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特別支援教育法令等データベース 総則 / 報告・答申等 - 軽度心身障害児に対する学校教育の在り方(報告) -


軽度心身障害児に対する学校教育の在り方(報告)(昭和53年8月12日)

I 軽度心身障害児に対する学校教育のための基本的な考え方
II 軽度心身障害児に対する学校教育のための具体的方策
付 知的障害者のための発達診断表について





昭和53年8月12日



文部省初等中等教育局長 諸沢 正道 殿


特殊教育に関する研究調査会 会長 辻村 泰男




軽度心身障害児に対する学校教育の在り方(報告)




 我が国の義務教育制度は,昭和54年4月1日からの養護学校教育の義務制施行により完成することとなるが,これについては,心身障害児の障害の種類,程度等を判定し適正な就学を確保するための就学指導委員会の設置の促進及び活動の充実を初めとする就学指導体制の整備,重度・重複障害児で通学して教育を受けることが困難な者に対し,養護学校の教員が家庭,児童福祉施設・医療機関を訪問して実施する訪問教育の充実など,現在,義務制の円滑な実施のための諸施策が講ぜられているところである。

 また,義務教育段階における心身障害児に対する学校教育のうち,特に,軽度心身障害児に対する学校教育については,特殊学級の増設等により過去20年来著しく発展してきたが,障害の状態に応じた教育形態の多様化,小・中学校の通常の学級における教育との関連,養護学校教育の義務制施行後における特殊学級の在り方など,更に,今後の改善・充実が必要な時期に至っている。

 本研究調査会は,過去3年間,軽度心身障害児に対する学校教育の在り方について検討した結果,別紙のようにとりまとめたので,ここに報告する。







別紙


I 軽度心身障害児に対する学校教育のための基本的な考え方


心身障害児に対する教育については,盲学校,聾学校又は養護学校においてその心身の 障害の状態に応じた教育を施すことの必要性とともに,小学校又は中学校における心身の 状況に応ずる弾力的,かつ,柔軟な教育形態 の可能性などを考慮し,学校教育全体を通じ て最もふさわしい教育の場を求めるという立場から考えなければならない。

このような考え方のもとに,心身の障害の状態が学校教育法施行令第22条の2に規定す る程度であって,盲学校,聾学校又は養護学校に在籍させて教育を行うことが必要である 心身障害児を除く比較的心身の障害の程度の軽度のもの(以下本報告において「軽度心身 障害児」という。)の学校教育の在り方について,具体的方策を提言することとする。

この具体的方策は,まず,どのようにして教育措置(特殊学級を設けて教育するか又は 通常の学級において留意して指導するか)を決定するか,次に,特殊学級への通級,特殊 学級と通常の学級の交流,専門の教師の巡回による指導など多様な指導形態のいずれを指 導内容の必要性との関連のもとに選択するか,という2つの観点から構成されており,小・ 中学校における軽度心身障害児に対する弾力的,かつ,柔軟な教育の可能性を具体的に追 求しようとしたものである。

なお,以下の具体的方策の実施に当たっては,小学校又は中学校における特殊学級担当教員の資質向上及び一般の教員の心身障害児の教育に対する理解と協力が必要である。


II 軽度心身障害児に対する学校教育のための具体的方策

第1 弱 視 者
1 教育措置基準

両眼の視力が矯正しても0.1以上0.3未満の者又は視力以外の視機能障害が高度の者で,その視機能障害の程度が学校教育法施行令第22条の2の表盲者の項に規定する程度に達しない者(以下「弱視者」という。)については,必要に応じて弱視者のための特殊学級(以下「弱視特殊学級」という。)を設けて教育するか又は通常の学級において留意して指導すること。

また,弱視者の教育措置の決定に当たっては,医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断して,その適正を期すること。

2 指導内容及び指導形態

弱視特殊学級においては,障害の状態を改善し,又は克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うための指導など弱視者の実態に即した適切な指導を行うとともに,通常の学級との交流の機会を設けるよう配慮すること。

また,通常の学級において弱視者の指導を行う場合には,学習環境等への配慮のほかに,必要に応じて当該学校若しくは当該学校以外の学校における弱視特殊学級への通級による指導又は専門の教師の巡回による指導などの方法を地域の実態に応じて考慮すること

