障害のある子ども一人一人の教育的ニーズに対応した教育の実現に貢献します。

特別支援教育法令等データベース 総則 / 報告・答申等 - 学校施設のバリアフリー化等の推進について -


学校施設のバリアフリー化等の推進について


平成16年3月 

学校施設のバリアフリー化等に関する調査研究協力者会議




目次

はじめに

第1章 学校施設のバリアフリー化等に関する基本的視点
  1 背景
  2 学校施設のバリアフリー化に関するこれまでの施策
  3 ユニバーサルデザインと学校施設のバリアフリー化
  4 学校施設のバリアフリー化等の推進に関する基本的な考え方

第2章 学校施設のバリアフリー化等に係る計画・設計上の留意点
  1 計画・設計上の基本的留意事項
  2 わかりやすく、円滑に建物に至ることができる配置計画
  3 わかりやすく、快適に動きやすい平面計画
  4 使いやすく、安全で快適な各室計画

第3章 今後の推進方策

参考資料
  1 高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する
  法律の一部改正について 
  2 障害者基本計画、重点施策実施5か年計画 
  3 学校施設のバリアフリー化に関する補助制度 
  4 学校施設におけるバリアフリー対策設備の整備状況 
  5 学校施設のバリアフリー化等に関する調査研究について 






はじめに

 学校施設は、障害の有無にかかわらず、児童生徒が学習・生活できるように整備
するとともに、地域住民の生涯学習の場、地域コミュニティの拠点、地震等の災害
時の応急的な避難場所としての役割を果たすことが求められており、児童生徒、教
職員、保護者、地域住民等の多様な人々の利用を考慮する必要がある。

 一方、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関
する法律」の一部改正(平成14年7月公布、平成15年4月施行)において、学校施
設が新たにバリアフリー化の努力義務の対象として位置付けられた。また、「障害
者基本計画」(平成14年12月閣議決定)においても、学校施設のバリアフリー化が
求められるとともに、ユニバーサルデザインの観点から、すべての人にとって生活
しやすいまちづくり、ものづくりを推進することが求められている。

 本調査研究協力者会議は、以上のような社会状況等を背景として、学校施設のバ
リアフリー化等の在り方を検討するため、学校建築やバリアフリー等の分野を専門
とする学識経験者、設計実務者、学校教育や行政の関係者等の参画により、平成15
年8月に設置された。
 これまで約半年にわたって、それぞれの専門を生かした活発な議論を行うととも
に、バリアフリー化やユニバーサルデザインの導入に先進的に取り組んでいる国内
の学校施設や公共施設、スウェーデン、デンマークの学校施設等について現地調査
を実施した。これらの成果を踏まえて、学校施設のバリアフリー化等に関して、小
学校、中学校(以下「小・中学校」という。)を中心に検討を行った結果を、今般
報告書として取りまとめるに至ったものである。
 第1章では、我が国の学校施設におけるバリアフリー化等に関する基本的な考え
方を述べ、第2章では、学校施設のバリアフリー化を図る際の計画・設計上の留意
点を、児童生徒等が「安全かつ円滑に利用できる施設を整備する観点から標準的に
備えることが重要なもの」、「より安全に、より便利に利用できるように備えるこ
とが望ましいもの」、障害のある児童生徒等の社会への参加・参画を促すために、
「施設利用者の特性や施設用途等に応じて付加・考慮することが有効なもの」に分
類して示している。また、第3章では、学校施設のバリアフリー化等に関する今後
の推進方策を述べ、全体として学校施設におけるバリアフリー化等の在り方につい
て総合的に提言した内容となっている。

 現在、我が国における小・中学校は、約3万5千校あり、何らかのバリアフリー
対策を実施すべき施設は相当数に達する。今後、学校施設のバリアフリー化を着実
に推進するためには、既存の施設を含めた学校施設全般にわたり、具体的な対策を
計画的に講じていくことが重要である。この際、本報告書の趣旨が踏まえられ、設
置者の創意工夫の下に、それぞれの実情に応じて学校施設のバリアフリー化が積極
的に進められることを切に期待するものである。



第1章 学校施設のバリアフリー化等に関する基本的視点

1 背景
 学校施設は、多くの児童生徒が一日の大半を過ごす学習・生活の場である。した
がって、児童生徒等の健康と安全を十分に確保することはもちろん、快適で豊かな
空間として整備することが必要である。また、学校施設は、地域住民にとって最も
身近な公共施設として、まちづくりの核、生涯学習の場としての活用を一層積極的
に推進するとともに、地域の防災拠点としての役割が求められており、児童生徒、
教職員、保護者、地域住民等の多様な人々の利用を考慮し、そのバリアフリー*1化
を積極的に推進する必要がある。
 一方、平成6年6月に「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の
建築の促進に関する法律」(以下「ハートビル法」という。)が公布、同年9月に
施行され、不特定かつ多数の者が利用する建築物の整備に関して、バリアフリー化
の努力義務が課せられた。
 その後、高齢者、身体障害者等の生活環境整備の必要性に対する意識が向上し、
これらの人々に配慮した取り組みは、すべての人々の生活を豊かにさせるものでも
あるという認識が広まってきたことなどから、高齢者、身体障害者等が円滑に利用
できる特定建築物の建築を一層促進するため、平成14年7月にハートビル法が一部
改正され、翌年4月から施行された。この改正により、特定建築物の範囲が、不特
定でなくとも多数の者が利用する建築物にも拡大され、学校施設が新たにバリアフ
リー化の努力義務の対象として位置づけられた。加えて、地方公共団体が、その地
方の自然的社会的条件の特殊性により、条例で特定建築物を特別特定建築物に追加
したり、利用円滑化基準に必要な事項を付加できることなどが規定された。
 また、政府は、「障害者基本法」に基づき、平成15年度を初年度とする10年間に
講ずべき障害者施策の基本的方向として「障害者基本計画」を平成14年12月に閣議
決定した。本計画では、基本的な方針として、ユニバーサルデザイン*2の観点から、
すべての人にとって生活しやすいまちづくり、ものづくりを推進することが示され、
教育・療育施設において、障害の有無にかかわらず様々な人々が、適切なサービス
を受けられ、また、利用する公共的な施設であるという観点から、施設のバリアフ
リー化を推進することが盛り込まれた。
 さらに、本計画の前期5年間において重点的に実施する施策等を定めた「重点施
策実施5か年計画」(平成14年12月障害者施策推進本部決定)においては、小・中
学校等の施設のバリアフリー化の参考となる指針を策定するとともに、計画・設計
手法等に関する事例集を作成することが盛り込まれた。

