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特別支援教育法令等データベース 総則 / 報告・答申等 - 特殊教育の基本的な施策のあり方について(報告) -


特殊教育の基本的な施策のあり方について(報告)
(昭和44年3月28日)

特殊教育総合研究調査協力者会議




                             昭和44年3月28日


文部省初等中等教育局長
        宮地  茂 殿


                    特殊教育総合研究調査協力者会議
                                辻村 泰男



       特殊教育の基本的な施策のあり方について(報告)



 本会議は、特殊教育の基本的な施策のあり方について、慎重に審議してきま
したが、このたび、下記のとおり結論を得ましたので、ここに報告します。


                               記


 わが国の特殊教育は、明治初年少数の先覚者によって開始されて以来しだい
に普及し、学校教育としての認識も高まり、戦後の制度的確立とあいまって今
日のような拡充発展をみているところである。
 しかしながら、近年、医学、心理学の進歩および教育実践の成果等によって、
心身の障害により教育上の問題をもつ児童生徒(以下「心身障害児」という。)
の障害の種類、程度や心身障害児の能力、特性等が、しだいにより的確に把握
されるようになり、昭和42年度に実施された「児童生徒の心身障害に関する調
査」からも明らかなとおり心身障害児の障害の実態は複雑多岐にわたっており、
これに対応できるような、よりきめの細かい適切な教育体制が必要となってき
ている。また、最近、心身障害児に対する教育の内容、方法等がかなり改善さ
れ、教育の効果についての社会の期待と関心は急速に高まつてきており、特殊
教育のいっそうの充実整備が強く望まれている。このような実情に即し、特殊
教育については各種の改善を行なうよう配慮する必要があるが、これまで心身
障害児に対する教育は、特殊教育諸学校や特殊学級を中心として、これらの教
育機関への就学を奨励し、比較的固定した教育的措置のもとに教育を行なうこ
とをたてまえとしてきたことなどから、学校教育において別個の教育分野であ
るかのように受け取られる傾向もみられ、いまだに学校教育全体の中において
心身障害児のさまざまな状況に応じた教育的配慮がじゅうぶんに行なわれるよ
うな態勢が整っているとはいえない。以下は、こうした見地から特殊教育の改
善のための基本的な施策の考え方について検討を加え、こんごとるべき施策の
方向についてとりまとめたものである。
 なお、心身に障害をもつ幼児の早期発見と早期教育、訓練、児童福祉施設お
よび医療機関に入所している児童生徒の教育、学校教育を修了した心身に障害
のある者の就職など社会生活ヘの参加については、とくに関係各省との連携を
密にし適切な措置が講じられるよう配慮する必要がある。

I. 特殊教育の改善充実のための基本的な考え方 
    特殊教育の改善充実のための施策を考えるにあたっては、主として次の
   ような諸点から検討を加えることが適当である。
  (1) 心身障害児の能力・特性等に応じ、柔軟で弾力的な教育的取り扱いを
   すること
   すべての心身障害児に対し、その能力、特性等に応じた適切な教育が行
   なわれるべきであり、そのためには障害の種類、程度等に応ずる多様な
   教育の場を整備する一方、教育効果に関する不断の評価に基づいて適正
   な判別と就学指導を行ない、柔軟で弾力的な教育的取り扱いをする必要
   がある。
  (2) 普通児とともに教育を受ける機会を多くすること
   心身障害児に対する教育は、その能力、特性等に応じて特別な教育的配
   慮のもとに行なわれるものであるが、普通児とともに生活し教育を受け
   ることによって人間形成、社会適応、学習活動など種々の面において教
   育効果がさらに高められることにかんがみ、心身障害児の個々の状態に
   応じて、可能な限り普通児とともに教育を受ける機会を多くし、普通児
   の教育からことさらに遊離しないようにする必要がある。
  (3) 早期教育および義務教育以後の教育を重視すること
   心身障害児に対する幼児期における教育は、心身の障害に起因する欠陥
   を補償し、望ましい成長発達を図るうえに著しい効果があることから、
   可能な限り早期に発見し、早期から教育を開始する必要がある。また、
   心身障害児の能力、特性等に応じ、社会的適応力を高め自立を可能にす
   るために、義務教育以後の教育をいっそう重視する必要がある。
  (4) すぐれた教員を養成し、確保すること
   心身障害児に対する教育の効果については、教員の資質・能力がきわめ
   て大きな影響をおよぼすことにかんがみ、複雑多岐にわたっている心身
   障害児の教育を担当するに必要な専門的知識ならびに技術を備えた、す
   ぐれた教員の養成と確保を図る必要がある。
  (5) 一般社会に対する啓発活動を徹底すること
   心身障害児の教育の振興のためには、学校における教育の充実のみでは
   不十分であり、一般社会のこの教育に対する理解と努力を得ることが重
   要であることから、そのための啓発活動をさらに徹底する必要がある。
 