(説明)
1 教育措置基準について

弱視者は,通常の学級における学習活動が著しく困難な者から,通常の学級における学習活動にさしたる困難はなく通常の学級で学級担任の教員が留意して指導すれば通常の学級で学習が可能な者まで,その実態は様々である。

したがって,弱視者の教育措置の決定に当たっては,特別の教育的配慮,すなわち,視覚管理,視知覚訓練,座席の位置,机,照明,書見台,黒板などの学習環境への配慮,拡大教材等の必要度について医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断することが大切である。

2 指導内容及び指導形態について
(1) 弱視特殊学級における指導

特定の教科等の学習が通常の学級では支障があり,かつ,特別の指導を要する程度の弱視者については,弱視特殊学級で指導することが望ましい。

弱視特殊学級の対象者は,一般的にみてその構成員が多学年にわたることが多く,教育課程の実施に当たっても個別的な取扱いに偏り集団学習の機会が少なくなりがちである。このため,弱視特殊学級の指導に当たっては,実態に即して通常の学級との交流による学習活動を適切に行うなどして固定的な学級の指導に陥ることのないよう配慮することが大切である。

(2) 通常の学級における指導

通常の学級に在籍する弱視者の指導に当たっては,弱視者の実態に応じて適切な指導を行うため,次のような配慮が必要である。

ア 通級又は巡回による指導

机,座席の位置,照明,書見台,黒板などの学習環境や拡大教材などの配慮に加えて,視知覚訓練等の特別の指導が,部分的かつ定期的に必要な程度の弱視者 については,通常の学級で留意して指導するほか,特定の時間に当該学校又は当該学校以外の学校における弱視特殊学級(盲学校を含む。)への通級による指導が受けられるようにすることが望ましい。この場合,学級担任の教員と弱視特殊学級(盲学校を含む。)の担当者との連携を図る必要がある。

また,地域の実態によって,通級による指導が受けられない場合には,専門の教師が定期的に当該学校を巡回して,視知覚訓練等や拡大教材の提供を行ったり,学級担任の教員等に対して指導上の留意事項について,必要な助言を与えたりすることが望ましい。

イ 留意による指導

学習環境及び心理的・社会的適応等への配慮によって,通常の学習活動を支障なく行うことのできる程度の弱視者は,通常の学級において留意して指導することが望ましい。

第2 難 聴 者
1 教育措置基準

両耳の聴力損失が90デシベル未満50デシベル以上で,補徳器を使用すれば通常の話声を解するに著しい困難を感じない程度の者及び両耳の聴力損失が50デシベル未満で,補聴器を使用しても通常の話声を解することが困難な程度の者(以下「難聴者」という。)については,必要に応じて難聴者のための特殊学級(以下「難聴特殊学級」という。)を設けて教育するか又は通常の学級において留意して指導すること。

また,難聴者の教育措置の決定に当たっては,医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断して,その適正を期すること。

2 指導内容及び指導形態

難時特殊学級においては,障害の状態を改善し,又は克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うための指導など難穂者の実態に即した適切な指導を行うとともに,通常の学級との交流の機会を設けるよう配慮すること。

また,通常の学級において弱視者の指導を行う場合には,学習環境等への配慮のほかに,必要に応じて当該学校若しくは当該学校以外の学校における弱視特殊学級への通級による指導又は専門の教師の巡回による指導などの方法を地域の実態に応じて考慮すること

(説明)
1 教育措置基準について

難聴者は,通常の学級における学習活動が著しく困難な者から,通常の学級における学習活動にさしたる困難はなく学級担任の教員が留意して指導すれば通常の学級で学習が可能な者まで,その実態は様々である。

したがって,難聴者の教育措置の決定に当たっては,言語を用いた諸検査等を参考にし,単なる聴力損失値のみの判断でなく,残存聴力の活用の状況,失聴の時期を含む生育歴,教育歴及び知能等について,医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断することが大切である。

