ろう学校小学部・中学部学習指導要領 一般編(昭和32年度版)

目  次
まえがき
第1章 ろう学校の目標と教育課程
1.ろう学校の目的・目標
(1) ろう学校の目的
(2) ろう学校における教育の目標
2.ろう学校における教育課程
(1) ろう学校における教育課程の性格
(2) 教科および教科以外の活動または特別教育活動
第2章 小学部の教育課程とその編成
1.小学部の教育の目標と教育課程の性格
2.教科と教科以外の活動
(1) 教科
(2) 教科以外の活動
(3) 指導時間数
3.学校における教育課程の編成
第3章 中学部の教育課程とその編成
1.中学部の教育の目標と教育課程の性格
2.教科と特別教育活動
(1) 教科
(2) 特別教育活動
(3) 指導時間数
3.学校における教育課程の編成

まえがき

  このろう学校小学部・中学部学習指導要領一般編は,ろう学校小学部・中学部における教育課程の基準を示すものであって,昭和32年度から実施されるものである。

  この作成にあたって,とくに意を用いた点はおよそ次のとおりである。

 1.教育の目標は小学校・中学校における教育の目標に準ずるが,それはろう児童生徒の聴力障害との関連において理解され,その目標の達成にあたっては,ろう児童生徒の特性と発達に応じて必要な方法をとるべきこと。

 2.ろう児童生徒には,聴力障害の程度,失聴の時期,入学年令,教育歴等を異にしているものが多いから,教育課程の基準に弾力性をもたせ,各学校の必要に応じ得ること。

 3.各教科については,目標と留意事項をあげるにとどめ,教科の内容等については,当分の間,小学校および中学校学習指導要領各教科編の基準に準ずること。

  なお,この作成にあたっては,文部省に設けられた教材等調査研究会ろう学校小委員会の審議を経た。この間の委員の協力に対し謝意を表する。

第1章 ろう学校の目標と教育課程

1.ろう学校の目的・目標

(1) ろう学校の目的

ろう者に対する教育の目的は,教育基本法の定めるところによらなければならない。

教育基本法第一条(教育の目的)教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない。

ろう者は,聴力に障害があり,言語の修得をはじめ,広く学習上に多くの困難をもっているので,心身の発達上種々の遅滞偏向を招く傾向がある。

したがって,その教育については環境の調整と,指導上の配慮が,特に必要である。

そこで,以上のような必要を満たすために,都道府県はその区域内にある学令児童・生徒の中,ろう者を就学させるに必要なろう学校を設置しなければならないこと。および,ろう学校には,小学部・中学部を置かなければならないこと。また,ろう学校には幼稚部,高等部をおくことができることが学校教育法に規定されている。ろう学校の目的は,学校教育法に次のように定められている。

学校教育法第七十一条 盲学校、聾学校又は養護学校は、夫々盲者、聾者又は精神薄弱、身体不自由その他心身に故障のある者に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施し、併せてその欠陥を補うために、必要な知識技能を授けることを目的とする。

すなわち,ろう学校の幼稚部・小学部・中学部および高等部の目的は,幼稚園・小学校・中学校および高等学校のそれぞれに対応し,その教育については,前述のような聴力障害およびそれに由来する種々の困難や欠陥に応じて特別の配慮が加えられなければならないことを示している。

(2) ろう学校における教育の目標

ろう学校各部における教育の目標は,第2章以下に示すとおり,幼稚園・小学校・中学校および高等学校教育の目標に準ずるが,ろう学校教育の場合には,その目標は普通の幼児,児重,生徒の場合と違って,すべて聴力障害との関連において理解され,とり扱われなければならない。

したがって,ろう学校各部の教育の目標を理解し,取り扱うとき,とくに,留意すべき点を指摘すれば,次のとおりである。

○自己の障害を正しく認識し,種々の不利な条件に打ち克ち,自主的,積極的な態度と強い意志で,生活を切り開いていく能力と態度を身につけさせる。

○聴力障害からおこりがちな社会的不適応に留意し,公民的資質をやしない,健全な人生観を得させる。

○残存聴力およびその他の感覚を保護し,これを有効に用いる態度や能力を習得させる。

○聴力障害から生ずる不慮の危険を防止し,これに対処する能力と習慣を養う。

○個性に即した進路を選択し,健全な職業生活を営む能力と自信を得させる。

○読書・発語・読み書きその他必要な能力を身につけ,広く言語力を増進し,一般社会との円滑な交信ができるようにする。

2.ろう学校における教育課程

(1) ろう学校における教育課程の性格

ろう学校における幼稚部,小学部,中学部および高等部の各部の教育課程は,その目的の実現と目標の達成を目ざして,それぞれの段階に応じ,また,各部の教育課程の間には円滑な発展的系統を保つように編成されなければならない。

ろう児童生徒は,聴力に障害があるために,その成長発達の上に遅滞や偏向を示しやすい。

言語を使用する能力は,入学の時期には,ほとんどこれを持たず,また,その習得には困難な状態にある。そのため発達の全過程を通じて,言語を使用する能力は,最も不足している。そして,この言語の能力の不足から,一般に知的な面の発達にも遅滞を招いている。

学校内外の社会生活においては,意志の疎通がじゅうぶんに行われないことや自分の持つ身体の欠陥を強く意識したりすることなどのために,社会的な発達に遅滞を起こしたり,情緒の安定を欠いたりしやすい。

成長するに及んでは,聴力に障害があることや,言語力が不足であることなどから,進路を選択し.職業に必要な能力を習得することに,多くの制約を受けやすい。

以上のような事がらは,ただそれだけにとどまるものではなく,互に関連し合ったり,他のいろいろな部面の発達に影響を及ぼしたりするために,全般的に見て,ろう児童生徒の発達は遅滞や偏向を示すものである。

このような発達上の特質は,いずれも普通教育および専門教育の諸目標の達成に対して困難な条件となるものである。したがって,ろう学校の教育課程は,これらの困難な条件をじゅうぶんに考慮して編成されなければならない。

すなわち,言語を使用する能力は,知的,情緒的,社会的な発達のために,欠くことのできないものであるから,教育課程の編成にあたっては,言語の習得のために特に注意を払い,また初期の段階においては,これを重点的に取り扱う必要がある。

このように,言語の習得について特別な注意をはらう一方,ろう児の学校内外での経験に周到な教育的配慮をし,言語の不足から起りがちな知的,情緒的,社会的な部面の欠陥に留意して,均衡のとれた発達が促されるように努めなければならない。

また,将来の進路を選択させたり,職業に必要な能力を身につけさせたりするためにも特別な配慮をしなければならない。

以上の特質的な事項は,主として6歳でろう学校小学部に入学したろう児童生徒を中心として述べたものであるが,児童生徒の個人差はもとよりのこと,ろう学校には一般に,この外に,難聴,中途失聴の児童生徒や,幼稚部の教育を経ているものや,年令を超過してから入学したものなど,さまざまな児童生徒があり,それらは,また異った成長発達の過程を経ているものである。

