メルマガ連載記事 「特別支援教育に役立つアシスティブ・テクノロジー」
第3回


アシスティブ・テクノロジーの用途と分類-ローテクからハイテクまで-
 

棟方 哲弥 (企画部 総括研究員)  
 

はじめに

 支援機器としてのアシスティブ・テクノロジーの数は膨大です。例えば、米国教育省の所管するアシスティブ・テクノロジーのデータベース(エイブルデータ)には約4万件の製品等が登録されています。それらの中から子どものニーズに最も適した支援機器を選定するにはどうすれば良いのでしょうか。
このエイブルデータでは20種類の用途別に分類がなされ、必要なアシスティブ・テクノロジーを見つけることができるように工夫されています。しかし、実際に支援サービスを含めたアシスティブ・テクノロジーの活用を進めるためにはその「用途」だけを手がかりとして製品を探すだけでは十分ではありません。

 連載の第1回で説明したように、アシスティブ・テクノロジーには「支援サービス」が含まれています。例えば、その子への、あるいは、保護者への訓練や利用に関する技術的な支援までもが含まれていました。それは、機器を使いこなすためには、それなりの労力を必要とするからです。
 例えば、多機能の支援機器を選定したことで、必要な使い方がすぐに分からなくて、厚いマニュアルを読んで機器を設定したり、業者に問い合わせたりしなければならないケースもあるでしょうか。さらに、学校では校内研修を立案実施する必要もでてくるかもしれません。さらに、電源を必要とする場合には、使用場所が限られたり、故障時にはやむなくメーカに依頼しなければいけなかったりすることもあります。電池や消耗品を使う場合には、交換や消耗品管理も必要となります。

 すなわち、支援機器の選定にあたっては、その「支援サービス」の実施に必要な条件まで、しっかりと検討しておくことが重要となります。そのためには、アシスティブ・テクノロジーの特性を把握するための分類が必要です。
 アシスティブ・テクノロジーの教科書とも言える「Assistive Technologies第三版」(Cook & Hussey, 2007)には7つの分類の観点が示されています。
今回は、それらを含めてアシスティブ・テクノロジーの活用に役立つさまざまな分類とその考え方について解説します。まず、先ほどのエイブルデータの分類から見ていきましょう。
 

1.エイブルデータの用途の分類

   米国教育省の国立障害リハビリテーション研究所(NIDRR: National Institute on Disability and Rehabilitation Research)が運営するエイブルデータのアシスティブ・テクノロジーデータベースには、この原稿執筆時点で約4万件の支援機器が登録されているとされていました。その中には、市販品はもちろんのこと、それに加えて、市販されていないプロトタイプ、個人に合わせて工夫した製品、自作のデザインまでが登録されているとされます。データの内容は、製品の詳細説明、機能、価格、連絡先です。

  先のCook & Hussey(2007)には、エイブルデータには32,000件がリストアップされており、現時点でも入手可能な製品が21,000件あるとされることから、現在でも、おそらく1万件~1万5千件ほどは、入手できないものがあると思われます。
 入手できない情報をそのままにしておくことに問題はないのでしょうか。それへの答えはどこにも書いていないようですが、筆者は、それらが少なくともアシスティブ・テクノロジー活用の具体化のアイデアになったり、今後の開発や販売の方針を決めるために有効に使われたりするのではないかと思っています。また、連絡先が分かれば、その経緯を確認したり、より改善されたシステムを知ったりすることに繋がると感じます。
 さて、このエイブルデータの分類は、製品等の目的とする機能やそれを使用する者の特別な状況となっています。もちろん、それが最も重要な選定の基準であることは疑う余地がありません。
 エイブルデータの分類は以下の20です。英文のサイトでは、この分類が英語のABC順に書かれているだけなのですが、ここでは、上に書いた仲間分けをして紹介します。
 

