メルマガ連載記事 「サバン —自閉症の不思議で大きな可能性—」
第4回


サバンと自閉症(3) ―驚異的な数学的能力―

国立特別支援教育総合研究所客員研究員 渥美 義賢  

  1.算数・数学の学習はたいへん

 算数・数学上の能力がヒトに備わるようになったのは新しいことで、1万年を越えない程度であろうと推測されています。話し言葉のように、もっとずっと古くからある能力は生得的な要素が大きくなっており、ほとんどのヒトにとって苦労せずに覚えられます。しかし数学の基本である四則演算の能力を身につけるためにさえ、多くの人が相当な苦労を強いられます。円周率を何桁まで覚させるかがゆとり教育との関係で問題になったことがありますが、少数点以下4桁を越して言える人は多くないでしょう。100までの素数を同定することさえたいへんで、100,000までの素数の同定にいたっては、ほとんどの人は試みようと思ったことさえないでしょう。ところが、ほとんど何の努力もしないで(少なくとも周囲にはそう見える)、誰に習ったわけでもなく、四則演算や素数の同定などをいとも簡単に瞬時になしとげてしまう「電光石火の計算者(lightning calculator)」といわれる数学的サバンの人がいます(Snyder & Mitchell, 1999)。何の努力もしないで、すらすらと計算ができるなんて、ほんとうにうらやましいことです。算数・数学の試験に苦労している小・中学生にとっては夢のようなことでしょう。
 

  2.数学的サバンは少なくない

 サバンにおける得意な領域を調べた最も新しい研究報告(Hawlinら, 2009)によると、数学的サバンはサバン全体の17%を占め、58%のカレンダーサバンに次いで多いとされています。研究は古いですが対象人数の多いRimland(1978)の報告ではサバンのうちの14%とされています。Hawlinの報告では自閉症のある人の4人に1人がサバンであり、その中の6~7人に一人は数学的サバンということは、、25人の自閉症のある子どもがいれば、そのうちの1人は数学サバンかもしれません。ただ、サバンが得意とすることについて、例えば素数の同定等は、普通の授業では重視されないので気づかれていない可能性があります。膨大な数の四則演算を瞬時にこなすサバンは気付かれやすいものの、四則演算が十分にできていないと、素数の同定や累乗の計算ができることに気付かれないことが多くなります。注意深く得意なことを見つける努力が才能の発見につながります。
 

  3.得意な分野は限られている

 数学的サバンの人たちが示す数学的才能は特定の領域に限られています。その中で、複数の領域に、例えば四則演算と素数の同定の両方の領域等に優れた能力を示す傾向があり、カレンダー・サバンを同時に示す場合が少なくありません。カレンダー計算には四則演算が基盤になることを考えれば、これは当然といえるかもしれませんが、サバンの能力はこのような推論の範囲を越えていることが多いことも留意しなければなりません。素早く素数の同定を行うサバンに、本来ならそれに必要とされる計算の能力がない場合が少なくないとされています(Welling, 1994)。
 数学的サバンの人たちが驚異的な能力を示す領域は、加減算、乗算、除算(加減乗除の全てに才能を示すとは限りませんが、加減算の能力はほとんど場合伴うようです)、時間の計算(60進法、12進法)、単位変換(重さ、面積、秒分時日月年世紀、金銭等)、πの計算、素数の同定、因数への分解、大きさや長さ等の計側能力です。少数ですが、より広汎な数学的能力を示す場合もあります。
 