 他方、文部科学省では、近年の障害のある児童生徒の教育をめぐる諸情勢の変化
等を踏まえて、今後の特別支援教育の在り方について検討するため、特別支援教育
の在り方に関する調査研究協力者会議を平成13年10月に設置し、平成15年3月に「今
後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」を取りまとめた。本報告では、 
従来の特殊教育の対象となる児童生徒数が増加傾向にあること、障害の多様化が進
行していること等の現状を踏まえ、障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、
その一人一人の教育的ニーズを把握して適切な教育や指導を通じて必要な支援を行
う「特別支援教育」の考え方が提唱された。
 また、社会のノーマライゼーション*3の進展や教育の地方分権の観点から、障害
のある児童生徒一人一人の特別な教育的ニーズに応じた適切な教育が行われるよう、
就学手続を弾力化するため、平成14年4月に学校教育法施行令が改正された。本改
正において、盲学校、聾学校又は養護学校の就学基準に該当する児童生徒であって
も、その障害の状態に照らし、就学に係る諸事情を踏まえて、小・中学校において
適切な教育を受けることができる特別の事情があると市町村教育委員会が認める場
合には、小・中学校に就学させることができることとされた。

2 学校施設のバリアフリー化に関するこれまでの施策
 これまで、文部科学省においては、学校施設整備の基本方針及び計画・設計上の
留意点を具体的に提示した「学校施設整備指針*4」に、施設のバリアフリー化に関
する基本的な事項を提示するとともに、平成6年のハートビル法の制定及び平成15
年の一部改正に伴い、各都道府県等に対し、施設のバリアフリー化の促進の必要性
について、周知を図ってきたところである。
 また、公立及び私立学校施設については、障害のある児童生徒等の利用に配慮し
た整備に係る経費の一部を国庫補助の対象としている。一方、国立学校施設につい
ては、新築、改修等の事業に併せて、バリアフリー対策を実施している。

3 ユニバーサルデザインと学校施設のバリアフリー化
 近年、ノーマライゼーションの理念が広がりつつあるなか、ユニバーサルデザイ
ンの考え方が提唱されている。
 ユニバーサルデザインとは、ユニバーサルデザインセンター(ノースカロライナ
州立大学)の提唱によれば、「すべての人にとって、できる限り利用可能であるよ
うに、製品、建物、環境をデザインすることであり、デザイン変更や特別仕様のデ
ザインが必要なものであってはならない。」とされており、「ユニバーサルデザイ
ン7原則*5」が示されている。
 官庁施設については、国土交通省において、官庁施設のユニバーサルデザイン検
討委員会を設置し、ユニバーサルデザインの考え方に基づいた具体的対応策に関す
る検討を実施している。また、一部の地方公共団体においても公共施設の整備等に
際しては、ユニバーサルデザインのまちづくり等の施策に基づく整備が検討されて
いる。
 このように、様々な場において、ユニバーサルデザインの考え方に基づく整備に
ついて、種々検討がなされている状況にある。
 学校施設については、児童生徒の学習・生活の場であるとともに、地域住民の生
涯学習の場、地域のコミュニティや防災の拠点としての役割を果たすことが求めら
れることから、ユニバーサルデザインの考え方を踏まえて、多様な人々の利用にも
配慮した施設として整備することを考慮する必要がある。加えて、施設を利用する
児童生徒等の特性によっては、個別の対応が必要となる場合があるため、施設、設
備の付加や運営面でのサポート体制等にも配慮する必要がある。
 また、このような配慮の下に整備された学校施設は、障害のある児童生徒や高齢
者などとの交流、地域住民の学校教育への参加や生涯学習の場としての利用を促進
することにより、児童生徒が障害者に対する理解を深めたり、地域の人々が障害の
ある子どもに対する正しい理解と認識を深めたりする効果を期待できる。したがっ
て、学校施設のバリアフリー化に関する情報やその利用の促進について、家庭や地
域住民に積極的に広報することも考慮すべきである。
 これらのことから、今後の学校施設の整備に当たっては、ユニバーサルデザイン
の観点から、多様な人々の利用に配慮して計画・設計するよう努めることが重要で
ある。

4 学校施設のバリアフリー化等の推進に関する基本的な考え方
 学校施設の整備においては、施設を利用する児童生徒等の特性を把握した上で、
運営面でのサポート体制との連携を図りつつ、多様な人々が安全かつ円滑に利用で
きる計画とすることが重要である。
 したがって、新たに学校施設を整備する際には、あらかじめ、多様な人々が利用
しやすいように、ユニバーサルデザインの観点から計画・設計するよう努めること
が重要である。一方、既存施設においては、ユニバーサルデザインの考え方を念頭
に、児童生徒等が安全かつ円滑に施設を利用する上で障壁となるものを取り除くた
めの方策等について十分に検討し、必要に応じて段階的な整備を行うなど、計画的
にバリアフリー化を推進することが重要である。 

(1)学校施設のバリアフリー化等の視点
 ①障害のある児童生徒等が安全かつ円滑に学校生活を送ることができるように配慮
  社会におけるノーマライゼーションの考え方の進展や、従来の特殊教育の対象
 の児童生徒が増加傾向にあり、今後、小・中学校で障害のある児童生徒が一層増
 加することが想定されることを踏まえ、障害のある児童生徒等が安全かつ円滑に
 学校生活を送ることができるように、学校施設において個々のニーズに応じた対
 策を実施することが必要である。
  なお、障害のある児童生徒に配慮した対策は、児童生徒のみならず、教職員、
 保護者、地域住民等の多様な人々が施設を安全かつ円滑に利用するための対策と
 しても有効である。

 ②学校施設のバリアフリー化等の教育的な意義に配慮
  バリアフリー化された学校施設は、その利用を通じ、児童生徒に対して障害者
 に対する理解を深める学習効果が期待できるものであり、関連する教科等におい
 て具体的に活用することも有効である。
  また、小・中学校の学習指導要領において、小学校、中学校、盲学校、聾学校
 及び養護学校などとの間の連携や交流を図るとともに、障害のある児童生徒や高
 齢者などとの交流の機会を設けることを規定している。このため、学校施設の整
 備においては、これらの交流活動が円滑に実施できるように、障害のある児童生
 徒や高齢者が安全かつ円滑に利用できる計画とすることが必要である。

 ③運営面でのサポート体制等との連携を考慮
  小・中学校の学習指導要領において、障害のある児童生徒については、実態に
 応じ、指導内容や指導方法について工夫することを規定している。障害のある児
 童生徒に対しては、教材・教具の工夫はもちろん、安全かつ円滑に教室への出入
 りや便所等の利用ができる教室を提供するなど、ハード面での配慮や、施設の運
 営・管理、人的支援等のソフト面との連携などについて考慮することが必要であ
 る。また、学習面だけでなく生活面においても個々の状況に応じ、人的サポート
 が必要となる場合があるため、学校施設の整備においては、これらのサポート体
 制と連携した計画とすることが必要である。

