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特別支援教育におけるICF及びICF-CY活用に関するよくある質問と答え(FAQ)

1 ICF及びICF-CYそのものについて

(1)特別支援学校学習指導要領の解説書に「ICF」について述べられていますが、基本的なところが分かりません。教えてください。

 ICFについて中央教育審議会の答申(2008.1)の中では次のように説明されています。
「International Classification of Functioning, Disability and Healthの略。人間の生活機能と障害に関する状況を記述することを目的とした分類であり、健康状態、心身機能、身体構造、活動と参加、環境因子、個人因子から構成される。2001年にWHO(世界保健機関)において採択された。」

 ICFは、日本語訳では「国際生活機能分類」とされており、1980年にICD(国際疾病分類)の補助分類として誕生したICIDH(International Classification of Impairment Disabilities and Handicaps、国際障害分類)の改定版です。そのため、日本語版の副題には「国際障害分類改定版」と付けられていますが、通常学級に在籍する、障害のない子どもも含めた、全ての人を対象としたものです。

 特別支援学習指導要領解説自立活動編では、次の図が引用され、説明されています。

図1 特別支援学校学習指導要領解説書に引用された、具体例が入った概念図

 ICFでは、図にあるとおり、 人の生活機能を精神機能や視覚・聴覚等の「心身機能・身体構造」,歩行や日常生活動作等の「活動」,地域活動などの「参加」の三つの次元で捉え、さらにそれらと健康状態や環境因子及び個人因子が互いに影響し合っていると捉えています。

それぞれの用語の意味は以下の通りです。

  • 心身機能(身体系の生理的機能(心理的機能を含む))
  • 身体構造(器官、肢体とその構成部分などの、身体の解剖学的部分)
  • 活動 (課題や行為の個人による遂行)
  • 参加(生活・人生場面への関わり)
  • 健康状態(変調や病気)
  • 環境因子(人々が生活し、人生を送っている物的・社会的・態度的環境(マイナス(阻害因子)だけでなくプラス(促進因子)にもなりうる)
  • 個人因子(個人の人生や生活の特別な背景)
 三つの次元に対応した「機能障害(構造障害を含む)」・「活動制限」・「参加制約」 を包括した概念がICFでの「障害(disability)」となります。
 なお、同解説書の中では、子どもたちの「障害による学習上又は生活上の困難」を捉える際に、ICFのこのような考え方と関連させる必要性について述べられています。

 
(2)ICFについて述べられる際、よくICIDHというのものが登場します。ICFとはどう違うのですか?

 1点目は、文字通り「障害」と「生活機能」の違いがあると思います。ICIDHは「歩行能力低下」のようなマイナスの意味をなす用語を用いた分類だったのに対し、ICFは「歩行」のような中立的な用語を用い、その上でそれらの難しさを障害としてとらえるようになっています。

 2点目は、障害のとらえ方の違いがあると思います。ICIDHは、障害の構造を「機能障害(形態異常を含む)」、「能力低下」、「社会的不利」という負の側面でとらえ、「疾病→機能障害(形態異常を含む)→能力低下→社会的不利」という、疾病からの諸帰結の一方向性の概念モデルを示しました。一方、ICFは「1」で述べたとおり「健康状態」、「心身機能・身体構造」、「活動」、「参加」、「個人因子」、「環境因子」の各構成要素が双方向性の矢印でつながり、それぞれが相互に影響し合っているモデルを示しています。

 3点目は、ICIDHの概念モデルにはなかった「環境因子」と「個人因子」(二つを合わせて「背景因子」といいます)がICFには新たに加わっていることです。このことによって、外的な環境や障害に由来しないその人の特徴等との関連も視野に入れて人をとらえることができます。

(3)ICFの説明の中にでてくる「医学モデル」と「社会モデル」、そして統合したモデルとはどういうことですか?

 「医学モデル」とは、障害を個人の問題としてとらえる考え方で病気・外傷やその他の健康状態から直接的に生じるものでとされています。です。一方「社会モデル」とは、障害は個人に帰属するものではなく、諸状態の集合体であり、その多くが社会環境によって作り出されたものであるとされています。ICFでは、これらのどちらでもない、これらを統合したモデルして位置づいており、そのことから、多面的・総合的に人をとらえることが可能になっています。

(4)「ICF-CY」とは何ですか?

 ICF-CY(Children and Youth Version、同児童版)は、2007年、WHOから公表されたICFの派生分類です。日本語版は2009年に発行されました。ICF-CYは、国際連合の条約における児童の範囲と同じく、出生から18歳までを対象としています。ICFと同様に生活機能の状況を記述するものとして、関係者間等での共通言語としての役割が期待されるものです。また、ICFと同じ基本設計のもと、200余の新たな分類項目の拡充や修正等が行われ、ICFの既存の分類項目と合わせて1600余の項目を有する、より厚い冊子として刊行されました

2 特別支援教育における活用について


(1)ICFやICF-CYを活用することのメリットは何ですか?

 特別支援教育においてこれまでICFやICF-CYを活用してきた人へのフォーカスグループインタビューを通した研究からは、「子どもの見方のパラダイムシフト」、「総合的・多面的な子どもの理解と課題の設定が可能になること」、「実行状況と理解と能力への違いへの理解」、「教員や関係職種間の共通理解と協働」等が成果として挙げられています。

 一方、2009年に国立特別支援教育総合研究所が行った全国特別支援学校を対象とした悉皆調査において、その成果についての回答として、前述と重なる部分がありますが、「教職員による幼児児童生徒に対する理解の仕方がより多面的になった。」、「教職員間の共通理解・連携がしやすくなった」、「幼児児童生徒の目標設定がしやすくなった」などが多いことが報告されています(松村他、2009)。

 また、このことから、多面的・総合的な子どもの理解、教職員や関係者による共通理解等を通して適切な指導や支援につなげていきやすくなることが、ICFやICF-CYの活用の主なメリットといってよいのではないでしょうか。

(2)多職種間連携を進めようと考えているのですが、ICFやICF-CYを活用することによってどのようなメリットがありますか?

 児童生徒の状態像について、教職員から見えにくいところを専門的な視点から指導・助言をもらうなど、多職種間連携を進めようとしている学校が増えてきています。 ICFやICF-CYは児童生徒の実態把握、指導内容、方法について共通理解するためのツールとして有効であり、その活用によって、保護者、医療、学校等の視点が共有され、児童生徒に応じた指導・支援ができることがメリットとして挙げられます。具体的には、関係者間での指導・支援のズレを無くすことや、それぞれの役割分担を明確化できることがメリットの一つとして挙げられます。

(3)ICFやICF-CYを活用する上での個人情報の取り扱いについて、工夫している事例があれば教えてください。

 ICFやICF-CYを活用した個別の教育支援計画を作成し、保護者がそのコピーを施設利用時に持って行くケースやヘルパーに見せて活用しているケースがあります。また、保護者の承諾を経て現場実習先に持って行くことケースがあります。その際に個別の教育支援計画の原本は、学校管理とし、コピー及びその活用は、保護者管理であるという確認のもと、進めている学校もあります。

 
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