 (1)品目、機能や活用場面による分類

  • 日常生活支援(Aids for Daily Living)
  • コミュニケーション(Communication)
  • コンピュータ(Computers)
  • 操作(Controls)
  • 教育(Education)
  • 環境調整(Environmental Adaptations)
  • 家事(Housekeeping)
  • 矯正(Orthotics)
  • 補綴(Prosthetics)
  • レジャー・スポーツ(Recreation)
  • 安全(Safety and Security)
  • シーティング(Seating)
  • 治療訓練(Therapeutic Aids)
  • 移動手段(Transportation)
  • 歩行(Walking)
  • 車いす(Wheeled Mobility)
  • 職場(Workplace)

(2)障害種別

  • 視覚障害(Blind and Low Vision)
  • 聴覚障害(Deaf And Hard of Hearing)
  • 盲ろう(Deaf Blind)

 こうして見ると、エイブルデータの分類では「視覚障害」、「聴覚障害」、「盲ろう」の3つの障害種しか無いことがわかります。実際には、この障害種の下位分類として、その障害種に対応する機器が用途、目的別に整理されています。
 例えば、視覚障害を「見ること(Vision)」、聴覚障害を「聞くこと(Hearing)」などと機能で表すと、エイブルデータの20の分類も一貫したものになるかもしれないのですが、実際には、視覚障害の方に特化した幅広い種類の支援機器が登録されています。また、「教育」の下位項目には、読み、書き、教科などがあります。このエイブルデータの分類は、使用の便宜を考えた時には、バランスの良い分類を提供しているように思われました。
 さて、このエイブルデータの例は、目的や用途による分類の代表的なものと思われますが、他には、どのような分類があるのでしょうか。次に、Cook & Hussey(2007)のアシスティブ・テクノロジーの分類の観点について説明します。
 

2.「Assistive Technologies第三版」(Cook & Hussey, 2007)における分類

 用途や目的の他に必要な分類の観点には何があるでしょうか。考えて見ましょう。
 シンプルな道具であれば,これにかかる研修や訓練は必要がなく,ハイテクで特注品となれば,訓練,研修,修理のスケジュールや計画も必要になります.もし、汎用品であれば、時間を調整して、他のユーザーにも利用可能な利用計画を立てることもできます.
また,予算が限られている場合も多く、価格帯は、重要な手がかりになります。この価格帯、複雑さは、一般的に「ローテク(Low-Tech)」、「ハイテク(High-Tech)」などの技術水準に依存すると思われます。
 ここでは,さまざまな選択肢を考えるためを含めて,以下に挙げるCook & Hussey(2007)による分類(=様相)を考えてみます.
 Cook & Hussey(2007)の第一版は1995年、第二版は2002年に、それぞれ出版されました。筆者は第一版を持っていないのですが、この分類の観点は第二版から更新されていません。それは以下の7つです。上の表を本文の説明などをもとにして意訳すると以下のようになると思われます。

 アシスティブ・テクノロジーの様相

 ○<---生活活動支援的 -------- 対  -------育成・治療訓練用--->
 ○<---最小支援的 ------------ 対  --------最大支援・代替的-->
 ○<---汎用技術的 ------------ 対  --------専用技術的------->
 ○<---市販 ------------------ 対  --------特注的---------->
 ○<---ローテク的 ------------- 対  --------ハイテク的------->
 ○<---ハードウェア的 ---------- 対  --------ソフトウェア的----->
 ○<---器具・装置的 ----------  対  --------シンプルな道具的-->
 

 (Cook & Hussey, 2007, p5より)

