープが説明する行と触読の行とが一致しやすいようページ内の解説では全て行番号でその位置を紹介した。合わせて行たどりの向上を図るため、行番号はページ上半分は上から、下半分は下からの指示にしている。

(3)指運びは「名古屋方式」で指導
 触読上の指運びについては、2000年、日本盲人社会福祉施設協議会リハビリテーション部会主催による中途失明者のための点字指導研修会で名古屋リハビリテーションセンターの取り組みが紹介されて以来、その方式が注目されるようになった。筆者らも、その後の指導の中でその有効性が確認できたので、ナビゲーションテープにおいてもこれに倣った。

(4)文字の説明において6点の番号は使用せず
 点字における文字の紹介では、点字の特性を反映し、6点の構成で紹介することがほとんどと思われる。これは確かに合理的であり、書き方からの導入の場合や晴眼者には有効である。しかし読み方から始めた視覚障害者には文字を構成する点の番号だけが記憶され、実際に触読する文字とスムーズに結びつかず、弊害となることが少なくない。このためナビゲーションテープでは、終始6点の番号による説明は避けた。6点の構成を縦3点、横2列と紹介した後は、上中下、左右で示している。これにより、少しでも文字を形として捉えてほしいと願うものである。


5.本教材に対する反応
 日本点字図書館には、中途視覚障害者から点字を学習したい旨の問い合わせがしばしば寄せられる。主に点字教室担当者が対応するが、ニーズを把握したうえで、可能な限り点字教室の受講を薦めている。しかし、地理的、あるいは時間的な問題等で同教室の受講が不可能である場合には『点字入門』を教材の一つとして紹介する。
 2003年4月から点字教室の受講を始めたケースの中には、受講申し込み時からその開始時まで3ヶ月の待ち時間『点字入門』である程度まで独習をしたケースが2例あったので、その学習結果、を紹介する。


<ケース1>
 50代女性、網膜色素変性症、身体障害者手帳1級。点字学習の経験はなし。本ケースは、解説テープを聴きながら点字テキストを触る練習から始めたと言う。文字の形を覚えてから、単語・短文を独力で読み、テープから正解のフィードバックを受けるように学習法を工夫。根気が尽きて、ついテープで先に正解を聴いてから触ると、簡単に読めるような錯覚に陥るので、自制しながら進めたとのこと。その後、解説テープは聞かず、テキストのみを何度も繰り返し触読し、例示されている単語、短文は、ほとんど暗記するまでになった。

<ケース2>
 50代男性、糖尿病性網膜症、身体障害者手帳1級。保有視力があった3年ほど前、清音の書き方を学んだが、触読に挑戦するのは初めて。各文字の形に関しては、頭の中で組み立てることができたので、最初の取り組みは解説テープからネーミングを受けてイメージする文字の形を、指先が感じ取るかどうかのモニターであったと言う。次に、単語、短文の読み方練習をテープのフィードバックを受けながら繰り返した。

 両ケースとも『点字入門』は繰り返し熟読したので、内容はほとんど暗記したと語っている。確かに、その努力により文字の習得は達成されていた。次の課題は、未読の材料を読みこなしていく自信をどのように身につけていくかであり、教室では1ページ10行以内の短いストーリーを読み、内容を把握するトレーニング段階からスタートした。
 当初から、70分の受講時間で10個近いストーリーを読んだ。3ヶ月の期間でその程度まで進んでいるケースはほとんどないので驚かされた。とはいえ、一方で文字の形が完璧に頭に入っているにもかかわらず、触読しながら単語として、あるいは文節として声に出して確認することに対し、なかなか自信が持てない様子が共通して見られた。支援者がそばにいる場合、受講者は学習の第1歩から「音読」をし、自分自身の「読み」を確認する習慣を身に付けるが、独習の場合は双方向のコミュニケーションを通してフィードバックが得られないまま学習を進めていかざるをえない。また、内容把握のチェックにしても、支援者と学習者の間のやり取りを通じて訓練されるという経験が得 られないのは、やはり初期段階において独習者がぶつかる壁であると言えるかもしれない。受講開始後5ヶ月は、声に出して読み、支援者との会話を通して内容を確実につかむ練習をした。意識的に文節単位、あるいは複数の文節をブロック単位で音読することをとおし、内容把握の定着が明らかに伸びている。
 二人からは、解説テープが丁寧で有効的であったなどいくつかの感想をいただいた。ともあれ、本教材が文字習得における初期段階において、独習書として一定の役割を果たした例ではないかと位置づけている。