 4.昔から報告されていた数学的サバン

 1943年のカナーによる自閉症概念の提唱以前に報告されたサバンの場合、自閉症であったか否かは明確ではありませんが、論文等に記載されていることからその可能性が高いであろうと推測される事例が報告されています。
 1783年にMoritz(1873)によって報告された英国人のJedediah Buxtonは文章も書くことができず、算数・数学の十分な教育を受けていませんでした。数や量には小さい頃から強い関心を持っていましたが、その他のことにはほとんど関心がなかったとされています。四則演算や累乗の計算を得意とし、ある数の139乗を計算して大数の新たな述語の元を作ったともされています。特徴的なのは計測への関心と能力で、住んでいたElmton(約4km2)について、歩幅のみによって全ての敷地の面積を知っていたとされ、それは、エーカー(約4047m2)はもとより、英国の面積の単位であるrood、perch、そして平方インチまで計測できており、それらの単位を自由に行き来したとされています。その特異な能力が知られ、英国の王室学術協会からロンドンに招待されてシェークスピアの有名な戯曲であるリチャードIIIの観劇をしました。しかし、そこで彼が集中していたことは、主演男優の派する台詞の語数と踊り子達のステップ数を数えることで「音楽がうるさくて数えることの邪魔だ」と怒鳴ったそうです。
 1789年には米国の精神科医であるRushは、「ヴァージニアの計算家」といわれた黒人奴隷のThomas Fullerについて報告しています。奴隷という境遇にあり、ほとんど数学的な教育を受けていませんが大きな数の四則演算を瞬時にこなしたとされています。黒人奴隷のサバンとしては1790年に報告されたDied- Negro Tomも素早い四則演算の才能とカレンダー計算の才能を示しました。ただ、彼らは数学的な教育は受けていないものの、米国に来る前から独自の数の概念を持っていた可能性を推測する研究者もいます。当時の奴隷貿易の記録から、その売買交渉において白人は紙とペンで奴隷の人数と質、それに対応する金・銀・銅の地金の量を計算していたが、相手の黒人は暗算(たぶん)で瞬時にほぼ間違いなく白人らと同じ値を示していたとされており、またアフリカの紀元前6500年頃の遺跡から世界最初の素数表や難解なフラクタル幾何学を示す独自の表記が発見されたことから、彼らが何らかの独特な数学的な素養を持っていた可能性は否定できません。
 

 5.素数の同定と因数への分解のサバン

 素数の同定と因数への分解は、数学的サバンの中でも特に驚異的な能力と考えられているものです。
 素数とは、1とその数以外の約数を持たない1以外の数と定義されています。素数を同定する方法としては古代ギリシャ時代に「エラトステネスのふるい」が示されましたが(参考資料1)、現在でも、素数を同定するための法則が見出されておらず、その法則があり得るのか否かも不明です。エラトステネスのふるいよりも近道をする方法が考案されてはいるものの、手間のかかる計算が必要です(ただし現在はコンピュータが高速で行ってくれる)。それだけに、このような手間のかかる作業をほぼ瞬時に成し遂げるサバンの能力は謎に満ち魅力的な事象です。因数の同定は、ある数をその構成要素が素数になるまで割る過程で、それ以上には割れず、その数を構成する全ての数が残りなしで決定されるものです。
 素数の同定や因数への分解に才能を示すサバンは少ないとされており、この理由の1つは難しく複雑な計算処理が必要なためとする考えがあります。しかし、四則演算や平方根の計算を理解していないと思われるサバンの人が、素数の同定や因数への分解を素早く行う事実があり、その不思議さは解明されていません。
 前回にカレンダー・サバンとして述べたGeorgeとCharlesの自閉症の双子は素数を同定する能力も卓越したものでした(Horwitzら, 1965)。彼らの基礎的な数学的な能力は、兄弟のうちの一人は3桁の加算ができたものの、一人は加算も困難で乗算と除算は全くできませんでした。一方で素数の同定に関しては、10桁の数について5秒以内に素数であるか否かを判断し、兄弟間で6桁の素数をやり取りして遊んでおり、その時点で正誤の点検はされていないものの20桁の素数を同定したとされています。彼らは、兄弟が離され、社会性の訓練が積極的に行われるようになったことに伴い、数学に関わる時間も心理的余裕も無くなり、興味・関心を失ってその能力が消褪したとされています。
 知的障害の程度が重く算数についてほとんど理解のなかったDaseも、素数の同定に卓越した才能を示し、12歳の時に8,000,000弱に至るまでの数について素数と因数の表を作成したと報告されています(Sacks, 1985)。彼は生涯にわたってこの能力を保持していたとされています。
 Daseは生涯にわたって素数を同定する優れた能力を保持していましたが、加齢に伴って能力を失った例もあります。Parkの報告した自閉症のある女性Emilyは13歳の時に1~1000の全ての素数と因数を言えるようになりましたが、数年後には数に対する興味を失いその能力も消失したとされています(ParkとIouderian, 1974)。
 