2 指導内容及び指導形態について
(1) 難聴特殊学級における指導

言語の発達状態によって,特定の教科等の学習が通常の学級では支障があり,かつ,特別の指導を要する程度の難聴者については,難聴特殊学級で指導することが望ましい。

難聴特殊学級の対象者は,一般的にみてその構成員が多学年にわたることが多く,教育課程の実施に当たっても個別的な取扱いに偏り集団学習の機会が少なくなりがちである。このため,難聴特殊学級の指導に当たっては,実態に即して通常の学級との交流による学習活動を適切に行うなどして固定的な学級の指導に陥ることのないよう配慮することが大切である。

(2) 通常の学級における指導

通常の学級に在籍する難聴者の指導に当たっては,難徳者の実態に応じて適切な指導を行うため,次のような配慮が必要である。

ア 通級又は巡回による指導

座席の位置などの学習環境や意志疎通などの配慮に加えて,言語指導等の特別の指導が,部分的かつ定期的に必要な程度の難聴者については,通常の学級で留意して指導するほか,特定の時間に当該学校又は当該学校以外の学校における難聴特殊学級(聾学校を含む。)への通級による指導が受けられるようにすることが望ましい。

この場合,学級担任の教員と難聴特殊学級(聾学校を含む。)の担当者との連携を図る必要がある。

また,地域の実態によって,通級による指導が受けられない場合には,専門の教師が定期的に当該学校を巡回して指導を行ったり,学級担任の教員等に対して指導上の留意事項について必要な助言を行うことが望ましい。

イ 留意による指導

学習環境及び心理的・社会的適応等への配慮によって通常の学習活動を支障なく行うことのできる程度の難聴者は,通常の学級において留意して指導することが望ましい。

第3 知的障害者
1 教育措置基準

精神発育の遅滞の程度が軽度な者のうち,社会的適応性が特に乏しい者を除いた児童生徒(以下「知的障害特殊学級対象者」という。)については,必要に応じてこれらの者のための特殊学級(以下「知的障害特殊学級」という。)を設けて教育すること。

また,知的障害特殊学級対象者の教育措置の決定に当たっては,医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断して,その適正を期すること。

なお,知的発達にやや遅れはあるが,知的障害でない児童・生徒(以下「境界線児」という。)は,原則として,通常の学級において留意して指導すること。

2 指導内容及び指導形態

知的障害特殊学級においては,心身の調和的発達を図るとともに,日常生活及び職業生活などに必要な基本的な知識,技能,態度及び習慣を養うための指導など,知的障害特殊学級対象者の実態に即した適切な指導を行うとともに,通常の学級との交流の機会を設けるように配慮すること。

また,通常の学級において境界線児の指導を行う場合には,学級編制及び教育課程の編成等の配慮のほかに,必要に応じて,特別な指導の場を設けるなどの配慮を行うこと。

なお,知的障害特殊学級における教育課程については,知的障害特殊学級の児童・生徒の実態を十分考慮して適切な教育課程を編成すること。

(説明)
1 教育措置基準について

現在,知的障害特殊学級には,精神発育の遅滞の程度が中度以上の知的障害者や知的障害者とは認められない境界線児が入級している。しかし,このように障害の程度が様々な児童・生徒の入級している現状では,学級担任の教員の負担もさることながら,個々の児童・生徒の実態に応じた教育を実現することは困難であり,指導効果も期待しにくい。したがって,今後,知的障害特殊学級の対象者は,極力,知的障害特殊学級対象者に限定することが望ましい。

知的障害特殊学級対象者とは,自他の意志の交換及び環境への適応にあまり困難はなく,日常生活に差し支えない程度に自己の自身の事柄を処理することができるが,通常の精神発達の状態からみて,抽象的思考活動にかなりの困難があり,通常の教育課程を履習することが著しく困難であると考えられる者とする。

したがって,知的障害特殊学級対象者の教育措置の決定に当たっては,日常生活,社会生活及び職業生活等の自立を考慮し医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断することが大切である。

また,境界線児は,通常の教育課程を履習することが著しく困難ではないと考えられるので,通常の学級において留意して指導することが望ましい。

2 指導内容及び指導形態について
(1) 知的障害特殊学級における指導

知的障害特殊学級においては,その対象の実態からみて,特別の教育課程によることが必要となる。この場合においては,個々の児童・生徒の実態に基づき小学校又は中学校の学習指導要領のほか養護学校(知的障害教育)小学部・中学部学習指導要領を参考として教育課程を編成することが望ましい。

