盲学校、聾学校及び養護学校幼稚部教育要領

○文部省告示第157号

 学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第73条の10の規定に基づき、盲学校、聾学校及び養護学校幼稚部教育要領を次のように定め、平成2年4月1日から施行する。
 
 平成元年10月24日
 
 文部大臣 石橋 一弥

盲学校、聾学校及び養護学校幼稚部教育要領

目次
第1章 総則
1 幼稚部における教育の基本
2 幼稚部における教育の目標
3 教育課程の編成
第2章 ねらい及び内容
健康、人間関係、環境、言語及び表現
養護・訓練
第3章 指導計画作成上の留意事項

第1章 総則

1 幼稚部における教育の基本
幼稚部における教育は、幼児期の特性を踏まえ環境を通して行うものであることを基本とする。このため、教師は幼児との信頼関係を十分に築き、幼児と共によりよい教育環境を創造するように努めるものとする。これらを踏まえ、次に示す事項を重視して教育を行わなければならない。
(1) 幼児は安定した情緒の下で自己を十分に発揮することにより発達に必要な体験を得ていくものであることを考慮して、幼児の主体的な活動を促し幼児期にふさわしい生活が展開されるようにすること。
(2) 幼児の自発的な活動としての遊びは、心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習であることを考慮して、遊びを通しての指導を中心として第2章に示すねらいが総合的に達成されるようにすること。
(3) 幼児の発達は、心身の諸側面が相互に関連し合い多様な経過をたどって成し遂げられていくものであること、また幼児の生活経験がそれぞれ異なることなどを考慮して、幼児一人一人の特性に応じ発達の課題に即した指導を行うようにすること。

2 幼稚部における教育の目標
幼稚部においては、幼児期が生涯にわたる人間形成の基礎を培う時期であることを踏まえ、幼児の心身の障害の状態や発達の程度を考慮し、幼稚部における教育の基本に基づいて展開される学校生活を通して、幼稚部における教育の目標の達成に努めなければならない。
(1) 健康、安全で幸福な生活のための基本的な生活習慣・態度を育て、健全な心身の基礎を培うようにすること。
(2) 人への愛情や信頼感を育て、自立と協同の態度及び道徳性の芽生えを培うようにすること。
(3) 自然などの身近な事象への興味や関心を育て、それらに対する豊かな心情や思考力の芽生えを培うようにすること。
(4) 日常生活の中で言葉への興味や関心を育て、喜んで話したり聞いたりする態度や言葉に対する感覚を養うようにすること。
(5) 多様な体験を通じて豊かな感性を育て、創造性を豊かにするようにすること。
(6) 心身の障害に基づく種々の困難を克服するために必要な態度や習慣などを育て、心身の調和的発達の基盤を培うようにすること。

3 教育課程の編成
各学校においては、法令並びにこの盲学校、聾学校及び養護学校幼稚部教育要領の示すところに従い、幼児の心身の障害の状態や発達の程度及び学校や地域の実態に即応した適切な教育課程を編成するものとする。
(1) 幼稚部における生活の全体を通して第2章に示すねらいが総合的に達成されるよう、教育期間や幼児の生活経験や発達の過程などを考慮して具体的なねらいと内容を組織しなければならないこと。この場合においては、入学から幼稚部修了に至るまでの長期的な視野をもって充実した生活が展開できるように配慮しなければならないこと。
(2) 幼稚部の毎学年の教育週数は、39週を標準とし、幼児の心身の障害の状態等を考慮して適切に定めること。
(3) 幼稚部の1日の教育時間は、4時間を標準とすること。ただし、幼児の心身の障害の状態や発達の程度、季節等に適切に配慮すること。

第2章 ねらい及び内容

 この章に示すねらいは幼稚部修了までに育つことが期待される心情、意欲、態度などであり、内容はねらいを達成するために指導する事項である。これらを幼児の発達の側面から、心身の健康に関する領域「健康」、人とのかかわりに関する領域「人間関係」、身近な環境とのかかわりに関する領域「環境」、言葉の獲得に関する領域「言葉」及び感性と表現に関する領域「表現」として、また、幼児の心身の障害に対応する側面から、その状態の改善又は克服に関する領域「養護・訓練」としてまとめ、示したものである。
 各領域に示すねらいは幼稚部における生活の全体を通じ幼児が様々な体験を積み重ねる中で相互に関連をもちながら次第に達成に向かうものであること、内容は具体的な活動を通して総合的に指導されるものであることに留意しなければならない。ただし、養護・訓練については、個々の幼児の実態に応じて、他の各領域に示す内容との緊密な関連を図りながら、養護・訓練の内容に重点を置いた指導を行うことについて配慮する必要がある。なお、特に必要な場合には、各領域に示すねらいの趣旨に基づいて適切な具体的な内容を工夫しそれを加えても差し支えないが、その場合にはそれが幼稚部における教育の基本を逸脱しないよう慎重に配慮する必要がある。