 6.数学的サバンと数学の専門家の比較

 Hermelin と N. O'Connor(1990)は、自閉症のあるサバンと数学の専門家における素数と因数の課題に関する情報処理過程を調べて報告しています。対照となった被験者は数学の学位を持ち数学に高い専門性を持つ心理学者でした。サバンの被験者は20歳の男性で、3歳の時に典型的なカナー型自閉症の診断を受けました。彼は全く話しをせず、他者からの話しかけに全く反応を示さず、サインによるコミュニケーションもありませんでしたが、四則演算は得意で因数分解を理解していました。両親は数学とは関係のない職業についていましたが、両親共に数学の学位を持っていました。
 課題は以下の3つでした。a) 因数分解の課題で、3、4、5桁の数の因数分解、b) 素数を見つける課題で、同じ3、4、5桁の数で、非素数から素数を識別する、c) 素数の同定の課題で、同じ3、4、5桁の数のある範囲内の数における素数を見つけるという課題でした。全ての課題で時間を測定しました。a) では、212から221と1001から1011、10002から10013の間の10の数を提示されました。数は縦に書いて示され、それぞれの段階ごとに別々の紙に書かれました。b) では、20に非素数と一緒に提示された10の素数を識別させるもので、被験者は素数を丸で囲むよう指示されました。それぞれの数の範囲は301から393と1201から1309、10301から10427でした。c) では、227から281の範囲と、1019から1091、10037から10133の範囲で10個の素数を述べるものでした。課題は3つの各課題と、その中の3段階の数ごとに別個の紙に印刷され、その表示は、例えば100の位の課題を最初の行に227と書くようにし、その下に10の下線を引かれた空白があり、その下に281と書かれていました。彼は以前にこのような課題に取り組んだことがなく、言葉でのコミュニケーションが不可能であったので、課題についていくつかの例題と正解を示すようにしました。
 この実験結果を下記の表1に示しました。ここから分かるように、自閉症のサバンの方が定型発達の数学の専門家よりも多くの課題で正答率が高く、短い反応時間で遂行しています。3桁数の素数の識別する課題では、自閉症のサバンは定型発達の数学の専門家の1/10の時間で解答し、そこにおける間違った数も1/10でした。言葉によるコミュニケーションが全くできない自閉症のサバンが、数学の専門家よりも圧倒的な早さと正確さで因数分解や素数の識別・同定を達成することは驚くべきことです。しかし、この自閉症サバンはどのような方法でこれを達成したのかは全く語ってくれません。

表1

課題 課題 対象の専門家 自閉症のサバン
正答率 時間(秒) 正答率 時間(秒)
素数の識別 301~393 20/30 11.46 29/30 1.16
1201~1309 18/30 12.90 22/30 2.90
10307~10427 23/30 10.73 15/30 2.00
素数を見つける 227~281 8/10 12.9 9/10 6.20
1019~1091 5/10 25.6 5/10 6.00
10037~10133 4/10 50.0 5/10 10.00
因数分解 212~221 8/10 22.6 9/10 8.8
1001~1011 7/10 25.5 8/10 20.8
10002~10013 4/10 48.0 7/10 38.2

 

 7.非凡な処理能力はどのように生じたのか

 なぜサバンや一部の数学的天才が複雑で高度な計算を瞬時に成し遂げるのか、ほとんどのサバンはその理由や情報処理過程について多くのサバンは何も説明をしないか、又はできません。一部のサバンはそのような質問に答えようとしますが、その説明の多くはあてになりません。あるサバンは「お父さんから教わった」と答えましたが、父親には教えた記憶がありませんでした。また、あるサバンは「あらゆる数学的計算技法を駆使している」ととても立派な答えをしましたが、後で算数的なテストをした結果はとても彼の説明を正当化できるものではありませんでした(HermelinとO’connor, 1990)。
 このことが、サバンにおける卓越した能力の解明をむずかしくしています。それでも、定型発達の数学の専門家が自らの能力について説明をしており、一部のサバンは自分の脳の中で行われていることを説明しています。これらのこどが、今後のサバン能力の解明の参考になっていくものと期待されます。