6.今後の課題
 本書を発行して以来、取り扱い窓口には購入者からの声がときどき寄せられる。それらは、点字を習得しての喜びを語るものや、本書のナビゲーションテープがわかりやすいなどと編集に当たった者としては喜ばしい限りのものである。とはいえ、早速に新たな課題も表れている。
 一つはナビゲーションテープの聞き易さの問題である。確かにテープについては、わかりやすいとの複数の声をいただいている。また朗読者の選抜でも聞き易さを意識し、これにかなった人にお願いできた。しかし、その録音に当たっては、発行日の関係からハードスケジュールでの実施となったため、声の疲労度が顕著な録音となり、朗読者、および本書利用者にご迷惑をおかけする結果となった。全ては、我々の手順の誤りであり、改善が求められる。
 二つ目はナビゲーションの媒体の問題が挙げられる。今日、録音の媒体としてはカセットテープのほか、MDやCDディスクがあり、普及しつつある。それらは、劣化しにくい、トラック単位の移動がスムーズ、長時間録音が可能など、カセットテープが持つデメリットを解消していて、本書のナビゲーションとしては適していると言える。現に、本書の編集方針を決定する段階で、この問題は検討したが、時期尚早と判断した。ところが、発行後、なぜカセットテープにしたのかとの問いを複数の方々からいただいている。学習者の利便性を図るうえで、重要な課題であると位置づけたい。
 このほか、本書で採用した単語の妥当性も今後の課題である。言葉は時代とともに変化していく。独習書としての性格とカナ文字体系である点字の両者を考えると、採用する言葉はわかりやすさにも考慮しなければならないと考える。本書の利用者層にも配慮し、これについて今後検証をしていきたい。




中途視覚障害者への点字指導導入教材について

東京ヘレン・ケラー協会点字図書館
千葉一郎


T 概要
 不安を抱えながらも新たな出発を決意しようとしている中途視覚障害者が初めて接する「点字」がマイナスのイメージをもって受けとめられないよう気を配ることは、点字指導に携わるものにとって決しておろそかにしてはならないことだと考えています。この観点に立って製作したのが、Uで紹介する導入教材です。特に、教室での集団指導の際に用いるのが最適と思われます。この教材の利用が、点字使用者の増加に少しでもつながればと願っております。


※ 本文については、現在準備中



第4章 「中途失明者の点字指導に関する学習会」の報告



学習会の趣旨


 「中途失明者の点字指導に関する学習会」を立ち上げた理由は、第1に指導の実践的な場で活躍している人たちの声を研究に反映したかったこと、第2に、参加者同士の情報交換や連携のきっかけ作りをしたかったことにある。この学習会での対象者は、中途失明者の点字指導にかかわる盲学校及び関係施設の職員等であるが、今まで同じように中途失明者の点字指導にかかわりながら、特に盲学校とリハビリテーションセンターや点字図書館等との情報交換や連携ができていなかった状況があった。

