メルマガ連載記事 「特別支援教育に役立つアシスティブ・テクノロジー」
第2回


アシスティブ・テクノロジーの定義―その2:ISOからユニバーサルデザインまで―
 

棟方 哲弥 (企画部 総括研究員)  
 

はじめに

 今回はアシスティブ・テクノロジーの定義の2回目です。前回は、一貫して20年以上にわたり一言一句変わっていない米国の定義を紹介し、アシスティブ・テクノロジーの活用においては『支援機器』のみならず関連した『支援サービス』を含めて考えることが重要であると述べました。今回は視野を広げて、アシスティブ・テクノロジーに関連する用語について説明していきます。そうすることで、アシスティブ・テクノロジーの周辺には、障害のある人を支援する態度や思想のようなものがあることが見えてきます。
 

日本工業規格(JIS):JIS T 0102:2011

 第2回の連載の副題は「ISOからユニバーサルデザインまで」としていますが、まずは日本の標準規格であるJISをとりあげてみたいと思います。
JISは知っているけれど、アシスティブ・テクノロジーに関連した規格があると思っておられない読者の方も多いのではないでしょうか。
JIS(日本工業規格)は、工業標準化法(通常JIS法)に「利害関係人は、主務省令の定めるところにより、原案を具して工業標準を制定すべきことを主務大臣に申し出ることができる(第12条)」ものとされます。ここで紹介するJIS T 0102は、利害関係人として、財団法人テクノエイド協会が原案を作成したもので、福祉関連機器用語[支援機器部門]と呼ばれます。その規格概要には、「主に身体に機能障害のある障害者及び障害児、高齢者、在宅療養者などのための支援機器に関する主な用語とその定義について規定する」、とあります。
さて、前置きが長くなりましたが、日本工業規格におけるアシスティブ・テクノロジーに関連する一般用語の定義には以下の5つがあります。

  1. 『支援機器』:福祉機器、リハビリテーション機器、補助具、補助機器とも称される。障害者・高齢者の活動・参加を支援するための機器の総称(Assistive Products あるいはAssistive Technology)
  2. 『福祉用具』:福祉用具法では「心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人又は心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並びに補装具をいう。」と定義されているが、支援機器と同義に使われることが多い(Technical Aids)
  3. 『補装具』:障害者自立支援法に基づいて給付される支援機器であって、「障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつ、長期間にわたり継続して使用されるものその他の厚生労働省令で定める基準に該当するものとして、義肢、装具、車いすその他の厚生労働大臣が定めるもの」と定義(Prosthetic appliances)
  4. 『日常生活用具』:障害者自立支援法によって地域生活支援事業として給付または貸与される用具であって、「日常生活上の便宜を図るための用具であって厚生労働大臣が定めるもの」と定義(Assistive products for daily living)
  5. 『自助具』:障害者の日常生活の支援において、特定の機能を補い、障害者自身による作業を可能とするための簡単な道具(Self-help devices)

 これ以下には、さまざまな具体的な活動などを支援する機器が列挙されています。
このJISの基になった規格があります。それは、国際標準化機構(ISO)の規格です。それを次に紹介します。
 

国際標準化機構(ISO):ISO 9999:2011

 JISは日本の規格ですが、当然のことながら国際規格であるISOとの整合性を重視します。ISO 9999:「障害者のためのアシスティブ・プロダクツ-分類と用語-」は、第4版(2011年版)であり、現在第5版(ISO 9999:2015)の改定作業が進んでいます。この分野の製品の開発が継続的に行われているために常に改定が必要であることに加えて、2003年には、世界保健機構(WHO)国際分類ファミリー関連分類の一つとなったことで、国際生活機能分類(ICF)との整合性を保つなどの必要があるからです。
第4版から用語に「アシスティブ・プロダクツ」が採用されました。第3版(2002年版)ではテクニカルエイド(Technical Aids)が使われていましたが、変更になりました。この背景には英語の“AIDS”が後天性免疫不全症候群の略語との混乱を避ける意味もあったと言われています。
ISO 9999では、以下のように定義しています。

 『アシスティブ・プロダクツ』:アシスティブ・プロダクツとは、特別に作られたもの、あるいは一般に入手可能なものであり、機能障害(構造障害を含む。)、活動制限、参加制約を、予防、補償、観察記録、軽減、中和させる、あらゆる生産物(装置、装具機材、機具、技術やソフトウェアを含む。)である。

 第1回にご紹介した米国のアシスティブ・テクノロジーの定義に似ています。よく読むと、予防と観察記録という用語が入っています。これは障害者自身が使用するばかりでなく、介護者の利用するものも含まれるという定義です。また、米国の『支援サービス』という概念が入っていません。
また、この定義にはWHOの国際分類ファミリーとして、その整合性を保つために『活動制限』、『参加制約』など、ICFの定義から多くの部分がそのまま利用されていることが分かります。それでは、次にICFについて、見ていきましょう。
 

