障害のある子ども一人一人の教育的ニーズに対応した教育の実現に貢献します。

特別支援教育法令等データベース 総則 / 基本法令等 - 今後の知的障害者・障害児施策の在り方について(意見具申) -


今後の知的障害者・障害児施策の在り方について
(平成11年1月25日)

中央児童福祉審議会(厚生省)




目次
1.はじめに
2.知的障害者・障害児の福祉サービスの充実
3.知的障害者・障害児に関する事務の市町村への委譲
4.その他の検討課題





1.はじめに

・ 障害保健福祉施策全般について、総合的に見直しを行うため、平成8年10月に、身体障害者福祉審議会、中央児童福祉審議会障害福祉部会、公衆衛生審議会精神保健福祉部会に、それぞれ企画分科会が設置され、同年11月から合同で審議を開始した。
・ この障害者関係三審議会合同企画分科会では、平成9年12月に、「今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)」(以下「分科会中間報告」という。)として、障害保健福祉施策全般について、基本的理念、基本的な施策の方向及び具体的な施策の方向を提言した。

 (注)基本的理念 :      (1)障害者の自立と社会経済活動への参画の支援
               (2)主体性・選択性の尊重
               (3)地域での支え合い 
    基本的な施策の方向 : (1)障害者の地域生活支援策の充実
               (2)障害保健福祉施策の総合化
               (3)障害特性に対する専門性の確保
               (4)障害の重度・重複化、高齢化への対応
               (5)障害者の権利擁護と参画 


・ そこで、同合同企画分科会では、分科会中間報告の主要論点のうち、障害保健福祉施策全般にわたる共通事項、特に、中央社会福祉審議会社会福祉構造改革分科会で議論されてきた社会福祉基礎構造改革に関する事項のうち、障害保健福祉施策と深く関連する事項として、新しいサービス利用制度の在り方、障害保健福祉サービスの水準の確保、利用者の保護等を中心に審議を行ってきた。
・ 一方、本中央児童福祉審議会の障害福祉部会では、分科会中間報告の主要論点のうち、知的障害者・障害児(重症心身障害者を含む。以下同じ。)の福祉施策関係で重点的に議論すべき事項として、知的障害者・障害児福祉サービスの充実及び知的障害者・障害児に関する事務の市町村への委譲について、以下のような基本的理念を基に審議を行ってきたところである。
(1) 自立と社会経済活動への参画の支援
 知的障害者・障害児施策の基本は、重度の人を含め、生涯のあらゆる段階において、自立した生活を目指し、社会経済活動へ積極的に参画できるような支援を行うこと及び障害のない者と同様に生活し、活動する社会を築くことであること。
(2)主体性・選択性の尊重
 知的障害者・障害児が、自らの生活を自らの意思で選択・決定し、築きたいと考えることは当然のことであり、可能な限り本人の意思を尊重した社会的な支援活動が重要であること。
(3)地域での生活支援の充実と家族への支援の強化
 知的障害者・障害児に対する支援は、身近な市町村が中心となって、各種の行政サービスや社会参加の機会を提供し、地域での生活支援の充実を図るとともに、家族への支援を強化していくことが重要であること。
・ 本中央児童福祉審議会の障害福祉部会では、昨年4月以降、上記のような経緯をたどりつつ、鋭意検討を重ねてきたが、今般、今後講ずべき施策等について意見をとりまとめたので、ここに意見具申する。
・ 本意見具申はもとより、分科会中間報告と、本意見具申と同じ時期に障害者関係三審議会合同企画分科会から提言される意見具申に基づき、知的障害者・障害児施策について所要の見直しが速やかに進められることを切に望むものである。

 


2.知的障害者・障害児の福祉サービスの充実

(1)地域での生活の支援

(1)地域での療育機能等の充実
ア) 障害児(者)地域療育等支援事業の充実 ・ 知的障害者及び障害児の地域での生活を支えるためには、身近な地域で療育相談、指導等が受けられる療育機能の充実を図るとともに、各種福祉サービスの利用に係る援助、調整等を行うことは重要である。
・ このため、障害児(者)地域療育等支援事業を制度上明確に位置付けるとともに、その一層の充実を図る必要がある。
イ) 障害児通園施設の相互利用制度の普及促進
・ ノーマライゼーションの理念を踏まえ、障害児がより身近な場所で療育が受けられるようにすべきである。
・ 知的障害児通園施設、肢体不自由児通園施設及び難聴幼児通園施設において、障害種別の異なる障害児を受け入れることができるように「相互利用」が制度化されたところであるが、身近な場所で障害児の適切な療育を進めていくため、この制度を一層普及していく必要がある。
ウ) 重症心身障害児(者)通園事業の普及促進
・ 重症心身障害児(者)についても、地域での生活を維持しながら、日常生活動作、運動機能等に係る訓練・指導等が受けられるようにすべきである。
・ 重症心身障害児(者)通園事業は、そのような観点から効果的な事業であり、今後、一層普及、充実していく必要がある。

