メルマガ連載記事 「特別支援教育に役立つアシスティブ・テクノロジー」
第4回


特別支援教育に役立つ支援機器の紹介-その1:コンピュータへのアクセス-
 

棟方 哲弥 (企画部 総括研究員)  
 

はじめに

 教科書出版会社各社から指導者用の「デジタル教科書」が発売されたことで、以前にも増してコンピュータが学校の授業で利用されるようになると思われます。もちろん家庭でも携帯情報端末と合わせて、日常生活に欠かせないツールとなっています。その一方で、デジタル教材やインターネットの情報には動画や静止画、音声や文章があり、それらの情報が入り組むように提供されていますし、利用者は、それらを見ながらキーボードやマウスで操作が要求されます。携帯情報端末の場合には、手元で画面にタッチしながら操作することが多くなりますが、画面を見ること、キーボード入力などは、基本的にパソコンと同じ事を要求されます。このため障害のある人がコンピュータを使ってインターネットにアクセスしたり、教材を使用したりするためには、障害の種類や状態に合わせてコンピュータ等を「利用可能=アクセシブル」にすることが必要になります。

 このためコンピュータや携帯情報端末は、その基本ソフトウェアの機能として、それ自身が持っているアクセシブルなツールが提供されています。例えば、Microsoft社のWindows OSの「コンピュータの簡単操作」や「ユーザ補助機能」、Apple社のOS Xやi-OSでは「アクセシビリティ」などのアクセスを向上させる機能が標準で搭載されているのです。しかしながら、これらを使っても十分にニーズに応えられない場合が実際に多くあります。その時は特別なソフトウェアや装置、すなわち、コンピュータへのアクセスを可能にするアシスティブ・テクノロジーを付加的に利用することになります。

 前回のアシスティブ・テクノロジーの分類では、ローテク(low-tech)からハイテク(haigh-tech)などのアシスティブ・テクノロジーを説明しましたが、ニーズを満たす手立てが複数あるとすれば、よりローコストで、よりローテクなものが有利となります。ここではコンピュータへのアクセスのための手立てとして、新たなコストが発生しない基本ソフトウェアの機能の活用から、順にローテクからハイテクへと支援機器が並ぶように特別支援教育に役立つアシスティブ・テクノロジーを紹介していきます。

 ところで、障害のある人がコンピュータへアクセスする場合を含めてアシスティブ・テクノロジーに関する充実した情報が提供されるようになっています。そこで、まず、それらの代表的なリソースを紹介しておきたいと思います。
 

特別支援教育に役立つ支援機器の情報サイト-コンピュータへのアクセス-

 その代表例として東京大学の『エイティースクウェアード』、国立特別支援教育総合研究所の『支援機器等映像マニュアル』、『iライブラリー』、保健福祉広報協会の『福祉機器製品検索』,テクノエイド協会の『福祉用具情報システム』などのインターネット上の情報から支援機器を紹介します。
 

(1)東京大学の『エイティースクウェアード』

 同サイトのサイトポリシー(http://at2ed.jp/ply.php)には、同サイトが東京大学領域創成プロジェクトの1つである『学際バリアフリー研究プロジェクト(通称AT2ED エーティースクウェアード、以下AT2ED)』の活動の一環として制作されたことが書かれており、さらに「その特殊性ゆえに家電製品のようにどこの店にもあるわけではない福祉機器に関する情報を,誰もが容易に得られるようにすることを目的に,最新情報を常時追加・更新しています。この『AT2ED』に集められた情報から福祉機器へのニーズや市場の最新動向を把握し,機器利用効果の科学的データと連携させることで,先端技術シーズを持つ研究機関や企業に対して新製品開発への提案を行うことができます。(同サイトのAT2EDプロジェクトの説明より)」と書かれています。
このサイトでは、支援機器が、「製品カテゴリー」、「製品名」、「メーカー名」で検索ができるようになっていることに加えて、「こころWeb(http://www.kokoroweb.org/main.html)」で公開されていた「こころリソースブック」のデータを継承して、例えば「片手でしか入力ができないのでキーボードが使いにくい場合」など、利用者のニーズから支援機器を見つけ出すことができる優れたサイトになっています。 

 東京大学・学際バリアフリー研究プロジェクトトップページの様子

 

東京大学・学際バリアフリー研究プロジェクトトップページの様子
(こころWebのコンピュータ操作を補助する装置と製品カテゴリー一覧のメニュー部分を矢印で示しています)
http://at2ed.jp

 コンピュータへのアクセスに関する情報は、トップページから入って、メニューの「こころWeb」の中にある「コンピュータ操作を補助する装置」を開きます。そこで使用者のニーズを選んでいきます。それぞれのニーズに対して、対処の考え方と具体的な対処方法、さらに該当する支援機器のリストが用意されています。
製品カテゴリー一覧で検索する場合には、「コンピュータアクセス」の中の「代替入力」、「代替出力」、「入力補助」、「出力補助」、「設置」から選択することになります。キーボードやインターフェース、自助具、点字プリンター、アクセスソフトウェア、アーム、スタンドなどの価格を含めた製品スペック、解説、製品と発売元などのリンクが表示されます。なお、各製品のページにある販売元や開発元のリンク情報は、同サイト内に掲載されている同じ開発元の製品一覧を紹介するページです。同じ企業の製品を調べることで効率よく支援機器等を見つけることができるかもしれません。
 

