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特別支援教育法令等データベース 総則 / 報告・答申等 - 聴覚障害児のコミュニケーション手段について(報告) -


聴覚障害児のコミュニケーション手段について(報告)


平成5年3月22日
聴覚障害児のコミュニケーション手段に関する調査研究協力者会議

I 聴覚障害児のコミュニケーション手段について
1 基本的な考え方
2 発達段階に応じたコミュニケーション手段
II 聴覚障害児の実態に応じた指導
1 コミュニケーションに対する考え方
2 多様なコミュニケーション手段について
3 発達段階に応じたコミュニケーション手段の活用
4 障害の受容と克服
聴覚障害児のコミュニケーション手段に関する調査研究協力者 (五十音順,職名は平成5年2月1日現在)

I 聴覚障害児のコミュニケーション手段について

1 基本的な考え方
我が国の聾学校教育は,学校教育法第71条に基づいて,幼稚園,小学校,中学校又は高等学校に準ずる教育と,障害に応じて必要な教育が行われることとなっており,その教育の実際は,幼稚部教育要領や小学部・中学部学習指導要領,高等部学習指導要領に基づくこととなっている。したがって,聾学校教育における言語教育は,中学部や高等部において行われる外国語教育を除いて,幼稚部から高等部までを通して,一貫して国語(日本語)教育をべースとしている。すなわち日本国民として,国の文化を共有し,社会の発展を担って生きていくために,共通する言語として国語の学習を聴覚障害児に要請しているといえよう。なお,「言語」や「国語」等の用語のとらえ方については,IIの2の1)で示すことにする。
また,聴覚障害児のコミュニケーション手段については,例えば,幼稚部教育要領の養護・訓練の内容の中で「(14) 表情や身振りなどの様々な方法を用いて意欲的に意思を伝え合う。」と示したり,高等部学習指導要領でも,第2章各教科第1節第2款各科目に関する指導計画の作成と内容の取扱いにおいて,「2 聾学校」の中で「(6) 生徒の聴覚障害の状態等に応じ,各種の言語メディアの適切な活用を図り,言葉による意思の相互伝達が正確かつ効率的に行われるようにすること。」と掲げたりしている。
こうしたことから,聴覚障害児には必要に応じて各種のコミュニケーション手段を選択・活用して,聴覚活用(子供の保有する聴力の活用,聴能)と口話(発音・発語と読話によるコミュニケーション)による方法で国語の学習を進めたり,また,コミュニケーションにおける困難等に聴覚障害児が対応し,また,克服していけるよう指導したりすることが大切である。指文字やキュード・スピーチの採用は,国語の学習や国語によるコミュニケーションの際,聴覚的な音韻表象を十分にもたないことから生じる聴覚障害児の国語の形態的側面の識別を補助し,さらに,手話の活用は,国語の意味的側面の把握を補助することとなる。しかし,こうしたコミュニケーション手段の活用を考慮することに加え,身振り等の多様な手段の効果的な活用を検討することも必要である。
したがって,国語の習得にかかわる学習において,あるいは国語をべースとした教科の学習において,どのようなコミュニケーション手段を選択・活用するかについては,それぞれの学校における聴覚障害教育,聴覚障害児の国語教育に対する教育方針や指導理論に基づくことが大切である。
国語教育が聴覚活用と口話による方法によっても,指文字,キュード・スピーチを導入しても,あるいは手話を併用しても,いずれにしてもその基礎的な指導は養護・訓練にかかわるところである。特に,指文字やキュード・スピーチの導入,国語に対応した手話の併用ということになると,これらのコミュニケーション手段自体,一定の組織や体系をもつことになるので,聴覚障害児にとっては学習が必要となるものであり,養護・訓練の果たす役割は重大である。
今日,成人聴覚障害者や教育者,研究者の一部に,手話は聴覚障害者の母語であり,聴覚障害児の言語教育は手話を第1言語として考えるべきであるという主張がある。このような考え方に対し,教育者や研究者,保護者などの中には,第1言語が手話となるか国語となるかは,それぞれの聴覚障害乳幼児自身の諸条件と,両親や家庭等の環境的な諸事情とのかかわりが大きいことから,慎重に判断する必要があるという主張もある。いずれにしても,聾学校に入学してからの言語発達の様態について,十分な時間と周到な方法による研究と確かめを経なければ結論づけることが難しいことである。また,手話そのもののとらえ方にもいろいろな考えがあるところである。その中で,どのような手話を選択するかについて,やはり今後の研究と確かめを要するものである。しかし,これらの問題とは別に,聴覚障害児が社会参加・自立したのちのコミュニケーション手段については,国語(話し言葉と書き言葉)と手話や指文字等による補助及び併用を行うこと,場面や相手等に応じたコミュニケーション手段の使い分けを行うことが必要になるであろう。

2 発達段階に応じたコミュニケーション手段
1) 幼稚部入学前
我が子の誕生によって,両親(特に母親)は,意識的無意識的に様々な方法を用いて愛情をふりそそぎ,それに応じた我が子の反応をとらえて,コミュニケーションを深めていくことになる。こうした日常の繰返しの中,我が子の成長と相まって,母子の心の触れ合い,もののやりとりが始まり,母子コミュニケーションが成立していく。以後この時期は,母子コミュニケーションの拡大を中心にして子供の活動が広がり,経験が貯えられ,心身の機能が発達していくことになる。
このように,この時期のコミュニケーションについては,特定のコミュニケーション手段を問題にする必要はない。ただし,聴覚障害乳幼児は,その障害の性質上,早期における適切な対応を怠ると,音や音声がコミュニケーション手段として十分に役割を果たしにくい側面がある。したがって,できるだけ早期から聴覚を活用するため,補聴器を装用することが望ましく,このことは,国語の習得上,その最適期を逃さないという意味でも重要である。特に,両親が聴覚障害であるときの聴覚障害乳幼児については,留意して指導することが必要である。このこととともに,さらに,母子相談など幼稚部入学前の聴覚障害乳幼児に対する援助が大切であり,その役割を聾学校幼稚部の教育相談や特殊教育センターの相談機能が担っている。この時期の適切な両親援助が,聾学校幼稚部での教育全般,特に国語教育への素地を醸成することとなる。
2) 幼稚部
聴覚障害幼児が聾学校幼稚部に入り,言語教育として話し言葉による国語教育を受けることになる。しかし,その素地は,子供自身の能力・特性や家庭等の環境条件により一様ではない。そこで,幼稚部教育の初期は,養護・訓練を中心としながら教育活動全般において,音声言語の基礎学習として,聴能(聴覚活用),読話,発音・発語等の諸機能の総合的な指導を必要としている。
コミュニケーション手段としては,聾学校幼稚部は一般に聴覚活用と口話による方法を用いており,音韻の識別やその定着のために,比較的早くから文字が導入されることになる。また,学校によっては,キュード・スピーチや指文字などが採用されることもある。
3) 小学部
小学部に入学した児童は,はじめて教科指導を受けることになる。しかしながら,低学年では,直接経験を主とする学習が重要視される。このことは,教科として生活科が設けられ,具体的な活動や体験を通して学習が進められることからも推測できよう。
基本的に教科の内容は,組織的・系統的にまとめられている。したがって,教科の学習を進めていくには,そのための基礎が必要となるものである。特に,国語を音声言語として学習していくためには,聴覚障害の児童にとって,種々の制限や困難を伴うことになる。しかも,国語をベースとして教科の学習を円滑に進めていく必要があることから,単にコミュニケーション手段の活用にとどまることなく,教育機器などの様々な手段の有効な活用が必要である。また,日常のコミュニケーションも広がりをもつようになることから,一層の読み書き能力の向上とともに,基礎的・基本的な内容の指導が必要となる。
4) 中学部・高等部
思春期にある中学部段階においては,生徒が,自己あるいは障害への懐疑,不安,社会の矛盾から生ずる不信などを乗り越え,障害の正しい認識や受容,自我や主体性の確立を図り,聴覚障害者の文化を尊重したり,社会における望ましい人間関係の基礎を身に付けたりするためには,基礎学力の向上とともに,生徒の多様なコミュニケーションを通して,様々な情報の的確な収集や判断が行えるようになることが必要である。また,このためには,言語能力,コミュニケーション能力,学力,特に読み書き能力の育成を図ることが大切である。こうしたことから,この時期になると,一層各種のコミュニケーション手段の活用を図ることが課題となるものである。
高等部では後期中等教育として,普通教育の完成とともに,卒業後の進学,就職等,社会参加・自立への実践的な準備が行われる必要がある。ここでも生徒の言語能力,コミュニケーション能力,学力がかかわることになる。特に,普通教科,職業教科にかかわらず,教科の内容が生徒の言語能力,特に口話力を越える場合が多いので,読み書き能力を更に育てるとともに,社会での成人聴覚障害者のコミュニケーション状況に応じて,手話についてもその活用を検討する必要がある。
また,中学部・高等部では,コミュニケーション手段を補助するものとして,各種の教育機器の活用が重要な課題でもある。
5) 難聴特殊学級
小学校,中学校の難聴特殊学級の対象は,聴覚活用を中心として言語能力の伸長を図り,コミュニケーション能力を育てることが可能な児童生徒である。今日的には,通級による指導として,週数回,数時間,個人指導を中心に,補聴器や聴能訓練機器を活用して,聴覚活用の指導や発音・発語等の矯正を図る指導,語彙の拡充や文章力の向上を図る指導などの言語指導(国語の習得を図る指導)等が行われている。児童生徒の実態に応じて,個に即した多様な対応が必要である。
中学校の難聴特殊学級では,国語科をはじめとして,言語にかかわる他教科等の補充指導が行われることもある。
児童生徒の実態から,難聴特殊学級における主なコミュニケーション手段は,聴覚活用と口話による方法であるということができる。


