メルマガ連載記事 「サバン —自閉症の不思議で大きな可能性—」
第2回


サバンと自閉症(1)

国立特別支援教育総合研究所客員研究員 渥美 義賢  

  1.サバンの定義

 サバンはどのような状態をいうのでしょうか?サバンの普遍的な定義があるわけではありませんが、一般的にサバンは限定された領域で「卓越した能力」を示す現象、さらにそれを示す人と考えられています。
 「卓越した能力」は何と比べて卓越しているのでしょうか? 一般に、2つの点で考えられています。1つはサバンのある人が、その他の一般の人たちに比べて卓越していることで、もう1つはサバンのある人の中で特定の能力がその他の全般的な能力に比べて卓越していることです。
 この後者の面については、かってサバンが知的障害のある人における卓越した能力を意味していたことから、前者の条件があれば必然的にこの条件も満たされるので、あまり注目されることはありませんでした。
 しかし、知的障害を伴わない高機能自閉症(アスペルガー症候群を含む)等にサバンがみられることが少なくないとする報告が多くなり、一般の人たちと比べて卓越しているだけでは、必ずしもサバンとはいえなくなました。その人の中の全般的な能力の中においても、ある特定の能力が卓越していることが条件になっています。
 Miller(1998)は、それまでの文献を検討して総説を書いています。その中で、重度の知的障害を伴うサバンは少なくむしろ知的障害が軽いかそれを伴わない事例が多いことを報告しました。そして、サバンという用語は次のような2点が満たされる場合に用いられるべきであるとしました。

1) ある領域で一般的な基準[障害のない人たちの基準]と比べても優れている。
2) その領域におけるその人の能力は、その人の全般的な能力と乖離している。

これは、サバンの概略的な定義として現在までよく用いられています。
 

  2.サバンの分類

 Treffertはサバンを、「断片的才能(splinter skills)」「卓越した才能(talented)」「天才的才能(prodigious)」という3つの段階に分類しています。それらを以下に簡単に説明します。
 「断片的才能(splinter skills)」は、音楽・些細なスポーツ関連情報・ナンバープレート、地図、歴史的上の事実、誕生日、電車やバスの時刻表、掃除機のモーターの番号等の数値、等に強迫的な没頭したりして驚くべき記憶力等の高い能力を示すもの。
 「卓越した才能(talented)」は、音楽、美術、その他の特定の領域における卓越したな能力で、「断片的才能」より傑出し、高度で、著しい特徴のあるものです。それらは、当人の全体的な能力に対して著しいコントラストをなしています。
 「天才的才能(prodigious)」は、並外れた能力を示す極めて稀なものです。その能力は、障害のない人にあったとしても非常に著明なものとみなされ、この場合には「天才」といわれます。現在の世界で知られている天才的サバンは100人に満たないと想定されています。
 

  3.自閉症概念の誕生以前と誕生時のサバン

 サバンについて体系的に報告したのはDownですが、その講演があった1887年には「自閉症」という概念はありません。ただ、Downが報告した10例のサバンには、記載の内容から現在でいう自閉症に該当すると思われる事例があり、又Downは「発達遅滞(developmental retardation)」という用語で今日の自閉症に類似した概念を述べています。この他にも、自閉症と考えられるサバンの事例が報告されていることは、前回に述べました。
 自閉症の概念を初めて提唱したKannerの報告にある11症例の経過を検討した報告には、6例に音楽や記憶力に卓越した能力を示したことが述べられています(Kanner, 1971)。又、1944年にアスペルガーが報告した4例のアスペルガー症候群の子供のうち、1例は卓越した計算能力を、もう1例は驚くべきスペリングの能力を示したと報告されています(Asperger, 1991)。

 

 4.自閉症とサバンが増えている?

