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1-1-2a 視覚障害児のためのインターネットアクセス支援システム

日本アイ・ビー・エム

このページでは、平成14年度より2年間の予定で行われている「視覚障害児のためのトランスコーディング・システム」の実証実験について説明します。


1) 目的

インターネット、その中でもウェブはすでに社会的に基本的なインフラストラクチャーになっています。視覚障害のある児童・生徒にとってもウェブの使い方を学ぶことは重要です。しかし、ウェブには視覚に頼った2次元のレイアウト、フォントや色を変えることによる文字強調、画像など視覚的な要素がたくさん詰まっています。このため、視覚障害児のウェブ利用を支援する手だてが必要となります。そのような手だてを提供するのがこの支援システムの目的です。

2) 課題

(1) 弱視の子どもたちを支援するための課題

まず、視覚を補助するためにウェブページの文字・行間の拡大や画像の拡大、また、文字や背景の色を読みやすいものに変える技術が必要であり、これが第一の課題です。しかし、単に文字が大きくてコントラストのはっきりしたページを用意すれば済むかというと、そうではありません。障害の内容や程度はさまざまです。ある人にとって見やすい文字の大きさや色が別の人にとって見やすいとは限りません。たとえば、必要以上に文字を大きくすると、一度に見ることができる文字の数が減るため、ページ全体が読みづらくなってしまうことがあり得ます。ですので、文字等の拡大の仕方や色について一人ひとりに合った組み合わせを選択できるようにすることも課題となります。

(2) 全盲の子どもたちを支援するための課題

前述のようにウェブページには視覚的要素がふんだんに含まれているため、音声ブラウザで読み上げることにはさまざまな困難が伴います。中でも、常に発生し大きな問題となるのが、視覚を重視したレイアウト構成と画像の取り扱いです。

ウェブページは通常、視覚的効果を考えて重要な情報をページの中央部分に置くレイアウトを採用しています。しかし、音声ブラウザで読み上げようとすると、ページの中央部分に達する前にその上側や左側にある部分を延々と読み上げなければなりません。音声ブラウザでもページ内の重要な情報にすぐアクセスできるようにすることが大きな課題の一つです。

また、ウェブページ内にある画像は音声で読み上げることができません。ウェブページを記述するHTML言語仕様で、画像を表すタグにつけられるALT属性はこの目的のために用いられる代替テキスト情報です。ページ制作者によってこの代替テキスト情報が適切に提供されていれば、音声ブラウザはそのテキストを読み上げることによってその画像に関する情報を読み手に伝えることができます。画像にALT属性を与えることはHTMLの規格では必須とされていますが、守られていないことが多いのが現実です。そのような場合にも何らかの画像情報を提示することがもう一つの課題となります。

3) 解決のためのアプローチ

これらの課題を解決するために、「トランスコーディング・システム」のアプローチを採用しました。「トランスコーディング」とは、何らかの変換ルールに従ってウェブページを自動的に変換する技術のことです。たとえば、ウェブページの中の文字の色と背景の色を変えて見やすくすることはトランスコーディングの一種です。「トランスコーディング・システム」とは、トランスコーディングを行うために設けられたネットワーク上の関所のようなものです。このシステムを通してウェブページを見るように設定すると、ページは利用者の好みや特性(プロファイル)に応じて自動的に変換されるようになります。

トランスコーディング・システムのアプローチを採用する主な利点として、下記の点が挙げられます。

  • 自動的に変換されるため、利用者の負担がないこと
  • クライアントのパソコンと独立しているため、パソコン側で特別なウェブブラウザが不要であること
  • ウェブサーバの側でも特別な仕組みは必要ないこと
  • システム内で個々の利用者のプロファイルを管理することにより、利用者がどのパソコンを使ってもいつでも同じように自分の好みや特性を反映した見え方になること

4) 弱視の子どもたちを支援するための機能

ここでは、弱視の子どもたちを支援するために、トランスコーディング・システムに用意された機能について説明します。

(a)文字の拡大

ウェブページ内の文字を読みやすくするために、文字サイズを拡大する機能です。利用者は後述の「表示スタイル設定」の画面において、「文字拡大しない」、「やや大きい」、「大きい」、「かなり大きい」、「最大」の5通りの中から自分に合った大きさを選ぶことができます。この機能はトランスコーディング・システムが、ウェブページに CSS (Cascading Style Sheets) というスタイル記述言語を埋め込むことによって実現されています。

(b)行間の拡大

文字を読みやすくするために行間を調整する機能です。利用者は「表示スタイル設定」の画面において、「行間を変更しない」、「やや広い」、「広い」、「かなり広い」の4通りの中から自分に合った広さを選ぶことができます。この機能も HTMLの埋め込みにより実現されています。

(c)文字の色と背景の色の変更

文字と背景のコントラストをはっきりさせて読みやすくする機能です。利用者は「表示スタイル設定」の画面において、「色を変更しない」、「背景白/文字黒」、「背景黒/文字白」、「背景黒/文字黄」、「背景青/文字白」、「背景青/文字黄」の6通りの中から自分に合ったものを選ぶことができます。ここでは文字の色と背景の色を別々に選ぶのではなく、上記の固定された組み合わせの中から選びます。文字の色と背景の色を別々に選ぶようにすると、利用者の負担が増えるほか、「背景白/文字黄」のように見づらい組み合わせになってしまう危険もあるからです。この機能も HTMLの埋め込みにより実現されています。

(d)画像の拡大

画像の拡大に関しては、利用者は「表示スタイル設定」の画面において、「拡大しない」、「初めから拡大」、「マウスで拡大」の3つの中から選択することができます。

「初めから拡大」(静的拡大)は、ウェブページ内に含まれる画像を見やすくするために、すべての画像を一律2倍に拡大する機能です。この機能はトランスコーディング・システムが画像の幅・高さを2倍に設定することで実現されています。ただし、この機能を用いるとウェブページの内容によってはレイアウトが崩れたり、ウェブページ全体を表示するのに必要な面積が増大して横スクロールが必要になることがあります。