(2) 知的障害者のホームヘルプサービス等の改善
・ 知的障害者の地域での生活を支援していくためには、家事、介 護等の日常生活の世話や、相談、助言等の必要な支援が重要である。
・ ホームヘルプサービスについては、現在、心身障害児(者)ホームへルプサービス事業として、重度の障害児(者)の家族支援を中心とした制度になっているが、知的障害者本人も利用する制度として、障害児のホームヘルプサービスと分離するとともに、対象者の障害の程度についての要件緩和を検討する必要がある。
・ また、知的障害者に対し相談、助言等の地域生活の支援を行う知的障害者生活支援事業について、その事業の中核となる生活支援ワーカーの増員等の充実を図る必要がある。

(3) 知的障害者の住まいの場の確保
・ 知的障害者が地域で生活していくためには、就労や日中の活動の場の確保とともに、地域での住まいの場の確保が重要である。特に、成人し独立した生活を望む重度の知的障害者の住まいの場の確保は重要である。
・ このため、就労はしていなくても、障害基礎年金等の収入により、家賃、食費等が負担できる知的障害者もグループホームや知的障害者福祉ホームを利用できるようにするため、就労要件を撤廃するとともに、グループホームに重度の知的障害者も受け入れられる方策を検討する必要がある。
・ 知的障害者通勤寮については、その対象者を、一般就労している者に限定せず、通所授産施設等を利用する福祉的就労者にまで緩和する必要がある。

(4) 介護する家族等への支援
・ 家族と暮らす知的障害者及び障害児については、その家庭・家族を支援していくことも重要な課題である。
・ このため、知的障害者や障害児のいる家族等の負担軽減を図る観点から、ショートステイ事業の弾力的運用により、知的障害者や障害児のいる親・家族を一時的に、一定の期間、介護等から解放することによって、日頃の心身の疲れを回復できるようにする事業(いわゆるレスパイトサービス)の制度化を検討する必要がある。なお、利用手続きについても、できるだけ簡便なものとなるよう配慮する必要がある。
(5) ケアマネジメント
・ 知的障害者及び障害児が地域において豊かな生活を実現していくためには、そのニーズを把握し、障害の程度に応じてサービスを総合的に利用することを支援するケアマネジメントが重要である。
・ これまで知的障害者介護等サービス調整指針(ケアガイドライン)、ケアマネージャー養成指導者の研修カリキュラムを作成するとともに、現在「障害者介護等支援サービス体制整備検討委員会」において、ケアマネージャーの資格要件、養成テキスト等について検討しているところであるが、今後、ケアマネージャーの養成を重点的に進めていくとともに、ケアマネジメントの効果的な活用を図る必要がある。

(2)就労・日中の活動の場の確保
(1) 知的障害者授産施設(通所)の整備促進
・ 知的障害者が普通に地域で生活するというノーマライゼーションの観点から、生活の場と就労・日中の活動の場を分離するとともに、身近なところで施設を利用することができるよう、施設の一層の小規模化を図るべきである。
・ このような観点から、今後、知的障害者授産施設の整備に当たっては、原則として通所施設を整備していくようにする必要がある。
・ また、社会福祉基礎構造改革における社会福祉施設や社会福祉法人に係る規制の在り方に関する議論と整合性を図りつつ、知的障害者授産施設(通所)の定員要件を緩和する必要がある。
(2) 知的障害者デイサービス事業の拡充
・就労が困難な在宅の知的障害者の日中の活動の場を確保する観点から、デイサービス事業について、居住地の近いところで利用を可能にすることが重要である。
・このため、知的障害者デイサービス事業について、法律上明確 に位置付けを行うとともに、知的障害者デイサービス事業の実施 場所について、公民館、空き教室等の既存施設の活用による事業 の実施を可能とすることにより、その拡充を図る必要がある。そ の際、重度者への対応について、十分配慮する必要がある。
(3)小規模作業所
・ 小規模作業所については、法定外の仕組みとして、事業主体、事業内容等多様な形態をとりながら、障害種別にかかわりなく受け入れ、また、創意工夫による柔軟な事業を実施しているが、運営の安定化が課題となっている。
・ このため、(1)、(2)で述べたような授産施設(通所)の定員要件の緩和やデイサービス事業における施設要件の緩和等により、法定施設・事業への移行を促進し、運営の安定化が図られるようにする必要がある。