なお,指導に当たっては,領域や教科を合わせるなどの工夫を行うほか,特別活動などについては,通常の学級の児童・生徒との交流の機会を設けることが大切である。

(2) 特別の指導の場における指導

境界線児の指導に当たっては,学級編制及び教育課程の編成等への配慮のもとに通常の学級において指導するほか,必要に応じて特別な指導の場を設けることが望ましい。この場合,特に校内の協力体制の確立,教材教具の工夫等のほか,児童・生徒の社会的適応性のは握に努め,その実態に即した適切な指導を行うことが大切である。

付記 知的障害特殊学級の整備

特殊学級に在籍している児童・生徒のうちには,地域の地理的条件や児童・生徒の身体的条件により通学上の負担が過重になっているものもあるため,これらの条件等を考慮し,特殊学級を適正に配置するとともに,更に,現在,特殊学級においては年齢差が著しいなど児童・生徒の心身の発達段階は様々であることを考慮して,今後は,可能な限り,学級編制について複数設置を図るなどの配慮を行うことが望まれる。

第4 肢体不自由者
1 教育措置基準

肢体不自由の程度が学校教育法施行令第22条の2の表肢体不自由者の項に規定する程度に達しない軽度の者(以下「軽度肢体不自由者」という。)については,必要に応じて軽度肢体不自由者のための特殊学級(以下「肢体不自由特殊学級」という。)を設けて教育するか又は通常の学級において留意して指導すること。

また,軽度肢体不自由者の教育措置の決定に当たっては,医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断して,その適正を期すること。

2 指導内容及び指導形態

肢体不自由特殊学級においては,障害の状態を改善し,又は克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うための指導など,軽度肢体不自由者の実態に即した適切な指導を行うとともに,通常の学級との交流の機会を設けるよう配慮すること。

また,通常の学級において,軽度肢体不自由者の指導を行う場合には,学習環境等への配慮のほかに,必要に応じて当該学校若しくは当該学校以外の学校における肢体不自由特殊学級への通級による指導又は専門の教師の巡回による指導などの方法を地域の実態に応じて考慮すること。

(説明)
1 教育措置基準について

軽度肢体不自由者は,通常の学級における学習活動に支障があり,かつ,機能訓練等の特別の指導を必要とする者から,通常の学級における学習活動にさしたる困難はなく学級担任の教員が留意して指導すれば通常の学級で学習が可能な者まで,その実態は様々である。

したがって,軽度肢体不自由者の教育措置の決定に当たっては,体幹,上肢及び下肢の個々の機能障害や総合的機能障害の程度及び機能障害の改善のための特別の指導の必要度について,医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断することが大切である。

2 指導内容及び指導形態について
(1) 肢体不自由特殊学級における指導

学校における日常動作(移動,筆記,食事,用便等の動作)にやや困難があるため,特定の教科等の学習が通常の学級では支障があり,かつ,機能訓練等の特別の指導を要する程度の軽度肢体不自由者については,肢体不自由特殊学級で指導することが望ましい。

なお,通常の学級の児童・生徒と学習活動を共にする機会を積極的に設けることが大切である。

(2) 通常の学級における指導

通常の学級に在籍する軽度肢体不自由者の指導に当たっては,軽度肢体不自由者の実態に応じて適切な指導を行うため,次のような配慮が必要である。

ア 通級又は巡回による指導

学校における日常動作にさしたる困難はなく,机,いす等の学習環境や教材・教具等の工夫・改善などの配慮に加えて,機能訓練等の特別の指導が,部分的かつ定期的に必要な程度の軽度肢体不自由者については,通常の学級で留意して指導するほか,特定の時間に当該学校又は当該学校以外の学校における肢体不自由特殊学級への通級による指導が受けられるようにすることが望ましい。この場合,学級担任の教員と肢体不自由特殊学級担当者との連携を図る必要がある。