II 聴覚障害児の実態に応じた指導

1 コミュニケーションに対する考え方
人間は,社会の一員として発達していくが,その基盤はコミュニケーションにあるといえる。
コミュニケーションとは「共通のものをつくる」という意味であるが,「記号を用いて,人間同士が,知識・感情・思考・意志などの精神内容を表出し,それを伝達し合う相互過程」といわれている。コミュニケーションは心の中にあること,伝えたいことを正しく相手に伝え,また相手が伝えたいと思っていることを正しく受け取る過程であって,その基礎には「伝え合いたい」心があり,その上で,「分からせたい」,「分かり合いたい」ことが,互いを結ぶきずなになっている。
乳児の時期から,まず,母親とのコミュニケーションが始まるが,母親は常に話し言葉を用いて子供に話しかける。この中には言葉のリズム,イントネーションなどの韻律情報による感情表現が豊かに含まれている。また,身振り,表情などの視覚的情報,スキンシップを通した触覚的情報なども豊かに使用される。母親は,自分の意図や心情を,言葉や体全体を使って語りかけることになる。
最近の心理学的知見によれば,この働きかけは,単に伝えるための性急なものではなく,子供の反応を待ちながら,それに応じて行われる応答受容的なものであることが明らかになってきている。乳児自身も同様に,使用できるあらゆる手段を用いて母親に応答し,語りかけているのである。その際の乳児の気持ち(情報)の表出はまだ未分化なものであるが,母親は日ごろのかかわり合いを通して,子供の心を理解するため,敏感にそれをとらえようとする。このような姿に人間のコミュニケーションの原点があるといえよう。
聴覚障害児のコミュニケーションにおいても,その基本は同様である。子供と家族又は教師との間には,もちろん伝え合いたいことがあり,それを「分かり合おう」,「互いのものにしよう」というコミュニケーションに対する意欲がなくてはならない。また,「分かり合いたい」ためには,親も教師も「いかにコミュニケーションを行うか」を常に念頭におき,「子供にとって分かりやすい」信号や記号を使っていくことが必要である。聴覚障害のない子供に接する場合と同じように,話し言葉で分かりやすく話しかける。この際,聴覚障害児の場合は,補聴器を通しての聴覚的受容,読話を通しての視覚的受容となるので,コミュニケーションが容易になるような語りかけ側の配慮が必要であるとともに,身振りや表情などのほかに,実物,写真,絵などもそれぞれの子供の実態に応じて利用される必要がある。なお,文字も,聴覚障害児の場合は幼児期から利用されている。
子供の応答や表現を,親や教師は注意深くとらえなくてはならない。それらを的確に受容し,話題が広がることによってコミュニケーションが始まることになるからである。
聴覚障害児とのコミュニケーションに当たって,最も大切なことは,「何を伝えたいか」ということである。子供のイメージを豊かにし,子供の心を揺さぶるような豊かな内容が送り手の側になければ,たとえ,コミュニケーションが行われたとしても,それは不十分なコミュニケーションでしかないといえる。
重複障害児(障害を二つ以上併せている子供)の場合は,その実態等によって,話し言葉による理解か十分に発達しないことも考えられる。身振りや表情,実物などを中心とした指導から,話し言葉の手指記号による補助,あるいは,手話等かコミュニケーション手段として使われるようになることも少なくない。障害が重度の場合は,特に,子供からの発信がなかなかとらえにくいことかある。しかし,子供は必ず何らかの発信をしているものであるから,詳細に観察することによりその発信をとらえ,それにこたえるようにすることにより,必ず何らかのコミュニケーションか可能になるものである。
両親が聴覚障害である場合,その家庭で利用しているコミュニケーション手段によっては,なじみやすい手話から出発する必要があることもある。親子のコミュニケーションは,人間発達の基本である。しかしながら,このような場合にも,子供の聴覚活用や国語の習得を促進するため,子供の周囲に意味のある音や話し言葉か豊かにあるような環境を,親や教師等が,できる限り設定していくことが大切である。
学校等の指導の場は,教師と子供,あるいは子供同士が,指導内容などを互いにより深く分かり合うコミュニケーションの場でもある。教科指導等の中で,より高度な情報を伝えるためには,国語をベースとしながら,多様なコミュニケーション手段を教師も子供も利用することが必要な場合がある。また,視覚教材・教具や教育機器などの多様な方法を工夫することにより,相互のコミュニケーションを深め,豊かにすることが必要である。

2 多様なコミュニケーション手段について
1) 基本的な用語の問題
最近,コミュニケーションに関してコードやモードという用語が使用されるが,これらについては諸論があるところである。また,これらの用語を使用することによる利点と難点についても,現状は必ずしも整然としない側面がある。
本協力者会議では,コード,モードという用語の適切な使用についての検討も行ったが,従来から聴覚障害教育において使われてきた「言語メディア」という用語と区別して用いるようにするためには,さらに検討を進めることなどが必要であることから,本報告書では,「コミュニケーション手段」という表現で広く表すこととした。
また,聴覚障害教育では,「言語指導」などのように,言語を国語という意味で使用してきた経緯がみられる。そこで,一般的に広く用いられる言語と国語の意味の混同を避けるため,本報告書では,国語(日本語)や英語等とともに,手話も含めた広い意味での言葉を「言語」と表し,一方,学校教育段階において使用される言葉については,具体的に「国語」や「手話」などと表すこととした。
2) コミュニケーション手段の解説と適用上の留意事項
(1) 聴 能 (聴覚活用に関する能力)
音や音声の聴覚的な受容能力及び認識能力を指す。具体的には,補聴器等を用いた聴覚活用に関する能力である。
聴覚障害児の聞こえの状態は様々であるが,聴覚障害か相当重度であっても,音や音声の聴覚的受容の可能性があるものである。このような場合,言葉としての受容か可能であるというよりも,環境音や音声のイントネーション,リズム,アクセントなとの韻律情報としての受容が可能であるといえる。さらに,このような音や音声の聴覚的受容は,コミュニケーションにおける言葉の流れやタイミングなどを適切にとらえることであり,話し言葉での表現に際して,非常に重要な役割を担っているものである。
聴覚障害の状態に個人差かあっても,コミュニケーションにおける話し言葉の聴覚的受容及び生活における聴覚活用は,障害の程度にかかわりなく重視されなければならない。そのため,補聴器の装用に代表される聴覚補償の手だてと主体的な聴覚活用の方針は,最も基本的なこととしてとらえ,そのための教育的配慮が不可欠である。
* 留意事項 : 環境音や言語音の聴覚的な受容能力の向上のためには,日常生活における配慮と長期にわたる年齢に応じた系統的指導か欠かせない。さらに,音声言語の表出についても,聴覚的なフィードバックは極めて重要である。
多くの聴覚障害児は,聴覚の最大限の活用と読話等の併用によってコミュニケーションを行っている。両者を併用した場合の効果は大きなものであり,日常会話や授業場面等においては,十分聴覚活用に配慮することが大切である。
(2) 読 話
読話は,話し手の音声言語を視覚的に受容する活動である。読話は,相手の口唇,舌,顎角,表情などの動きを読み取るだけでなく,次のような諸要因を総合して成立するものである。
〈受け手側の要因〉