 以下に学習会での趣旨説明資料を示す。




「中途失明者の点字指導に関する学習会」開催の経緯及び趣旨

「人との出会いが力となる」  この学習会は、中途失明者の点字指導に関わっている人たちが集い、点字触読能力を高めるための指導法や教材の工夫等について、共に考え、深めていくという趣旨で開催いたしました。今まで同じように中途失明者の点字指導に関わりながらも、あまり交流のなかった盲学校やリハビリテーションセンター、点字図書館の方々との情報交換の場となればと考えています。
 この会の背景には、科学研究費補助金基盤研究(C)(2)「中途失明者の個に応じた最適点字サイズ評価と点字触読指導プログラム及び教材の開発」(平成13年度〜平成15年度:研究代表者 澤田真弓)という研究があり、学習会はその一環として行うものです。この研究の目的や具体的な取り組みについては(図1 省略)の通りです。この研究を進めるにあたり、多くの方々との出会いがあり、共に推進していく仲間の輪が広がりました。日本盲人社会福祉施設協議会においても、中途失明者の点字指導法の確立を目指して、研修会等の取り組みをされており、この研究へのご協力をいただいております。

図1 研究の目的及び構造図 省略



 年1回、計3回の学習会を通して共通していることは、演習として、実際に指導者や生徒役になり指導法を検討していくこと、またナイトセミナーという時間を設け、小グループに分かれて、それぞれのテーマにそって意見や情報を交換しあい、最終日に、それぞれのグループで話し合われたことを全体で報告し、それらを共有するという、参加型の学習会であることである。

 以下にナイトセミナーでのテーマ資料を示す。



ナイトセミナー

日頃、思っていることを大いに語ろう!!(グループ討議)


 ここにお集まりの皆さんは、職場はそれぞれ違いますが、中途失明者の点字指導について真剣に考えている仲間です。この時間は、各グループごとにテーマに沿って話し合っていきます。さまざまな職場の方々との情報交換の場と考えています。事前アンケートにて、ナイトセミナーで話題にしたいことをお聞きした結果から、次のようなテーマ設定いたしました。

<話し合いのテーマ>
1.個別指導プログラムの立て方
  ・指導前のアセスメントのポイントは?
  ・指導目標・指導内容・指導期間等はどのように決めてるの?
  ・疾患や年齢によっても違ってくるし進路等によっても違うよね・・・。
  ・どんな書式を使ってるの?
  ・指導後の評価は?そのあとはどうしてる?

2.指導法・教材の工夫
  ・点字学習を継続していくのって大変じゃない?
  ・モティベーションを高めるためのアイディアは?
  ・どんな工夫をしているの?(集団指導・個別指導)
  ・あったらいいな、こんな教材!
  ・独自の指導法や教材がある?その特徴は?
  ・大きい点字は読み易い?
  ・点字サイズ、点間、マス間、行間を変えたら読みやすいのかな?

3.その他
  ・障害受容とも係わって、精神的にどのように支えていく?
  ・点字指導で悩んでいる事・・・
  ・こんな事例があったんだけど・・・
  ・指導者養成はどうしていく?
  ・支援費制度がスタートして、点字教室の運営にも係わって、ちょっと困ったことがでてきてるんだけど・・・。




第1節 第1回学習会の報告


1.期日  平成14年3月16日(土)〜3月17日(日)
2.参加者  64名
3.内容及び日程
    3月16日(土)
      13:30〜13:45   受付
      13:45〜14:00   開会式
      14:00〜14:15   学習会趣旨説明
      14:15〜15:15   点字指導について(講義)
      15:15〜15:30   休憩
      15:30〜16:10   点字を読んでみよう
      16:10〜17:30   まずは体験してみようT
      17:30〜19:30   夕食・休憩
      19:30〜21:00   ナイトセミナー(グループ討議)

    3月17日(日)
       7:00〜 8:30    朝食休憩
       9:00〜10:45    まずは体験してみようU(演習)
      10:45〜11:00   点字を読んでみよう
      11:00〜11:15   休憩
      11:15〜11:50   グループ討議報告及び協議
      11:50〜12:00   閉会式


1 「点字指導について」講義記録


講義者:原田良實(名古屋市総合リハビリテーションセンター)