 自閉症のある子供の割合が、調査が最近になるほど増えていることが注目されています。そして自閉症におけるサバンの割合についても、最近の研究報告に多い傾向がみられます。
 1978年のRimland (1978)の報告では、保護者へのアンケートでサバン能力の有無を調べたところ5400人中の531人と9.8%の出現率であったされています。2004年にBolteとPoustka(2004)は、254人の自閉症者に行動観察と保護者面接を行い、その中の33人、すなわち13.0%に少なくとも1つのサバン能力があったと2004年に報告しています。Hawlinら(2009)は、自閉症者の保護者にRimlandと同様にアンケート調査を行ったところ、90回答中の45回答(50%)にサバンがあるとなり非常に多い割合でした。この調査は、Miller(1998)によるサバンの定義「一般人口の能力の標準および対象者の全般的な能力の標準を超えて卓越した能力を持つ」を添付し、Rimlandの調査よりも厳密化をしたものです。さらにHawlinらは、臨床的な接触から得られた情報を加えた93人に対し、研究者による科学的な評価を加えて厳選し、93人24人に少なくとも1つのサバン能力があった(25.8%)と報告しています。
 これらの研究結果をみると、自閉症にみられるサバンは増えているように思われます。
 自閉症の発症が増えたのか否かについては、マスコミ等でも注目され、研究者の間で議論がなされていますが、明確な答えはありません。自閉症概念や診断基準の変化、自閉症への保護者や社会一般の認知の変化、調査対象や方法の違い等により、過去の調査と最近の調査を対等に比較することが困難であるためです。その中でも、最近の調査になるほど自閉症の割合が増えてきている要因がいくつか想定されています。
 その一つとして考えられている要因が、自閉症への保護者や社会一般の認知の変化です(Wing, 2002)。同様に、サバンへの保護者や社会一般の認知の変化が最近の研究ほどサバンの出現率が高くなっていることに関係があるかもしれません。サバンについても、多くの保護者が気づいてきている、もしくは気づく意欲を持とうとしてきているのではないでしょうか。保護者へのアンケートを行ったRimlandとHawlinですが、保護者の回答をみるとサバン能力があるとする回答の割合は両者で大きく異なります。サバンがあるとする回答の割合は、Rimlannd(1978)の報告では9.8%であるのに対し、Hawlin(2009)の報告における保護者の回答自体では50%と著しく多くなっています。
 もう一つ関係があると考えられることは、自閉症の概念と診断の状況の変化です(Rutter, 2005)。この変化と関連して、知的障害を伴わない自閉症(アスペルガー症候群を含む)の割合が最近の調査になるほど多くなっています。かっては自閉症者の約2/3に知的障害があるといわれていました。これに対し最近のある調査では知的障害のある自閉症者の割合は38%と報告しており(CDCP, 2012)、最近では知的障害を伴う割合は概ね1/3程度とされています。
 一方で最近の研究におけるサバンの知的水準は相対的に高い傾向があります。BolteとPoustka(2004)におけるサバンはIQが36~128で平均が83.3であり、Hawlinの報告ではサバン群と非サバン群のIQを比較して、サバン群の平均IQが88.1で非サバン群の平均IQ74.9よりも有意に高かったとしています。自閉症の概念が知的に高い方へ広がっていることが、サバンの出現率が近年の研究で高くなっていることに関係している可能性があります。
 最近の研究で、例えばHawlinの報告によると、自閉症児の4人に1人はサバンです。サバンはとても身近な存在であると考えてよさそうです。
 

 

  5.サバンは男に多い

 自閉症は男性に多く、男女比は概ね4:1とされています。RimlandとFine(1988)は、531人の自閉症のあるサバンについて調べ、男:女は3.25:1としています。Hill(1978)は、それまでのサバンに関する報告をメタ解析し、その結果、男:女を86:14としています。これがサバンの男女比としてよく引用され、男:女は概ね6:1とされています。BolteとPoustka(2004)の報告では男:女を28:5、Hawlinらの報告では男:女を21:3としています。研究によって男女比の値は異なりますが、多くの報告で自閉症にみられる男女比よりもサバンの男女比が高く、サバンは男性に発現しやすいようです。
 