健康、人間関係、環境、言葉及び表現
ねらい、内容及び留意事項については、幼稚園教育要領第2章に示すものに準ずるものとするが、それらの取扱いに当たっては、幼児の心身の障害の状態等に十分配慮するものとする。

養護・訓練
この領域は、幼児の心身の障害の状態を改善し、または克服するために必要な態度や習慣などを育て、心身の調和的発達の基盤を培う観点から示したものである。

1 ねらい
(1) 疾病や損傷の状態に応じた望ましい生活習慣を身に付けようとする。
(2) 身近な人や物とのかかわりをもち、意欲的に行動しようとする。
(3) 感覚やその補助的手段を活用して、環境を認知しようとする。
(4) 喜んで体を動かすとともに、日常生活の基本動作を身に付けようとする。
(5) 言葉に対して興味や関心をもち、互いの意思を伝え合おうとする。

2 内容
(1) 睡眠、食事、排泄などに関する基礎的な生活のリズムを身に付ける。
(2) 喜んで身の回りを清潔にしたり、環境の変化に応じて衣服を調節したりする。
(3) 疾病や損傷の状態を知り、気を付けて行動する。
(4) 身近な人たちに関心をもち、親しむ。
(5) 身近な人や物などとかかわりをもち、安定した情緒の下で行動する。
(6) 視覚、聴覚、触覚などを活用して周囲の状況を知る。
(7) 感覚の補助具などを喜んで活用する。
(8) 位置、方向、形などを手がかりとして、環境の状態を知り働きかける。
(9) 姿勢と運動・動作の基礎を身に付けるために必要な活動を進んで行う。
(10) 補助用具などを用いて姿勢を保持したり、運動したりする。
(11) 日常生活の基本動作を喜んで行う。
(12) 体を移動する力を身に付け、生活空間を広げる。
(13) 手や指の使い方を知り、喜んで活用する。
(14) 表情や身振りなどの様々な方法を用いて意欲的に意思を伝え合う。
(15) 言葉を獲得し、これを用いて意思を伝え合う。
(16) 事物・事象と対応付けられた言葉を増やし、これを活用する。

3 留意事項
上記の取扱いに当たっては、次の事項に留意する必要がある。
(1) 個々の幼児の心身の障害の状態、発達や経験の程度等に応じて、必要とするねらい及び内容を選定し、それらを相互に関連付けるなどして、具体的なねらい及び内容を設定し、自然な形で活動が展開できるようにすること。
(2) 幼児が興味をもって主体的に取り組み、成就感を味わうことができるような具体的な内容を取り上げること。
(3) 個々の幼児の発達の進んでいる側面を更に促進させることによって、遅れている側面を補うことができるような具体的な内容も取り上げること。

第3章 指導計画作成上の留意事項

 幼稚部における教育は、幼児が自らの意欲をもって環境とかかわることによりつくり出される具体的な活動を通して、その目標の達成を図るものである。学校においてはこのことを踏まえ、幼児期にふさわしい生活が展開され適切な指導が行われるよう、次の事項に留意して調和のとれた組織的、発展的な指導計画を作成しなければならない。

1 一般的な留意事項
(1) 指導計画は、幼児の発達に即して一人一人の幼児が幼児期にふさわしい生活を展開し必要な体験を得られるようにするために、具体的に作成すること。
(2) 指導計画作成に当たっては、次に示すところにより、具体的なねらい及び内容を明確に設定し、適切な環境を構成することなどにより活動が選択・展開されるようにすること。

1) 具体的なねらい及び内容は、幼稚部の生活における幼児の発達の過程を見通し、幼児の生活の連続性、季節の変化などを考慮して、幼児の心身の障害の状態、発達の程度、興味や関心などに応じて設定すること。

2) 環境は具体的なねらいを達成するために適切なものとなるように構成し、幼児が自らその環境にかかわることにより様々な活動を展開しつつ必要な体験を得られるようにすること。その際、幼児の生活する姿や発想を大切にし、常にその環境が適切なものとなるようにすること。

3) 幼児の行う具体的な活動は、生活の流れの中で様々に変化するものであることに留意し、幼児が望ましい方向に向かって自ら活動を展開していくことができるよう必要な援助をすること。