 一昨年リハ部会で講習をおこなった。テキストは一昨年使ったものに手を加えたものである(中途視覚障害者点字指導担当者研修テキスト「点字指導マニュアル・教材」日本盲人社会福祉施設協議会リハビリテーション部会編)。これをこのままではなくみんなで考えてまとめていきたいと思う。リハ部会で研修をおこなったとき次をやりたいと考えた。施設の集まりとは別に学校も含めて視覚障害者に関わる人すべてでできればと思っていた。多くのメンバーも集めて今日の会を開くことができた。
 資料は昨日できて自分で運搬した。このテキストで全てではなくこれからいいものにできるように考えていきたいと思っている。
 内容について説明する。
 リハの職員は専門職だが、点字指導をおこなっているのはボランティアであったりする事が多く、点字の技能については学んでいるが視覚障害者の問題やたどっていく道筋や解決しないといけない課題を体系的に学んでいるわけではない。それで、中途で視覚に障害を持つということはどういうことかを記録を抜き出して書いている。そのあとに動きや、「喪失」から参考になる部分、そのあとに触覚、点字を読むこと書いている。ここでまず、触ってわかるということのすばらしさやすごさについて書いている。そのあとに点字について書いているが、点字の与えられ方は大切である。多くの中途視覚障害者はできれば点字をやりたくない、自分の視覚障害を拒否するからである。
 中途失明者が点字を学ぶこと、使えるようになることは大変な道筋だが、どうやったら負担を少なくすることができるかを考えたことがあるだろうか。それをもとに新しい生活を組み立てることができるレベルにできるだろうか。私たちは取り組みが甘かったのではないだろうか。中途視覚障害者に関わるこういう学習会が今までおこなわれたことがあるだろうか、点訳の講習会は数多くされているがこのような点字指導の講習会は今までになかった。視覚障害者になればすぐに点字を読めるわけではない。点字指導の現状を調査して驚いたのは、点字触読を指導者が実際に学んでいない。指導しているのと同じ状況を自分で経験していない。また、目の見える職員やボランティアがだれも触読できないという現実がわかった。さらに、点字を習得できない要素を触知覚や意識の低下とみている回答が多い。中途で点字が必要になった視覚障害者が点字を習得するのは大変なことだとわかっているのに、指導する側が視覚障害者に責任を求めているということはいかがなものか。  私自身の中では、点字の読みの習得を困難にしているのは、指導法に原因があると思っている。それをきちんとできたら、中途視覚障害者が点字を読む困難さが軽減できる。私がやっている指導法は、これまでやってはいけないと言われてきたことである。これまでの呪縛から逃れても良いのではないかと思っている。みんなで検討を重ねて新しい道筋をたどっても良いのではないかと思っている。点字指導の資料は少ないが、これまでの点字指導では、「点字学習の手引き」が参考にされることが多いが、その呪縛から逃れての良いのではないかと思っている。これをこの2日間で学んでほしい。。  点字を読むために問題になるのは、大きく分けると3つある。まず、触知覚の問題。これは点の認知力の問題になる。年齢や糖尿病だとか緑内障など疾病で差がある。この差が点字を学ぶ差になる。これはある程度、他のことでカバーできるのではないかと思っている。それは、触運動の問題である。触運動で触知覚を補える。