また,地域の実態によって,通級による指導が受けられない場合には,専門の教師が定期的に当該学校を巡回して,機能訓練等の指導を行ったり,学級担任の教員等に対して指導上の留意事項について必要な助言を行うことが望ましい。

イ 留意による指導

学校における日常動作に困難はなく,学習環境や心理的・社会的適応等への配慮によって,通常の学習活動を支障なく行うことのできる程度の軽度肢体不自由者は,通常の学級において留意して指導することが望ましい。

第5 病弱・身体虚弱者
1 教育措置基準

慢性の疾患又は身体虚弱の状態が学校教育法施行令の第22条の2の表病弱者の項に規定する程度に達しない者(以下「病弱・身体虚弱者」という。)については,必要に応じて病弱・身体虚弱者のための特殊学級(以下「病弱・身体虚弱特殊学級」という。)を設けて教育するか又は通常の学級において留意して指導すること。

また,病弱・身体虚弱者の教育措置の決定に当たっては,医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断して,その適正を期すること。

2 指導内容及び指導形態

病弱・身体虚弱特殊学級においては,慢性の疾患,身体の虚弱の状態を改善し,又は克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うための指導など病弱・身体虚弱者の実態に即した適切な指導を行うとともに,通常の学級との交流の機会を設けるように配慮すること。

また,通常の学級において,病弱一身体虚弱者の指導を行う場合には,健康回復,体力増強等の配慮のほかに,必要に応じて当該学校若しくは当該学校以外の学校における病弱・身体虚弱特殊学級への通級による指導又は専門の教師の巡回による指導などの方法を地域の実態に応じて考慮すること。

(説明)
1 教育措置基準について

病弱・身体虚弱者は,その病類については,慢性疾患の病状の軽度の者,病後及び手術後の回復期にある者,筋ジストロフィー症の軽度の者,身体虚弱の者など多様であり,また,その学習の可能性については,特定の教科等の学習が通常の学級では困難で,健康の回復・改善のための特別の指導を要する者から,通常の学級における学習活動にさしたる困難はなく学級担任の教員が留意して指導すれば通常の学級で学習が可能な者まで,その実態は様々である。

したがって,病弱・身体虚弱者の教育措置の決定に当たっては,医療,入院の要・不要,医療や生活規制を必要とする期間,健康の回復・改善のための特別の指導の必要度について医学的,心理学的,教育的な短点から総合的に判断することが大切である。

2 指導内容及び指導形態について
(1) 病弱・身体虚弱特殊学級における指導

体育などの特定の教科等の学習が通常の学級では支障がある者や生活規制により授業時数に配慮を要し,かつ,慢性の疾患,身体虚弱の状態を改善・克服するために特別の指導を要すると思われる者については,病弱・身体虚弱特殊学級で指導することが望ましい。

なお,通常の学級の児童・生徒と学習活動を共にする機会を積極的に設けることが大切である。

(2) 通常の学級における指導

通常の学級に在籍する病弱・身体虚弱者の指導に当たっては,病弱・身体虚弱者の実態に応じて適切な指導を行うため,次のような配慮が必要である。

ア 通級又は巡回による指導

健康状態の配慮に加えて,健康の回復・改善のための特別の指導が,部分的かつ定期的に必要な程度の病弱・身体虚弱者については,通常の学級で留意して指導するほか,特定の時間に当該学校又は当該学校以外の学校における病弱・身体虚弱特殊学級への通級による指導が受けられるようにすることが望ましい。この場合,学級担任の教員と病弱・身体虚弱特殊学級の担当者との連携を図る必要がある。

また,地域の実態によって,通級による指導が受けられない場合には,専門の教師が定期的に当該学校を巡回して,健康の回復・改善に関する指導を行ったり,学級担任の教員等に対して指導上の留意事項について必要な助言を行うことが望ましい。

イ 留意による指導

学習環境や心理的・社会的適応,健康回復,体力増強等への配慮によって,通常の学習活動を支障なく行うことのできる程度の病弱・身体虚弱者は,通常の学級において留意して指導することが望ましい。


第6 言語障害者
1 教育措置基準

言語障害者については,必要に応じて言語障害者のための特殊学級(以下「言語障害特殊学級」という。)を設けて教育するか又は通常の学級において留意して指導すること。

また,言語障害者の教育措置の決定に当たつては,医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断して,その適正を期すること。