(3) 養護・訓練の内容に重点を置いた指導を行う場合には、養護・訓練の指導の時間を設けるなどして、個々の幼児の実態に即した具体的な指導計画を作成するとともに、指導方法に工夫を加え、幼児が興味をもって意欲的に取り組むことかできるようにすること。また、必要に応じて養護・訓練に関する専門的な知識や技能を有する教師との連携を図るようにすること。
(4) 幼児の生活は、入学当初の一人一人の遊びや教師との触れ合いを通して学校生活に親しみ安定していく時期から、やがて友達同士で目的をもって学校生活を展開し深めていく時期などに至るまでの過程を様々に経ながら広げられていくものであることを考慮し、活動がそれぞれの時期にふさわしく展開されるようにすること。
(5) 幼児の行う活動は、個人、グループ、学級全体などで多様に展開されるものであるが、いずれの場合にも、一人一人の幼児が興味や欲求を十分に満足させるよう適切な援助を行うようにすること。
(6) 幼児の生活は、家庭を基盤として地域社会を通じて次第に広がりをもつものであることに留意し、家庭との連携を十分図るなど、学校生活が家庭や地域社会と連続性を保ちつつ展開されるようにすること。
(7) 長期的に発達を見通した年、期、月などにわたる指導計画や、これとの関連を保ちながらより具体的な幼児の生活に即した週、日などの指導計画を作成し、適切な指導が行われるようにすること。特に、週、日などの指導計画については、幼児の心身の障害の状態や生活のリズム、幼児を取り巻く環境等に配慮し、幼児の意識や興味の連続性のある活動が相互に関連して幼稚部における生活の自然な流れの中に組み込まれるようにすること。
(8) 幼児の実態及び幼児を取り巻く状況の変化などに即して指導の過程についての反省や評価を適切に行い、常に指導計画の改善を図ること。
(9) 幼児の経験を広め、社会性を養い、好ましい人間関係を育てるため、学校生活全体を通じて、地域の幼児等と活動を共にする機会を積極的に設けるようにすること。
(10) 学校医等との連絡を密にし、幼児の心身の障害の状態に応じた保健及び安全に十分留意すること。
(11) 児童福祉施設及び医療機関等との連携を密にし、指導の効果を上げるように努めること。

2 特に留意する事項
(1) 基本的な生活習慣の形成に当たっては、幼児の自立心を育て、他の幼児とかかわりながら活動を展開する中で生活に必要な習慣を身に付けるよう援助すること。
(2) 道徳性の芽生えを培うに当たっては、基本的な生活習慣の形成を図るとともに、幼児が他の幼児とのかかわりの中で他人の存在に気付き相手を尊重する気持ちで行動できるようにし、また、自然や身近な動植物に親しむことなどを通して豊かな心情が育つようにすること。
(3) 思考力の芽生えを培うに当たっては、遊びを通して気付いたり試したりする直接的な体験の中で知的好奇心を育て、次第によく見よく聞きよく考える意欲や態度を身に付けるようにすること。
(4) 安全に関する指導に当たっては、情緒の安定を図り、遊びを通して状況に応じて機敏に自分の体を動かすことができるようにするとともに、危険な場所や事物などが分かり安全についての理解を深めるようにすること。また、交通安全の習慣を身に付けるようにするとともに、災害時に適切な行動がとれるようにするための訓練なども行うようにすること。
(5) 行事の指導に当たっては、幼稚部における生活の自然な流れの中で生活に変化や潤いを与え、幼児が主体的に楽しく活動できるようにすること。なお、それぞれの行事についてはその教育的価値を十分検討し適切なものを精選し幼児の負担にならないようにすること。
(6) 以上のほか、次の事項に留意すること。

1) 盲学校においては、幼児の聴覚、触覚及び保有する視覚などを十分に活用することのできる遊具や用具を創意工夫し、活発な活動が展開できるようにすること。

2) 聾学校においては、幼児の視覚、触覚及び保有する聴覚などを十分に活用して言葉を習得させ、これを用いて日常生活に必要な知識を広げたり考えたりしようとする態度を育てること。

3) 精神薄弱者を教育する養護学校においては、幼児の障害の状態に応じて必要な内容を選定し、それらを生活の自然な流れの中に位置付けるなどして、幼児の活動力を高めるようにすること。

4) 肢体不自由者を教育する養護学校においては、幼児の運動・動作の状態等に応じ、可能な限り体験的な活動通して経験を広めるようにすること。

5) 病弱者を教育する養護学校においては、幼児の病弱の状態等を十分に考慮し、身体活動が負担過重とならないようにすること。