特別支援教育に関する国際比較 (大韓民国)

国 名 大韓民国 大杉
  項  目  
1.  【現状認識】
1−1 障害児の定義 特殊教育対象者については特殊教育振興法第2条第2号に「第10条の規定によって特殊教育を要する人に選定された人を言う」と規定している。具体的には視覚障害、聴覚障害、精神遅滞、肢体不自由、情緒障害(自閉症を含む)、言語障害、学習障害、その他教育部令の定める障害がある人の中で特殊教育を必要とする人であると評価された人を特殊教育対象者と選定する(特殊教育振興法第10条第1項)。このような特殊教育対象者の選定は幼稚園・初等学校・中学校課程は教育長が市・郡・町特殊教育運営委員会の審査を通して選定し、高等学校課程は教育監が市・道特殊教育運営委員会の審査を通して選定する。また大学に入学する特殊教育対象者は大学の職員選定するように規定されている(特殊教育振興法第10条第2項)。
1−2 障害児の在籍率 特殊学校  24,276人  0.26%
特殊学級  26,925人  0.29%
通常学級   3,269人  0.04%
総   計  54,470人  0.56%
学齢人口(5〜17才) 9,178,811人-1998特殊教育年次報告-で除した数字である。児童施設入所者は、就学免除となっている
学齢期人口(9,179,000人)に対して、特殊学校対応 0.48%として、42,000人が推定されている。これにより未就学者は17,620人(0.19%)と推定される。(特殊教育年次報告 1988)
「特殊学校」 2001年4月現在全国の特殊学校数は総数136校である。
特殊学校の設立別は国立5校、公立44校、私立87校である。障害種別では視覚障害学校12校(1,453名)、聴覚障害学校16校(2,118名)、精神遅滞学校82校(15,680名), 肢体不自由学校19校(3,310)、情緒障害学校7校(1,715名)、計24,276名である。私立特殊学校が87校(63.9%)と高いのが特徴である。
特殊学校の障害種別は地域によって均等ではない。特別市・広域市・道によっては特定障害領域に2校以上の学校が設立されている地域もあり、一部の地域には一つの特殊学校にすべての障害領域が含まれている総合養護的な学校もある。
特殊学校は幼稚園課程だけ運営している10校を除き大部分が幼・初・中高等部の全課程を併設・運営している。2001年4月現在134の特殊学校の2,712学級の内訳は幼稚部267学級(1,480名)、小学部1,231学級(10,076名)、中学部612学級(6,051名)、高等部602学級(5,961名)(専攻科68学級791名を含む)となる。
0.26%
「特殊学級」 特殊学級は「全日制」、「時間制」、「巡回教育」がある。カリキュラム上、一般学級での授業時間が位置づけられていないものを「全日制」、位置づけられているものを「時間制」と呼び、区別している。「時間制」は課外や行事等特別活動での「交流」は含まれておらず、授業時数として計画的に行われるものをさす。「巡回教育」はわが国の「訪問教育」に似たものであるが、わが国では養護学校教諭による訪問教育が行われているのに対して、韓国では特殊学級教諭による訪問指導も行われている。
「全日制特殊学級」は幼稚園(21学級)初等学校(66学級)中学校(11学級)高等学校(0学級)計(98学級620名)、「時間制特殊学級」は幼稚園(41学級)初等学校(2,779学級)中学校(647学級)高等学校(114学級)計(3,581学級19,450名)で、圧倒的に「時間制特殊学級」が多い。
0.29%
「通常学級」 2001年4月現在、特殊教育対象者に選定されて通常学級に配置されている障害のある児童生徒数は幼稚園59人、小学校1,521人、中学校776人、高等学校913人、計3,269人。通常学級に配置された特殊教育対象者の教育のためには一般教員の特殊教育研修を強化し、対象児童生徒に対する個別化教育を実施している。
0.035%