 ④地域住民の学校教育への参加と生涯学習の場としての利用を考慮
  小・中学校の学習指導要領において、地域や学校の実態等に応じ、家庭や地域
 の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連携を深めることを規定している。
 このため、学校の教育活動へ地域の人材を受け入れるなど、様々な人々の学校教
 育への参加を考慮して計画するとともに、地域住民が生涯学習の場として利用す
 ることを考慮した計画とすることが必要である。

 ⑤災害時の応急避難場所となることを考慮
  小・中学校施設は、地震等の災害発生時には地域住民の応急的な避難場所とし
 ての役割も果たすことから、地域住民が利用することを考慮した計画とすること
 が必要である。

(2)既存学校施設のバリアフリー化の推進
  現在、我が国における小・中学校施設は、約3万5千校あり、何らかのバリア
 フリー対策を実施すべき施設は相当数に達する。社会的な背景等を踏まえると、
 今後、学校施設のバリアフリー化を一層推進していくことが重要であり、そのた
 めには、既存学校施設の積極的なバリアフリー化の推進が必要である。

 ①関係者の参画と理解・合意の形成
  既存学校施設のバリアフリー化を計画的に推進するためには、当該地方公共団
 体における全体的な中・長期の行政計画やバリアフリー化整備計画等の上位計画
 との整合を図りつつ、学校、家庭・地域、行政(教育委員会、営繕部局、都市計
 画部局、財政部局、防災部局)等の参画により、幅広く関係者の理解・合意を得
 ながら、既存学校施設のバリアフリー化に関する整備計画を策定することが重要
 である。

 ②バリアフリー化に関する合理的な整備計画の策定
  地方公共団体等の設置者は、これまで述べた学校施設のバリアフリー化等に関
 する基本的な考え方を踏まえ、第2章で述べる計画・設計上の留意点を参考とし
 て、既存学校施設のバリアフリー化に関する整備計画を早急に策定し、計画的に
 バリアフリー化を推進していくことが重要である。
  既存学校施設のバリアフリー化に関する整備計画を策定するには、まず、所管
 する学校施設のバリアフリー化の現状を調査し、障害のある児童生徒等の安全か
 つ円滑な利用に対する障壁を把握する。その後、それらの障壁を取り除くための
 整備方法を検討するとともに、必要となる経費を試算するなど全体の事業量を把
 握する。さらに、将来動向の推計も含めた障害のある児童生徒の在籍状況等を踏
 まえ、各学校施設のバリアフリー化に関する整備目標を設定し、所管する学校施
 設に係る合理的な整備計画を策定することが重要である。
  なお、バリアフリー化に関する整備計画の策定に際しては、運営面でのサポー
 ト体制と連携して、段階的な整備目標を設定することも有効である。

 ③計画的なバリアフリー化に関する整備の実施
  設置者は、所管する学校施設に係る整備計画に基づき、計画的に学校施設のバ
 リアフリー化に関する整備を実施することが重要である。
  なお、障害のある児童生徒等が安全かつ円滑に学校施設を利用するために障壁
 を取り除くという観点からは、円滑に利用できる便所の整備、校内を円滑に移動
 するためのスロープやエレベーター等の設置が重要である。さらに、個々の障害
 に応じた適切な整備を実施する必要があることを考慮して、バリアフリー化に関
 する整備を実施することが重要である。
  また、学校施設の耐震化や防犯対策に係る整備等と併せてバリアフリー化に関
 する整備を実施するとともに、小修繕や既製品を用いる等により対応することも
 有効である。 

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  *1 バリアフリー: 障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)
   となるものを除去するという意味で、もともと住宅建築用語として使われ始
   めた。段差等の物理的障壁の除去をいうことが多いが、より広く障害者の社
   会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁の除去とい
   う意味でも用いられる。  [→戻る]

  *2 ユニバーサルデザイン: バリアフリーは、障害のある人が社会生活をし
   ていく上で障壁となるものを除去するとの考え方であるのに対し、ユニバー
   サルデザインはあらかじめ、能力の如何、年齢、性別等にかかわらず多様な
   人々が利用しやすいように都市や生活環境をデザインする考え方。  [→戻る]

  *3 ノーマライゼーション: 障害者を特別視するのではなく、一般社会の中
   で普通の生活が送れるような条件を整えるべきであり、共に生きる社会こそ
   ノーマルな社会であるとの考え方。  [→戻る]

  *4 学校施設整備指針:「幼稚園施設整備指針」、「小学校施設整備指針」、
   「中学校施設整備指針」は平成15年8月に、「高等学校施設整備指針」は平成
   16年1月に、「盲学校、聾学校及び養護学校施設整備指針」は平成11年4月に
   改訂。  [→戻る]

  *5 ユニバーサルデザイン7原則: 誰にでも公平に利用できること、使う上
   で自由度が高いこと、使い方が簡単ですぐわかること、必要な情報がすぐに
   理解できること、うっかりミスや危険につながらないデザインであること、
   無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用できること、アクセスし
   やすいスペースと大きさを確保すること。  [→戻る]
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第2章   学校施設のバリアフリー化等に係る計画・設計上の留意点

1 計画・設計上の基本的留意事項
(1)関係者の参画と理解・合意の形成
  学校施設のバリアフリー化を推進するためには、施設整備に関する企画、基本
 設計、実施設計及び施工の各段階において、学校、家庭・地域、行政(教育委員
 会、営繕部局、都市計画部局、財政部局、防災部局)等の参画による総合的な検
 討を行うことが重要である。

(2)適切な整備目標の設定
  学校施設のバリアフリー化に関する整備に際しては、個々の学校における施設
 利用者の特性、施設用途、立地環境、運営面でのサポート体制等に対応し、過度
 な整備とならないように適切な整備目標を設定することが重要である。整備目標
 の設定に当たっては、新築建物のみならず、既存建物においても多様な人々が安
 全かつ円滑に利用できるように、ユニバーサルデザインの観点から検討すること
 が重要である。
  また、必要に応じて整備目標を段階的に設定し、計画的に整備することも有効
 である。

(3)バリアフリー化等の事後点検の実施
  施設利用者からのニーズの進展や多様化に対し、改修整備等を柔軟に実施でき
 るように計画することが重要である。
  また、事後点検を実施する組織を設置し、定期的に施設利用者と情報交換等を
 行い、施設のバリアフリー化等の状況について検証することは、バリアフリー化
 の進展のために有効である。 

2 わかりやすく、円滑に建物に至ることができる配置計画
(1)外部から建物に出入りしやすい建物配置
  敷地境界及び駐車場等から明確で、できる限り段差のない建物配置とすること
 が重要である。

(2)建物間の移動がしやすい建物配置
  ① 校舎間、校舎と屋内運動場間等の移動については、動線が短く、できる限
   り平面移動が可能な建物配置とすることが重要である。 
  ② 児童生徒数の将来動向を的確に検討、把握し、長期的な視野に立った建物
   配置とすることが重要である。