A) 数学の専門家による説明

 Smith(1983)は数学の専門家による説明や解釈を紹介してサバンの能力の理解を試みています。Zerah Colburn(1804~1839)はオランダの天才的計算者で、幼児期には知的な遅れがあるのではないかと思われていましたが、7歳になった時に九九の表を読み返しているのを聞いた父親が試しに計算をさせてみたところから、非凡な計算能力が発見されて有名になった人です。Colburnは7歳の頃に、2000年が何秒であるか、12225と1223の積、1449の平方根等を瞬時に答えることができ、4,294,967,297は素数であるかという問題に対して直ちにそれが素数ではなく641で割り切れることを暗算で答えたました。Colburnは、よく「なぜそんなことができるの?」と聞かれましたが、当初は答えることができませんでした。9歳になったある夜、急に起き上がって父親のところに行き「素数を見つけることができる理由を言える」と言ったので、父親は直ちにそれをメモしました。それに基づいて素数同定のためのColburnの表が作成され、その表の作成のための法則が明らかになりましたが、それも多大な労力を要するものでした。ここから分かることは、数学的な処理能力がその説明に数年先行しており、その処理には意識的な理屈は必要がないだろうということです。
 Smithは1958~1976にCERN(欧州原子核研究機構)で研究をし、500桁の数の73乗根を43秒で暗算してギネスブックに記録されているオランダの数学者Wim Kleinが言っていることについても述べています。「数は私の友達です。それは貴方にとってのものとは意味が違います。」と言いました。その違いとは、多くの人にとって「例えば、3844と聞いても、たぶんそれは1つの3、1つの8、そして2つの4というだけで」ですが、Kleinにとっては感動を以て『おお、62の二乗!』と感じられるものだと言いました。数という抽象的な概念の記号である数字について、情緒的な感動のような別次元の感覚を伴うことを共感覚(synaesthesia)といい、これはサバンの特異な能力の重要な要因の1つと推測されています。
 

B) サバンからの説明—Daniel Tammet

 多彩で豊かな共感覚を持っていて、数学と外国語のサバンとして著作のある人がDaniel Tammet(1971・1・31~)です(参考資料2)。Tammetは自分の共感覚とサバン能力について詳しく述べることのできる希有なサバンです。Tammetは小児期までは典型的といえる自閉症の症状を呈していましたが、成長するにつれて客観的に自分を見ることができるようになり、社会性が発達してコミュニケーション能力が高くなりました。現在では基本的に自立した生活をし、多くの知識を得て、自分を客観的に把握し、それを本にまとめています。彼の書いた本のうち、2冊が日本語に翻訳されています(タメット、2007, 2011)。
 

<前号の間違いのお詫びと修正>
 前号(4月6日配信)の参考資料に誤りがありました。お詫びを申し上げます。「参考資料4;ルイス・キャロルのカレンダー計算法」は3) までになっていましたが、日にちの計算が必要で、4) が必要です。
修正した「参考資料4;ルイス・キャロルのカレンダー計算法」を本号の参考資料2の後に付けました。
 