「マウスで拡大」(動的拡大)は、「初めから拡大」と異なり、画像の大きさは元のままで、利用者がマウスで指示した画像のみを2倍に拡大する機能です。利用者が見たい画像の上にマウスカーソルを重ねるとその画像が拡大され、マウスカーソルをその画像の上からはずすと元の大きさに戻ります。普段はすべての画像が元の大きさのままですので画像のためにレイアウトが崩れることはありません。この機能は JavaScript 言語をウェブページに埋め込むことによって実現されています。

(e)拡大表示のためのページ内容の並べ替え

多くのウェブページでは、内容を横方向に2列から4列程度に分けて並べるようなレイアウトを採っています。このような場合、一つの列あたりの横幅が狭いため、文字を拡大するとレイアウトが崩れて見づらくなったり、横スクロールが発生して右側の列の内容が見えなくなってしまうことが発生します。

「拡大表示のためのページ内容の並べ替え」はこれを防ぎ、文字拡大後も見やすいレイアウトにするために、ウェブページの内容を一列に並べ替える機能です。一列にすることにより、ブラウザ画面の幅を一杯に利用できるようになり、見やすさが向上します。利用者は「表示スタイル設定」の画面において、「並べ替えない」、「並べ替える」のどちらかを選択することができます。

この機能は「アノテーション」と呼ばれる技術を用いてウェブページの内容をいくつかのまとまった領域に分割し、それらの領域を重要な順番に縦一列に配置するようにページを書き換えることによって実現されています。領域間には水平線が引かれますので、視覚的に領域の区切りを認識することは容易です。また、一列に並べ替えられたページの最下部には各領域へ移動できるリンクを備えた目次が付加され、さらに各領域には目次へのリンクが挿入されます。これらのリンクをたどることによって領域単位での自由な移動も可能になります。

(f)表示スタイル設定

ここまでは単体の機能を説明してきましたが、これらの機能を組み合わせることができます。たとえば、文字は「大きい」、行間は「やや広い」、色は「背景黒/文字白」、画像は「マウスで拡大」、並べ替えは「並べ替える」、といった組み合わせです。このように機能を組み合わせることにより、利用者は多様な選択肢の中から自分に合った表示スタイルを指定できるようになります。この組み合わせが前節で説明した「プロファイル」にほかなりません。自分のプロファイルをトランスコーディング・システムに記憶させておくことにより、利用者はいつでもどのパソコンからでも自分に合った表示スタイルでウェブページを見ることができるようになります。

5) 全盲の子どもたちを支援するための機能

ここでは、全盲の子どもたちを支援するために、トランスコーディング・システムに用意された機能について説明します。

(a)本文へのリンクの埋め込み

前述のように、音声ブラウザでウェブページを読み上げる際、ページ内の重要な情報にたどり着くまでに時間がかかり過ぎることが大きな問題となっています。「本文へのリンクの埋め込み」機能は、重要な情報(ウェブページの本文)と思われる部分へ移動できるようなリンクをページの先頭に埋め込む機能です。このリンクをたどることにより、利用者は重要な情報へすぐにアクセスできるようになります。この機能は利用者が後述の「並べ替え」を選択しなかった場合には自動的に実行されます。

この機能はトランスコーディング・システムがウェブページを自動解析し、重要な情報(本文)と思われる部分を推定してリンクを埋め込むことにより実現されています。自動解析ですので人間が重要と思う部分とは異なる部分を「本文」と推定する場合があります。

(b)音声読み上げのためのページ内容の並べ替え

この機能も、上と同じ問題を解決するためのものです。「弱視の子どもたちを支援するための機能」における「拡大表示のためのページ内容の並べ替え」と同様、アノテーション技術を用いてウェブページをいくつかのまとまった領域に分割し、それらを重要な順に縦一列に並べ替えます。一列に並べ替えられたページの最下部には各領域へ移動できるリンクを備えた目次が付加される点、各領域には目次へのリンクが挿入される点も同じです。音声読み上げのための並べ替えではさらに各領域に前後の領域へ移動できるリンクも埋め込まれます。これは、弱視の場合と異なり、音声ブラウザでは領域の区切りを認識することが困難だからです。

音声ブラウザを利用してリンクをたどったりページの最下部へ移動する操作は簡単ですので、この機能を利用することにより、利用者は重要な順にページ内容を読んでいったり、領域単位で自由にページ内を移動することができるようになります。

この機能を「利用する/しない」の選択は、全てのページに自動挿入されるメニューで指定することができます。

(c)ALT属性の自動付加

これは、画像にALT属性が与えられていない場合に対処するための機能です。ALT属性の与えられてない画像があった場合、その画像に他のウェブページへのリンクが付けられていればそのリンク先のページを先読みし、そのタイトルを当該画像のALT属性とします。これにより、利用者は画像に関する情報を得ることが可能になります。なお、リンクが付けられていない画像に対してはそれ以上の情報が得られないため、この機能を適用することはできません。この機能を「利用する/しない」の選択も全てのページに自動挿入されるメニューで指定することができます。

6) 実証実験

本実証実験では、トランスコーディング・システムのサーバを中央ネットワークセンター内に設置しました。実験校として奈良県立盲学校のご協力をいただき、同校の児童・生徒のみなさんにトランスコーディング・システムを介してウェブページを閲覧していただく運用を2002年4月より行っております。今後2年の間に適時ユーザ・テストとアンケートを実施し、本支援システムの有用性・改善点を探っていきたいと考えています。

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