(3)安全で移動しやすい敷地内通路
  ① 敷地境界及び駐車場から建物の出入口までの通路、建物間の通路等の敷地
   内通路は、歩行者と車の動線を分離した計画とし、安全かつ円滑に利用でき
   るものとすることが重要である。 
  ② 敷地内通路は、できる限り段差を設けず、表面は滑りにくい仕上げとする
   ことが重要である。やむを得ず段差が生じる場合は、適切なスロープ、段差
   解消機等を設置することが重要である。 
  ③ スロープや階段を設ける場合は、安全で使いやすいように、その手前に存
   在を認識できる措置を講じるとともに、勾配、手すりの設置等に配慮するこ
   とが重要である。 
  ④ 通路やスロープを横断する排水溝等の蓋は、通路面との段差をなくし、蓋
   のスリット等は杖や車いすのキャスタ等が落ちないように配慮することが重
   要である。
  ⑤ 視覚障害者が敷地境界から受付やインターホン等の案内設備まで安全に到
   達できるように、音声・点字等による案内の設置又は視覚障害者誘導用ブロ
   ックの敷設等の配慮をすることが重要である。 
  ⑥ 階段、スロープ等は、認識しやすいように他の部分と色相や明度の差を大
   きくしたり、材質を使い分けるなどの配慮をすることが望ましい。

(4)建物から円滑に移動できる屋外運動場
  建物の出入口から屋外運動場へ至る通路には、できる限り段差を設けないよう
 に計画することが重要である。やむを得ず段差が生じる場合は、適切なスロープ、
 段差解消機等を設置することが重要である。

(5)利用しやすい駐車場
  建物の出入口に到達しやすい安全な位置に、十分なスペースを持つ車いす使用
 者等の利用する駐車場を確保することが望ましい。
 車いす使用者等の利用する駐車場には、わかりやすい表示をすることが望ましい。 

3 わかりやすく、快適に動きやすい平面計画
(1)どこにでも円滑に移動できる平面計画
  ① 同一階においては、できる限り段差を設けず、平面移動が可能な計画とす
   ることが重要である。やむを得ず段差が生じる場合は、適切なスロープ、段
   差解消機等を設置することが重要である。 
  ② 障害のある児童生徒等が利用する教室等が複数階にわたる場合には、エレ
   ベーター等の昇降設備を設置することが重要である。

(2)動線が簡明な平面計画
  ① 児童生徒の利用スペースを集約して計画したり、可能な限り遠回りとなら
   ない動線を設定する等、動線が簡明な平面計画とすることが重要である。 
  ② 児童生徒等が、まとまりのある活動空間を通り抜けることなく、それぞれ
   の必要に応じ円滑に移動することができるように明確な動線を設定すること
   が重要である。

(3)認知・把握がしやすい明確な空間構成
  建物内での自分の位置を認知・把握しやすくするとともに、教職員が児童生徒
 の行動を見通せるように、明確な空間構成とすることが重要である。

(4)安全で移動しやすい避難経路の確保
  ① 災害時の避難経路は、できる限り段差のない経路を確保するとともに、明
   確な動線とし、屋外又は一時待機スペースまで可能な限り一人で避難できる
   ように配慮した計画とすることが重要である。なお、一時待機スペースから
   屋外までの避 難及び一人で避難することが困難な児童生徒等の避難につい
   ては、運営面でのサポート体制と連携し、安全かつ円滑に実施できるように
   配慮した計画とすることが重要である。 
  ② 多人数が同時に利用する施設を避難階以外の階に計画する場合は、複数の
   避難動線を設定する等、非常時の迅速な避難に配慮した計画とすることが重
   要である。
  ③ 避難経路は、児童生徒が日常的に利用している経路と同一になるように配
   慮することが望ましい。
  ④ 防火戸は、車いす使用者が通過できる仕様のものを設置することが望まし
   い。

(5)誰にでもわかりやすい案内表示
  ① 案内表示は、建物の出入口やエレベーターホールなど、動線の要所に、利
   用者が認知しやすく、 通行の支障にならない位置に設置し、 日本工業規格
  (JIS)の案内用図記号*6を用いるなど、わかりやすいものとすることが重
   要である。 
  ② 屋外運動場、屋内運動場、図書館等の学校開放や災害時の応急的な避難場
   所等として不特定多数の者が利用する施設は、外部から認識しやすい位置、
   大きさで施設名を表示することが有効である。 
  ③ 視覚障害者の利用に配慮して、点字表示や案内・サインの拡大表示等を行
   うことが有効である。 
  ④ 視覚障害者や聴覚障害者の利用に配慮して、避難口誘導灯は自動火災報知
   器と連動して誘導音、点滅機能及び非常文字表示装置等を設置することが有
   効である。 

4 使いやすく、安全で快適な各室計画
(1)利用しやすい教室等
  ① 柱や壁のコーナーの面取りを行うとともに、できる限り突起物、支障物を
   なくすなど、鋭利な凹凸のない空間とし、多様な行動に対し十分な安全性を
   確保することが重要である。 
  ② 適正な吸音性能を持つ天井、壁材を採用することが重要である。特に、一
   定の静寂さを必要とする空間については、適度の遮音性を持つ仕様とするこ
   とが重要である。 
  ③ 安全性、快適性に配慮して、適度に弾力性があり、柔らかな手触りや暖か
   みのある素材を採用することが有効である。 
  ④ 障害のある児童生徒の学習方法に配慮して、教室内に教材・教具等が適切
   に配置できるスペースを確保したり、障害に応じた専用の学習コーナー等を
   設置できるように計画することが有効である。

(2)移動しやすい屋内の通路
  ① 屋内の通路は、できる限り段差を設けず、突起物、支障物をなくすなど、
   安全でわかりやすい動線となるように計画することが重要である。やむを得
   ず段差が生じる場合は、適切なスロープ、段差解消機等を設置することが重
   要である。 
  ② 屋内通路は、安全かつ円滑に利用できる幅員を確保することが重要である。
  ③ スロープは、車いす使用者だけでなく、多様な人々が安全で使いやすいよ
   うに、勾配、手すりの設置等に配慮することが重要である。 
  ④ 床と壁の立ち上がりの境を視認しやすくするため、床と壁の仕上げは、色
   相や明度の差を大きくしたり、材質を使い分けるなどの配慮をすることが望
   ましい。 
  ⑤ 車いす使用者に配慮して、必要に応じて通路の壁には車いすフットレスト
   あたりを設置することが有効である。 
  ⑥ 障害のある児童生徒等の利用に配慮して、必要に応じて滑りにくい材質の
   手すりを設置することが有効である。 
  ⑦ 通路内に休憩できるスペースを設ける場合は、腰掛け等を設置するととも
   に、車いす使用者のスペースにも配慮することが有効である。