なお,聾,難聴,脳性まひによる肢体不自由,知的障害などに伴って生ずる言語障害を有する者は,その障害の性質及び程度に応じて聾学校若しくは養護学校又は難聴者,肢体不自由者若しくは知的障害者のための特殊学級において教育すること。


2 指導内容及び指導形態

言語障害特殊学級においては,障害の状態を改善し,又は克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うための指導など言語障害者の実態に即した適切な指導を行うとともに,通常の学級との交流の機会を設けるよう配慮すること。

また,通常の学級において言語障害者の指導を行う場合には,対人関係における意志疎通等への配慮のほかに,必要に応じて当該学校若しくは当該学校以外の学校における言語障害特殊学級への通級による指導又は専門の教師の巡回による指導などの方法を地域の実態に応じて考慮すること。

(説明)
1 教育措置基準について

言語障害は,話しことばの障害であり,器質的又は機能的な障害に分けられ,その種類及び程度は多岐にわたり複雑であるため,言語障害者は,通常の学級における学習活動が困難な者から,通常の学級における学習活動にさしたる困難はなく学級担任の教員が留意して指導すれば通常の学級で学習が可能な者まで,その実態は様々である。

したがって,言語障害者の教育措置の決定に当たっては,言語の障害の性質及び程度について,医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断することが大切である。

2 指導内容及び指導形態について
(1) 言語障害特殊学級における指導

話し方の障害の状態によって,特定の教科等の学習が通常の学級では支障があり,かつ,特別の指導を要する程度の言語障害者については,言語障害特殊学級で指導することが望ましい。

言語障害特殊学級の対象者は,一般的にみてその構成員が多学年にわたることが多く,教育課程の実施に際しても個別的な取扱いに偏り集団学習の機会が少なくなりがちである。このため,言語障害特殊学級の指導に当たっては,実態に即して通常の学級との交流による学習活動を適切に行うなどして固定的な学級の指導に陥ることのないよう配慮することが大切である

(2) 通常の学級における指導

通常の学級に在籍する言語障害者の指導に当たっては,言語障害者の実態に応じて適切な指導を行うため,次のような配慮が必要である。

ア 通級又は巡回による指導

対人関係における意志疎通等の配慮に加えて,発音及び発語指導等の特別の指導が,部分的かつ定期的に必要な程度の言語障害者については,通常の学級で留意して指導するほか,特定の時間に当該学校又は当該学校以外の学校における言語障害特殊学級への通級による指導が受けられるようにすることが望ましい。この場合学級担任の教員と言語障害特殊学級の担当者との連携を図る必要がある。

また,地域の実態によって,通級による指導が受けられない場合には,専門の教師が定期的に当該学校を巡回して指導を行ったり,学級担任の教員等に対して指導上の留意事項について必要な助言を行うことが望ましい。

イ 留意による指導

対人関係における意志疎通及び心理的・社会的適応等への配慮によって通常の学習活動を支障なく行うことのできる程度の言語障害者は通常の学級において留意して指導することが望ましい。

第7 情緒障害者
1 教育措置基準

自閉,登校拒否,習癖の異常などのため社会的適応性の乏しい者,いわゆる情緒障害者については,必要に応じて情緒障害者のための特殊学級(以下「情緒障害特殊学級」という。)を設けて教育するか又は通常の学級において,留意して指導すること。

また,情緒障害者の教育措置の決定に当たっては,医学的,心理学的,教育的な観点から,総合的に判断して,その適正を期すること。

なお,知的障害,病弱などに伴って,情緒障害を有する者は,その障害の状態及び程度に応じて養護学校又は特殊学級において教育すること。

2 指導内容及び指導形態

情緒障害特殊学級においては,障害の状態を改善し,又は克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うための指導など情緒障害者の実態に即した適切な指導を行うとともに,通常の学級との交流の機会を設けるよう配慮すること。

また,通常の学級において,情緒障害者の指導を行う場合には,発達の状態及び社会適応の状態等への配慮のほかに,必要に応じて当該学校若しくは当該学校以外の学校における情緒障害特殊学級への通級による指導又は専門の教師の巡回による指導などの方法を地域の実態に応じて考慮すること。

