このページの先頭です:本文へスキップ

障害のある子どもの教育について学ぶ

現在の位置:トップページ >障害のある子どもの教育について学ぶ >肢体不自由教育 >肢体不自由のある子どもの「身体の動き」についての理解−概論編− 
ここから本文
肢体不自由のある子どもの「身体の動き」についての理解−概論編− 徳永亜希雄

PDFファイル

はじめに

肢体不自由のある子どもへの指導を考えるにあたっては、子どもたち一人一人の「身体 の動き」の特性について理解しておくことが大切です。学級担任や担当者のみでの理解が 難しい場合には、必要に応じて校内の自立活動担当者等に相談するなど、複数の目で行う ことも大切です。また、過去の記録等から情報を得たり、本人や保護者に直接尋ねたり、 本人や保護者に了解を取った上で医師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等の専門職 から必要な情報を得たりすることも大切です。

子どもたちの「身体の動き」を理解するにあたっては、@「身体の動き」そのものに注目して理解する、A全体像や他の分野との関連の中で理解する、B心身一元的な面に注意しながら理解する、といった視点が考えられます。各項の概略を以下に述べます。

  1. 「身体の動き」そのものに注目して理解する。
  2. ここでは「身体の動き」そのものを理解するための例を4つ紹介します

    なお、「身体の動き」のみに焦点を当てた場合、そのことにとらわれすぎて、実際のか、かわり方や指導も、本人や家族の生活の文脈と切り離されたものになってしまうこともあるため、十分に留意する必要があります。「あぐら座位ができない」という理解の仕方から、その子の実際の生活の様子を考慮せずに、単純に「あぐら座位がとれるようになる」という指導目標を立ててしまう、といったことがその例です。何のために「身体の動き」を理解しようとしているのか、という原点を忘れずに下記の例を参考に考えてみましょう。

    例1)運動発達の視点から

    目の前にいる子どもの「身体の動き」が発達段階のどのあたりにあるのか、という視点から理解する方法です。既存の発達検査等の指標を用いることも可能ですが、十分に理解するためには運動発達の基礎的な内容について知っておくことが大切です。そのことにより、今目の前にいる子どもが、この先どのような成長をしていくのかついての見通しが立ち、実際の指導を考えていく上でも役に立ちます。その際、留意しておきたいこととして、次のようなことがあります。

    • 肢体不自由のある子どもの場合には、一般的な発達の順序性が必ずしもそのまま適 用されるわけではなく、順序を飛び越えて発達したり、順序が逆になったりすることがあること
    • 運動発達には、様々な考え方があること
    • 運動は、それだけではなく、他の領域との密接な関連のもとで発達していくこと
    • 発達段階にとらわれすぎ、それを伸ばすだけの指導に直結しないようにすること

    例2)解剖学、運動学、神経生理学的、病理学等の視点から

    子どもたちの「身体の動き」を形作っている基礎的な内容として、下記のような内容を知っておくことも望ましいと考えられます。

    • 骨格や筋肉のバランスや大きさ、強さ等の状態
    • 各関節や身体全体の動きの方向性や範囲
    • 動きの背景にある神経系の特性
    • 疾患に基づく病理的な特徴

    ただし、これらについては誰でもすぐに理解できるわけではないので、分かりにくい部分については、自立活動担当者等の専門的な知識のある人に尋ねたり、本人や保護者の確認をとった上で医師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等の専門職に尋ねたりすることが必要となります。

    まずは、これらの視点から見た、子どもとかかわる上で注意すべきこと(例;肩が脱臼 しやすいので急に手を引っ張らない、大きい、或いは突然の音に過敏に反応して身体を突 っ張りやすいので声のかけ方に注意する、等)を知ることから始めるとよいと思います。

    例3) 生育歴、病歴、治療(手術、訓練、投薬等)歴等の視点から

    子どもたちの現在の「身体の動き」の状態像に至った経過を知ることも、今後の見通し を持つ上で役に立ちます。そのためには下記のような情報を集めるとよいと思います。

    • 生まれた時の週数や体重、その他の状態、現在に至る運動発達の経過
    • これまでかかった病気
    • これまで受けてきた手術の箇所や術式と今後の予定
    • 受けていた又は受けている訓練の方法や頻度
    • 服用している薬(特に副作用の傾向−筋肉の緊張が落ちる、眠くなる等−がヒントになります)の種類

    言うまでもなく、これらは個人情報の最たる内容ですから、取り扱いには十分配慮する ことが必要です。

    例4) 自立活動の指導内容に基づく視点から

    これは、学校の「個別の指導計画」での実態把握の欄によく見られる、自立活動の指導 内容「4 身体の動き(@姿勢と運動・動作の基本的技能、A姿勢保持と運動・動作の」 補助的手段の活用、B日常生活に動作に必要な基本動作、C身体の移動能力、D作業の円 滑な遂行)のそれぞれの内容を中心に、その子どもの「身体の動き」の状態そのものを理 解する視点です。