(1) 視覚・運動感覚的要因 : 口唇,舌,顎角,喉頭,表情などの動き及び話の速度,リズムなどの受容能力

(2) 言語能力的要因 : 語彙,語法,文法,話題把握,文脈,要点把握などの言語能力

(3) 心理的要因 : 話題への関心・必要感及び経験的背景,注意力,集中力など

(4) 聴覚的要因 : 音・音声受容能力,聴覚・視覚併用能力

〈話し手側の要因〉

(1) 物理的要因 : 口形,距離,話の速度,位置(角度),高さ,照度,光角など

(2) 言語的要因 : 要領を得た話し方の工夫,受け手側の言語能力への配慮,話題の事前告知,話題に関する補助的教材など

(3) 心理的要因 : 心理的安定への配慮,話題内容・場面等に即した表情,疲労への配慮など

(4) 聴覚的要因 : 聴覚活用への配慮,話声の高低・強さ,補聴機器の活用など

* 留意事項 : 読話はかなりの集中力を必要とし,疲労も大きいものである。したがって,上記のような諸要因を十分に考慮した上て行わせることか大切である。例えば,1対1の対話場面と,授業などのような数人での会話場面,あるいは講演会のような場面では,読話による情報の受容状況か異なるものとなることに留意する必要かある。
また,読話には,情報受容のあいまいさを伴うことか多い。例えば,同口形異音(い,き,し,ち,に等)を組み合わせた言葉(いし,きし,ちち,しし等)や同音異義(石と意志,花と鼻等)の言葉などはその典型的なものである。したがって,聴覚的に確認したり,話題内容や文脈によって推測したり,文字や特定のサイン,キュード・スピーチ,指文字,手話などによって確かめを行ったりするなどの配慮が非常に大切である。
以上は,言語の形態的側面(言葉という記号)の受容に関する留意事項であるが,読話によって受容される情報の意味理解も共に重要である。先に挙げた諸要因のうち,言語能力や心理的要因は,情報の意味理解を左右する重要な事項である。
(3) 発音・発語
聴覚障害児は,その障害のため,聴覚的なフィードバックが困難になりがちである。したがって,子供が話し言葉で自分の考えや気持ちを表出できるようにするためには,意図的かつ系統的な発音・発語指導が必要である。
発音・発語指導は,聴覚障害児が話し言葉を通して,国語の的確な音韻表象を確立し,国語の習得を図るために欠かせないものであるとともに,話し言葉の明瞭性を高め,イントネーション等にも留意した話し方ができるようにするために行われるものである。
なお,明瞭な発音・発語の要領を習得し,国語の音韻表象を確立するためには,子供に補聴器を装用させ,聴覚的なフィードバックを活用して指導したり,発声・発音器官に手を触れさせ,その筋肉運動感覚を活用して指導したり,コンピュータを利用した各種教育機器を活用して指導したりするなどの方法がある。
* 留意事項 : 発音・発語指導は,音声学的知見によることとともに,個々の発音・発語の特徴を適切にとらえること,さらに,学習者本人の意欲が高まることなどによって,その効果が上がるものであるが,長期的かつ系統的に継続して行うことが欠かせないものである。
聴覚障害児の発音・発語指導は,明瞭な音韻で意欲的に話をさせるようにする指導とその定着を図る指導,さらに,誤音を矯正する指導とに大別される。それぞれの目的に応じた指導を行うことが必要である。
(4) 文 字
文字は,一度書いたら消さない限り,後々まで残る記号であることから,話し言葉の確認や意味の確認,記録,さらにはその場にいない相手への情報伝達等に有利なコミュニケーション手段である。その意味において,文字は,聴覚障害児にとって極めて重要なものであるといえる。
コミュニケーションにおける文字活用の具体的方法としては,筆談(板書などを含む)や空書などがある。これらの方法は,情報の表現手段であるとともに,情報の的確な受容手段ともなるものであり,前述の聴能や読話及び発音・発語との併用による相乗的効果が大きくなるものである。さらに,近年目覚ましい普及がみられるファクシミリや字幕・文字放送等は,まさに文字の特性を生かした情報伝達の手段であり,聴覚障害児が文字言語を駆使する能力を高める指導は,将来の社会生活にとっても重要な意味がある。
* 留意事項 : 文字の指導は,とりわけ国語科との関連が深い。コミュニケーションにおける文字の利用は,国語科の指導内容である言語事項のうち,特に表記法を十分に考慮しながら行う必要がある。
(5) キュード・スピーチ
キュード・スピーチは,国語の音韻を五つの母音口形と音素レベルで表象する記号(キュー)との組合せによって表現する方法である。この方法によって,国語の音韻を視覚的に識別し,受容したり表出したりすることができるので,聴覚障害児にとっては,非常に有効な手段といえる。
また,キュード・スピーチで用いられる手指の形態やその動きは,記号として発音要領を表しているので,子供がある音韻の発音要領を確認し,自ら発音を矯正する意味でも有効である。
* 留意事項 : キュード・スピーチは,国語の音韻と対応しているため,文字学習への移行が容易であることや,幼児期からのコミュニケーションに適用しやすいため,母子関係の安定が図られやすいことなどの利点がある。しかし,読話力が低下しがちであったり,話し言葉のイントネーションなどが乱れたりする傾向がみられるという指摘があるので,このことに留意する必要がある。
(6) 指文字
指文字は,五十音のかな文字に対応した手指の形態であり,その動きによって,拗音,促音,濁音及び長音など,国語の音韻を表現することができる記号である。
コミュニケーションにおいては,指文字が単独で用いられることがほとんどなく,話し言葉や手話との併用が大部分である。多くは,指文字が助詞などや固有名詞を表示したり,あるいは手話の語彙の構成部分となったりする。
指文字の効用としては,音韻を弁別するための情報として付加されることにより,国語の音韻表象の形成やコミュニケーションにおける情報伝達の効率(即時性,正確性など)の向上,機能語(助詞など)の習得及び文レベルでの規則の習得等に役立つことが挙げられる。
* 留意事項 : 指文字を導入した教育実践によれば,その導入時期は,発話の習慣が形成され,話し言葉の語調の整った後が望ましいといわれている。指文字の使用による効果は,前述のとおりであるが,発声を伴わないコミュニケーションの傾向がみられることもあるので,発音・発語指導や聴覚活用を徹底したり,口声模倣の習慣をつけたり,語のレベルや文のレベルで使用させたりするよう留意することが必要である。
(7) 手 話
手話は手と指の形態,位置,向き,動きの方向と速度などによって意味を表現する言語である。特に,聴覚障害児同士のコミュニケーションや聴覚障害者の家庭及び社会生活にとって,重要な役割をもつ言語である。
手話そのもののとらえ方には,いろいろな考えがあるところであるが,現在我が国で用いられている手話には,大別して日本手話,話し言葉に対応して使用される国語対応手話,これら両者の中間に位置する手話があるといえる。
聾学校においては,口話と補完し合う中で,特に,中学部や高等部において用いられている場合が多い。
* 留意事項 : 手話は,幾つかに分けてとらえられること,また,それぞれが研究途上にあることなどから,聾学校教育の中での活用については,それぞれの特性等を十分検討することが必要である。
また,聴覚障害教育においては,国語の習得が重要な課題であることから,手話を活用する際の目的,生徒の言語能力等の実態や心理状況,手話の機能等を十分検討した上で活用することが実際的である。

3 発達段階に応じたコミュニケーション手段の活用
1) 乳幼児期段階(0~2歳)
(1) 言語コミュニケーションの発達に関する課題
近年の言語発達に関する研究によって,子供は,一定の言語能力を獲得した後に,対人的コミュニケーションを始めるのではないことが明らかにされてきた。子供は,母親を中心とする周囲の人との様々な手段によるコミュニケーションを基礎に,また,標準的には1歳半ごろに現われてくる象徴機能に助けられて,言語コミュニケーションの世界に参入してくる。そして,生活の具体的状況の中で,身近な人とのコミュニケーションを数多く経験していくうちに,認知能力の発達の範囲内で言語の意味づけが可能になり,次第に言語能力を獲得していく。これが人と人とのコミュニケーションに動機づけられて進む言語発達の自然の筋道である。聴覚障害がある子供の場合も,早期発見,早期補聴の普及により,このような自然の筋道をたどる可能性は大きく,また,そのことが子供の全人的発達にとって重要であることが共通理解されつつある。
この時期は,両親にとって,障害の発見に基づく心理的動揺の時期であるが,両親が障害を受け止め,意欲的に子供の教育に取り組めるよう援助し,さらに,母子間の自然な言語コミュニケーションを成立させるためには,まず,聴覚活用の開始と様々な手段によるコミュニケーションの形成が,課題となることを母親に理解させていくことが大切である。
(1) 聴覚活用の開始

保有する聴力の正確な診断に基づく聴覚補償は,医療機関との連携によって進められる。その上で,補聴器装用の習慣を形成したり,生活の中で聴覚活用を促進したりすることが,乳幼児教育の場や家庭における最初の課題となる。また,聴覚障害が重度な乳幼児の場合にも,聴覚活用への働きかけの工夫や感覚的フィードバックによる音声誘導への働きかけが必要である。

(2) 対人的コミュニケーションの基礎の形成

母親(主たる保育者)との情動的な一体感を伴う経験が,人と人とのコミュニケーションの原点であると考えられている。その経験に支えられて,子供は,生活や遊びの様々な具体的な活動の中で,コミュニケーションの相手の存在に気づき,相手の反応に興味をもち,相手の意図を理解するようになる。一方,その過程で示される子供の漠然とした反応や未分化な意図は,大人の「察し」によって意味づけられることを通して,次第にしっかりした反応,意図的な表出へと変化していく。こうして子供は主に身振り,表情,声,指さし,事物の提示などの手段を使いながら,具体的な場面の中で大人と何らかの意図を伴ったコミュニケーションを開始する。聴覚障害乳幼児の場合も,このようなプロセスを踏むことは十分に可能である。そのためには,生活行動や遊びの中で,大人が子供の行動をよく見て子供の関心の向くところを察し,互いのかかわりが形成され,維持されるように働きかけること(話しかけること),場の理解を助けるような工夫をすること,子供の未分化な,あるいは,明確だが言語化されない反応や意図を受け止めて,言葉に置き換えて示すことなどが必要である。話し言葉による表現への意識づけは,ここから始まることになる。育児の中心になる母親に,子供の行動の理解の仕方,働きかけ方,言葉かけのタイミングなどについて,実践を通して伝え,子供や母親の状況に合わせて援助していくことが,この時期には重要である。

(2) コミュニケーションの手段と内容
(1) コミュニケーションの手段

この時期に使われるコミュニケーション手段は,表情,身振り,動作,事物の提示,関連する事物の提示,指さし,音声,音声言語など大変豊富である。学校によっては2歳児でキュード・スピーチを使い始めるところもある。実際に聴覚障害乳幼児とその母親が使用するコミュニケーション手段について観察した研究によれば,母親は音声言語だけでなく,他の手段も併せて使用し,次第に音声や音声言語を多く使うようになるという傾向がみられる。まず,必要な手段を一緒に使ってコミュニケーションを成立させることが優先され,次いで,その中で話し言葉による表現への意識づけを目指すことになる。そこでは,聴覚を活用しながら視線を合わせて話しかけることや,分かりやすい言葉の音声誘導などが必要になってくる。

(2) コミュニケーションの内容

この時期のコミュニケーションの内容は,ほとんど,その場面の中で起こっている事柄にかかわっており,日常生活における行動にしろ,遊びの中にしろ,子供が今していること,見ていること,感じている感覚などに関してやりとりがなされる場合が最も多い。ちよつと前の経験やこれからのことも,関連する事物や絵などを上手に提示すれば,多少のやりとりは可能である。しかし,この年齢の子供にとっては,場面の中での事柄に対する與味・関心が非常に大きいので,日常的な活動や,いろいろの遊びの中でやりとりを成立させることが中心となる。