したがって,児童生徒の聴力の程度や失聴時期,入学年令や,その他いろいろの条件を考慮して,個性の必要に応じ得るように教育課程を編成し展開しなければならない。

(2) 教科および教科以外の活動または特別教育活動

小学部,中学部,高学部の各部の教育の目標に到達するためには,各方面にわたる学習経験を組織し,計画的,組織的に学習させる必要がある。このような経験の組織が教科である。

各教科は,それぞれの目標に従い,各部の教育の目標に含まれるもろもろの経験の各領域を分担しているが,それらは互に密接な関係を保って,全体として教育目標への到達を目ざすものである。

なお,教育の目標のすべてを,教科の学習だけでしゅうぶんに到達することは困難である。それゆえ,学校は教科の学習以外に,教科以外の活動あるいは特別教育活動の時間を設け,児童・生徒に,個人的,社会的なさまざまな経験を豊かにする機会を与える必要がある。

第2章 小学部の教育課程とその編成

1.小学部の教育の目標と教育課程の性格

小学部においては,ろう児童の心身の発達に応じて,初等普通教育を施し,その教育の目標は,小学校における教育の目標に準ずるものとする。

小学校における教育の目標は,学校教育法第十八条において,次のように定められている。

一 学校内外の社会生活の経験に基き、人間相互の関係について、正しい理解と協同、自主及び自律の精神を養うこと。

二 郷土及び国家の現状と伝統について、正しい理解に導き、進んで国際協調の精神を養うこと。

三 日常生活に必要な衣、食、住、産業等について、基礎的な理解と技能を養うこと。

四 日常生活に必要な国語を、正しく理解し、使用する能力を養うこと。

五 日常生活に必要な数量的な関係を、正しく理解し、処理する能力を養うこと。

六 日常生活における自然現象を科学的に観察し、処理する能力を養うこと。

七 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養い、心身の調和的発達を図ること。

八 生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸等について、基礎的な理解と技能を養うこと。

小学部の教育課程は,この目標の達成を目ざし,この時期におけるろう児童の成長発達に即し,前章に示すところに留意して,編成され展開されなければならない。

この時期の児童は,聴力に障害があり,一般に言語を使用する能力が不足であるから,経験の範囲も狭く,知的,情緒的,社会的な発達においても遅滞を招きやすい。

特にその成長発達にたいせつな,幼児期において,言語力が不足であったことから,普通の児童が入学前の生活で習得しているさまざまな基礎的なことがらについて,その習得の機会が少かったので,入学初期においては,その発達は著しく遅れており,偏向を示している。

特に言語を使用する能力は,ほとんど,あるいは,全く持たず,また,その習得には困難な状態にある。

小学部の教育課程は,このような条件を考慮して,一方では,まず,基礎的な言語力を習得させるために,あらゆる方面から配慮を重ねるとともに,他方,これと密接なる関係を保ちつつ,言語力の不足を学習場面の構成や教具の活用などの方法によって補いながら,普通の児童が自然に習得しているようなことがらも意図的に用意し,各方面に均衡のとれた発達を促すように留意して編成されなければならない。

また,児童の失聴の原因が,単に聴覚だけでなく,身体の他の方面にも影響を持っていることがあったり,入学前の家庭における保育が適切でなかったりすることがあるので,そのために,この時期の児童は,健康がじゅうぶんでないことが多い。

したがって,保健や,衛生の面についても,教育課程の上に適切な配慮をすることが必要である。

2.教科と教科以外の活動

(1) 教  科

小学部の教科は、国語、社会、算数、理科、律唱、図画工作、家庭および体育を基準とする。

 

ろう学校小学部における各教科の目標は,小学校における各教科の目標に準ずるものであるが,この目標を達成するためには,ろう児童の特性にかんがみて留意すべき点が多い。以下小学校の各教科の目標およびろう学校小学部における留意事項を示す。

 

国語科

国語科は,日常生活に必要な国語を正しく,かつ効果的に使用する能力と態度を養うための教科である。日常生活におけることばの役割から考えて,国語科の一般目標は次のとおり定められる。小学校では,児童の発達に応じてこの目標の達成を目ざすものである。

1.自分に必要な知識を求めたり、情報を得ていくために、他人の話に耳を傾ける習慣と態度を養い、技能と能力をみがく。

2.自分の意志を伝えて他人を動かすために、生き生きとした話をしようとする習慣と態度を養い、技能と能力をみがく。

3.知識を求めたり、情報を得たりするため、経験を広めるため、娯楽と鑑賞のために広く読書しようとする習慣と態度を養い、技能と能力をみがく。

4.自分の考えをまとめたり、他人に訴えたりするために、はっきりと、正しくわかりやすく、独創的に書こうとする習慣と態度を養い、技能と能力をみがく。

以上のように聞くこと,話すこと,読むこと,書くことの習慣と態度を養い,技能と能力をみがくためには,ことばについての知識や理解を高めることはいうまでもなく,また鑑賞の力を養うことが必要である。

小学部における国語科の目標を達成するたにめには,児童がことばの存在を知って,これを用いようとする最も初歩的段階から始まり,児童の言語に関する能力のすべての範囲にわたって計画的な指導を行わなければならない。

まず,日常必要になることばを,いろいろな条件から考慮して選択し,配列して,児童の発達に応じて,その使用のしかたを予定し,しだいに深く,広いことばの使用ができるようにしなければならない。またことばの内容を正しく理解して使用することを指導するためには,ただことばを用意しておくだけではふじゅうぶんで,それらのことばの裏付けとなる経験を計画的に与えて常に内容を伴った生きたことばとして指導しなければならない。

このようにして計画的に用意されたことばを用いて行われる活動−−すなわち「聞く」「話す」「読む」「書く」−−の活動は相互に有機的な関係をもって,児童の国語力を発達させなくてはならない。

特に「話す」能力については,ろう児童は,正しい発音で聞きやすく話すことが,普通の児童に対するような指導によっては容易に習得されるものではないから,小学部国語科において,これを指導するためには,特別な計画・方法によって行わなければならない。また,他人の話を耳から聞いて理解することができないので,「読話」の能力を養うことが必要である。

この指導にさいしても,特別な方法によって取り扱わなければならない。この場合,大部分の児童は,多少とも残存聴力を持っているので,補聴器を利用するなどして,これを最大限に活用し,読話をいっそう効果的にさせることも,たいせつな内容となるので,初期の段階から適切な計画のもとに指導を行う必要がある。