(3)雇用政策との連携
・ 就労は、地域生活の基盤の上に成り立つものであり、知的障害者が安定して就労するためには、生活面の安定が不可欠であることから、知的障害者に対する就業支援と生活支援については、総合的に提供されるべきである。
・ 平成11年度予算案において、雇用政策との連携の下、知的障害者の生活支援と就業支援を一体的に行う「障害者就業・生活支援センター(仮称)」の設置に向けての試行的事業が盛り込まれているが、今後、さらに就業支援と生活支援を一体的に提供できるような体制を整備していく必要がある。

(4)知的障害者更生施設の機能の見直し
・ 知的障害者更生施設は、知的障害者に自立のために必要な指導及び訓練等を行うことを目的とする施設であるが、入所期間の長期化及びそれに伴う高齢化や一部には要介護化の傾向がみられるところである。
・ このため、まず、重度の知的障害者も地域で生活できるように、地域での生活を支援するためのサービスの充実を図ることが肝要である。
・ それを前提として、入所者の地域生活への移行を促進するため、障害の程度や年齢に応じ期間を定めた個別プログラムによる訓練機能の強化のほか、地域生活の準備の支援機能や地域生活へ移行した後のアフターケア機能等の強化を図る必要がある。
・ 一方、加齢等により身体機能が著しく低下した入所者に対し、日常生活上の介護のほか、身体機能の維持・回復の支援や生きがい等に配慮した支援が適切に行えるよう、施設の構造設備の改善や職員体制の在り方について、検討していく必要がある。

(5)サービスの質の確保と利用者の権利擁護
(1) サービスの質に関する第三者評価
・ 知的障害者・障害児に対して適切なサービスを提供するために は、サービスを客観的に評価する基準及び仕組みが必要である。
・ このため、第三者評価機関によるサービス内容の評価のための仕組みを検討し、サービス提供者によるサービスの改善を促進する必要がある。その際、知的障害者・障害児の特性に十分に対応した基準を作成する必要がある。
(2) 苦情解決体制の整備
・ 知的障害者・障害児が適切なサービスを利用できるようにするためには、サービス等の苦情解決の体制を整備していくことも重要である。
・ 利用者からの苦情の解決については、社会福祉基礎構造改革で提言されている、サービス提供者段階での取組みを促すとともに、サービス提供者段階で解決が困難な事案に関しては、都道府県段階に設置する中立的な第三者機関において調整する仕組みを構築する必要がある。
・ このほか、障害児(者)地域療育等支援事業や「障害者110番」運営事業などの相談事業においても、利用者の人権擁護の観点から、利用者からの苦情に対応することができるよう、その充実を図る必要がある。
(3) 自己決定を支援する仕組みの制度化
・ 障害者が自ら選択し、必要とする福祉サービスを利用することが尊重されることは当然であるが、知的障害者のうち、自己の能力で様々なサービスを適切に利用することができない者について、これらの者の権利を擁護し、地域において安心して生活を送れるように支援する必要性が高まっている。
・ 現在、法務省において「成年後見制度」の検討が進められ、平成12年度から実施する予定となっており、この適切な運用が望まれるが、障害者福祉制度における公的な後見人についても今後の検討課題である。
・ さらに、これらの者に対し、財産管理にとどまらず、福祉サービスの利用の援助等を行うことが重要である。このため、障害児(者)地域療育等支援事業における各種の相談・援助事業の中で、知的障害者に対する福祉サービスの利用援助を充実させていくとともに、福祉サービスに関する情報提供・助言、手続きの援助、苦情解決制度の利用援助等を行う仕組みを構築する必要がある。