(3) 家庭におけるコミュニケーションと両親援助
(1) 家庭におけるコミュニケーション

乳幼児の生活のほとんどは家庭で過ごすことが多いので,家庭でのコミュニケーションの量と質が,子供の言語コミュニケーションの発達にとって大きな影響を与える。両親の心理的動揺が長引けば,子供の情緒面における発達にも問題が生じやすい。子供をあるがままに受け入れ,かわいいと思う心情が言語コミュニケーションの発達の出発点であることを,両親に理解させていく必要がある。一日の流れがほぼ一定し,しかも具体的な家庭生活は,子供にとって分かりやすいコミュニケーションを経験する最適の環境である。日常生活における行動や遊びの中で,うまく子供とかかわれるよう,また,音声言語だけに固執せず複数の手段を適宜利用してコミュニケーションが成立するよう,さらに,働きかけや話しかけのタイミングを子供の行動のリズムに合わせることができるよう,母親を援助することが必要である。

(2) 両親援助

教育相談担当者のこの時期における両親,特に母親への援助は,非常に重要であるが,内容としては障害の理解や補聴にかかわる情報提供的援助,障害の受容にかかわる心理的援助,子供とのかかわり方についての実際的援助などが考えられる。また,重複障害児の両親や聴覚障害がある両親に対しては,特別の配慮が必要である。

情報提供的援助については既に多くの聾学校で,母親学級などという形で行われているところである。心理的援助と実際的援助については,母親を取り巻く環境や母親の性格,教育開始からの時間などにより,その必要度の比重はかなり違っている。それぞれの母親が当面最も必要とする援助を見分け,それに対応していく教師の柔軟性が求められる。

重複障害児の母親に対する援助は,心理的援助にしろ,実際的援助にしろ,一層のきめ細かい配慮が必要である。他の子供と比べて焦らないよう,発達について具体的に母親に助言するとともに,子供がコミュニケーションの相手に気づく段階から,相手の反応を気にするようになり,やがて,自分からも意図的な表出をして,相手とのやりとりが成立する段階に到達するようスモールステップの指導計画を作成していくことが大切である。

聴覚障害がある両親への援助は,聾学校が,より積極的に取り組むべき課題として位置づけられる。子供との接し方について両親と話し合う際には,両親が日常使っているコミュニケーション手段を尊重することが大切である。一方,聴覚活用及び国語の習得のための方向づけは,他の子供と同様に大切である。したがって,手話表現による意思の疎通においても,例えば身近な人の援助を得るなどして,音声表現を併せて行わせるようにすることが求められる。また,聴覚障害がある両親は,子供の行動の意図を察することが得意で,それが子供とのスムーズなコミュニケーションを可能にし,親子関係が安定していることも,しばしば見受けられる。教師は,聴覚障害のない母親にこのことを伝え,母親同士の仲間意識を育てるとともに,聴覚障害児の先輩としての経験に学び,相互に信頼し合えるように働きかけていくことが必要である。

2) 幼稚部段階(3~5歳)
(1) 言語コミュニケーションの発達に関する課題
この時期は,子供が身近な人との対話型のコミュニケーションを通して,生活の中で使われる国語を習得する時期である。また,この時期には,将来における社会参加・自立の可能性をできるだけ広げるため,聴覚活用をべースとして発声を促すとともに,適切な発音・発語指導を行うことが望まれる。したがって,子供たちがこの時期の課題を達成していくためには,聴覚障害の性質を十分理解した上での教育的アプローチが不可欠である。
(1) 聴覚活用

個人用補聴器に加えて集団補聴器を活用し,生活の中での聴覚活用から音声言語レベルでの聴覚活用を促すような働きかけが行われる必要がある。

しかしながら,子供の保有する聴力には違いがあるため,音声言語の理解に視覚的な情報を必要とすることが考えられる。その際,視覚的な情報を必要とする程度は子供によって異なるので,教師は,聴覚活用等に関して,子供一人一人の実態に即した目標の設定と長期的な指導計画を作成することが大切である。

(2) 発音・発語指導

聴覚を利用した音声誘導や口声模倣は,国語を習得するための手法であるとともに,適切な発音を促すためにも役立っている。しかし,聴覚的なフィードバックだけでは発音の明瞭性を得られない場合も多いので,幼稚部段階で系統的な発音・発語指導が導入されている。このような発音・発語指導については,4歳児代から個別に扱い始める学校が多い。従来から用いられている方法に習熟するとともに,子供の心理を踏まえた指導の在り方を検討することが大切である。

幼稚部における発音・発語指導は,話し言葉の明瞭性の向上を目指すものであるが,幼児後期になれば,このこととともに,子供の国語の音韻に対する意識(音韻表象)を育て,かな文字を学習するための素地を形成することなどに寄与するものとなる必要がある。

(3) 対話型コミュニケーションの成立と発展

本来の対話型コミュニケーションが成立するまでには,かなりの時間がかかるものであるが,まず,家庭生活の様々な場面や学校での様々な活動を通して,対話する機会を増やすことが最初の目標になる。子供の多様なコミユニケーシヨン手段による表出や言葉による不完全な表現を的確にとらえ,子供がとらえやすい言葉で表現するように努める。さらに,それを子供が口声模倣するというように,つながりのある一つの流れを形成することによって,疑似的対話を成立させ,それを次第に本来の対話に近づけていくようにする。

この時期の対話は,ほとんど場面の中で起こっている事柄に関したことや子供が経験したことを対象としているものである。このような対話活動の中で,文の長さや語彙の広がりなどの国語表現を個々の発達に即して向上させるように努め,言葉によるやりとりができるような言語能力の習得を目指す必要がある。

対話型のコミュニケーションが成立し,教師と子供たちとの対話や子供同士の対話がみられるようになってきたら,次に,内容の伝達に重点を置くようにして,人の話を理解し,話題に沿って話ができるよう援助していく。経験的内容だけでなく,近似的経験,疑似的経験,生活的知識などを対象とする対話活動が増えてくれば,子供の頭の中で,言葉とイメージの相互作用が頻繁に起こるようになり,教科学習に移行できる言語機能が形成され始めてくる。

聴覚障害児の場合,幼稚部修了時までに,国語による内容伝達がある程度可能な段階になるまで,国語を使いこなす力の獲得を目指すことが大切である。

(2) コミュニケーションの手段と内容
(1) コミュニケーションの手段

大人からの働きかけは,主として聴覚活用と口話による方法で行われ,学校によってはキュード・スピーチや指文字なども同時に使用される。また,聴覚活用と口話による方法の場合,あるいはキュード・スピーチや指文字などを併用する場合も,聴覚や視覚の両方を用いたコミュニケーション手段によって理解しなければならないので,対面して話し合う態度を養うことが必要である。

子供からの表出には,乳幼児期に引き続き,身振りなど様々な手段が使われるが,それらを音声言語で表現できるようにするため,口声模倣などの働きかけがなされる。なお,例えばキュード・スピーチについては,3歳の半ば過ぎから導入する学校が多いようである。聴覚活用と干渉する部分もあるので,導入時期については慎重に検討する必要がある。聴覚活用と口話による方法を中心とする学校でも,発音指導の進行に伴い,発音サインを発音の誘導又は子音弁別の指標として使っているところもある。

文字については,幼稚部段階における話し言葉の習得の支援として使われている。

(2) コミュニケーションの内容

幼稚部の子供にとって,コミュニケーションの内容は,ほとんど場面の中で起こる事柄や簡単な経験事項で占められる。しかし,幼児後期になり,認知できる範囲が広がるにつれて,近似的経験,疑似的経験,生活的知識などにも関心が広がってくる。それらに合わせて少しずつコミュニケーションの内容を広げ,深めていくようにすることが大切である。

(3) 家庭におけるコミュニケーションと両親援助
(1) 家庭におけるコミュニケーション

家庭生活の中での出来事は,子供にとって大きな関心事であり,家庭でコミュニケーションがどれだけ成立するかが,子供の言語コミュニケーションの発達に大きく影響する。母親と子供のかかわりを中心にして,家族のコミュニケーションが円滑かつ豊富に行われることが望まれる。コミュニケーション手段については,学校と同様の使い方がなされることが必要であり,また,場や子供の気持ちに即した扱いができるようにすることが大切である。

(2) 両親援助

幼稚部では,子供が国語を習得するための実際的援助の比重が大きくなる。母親に学校での活動の意図やその時期の課題などを具体的に伝えていくことが必要であるとともに,母親によるそれぞれの家庭の実情に即したコミュニケーションが活発に行われるようにすることが重要である。

母親に対する心理的援助としては,聞こえや言葉の発達だけが気になったり,ほかの子供との差にとらわれ過ぎたりする母親への援助に留意することが大切である。母親が,子供の全体的な発達に目が向くよう,また子供のぺ一スに合わせて接していけるよう援助していく必要がある。これらに加えて,幼稚部修了時点での進路決定に際しては,両親が子供の性格や聴覚活用の状況,言語コミュニケーション能力等を的確に判断し,将来の見通しについて考え合わせることができるよう適切に援助することが大切である。

重複障害児の場合は,その実態に応じたコミュニケーションの仕方を母親が発見できるよう援助することが出発点になる。生活場面等での意味の分かりやすい事柄や子供自身の行動などを対象としたコミュニケーションを成立させることが課題になるので,一つ一つの活動の中で具体的に援助していくようにする。こうしたときにも,教師は言葉の習得にかかわる指導の方向性を踏まえておくことが大切である。

聴覚障害がある両親の場合,家庭でのコミュニケーションにおいて手話表現が使われることも多いと考えられる。手話表現でも,生活場面での伝達事項は,子供に対しても感情も含めて伝わりやすいことから,コミュニケーションの役割は果たされると考えられるが,子供が国語を習得していくためには,音声言語による話しかけが必要である。聴覚を活用し,話し言葉を習得させたいと願う両親も多いので,実態に即した具体的な援助を行うことが大切である。教師の側にも,親の悩みや要望に応えられるように努力することが求められる。