なお,国語を使用する能力は,国語科以外のあらゆる教科や教科以外の活動の学習においても,常に必要となるものである。特に,学校で意図的に指導される以外のことばを,ほとんど使用できないろう児童にとっては,国語科は他のすべての領域における学習の基礎として重要な位置にある。

それゆえ国語科の指導計画は教育課程全般との間に密接な関係を保つように編成されなければならない。

 

社会科

社会科は,児童に社会生活を正しく理解させ,社会の進展に貢献する態度や能力を身につけさせるための教科である。

小学校における社会科の目標は次のとおりである。

1 自己および他人の人格やそれぞれの個性を重んずべきことを理解させ、自主的自立的な生活態度を養う。

2 家庭・学校・市町村・国その他いろいろな社会集団につき、集団内における人と人との相互関係や、集団と個人、集団と集団との関係について理解させ、集団生活への適応とその改善に役だつ態度や能力、ならびに国際協調の精神などを養う。

3 生産・消費・交通・通信・生命・財産の保全・厚生慰安・教育・文化・政治などの社会機能の働きや、その相互の関係について基本的なことがらを理解させ,社会的な協同活動に積極的に参加する態度や能力を養う。

4 人間生活が自然環境と密接な関係をもって営まれていることを理解させ、自然環境に適応し、それを利用する態度や能力を養う。

5 社会的な制度・施設・慣習などのありさまと、その発達について理解させ、これに適応し、これを改善していく態度や能力を養う。

ろう児童は入学以前の時期に言語活動がきわめて困難であったことなどから,社会的発達に偏向を招きやすいことに留意して,特に初期の学年においては円滑な人間関係を結ぶことができるような経験をじゅうぶんに与えることに努めなければならない。

また,入学後も言語の使用に困難が伴うので,一方では,国語科との関係をじゅうぶんに考慮しつつ,他方,できるだけ視覚教材の利用,実地見学などの機会を多くして,広い範囲にわたって具体的な理解が得られるように計画しなければならない。

 

算数科

算数科は,児童が数量的思考を用いて,自分の生活の向上をはかっていくための教科である。

小学校における算数科の目標は次のとおりである。

(1) 算数を,学校内外の社会生活において,有効に用いるのに役だつ,豊かな経験を持たせるとともに,物事を,数量的関係から見て,考察処理する能力を伸ばし,算数を用いて,めいめいの思考や行為を改善し続けてやまない傾向を伸ばす。

(2) 数学的な内容についての理解を伸ばし,これを用いて数量関係を考察または処理する能力を伸ばすとともに,さらに,数量関係をいっそう手ぎわよく処理しようとして,くふうする傾向を伸ばす。

ろう児童は,数えたり,計算したりすることを学ぶ場合に,ことばの習得に大きな困難を伴うものであるから,常に内容の理解と,ことばが相伴って学習されるように指導計画を作らなければならない。

またろう児童は経験の範囲が狭く,機械的な計算に比べて,実際の場合に即した応用問題となると,数量的関係の考察と判断に困難がともなう。

これは,ろう児童が,数量的関係を理解したり考察したりするために必要なことばをじゅうぶんに持たないことと,それに伴って普通の児童のように入学前や学校外で豊富な経験を持たないことが原因になっている。

したがって,算数科の指導内容を組織する場合には,その内容を学習するために必要な言語力の発達と密接な関係を保たせるとともに,数量的関係を学習するための素地になるような経験を豊富に用意するように努めなければならない。

 

理 科

理科は,科学的な思考や技能によって,生活を高めていくことを目ざす教科である。

小学校における理科は次のことを児童の身につけさせることを目標とする。

(1) 自然の環境についての興味を拡げる。

(2) 科学的合理的なしかたで,日常生活の責任や仕事を処理することができる。

(3) 生命を尊重し,健康で安全な生活を行う。

(4) 自然科学の近代生活に対する貢献や使命を理解する。

(5) 自然の美しさ,調和や恩恵を知る。

(6) 科学的な方法を会得して,それを自然の環境に起る問題を解決するのに役だたせる。

(7) 基礎になる科学の理法を見いだし,これをわきまえて,新しく当面したことを理解したり,新しいものを作り出したりすることができる。

ろう児童は,身のまわりのいろいろの事物現象について,興味関心を抱くことがあっても,それをことばによって「疑問」として表現したり,論理的な説明を聞いて理解することは困難である。

そのような経験の不足を補うため,なるべく多くの観察や実験などの学習活動を用意して科学的な観方や考え方の能力・態度を伸ばすように努めなければならない。

なお指導に際しては,児童の言語力の発達と密接な関係を保って取り扱わなければならない。

また理科の内容には,音に関する現象が少なくないが,その教材の選択や取扱いについては,適切な配慮をしなければならない。児童が道具や機械を使用するときに聴力障害のために無理な取扱いや乱暴な操作をしないように適切な指導が必要である。

 

律唱科

律唱科は,リズム活動を通して,児童の情操の発達を目ざすとともに,リズムの面から話しことばの使用をより効果的にするための教科である。小学部においては,簡単なリズムを身体活動,歌唱,やさしい楽器の演奏などによって体得したり,表現したりするとともに,進んでこれを言語をはじめ児童の生活の中に生かしていく態度や能力を養うことを目標とする。

なお,児童の聴力の程度によっては,リズムに止まらず,やさしい旋律や和音にまで進むことが望ましい。

律唱科の指導においては,まず児童の視覚,残存聴力,触覚などをじゅうぶんに活かすために,学習活動や教具をくふうし,特に各種の補聴器具や楽器を効果的に利用することに努め,できるだけ広く,充実した学習が行われるようにすることがたいせつである。

日常生活に使われる話しことばや,やさしい歌を,リズムを中心として唱える学習は,児童の発語面によい影響をもたらすものであるから,国語科の指導と密接に連絡して指導されなければならない。

なお,身体活動を通して行われる学習については,体育科の指導との関係に留意しなければならない。

 

図画工作科

図画工作科は,造形的な表現活動や鑑賞活動をとおして日常生活に必要な衣・食・住・産業についての基礎的な理解と技能とを与え,生活を明るく豊かに営む能力・態度・習慣などを養うことを目ざす教科である。