国際生活機能分類(ICF)の環境因子として

 ICFは、上に紹介したようにISO 9999と深い関連があります。ISO 9999は“国際分類ファミリーの関連分類”ですから、“国際分類ファミリー”であるICFに合わせることになります。実際には、ICFの改定グループとISO 9999の改定グループが連携して改定作業を行うことになっています。
さて、ICFとの関連する項目は、環境因子の1番目に上げられている『生産品と用具(products and technology)』です。この定義には『ISO 9999』が引用されていますが、さらに「しかし、環境因子の分類の目的に従い、ここでは支援的な生産品と用具(福祉用具)は、より狭く、障害のある人の生活機能を改善するために改造や特別設計がなされた、あらゆる生産品、器具、装置、用具と定義する」(ICF、 p.171)と書かれています。
すなわち、ICFにおける『生産品と用具』は、ISO 9999の定義より狭く、米国のアシスティブ・テクノロジーの『支援機器』と同等となります。支援機器に関わる『関連サービス』は含んでいませんので、『環境因子』としての生産品、器具、装置、用具は、米国のアシスティブ・テクノロジーのうち『支援機器』に該当すると考えて良いと思われます。なお、上の『生産品と用具』は、新しく発表された国際生活機能分類-児童版-(ICF-CY)では『製品と用具』となっています。このため”products”の訳は、今後は『製品』に統一されると思われますが、"technology"が『用具』と訳されることにも少し違和感を感じますにで、国際的な用語の日本語化の難しさを感じます。
 

ユニバーサルデザイン

 次に、米国のAssistive Technology Actに記述された『ユニバーサルデザイン』について、改めて説明します。ユニバーサルデザインとは「障害者を含む万人が、改造や特殊なデザインを出来るだけしないで済むような、製品や環境のデザイン」のことであり、「万人のためのデザイン(design for all)」とも呼ばれることがあります。
アシスティブ・テクノロジーとユニバーサルデザインの違いについて、障害者のみに特化したものをオーファンテクノロジー(orphanは孤児を意味する)と呼んで、これをアシスティブ・テクノロジーと呼んで、そうでなく障害者も使える一般用のものをユニバーサルデザインと呼び分けていることも行われています。このような用語間の関係は、後述する『アクセシブルデザイン』の部分でも紹介します。
ところで、このユニバーサルデザインには7つの原則が紹介されています。Ronald Mace博士による7つの原則です。7つありますが、一言でいえば、1つめの「利用の公平性」に集約されるかもしれません。
公平性とはどのようなことでしょうか。例えば、障害があるからと言って、他の人よりも余分にお金を払ってモノを購入することや回り道をしてスロープやエレベータを乗り継ぐことは「公平」とは言えません。後に述べる『共用品』の“ギザギザ”付きシャンプーがユニバーサルデザインとも呼ばれるのは、全ての人が同じ値段で、また同じ店で、同じものを買って、同じ目的に便利に使えるからだと考えれば良いのかもしれません。2つめ以下は、建築家であるMace博士の考え方がよく表れていると思われます。 

  Principle of Universal Design (万人の為のデザインに関する七原則)
 One: Equitable Use(公平に利用できること:使いやすく,かつ,市場性のあるデザイン)
 Two: Flexibility in Use(融通の利くこと:幅広い好みや能力に対応するデザイン)
 Three: Simple and Intuitive Use(シンプルで直感的であること:使用方法が誰にでも理解できるデザイン)
 Four: Perceptible Information(わかるように伝えること:感覚の障害や周囲の環境に左右されずに必要な情報が伝わるデザイン)
 Five: Tolerance for Error(操作を誤っても安心なこと:過誤や意図しない操作の際に起きる事故や思わぬ結果を引き起こさないデザイン)
 Six: Low Physical Effort(無理なく疲れないこと:効率良く心地よく最小限の労力で利用できるデザイン)
 Seven: Size and Space for Approach and Use(大きさや空間に十分な余裕のあること:利用者の身体の大きさ,姿勢,動作に左右されないよう十分な余裕を持たせたデザイン)
(From North Carolina State University, The Center for Universal Design, 1997) 

 このユニバーサルデザインの考え方を学習場面に発展させた例があります。それは、『学びのユニバーサルデザイン』です。これは、米国のCAST(Center for Applied Special Technology)が1998年頃から提唱してきたものです。その内容は、次のようなことです。

  1. 提示(Representation)に関する多様な方法の提供
  2. 行動と表出(Action and Expression)に関する多様な方法の提供
  3. 取り組み(Engagement)に関する多様な方法の提供