関連の文献・資料

  • Hawlin, P., Goode, S., Hutton, J. and Rutter, M. (2009). Savant skills in autism : psychometric approaches and parental reports. Phil. Trans. R. Soc. B, 364, 1359–1367.
  • Hermelin, B. and O’connor, N. (1990). Factors and primes: a specific numerical ability. Psychological Medicine, 1990, 20, 163-169.
  • Horwitz, W.A., Kestenbaum, C., Person, E. et al. (1965). Identical twin – idiot savant – calendar calculatiors. Am J Psychiatry, 121, 1075-1078.
  • Park, D. and Iouderian, P. (1974). Light and number: Ordering principles in the world of an autistic child. Journal of Autism and Childhood Schizophrenia, 4, 313-323.
  • Sacks, O. (1985). The man who mistook his wife for a hat. London, Duckworth.
  • Smith, S. B. (1983). The Great Mental Calculators. Columbia University Press: New York.
  • Snyder, A.W. and Mitchell, D.J. (1999). Is integer arithmetic fundamental to mental processing? : the mind’s secret arithmetic. Proc R Soc Lond B, 266, 587-592.
  • Tammet, D. (2006). Born on a blue day. Hodder & Stoughton LTD, London.
  • Welling, H. (1994). Prime number identification in idiot savants : can they calculate them? J Autism Dev Disord, 24, 199-207.
  • ダニエル・タメット (2009). ぼくには数字が風景に見える.古屋美登里(訳)、講談社.
  • ダニエル・タメット (2011). 天才が語るサヴァン、アスペルガー、共感覚の世界.古屋美登里(訳)、講談社.

     

<参考資料>

■参考資料1 エラトステネスのふるい

 紀元前3世紀にエジプトのアレキサンドリアで活躍した天文学者・数学者のエラトステネスが開発した素数を同定していく計算方法。ある数N以下の素数を同定する場合、まずNの平方根より小さい全ての素数を同定し、それからそれらの素数の倍数を全て除外していく方法です。例えばNが64であれば、8未満の素数の全てが同定されます(2, 3, 5, 7)。それから、奇数に3を掛け、全ての5の倍数(25, 35, etc.)、全ての7の倍数(49, 63, etc.)が廃棄されます。残りの数(11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 41, 43, 47, 53, 59, 61)が素数です。この方法は信頼性が高いことが証明されています。しかし、Nが大きくなると非常に手間がかかり、手計算では現実的に同定が可能な数は限られてしまいます。 
 

■参考資料2 Daniel Tammetの才能と共感覚

ダニエル・タメット氏の写真 ダニエル・タメットは「僕は1979年の1月31日の水曜日に生まれた。それは青い日だった」(Tammet, 2006)と書いています。なぜ青い日なのか?「僕にとって水曜日は常に青い」から。「31日という誕生日はとても気に入っている」「それは滑らかでまるく、水辺に浮かぶ泡沫のようだからです」。彼にとって、素数は泡沫のようで、だから泡沫のような数は素数だとすぐに分かると言います。
 Tammetは大きな数の四則演算や累乗、累乗根、因数分解、素数同定等を瞬時に遂行します。πについては、2004年に22,514桁まで5時間かけて暗唱し、ヨーロッパ記録を樹立しています(ただし、後日2,965桁に間違いのあったことを自身で気付き、修正を行っています)。
 このような非凡な数学的課題の処理が、Tammetの頭の中でどのようにして行われているのかについて、彼は説明をしています。それは共感覚によって起きていると述べています。ほとんどの人にとって、何の感情もわかない数字が、彼にとっては多彩な情緒と感覚を伴っています。Tammetにとって、10,000までの数字は全て個性的で、色や形や肌合い、動き、香り、情緒的な音程等を持っています。この数が組み合わされる計算は、彼の頭の中で色や形や肌合いが集合し融合して、頭の中に新しい形や色となって現れ、それが答なのだと説明しています。Tammetの好きな累乗計算では、二乗の数は対称的で美しく、おのおのの答えは独特の形をしており、例えば「37の5乗は小さな円がたくさん集まって大きな円になり、それが上から時計回りに落ちてくる感じ」だと言う。割り算は「ある数を別の数で割ると、回りながら次第に大きな輪になって落ちていく螺旋が見える。その螺旋はたわんだり曲がったりする」と言う。そして「共感覚がもたらす形を使って答えを視覚化する方が」学校で習う方法より「はるかに簡単」なため、紙に書いて計算はしません。このように、Tammetにとって数は多彩で豊かな意味を持っています。このため、特定の数にはさまざまな感情が伴い、その感情は美しいとか喜びである場合もあれば、苦手な数もあります。6は小さな点で特徴的な形や質感がないので分かりにくく、青い色ではなく赤か緑色で99ペニーと書かれた値札のように自分の美意識に合わない数と状況にはいたたまれなくなると言います。
 Tammetにとっては言葉や文字も同様に多彩な色や形や肌合いを持っています。「ladder : はしご」は青色で「hoop : 輪」は白色です。これは母国語である英語以外の言葉でも同様で、例えばフランス語の「jardin : 庭」はくすんだ黄色でアイスランド語の「hnugginn : 寂しい」は多数の青い点のある白と、名詞だけでなく「at」は赤い色と感じられると言います。言葉を色等で理解することは数と共通しており、幼児期に言葉の意味がしっくりと分からない時には、数に置き換えてみるとよく理解できるようになったそうです。母国語であるか否かを問わず言葉が色等で認識されることは、Tammetが短時間で外国語を習得し(アイスランド語は1週間でマスターしたそうです)、10カ国語を話せることと関係しているだろうと、彼自身が述べています。そして、先に述べたGeorgeとCharlesの自閉症の双子が素数をやりとりして会話していたことが理解できると言います。
 Tammetは、現在は外国語の学習のサイトを運用し(参考のサイトアドレス1、2)、同性愛者としてある男性と同棲して自立した生活を送っています。現在の彼は自分の自閉症的な症状をかなり客観的に把握できるようになっており、社会生活に適応して調節ができるようになっています。しかし、幼小児期は自閉症の症状が強かったと述べています。乳幼児期はいつも強烈に泣いてばかりいたようで、壁に頭をぶつける自傷行為や所構わず壁に登ることやかんしゃくも頻発していました。保育所に通うようになってからは状態が急変し、静かすぎる子どもになりました。4歳の時にてんかん発作が起き、数日間の入院をして脳波やMRIの検査を受け、側頭葉てんかんと診断されました。
 