小学校における図画工作科の目標は次の通りである。

(1) 個人完成への助けとして

a.絵や図を書いたり,意匠を創案したり,物を作ったりするような造形的創造活動を通して,生活経験を豊富にし,自己の興味・適性・能力などをできるだけ発達させる。

b.実用品や美術品の価値を判断する初歩的な能力を発達させる。

c.造形品を有効に使用することに対する関心を高め,初歩的な技能を発達させる。

(2) 社会人および公民としての完成への助けとして。

a.造形的な創造活動,造形品の正しい選択能力,造形品の使用能力などを,家庭生活のために役だてることの興味を高め,技能を発達させる。

b.造形的な創造活動,造形品の選択能力,造形品の使用能力などを,学校生活のために役だてることの興味を高め,技能を発達させる。

c.造形的な創造活動,造形品の選択能力,造形品の使用能力などを,社会生活の改善,美化に役だてるための関心を高め,いくらかの技能を養う。

d.人間の造形活動の文化的価値と経済的価値についての,初歩的な理解を得させる。

e.美的情操を深め,社会生活に必要な好ましい態度や習慣を養う。

ろう児は,日常生活において,普通の人々と同じような楽しみや美しさに触れることが少ないので,うるおいのある情緒に欠けやすい。そのため図画工作は,情操教育の面において特に重要な位置を持つものであるから,児童の美的情操と創造的能力を伸ばすための経験を豊富に与えることが必要である。

なお,この教科の学習においては,聴力や言語力の制約を受けることが比較的少ないから児童の個性に応じて,じゅうぶんに発展性のある指導を行わなければならない。

 

家庭科

小学校における家庭科は,家庭生活に役だつ仕事を中心として,家庭生活に必要な知識・理解・技能などを養い,家庭生活を充実発展させようとするための教科である。

小学校における家庭科は次のことを児童の身につけさせることを目標とする。

1.家庭の構造と機能の大要を知り,家庭生活が個人および社会に対して持つ意義を理解して家庭を構成する一員としての責任を自覚し,進んでそれを果そうとする。

2.家庭における人間関係に適応するために必要な態度や行動を習得し,人間尊重の立場から,互に敬愛し力を合わせて,それをさらにたかめ,明るく,あたたかい家庭生活を営もうとする。

3.被服・食物・住居などについて,その役割を理解し,日常必要な初歩の知識・技能・態度・習慣を身につけて,さらに家庭生活をよりよくしようとする。

4.労力・時間・物資・金銭をたいせつにし,計画的に使用して,生活をいっそう合理化しようとする。

5.家庭における休養や,趣味・娯楽の意義を理解し,その方法を反省くふうして,いっそう豊かな楽しい家庭生活にしようとする。

ろう児童は,一般に,家庭の中で特別に保護され過ぎたり,軽んぜられたりしがちで,そのため,家庭の中で正常な人間関係が結ばれにくい傾向がある。したがって,小学部においては,特に家族と暖かい人間関係を結び,積極的に家庭生活に参加し適応するような態度や技能を伸ばすための指導を重視しなければならない。

また音が聞えないために,日常の起居寝食の動作が乱暴になりやすいので,人に迷惑をかけないおちついた動作をする習慣を養うようにすることも指導内容の面で留意しなければならない。

 

体育科

体育科は,健康の保持増進に努め,病気や危険から自己や他人を安全に守り,精神的にも明朗健全であって,かつ好ましい社会態度やレクリエーション活動の基礎を身につけるようにすることを目ざす教科である。

体育科の一般目標は次のとおりである。

小学校においては児童の発達に応じてこの目標の達成をめざす。

(1) 身体の正常な発達を助け,活動力を高める。

(2) 身体活動を通して民主的生活態度を育てる。

(3) 各種の身体活動をレクリエーションとして正しく活用することができるようにする。

ろう児童は聴力に障害があるために,一般にその身体的活動に制限を受け勝ちであって,そのため,身体の発育や運動能力の発達に好ましくない影響を受けやすい。

したがって,体育科の指導においては,低学年のうちから,危険の防止および事故に際してこれに対処するために必要な能力と習慣をもたせることに特にじゅうぶんに留意しながら,なるべく普通の児童と同じような活動を用意して,身体の正常な発達を図るように努めなければならない。

また,ろう児童は,意志の疎通がじゅうぶんでないことから,集団の構成や,集団的活動を効果的にするために必要な忍耐,協力,責任,明朗というような精神や態度,能力が不足しがちであるから,身体活動を通して望ましい人間関係を育成するように指導することも運動技能の指導とともに体育科のたいせつな内容である。

また日常生活においてろう児童は適切なレクリエーションが少ないので,健全な,余暇利用の態度や技能が養われるよう,特に指導上の配慮が必要である。

(2) 教科以外の活動

教科以外の活動は,教科としては組織されないが,小学部における教育の目標の達成に寄与する有効な学習活動で教育課程の一部として,教科の指導以外に時間を設けて指導を行うものである。

教科以外の活動においては,一般的に次の諸目標に重点がおかれる。

1.民主的な生活について望ましい態度と習慣を養い,公民的資質を向上させる。

2.健康についてよい習慣を育て,個人的および社会的健康に留意させるとともに不慮の危険を防止し,これに対処する能力と習慣を養う。

3.個性に即して健全な趣味を育て,余暇の活用などに対する望ましい態度や技能を養う。

その活動の領域は,広範囲にわたるが,年間を通じて計画的継続的に指導すべき活動としては,学級会活動,児童会活動およびクラブ活動がある。

これらの活動についてはいずれも児童の生活の実態とその必要や能力に応じ,また学年の発達段階と学級の性質その他児童相互の集団構成などにも充分な考慮をはらい,児童の自発的な活動が健全に行われるように計画し指導しなければならない。

教科以外の活動の指導にさいしては,言語指導や教科との関連をもじゅうぶん考憲し,視聴覚資料やその他日常生活の実践に役立つ指導資料などを,豊富に与え,自発的な活動の場を構成して社会的な経験領域を拡充させることにつとめなければならない。

(3) 指導時間数

小学部各学年における教科と教科以外の活動の指導時間数および総指導時間数は,次の表のとおりに定める。

 

教科と教科以外の活動の指導時間数および総指導時間数

\学年 1 2 3 4 5 6
教科 国 語 304〜380 304〜380 266〜380 266〜380 228〜380 228〜380
(8〜10) (8〜10) (7〜10) (7〜10) (6〜10) (6〜10)
社 会 76〜114 114〜152 152〜190 152〜190 152〜228 152〜228
(2〜3) (3〜4) (4〜5) (4〜5) (4〜6) (4〜6)
算 数 76〜114 114〜152 152〜190 152〜190 152〜228 152〜228
(2〜3) (3〜4) (4〜5) (4〜5) (4〜6) (4〜6)
理 科 38〜76 38〜76 76〜114 76〜114 114〜152 114〜152
(1〜2) (1〜2) (2〜3) (2〜3) (3〜4) (3〜4)
独 唱 38〜76 38〜76 38〜76 38〜76 38〜76 38〜76
(1〜2) (1〜2) (1〜2) (1〜2) (1〜2) (1〜2)
図 画 76〜114 76〜114 76〜114 76〜114 76〜114 76〜114
工 作 (2〜3) (2〜3) (2〜3) (2〜3) (2〜3) (2〜3)
家 庭 −−− −−− −−− −−− 76〜114 76〜114
        (2〜3) (2〜3)
体 育 114〜152 114〜152 114〜152 114〜152 114〜152 114〜152
(3〜4) (3〜4) (3〜4) (3〜4) (3〜4) (3〜4)
教科以外の活動 38〜76 38〜76 38〜76 38〜76 76〜114 76〜114
(1〜2) (1〜2) (1〜2) (1〜2) (2〜3) (2〜3)
総指導時間数 836〜912 874〜950 950〜1064 988〜1102 1064〜1216 1064〜1216
(22〜24) (23〜25) (25〜28) (26〜29) (28〜32) (28〜32)