(2)国立特別支援教育総合研究所『支援機器等映像マニュアル』

  同サイトのトップには、「こちらは、国立特別支援教育総合研究所「障害のある子どものための情報関連支援機器等の活用を促進するための教員用映像マニュアル作成に関する研究」(平成19年度~20年度)で作られた映像マニュアルです。」特徴は,情報関連支援機器を中心に動画で使い方を示しているところです。必要な活動と障害種別と機器のカテゴリーの組み合わせで検索することができます。
http://forum.nise.go.jp/ilibrary/htdocs/?page_id=38
 

(3)国立特別支援教育総合研究所『iライブラリー展示機器』

 国立特別支援教育総合研究所の「iライブラリー」という情報サイトにある機器データベースです。同サイトには「“障害のある子ども一人一人の教育的ニーズに応じた支援を実現するさまざまな教育支援機器やソフトウェアに関する展示室”です。」とあります。実際に研究所内に展示してある機器の紹介を行っています。支援機器名称、分類、基本的な使い方、主な対象障害等で絞り込んで検索することができます。
http://forum.nise.go.jp/ilibrary/htdocs/?page_id=74
 

国立特別支援教育総合研究所iライブラリーのトップページの様子

国立特別支援教育総合研究所iライブラリーのトップページの様子
(iライブラリー展示機器と支援機器等映像マニュアルのリンク部分を矢印で示しています)
http://forum.nise.go.jp/ilibrary/htdocs/


(4)保健福祉広報協会『福祉機器製品検索』

 同サイトの説明によれば「『福祉機器 製品検索』では、車いす、ベッド、トイレをはじめ日常生活用品から福祉車両まで、多彩な福祉機器約2,500点を調べることができます。(http://www.hcr.or.jp/search/index.html)」なっています。図に示したように、大分類から絞り込むことができます。また、詳細検索のメニューでは企業名で検索が可能となっています。良い製品が見つかれば、その製品を扱ったり、開発したりしている企業の製品を調べることで効率よく製品を見つけることができるかもしれません。
 

(5)公益財団法人テクノエイド協会ホームページ『福祉用具情報システム』

 同協会の「ごあんない」によれば「福祉用具を身体状況に合わせて適正に選択するためには、その福祉用具の仕様、構造、性能等に関する情報が大変重要です。福祉用具情報システム(TAIS:Technical Aids Information System)では、それらの情報を全国の製造事業者や輸入事業者から情報収集し、データベース化した国内最大の福祉用具データベースです。 高齢者や障害者の自立促進と介護者の介護負担を軽減する用具など、様々な福祉用具に関する情報が収録されています。(http://www.techno-aids.or.jp/kyokai/annai.pdf)より」。 同サイトでは、分類リストから目的とする製品のカテゴリーを選択して製品を検索することもできますが、同協会が持つ「福祉用具分類コード」と企業別の番号である企業コードを含む「TAISコード」という番号で製品を検索することもできます。

 

一覧表:特別支援教育に役立つ支援機器-コンピュータへのアクセス- [166KB pdfファイル]  

 一覧表は、上から順にローテクからハイテクへと支援機器が並ぶようにしています。すなわち、まず基本ソフトウェアに用意されている機能を最大限に利用してニーズを満たせるのかを検討します。そこから順に、価格の高い物へ、準備や設定が複雑なものへと並べるように心がけました。それぞれの項目に該当すると思われた支援機器名称を挙げて、説明や詳細情報を紹介したリソースを記述しています。

低価格/
ローテク




 