II. 特殊教育の改善充実のための施策 
    以上のような基本的な考え方に基づき、特殊教育の改善充実のための施
   策を検討するとあらまし次のようになる。
  1 特殊教育機関の拡充整備の方向
   (1) 普通学校における指導体制の整備
        ア 普通学校に在学し、特定の時間、特別の指導を行なうことによっ
     て、普通児とともに学習することが可能な心身障害児については、
     その障害の種類、程度により、必要な施設設備を普通学校に整備し、
     専門の教員の配置を図るなどの措置を講ずること。
      また、地域や児童生徒の実態によっては、専門の教員が一定地域
     内の学校を巡回して特別の指導を行なうようにすること。
    イ 特殊教育諸学校または特殊学級に在学し、特定の時間普通児とと
     もに学習することが可能な心身障害児については、その障害の種類、
     程度等により、可能な範囲で普通学校または普通学級において指導
     できるようにするため、関係の学校または学級相互の間の提携協力
     を図るなど必要な措置をとること。
   (2) 特殊学級の設置促進
    ア 特殊学級の設置にあたっては、対象とする心身障害児の能力、特
     性等に応じた適切な学級編成ができるようにすること、可能な限り
     同一の学校に2以上の特殊学級の設置を奨励すること。
    イ 精神薄弱特殊学技については、市町村の人日致に応じて定めてい
     る現行の特殊学最設置基準を、地域や対象とする児童生徒の実態に
     応ずるように改訂し、さらに設置を促進すること。
    ウ 視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、病弱、身体虚弱、情緒障害等
     の特殊学級については、対象とする児童生徒の数が少なく地域的に
     点在していることから、その実情をじゅうぶんに把握し一定地域の
     児童生徒を対象とする特殊学級の適正な設置を図ること。
      また、これらの特殊学級は、特殊教育諸学校また医療機関と提携
     協力のもとに運営されるようにすること。
   (3) 養護学校の設置促進
    ア 養護学校については、都道府県立の学校の設置を促進するための
     助成措置をいっそう強化して、すみやかに精神薄弱、肢体不自由、
     病弱・身体虚弱の3種の学校の設置を都道府県に義務づけること。
     また、養護学校の設置にあたっては都道府県立の学校のみならず一
     定規模以上の市における市立の学校についても設置を促進すること。
    イ 児童福祉施設および医療機関に入所している児童生徒の教育につ
     いては、当該施設や機関の数地内あるいは隣接地に養護学校または
     その分校の設置を図ることとし、これに必要な助成を強化すること。
     養護学校またはその分校の設置に困難な事情がある場合においては、
     特殊学級を設置するかまたは教員を派遣して教育を行なう措置を講
     ずること。
    ウ 養護学校は精神薄弱、肢体不自由、病弱、身体虚弱に分れている
     が、障害の種類、程度等によっては教育の内容、方法および学校の
     管理運営時において異なる点が多いので、さらに細分化された別種
     の養護学校を数府県にわたる地域の児童生徒を対象として設置する
     ことについて検討すること。
    工 疾病により家庭療養中の児童生徒に対し、教員を派遣して教育を
     行なうことについては、地域や児童生徒の実態をじゅうぶんに把握
     し、その実施方法を慎重に検討すること。
   (4) 重複障害児教育の拡充
    ア 障害を2つ以上あわせもつ心身障害児(以下「重複障害児」とい
     う。)の教育については、特殊教育諸学校に重複障害学級の設置を
     いっそう促進し、これに必要な教員の配置について改善すること。
    イ 児童福祉施設および医療機関に入所している重複障害児の教育に
     ついては、当該施設または機関内に重複障害児級の設置を図り、ま
     たは教員を派遣することによって教育の機会の拡充に努めること。
    ウ 重度の障害を2つ以上あわせもつ盲聾唖児等の重複障害児の教育
     については、精密な実態調査を行ない、その結果に基づき国の段階
     において教育機関を設けるなど適切な措置を講ずること。
   (5) 早期教育の拡充
    ア 心身に障害をもつ幼児の教育については、特殊教育諸学校の幼稚
     部の設置をいっそう促進する必要があり、このための助成を強化し、
     また、幼稚部には、保護者が幼児とともに早期から指導を受けるこ
     とができるようにするため、必要な設備等の整備を図ること。
    イ 特殊教育諸学校と地域の幼稚園とが提携協力して、当該幼稚園に
     心身に障害をもつ幼児を入園させ、特殊教育諸学校の教員が巡回し