(3)円滑に利用できる階段
  ① 階段は、安全かつ円滑に利用できる幅員及び勾配を確保するとともに、表
   面は滑りにくい仕上げとすることが重要である。 
  ② 階段は、段の上端と下端を認識しやすくするため、色相や明度の差等に配
   慮することが重要である。 
  ③ 主要な階段は、直階段又は折り返し階段とし、踏面及び蹴上げの寸法は一
   定とすることが重要である。 
  ④ 段鼻は、識別しやすく、つまずきにくいものとすることが重要である。
  ⑤ 手すりは、視覚障害者にとっては有効な誘導サインともなるため、設置位
   置などに留意し、連続して設置することが有効である。 
  ⑥ 視覚障害者の利用に配慮して、階段の手すりに階数を点字で表示すること
   が有効である。

(4)利用しやすいエレベーター
  ① エレベーターは、障害のある児童生徒等が利用しやすいように、主要な経
   路に隣接して設置し、案内表示を適切に設置することが重要である。 
  ② エレベーターの間口、かごの形状・大きさ、操作盤の位置、手すり等は、
   障害のある児童生徒等の利用を配慮して設置することが重要である。 
  ③ エレベーター乗降ロビーは、前面に車いす使用者が回転できるスペースを
   確保することが重要である。また、車いす使用者が直進でエレベーターに進
   入又は退出できるように設置することが望ましい。
  ④ 障害のある児童生徒等が、休憩時間内に円滑に移動できるよう、要所にエ
   レベーターを設置することが望ましい。 
  ⑤ エレベーターのかご及び昇降路の出入口の戸には、エレベーターのかごの
   中を見通すことができるガラス窓を設置することが望ましい。 
  ⑥ 視覚障害者の利用に配慮して、エレベーター乗降ロビーの押しボタンやか
   ご内の操作盤等に、点字等の表示を行うことが有効である。 
  ⑦ 聴覚障害者の利用に配慮して、緊急時の応答、過負荷ブザー等の音声情報
   を視覚情報等でも表示することが有効である。

(5)誰もが利用できる便所
  ① 便所は、障害のある児童生徒等の利用に配慮した計画とし、車いす使用者
   用便房*7を設置することが重要である。 
  ② 車いす使用者用便房を設置する便所については、便所及び便房の出入口並
   びに通路について、車いす使用者の通行が可能な幅員を確保することが重要
   である。 
  ③ 床面は滑りにくい仕上げとし、便所及び便房の出入口並びに通路は段差を
   なくすとともに、戸を設ける場合には円滑に利用できる仕様とすることが重
   要である。 
  ④ 小便器の一個以上は、床置式又は壁掛式低リップ*8とし、手すりを設置す
   ることが重要である。
  ⑤ 障害のある児童生徒等が休憩時間内に教室を移動しながら利用することを
   考慮し、各階に車いす使用者用便房を設置することが望ましい。 
  ⑥ 多機能便房*9については、多機能便房以外の便所と一体的又はその出入口
   の近くなど、適切な位置に設置することが望ましい。 
  ⑦ 車いす使用者用便房や多機能便房には、緊急通報ボタンを設置することが
   望ましい。 
  ⑧ 洗面台の一個以上は、座位でも容易に使用できる高さ、使いやすい水栓の
   設置、車いすでひざ下が入るスペースの確保等の措置を講じることが望まし
   い。 
  ⑨ 視覚障害者の利用に配慮して、洗浄ボタン、ペーパーホルダー等の機器の
   配置を統一することが有効である。 
  ⑩ 視覚障害者の利用に配慮して、案内板等に便所の位置及び男女の別を点字
   等により表示することが有効である。 
  ⑪ 視覚障害者や聴覚障害者の利用に配慮して、便房の戸に使用中か否かの表
   示装置をわかりやすく設置することが有効である。

(6)出入りしやすい教室等の出入口
  ① 出入口は、車いす使用者の通過を妨げるような段差を設けず、通過可能な
   幅を確保するなど、安全かつ円滑に利用できるように配慮することが重要で
   ある。やむを得ず段差が生じる場合は、適切なスロープ等を設置することが
   重要である。 
  ② 出入口の戸は、開閉しやすい形式のものを設置することが重要である。 
  ③ 車いす使用者が戸の開閉や出入りを行うために必要なスペースを確保する
   ことが望ましい。 
  ④ 出入口の戸のガラス等は、衝突時の事故防止等に配慮することが望ましい。
  ⑤ 視覚障害者の利用に配慮して、点字や浮き彫り文字により表示を行うこと
   が有効である。

(7)建物に出入りしやすい昇降口、玄関
  ① 建物に出入りしやすいように、分かりやすい位置に、昇降口、玄関及び受
   付の配置を計画することが重要である。また、運営面でのサポート等の観点
   から、職員室や事務室等の配置にも考慮して計画することが重要である。
  ② 昇降口、玄関は、床面を滑りにくい仕上げとし、車いす使用者の通過を妨
   げるような段差を設けず、通過可能な幅を確保するなど、安全かつ円滑に通
   過できるように配慮することが重要である。やむを得ず段差が生じる場合は、
   適切なスロープ、段差解消機等を設置することが重要である。 
  ③ 出入口の前後には、車いす使用者が方向転換できるスペースを確保するこ
   とが重要である。 
  ④ 昇降口、玄関の戸は、開閉しやすい形式のものを設置することが重要であ
   る。また、必要に応じて、自動ドアを設置することが望ましい。 
  ⑤ 昇降口、玄関の戸のガラス等は、衝突時の事故防止等に配慮することが望
   ましい。 
  ⑥ 受付の位置は、高齢者、身体障害者等に対する情報提供やサポート等の運
   営体制を考慮して計画することが有効である。 
  ⑦ 出入口付近に受付カウンターやインターホン等の案内設備を設置すること
   が望ましい。この場合、視覚障害者誘導用ブロックや音声により案内設備へ
   の誘導を行うことが有効である。 
  ⑧ 視覚障害者や聴覚障害者の利用に配慮して、建物や施設の情報案内を点字、
   音声、文字等により適切に表示することが有効である。 
  ⑨ 車での送迎が必要な児童生徒等の利用に配慮して、車寄せには屋根を設置
   することが有効である。

(8)操作がわかりやすい建築設備 
  ① 建築設備は、操作しやすく、わかりやすいものとすることが重要である。
  ② スイッチ、コンセント、手洗い場等の設備は、大きなものを使いやすい位
   置に配置することが重要である。 
  ③ 放送、音響設備は、聴き取りやすいように配慮することが重要である。ま
   た、聴覚障害者に配慮して、放送、音響設備とともに文字情報を提示する電
   光表示板等を設置することが有効である。
  ④ 施設利用者の特性や施設用途、立地環境等を考慮し、聴覚障害者の利用に
   配慮して移動式又は固定式磁気ループ*10等を設置することが有効である。