(4) 幼稚園等でのコミュニケーション
近年,聾学校の交流教育の一環として,幼稚部の子供が,適切な補聴をした上で幼稚園や保育園に通い,聴覚障害のない子供と共に活動する機会が増えてきている。その際,子供同士の行動レベルでのやりとりがあったり,活動にも参加しやすかったりすることから,関係者の中には幼稚園等での生活のみで十分であると考える者も少なくない。しかし,幼稚園等では,一般に音声言語を中心としたコミュニケーションが行われることから,幼稚部の子供においてもそれに対応できるような状態であることが求められる。したがって,例えば,音声言語を中心とした対話型コミュニケーションの習慣を身に付けていない限り,聴覚障害の子供が,幼稚園等の生活を通して国語によるコミュニケーション能力をより一層伸ばすことは困難であると考えられる。
こうしたことから,幼稚部において行われる個々の子供の実態に即した言語能力やコミュニケーション能力を育てる指導が重要であるといえる。
また,聴覚障害が比較的軽度な子供が幼稚園等に在学している場合においても,コミュニケーションの実態等を的確にとらえ,必要に応じて,聾学校等の専門機関で子供の実態に即した言語能力やコミュニケーション能力を育てる指導を受けるようにすることも大切である。
3) 小学部段階
(1) 小学部
聾学校小学部の教育を考える場合,二つの側面を考慮することが必要である。すなわち,一つは,幼稚部とのつながりであり,もう一つは中学部とのつながりである。
幼稚部とのつながりは,幼稚部で培われた国語の習得状況及び国語による概念形成の状態を,よりよくすることであり,中学部へのつながりは,小学部から教科指導が始まり,それを継続・発展させることである。
(1) 言語指導上の配慮とコミュニケーション

小学部低学年における言語指導(国語の習得を図る指導)は,幼稚部における言語指導との関連を重視するとともに,基本的には,児童が日常生活において経験した事柄を国語で表現できるようにすることである。その際のコミュニケーション手段は,児童が幼稚部において使用したものを引き続き使用することとなる。例えば,幼稚部において,聴覚障害の状態に応じ,聴覚的受容に重点を置いて指導した場合,視覚的受容に重点を置いて指導した場合,あるいは,キュード・スピーチや指文字が併用されていた場合などがある。これらについては,そのまま小学部低学年においても,継続されることが必要である。

この時期は,一般的に,聴覚活用と口話による方法が用いられる。また,キュード・スピーチや文字,指文字を併用する場合もある。これらのコミュニケーション手段は,国語の音韻に対応するものであることから,国語の習得や国語による概念形成にふさわしいものであるといえる。

しかしながら,聾学校における言語指導は,ただ単に,国語の習得及び国語による概念形成のみを目指せばよいということではない。特に,聾学校においては,主体的な国語の習得を目指すことが重要である。聴覚障害がない場合,国語は,もともと聴覚的受容をもって主体的に獲得されるものである。しかし,聴覚障害がある場合は,国語を意図的かつ計画的に学習させる必要がある。したがって,こうした過程では,児童それぞれの主体性を損なうような指導が行われることも懸念される。例えば,聴覚障害のない子供の国語の習得に比べて,熱心さのあまり行き過ぎた指導になったり.あるいは,不十分な指導にとどまったりすることである。聾学校の言語指導に当たっては,児童の主体性を可能な限り尊重するとともに,児童が主体的に国語の習得を図ることができるようにすることが必要である。

(2) 教科等の指導上の配慮とコミュニケーション

聾学校小学部においては,幼稚部からの言語指導の継続とともに教科指導が開始される。教科指導は,話合い活動に支えられて展開される。このため,国語の習得の状況が,教科指導の進展と深い関係がある。また,「話し言葉」から「書き言葉」に発展させる際,特に「書き言葉」による「読み」の指導は,一般的に聾学校において非常に困難性が高いものである。特に,国語科における「読み」については,高学年になるにつれて,読んで分かる状態になるまで指導することが難しくなる。一般的に,「読み」の指導の困難性の原因の一つは,前述した聴覚障害児の国語の習得及び国語による概念形成の困難さにあり,もう一つは,「読み」が,一般的に児童の経験と素材の内容との照合によって進められていくことから,国語の習得及び国語による概念形成が不十分であればあるほど,話合い活動が不十分になりやすく,したがって,困難性がより高くなりやすいものである。

このため,聴覚障害教育では,日常生活においても,また教科指導等においても,話し言葉の陶冶に心がけるとともに,特に言語指導や教科指導においては,様々な配慮が必要である。例えば,発音指導に際して,そこで形成される音韻表象と文字が一致するようにしたり,児童自身が自分の発言内容を文字によって正しく表記できるようにしたりすることである。これらの指導に際しては,国語の音韻と対応しているコミュニケーション手段の使用が必要となるものである。

こうしたことから,小学部においては,聴覚活用と口話による方法を中心にして,言語能力の拡充を図るとともに,話し言葉から書き言葉への移行に留意し,文字の機能が十分生かされるように指導することが大切である。

小学部においては,言語指導や教科指導をはじめとして,すべての指導にわたって,全人的育成を目指すことは当然であるが,特に「養護・訓練」の指導に当たっては,このことを念頭におくことが大切である。例えば,自己の障害を認識して正しく受容し,これを克服して,たくましく生きていこうとする意欲を培うことや,良好な人間関係を維持するため,他人の立場や気持ちを理解することなどである。さらに,社会常識,社会通念及び規範等の理解に関しても,将来の社会参加・自立を目指すためには,重要な指導内容である。特に,これらの指導に当たっては,実際場面における体験を重視するとともに,国語による意味理解を十分に図り,的確な指導を通して,習慣化を図ることが必要である。

これらの全人的育成を意識した指導は,国語を抜きにしては考えられないことであり,そのためにも,常に,個々の児童の言語発達やコミュニケーション状況に応じて,国語の力の拡充を図るために適切なコミュニケーション手段の活用及び選択がなされる必要がある。

(3) 重複障害児のコミュニケーション

重複障害児の指導に当たっては,その障害の状態に応じて,指導内容及び方法が考慮されなければならない。個々の子供の障害の状態は,それぞれ異にしていることから,一概にはいえないが,コミュニケーション手段に関しては,すべての手段を対象にして,まず,意思の疎通を図ることを最優先して選択することが望ましい。その際,障害の状態によっては,手指記号や文字記号の理解が可能な児童もいることを考慮して,可能な限り,個々の児童の可能性を最大限に発揮できるよう指導することが必要である。こうしたときも,教師は子供の国語の習得にかかわる指導の方向性を踏まえておくことが大切である。