 どういう運動をするかというと、熟練した人では指が横に動いて、入門当時は上下運動が頻繁である。しかし、読めない綴りなどを丹念に触るときには、慣れた人でも上下運動がある。点字にいつも触っている人ならうなずけることだろう。1字1字を読みたいとなれば上下運動になる。上下運動がいけないと言うのは誤解である。通常、点字指導をしようとする場合、モデルはよい読み手で速い読み手だ。その人は上下に動かさない。それを見て呪文のように上下に動かしてはいけないと思いこんでいる。でも、上手に読める人でも、よくわからないときは指を上下に動かすのであって、初心者が縦に動かして点をわかろうとすることは当たり前。その方がうまく読める。それを点字指導に取り入れて、ある程度は、その方法で進める方がいい。指導を始めた頃のことだが、若い人で知覚がいい人は縦に動かさなくても読めるようになった。しかし、読めないケースにあたって、困ってしまって試しに自分でやってみると縦に動かさないと読めない。どうやったら自分が読めるかというと縦に指を動かすことが必要だった。
 2点間の弁別域の問題はあるが、点がわからなくても、点か棒か、「あ」か「う」かわかればいいと言う考え方。それを三回やると一文字読めるのではないかという考え。もっと大事なのは、一文字読んで次に移るのがきちんとできると良い、それは指に一文字がきれいに収まっていなくてはいけない。オプタコンの指導ではやっていたことですが、点字指導では、視覚障害者が指をきちんと次の文字に移るようにする指導、ずれていないというチェックをする指導がされていない。一文字分きちんと動いているかどうか、50歳代の人にはなかなかわからない。読めるようになったあとだったら指がどこにあってもわかる。そんな考えにいたって指導を行っている。今日からの演習で実際にやっていただくわけですが、スタッフにも手伝ってもらって読みやすさを実感してもらおうと思っています。
 今回のテキストには縦読みの指導法と演習のカリキュラム、教材も載せている。教材をどのように作るかは大きな問題。アンケートを見ても教材の文字の提示は50音でやっていることが多い。これは、書くときは良いが読むときには母音と子音の組み合わせで点を探しに行くと、触読では読みにくくなる。また、点字には読みやすい形と読みにくい形がある。点字は形で覚えていくことが大切である。やさしい形。難しい形、特徴のある形を混ぜて覚えていった方が良いということも50音順にしない方が良いという理由の一つである。
 1回の学習における新出文字について、何文字が良いかというと、たくさん出さない方が良い。それで今回のテキストでは1ページ1文字という教材を作った。点字の習得が何回で終わるかということも予測もできる。これは指導の計画を立てる上で役立つ。しかし、毎日やれる施設と週1回しかできないところでは状況が異なる。最初の指導で8文字覚えて、その後指導を続けていくわけだが、点字の触読は半年以内ぐらいで習得して欲しい。そこで、今回は1ページに新出文字が2文字の教材を作ってみた。触読を軸にして考えると、出てきたものの名前を暗記していくことが役立つ。教材の順番を覚えながら、指で覚えた点の形に名前を付けて、点の形を覚えながら定着させていくということになる。「れ」は「田んぼの田」と指でとらえていい。決して「え」に5点ではない。触ったときに点の形をどんな形でとらえたかが大切。その人がとらえた形を尊重して、今まで出てきた字との違いがわかると良い。「ん」はどんな字かというと、上にさわらなくて下の方だけと覚えればそれで良い。今まで出てきた字との違いだから、上がなくて下だけと覚えればそれで十分。
 もう一つは、点字と言葉を結びつける指導であるということを踏まえることが必要である。言葉を知っていることや文章を読んだことがあることを最大限利用して、3文字の言葉は真ん中を推測しても良い。雰囲気で読んでも良い。予測、推測を大切にする。触知覚の悪さを触運動と読書の力で補う指導が必要だと思っている。
 点字指導を行った結果、実用的に読めるということをどう考えるかだが、1ページを15分以内と考えた。訓練を行った結果1/3の人ができるようになっている。これをいかに短くしていくかが大切。  情報処理試験を受けたり司法試験に挑戦したりするために点字に挑戦する人もいる。点字が読めるようになって読書が楽しいという人もいる。中途で文字を失った人たちに文字を取り戻してほしい。点字で文字をとりもどすことは大きなリハである。