(9)利用しやすい家具
  ① 黒板、机、いす、各種棚等の家具は、利用者の体格に配慮して設置するこ
   とが重要である。
  ② 高さ等の調整が可能な机、いす、黒板等を設置することが望ましい。 
  ③ 視覚障害者が楽な姿勢で読み書きを行うことができる傾斜調整が可能な机
   や、点字機器、教材拡大機器等を使用できる広い机面の机など、障害の特性
   に配慮した家具を配置することが有効である。

(10)適切な照明設備
  施設利用者の特性、施設用途、立地環境、照明の用途等を考慮して、見やすく
 まぶしさのない良質な光の得られる照明器具を選定するとともに、適切な照度、
 照明器具の位置等を計画することが重要である。

(11)明確な色彩計画
  色彩計画は、その組合せ等により、エリア表示、誘導方向表示、サインなどと
 代替可能であるため、色相や明度の差に配慮するとともに、視覚面や心理面での
 効果等を十分に検討して計画することが重要である。 

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  *6 案内用図記号: 日本工業規格のJIS Z 8210(案内用図記号)により規定。
                   [→戻る]
  *7 車いす使用者用便房: 車いす使用者が円滑に利用することができるよう
   に、腰掛便座、手すり等が適切に配置され、十分な空間が確保されている便
   房。  [→戻る]
  *8 壁掛式低リップ: 前方に張り出した受け部(リップ部)が床置式と同様
   に低く設計されている小便器。  [→戻る]
  *9 多機能便房: 障害のある児童生徒、高齢者、身体障害者に限らず、乳幼
   児を伴う者等の多様な人々が可能な限り容易に利用できるように、腰掛便座、
   手すり、オストメイト用の汚物流しや水栓、オムツ交換シート等を設置し、
   車いすの回転や介助者の同伴等多様な動作が可能な空間が確保されている便
   房。  [→戻る]
  *10 磁気ループ: 教室やホールの床下などに電線をループ状に敷設し、アン
   プ等を通して音声信号の電流を流すことにより磁場を形成する。そして補聴
   器の誘導コイル(テレホンコイル)でその磁気を受信し音声信号として聞き
   とるシステムである。騒音に強く、電線が敷設されたループの中では、話し
   手との距離に左右されずに、どこにいても安定した状態で音声信号を聞くこ
   とができる。  [→戻る]
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第3章 今後の推進方策

(1)学校施設のバリアフリー化等に関する指針の策定
  学校施設に求められる役割や社会的背景を踏まえると、地方公共団体等の設置
 者は、運営面でのサポート体制と連携を図りながら、今後とも積極的にそのバリ
 アフリー化を推進していく必要がある。
  本調査研究協力者会議では、このような背景を踏まえて、学校施設のバリアフ
 リー化等の推進に関する基本的な考え方や計画・設計上の留意点等について検討
 を行ってきた。その内容については、第1章及び第2章において述べたところで
 ある。文部科学省は、今後とも地方公共団体等の設置者が、所管する学校施設の
 バリアフリー化等を積極的に推進することができるように、本報告書の内容を踏
 まえ、学校施設のバリアフリー化等に関する基本的な考え方や計画・設計上の留
 意点等を示した指針を策定し、幅広く関係者に周知徹底を図る必要がある。

(2)計画・設計手法等に関する事例集の作成
  地方公共団体等の設置者は、所管する学校施設のバリアフリー化等を推進する
 ために、計画・設計手法等について理解を深める必要がある。
  文部科学省は、本報告書の内容を踏まえ、具体的な計画・設計手法等に関する
 事例集を作成し、関係者に周知する必要がある。学校施設のバリアフリー化等に
 ついては、児童生徒等の特性や新築建物、既存建物等の整備種別に応じて個々に
 検討される必要があることから、多様な条件に応じた事例を提示することが求め
 られる。

(3)研修会の実施
  学校施設のバリアフリー化等を一層推進していくためには、その基本的な考え
 方や計画・設計上の留意点等を学校関係者に対して幅広く周知していく必要があ
 る。
  したがって、学校関係者が施設のバリアフリー対策に関する知識や技術を習得
 することができるように、文部科学省や地方公共団体等は、本報告書や事例集の
 解説等を内容とする研修会の企画や、広報誌、インターネット等を利用した情報
 提供等を行うことが望まれる。

(4)補助事業等の活用
  ハートビル法の改正により、学校施設がバリアフリー化の努力義務の対象に位
 置づけられ、さらに、地方公共団体においては、学校施設のバリアフリー化を義
 務付ける条例を整備する場合もあることから、今後、地方公共団体等の設置者は
 学校施設のバリアフリー化等を一層推進する必要がある。
  文部科学省においては、学校施設のバリアフリー化に関する整備を国庫補助の
 対象としている。具体的には、公立学校施設整備において、新築、増築、改築や
 大規模な改修を実施する際に、エレベーター、障害者用便所、スロープ、自動ド
 ア等の設置に要する経費を対象としている。また、私立学校施設についても改修
 を実施するする際には、公立学校と同様のバリアフリー対策が実施できるように
 国庫補助制度が整備されている。
  このため、地方公共団体等の設置者は、所管する学校施設のバリアフリー化の
 現状を把握した上で、国によるこれらの補助制度を十分に検討し活用することが
 重要である。さらに、学校施設の耐震化や防犯対策等、他の学校施設整備のため
 の補助事業と併せてバリアフリー化に関する整備を実施することも考えられる。






【参考資料1】
  
高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に
関する法律の一部改正について(平成15年4月1日施行)


1.趣旨
 高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築を一層促進するため、
特定建築物の範囲を拡大し、及び特別特定建築物の建築等について利用円滑化基準
に適合することを義務付けるとともに、認定を受けた特定建築物について容積率の
算定の特例、表示制度の導入等支援措置の拡大を行う等の所要の措置を講ずる。

2.概要
(1)特定建築物の範囲の拡大
  特定建築物の範囲を、不特定でなくとも多数の者が利用する学校、事務所、共
 同住宅等の用途の建築物にも拡大する。

(2)特別特定建築物の建築等についての利用円滑化基準への適合義務の創設
  ① 特別特定建築物(盲学校、聾学校又は養護学校を含む)について、2,000以
   上の建築等をする者は、バリアフリー対応に係る利用円滑化基準に適合させ
   なければならないものとする。
  ② 地方公共団体は、その地方の自然的社会的条件の特殊性により、条例で、
   必要な制限を付加することができるものとする。
  ③ ①及び②の規定を建築確認対象法令とし、違反した建築等をする者に対し
   是正命令等の規定を設ける。