(説明)
1 教育措置基準について

自閉,登校拒否,習癖の異常などのため社会的適応性の乏しい者いわゆる情緒障害者は,通常の学級における学習活動が著しく困難な者から,通常の学級における学習活動にさしたる困難はなく学級担任の教員が留意して指導すれば通常の学級で学習が可能な者まで,その実態は様々である。

したがって,情緒障害者の教育措置の決定に当たっては,社会的適応能力の伸長のための特別の指導の必要度について,医学的,心理学的,教育的な観点から総合的に判断することが大切である。また,適切な受け入れ条件及び指導の経過等によっては,発達の状態及び適応行動の状態等の変化が少なくないため,状態の変化によっては,教育措置の変更を適切に行うことが必要である。

なお,知的障害,病弱等に伴って,情緒障害を有する者のうち,社会的適応の著しく困難な者については,その精神発育の遅滞の程度又は医療等の必要性に応じて知的障害者又は病弱者のための養護学校において教育することとし,それ以外の情緒障害の程度が比較的軽度の者については,その知的障害,病弱等の程度に応じて特殊学級において教育することが望ましい。

2 指導内容及び指導形態について
(1) 情緒障害特殊学級における指導

自閉,登校拒否,習癖の異常等のため,通常の学級における学習活動が著しく困難であり,特別の指導を要する程度の情緒障害者については,情緒障害特殊学級において指導することが望ましい。

なお,情緒障害の状態及び程度に応じて,通常の学級の児童・生徒との交流の機会を設けることが大切である。

(2) 通常の学級における指導

通常の学級に在籍する情緒障害者の指導に当たっては,情緒障害者の実態に応じて適切な指導を行うため,次のような配慮が必要である。

ア 通級又は巡回による指導

自閉,登校拒否,習癖の異常等があるが,通常の学級における学習活動にさしたる困難はなく,特別の指導が部分的かつ定期的に必要な程度の情緒障 害者については,通常の学級において留意して指導するほか,特定の時間に当該学校又は当該学校以外の学校における情緒障害特殊学級への通級による指導が受けられるようにすることが望ましい。この場合,学級担任の教員と情緒障害特殊学級の担任者との連携を図る必要がある。

また,地域の実態によって,通級による指導が受けられない場合には,専門の教師が定期的に当該学校を巡回して指導を行ったり,学級担任の教員等に対して指導上の留意事項について必要な助言を行うことが望ましい。

イ 留意による指導

学習環境及び社会的適応等への配慮によって,通常の学習活動を支障なく行うことのできる程度の情緒障害者は,通常の学級において留意して指導することが望ましい。

第8 2つ以上の軽度の障害を有する者
1 教育措置基準

2つ以上の軽度の障害を有する者については,これらの障害の種類及び程度に応じ,特殊学級において教育するか又は通常の学級において,留意して指導すること。

なお,この場合において,第1から第7までに掲げる教育措置基準を参考にすること。

2 指導内容及び指導形態

2つ以上の軽度の障害を有する者の指導については,第1から第7までに掲げる指導内容及び指導形態を参考にすること。なお,特殊学級における指導に当たっては,当該特殊学級に入級することとなった障害以外の障害についても十分考慮し,その障害の実態に即した適切な配慮を行うこと。



付 知的障害者のための発達診断表について


 知的障害者の判定については,学校教育法施行令第22条の2の規定及び「学校教育法および同法施行令の一部改正に伴う教育上特別な取扱いを要する児童・生徒の教育的措置について(昭和37年10月18日付け交初特第380号初等中等教育局長通知)」により事務処理されているところであるが,養護学校教育の義務制の実施を目前に控え,本研究調査会において,就学予定者(翌学年の初めから学齢児童となるものをいう。以下同じ。)のうち知的障害養護学校の教育対象者であるか,小学校(知的障害特殊学級)の教育対象者であるか疑いのある者について判定する際の1つの資料として別添「発達診断表」をとりまとめたので,報告する。