 Cook & Hussey(2007)は、「生活活動支援」と「育成・治療訓練」は別だと言っています。すなわち、“アシスティブ・テクノロジーとは,それによって生活機能を拡大させる,低下させない,改善させるものであり,本質的に訓練用具とは異なる”という考え方です。
 その一方で,教育やリハビリテーション的な観点から言えば,その支援装置を利用して訓練や学習に役立てようとすることもできるわけです。
 大切なことは、それぞれの具体的な利用場面において、支援機器の活用が、「機能拡大」であるのか、それとも、それによって何かの「育成を図る」ことが目的なのかをはっきりと意識することであると思います。
 次は、アシスティブ・テクノロジーによる支援の度合いです。支援の度合いが小さい場合には、「拡大(augmentative)」であり、を大きくしていくと究極は「代替(alternative)」に行き着きます。機器への完全な依存や,発話を手話に置き換えるなど完全な代替手段に至る場合には,十分に説明された活用方針の決定(informed Assistive Technology Decision)が,より重要になると考えられます.
 次は、汎用と専用です。電動車いすなどは特定の用途に限定して提供されますが,コンピュータや,さまざまなスイッチやセンサーと接続可能なインターフェース装置は汎用的に利用することが可能になります.また,市販から特注品まで,あるいは,ローテクからハイテクまで,器具から道具までなどは,入手やメンテナンスなどの「支援サービス」を実施するための選定の条件を知る上で重要な分類となります。
 

アシスティブ・テクノロジーの分類-ローテクからハイテクまで-

 さて、アシスティブ・テクノロジーの選定にあたっては、その用途に加えて、入手、使用訓練、研修、メンテナンスなどの「支援サービス」の実施を念頭等に入れた選定作業が必要となることが理解されたと思います。
 では次に、第3回のテーマである「アシスティブ・テクノロジーの分類-ローテクからハイテクまで-」の例を挙げて説明を進めたいと思います。ここでは「ローテク(Low-Tech Solution)」「ミドルテク(Mid-Tech Solution)」「ハイテク(High-Tech Solution)」というテクノロジーの3つの水準に分類しています。これは「支援サービス」を念頭に入れたアシスティブ・テクノロジー選定にとても有効な分類と思われます。
 この3つは、以下のように定義されます。この
 すなわち

(1)Low-Tech Solutions:”使用”が比較的簡単である.一般に電源を必要としない器具であり,低価格である
(2)Mid-Tech Solutions:”操作”が比較的簡単である.一般に電源が必要であったり,機構が複雑であったりする.価格は,数万円から十万円程度である.
(3)High-Tech Solutions:複雑な機能を持つ装置やシステムである.使用者は,使い方を理解したり,そのための訓練等が必要となったりする.プログラムが可能であり,価格は通常十万円を大きく越える.
 

  同じ機能をもつアシスティブ・テクノロジーを選定したとします。このとき、もし、(1)のローテクであれば、マニュアルを読むこともなく、消耗品の管理も不要となると思われます。(2)のミドルテクを採用すると、電源や備品管理も必要となり、(3)のハイテクに分類される機器を選定した場合には、使い方の訓練やメンテナンスまでもが必要となることが理解されると思います。
 上の例は、あくまで一般論ですが、アシスティブ・テクノロジーの活用を成功させるためには常に「支援サービス」の内容を意識する必要があります。
 さて、最後に、この3つの分類別に教育における活用用途別の具体的なアシスティブ・テクノロジーの例を一覧表で説明したいと思います。
 の一覧表に整理された具体例は、アシスティブ・テクノロジー早見円盤(Assistive Technology Quick Wheel)という米国の特別児童評議会(Council For Exceptional Children)が普及を図っているツールの記述から得たものです。このツールが開発されたのはもう10年以上も前のことかと記憶していますが、現在も以下のサイトで販売されていました。
http://www.cec.sped.org/ScriptContent/Orders/ProductDetail.cfm?section=CEC_Store&pc=P5550
 なお、この「アシスティブ・テクノロジー早見円盤」の分類の基になっているのは、ウィスコンシン州のアシスティブ・テクノロジーセンター(WATI: Wisconsin Assistive Technology Initiatives)の発行しているアセスメントパッケージ(WATI Assessment Package)から得られたものと思われます。

 Low-Tech Solutions:”使用”が比較的簡単である.一般に電源を必要としない器具であり,低価格である.