(3)努力義務の対象への特定施設の修繕又は模様替の追加
  特定建築物の廊下、階段、エレベーター等の特定施設の修繕又は模様替をしよ
 うとする者は、利用円滑化基準又は条例で付加した制限に適合させるために必要
 な措置を講ずるよう努めなければならないものとする。

利用円滑化基準への義務付け措置の概要
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◆利用円滑化基準と利用円滑化誘導基準の比較◆

対象特定施設 利用円滑化基準 利用円滑化誘導基準
出入口 玄関出入口の幅(一以上) 80cm以上 120cm以上
居室などの出入口 80cm以上 90cm以上
廊下等* 廊下幅 120cm以上 原則180cm以上
階段*   手すりを設け、踏み面の端部と他の部分との明度の差を確保
傾斜路* 手すりの設置 片側 両側
スロープ幅 原則120cm以上 原則150cm以上
スロープ勾配 1/12以下 1/12以下(屋外は1/15以下)
昇降機 出入口の幅 80cm以上 90cm以上
かごの面積(一定の建物の場合) 1.83cm以上 2.09cm以上
乗降ロビー 150cm角以上 180cm角以上
便所 車いす使用者用便房の数 建物に1つ以上 各階ごとに原則2%以上
床置式小便器等の数 建物に1つ以上 各階ごとに1つ以上
敷地内の通路 通路の幅 120cm以上 180cm以上
駐車場 車いす使用者用駐車施設の数 1つ以上 原則2%以上
車いす使用者用駐車施設の幅 350cm以上 350cm以上
案内設備に至る経路*   視覚障害者誘導用ブロック等または音声による誘導装置の設置
浴室等     共用の場合、1つ以上の浴室等を車いす使用者が使える仕様とする
客室     共用の便所や浴室等が適切に整備されている場合を除き、ホテルや旅館の原則2%以上の客室内の便所や浴室等は車いす使用者も利用できるようにする
※増築等の場合   増築等の部分とその部分に至る経路が基準の適用範囲となる。なお、増築等の範囲に関わらず共用便所、駐車場等を設ける場合には、一以上を車いす使用者が利用できるようにする
※修繕等の場合     修繕等の部分とその部分に至る経路が基準の適用範囲となる。なお、修繕等の範囲に関わらず共用便所、駐車場、浴室等を設ける場合には、一以上を車いす使用者が利用できるようにする
*:視覚障害者の利用上支障がないものとして国土交通大臣が定める場合は、必ずしも視覚障害者誘導用ブロックの敷設を要しない。



【参考資料2】
  
     障害者基本計画、重点施策実施5か年計画障害者基本計画
     (平成14年12月24日閣議決定)(抄)

はじめに
 我が国では、昭和57年(1982)年、「国連障害者の十年」の国内行動計画として、
障害者施策に関する初めての長期計画である「障害者対策に関する長期計画」が策
定され、平成4(1992)年には、その後継計画として平成5(1993)年度からおお
むね10年間を計画期間とする「障害者対策に関する新長期計画」以下(「新長期計
画」という。)が策定された。新長期計画は、その後同年12月に改正された「障害
者基本法」により同法に基づく障害者基本計画と位置付けられた。
 我が国の障害者施策は、これらの長期計画に沿ってノーマライゼーションとリハ
ビリテーションの理念の下に着実に推進されてきた。すなわち平成7(1995)年に
は、新長期計画の後期重点施策実施計画として「障害者プラン」が策定され、障害
者施策の分野で初めて数値による施策の達成が掲げられた。
 また、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関
する法律(平成6年法律第44号)」及び「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を
利用した移動の円滑化の促進に関する法律(平成12年法律第68号)」が制定され、
建物、交通分野でのバリアフリー化に向けた制度が整備されるとともに、障害者の
社会参加を阻む「欠格条項」の見直しが行われた。さらに、平成15(2003)年には、
障害者福祉サービスの利用を従来の措置から利用者の選択による契約に改めるなど、
障害者の自己決定に向けた取組を強化することとされている。
 他方、国連においては、1992(平成4)年、「国連障害者の十年」の終了を受け
て、アジア太平洋地域における国連「障害者に関する世界行動計画」を更に推進す
るため、ESCAP「アジア太平洋障害者の十年」がスタートした。この「十年」
は2002(平成14)年5月のESCAP総会において我が国の主唱により、更に1O年
延長され、同年10月に滋賀県で開催されたハイレベル政府間会合において、すべて
の人のための障壁のないかつ権利に基づく社会に向けた行動課題「びわこミレニア
ムフレームワーク」が採択された。

 我が国では、少子高齢化やIT革命の進展など社会経済の大きな変化に直面する
中で、21世紀を活力に満ち、国民一人一人にとって生きがいのある安全で安心な社
会とすることを目指して、経済・財政、社会、行政の各分野において抜本的な構造
改革が推進されている。

 新しい世紀における我が国の障害者施策は、これまでの国際的な取組の成果を踏
まえ、また我が国の将未のあるべき社会像を視野に入れて策定する必要がある。
 この障害者基本計画(以下「基本計画」という。)においては、新長期計画にお
ける「リハビりテーション」及び「ノーマライゼーション」の理念を継承するとと
もに、障害者の社会への参加、参画に向けた施策の一層の推進を図るため、平成15
(2003)年度から24(2012)年度までの10年間に講ずべき障害者施策の基本的方向
について定めるものである。

(中略)

III 分野別施策の基本的方向
4 教育・育成
(2)施策の基本的方向
   ⑤ 施設のバリアフリー化の促進
    教育・療育施設において、障害の有無にかかわらず様々な人々が、適切な
   サービスを受けられ、また、利用する公共的な施設であるという観点から、
   施設のバリアフリー化を推進する。
    障害のある児童生徒の学習や生活のための適切な環境を整える観点から、
   施設に加えて情報機器等学習を支提する機器・設備等の整備を推進する。

(以下略)

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            重点施策実施5か年計画(抄)

                             平成14年12月24日
                          障害者施策推進本部決定


 障害者基本計画(平成14年12月24日閣議決定)に沿って、同基本計画の前期5年
間において重点的に実施する施策及びその達成目標並びに計画の推進方策を以下の
とおり定める。
 重点的に実施する施策及びその達成目標

(中略)

 6 教育・育成
 (4)施設のバリアフリー化の推進
   小・中学校等の施設のバリアフリー化の参考となる指針を平成15年度中に取
  りまとめるとともに、計画・設計手法等に関する事例集を平成16年度中に作成
  する。

(以下略)