    この視点は、これまでの3つの例に比べて、実際的な活動としてよりまとまりのあるも のとして理解することが可能となります。また、子ども自身の状態だけではなく、機器類

    等も用いた上での状態像の理解が大切です。その意味では、子どもだけの力ではなく、それらを利用した上での「○○があれば△△ができる」といった理解の仕方が可能となり、例えば、「改造したスプーンを使うことによって,一人でスープが飲める」といった理解 ができます。その際「改造したスプーンがないと、一人でスープが飲めない」といった、 否定的な見方にならないように気を付けたいところです。

    一方、この視点では、そこで得られた内容をすぐに自立活動の指導内容に結びつけてし まいがち(靴を履く動作が十分でないので、靴を履く練習を繰り返す)になるおそれがあるので、他の内容と組み併せたり、優先順位を考えたりしながら取り扱う視点が大切です。

  3. 全体像やその他の関連の中で理解する〜 ICFを参考に
  4. 「身体の動き」が子どもの全体像の中でどのような意味を持ち、他のものとどのようなかかわりを持っているかを知ることが大切です。ここではICF(International Classification of Functioning, Disability and Health、国際生活機能分類)を参考に、具体的な事例を通して述べます。

    ICF とは障害があるが故の生活の送りにくさを、その人の、「健康状態」、「心身機能」、「身体構造」、「活動」、「参加」、「環境因子」の各構成要素の関連の中で多面的に理解するというものです。大まかにいういうと「身体の動き」は「心身機能」、「身 体構造」、そして「活動」の一部に対応したものとなります。ICFのイメージ図は以下の通りです。

    各構成要素の意味は、以下の通りです。

    心身機能 Body Functions;身体系の生理的機能(心理的機能を含む)
    身体構造 Body Structures;器官・肢体とその構成部分などの身体の解剖学的部分
    活動 Activity;課題や行為の個人による遂行のこと
    参加 Participation;生活・人生場面への関わりのこと
    環境因子 Environmental Factors;人々が生活し,人生を送っている物的な環境や社会的環境,人々の社会的な態度
    個人因子 Personal Factors;個人の人生や生活の特別な背景,健康状態や健康状況状外のその人の特徴

    次に、ICFの視点からは、次のような実態のA君は、後に続く図のようにイメージする ことができます。

    • 脳性麻痺という診断を受けており,下肢に運動麻痺がある
    • 移動にはクラッチを使って歩いたり,車いすを使用したりしている。
    • 住民の転出入があまりない,比較的保守的な地域に3世代家族で住んでいる。
    • 自宅から最も近いスーパーは,約50mのなだらかな坂を上った所にある。
    • 内向的な性格である
    • 近所のスーパーに買い物に行きたいが,行くことに心理的な抵抗がある。

    すなわちA君の「身体の動き」としては「下肢の動きにくさ」や「歩行の難しさ」がありますが、それだけでなく他の様々な要因と絡み合って、社会参加としての「買い物に行く」ということの難しさに結びついている、ということになります。逆に、生活に必要な買い物に行くことの難しさの原因は何かという発想から多くの要素の一つに「身体の動き」の様子を考えるという、いわゆるトップダウン的な見方もあります。

    このように、「身体の動き」のみの理解にとどまらず、子どもの全体像の中での意味、 他への関連のもとで理解する視点が大切です。

    (この事例については、養護学校の教育と展望133号に掲載予定の「養護学校での教育と展望」の中味を一部修正したものです)

  5. 心身一元的な面に注意しながら理解する
  6. 心身一元とは、心と身体は結びついたものである、という考え方です。その考え方に立 つと「身体の動き」は心の現れとして捉えることができます。すなわち、興味がある内、 容を聞いたら自然に前のめりの姿勢になる、親しい間柄の人と接する時には自然にその人 と近い距離をとる、といったことがその例です。

    しかしながら、肢体不自由がある場合は、そのことが難しく、そのために周りの人から 誤解を受けたり、人との関係を形成するのが難しくなることがあります。すなわち、人の 話に頷くことができないため、何も分かっていないと判断される、といったことがその例 です。

    したがって、私たちは、子どもの「身体の動き」だけを見て、そこからその子どもの内 面まで判断してはいけない、ということに十分に気をつけることが重要です。

    終わりに

    肢体不自由のある子どもの身体の動きの理解について概論を述べました最後に 強調しておきたいことを一つだけ述べます「身体の動き」について正確に理解しておく。 ことはとても大切なことですが、一方でそれにとらわれすぎてはいけない、ということで す。得てして、肢体不自由がある子どもと接する場合、その子どもの「身体」ばかりにと らわれ、その子ども全体が見えにくくなったり、そのことによって、その子どもがどんな 気持ちでいるのか、といったところに考えが及ばなくなる危険性もあります。そのことへ の十分すぎるほどの配慮が重要だと思います。

    (文責 徳永亜希雄)

本文おわりです

ページの先頭に戻る

メインナビゲーションへ戻る
このページはここで終わりです