(文責:吉田道広)

2.ナイトセミナー(グループ討議)の記録


<A班>
 話し合いの突破口として、「指導法・教材の工夫」についての情報交換からスタートした。
1 触読の手はどのように指導しているか?
(1) 学習者の負担を少しでも軽減するために、左右どちらでも読みやすい手を使うように指示。
(2) 盲学校教育の中では、左手で読み、右手で書く、つまり、転写の効率性を強調。将来の学習手段として点字を習得しようという場合は、左手で読むように指導したほうがよいのでは?
(3) 点字学習の目的によって、柔軟に考えていくべき。基本的にはどちらの手で読んでもよいと思うが、左手読み、右手読みのそれぞれの利点を学習者に説明して、本人に選択を委ねている。

2 教材の工夫は?
(1) 初期段階における文字導入の場面では、ピンを挿して点字を形作る教材や学習具、立体コピーなどを用いて、点字の形を納得のいくまで触るチャンスを提供。
(2) 触知覚には個人差があるので、初期評価で簡単なテストを行い、ケースによっては、パーキンスサイズの教材を提供(スタンダードは日本サイズ。)
(3) 教材の点字サイズについては、大変迷っている。トレーニングの段階で、大きいサイズの点字を提供することが、日常生活においてスタンダードのサイズの点字に適応していく妨げにはならないのか?
(4) トレーニングの初期段階で大きいサイズの点字を導入、その後、触読になれてきたところで、スタンダードサイズに切り替えて、成功したケースが何例かある。

3 点字学習を精神的にどのように支えていくのか?
(ここで、盲学校の理療教育現場での、中途視覚障害者の不適応の事例が語られた。)
(1) 点字が読めないまま入学してくる生徒が多い。その事が直接的・間接的に不適応の原因になっていると思われる。就学前指導の必要性。
(2) 就学前指導の役割は、どこが担っていくのか?
(3) 地域のリハビリテーション施設、情報提供施設、盲教育施設の連携が切望される。この3者の協力体制が確立できれば、中途視覚障害者に自立のきっかけを提供する機会は、現在より増すであろう。リハビリテーションの思想を広める必要がある。

 最後に、本学習会に期待する事として、次のようなポイントがあげられた。
(1) 実線(演習)を観察することがなによりも意義深い。
(2) 単発ではなく、継続的に学習会を積み重ねることが重要→地域へ広げていく。

(文責:松谷詩子)


<B班>
1.参加者の構成
盲学校教諭・寄宿舎指導員……8名
 北海道高等盲学校、岩手県立盲学校、宮城県立盲学校、奈良県立盲学校、大阪府立盲学校、鳥取県立鳥取盲学校、徳島県立盲学校、佐賀県立盲学校