 これを提唱したDavid Rose博士は、これらを満たす可能性があるのは、まさにデジタル教材と言われるコンピュータを用いた教育ツールであると述べています。Rose博士は、1980年代に、Matthew君という脳性まひの少年に出会ったことで、これらの原則の重要性やコンピュータの可能性を見出して、同僚のAnne Meyer博士とともにCASTを設立して、今日に至っています。近年は脳科学の知見を用いて、学びのユニバーサルデザインの有効性を説明しています。

 これに関する最も新しい情報は、CAST (2011). Universal design for Learning guidelines version 2.0. Wakefield、 MA: Author. [キャスト (2011) バーンズ亀山静子・金子晴恵(訳)  学びのユニバーサルデザイン・ガイドライン ver.2.0. 2011/05/10 翻訳版]です。
以下のCASTのWebサイトから、これを含めた日本語版の資料をダウンロードすることができます。
http://www.udlcenter.org/aboutudl/udlguidelines/downloads
 

共用品

 それでは、さきほどのシャンプーを含めて、日本で提唱している『共用品』について考えて見ましょう。共用品は、共用品推進機構という機関が推進力となっています。そこでは、共用品・共用サービスを、身体的な特性や障害にかかわりなく、より多くの人々が共に利用しやすい製品・施設・サービスと定義しています。そして、その原則を以下のように定めています。

  1. 多様な人々の身体・知覚特性に対応しやすい。
  2. 視覚・聴覚・触覚など複数の方法により、わかりやすくコミュニケーションできる。
  3. 直感的でわかりやすく、心理負担が少なく操作・利用ができる。
  4. 弱い力で扱える、移動・接近が楽など、身体的負担が少なく、利用しやすい。
  5. 素材・構造・機能・手順・環境などが配慮され、安全に利用できる。(http://www.kyoyohin.org/01_towa/0100_kyou.php

 ところで、シャンプーの「突起」や「切り欠き」、あるいは缶ビールのお酒の「点字」があったとしても、点字を知らない人や、凹凸が分からない場合や、物理的に触れない場合もあり、完全な“Universal”などあり得ないことも事実かもしれません。その意味では、そういう方向性、指向性を持った態度が大切ということが言えるのではないでしょうか。
共用品と共用サービスのさまざまな具体例が、共用品推進機構の以下のWebサイトに紹介されています。
http://www.kyoyohin.org/01_towa/0101_kyou.php
 

アクセシブルデザイン

 アクセシブルデザインは、日本が1998年に提案し、2001年11月に日本が提案した国際標準「ISO/IEC ガイド71」に定義されています。ISOの加盟国がそれぞれの国で規格を作る際の「高齢者・障害者も考慮した規格作成における配慮点」が記述されたISOに関わる71番目のガイドです。そこでは以下のように定義されています。
『アクセシブルデザイン』:アクセシブルデザインとは、何らかの機能(performance)に制限(limitation)を持つ人に焦点を合わせ、これまでのデザインをそのような人々のニーズに合わせて拡張することによって、製品や建物やサービスをそのまま利用できる潜在顧客数を最大限まで増やそうとするデザイン(Accessible Design)であり、それを達成するための方策として;

  • -変更を必要とすることなく、多くのユーザーにすぐに利用可能な製品、サービス、環境をデザインする
  • -そうではないユーザーに対しては製品やサービスを適合可能にする(ユーザーインターフェースを適合させる)、そして
  • -障害のある人のための特別な製品に対して互換性のある、標準化されたインターフェースを持つことである。

 さらに、備考として、“『デザイン for All』、『ユニバーサルデザイン』、『インクルーシブデザイン』、『世代間共通(transgenerational)デザイン』は類似のものであるが、それぞれに異なる文脈で使われる。”こと、この“『アクセシブルデザイン』は、『ユニバーサルデザインの部分集合(subset)』”であることが述べられています。
 

 おわりに

 いかがでしたでしょうか。第2回は、さまざまなアシスティブ・テクノロジーに関連する用語について紹介してきました。さまざまな用語があって、アシスティブ・テクノロジーの定義を理解するためには、やや発散した解説になったかもしれません。しかしながら、アシスティブ・テクノロジーをせまい意味に『機器』と捕らえるのではなく、それを作り出した思想まで含めて理解することが、障害のある子どものためのアシスティブ・テクノロジー活用には大切であると感じます。
『アシスティブ・テクノロジー』(あるいは、別の呼び名で呼ばれるものかもしれませんが)は、障害のある子どもにとって生活のあらゆる場面でより幅広い活動を実現するために必要な、あらゆる“生身の人間には実現のできない領域”であり、それを実現させるためには、本人、周囲の人の考え方や、環境やシステムの本来の在り方までもが問われるのではないかと感じています。
それでは、次回からは、ニーズに合わせたさまざまなアシスティブ・テクノロジーの具体例を、その分類方法とともに紹介していきます。


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