備考

(1) この表は教科および教科以外の活動に必要な年間の最低および最高の指導時間数ならびに総指導時間数を示す。また,併せて1年間38週の指導を行ったとき,1週当りの平均指導時間数を()の中に示す。

(2) この表に示された時間数は,すべて50分をもって1単位時間とする。ただし,これは指導を50分ごとに区切るべきであるという意味ではない。

(3) 各教科および教科以外の活動の指導時間の間に適当な休憩および昼食の時間を設ける必要があるがこれらの時間は,この表に示す時間数には含まれていない。

(4) 実際の指導にあたっては,教科の統合をはかるなど,実情に即して指導する場合においても,この表に示された時間数をもととしなければならない。

(5) 私立学校においては,この表に示された教科および教科以外の活動のほかその必要によって宗教に関する教科を設けることができる。

この場合,総指導時間数は,この表に示された時間数の範囲をこえてはならない。

3.学校における教育課程の編成

学校における教育課程は,上に示したところに従い,次に述べる諸点に留意して具体的に編成されなければならない。

(1) 同じ学年あるいは学級に在籍する児童の間にも,個性と発達の差はもとより,聴力の程度,失聴の時期に相違があり,またその中には年令や教育歴を異にするものもある。

学校においては,個々の児童の特性についての適確な資料に基き,できるだけ個々の児童の必要に応ずることのできる教育課程を編成しなければならない。

特にはなはだしい遅滞を示すものや,心身に他の障害を併せて侍つものについては,その指導上特別な考慮を払うように努めなければならない。

(2) 児童の望ましい経験を発展させるために,教科間の連関をじゅうぶん考慮し,内容の重複や間げきを避け,身体的,知的,社会的,情緒的な経験が,全体として釣合いがとれて学習されるよう配慮しなければならない。

(3) 1週間あるいは1日の指導計画においては,いろいろの活動を組み合わせ,学習に変化と調和を保って指導ができるよう,教科ならびに教科以外の活動の配列と配当時間数を考慮し,児童の充実した学習が積極的に行われるように配慮する一方,児童の負担の過重に陥らぬように注憲しなければならない。 

(4) 低学年の児童の学習は心身の発達に即して,教科の区別にあまり強くとらわれることなく,たとえば言語指導を中心として,いくつかの教科を統合して指導するほうが効果的である場合などがある。その場合も,統合された各教科の目標はじゅうぶんに達成されるよう周到な計画のもとに指導を行わなければならない。

一つの教科に週当り1時間の指導時間を配当するような場合は,むしろこれを関連する他教科と統合して指導するのが望ましい。

(5) 道徳教育,健康教育については,教育課程の全体計画において重視しなければならない。その指導は各教科および教科以外の活動において,互に関連をもって,あらゆる機会をとらえ,あらゆる活動を通じて行われることが望ましい。

(6) 教育課程は,それぞれの学年の発達段階に即し,小学部全体として発展的系統的な組織をもって編成されなければならない。

小・中学部の教育課程は一貫性をもって編成されることが必要である。幼稚部との関係も同様である。 

(7) 学校における職員組織・学級編成・校舎・運動場・学校図書館・寄宿舎等の施設,実験実習,給食その他の設備をじゅうぶんに整備することは,すぐれた教育課程の編成に欠くことのできないものである。

しかし,教育課程の編成に当っては,これら学校における環境の条件を吟味し,それに即して有効な学習が行われるように留意しなければならない。

特に補聴器,聴力測定器,視覚教具その他必要な教具の活用によって,学習の効果をじゅうぶんにあげるよう配慮することが望ましい。

(8) 地域の自然的・社会的環境に即して教育課程は編成されなければならないが,一方地域の人々のろう教育に対する理解を深め,その協力を得ることがたいせつである。

とかく校内に引籠りがちな児童の経験を広げ,社会性を伸すための効果的な学習が行われるためにも,地域との関係は重視しなければならない。

(9) 生活指導の機会は,教科および教科以外の活動においても多く見いだされるが,その指導の徹底をはかるよう教育課程の編成においても留意しなければならない。

家庭との関係はもとより,寄宿舎生活をする児童については,寄宿舎における指導,または通学児童については,通学途上の安全指導などとの関係は,教育課程のうえでも留意する。

(10) 教育課程は,学校における実践によって,絶えず評価され,所期の教育目標がどの程度達成されたかを確かめなければならない。これに基いて教育課程の改善について適切な措置がとれることがたいせつである。

第3章 中学部の教育課程とその編成

1. 中学部の教育の目標と教育課程の性格

中学部においては,小学部における教育の基礎の上に,心身の発達に応じて,中等普通教育を施し,その教育の目標は,中学校における教育の目標に準ずるものとする。

 

中学校における教育の目標は学校教育法第三十六条において次のように定められている。

一 小学校における教育の目標を、なお充分に達成して、国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと。

二 社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。

三 学校内外における社会的活動を促進し、その感情を正しく導き、公正な判断を養うこと。

中学部の教育課程は,この目標の達成を目ざし,この時期におけるろう生徒の成長と発達に即し第一章に示すところに留意して編成されなければならない。

この時期の生徒は,小学部の教育において,ようやく基礎的な言語力が身につき,各教科の学習においては理解もかなり深まり,特別教育活動もしだいに活発となって,経験領域はいっそう拡充されてくる。したがって,中学部の教育課程は,小学部と同様になお言語に関する学習に綿密な配慮を重ねつつ,これに加うるに多くの学習経験を豊富に与えて各教科および特別教育活動の諸目標が調和を保って達成されるよう特に注意して編成されなければならない。なお,この時期の生徒に対する目標としては,将来の職業を選捉したり,職業についての基礎的な能力を習得させたりすることを重視し,教育課程の編成に当っては,この点にじゅうぶん留意しなければならない。

また,この時期の生徒は,しだいに自分の聴力の欠陥や,その影響を強く意識し始め,その結果,情緒的,社会的な面において不安な状態に陥りやすいから,その指導には適切な配慮を必要とする。