基本ソフトウェアのアクセシビリティ機能
アクリル製のキーガード
一般的なゲーム用のジョイスティック・トラックボール
 
高価/          
ハイテク
特別な入出力装置/ソフトウェア

 注:最近はハイテク製品がかならずしも高価とは限りません

  一覧表の中には、コンピュータや携帯端末の基本ソフトウェアのアクセシビリティ機能について、他の支援機器と並べて紹介しています。複数の指を使った動作で端末の画面を触ると、指先の当たる場所にあるメニューを読み上げるVoiceOverなどは、直接に画面にタッチする携帯情報端末で大きな力を発揮する新しいアクセシビリティ機能と期待されます。なぜなら、マウスなどは、その位置から相対的にしか動かせないために、視覚情報が無ければ、これを活用することは難しく、指し示したメニューを読み上げる機能があっても、あまり大きな意味があるとは考えられないからです。画面全体を手や指で絶対的位置によって探索するという状況になってことで、初めてVoiceOverの読み上げ機能が大きな力を発揮するように思われます。また、複数の指による「ジェスチャー」によって命令ができることも、この機能が有効に役立つ基盤になっています。
 ひと昔前になりますが、Windows OSなどのGUI(Graphic User Interface)としてマウスを用いたコンピュータ操作が主流になって、晴眼者にとってコンピュータの操作が直感的になって行く中で、逆に視覚障害の方のコンピュータへのアクセスが退行した時期がありました。今回の携帯情報端末の登場やこれへの移行は、新しいアクセシビリティ機能が合わせて登場したことで、以前に比べて、より多くの人がコンピュータや携帯情報端末にアクセスする機会を念頭に入れていると思われます。Webやe-Bookなど、コンテンツのアクセシビリティの向上も飛躍的に感じられます。
その一方で、機種によってはアクセシビリティ機能が、標準状態では日本語の音声読み上げに対応していないものや、利用できる入出力機器が限定される場合も多くある現状を改善することが重要と思われます。
 

特別支援学校における最近の活用事例 
-国立特別支援教育総合研究所のアシスティブ・テクノロジーに関する研究報告書から-

 これらの機器やソフトウェアを活用した例をあげておきたいと思います。上記の報告書では研究協力機関から得られた“アシスティブ・テクノロジーを活用した実践や特定の機器を使った経験”のリストが掲載されています。その中から「コンピュータへのアクセス」に関連する活用の実践タイトルを紹介します。実際の活用事例の一部は巻末に上げたケースブックにも掲載されています。

  1. 全盲の生徒を対象に,スクリーンリーダを活用してコンピュータの操作(Windows基本操作,メールの送受信,ホームページの閲覧など)を行わせた事例(愛媛県立松山盲学校)
  2. ロービジョンの生徒を対象に,画面配色設定の変更,画面拡大ツール,マウスカーソルを見やすくするツールなどを活用してコンピュータの操作(Windows基本操作,メールの送受信,ホームページの閲覧など)を行わせた事例(愛媛県立松山盲学校)
  3. インテリキーを活用したグループウェア掲示板書き込み支援(滋賀大学教育学部附属特別支援学校)
  4. 簡単キーボードを活用したグループウェア掲示板書き込み支援(滋賀大学教育学部附属特別支援学校)
  5. 個に応じたユーザ補助機能の設定(マウス機能のクリックロックやキーボード機能の固定キーなど)やコピーや保存などの操作時におけるショートカットキーの積極的利用を促した事例(筑波大学附属桐が丘特別支援学校)
  6. 上肢機能に不自由さがみられ作図が困難な生徒に,作図ソフトを利用して図形学習を行った事例(筑波大学附属桐が丘特別支援学校)
  7. 筋ジス(DMD)の高等部生徒が「ワンキーマウス」を用い,パソコンが使用できるようになった事例(北海道八雲養護学校)
  8. ネットワークの無線LAN化と児童生徒にノートパソコンを割り当て,学校・病院いずれでもインターネットを使用できる環境を作った事例(北海道八雲養護学校)
  9. 儀式における次第や校長の話をプロジェクターを使用して,視覚的に提示している実践(筑波大学附属久里浜特別支援学校)
  10. 脳性麻痺の児童を対象として,改造したゲームコントーラーを操作し好みの映像をパソコン画面で視聴した活動事例(群馬県立二葉養護学校)
  11. 聴覚障害を伴った運動障害の児童を対象に,タッチパネルモニターを活用して動画選択の学習を促した実践事例(群馬県立二葉養護学校)
  12. パワーポイントと改造マウス・スイッチを利用し,国語の授業で電子絵本活用した実践(大阪府立茨木支援学校)
  13. 上肢の動きに制限のある肢体不自由高等部生徒を対象にしたインテリキーでインターネット利用,文書作成を目的とした事例(長野県稲荷山養護学校)

(同報告書, pp.66-69より抜粋)
 

 終わりに

 今回は利用者の立場から、コンピュータへのアクセスするためのアシスティブ・テクノロジーについて紹介してきました。これまで紹介してきましたようにコンピュータへアクセスを可能にする支援機器やソフトウェアは不可欠ですが、コンテンツ自体が、それらの機器やソフトウェアで読みやすい形式に作成されていることが要求されます。これがコンテンツのアクセシビリティです。これらの配慮は、コンテンツ作成者に求められるわけですが、アクセシビリティの十分でないコンテンツに対しては、利用者としてフィードバックして知らせることも大切なことです。さらに今後は、自分自身が情報の発信者となる機会も多くなると思われます。このためにコンピュータへのアクセスを考える際には、支援機器とコンテンツの両方のアクセシビリティを考えることがますます重要となります。

 次回は、国連障害者権利条約で幅広く定義された「コミュニケーション」のための支援機器の紹介をします。

注:本資料では、一部に具体的な支援機器の名称が紹介されていますが、このほかにも多くの製品があると思います。ここでは特別支援教育に役立つアシスティブ・テクノロジーについて実際的な知識を得ることが目的であり、特定の製品を推奨するものではありません。
 

文献・サイト(サイトは全て平成24年6月26日に確認済み)

 


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