独立行政法人国立特殊教育総合研究所
The National Institute of Special Education

第1章 調査の背景と目的

 視覚に障害のある人の抱える問題のうち,単独歩行と並んで重要なのが文字の読み書きである。この課題の解決において,近年急速に進んでいる社会生活の情報革命は大変重要な役割を果たしている。すなわち,従来は印刷物の形態で提供されてきた国・地方自治体からの公示情報,地域情報,新聞,雑誌,私信など社会とのコミュニケーション・メディアが,近年は電子情報の形態で提供されるようになったため,コンピュータ及びインターネットを活用することで,視覚障害者もこれらの情報へ独力でアクセスすることが可能となったのである。
 視覚障害者,特に,印刷物などの文字を直接読むことのできない視覚障害者がコンピュータを利用するには,スクリーンリーダというソフトを利用する。これは,画面状況や打鍵文字を音声または点字でユーザに伝えるソフトである。その利用により,ワープロ・表計算・電子メールなどの一般アプリケーションを視覚障害者も利用することができる。インターネットのWebページを閲覧するには,スクリーンリーダを利用するほかに,Webページ音声化ソフトを利用することも多い。
 このような視覚障害者の自立的社会コミュニケーションを拡大するためには,コンピュータ利用環境の改善と利用の拡大,とりわけ,コンピュータ未利用者のための学習支援システムの確立が重要である。そこで,以下の3点を主たる目的として,視覚障害者の現在のコンピュータ及びインターネットの利用・学習状況を調査することとした。

(1)現在の利用状況を整理して,これから利用しようとする人の参考に供する。
(2)現在の利用上の問題点をアクセス・ツール開発者(メーカー・研究者等)に提供し,利用環境の改善(アクセシビリティの向上)を促す。
(3)学習状況の問題を整理し,これをもとに学習支援システムを提案する。

 報告者らは,本調査と同様な調査を2000年にも行った。一方,情報通信技術関連分野の状況は日々めまぐるしく変化しており,前回の調査から2年の間に,利用されているソフトウェア及びハードウェアが変化している可能性が高い。さらに,2001年から地方自治体が進めてきたIT講習により,視覚障害をもったコンピュータ利用者層の広がりも予測される。このような状況を踏まえ,資料の利用者に有効な情報を提供するために新たな調査が必要と判断し,このたび実施した。
 なお,調査では,2000年の調査と同様,パソコン用基本ソフトとして最も広く普及しているMicrosoft社のWindowsを搭載しているパソコンに関する質問を中心とした。



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