(通級?) 前述の「時間制特殊学級」が「通級指導教室」の機能を持っている。なお、前述の「通常学級に配置された特殊教育対象者」は「時間制特殊学級(通級指導)」には分類されない。
2.  【基本的な考え方】
2−1 特殊教育(特別支援教育)の基本的な考え方 特殊教育とは「特殊教育対象者の特性に相応した教育課程・教育方法及び教育メディアなどを通じて教科教育・治療教育及び職業教育などを実施すること」を言う(特殊教育振興法第2条第1号)。このような特殊教育の振興のために教育基本法第18条(特殊教育)は「国家及び地方自治体は身体的・精神的・知的障害などによって特別な教育的配慮が必要な者のための学校を設立・経営しなければならない。また、これらの教育を支援するために必要な政策を樹立・実施しなければならない」と規定している。さらに、初・中等教育法第55条(特殊学校)は「特殊学校は身体的・精神的・知的障害などによって特殊教育を要する者に幼稚園・初等学校・中学校または高等学校に準する教育と実生活に必要な知識・技能及び社会適応教育をすることを目的にする」と規定している。
3.  【取り組み内容】
3−1 個別の教育支援計画(多様なニーズに適切に対応する仕組み) 特殊教育対象者に選定された者は一般学校の一般学級、特殊学級、特殊学校、他の市・道に所在する特殊学校などに配置する。特殊教育対象者に配置された学生はその特性に適切な個別化教育を受けるようになり、個別化教育計画は毎学年が始まる前まで作成しなければならない。ただし、学期の途中に配置された場合には配置された日から30日以内に作成しなければならない(特殊教育振興法第16条、特殊教育振興法施行令第14条)。
個別化教育計画の效率的な樹立のために特殊教育対象者が配置された学校は個別化教育計画運営委員会を構成して個別化教育計画を作成しなければならない。また、個別化教育計画には対象学生の人的事項、現在の学習遂行水準、長・短期教育目標、教育の開始及び終了時期、教授の方法及び評価計画、その他個別化教育計画運営委員会が決める事項を含まなければならない(特殊教育振興法施行規則第9条)。
特殊教育対象者には治療教育、職業教育、進路教育を実施しなければならないし(特殊教育振興法第18条、第19条、第20条、第22条)、各学校の長は当該の学校に在学中の特殊教育対象者の保護者が希望する場合や保護者教育が必要だと認められる場合には教育・治療及び職業などに対する保護者教育計画を樹立してこれを実施しなければならない(特殊教育振興法第17条)。
3−2 特別支援教育コーディネータ
(教育的支援を行う人・機関を連絡調整するキーパーソン)
3−3 行政レベルの連携組織体制 特殊学校は、地域社会内特殊教育支援センターとしての役目を拡大し特殊学級学生のための短期職業教育と治療教育プログラムを運営し、教師や親などを対象にこれに対する相談も実施し、学校内寄宿舎を活用して特殊学級や一般学級に就学する障害学生の生活適応訓練などを実施する。また、特殊学校と隣近一般学校を連携した統合教育を活性化させていく。そのため2001年度に全国の26個地域教育庁または特殊学校に特殊教育支援センターを設置運営している。
3−4 その他 特殊学級の時間制特殊教育を担当する一般学級教師と一般学級に配置された特殊教育対象者を指導する一般教師、そして特殊学校と一般学校の統合教育を担当する一般学級の教師は特殊教育職務研修を優先して履脩するように措置している。そして現在特殊教育対象者に実施されていない統合教育地域の拡大と長期的な統合教育担当教員の確保のため、遠隔放送受信局が設置された京幾、慶州、済州、昌原、光州、仁川地域の通常の幼・初等学校教員を対象に国立特殊教育院から遠隔で60時間以上特殊教育職務研修を実施している。これにより2001年度に国立特殊教育院で行っている特殊教育職務研修を履修した一般学校の校長・教頭・教師は8月現在で555人となる。
4.  【法令上の位置付け】