     て特別の指導を行なうようにするための措置をとること。
    ウ 特殊教育諸学校をはじめ特殊学級を置く小学校等において、保護
     者が幼児とともに早期から教育相談と指導を受けることができるよ
     うにするための体制を整備すること。
   (6) 義務教育以後の教育の拡充
    ア 特殊教育諸学校のうち養護学校の高等部は、その設置が不じゅう
     ぶんであり、こんごいっそう強力に設置を進める必要があり、この
     ため助成措置を強化すること。
    イ 特殊教育諸学校の高等部における職業教育については、数府県に
     わたる地域の生徒を対象とし、かつ地域の産業や新職業の開拓等を
     考慮した特色ある職業学科の重点的な拡充整備を図ること。
      なお、生徒の進路指導にあたっては、在学中から職業安定所、職
     業訓練所、更生相談所等との連携をじゅうぶんとるようにすること。
    ウ 視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱等の障害をも
     つ生徒のうち、一般の高等学校において教育を受けることが可能な
     者については、できる限り進学の機会を与えるため、これに必要な
     措置について検討すること。 とくに高等学校の通信教育の実施方
     法については、障害をもつ生徒の実態に応ずるように改善すること。
    工 心身に障害をもつ者が学校教育を修了した後においても、適切な
     学習活動の機会が確保されるようにするため、青年学級を開設する
     などの措置をとること。
  2 教職員の養成と資質向上
    特殊教育職員の養成と資質向上については別途検討を要する問題が多
   いが、さしあたって次のような措置を講ずること。
     (1) 教職員の養成と資質向上
    ア 特殊教育職員の養成については、大学の4年制の養成課程のほか、
     普通免許状所有者および現職教員の志望者の中から養成する課程を
     拡充すること。
    イ 大学の特殊教育教員の養成課程、教員組織および施設設備の基準
     について検討し、その改善整備を図ること。
    ウ 特殊教育関係職員の現職教育を計画的、継続的に実施するため、
     これに必要な研修機関を設置すること。また、長期の現職教育を受
     けることにより、学校における教育に支障をきたさないようにする
     ため、代替教員を配置すること。
    工 すべての教員が心身障害児の教育について必要な知識を備えるた
     め、大学の教員養戊認醒において特殊教育に関する科目を、必修と
     することについて検討すること。
    (2) 教職員の構成
     特殊教育諸学校の教職員については、通常の教職員のほか、学校の
    種別に応じ、機能訓練、職能訂&心理検査、心理治療、生徒指導、寄
    宿舎における指導などを担当する専門的教員を含め学校の規模に応じ
    た教職員をもって構成するようにすること。
     また、学校医については障害に応じた専門医を配置することが望ま
    しい。
     以上のほか、特殊教育諸学校および特殊学級の教職員については、
    広く適任者を得るため、都道府県相互間および他の学校との人事交流
    を奨励する措置を講ずること。
  3 判別と就学指導組織の充実整備
    ア 市町村における心身障害児の判別と就学指導を充実強化するため、
     市町村教育委員会に専門医、心理学者、教育学者等の専門家、関係
     教職員などをもって構成する組織の整備を図ること。
    イ 学校における心身障害児の判別と就学指導を充実するため、校務
     分掌上の組織を整備し、それぞれの教員が分担し、協力して行なう
     ようにすること。
      なお、心身障害児の判別と就学指導について、すべての教員の知
     識や技術の向上を図るようにするため、講習会等の研修を受ける機
     会をより多くすること。
    ウ 市町村や学校における心身障害児の判別と就学指導に関する指導
     と援助を行なうため、都道府県の教育研究所または教育センター等
     にこれに必要な部門を設け、専門の職員の配置を図ること。
  4 一般社会の協力理解の促進
    ア 地域社会の協力と理解のもとに、すべての心身障害児が適切な教
     育を受けることができる体制を確立するため、特殊教育に関する推
     進地区として一定地域を指定し、これに必要な指導と援助を行なう
     措置を講ずること。
    イ 保護者の団体を育成し、その活動を援助するとともに、両親のた
     めの家庭教育学級を開設するなど、社会教育の場を通じて心身障害
     児とその教育に対する正しい理解と認識が醸成されるよう努めるこ
     と。
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