 6.サバンの示す特異な才能

 サバンは特定の限定された領域で人並みはずれた認知や思考等の能力を発揮しますが、その能力は人の精神活動のあらゆる領域で発揮されるわけではありません。いくつかの特定の領域で、サバンで卓越した能力が発揮されることの多いことが分かっています。
 以下にサバンにみられる卓越した能力の領域に関する3つの研究結果を示します。領域の分類は各研究で異なりますので、割合(%)が示されていないものがあります。 

  Rimland Salovitaら Hawlinら
報告された時期

検討の対象人数
1978年

531人
2000年

45人
2009年

24人
サバンの割合 約10% 1.4%  
音楽的能力 53% 7% 4% 
記憶能力 40% 29%  4% 
美術的能力 19%  13%  - 
地理的能力 18%  -  - 
疑似的言語能力
(pseudoverval skills)
16% -  - 
数学的能力 14%  2%  17% 
協調的能力 13%  -  - 
機械的能力 11%  4%  - 
カレンダー計算 11%  62%  58% 
例外的な知覚 3%  -  - 
2つ以上の能力 -  7%  - 

 それぞれの報告によって、サバンが卓越した能力を示す領域がかなり異なりますが、カレンダー計算や記憶に卓越した能力を示すことが多く、音楽や美術のような芸術面や数学に高い能力を示すことが少なくないと思われます。



 引用・参考文献

  • Asperger, H. (1991). Autistic psychopathy in childhood. In Autism and Asperger syndrome (ed. U. Frith), pp. 37–92. Cambridge, UK: Cambridge University Press. (Original work published 1944.)
  • Bo¨lte, S. & Poustka, F. (2004). Comparing the profiles of savant and non-savant individuals with autistic disorder. Intelligence 32, 121–131.
  • CDC. (2012). Prevalence of autism spectrum disorders – Autism and developmental disabilities monitoring network, 14 sites, United States, 2008. MMWR, 61, 1-19.
  • Down, J.L. (1887). On Some of the Mental Affections of Childhood and Youth: Being the Lettsomian Lectures Delivered Before the Medical Society of London in 1887, Together with Other Papers. London, J. & A. Churchill.
  • Hawlin, P., Goode, S., Hutton, J. and Rutter, M. (2009). Savant skills in autism : psychometric approaches and parental reports. Phil. Trans. R. Soc. B, 364, 1359–1367.
  • Hill, A.L. (1978). Savants : mentally retarded individuals with special skills. In International review of research in mental retardation (ed. N. Ellis), New York: Academic Press.
  • Kanner, L. (1971). Follow-up study of eleven autistic children originally reported in 1943. J. Autism Child Schizophr. 1, 119–145.
  • Miller, L. (1998). Defining the savant syndrome. J Dev Phys Disabil, 10, 73–85.
  • Rimland, B. (1978). Savant capabilities of autistic children and their cognitive implications. In Cognitive defects in the development of mental illness (ed. G.Serban), pp.43-65. New York, NY; Brunner/Mazel.
  • Rimland, B. & Fein, D. 1988 Special talents and autistic savants. In The exceptional brain: neuropsychology of talent and special abilities (eds L. K. Obler & D. Fein), pp. 374–492. New York, NY: Guilford.
  • Rutter, M. (2005). Incidence of autism spectrum disorders : Changes over time and their meaning. Acta Pediatrica, 94, 2-15.
  • Treffert, D.A. (2010). Islands of Genius – The bountiful mind of the autistic, acquired, and sudden savant. pp.24-25, London & Philadelphia; Jessica Kingsley.
  • Wing, L. and Potter, D. (2002). The epidemiology of autistic spectrum disorders : Is the prevalence rising? Mental Retardation and Developmental Disabilities Research Review, 8, 151-161.

 

 

<目次のページに戻る>