リハビリテーション関係施設……3名
 全国ベーチェット病協会、京都ライトハウス鳥居寮、光道園

情報提供施設……2名
 豊島区立中央図書館、石川県視覚障害者協会

ボランティア……1名
 山口県宇部市

事務局……2名
 日本ライトハウス、静岡県立大学短大部

2.内容
 2班では、主にアセスメント、指導上で利用している、あるいは工夫している事柄、導入している学習用テキストの3点について意見交換を行なった。
(1) アセスメントについて
 点字学習におけるアセスメントには、導入前の「初期評価」と導入後の各段階での習得状況についての評価がある。初期評価については、リハビリテーション施設の場合、その実施が見られ、盲学校ではほとんどが行なわれていない状況が報告された。評価を行なっているリハビリテーション関係施設の場合、評価内容については、施設によって異なるが、多くが面接のみで、学習者に関する情報・状況、学習の目的などを把握するためのものになっている。その中で京都ライトハウス鳥居寮では、面接や学習者の指先の状態チェックのほか、既にある程度の点字学習の経験を持つケースに対して、読み速度、書き方チェックなどを行ない、学習を進めていくうえでのクラス分けの参考データとしていることが紹介された。また日本ライトハウスでも、面接により点字学習の目的を確認し、学習経験者にはその達成状況を把握するための評価をしているとの報告があった。盲学校では、奈良盲学校が感覚機能のチェックなどを初期評価として実施していると紹介した。
 導入後の評価については、京都ライトハウス鳥居寮、鳥取盲学校で各学期ごとに行なっているとの発言があった。鳥取盲学校では、読みに関する評価に留まらず、書き方におけるわかち書きについても行なっており、内容の濃いものとなっている。また佐賀盲学校では、かつて毎月評価を実施していたが、現在は残念ながら実施されなくなったと言う。
(2) 指導上で利用している、あるいは工夫している事柄について
 どの施設にも、点字の学習において日本の通常サイズの点字を触読するには、厳しいケースがある。そこで、学習に当たっては各施設・盲学校で教材に工夫や配慮をしている状況が報告された。
 導入時、日本の標準サイズの点字は避け、パーキンスブレイラーで打ち出した点字を使用しているとする盲学校やリハ施設・情報提供施設は多くみられた。このほか、全国ベーチェット病協会ではジャンボブレイル(*1)を、豊島区立中央図書館ではラージ点字(*2)を利用することもあるとの発言があった。触圧の強いケースには、サーモフォームで教材を用意する施設もみられた。点字のサイズを意識し、それに基づいて点字プリンタを購入した施設もある。点字サイズが日本のものよりも大きい点字プリンタとして、バーサポイント、エベレスト、ETが紹介された。
 点字の構成、文字としての形体の理解を促すために、学習具(日点用具課取り扱い)や点字マスコット(別名:点字キーホルダー、同) 、タックタイル(フランス or イタリア製) 、アクセサリーシールなどを利用しているとの紹介が各実施施設からなされ、関心を呼んだ。また岩手盲学校からは、アクリル板を用い、独自の教材を製作した旨の報告があった。


*1 パーキンスブレイラーを用いて打ち出す点字。通常のパーキンス使用では、B5の用紙の場合、左マージンを最大にすると1行に27マスの印字となるこれに対しジャンボブレイルは同17マス程度となるらしい。
*2 仲村点字器製作所が発売しているもの。1行32マスの通常の点字の点間・マス間の割合をそのまま維持して広げた点字器。従来の点字器に対し、1行27マス、1ページ14行となる。日本点字図書館では, 中途視覚障害者のためにこの点字器を用いた点訳書を少しずつではあるが制作し, L点字図書として紹介している。
(3) 使用テキストについて
 盲学校では、多くが文部省の『点字学習指導のてびき』を使用していると報告した。一方、リハビリテーション・情報提供施設では、ほとんどがオリジナルのテキストを作成し、使用していると発言した。石川県視覚障害者協会では、オリジナルのものと名古屋方式の2種類を備え、ケースに応じて使い分けている。
 オリジナルのテキストを作成している施設には、その構成や特徴を紹介していただいた。日本ライトハウスの場合、点字の1マスの間隔、マス内の点のある・なしをしっかりと理解してもらうためのページから始め、この定着の後、五十音の学習に進む。また京都ライトハウスでは、導入から一定の段階まではサーモフォームを用いたテキストを使用し、繰り返しの学習での磨耗を抑えている。内容的には、点字の1マスの感覚の理解、点たどり、五十音と進んでいくという。

3.補足
 以上の後、話題は点字学習における動機付け、励まし方、盲学校における指導体制のあり方などについて移りかけたが、時間切れとなり、その提起で終了した。


(文責:立花明彦)


<C班>
テーマ:個別指導プログラムの立て方等
1.目標
・成人や高齢者は目標も多様例)理療を目指す盲学校入学無目的到達度が違う。
・訪問指導も行っているが、近所には知られたくないという人もいる(大阪府) 。
2.指導状況
・中途失明者の点字指導は理療科教員が行っているケースが多い。
・全校でのマニュアルがある(岡崎盲) 。
3.プログラム
・プログラムとして記述しているところはないが「50音の読み→書き→読み書きの繰り返し」というやり方をとっている。
・教員向けの研修プログラムはある(横浜市盲の例) 。
4.指導前アセスメント
・事前の評価は入試の段階でみる(栃木盲) 。
・学校全体での取り組みは少ない。
・入学前の指導の取り組みもない。
国リハの事例
5.他分野との連携
・眼科医、リハ施設との連携が重要
・ピア・カウンセリングの導入
◎指導方法の確立、課題の開発、指導システムの整備が必要であるという意見が多数。