(2) 小学校の難聴特殊学級
小学校における難聴特殊学級においては,その対象となる児童の聴覚障害が比較的軽度であるため,聴覚活用を中心とした指導が行われる。したがって,補聴器のフィッティングに始まり,種々の音や音声の聴取,弁別,日常生活におけるコミュニケーションに必要な補聴器の活用方法等について,重点的な指導が必要とされる。その際,選択される手段については,音声言語によるコミュニケーションが主となるため,聴覚活用と口話による方法が中心となる。
また,児童の実態に応じて言葉の指導も行われ,聴覚活用を主とした方法とともに,必要に応じて,視覚的受容としての読話や筋肉運動感覚を利用した発音・発語指導も行われる。
難聴特殊学級のもう一つの特色は,教科の補充指導である。これは主として言語にかかわる教科が中心になる。例えば,国語科をはじめとして社会科や算数科の文章題などで,その児童に必要と思われる教科の内容について,全部あるいは一部を取り出して指導することになる。
難聴特殊学級の指導は,おおむね個人指導が重視される。その際においても,個々の児童の障害の状態に応じて,コミュニケーション手段が選択され,実態に応じた指導を展開することが必要である。さらに,通常の学級との連携を密にしたり,学校内での教師同士の相互理解を図ったりするなどして,児童の生活全般にわたるコミュニケーションが円滑かつ活発に行われるよう配慮することが望まれる。
4) 中学部段階
(1) 中学部
聾学校中学部の教育は,小学部で培われた学力,言語能力等を基盤にして行われるが,この段階では,学力や言語能力等の個人差が著しくなる。したがって,指導に当たっては,この点に関する配慮が不可欠である。このため,日常生活や教科等の指導におけるコミュニケーションに際しても,常に教師の伝えようとすることが正確に伝達されているかどうかを確かめることが必要となる。また,生徒同士がその内容を確かめ合い,正確な情報を共有することが大切である。
正確な伝達,正確な情報の獲得は,教科指導においてとりわけ重要なことである。また,この段階の生徒たちは,一般的に聴覚活用と口話による方法を用いてコミュニケーションを行う基盤が形成され,日常的にも話し言葉を主体としたコミュニケーションを行う態度が体得されてきている。
中学部における教科等の指導上の配慮事項とコミュニケーション手段について,以下に述べることとする。
ア 生徒の実態把握
小学部段階における学習や生活面の記録,聴力やその活用,発音・発語,読話,使える言葉の数,学力等に関する記録を可能な限り入手するとともに,生徒と実際に接する中で得たことをもとに,その実態について検討することが必要である。その上で,それぞれの生徒にとって,どのようなコミュニケーション手段が最も効果的かつ効率的であるかを判断し,伝達する内容や場面に応じて,適切に選択することが大切である。また,この時期の生徒の心理的な特性を考慮するなどして,話し言葉に手指記号を加えてコミュニケーションを円滑にするなどの工夫が必要である。
イ 読解力や文章表現力の向上
言葉の学習は,聞くこと,話すこと,読むこと,書くことの活動が一体となって進められる。聴覚障害がある生徒の場合でも,これらが全体的に達成されることが望ましいが,場合によっては読むことや書くことに重点を置いた指導も必要となるものである。とりわけ正確な伝達を行い,正確な情報の獲得を目指す場合,読解力や文章表現力が決め手となることが多い。この段階では,生徒の興味・関心の範囲が広がり,自然現象や社会的事象,人間関係などへの関心も深まってくる。新聞,雑誌単行本などの興味・関心のある記事や文章を読み取らせたり,要約させたり,意見や感想を書かせたりするなどの指導も必要である。
ウ 教師の発問や指示の工夫
指導の際,一般的には,質問し応答する形式の展開が多く,生徒に思考を促す発問や学習課題の提示が十分でないといった指摘等もある。答えが一つとは限らず,生徒自身の考え,感想,意見等を問うような発問が,学習活動をより活性化させる一つの機縁となるものである。
また,学習課題の提示の際も,「続きの文章を考えて,ここに書いてみてください」といったような,思考を伴う作業課題の提示を工夫することが大切である。こうしたことが,コミュニケーションを活性化することにつながっていくことになると考えられる。
エ 教育機器や諸資料の活用
OHP,8ミリ映写機,スライド映写機,VTR等の機器の活用にとどまらず,ワードプロセッサ,コンピュータ,テレビ,映画,ファクシミリ等の利用が必要である。さらに,絵や写真,アニメーション,模型,図鑑等の活用も効果を上げると考えられる。これらは学習への動機づけや学習意欲の向上を図るという意味でも重要である。
オ グループ活動の活性化
学習グループを編成し,共同で学習課題に取り組ませたり,他の生徒と意見を交換させたり,観察や実験結果の発表や検討,協議させたりする際には,コミュニケーション手段として,国語を重視した方法が重要な役割を担っている。こうした場合,一部の生徒が全体をリードしがちな傾向がしばしば見受けられる。とりわけ,国語の習得状況が十分とはいえない生徒の場合には,生徒の言語能力やコミュニケーションの可能性を考慮しながら,生徒が話し言葉を使って活動に参加することを促すとともに,絵や図を描いて説明したり,指文字や各種のサイン,手話等を併用したりすることによって,活動への参加を促すことが大切である。
力 学習の遅れている生徒の指導
この場合,アで述べた「生徒の実態把握」が特に重要である。こうした生徒の中には,学習の遅れの原因がコミュニケーション手段の選択によるのではないかと疑われることもある。保有する聴力がかなりあり,発声・発語が活発である場合は,一般的に聴覚活用と口話による指導がふさわしいと考えられるが,この段階になると,それぞれの生徒にとって,どのようなコミュニケーション手段が最も望ましいのか,生徒の個性をしっかり把握し,生徒が意欲的に学習に参加できるような手段の選択と活用に努める必要がある。
(1) 養護・訓練におけるコミュニケーションに関する指導
中学部段階では,この時期の発達上の特性から,障害の自覚や受容,その改善や克服への努力,精神的自立といった重要な課題がある。これらについては,養護・訓練の時間における指導を中心に,特別活動や教科等での指導と関連させながら,教育活動全般を通じて留意した指導を行うことが大切である。
障害の受容・克服には,あくまでも,本人の自覚や努力,意欲が基本となる。また,身の回りの多くの人とのかかわりが,その意欲を高めるきつかけとなるものである。したがって,例えば,特別活動などにおける交流教育の実践等を通して,本人の自覚を促したり,学習等に取り組む意欲を高めたりすることが必要である。特に,コミュニケーションについては,まず,相手や場の状況に応じてその方法を生徒に考えさせ,その上で,実際に行わせるようにすることが大切である。
養護・訓練の時間におけるコミュニケーションに関した具体的な指導事項としては,次のようなものが考えられる。

・ 生徒のコミュニケーションに対する意欲の向上に関すること

・ 日常の生活における情報収集とその活用に関すること

・ 多様なコミュニケーション手段の特徴等と,相手や場に応じたそれらの活用に関すること

・ 発音・発語の矯正や聴覚活用の有効性,言語能力の拡充等に関すること

・ 日常の生活の中で使われている指文字や手話の情報に関すること

・ 日常の生活で必要とされる社会常識等に関すること

(2) 重複障害の生徒のコミュニケーション
教師は国語の習得を目指して指導する必要があるが,重複障害の生徒の中には,聴覚活用と口話によるコミュニケーションでは学習がうまくいかず,様々なサインや手話等を中心的な手段として選択した方が,学習がより円滑に進展する場合があるので,こうした点に十分配慮することが必要である。
(2) 中学校の難聴特殊学級
中学校の難聴特殊学級における指導は,小学校段階の指導を基盤にして行われる必要がある。したがって,小学校段階での生活や学習の記録,聴力やその活用に関する記録等を可能な限り入手し,活用することが大切である。
コミュニケーション手段については,生徒の聴覚障害の状態等から中学校の難聴特殊学級の指導においても,小学校の難聴特殊学級と同様に聴覚活用と口話による方法が中心となる。
こうしたことから,聴覚障害に起因するコミュニケーション上の問題に対しては,聴覚補償,聴覚機能の改善・向上等を意図した聴覚活用の指導や発音・発語指導が最優先されることになる。
また,通常の学級における学習や生活が円滑にできるよう,話し相手に合わせて応対したり,相手の話を傾聴するコミュニケーション態度を形成したり,読話の助けを借りたりなどして,相手の伝えたい内容を推測できる言語能力を育てることが大切である。さらに,相手に積極的に話しかけたり,話合いに加わったりできる力を身に付けさせることを意図した指導も必要である。
なお,教科の補充指導も難聴特殊学級における指導の一部となっている。国語科や外国語科など,言語にかかわる教科や教科内容について,生徒の学習を促進する指導が必要である。
さらに,この時期は生徒が思春期を迎えるころでもあり,障害の自覚や受容,その改善や克服への努力,自我の確立に関する問題,また,進路の問題や学習・生活面での様々な問題等について,相談に応じたり,助言や指導を行ったりすることが重要な事項となる。
5) 高等部段階
(1) 基本となる考え方
聾学校高等部は,生徒に,将来社会参加・自立できる力を身に付けさせ,社会に送り出す役割を担っている。そこで,成人聴覚障害者の社会生活を考えるとき,二つの側面があることに留意する必要がある。一つは,職業を通して,あるいは地域での様々な活動を通して,一人の社会人としてもっている力を最大限に発揮していくことであり,もう一つは,同じ聴覚障害がある人たちと連携・協力して,自分たちの生活を豊かにしていくことである。
生徒が高等部を卒業する時点では,社会の一員として生活していくための資質を可能な限り充実させるとともに,自らの障害を正しく受容し,障害がある人たちの集団の中にスムーズに入っていけるようにすることが求められる。
高等部では,多くの時間が費やされる国語科,数学科等の教科指導,また,ホームルーム,生徒会活動,クラブ活動,学校行事等の特別活動,さらに,障害の状態を改善し克服するために設定される養護・訓練の指導が行われる。
こうした指導を行うためには,国語の力を高め,それによって情報を取り入れ,処理し,周囲とのコミュニケーションを豊かに行うことができる態勢を確立させるとともに,手話や指文字によるコミュニケーションが行えるようにするための基礎を形成することが必要になる。
なお,最近の高等部は,多様なニーズをもつ生徒によって構成されている。例えば,幼稚部からずっと聾学校で学んできた生徒,小学校や中学校の難聴特殊学級等で学んだ生徒,重複障害の生徒などがいる。また,聞こえの程度や言語能力,学力や経験等についても,かなりの個人差があるものである。
こうしたことから,高等部の教育活動におけるコミュニケーション手段の実態をみると,聴覚活用と口話による方法を中心として,手話が併用されている場合が多く,生徒も,聴覚活用と口話による方法,あるいは手話が単独で使われるよりも,同時に併せて用いられるほうが分かりやすいという意識をもつ者が多い。したがって,高等部におけるコミュニケーションは,単一の方法によってなされるのではなく,場面や対象となる生徒の状況によって,手段の使い分けや,併用の場合に重点の置き方を変えていくことが必要になる。
高等部段階におけるコミュニケーション手段は,国語としての音声言語と文字言語に加え,さらに手話や指文字を,コミュニケーションの場に応じて,単独あるいは併用等,様々な使い分けをしていくことが基本となる。
(2) 教科指導の場におけるコミュニケーション
教科の指導内容は,我々の先人がこれまで長年にわたって築き上げてきた文化の一部分である。その多くは,我が国では国語によって体系化されており,それに関連してやりとりされる情報も,ほとんどが国語によることとなる。
したがって,教科指導を進める授業の場では,教師と生徒,生徒同士の間で,国語の意味が確実に伝わり合うことが必要になる。また,生徒の立場では,学習した内容を国語の形で蓄積,整理していくことが求められる。
さらに,生徒が国語の読解力,表現力を高め,国語を使いこなす力を伸ばしていくためにも,国語を使う機会をできるだけ多くすることが大切であり,教科指導を進めていく際にも十分配慮することが必要である。そのためには,まず,コミュニケーションの場の設定が適切になされ,国語の意味を表す記号が確実に伝わり合うことが必要になる。
ここで,実際の教科指導の場面を具体的に考えてみることとする。前提となるのは,生徒が授業に臨む姿勢である。目標が生徒自身に明確に意識され,意欲をもって,主体的に授業に参加しようとする姿勢を育てることが重要である。その上で,実物,模型,図書,ビデオ教材,スライド,プリント等の教材を豊富に用意し,生徒自身に体験させたり,操作させたりしながら,授業を展開することになる。
高等部段階であっても,教科指導の際には,実物や絵などの様々な手段を活用することにより,意味内容を生徒の頭の中に想起させ,それを音声言語や文字言語,さらには必要に応じて手話や指文字で表現させたり,表現された言葉の形態(記号)からその容をとらえさせたりする活動が,授業の中で多くの部分を占めることになる。
高等部においても,授業の展開は,話し言葉によって進められることが多い。この場合に,生徒は視覚によって相手の口形や表情をとらえ,聴覚を通して音を聞き取っている。そこで,明るさや距離等,読話しやすいように環境を整えること,音声が適切に増幅されて生徒の耳に届くように補聴器のフィッティングが行われ,補聴設備が活用されることなどに,常に留意することが必要である。
ただ,音声の増幅等,聴覚補償が適切に行われても,聞こえの状況は様々であったり,読話の条件を整えても,言葉には同口形異音等の組合わせが多いので,視覚的に弁別できにくかったりすることなどのため,生徒が読話だけで話の内容をすべて受容することは困難である。したがって,指文字や手話を併用することは,コミュニケーションを確実かつ円滑に進めることにつながる場合もあることから,それらの活用について検討することも必要である。
教科指導の中で指文字や手話を使う場合には,国語の音声に合わせて使っていくことが原則である。前述のとおり,扱われる指導内容は国語によって記述されており,生徒にも,国語の形で知識や考え方が構成,拡充されていかなければならない。このため,読解力や表現力を高めるためにも,国語を使う機会をできるだけ多くすることが求められる。言語能力は,使うことによって磨かれ,高められるものである。
一方,手話の使用によって,情報の伝達が効率化されることもある。しかしながら,現実的な課題として,手話には語彙が少なかったり,また,一つの手話が多くの意味を表したりする側面がある。さらに,手話は,国語の単語と1対1で対応していなかったり,写像性が強かったりするので,聞き手が話し手の意図と異なった意味の受け取り方をすることもある。生徒が手話を使いこなす力には個人差があり,手話に不債れな場合には,意味がどのように伝わっているかということに留意しなければならない。
高等部段階では,書き言葉をコミュニケーションの手がかりとして使うことも重視すべきである。聴覚障害のある生徒が,最も確実に情報を得る手段の一つが,読書を中心とした「読む」という活動であり,また,学校を卒業した後の職場や地域社会等では,筆談が意思伝達の有効な手だてとなることが多い。現在のように.ファクシミリが遠隔地通信の手段の一つとして普及した状況では,今後,より一層書き言葉による正確な表現力と読解力が求められることになる。
教科指導の中では,教科書,参考書,プリント等に示された文章から,確実に情報を取り入れる力と,考え方,意見,問題解決の方法,考察の結果等を文章で正しく表現する力が重視される。
言葉そのものが扱われる国語科や外国語科の授業では,テキストになる文章が板書やOHPの形で生徒に提示されることが必要であり,他の教科も含めて,重要語句の文字カードを用意したり,小黒板にまとめの文をあらかじめ書いておくというような準備も必要である。
これまで具体的に述べてきたように,教科指導の場におけるコミュニケーション手段については,話し言葉を基本として用いるとともに,指導内容や生徒の実態等を考慮して,手話や指文字を併用したり,書き言葉で補ったりするなど,それぞれの手段の特徴を理解した上で,効果的に活用していくことが大切である。
(3) 特別活動の場におけるコミュニケーション
ホームルーム,クラブ活動,生徒会活動等の特別活動の指導の場では,生徒自身による主体的な活動が尊重される。その結果,教科指導の場に比べて,コミュニケーションの中で手話が果たす役割が大きくなると考えられる。
生徒会活動では,事前に教材の準備ができる教科指導と違って,数十人の集団の中で,言葉のやりとりを主体とした話合いが進められていく。そうした場面では,話し言葉とともに,手話が意思の伝達に役立つものである。また,自分の考えを発表したい,他の生徒に働きかけをしたい,話を聞いてほしいというような生徒自身の表出意欲を受け入れ,育てることも大切である。それが不十分な手話表現であっても,まずそれを認め,受容することが必要になる。その上で,話し言葉と結び付けたり,書き言葉で整理したりしながら,的確な表現で他の生徒に伝えさせるようにすることが大切である。
ホームルーム,学校行事,クラブ等の活動や交流活動の中では,生徒の興味・関心等に応じて,手話に関した活動を取り上げることも考えられる。
生活指導や進路指導を進める際には,教師と生徒が,打ち解けた雰囲気で,心情を理解し合 いながら話を進めることが必要であり,このような関係の成立や感情移入のため,手話を伴った話しかけを行うことも大切である。
(4) 養護・訓練におけるコミュニケーションに関する指導
養護・訓練の時間には,身体の健康,心理的適応,環境の認知,運動・動作,意思の伝達にかかわる内容が取り上げられることになっており,個々の具体的な指導の内容は,対象となる生徒のニーズに応じて構成されることになる。
特に,卒業後の社会生活等を考慮して,コミュニケーションに対する不安等にこたえる指導が必要である。
高等部段階におけるコミュニケーションに関する指導事項としては,聴覚活用の指導,発音・発語の矯正に関する指導,言語の内容を深め,読解力や表現力を高める指導などとともに,手話に関する内容を取り入れた指導も求められる。
手話の具体的な単語や統語構造の理解と,使いこなす力の向上については,教科指導や特別活動等の教育活動を進める中で,実際に手話を使いながら身に付けさせていくことが基本となる。その上で,次のような手話に関する事項については,適宜養護・訓練の時間に取り出して指導することが考えられる。

