メルマガ連載記事 「インクルーシブ教育システム構築に向けて」
第3回


中央教育審議会初等中等教育分科会報告「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」の要点 (後編)

国立特別支援教育総合研究所理事 新谷 喜之

3.障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備

 障害者の権利に関する条約の批准に向けた障害者基本法の改正(平成23年8月)により、障害者に対して合理的な配慮を行うこと等が示されました(第4条第2項)。教育分野については、前々号で述べたとおり、「国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。」(第16条第1項)等の規定が定められました。
 これまで学校においては、障害のある児童生徒等への配慮は行われてきたところであるが、「合理的配慮」は新しい概念であること等も踏まえ、報告では、「学校教育において行われてきた配慮について、『合理的配慮』の観点として改めて整理した」としています。
 「合理的配慮」は、国、都道府県、市町村による「基礎的環境整備」を基に個別に決定されるものであり、それぞれの学校における「基礎的環境整備」の状況により、提供される「合理的配慮」も異なることとなります。また、「合理的配慮」は各学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないものであることに留意する必要があります。

4.多様な学びの場の整備と学校間連携等の推進

 前号で述べた「多様な学びの場」については、それぞれの場について環境整備の充実を図っていくことが必要です。このため、国においても、平成26年度予算において、発達障害や比較的軽度の障害のある児童生徒のためのいわゆる通級による指導への対応や特別支援教育コーディネーターの配置等に対する加配教職員定数を拡充するなどの措置を講じています。
 また、域内の教育資源それぞれが単体だけでは、そこに住んでいる障害のある子ども一人一人の多様な教育的ニーズに応えることは難しいため、スクールクラスター(域内の教育資源の組合せ)により子ども一人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教育システムを構築していくことが重要です。さらに、報告では、「交流及び共同学習は、特別支援学校や特別支援学級に在籍する障害のある児童生徒等にとっても、障害のない児童生徒等にとっても、共生社会の形成に向けて、経験を広め、社会性を養い、豊かな人間性を育てる上で、大きな意義を有するとともに、多様性を尊重する心を育むことができる。」としています。文部科学省が平成25年度から実施している「インクルーシブ教育システム構築モデル事業」では、モデルスクール、交流及び共同学習のモデル地域、スクールクラスターのモデル地域として実践研究が進められており、その成果の普及が今後なされる予定です。

5.特別支援教育を充実させるための教職員の専門性向上等

 報告では、「インクルーシブ教育システム構築のため、すべての教員は、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められる。」としています。本研究所においても、都道府県等において特別支援教育の指導的な役割を果たす教職員を対象に、体系的・専門的な研修事業を実施し、各都道府県等における教職員の専門性・指導力を高める活動を支援しています。

 

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