4−1 一人ひとりのニーズ教育 特殊教育振興法施行令では第14条第2項に各級・学校では毎年度開始まで学生の個別教育計画を作成するように規定し、学期間に特殊教育対象者の教授-学習が効率的に成り立つようにしている。転校や再入学などで特殊教育対象者が学期途中に配置された時には配置された日から30日以内に作成するとしている。この規定により2001年8月現在特殊学校と特殊学級の特殊教育対象者はもちろん、一般学級に配置された特殊教育対象者も個別化教育計画の作成・施行を通じて彼らの教育的要求に適切な教育の提供を受けている。
また、特殊教育振興法施行規則は第9条に各級・学校で個別教育計画を効果的に実施できるようにするため、当該の学校に個別化教育運営委員会を設置・運営するように規定している。この運営委員会は委員長1人を含む5人以上10人以下の委員で構成、委員長は当該学校の長とし、委員会の構成及び運営などに関して必要な事項は当該学校の学則で決めるように規定している。このように2001年8月現在、134特殊学校は全ての学生の個別の教育的要求に適合した教育を提供するため、個別化教育計画運営委員会を設置・運営している。
4−2 特殊学校 特殊教育機関とは特殊教育対象者に幼稚園・初学校・中学校または高等学校(専攻科を含む)の課程を教育する特殊学校及び特殊学級をいう(特殊教育振興法第2条第3項)。特殊教育対象者が教育を受ける所として特殊教育機関と一般学級、または障害者福祉施設・児童福祉施設・治療機関・家庭などで特殊学校教員の巡回派遣によって教育を受けることができる(特殊教育振興法第14条)。特殊教育対象者が一般学校の一般学級で教育を受ける場合、一般学校に特別な理由がない限り統合教育を実施しなければならない(特殊教育振興法第15条)。 特別な理由とは学校に在籍中の特殊教育対象者の定員の10パーセント以上を超過している場合と特殊学校の場合で学校の教育対象者の障害種別と配置された特殊教育対象者の障害種別が違って効率的な特殊教育を実施することができない場合に限って教育長または教育監に指定・配置に対する意義を申し立てることができる(特殊教育振興法施行令第11条)。さらに国家及び地方自治体は国立または公立の特殊教育機関の収容施設が不足し特殊教育対象者の義務教育のために必要な場合には私立の特殊教育機関にその教育を委託することができる(特殊教育振興法第7条)。 国家または地方自治体が私立の特殊教育機関に委託教育をした場合には、その運営費・施設費・実験実習費・職業指導費及び教員の給料、その他特殊教育に必要な経費を予算の範囲内で補助しなければならない(特殊教育振興法第6条と第7条)。
4−3 特殊学級
4−4 通級指導
4−5 コーディネータ 国家及び地方自治体は特殊教育に関する主要事項を審議するために教育人的資源部長官副長官所属の下に中央特殊教育運営委員会を、教育監所属の下に市・道特殊教育運営委員会を、教育長所属の下に市・郡・区特殊教育運営委員会をおかなければならない(特殊教育振興法第4条)。
4−6 連携組織体制 特別市・広域市・道の教育庁特殊教育担当奨学官16名のうち8人、180名の地域教育庁特殊教育担当奨学官のうち68名が特殊教育専攻者(大学の特殊教育専攻の修了生で上級の特殊教育免許状保持者)である。依然として専門担当者が不足し、その役割を的確に遂行できていないと分析されている。特殊教育振興法第4条では特殊教育対象者の適切な教育環境配置を保障し、特殊教育発展計画を審議して、特殊教育現場などを支援する機構として教育人的資源部に中央特殊教育運営委員会、市・道教育庁に市・道特殊教育運営委員会、市・郡・区教育庁に市・郡・区特殊教育運営委員会を設置・運営するように規定している。これにより2001年4月現在中央の教育人的資源部と全国16市・道教育庁及び180市・郡・旧教育庁に特殊教育運営委員会が設置・運営されている。2001年から特殊教育運営委員会の機能を補って特殊教育対象者への支援を拡大・提供するため地域教育庁別に特殊教育支援センターモデル事業を行っている。



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