・ 手話に関する基本的な考え方や態度

・ 新しい手話に関する情報

・ 指文字や生活の中で使われる日常的な手話

・ 手話の造語法,文の構成法及び文法

・ 手話の言語としての特徴,有効な活用法

・ 社会生活における手話の役割,手話通訳制度,手話サークル,芸術活動と手話など

手話に関する上記のような内容を学習することは,生徒自らが障害を正しく受容し,卒業後の聴覚障害者相互のかかわり合いについて理解を深め,社会の中で自信をもって生きていく姿勢を育てるために必要なことである。
(5) 今後考慮すべき事項
高等部段階では,コミュニケーションを効率的に進めるため,手話が他の手段と併用される。また,このことは,生徒が,将来社会の一員として生きていくため,手話を含めた様々な手段を使いこなすための準備としても有効である。
現実には,実際の授業をはじめ,その他の教育の場面でも,手話がある程度取り入れられており,今後,その方向は変わらないであろう。そうしたときに,なお考慮すべき点が幾つかあるので,それらについて述べることにする。
その一つは,聾学校で扱われる手話について研究を進め,関係者の中で共通理解を図りながら活用するようにしていくことである。特に,教科指導の場で手話を使用する場合,国語に合わせて手話を用いることが原則になるが,手話そのものが十分に用意されているとはいいがたい状況である。現時点では,手話の語彙数が少なく,また,これまでの手話は,聴覚障害者の生活の中で,必要に応じて使われてきた自然な言葉であるので,教科指導を進める際に,それに必要な概念や用語をすべて表すことができる状況にあるとはいえない。
実際の授業場面では,教師と生徒が既にある手話を活用したり,あるいは変形したり,さらに新しく作り出したりして,そこで通じ合えるような約束事をつくりながら指導を展開しているというような状況もある。学校相互あるいは関係機関との連携を図りながら,共通化された手話として用いることができるよう研究を進めていく必要がある。
もう一つは,高等部の教師が,手話に対する理解を深め,手話を使う能力を向上させることが必要である。生徒が手話を用いて語りかけてきたときに,教師がその内容を理解できないということでは,指導を進めることが困難である。
具体的に個々の場面で手話を使うかどうかにかかわらず,教師は手話の特性や語彙を正しく理解し,手話を使いこなす力についても適切に身に付けておくことが大切である。そのための研修の実施や教員養成等についても,検討を進めることが必要である。
また,教師が,成人聴覚障害者の社会生活の状況やコミュニケーションにおける手話の役割について,理解を深めることも大切であり,例えば,同窓会等との連携を深めていくことも必要である。
6) その他
(1) 全校的な教育の場におけるコミュニケーション
入学式,卒業式,運動会,学芸発表会等の行事では,幼稚部から高等部までの全校の聴覚障害児が一同に会して,教育活動が進められることになる。このような場面では,話し手の内容を,発達段階の異なる多数の聴覚障害児全体に確実に伝えることが求められ,様々な手だてを講じることが必要になる。
まず,音声が確実に聞く者の耳に入るように,適正な音量に増幅することに加えて,講堂,体育館,運動場等に磁気ループが設置され,それを介して音が確実に補聴器に伝えられるようなシステムを設定することが望まれる。
さらに,室内であれば,OHPによって,話の内容を文字の形でスクリーンに投影することが有効である。儀式的な行事では,話される内容があらかじめ分かっていることが多いので,それを事前に文字に書き表しておくことができる。OHPの用意のない所では,話の要点や鍵になる言葉を紙に大きく書いて提示するというようなことも役に立つ。書き言葉を使うことによって,内容を確実に伝えることが可能になるものである。
中学部,高等部の生徒のためには,話し手が手話を使いながら話をしたり,手話通訳によって話の内容が伝達されたりすることも必要となる。また,話し手の顔をスクリーンに大写しにすることができれば,生徒はそれを見て読話によって話の内容を理解することが可能になり,講堂や体育館には,そのためのテレビカメラや投影装置の設置が望まれる。将来的には,話された内容がリアルタイムで文字化され,提示されるシステムが実用化されるであろう。
全校的な教育活動の場では,話し言葉がいろいろな手だてによって,確実に聴覚障害児に伝えられることが重要である。その際,その方策は,日常用いられているコミュニケーション手段や,補助のために実際に用意できる施設・設備とのかかわりで,それぞれの学校が適切に対処していくことが必要である。
(2) 寄宿舎におけるコミュニケーション
聾学校における寄宿舎は,聴覚障害児の生活の場であり,教育の場でもある。そこでは,精神的に潤いのある環境の中で,生活に即したコミュニケーションが,生き生きと,楽しくなされる必要がある。このことは,様々なコミュニケーション手段の活用により子供のコミュニケーションがリラックスした状態で行われることを意味する。したがって,教師と子供とのかかわりの中で,相手を受け入れ,心を開かせ,情感を込めたやりとりが行われるようにすることが大切である。
ただし,寄宿舎では,発達段階の異なる子供が集団で生活する形をとっており,個々の実態に応じた配慮が当然求められることになる。特に,幼稚部,小学部段階の幼児,児童については,国語を習得する過程にあることに十分留意することが大切である。生活の中で国語を生かし,聴覚活用や発音・発語を行うとともに,書き言葉と結び付けたコミュニケーションを重視することにより,その集団の中だけで通じ合うことにならないよう留意することが必要である。おしゃべりの楽しさや活気のあるコミュニケーションが尊重されることは当然であるが,生徒が生活の中で使う手話は,省略や場に応じた変形がなされることも見受けられる。狭い集団の中だけの通じ合いにとどまることがないよう,話し言葉に合わせた手話の使用を働きかけていくことが大切である。
寄宿舎の教育活動の中には,読書の指導,絵日記や日記の指導,ファクシミリや手紙の指導等,生活の中で書き言葉を使い,育てていく機会がたくさんあり,それらの指導を効果的に進めていくことも必要である。
テレビの字幕付き番組や手話放送を視聴させ,それらを活用していくことも,コミュニケーション能力の向上に大いに役立つものである。