ADL
太柄のスプーン等の自助具,すくいやすい食器,滑り止めマット,ボタンエイド等の自助具など
移動
歩行補助杖(つえ),手すりなど
 
コミュニケーション
コミュニケーション・ボード,視線観察フレームなど
読み
拡大文字,ページめくり用具,文字と絵やシンボルの併用など
見ること
めがね,虫めがね,拡大本など
 
書字
いろいろなペン・鉛筆,グリップ付きペン,傾斜机,テンプレートなど
聞くこと
筆談道具など 

遠隔制御装置 [Remote-control systems ](これまで,環境制御ECSと呼ばれていた.)

レクレーション・レジャー
障害対応に改造した玩具(磁石,ベルクロ,スイッチ対応)など 

コンピュータへのアクセス
キーガード,キーボードの工夫など

 

作文・物書き
単語カード,ポケット辞書,テンプレートなど
数学・算数
そろばん,大罫線ワークシートなど
 
勉強・授業
視覚的スケジュール表・カード,カラーフォルダ,など 

座居等の確保
椅子の滑り止め座面,支持枕など 

 

その他 

 

 

 

 Mid-Tech Solutions:”操作”が比較的簡単である.一般に電源が必要であったり,機構が複雑であったりする.価格は,数万円から十万円程度である.

ADL

 

移動
車いすなど

コミュニケーション
単音VOCA,アイコン付きVOCAなど

読み
トーキングブック,単語スキャナーなど
見ること
CCTV拡大装置など
書字
携帯ワープロ(簡易タイプ)など
聞くこと
 
遠隔制御装置 [Remote-control systems ](これまで,環境制御ECSと呼ばれていた.)
レクレーション・レジャー
運動器具,TV・ビデオ制御装置など 
コンピュータへのアクセス
トラックボール,代替キーボードなど
 

作文・物書き

 

 

数学・算数
金銭計算機,音声時計,電卓,プリンタ付き電卓など
勉強・授業
録音教材,音声メモ,お知らせブザー,携帯スキャナーなど 

座居等の確保
特製椅子,車いすなど 

 

その他 

 

 

 

  High-Tech Solutions:複雑な機能を持つ装置やシステムである.使用者は,使い方を理解したり,そのための訓練等が必要となったりする.プログラムが可能であり,価格は通常十万円を大きく越える.

ADL

 

移動
スクータ,障害対応車両など

コミュニケーション
ディスプレイ機能付きVOCA,合成音声VOCAなど

読み
文字認識装置,電子絵本(パソコン)など
見ること
スクリーン拡大ソフト,スクリーンリーダ,点字翻訳ソフトウェア,キーボードへの点字表示,ブレイルメモなど
書字
携帯ワープロ(高機能),ワープロソフト(パソコン),音声認識ソフトウェア,音声電卓など
聞くこと
携帯ワープロ(高機能),ワープロソフト(パソコン),音声認識ソフトウェア,音声電卓など

遠隔制御装置 [Remote-control systems ](これまで,環境制御ECSと呼ばれていた.)

 

レクレーション・レジャー
ペイント・演奏ソフト,コンピュータゲームなど 

コンピュータへのアクセス
ヘッドマウス,音声認識ソフトなど 

 

作文・物書き

スペルチェッカー,音声出力ワープロ,支援付きワープロ,音声認識,マルチメディアソフトウェアなど 

数学・算数
シミュレーションソフト,音声認識ソフトなど

 

勉強・授業
アイデアプロセッサー,ノートパソコンなど 

座居等の確保

 

その他 

 

 

 

 おわりに

 今回は、アシスティブ・テクノロジーの分類と題して解説を進めてきました。用途による分類だけでなく、支援サービスの実施を視野に入れたアシスティブ・テクノロジーの選定が必要であることが理解されたと思います。
 次回から4回にわたり、特別支援教育に役立つ支援機器の紹介を進めて行きます。それらは、コンピュータへのアクセス、コミュニケーション、読むこと書くこと、日常の生活のさまざまな活動におけるアシスティブ・テクノロジーの実際です。


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