2.教科と特別教育活動

(1) 教 科

中学部の教科は,これを必修教科と選択教科に分ける。

必修教科は、国語、社会、数学、理科、図画工作、保健体育および職業・家庭を基準とし選択教科は、律唱、外国語及び職業・家庭を基準とする。

ろう学校中学部におけろ各教科の目標は中学校における各教科の目標に準ずるものであるが,この目標を達成するためにはろう生徒の特性にかんがみて留意すべき点が多い。以下,中学校の各教科の目標およびろう学校中学部における留意事項を示す。

 

国語科

中学部における国語科は小学部教育の基礎の上に立って,生徒の発達に応じて国語科の一般目標をさらに高い程度に,達成するようにしなくてはならない。

この時期の生徒は,すべての方面において,その学習の範囲が拡大し,内容も豊富になり,文学についての理解もましてくる。したがって,国語科においては生徒の持つ基礎的な言語力をさらに伸ばすことに努めるとともに,これを広く生かして,いろいろな図書や,書かれた資料を効果的に利用して,進んで自分の学習を行う態度や技能を養うことがたいせつである。そのため,図書館の利用や,辞書の用い方などについても,他教科の内容と関連させて適切に指導することが必要である。

また,このころの生徒は,青年期の段階に入り,心身の発達にも変化をきたす時であるから,言語指導のすべての面において,悪いくせがつかないよう,特に発語の面にも適切な指導が必要であり,基礎的な文型や語いにも習熟して正しく使用できるよう綿密な配慮が必要である。

特に集団の話合いに参加したり,学校や家庭の身近かな人以外の人々と話し合ったりする必要が多くなって来るので,いろいろな場面に即応して,相手の話の内容の要点を整理したり,自分の考えを要領よく効果的に伝えることができるように指導しなければならない。

 

社会科

中学部における社会科では小学部における社会科の基礎の上に立って,次の目標の達成に努めなければならない。

中学校における社会科の目標は次のとおりである。

1.国家・地方公共団体,その他さまざまの社会集団における人間の相互関係についての理解を深め,これらの集団の機構や機能について,小学校よりも,より広い見地から,系統だてて理解させる。そして歴史的背景や世界的視野の裏付けのもとに,現代日本において,政治・経済・社会・国際関係などにおいて,どのような問題があるかについて目を開かせ,日常生活を通して民主主義を現代のわが国の政治的・経済的・社会的活動に具体的に生かしていく能力や態度を養う。

2.日本の各時代の概念を明確につかませ,歴史の発達過程を総合的に理解させ,国家の伝統と文化について,正しい理解をもたせる。また,日本の歴史ばかりでなく,世界史的な内容を通して,日本史に関するものを主体としながらも,それとの関連において世界史の流れをとらえ,結果においては,その時代系列のあらましがつかめるようにする。そして現代のわが国における政治的,経済的,社会的な諸問題が,どのような歴史的背景を持っているかを理解し,国家の伝統と課題について,歴史的考察力を養う。さらにまた,歴史は,人間の自然環境に対するはたらきかけや,社会をよくしていこうとする人々のたゆまない努力によって発展するものであること,歴史的発展には地域や民族によって特殊性があること,また各時代,各社会の人々の活動には共通な人間性が見られることなどについても理解させ,それによって,社会生活の発達に対する自己の責任感や,人間相互の関係における協調の精神を養う。

3.政治的,経済的,社会的,国際的観点を小学校よりも強化して,日本や世界の各地域の生活の特色を,他地域との比較・関連において明確につかませ,その地域の生産その他の諸事象が相互に関連性をもつことや,各地域が日本や世界の中で占めている地位について理解させる,なお世界の中でも,特に,アジア=太平洋地域における諸問題についての関心を深めること,これからのわが国では国民が自然環境に対して積極的に働きかけること,国際的協調に対して努力することなどがたいせつであることについても,理解を深める。

そして,地域相互間の関係,人間と自然との関係を考察し,人々の生活は土地によって特色があるが,その底には共通な人間性が流れていることを理解して,わが国が当面している問題について地理的に考察する態度や能力を養い,国家や郷土に対する愛情を育てる。

4.小学校よりもさらに広く深い領域を学習させることにより,民主主義の諸原則についての理解をいっそう深め,それがわれわれの幸福にどのような関係をもっているかについて理解させ,これを実際の生活に生かしていく態度を養う。また,それぞれの具体的事象についての学習を通して,国を愛する心情や他国や他国民を敬愛する態度を養う。

生徒は言語力の基礎がようやく身についたときであり,経験領域もまだじゅうぶん豊かではない。しかし個人的・社会的な必要や要求も小学部の頃に比べて一そう高くなっている。

したがって,生徒の発達に即して用語の点においても,内容の面においても困難や抵抗のないよう正しく理解させるように努めなければならない。

特に社会集団における人間関係を理解させるにとどまらず,積極的な生活意欲をもち,望ましい人間形成に向って努力する態度が養われるよう指導上の配慮が必要である。

特に小学部におけると同様,視覚教材の使用や実地見学をいっそう効果的に行うことがたいせつである。

 

数学科

中学部における数学科は小学部における算数料の基礎の上に立って次の目標の達成に努めなければならない。

中学校における数学科は次のことを生徒の身につけさせることを目標とする。

1.数学の有用性と美しさを知って,真理を愛し,これを求めていく態度を養う。

2.明るく正しい生活をするために,数学の果している役割の大きいことを知り,正義に基いて自分の行為を律していく態度を養う。

3.労力や時間などを節約したり,活用したりする上に,数学が果している役割が大きいことを知り,これを勤労に生かしていく態度を養う。

4.自主的に考えたり行ったりする上に,数学が果している役割の大きいことを知り,数学を用いて自主的に考えたり行ったりする態度を養う。

5.数学がどのようにして生れてきたかを理解し,その意義を知る。

6.数学についての基礎となる概念や原則を理解する。

7.数量的な処置によって,自分の行為や思考をいっそう正確に,的確に,しかも能率をあげるようにする能力を養う。

8.自分の行為や思考をいっそう正確に的確に,しかも能率をあげるようにすることが,どんなに重要なものであるかを知り,これを日常生活に生かして行く習慣を養う。

9.社会で有為な人間となるための資質として,数学についてのいろいろな能力が重要なものであることを知り,数学を生かして社会に貢献していく習慣と能力とを養う。

10.職業生活をしていくための資質として,数学についてのいろいろな能力が重要なものであることを知り,いろいろな職業の分野で,数学を生かして用いていく習慣と能力を養う。

算数科におけると同様に,この時期の生徒には特に文章で示された事実問題の学習にはまだ困難が多い。したがって,実際の場面における具体的な経験を通して,いろいろな数や計算の意味をじゅうぶんに理解させるとともに,問題場面を理解し,その中における数量的な関係を考えた上で,そこで用いられる数や計算を適切に判断させることをじゅうぶん指導することが大切である。