4 障害の受容と克服
(1) 障害の受容・克服の基本
聾学校の幼稚部を修了後,小学校に入学するなど,比較的早期から小学校等で教育を受けた聴覚障害者や高等教育機関に学ぶ聴覚障害者を対象にした調査によると,その障害を意識したり,自覚したりし始めるのは,小学校段階であり,障害による挫折感に悩むのは小学校と中学校段階,障害を受容・克服できるのは中学校と高等学校段階であるといわれる。
聾学校に学ぶ多くの聴覚障害児は,聴覚障害のない子供との接触が比較的少なく,障害の自覚,挫折及び受容・克服は遅くなる傾向がみられ,高等部段階から社会人として自立する25歳ごろまでにわたるようである。
また,障害の自覚や挫折は,周囲の子供の無理解に基づく言動に端を発する例が多く,受容・克服には,スポーツ,特技及び進学等における成功体験が端緒となっているようである。
つまり,聴覚障害児が,他の子供との人間関係を通じて,障害による不便さを認めながらも,自分の特技を生かし,障害があっても可能な限り積極的に社会生活を営もうとする態度を青年期までに育成することが,障害の受容・克服の基本となる。さらに,このことに加えて,家族,特に母親が子供の障害を的確に受容できるよう,学校において,子供の発達段階に応じた適切な援助が母親に対して行われるようにすることが重要である。
(2) 障害の受容・克服の教育
聴覚障害による挫折を少なくし,障害の受容・克服を高めていくには,まず,社会における一般の人々の障害者に対する理解を深める教育が必要である。特に,小学校・中学校の義務教育段階では,障害者に対する理解を促進する教育を一層進める必要がある。また,高等学校や大学における教育においても,障害者に対する福祉ボランティア活動を推進することなどが大切である。
一方,聾学校においては,聴覚障害に伴って生じる言語能力や学力の遅れ,社会性の未熟等の二次的な障害を克服する努力が強く望まれる。このため,幼稚部及び小学部での聴覚活用と口話を主とした国語の習得と国語による概念形成を図る教育は重視される必要がある。
また,原則として,中学部以降においては,幼稚部や小学部で形成された国語を基礎にして,聴覚活用と口話によるコミュニケーション手段を中心としながら,文字や指文字,手話等の手段も併用したコミュニケーションの充実と,知識や技術の習得を図る教科指導及び職業教育の充実が重要である。
従来,国語の習得と国語による概念形成を促進する教育こそが,聾学校教育の特色として考えられ,そこに努力が傾注されてきたが,今後は,これらとともに,障害の受容・克服を図り,一人一人の個性を生かして社会参加・自立がなされるよう,コミュニケーション手段の拡充と教科指導や職業教育の充実に努めることが必要である。
また,養護・訓練,特別活動等の指導,さらには寄宿舎における指導においては,生徒の生きる力を高め,生き甲斐を発見させ,自己実現を図るための機会として,障害の受容・克服にかかわる積極的な取組みが望まれる。
(3) 障害の受容・克服とコミュニケーション手段
現在,コミュニケーション手段としての指文字や手話は,聴覚活用や口話と併用することによって広く活用されているが,近年,聴覚障害者団体等から,手話は聴覚障害者のアイデンティティ(自己同一性)を示すものとして重視する考え方が指摘されている。また,聴覚障害児が障害のない人々との共存を目指すためには,聴覚活用と口話による方法を身に付けさせることとともに,それを相互補完するものとして,手話に関する積極的な取組みを聾学校に求めている。
こうした主張は,手話の活用が国語の基礎を習得した後の教科等の学習を容易にすること,また,聴覚障害者の情報の拡大,精神的安定のために必要であるということに基づいている。
コミュニケーション手段としての聴覚活用と口話は,聴覚障害のない子供の国語習得の方法であり,極めて便利なものであるが,聴覚障害がある子供にとっては負担の大きな方法であるといえる。しかしながら,聴覚活用と口話による方法は,近年の補聴器の進歩もあって,幼稚部段階における国語の習得及び国語による概念形成に効果のある方法となってきていること,また,聾学校卒業後の進学及び職場適応には,口話によるコミュニケーションが重要であることなどから,学校教育において,聴覚活用と口話による方法を用いた教育を行うことは極めて重要である。
一方,聾学校の養護・訓練等の時間における手話に関する取組みは,生徒が聴覚障害者としてのアイデンティティを確立していくことなどにも役立つものである。特に,社会生活を豊かなものにしていくためには,コミュニケーション手段としての手話と,聴覚活用と口話による方法との両立を可能にしていくことが必要である。
そこで,聾学校の教師は,まず,生徒との聴覚活用と口話による方法でのコミュニケーションを容易にするため,口話の技術(例えば,読話しやすい話し方)に精通するとともに,聴覚活用と口話に加え,手話を併用する技術に熟達することが求められる。また,手話そのものに対する理解と習熟に努めることも大切である。その上で,卒業を控えた高等部段階の生徒に対しては,成人聴覚障害者とのコミュニケーションに備え,養護・訓練や特別活動等の指導において,手話に関する内容を取扱うことも必要である。
さらに,近年,テレビで文字放送や手話放送が増加しつつあること,要約筆記や手話通訳制度が整備されつつあることなど,社会全体の聴覚障害者に対する動向についても理解させ,生徒の障害の受容・克服に役立てるようにすることが大切である。
(4) 具体的な配慮事項
最近では,早期教育等の充実により,聾学校の子供が幼稚部を修了して小学校へ進学したり,小学部段階で小学校へ転出したりするような場合が見受けられる。こうしたときに,聴覚障害のない子供との集団生活では,コミュニケーションをはじめとして様々な面での問題が生じやすいものである。したがって,そのための心構えについては,本人はもちろんのこと,保護者にも十分指導した上で送り出すようにしないと,障害の受容の面に影響が出やすいものである。
一方,小学校や中学校から聾学校へ進学したり,転入したりする聴覚障害の子供についても,聴覚障害のある子供の集団において生活することがはじめてであったりすることがあるので,入学時に日常のコミュニケーシヨン手段の実態等について指導するなどして,本人が,学校生活に円滑に参加できるよう援助することも必要である。
重複障害児や両親が聴覚障害である子供の中には,身振りや手話を主なコミュニケーション手段としている者もいるので,この点についても,学校の教育活動全般の中で,適切に配慮していくことが障害の受容・克服につながるものである。
聾学校は,小学校・中学校・高等学校に比べて,小人数の集団であり,外部からの刺激が少ない環境であることもある。したがって,時には,聴覚障害者や聴覚障害者を雇用している企業主等を招いて,経験談等を聞く機会を設け,社会生活を送る上で必要な事柄や聴覚障害者の活躍の状況などを知ることができるようにすることが大切である。
また,文化祭等に同窓会や地域の聴覚障害者の団体等の参加を得ることは,聾学校の子供の障害に対する自覚を深めるとともに,卒業後の社会生活への参加意欲を高めることに役立つので,このような団体等との連携を密にしていくことが望ましいものである。


聴覚障害児のコミュニケーション手段に関する調査研究協力者

(五十音順,職名は平成5年2月1日現在)

(主査)  荒 川   勇  前上越教育大学教授
  
          石 原 保 穂  前茨城県立水戸聾学校長 
 
          今 井 秀 雄  前国立特殊教育総合研究所研究部長  

          小 田 侯 朗  国立特殊教育総合研究所研究員  

          小 畑 修 一  筑波技術短期大学教授
  
          斎 藤 佐 和  筑波大学助教授
  
          坂 本   稔  千葉県立千葉聾学校長
  
          菅 原 廣 一  国立特殊教育総合研究所研究部長 
 
          田 附 松 代  東京都北区立王子小学校教諭 
 
          中 野 善 達  筑波大学教授  

          根 本 匡 文  筑波大学附属聾学校教諭  

          野 沢 克 哉  東京都心身障害者福祉センター福祉指導主査  

          原 沢 志 寿 於  栃木県立聾学校長
  
          三 宅   良  前東京都立大塚ろう学校長
  
          渡 邊   研  筑波技術短期大学教授 
 
          渡 辺 政 也  大阪府教育委員会主任指導主事  


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