  3.知的障害者・障害児に関する事務の市町村への委譲

(1)知的障害者に関する事務の委譲
(1) 委譲の必要性
・ 知的障害者の状況を日常的に把握しつつ、ニーズに対応したきめ細かなサービスを提供するためには、身近な行政主体である市町村が福祉サービスに関する権限を有することが望ましい。
・ 現在、知的障害者施策については、ホームヘルプ等の在宅サービスは市町村の権限により実施しているが、施設への入所措置等は、都道府県、市及び福祉事務所設置町村が実施しており、知的障害者のニーズに応じた適切なサービスを総合的かつ効率的に提供するためには、市町村において在宅サービスと施設サービスが一元的に提供されるようにすべきである。
・ このため、知的障害者の施設入所等に関する事務を市町村に委譲する必要がある。
(2) 委譲に当たっての体制整備
・ 委譲に当たっては、円滑な事業の実施等が図られるよう、十分な準備期間をおくとともに、市町村職員の研修を行う必要がある。
・ また、市町村の財政負担の変化や職員の増員に伴う負担増に対応するための財源確保に支障が生じないよう十分配慮する必要がある。
・ さらに、円滑な事業の実施等を図るため、従来どおり知的障害者更生相談所が施設入所に係る判定業務を行うとともに、広域的な観点から都道府県が市町村を支援する体制の整備を行う必要がある。
・ このような体制整備を進めるに当たっては、都道府県及び市町村の意見を十分聴取し、円滑な委譲が図られるようにする必要がある。

(2)障害児に関する事務の委譲
・ 住民に身近なサービスは、可能な限り、住民に身近な地方公共団体が実施するという基本的な考え方によれば、障害児福祉サービスについても、住民に最も身近な行政主体である市町村が権限を持つことが望ましいことは言うまでもない。
・ 特に、障害児の地域における生活を支援する観点から、在宅サービスについては、身近な行政主体である市町村の権限により実施することが望ましいと考えられる。
・ このため、現在、都道府県の権限により実施しているショートステイ事業、補装具の交付、日常生活用具給付等事業について、市町村へ委譲し、既に市町村が実施しているホームヘルプサービス、デイサービスと併せて、市町村が統一的に在宅サービスを取り扱うこととする必要がある。
・ 一方、施設サービスについては、基本的な考え方は、在宅サービスと同様であるが、次のような点を勘案する必要があり、市町村に権限を委譲することについては、さらに検討する必要がある。
ア) 障害児を含め児童は発達途上にあることから、その処遇に当たっては、医学、心理学、社会学、社会福祉学等各分野の専門家による総合的な判断が不可欠であるとともに、単にサービスを決定するだけでなく、その発達を総合的な見地からフォローし、処遇の再検討を行っていくことが必要であり、障害児施策の中でも、障害児施設への入退所については、特に、そのような高度の専門的判断が必要とされること。
イ) 障害児に関する事務について委譲を行った場合も、被虐待等の要保護性を有する児童に関する施策については、従来どおり、都道府県(児童相談所)が決定権限を有することとなるが、被虐待等の要保護性を有する障害児の障害児施設への入所について、市町村と都道府県(児童相談所)のどちらが決定権限を持つかという問題がある。
 この点については、被虐待等の要保護性を有する障害児に対し 児童相談所が判定と処遇の両方を行うことにより迅速な対応ができること等から、引き続き都道府県(児童相談所)が決定権限を持つことが考えられるが、事務処理上、都道府県と市町村の間で、要保護性の有無をめぐって責任の所在が曖昧になる等の問題が生じる可能性があること。
ウ) 現在、障害児施設の事務費の支弁方法については、定員払い方式になっており、入所人員が定員を大幅に下回る施設において定員を直ちに改定し難い場合には、暫定定員を設定し、その暫定定員をもって支払う方式となっている。
 一方、都道府県から市町村へ入所決定権限を委譲する場合、複 数の市町村が入所措置を行うことから、各市町村がその措置に係る障害児についてそれぞれ事務費を支払う現員払い方式とする必要があると考えられる。
 このような現員払い方式に移行する場合、定員又は暫定定員に 基づく定員払い方式となっている施設の運営に支障が生じる可能性があること。


  4.その他の検討課題

・ 知的障害者・障害児については、より一層適切な医療サービスが受けられやすくする必要があることから、医療サービスの提供体制の充実に向けて、幅広い観点から、検討していく必要がある。また、知的障害者・障害児の心のケアの在り方についても検討していく必要がある。
・ 自閉症については、基本的には、知的障害者福祉施策の中でサービスが提供されており、また、医療の必要性に応じて精神保健福祉法で対応しているが、自閉症等生活適応に困難を有する発達障害については、今後更に、心理的、社会的な処遇方法の開発等施策の充実を図る必要がある。


サイトポリシー情報公開個人情報保護調達情報・契約監視委員会| Copyright © 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所