特にこの時期の生徒はまだ言語による推理,判断力が不足しているので,視覚教材をじゅうぶん活用して,数学的思考を伸ばすとともに,言語指導にも適切な配慮をしなければならない。

 

理 科

中学部における理科は小学部における理科の基礎の上に立って次の目標を達成させるように努めなければならない。

中学校における理科の目標は次のとおりである。

1.われわれの生活を改善するのに役だつような,科学的な事実や原理に関する知識を得る。

2.人と自然界との関係を理解し,さらに,人は他の人々,いろいろな生物,自然力の恩恵を受けていることを理解する。

3.人体や個人および公衆衛生についての,基礎的な知識や理解を得,健康的な習慣を形成しようとする気持ちを起し,さらにその実現に努める。

4.自然の事物や自然現象を観察し,実際のものごとから直接に知識を得る能力を養う。

5.自然の偉大さ,美しさおよび調和を感得する。

6.自然科学の業蹟について,社会に貢献するものと有害なものとを明らかに区別し,さらにすべての人類に最大の福祉をもたらすように,科学を用いなければならないという責任感を持つ。

7.科学の原理や法則を日常生活に応用する能力を高める。

8.一定の目的のために,原料や自然力を効果的に,また安全に使う能力を高める。

9.科学的な態度とはどのようなものであるかを理解する。たとえばいろいろな事実に基いて一応の結論が得られても,偏見を捨てて,さらに多くの事実を探究し,じゅうぶんな証拠が得られるまでは,判定をさしひかえる。

さらに,こうして得られた結論でも,別の事実にあてはめてみて深く吟味する。

 

10.問題を解決するために,科学的な方法を用いる能力を高める。

11.現代の産業および商業生活において,科学に関する知識や科学的習慣が重要であることを認識し,また,それらを習得して,職業の選択に役だたせる。

12.正確に観察し,測定し,記録する習慣を形成する。

13.道具をたくみに使いこなしたり,機械その他,科学的に作られたものを正しく取り扱ったりする技能や習慣を養う。

14.人類の福祉に対する科学者の貢献と,科学がどのようにして現在の文明を築くのに役だったかを理解する。

15.科学のいろいろな分野における専門家を尊敬する態度を養う。

16.他の人と協力して,科学上の問題を解決しようとする心がまえをもつ。

この時期の生徒は,経験の範囲がかなり拡大し,具体的な事物や現象に会うことが多くなっている。

しかし,まだ言語による論理的な思考力が不十分であるから,実験観察の能力をさらに進めるとともに視覚教材の利用などにより因果関係の理解を進めることがたいせつである。

 

図画工作科

中学部における図画工作科は小学部における図画工作の基礎の上に立って,次の目標の達成につとめなければならない。

中学校における図画工作科の目標は,次のとおりである。

1.生徒を個人としてできるだけ完成する助けとして,

(1) 絵や図をかいたり,意匠を創案したり,物を作ったりする創造活動を通して,生徒の興味・適性・能力をできるだけ発展させる。

(2) 日常生活を営むに必要な,造形品の実用価値や美的価値を判断し,有効なものを選択する能力を発展させること。

(3) 造形品を有効に使用する技能を発展させる。

(4) 美術品および自然のよさを鑑賞する能力を発展させる。

(5) 前の各項と関連して,余暇を有効に過ごすための多くの興味や技能を発展させる。

 

2.生徒を社会人および公民としての完成の助けとして。

(1) 創造的な表現力を社会生活に活用する技能を発展する。

(2) 人間の造形活動の意味を理解し,その価値を理解する能力を発展する。

(3) 造形の用具材料および造形品の使用を通して,公民として必要な態度を発展させる。

(4) 生徒の職業的な興味・適性・技能と,経済的生活の能力を発展させるために必要な理解と技能を養う。

ろう学校中学部における図画工作科は,小学部における図画工作科にひき続いて,生徒の情操の発達にいっそう留意し,また知的な面や,手先の器用さの発達を考慮して,単に,創造的個性の発展のみでなく,その基礎となる各種の表現や鑑賞活動の基本的知識や技能を重視しなければならない。

 

保健体育科

保健体育は,体育学習と保健学習とじゅうぶんな関連をもって指導する。

体育学習は,小学部における体育科の基礎の上に立って,次の目標の達成につとめなければならない。

中学校の体育の目標は次のとおりである。

1.身体的発達を助長し,よい姿勢・習慣を確立する。

2.身体活動に対する経験を広げ,基礎的技能を発達させる。

3.情緒の安定を高める。

4.社会的態度を発達させる。

5.余暇活動の基礎を養う。

ろう学校中学部における体育学習は,小学部における体育科の留意事項にもとづきさらにすすんだ程度において十分な指導ができるよう配意する。

健全な余暇利用の基礎を培うことに留意しなければならない。

特にこのころの生徒は心身の発育に変化をきたす時期であるから,身体活動を通して均衡のとれた発達が促されるように留意し,またリズミカルな動作にもいっそう習熟するように指導しなくてはならない。保健学習は小学部教育の基礎の上に立って,次の目標の達成に努めなければならない。

中学校における保健学習の目標は次のとおりである。

1.個人の健康成立の基礎的な諸条件ならびに健康についての科学的な考え方について理解し,これに基いて身近な生活における保健問題を解決する態度・能力を養う。

2.自己の健康について理解し,これに基いて適切な保健活動を行う習慣・態度・能力を養う。

3.病気やけがとその予防について理解し,病気やけがの予防や救急処置に必要な保健活動を行う態度・能力・技能を養う。

4.健康と学習や仕事との関係について理解し,これに基いて学習や仕事を健康的に行う能力・態度を養う。

5.健康な精神について理解し,これに基いて生活を楽しく進める習慣・態度を養う。

6.集団の健康について理解し,進んでその健康を高めることに協力する態度を養う。

ろう学校中学部における保健体育学習では特に聴力障害からおこる危険の防止は,小学部と同様特に留意して取り扱い,自分の障害について正しい認識をもって,日常生活における不測の災害を防止し,事故に対処する能力と習慣が養われるようにしなくてはならない。

なお,この時期の生徒は,身体の発育は,普通の生徒とほとんど差異はなく,性に関する指導が必要となる。ところが,家庭から離れている生徒が多く,正しい知識を得ることが困難であるから,性教育についても,保健の内容として適切な指導を行わなければならない。

 

職業・家庭科

中学校における職業家庭科は,われわれの生活に必要な知識・技能・態度を身につけ,家庭および社会の一員として,その家族や社会の発展のために力を合わせることの意義を自覚し,みずからの能力に応じた分野を受けもって,その力をじゅうぶんに発揮し,職業生活・家庭生活の改善向上を図るようにさせることを目ざす教科である。