【参考資料3】
  
         学校施設のバリアフリー化に関する補助制度


1 公立学校施設整備
 (1)公立学校施設整備     (補助率 新増築1/2,改築・大規模改造1/3)
   公立の幼稚園、小学校、中学校、中等教育学校(前期課程)及び特殊教育諸
  学校について、新増改築や大規模な改修を実施する学校及び障害のある児童生
  徒・教職員がいる学校や、地域のコミュニティの拠点として施設を整備する学
  校におけるバリアフリー化に要する経費を国庫補助の対象
 (2)学校体育諸施設整備                  (補助率 1/3)
   公立の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特殊教育諸学校につい
  て、プール、武道場等の整備において、障害者等の利用に配慮した施設整備を
  行う場合に国庫補助の対象

2 私立学校施設整備
 (1)私立大学等バリアフリー推進事業            (補助率 1/2)
   私立大学等において、障害者等の利用に配慮した整備を行う場合に国庫補助
  の対象
 (2)私立高等学校等施設高機能化整備            (補助率 1/3)
   私立の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特殊教育諸学校におい
  て、障害者等の利用に配慮した整備を行う場合に国庫補助の対象
 (3)学校体育諸施設整備                  (補助率 1/3)
   プール、武道場等の整備において、障害者等の利用に配慮した施設整備を行
  う場合に国庫補助の対象
 (4)日本私立学校振興・共済事業団貸付事業       (長期・低利の融資)
   私立学校等の校舎等を障害者等の利用のために改修する場合に融資を実施




【参考資料4】
  
   学校施設におけるバリアフリー対策設備の整備状況

                        (単位:校)
区分 総学校数 内バリアフリー設備
設置校数
国立


(平成15年12月調査)
小中学校 149 127 85.2
高等学校 17 17 100
特殊教育諸学校 45 41 91.1
合計 211 185 87.7
公立


(平成14年5月調査)
小中学校 33,952 21,143 62.3
高等学校 4,136 3,262 78.9
特殊教育諸学校 933 885 94.9
合計 39,021 25,290 64.8
私立


(平成11年5月調査)
小中学校 806 310 38.5
高等学校 1,321 497 37.6
特殊教育諸学校      
合計 2,127 807 37.9

 注)バリアフリー設備設置校: エレベーター,自動ドア,スロープ,
   障害者トイレ等何らかの設備が整備されている学校 




【参考資料5】
  
   学校施設のバリアフリー化等に関する調査研究について


                             平成15年 8月26日
                              官 房 長 決 定

1 趣旨
 学校施設について、高齢者、身体障害者等の利用にも配慮することが要請されて
いることから、そのバリアフリー化等の在り方に関する調査研究を行う。

2 調査研究事項
 (1)学校施設のバリアフリー化の方針について
 (2)学校施設のバリアフリー化に係る計画・設計上の留意点について
 (3)学校施設におけるユニバーサルデザインについて
 (4)その他

3 実施方法
 別紙の学識経験者等の協力を得て、2に掲げる事項について調査研究を行う。
 なお、必要に応じて、その他の関係者の協力を求めることができる。

4 実施期間
 平成15年8月26日から平成16年3月31日までとする。

5 その他
 この調査研究に関する庶務は、大臣官房文教施設部施設企画課において行う。



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                                    別紙

  学校施設のバリアフリー化等に関する調査研究協力者名簿
                    (五十音順、敬称略) 
      氏名       職名
     浅田 稔    大阪府教育委員会施設課長
     荒木 喜久子  新宿区立津久戸小学校長
     上野 淳    東京都立大学大学院工学研究科教授
     江崎 安幸   東京都立大泉養護学校長 
     工藤 和美   東洋大学工学部教授、シーラカンスK&H代表
     古瀬 敏    静岡文化芸術大学デザイン学部教授
     澤野 由紀子  国立教育政策研究所生涯学習政策研究部総括研究官
     園田 眞理子  明治大学理工学部助教授
     高橋 儀平   東洋大学工学部教授
     千田 捷熙   筑波大学附属桐が丘養護学校長
     成田 幸夫   大府市立大府北中学校長
     野村 みどり  東京電機大学情報環境学部教授
     萩田 秋雄   筑波技術短期大学建築工学科教授
     八木 美典   静岡県企画部ユニバーサルデザイン室長
     柳澤 要    千葉大学工学部助教授
                             (○:主査)
                              (15名) 


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 「学校施設のバリアフリー化等に関する調査研究協力者会議」の検討経緯

◆第1回委員会 <平成15年9月9日>
  ○主査選出
   ・ 上野淳東京都立大学大学院工学研究科教授を主査に選出
  ○学校施設のバリアフリー化について
  ○自由討議


◆現地調査(国内) <9~11月>
  ○学校施設等のバリアフリー化に関する現地調査
名称 区分 所在地
横浜市立新治小学校 公立小 神奈川県横浜市
世田谷区立桜丘小学校 公立小 東京都世田谷区
品川区立戸越台中学校 公立中 東京都品川区
新宿区立新宿養護学校 公立養護 東京都新宿区
大阪府堺市泉ヶ丘周辺 公共施設 大阪府堺市
国際障害者交流センター 公共施設 大阪府堺市
大阪府立児童館(ビッグバン) 公共施設 大阪府堺市
静岡文化芸術大学 私立大 静岡県浜松市
浜名湖花博会場 公共施設 静岡県浜松市
川崎市立西生田小学校 公立小 神奈川県川崎市
東京都立科学技術高等学校 公立高 東京都江東区
◆第2回委員会 <平成15年10月6日>   ○事例研究    ・ 委員及び初等中等教育局特別支援教課より説明   ○自由討議 ◆第3回委員会 <平成15年10月28日>   ○現地調査(国内)報告   ○報告書のフレームの整理    ・ 報告書の構成及び論点について討議 ◆第4回委員会 <平成15年11月18日>   ○現地調査(国内)報告    ・ 報告書の構成及び論点について討議 ◆現地調査(海外)報告 <12月>   ○学校施設等のバリアフリー化に関する現地調査
名称 区分 所在地
Thorisdplans Gymnasium 高等学校 Stockholm (Sweden)
Nya Elementar Bergslagsvagen 小中学校 Akeshov (Sweden)
School Trollbodaskolan 小中学校 Hasselby (Sweden)
School Sodra Latins Gymnasium 高等学校 Stockholm (Sweden)
Stockholm University 大学 Stockholm (Sweden)
Trekroner Skole 小中学校 Roskilde (Denmark)
Naerum Gymnasium 高等学校 Naerum (Denmark)
Heibergskolen 小中学校 Copenhagen (Denmark)
◆第5回委員会 <平成15年12月17日>   ○現地調査(国内,海外)報告   ○報告書素案の検討    ・ 報告書の構成及び内容について討議 ◆第6回委員会 <平成16年1月14日>   ○報告書案の検討    ・ 報告書の構成及び内容について討議 ◆第7回委員会 <平成16年2月6日>   ○報告書案の確定
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