■参考資料4;前号の参考資料の修正 ルイス・キャロルのカレンダー計算法(修正版) 

 まず、年月日の情報を次の4つとして得る。すなわち、1) 世紀—例えば2013年の20、2) 世紀のうちの年—例えば2013年の13、3) 月、4) 月のうちの日、です。これらを以下の4段階で順に計算します。各段階での計算結果の数値が7以上である場合、必ず7で割り、その余りを次の計算に用います。なお、ルイス・キャロルの3) 月の計算は分かりにくいので、Spitz, H.H.(1994)を参考に一部修正してあります。


1) 世紀について;旧式表記(1752年9月2日まで)では18を引く。新式表記(1752年9月14日から開始された)では4で割り、余りを3から引き、それに2を掛ける。それが7未満であれば、そのまま値Aで、7以上であれば7で割った余りが値A。
2) 年について;12で割りその商と余りを加算する。その値に先に余りを4で割った商を加算する。それを7で割った余りを求める。その結果を値Aに加算する。それを7で割り、余りを求める。値B。
3) 月について;月によって決められた定数がある。1月では0、2月では3である。その他の月で、対象とする月もしくはその前の月の名前(英語の;例えば4月はAprilであり母音で始まる)が母音で始まるか母音で終わるものでない場合、単にその月の数字を(4月なら4)を値Bに加える(すなわち、3月は3、10月は10、12月は12)。しかし、対象とする月の名前(英語)が母音で始まるか終わる場合(すなわち、April(4月)、June(6月)、August(8月)、October(10月))には、その月の数を10から引く。値Bにこの値を加算し、7以上であれば7で割り余りを求める。値C。
4) 日にちを値Cに加算し、その値をDとする。当該の年が4で割り切れる場合は閏年であり、その補正をする。すなわち閏年の月が1月か2月であるならば、1を引く(値Dが0ならば、あらかじめ7を加算する)。この以上であれば7で割り余りを求める。この値Dが7未満であれば値Dをそのまま値Eとする。値Dが7以上であれば7で割り余りを求めてそれを値Eとする。
値Eが0であれば日曜日で、1であれば月曜日で、以下同様に順に当てはめれば曜日が求められる。
 

 

■参考のサイトアドレス
  1. http://www.optimnem.co.uk/
  2. http://www.danieltammet.net/

 



<目次のページに戻る>