テーマ:指導法・教材の工夫
1.意欲を高める工夫
・教材によるところが大きい→適当な教材が欲しい。
・自分からやりたいという気持が動かないと難しい。
2.指導法
・古い教材を用いているが、50代の方週1時間の指導30〜50字/分は読めるようになった事例(岡崎盲)
・12分/頁程度で読めれば優秀な方だ(千歳市図書館) 。
・触読の困難な人にはパーキンスを用いて指導。
・形態読みの指導、縦読みの指導、継時的読みの指導、それぞれの利点を活かしていく方法はとれないか。
3.教材
・対象者の年齢、障害の程度に応じて手探りで作成しているのが現状。
・教材はあるが更新されていないという学校が殆ど。
・点字を読むだけでなく、内容も楽しめる教材があればという意見。
・導入教材の重要性
・歌詞や流行り言葉、成人図書からヒントを得た事例。
・その教材が何をねらっているか。ある字からある字に移る時にポイントになる考えがある筈。
あとは個別的対応ができるようにならねばならない(アドバイスの仕方など。)
4.点字のサイズ
・Lサイズ点字開発の紹介。

テーマ:その他
<事例>
糖尿病性網膜症 40代女性
 「点字を覚えたい」という申し出。1年くらいで2点、3点。4点までは難しい。2年次、国家試験が近づいてくる不安と読めない点字への不安。意欲の減退。書きのみで、読みは無理である。
卒業後も触読への希望はある。
→卒業生へのケアが必要。
 点字がとっつきにくい人に、点字は読めるんだという初期の指導が必要。
 マス目、マス間が重要
 マスのないところも上手に手指を動かす。2マス空けなどもチェックする。
 50音から入らず、読める文字から入る(例イタイ)
 意味のあるもの、文につながるものを先に読んでいく。
 文字を読んできた人たちなのであるから、失明しても点字を読めることで、読む喜びを取り戻して欲しい。

以下、事例省略


(文責:伊藤和之)


<D班>  点字指導の現状について参加者から報告を受けた後、いくつかの討議の柱(○印)を立てて進めた。

○点字学習に積極的持続的に取り組める動機付けを図るにはどうすればいいか。
・何のために点字を学ぶかという明確な問題意識を持つことができるようにすることが必要であろう。
・実際、点字触読が少しでもできると理療の学習にも自信が出る。しかし、国家試験で点字を使うためには、3時間続けて点字を使う力が必要であり、持っている力の6割で回答できるくらいの点字の力が必要である。
・点字の学習会に参加したいという気持ちを継続させることは大切である。そのためには明確な目的が必要であるが、同時に指導者との信頼関係が求められる。雰囲気づくりや励まし方も大切になる。
・練習問題が無味乾燥なものでは学習は進まない。点字をほったらかしにして内容に入っていけるような教材ができると良い。おもしろいものを探して1枚の教材で何度も笑えるようなものが良い。
・自分の書いた点字が読めると役立つし励みになる。そのためには書くことの指導も重要になる。

○理療の学習をする中で点字学習にどう取り組んでいくか。
・全員に基礎的な学習をした上で、必要な人には補習をして指導している。
・入学前に教育相談で指導している。

○点字の指導にどのような体制で取り組むか。
・担任、国語担当。

○ボランティア等から指導者を育てる観点はあるか。
・点字指導員の資格を持っていればいろいろな段階で指導ができるだろう。しかし、人間関係が上手く作れることが大切である。自分で触読をやってみようという意欲を持った人であることが必要である。上手くやれるかどうかは、関わる場面を作りながら見極めていく事が必要だろう。


(文責:吉田道広)

※ 以下、第2回学習会、第3回学習会準備中