この趣旨に基いて具体的に考えてみると,次のような目標をあげることができる。

1.基礎的な技術を習得させ,基本的な生活活動を経験させる。

2.産業ならびに職業生活・家庭生活についての社会的・経済的な知識・理解を得させる。

3.科学的,能率的に実践する態度・習慣およびくふう創造の能力を養う。

4.勤労と責任を重んずる態度を養う。

5.将来の進路を選択する能力を養う。

一般に,ろう生徒に対しては,狭い範囲について職業の技能の習得を偏重しがちであるが,中学部の職業・家庭科においては,家庭および職業生活について,一般的教養として基礎的な理解や態度を養うことを重視しなければならない。

多くの生徒は,この時期に将来の進路を選択し決定する必要があるので,その指導にあたっては個性の発見と,進路の指導に努めなければならない。

なお,生徒の年令や,地域の事情によっては,選択教科として課す場合には,特定の職業について専門的な技能の基礎になるものについて指導することができる。

 

律唱科

中学部における律唱科は,小学部における律唱科の基礎の上に,いっそう進んだ身体運動や,歌唱,器楽演奏などの活動を通して,リズムやあるいはさらに進んで音楽についての簡単な知識を得させ,生活により高いうるおいを持たせることを目標とする。

リズムを中心とした歌唱や身体活動は,小学部と同様に国語科や保健体育科と関連させて取り扱い,また各種の教具の利用についても,なお周到な注意を払わなければならない。

この時期の生徒は,言語力の基礎もようやく身についた時であるから,小学部よりもさらに進んだ程度において,自然な話し方のリズムと身体の均衡や,つりあいを,楽器の振動の触覚などによって,一そう確実に感知させるとともに,聴力の程度によっては,器楽の演奏や鑑賞の領域においても,しだいに高い程度の素材を生徒に無理のないように留意して取り扱わせて指導しなくてならない。

 

外国語科

中学校における外国語科は,外国語の聞き方,話し方,読み方および書き方の知識および技能を伸ばし,それを通してその外国語を常用語としている人々の生活や文化について理解を深め,望ましい態度を養うことを目標とする。

この目標を達成するために,ろう学校では次の点に留意しなければならない。

外国語の読話や発語の面に無理な要求をすることなく,読み方,書き方およびその基礎になる外国語の理解に重点をおき,社会人としての生活に必要な日常の外国語の知識を習得させるよう留意しなくてはならない。

(2) 特別教育活動

特別教育活動は,教科としては組織されないが,中学部における教育の目標の達成に寄与する有効な学習活動で,教育課程の一部として,教科の指導以外に時間を設け,すべての生徒に対して指導を行うものである。

特別教育活動における目標については,小学部における教科以外の活動の発展として,なおいっそう生徒の自主性・協同性を重視する。

なお,将来の進路を選択決定するのに必要な能力を養い個性の伸長を図ることは,この時期の生徒の重要な目標となる。

その活動の領域は,広範囲にわたるが,年間を通じて計画的継続的に指導すべき活動としてはホームルーム活動,生徒会活動およびクラブ活動がある。

これらの活動については,学校は,生徒の自発的な活動が健全に行われるように,周到な計画のもとに,指導をしなければならない。

特にこの時期の生徒には,将来の進路の選択や,その他いろいろな問題や困難が多いので,個々の場合に即した,適確な指導のための資料を準備し,特別教育活動を通じて,生徒の健全な成長がはかられるよう常に適切な指導と助言を行うようにつとめなくてはならない。

(3) 指導時間数

中学部各学年における教科と特別教育活動の指導時間数および総指導時間数は次の表のとおりに定める。

 

教科と特別教育活動の指導時間数および総指導時間数

\学年 1 2 3
教科 国 語 228〜304 228〜304 228〜304
(6〜8) (6〜8) (6〜8)
社 会 152〜228 152〜228 152〜228
(4〜6) (4〜6) (4〜6)
算 数 114〜190 114〜190 114〜190
(3〜5) (3〜5) (3〜5)
理 科 114〜190 114〜190 114〜190
(3〜5) (3〜5) (3〜5)
音 楽 114〜190 114〜190 114〜190
(3〜5) (3〜5) (3〜5)
図 画 76〜114 76〜114 76〜114
工 作 (2〜3) (2〜3) (2〜3)
保 健 114〜190 114〜190 114〜190
体 育 (3〜5) (3〜5) (3〜5)
職業・家庭 114〜152 114〜152 114〜152
(3〜4) (3〜4) (3〜4)
教科以外の活動 76〜114 76〜114 76〜114
(2〜3) (2〜3) (2〜3)
小 計 1026〜1216 1026〜1216 1026〜1216
(27〜32) (27〜32) (27〜32)
選択科目 律 唱 38〜76 38〜76 38〜76
(1〜2) (1〜2) (1〜2)
外国語 76〜152 76〜152 76〜152
(2〜4) (2〜4) (2〜4)
職業・家庭 114〜304 114〜304 114〜304
(3〜8) (3〜8) (3〜8)
総指導時間数 1140〜1330 1140〜1330 1140〜1330
(30〜35) (30〜35) (30〜35)

備 考

(1) この表は,教科および特別教育活動に必要な年間の最低および最高の指導時間数ならびに総指導時間数を示す。

また併せて1年38週の指導を行ったとき,1週当りの平均指導時間数を()の中に示す。

(2) この表に示された時間数はすべて50分をもって1単位時間とする。ただし,これは指導を50分ごとに区切るべきであるという意味ではない。

(3) 各教科および特別教育活動指導時間の間に適当な休憩および昼食の時間を設ける必要があるが,これらの時間は,この表に示す時間数には含まれていない。

(4) 実際の指導にあたっては,教科の統合をはかるなど,実情に即して指導する場合においても,この表に示された時間数をもととしなければならない。

(5) 保健体育科の保健学習については,3年間のうちに合計76時間の指導を行うものとする。これはいずれかの学年にまとめて実施してもよく,二年間又は三年間に分けて実施してもよい。

(6) 私立学校においては,この表に示された教科および特別教育活動のほか,その必要によって宗教に関する教科を設けることができる。

この場合,総指導時間数は,この表に示された時間数の範囲をこえてはならない。

3. 学校における教育課程の編成

学校における教育課程は,上に示したところに従い,第2章で示した留意点にあわせて,次の点に留意して,具体的に編成しなければならない。

(1) 選択教科は,生徒の個性と進路に応じ,その個人的必要を満たすために設けられたものであるから,学校では事情の許すかぎりその目的を果すように,教育課程を編成しなけれはならない。

(2) 総指導時間数を週当り32時間以内で計画する場合にも,必修教科に合わせて選択教科を履修させることが望ましい。

(3) 学校は,個々の生徒の適性・環境・進路の希望等に関する適確な資料に基き,生徒に個々の自覚と社会への認識を深めさせ,選択教科の履修の決定その他進路について,適切な指導を行わなければならない。