 なお,発達診断表を利用するに当たっては,下記の点に留意されたい。

1 本表は,次のような3つの基本領域及び8つの下位領域から成る発達領域を設定している。

身辺自立(A食事,B排泄,C衣服)

運動機能(D全身運動,E手の連動)

社会生活(F言語理解,G言語表現,H対人関係・集団参加)

2 本表は,健常児の生活年齢水準に対応して次のような5つの発達段階に分けられており,この発達段階の各項目は,該当生活年齢に達した健常児の場合おおむね通過すると考えられるものである。

I(18か月)

II(24か月)

III(36か月)

IV(48か月)

V(60か月)

3 本表を,知的障害者で知的障害以外の障害を持たない満6歳児及び溝7歳児に対して調査した結果によると,各発達段階の項目について精神年齢の別によりおおむね下図の太線を通過するという平均的プロフィールを描くことができる。

なお,知的側面については,標準化された知能検査によった。


第1図 精神年齢36か月未満の者の平均的プロフイール(調査対象者 116名)


4 3で述べた調査結果から本表について次のようなことが言える。

(1)精神発達に遅滞のみられる子供の場合,その発達段階は生活年齢とは必ずしも対応しない。一般的に精神発達の遅滞の程度が重くなるに従い,発達段階が一様に低くなるだけでなく各発達領域間の不均衡も大きくなる傾向がみられる。このような発達の遅れや偏りを客観的かつ多面的にとらえることは,子供一人一人について必要な教育的取扱いを考えていく場合に重要であろう。

第2図 精神年齢36~47か月の者の平均的プロフイール(調査対象者 64名)


(2)就学予定者のうち知的障害養護学校の教育対象者であるか小学校(知的障害特殊学級)の教育対象者であるか疑いのある者については,第2図の平均的プロフィールと比較して,例えば,同程度以上の発達段階のプロフィールを描く場合には後者であると判定するなどして,本表を利用することができる。

(3)子供一人一人のプロフィールが,必ずしも平均的プロフィールと合致しない場合であっても,2のほか,それぞれの学校の担当教員がその子供の教育的取扱いを考えていく場合においても大いに参考となるものである。


発  達  診  断  表

発達段階

発達領域

身辺自立 A 食  事 ・スプーンを握って食べようとする
・コップを持って飲む
・ストローで飲む
・食卓でほかの人の物と自分の物と区別 できる
・スプーンやはしを使って一人で食べる
・ほとんどこぼさないで一人で食べる
・はしを使って上手に食べる
・後片付けを手伝う
B 排  泄 ・連れて行けば便器で大小便をする
・大小便で粗相をしたときに教える
・パンツを脱がせれば一人でトイレに行く
・トイレに行く 必要があるときには教える
・トイレに行きたくなったら一人でパンツを脱いで用を足す
・日中の排泄は自分で注意する
・衣服を脱いで,便器に座り排泄をし,衣服を直す
・排泄 後一人でトイレットペーパーを使える
C 衣  服 ・衣服を着せてもらうとき必要に応じて腕と足を差し出す ・ファスナーを開けてもらうと(ボタンを外してもらうと)上衣 を脱ぐ
・靴を脱ぐ
・助けてもらって自分で衣服を着る
・下着(靴下.パンツ. シャツ)を一人で脱ぐ
・簡単な靴なら一人ではく
・上衣のボタンをはめたり,外したりする
・衣服のファス ナーを開ける
・各種の衣服を一人できる
・上衣類を着たり脱いだりする
・左右をわきまえて靴をはく
連動機能 D 全身連動 ・2~3m一人で歩く ・手すり,片手に支えられて階段を上り下りする
・すべり 台に上り,すべる
・両足跳びをする
・支えなしに階段を上り下りする
・三輪車のペダルをこぐ
・片足跳ぴをする
・でんぐ り返しをする
・ブランコに立ち乗りこぐ
・スキップをする
E 手の運動 ・親指と人差指で物をつかむ
・おもちゃを一方の手からも う一方の手へ持ち換える
・なぐり書きをする
・コップからコップへ水を移す
・直線を真似て書く
・円を真似て書く
・四角を真似て書く
・紙を折りたたむ
・三角を真似て書く
・はさみで円や四角を切り抜く
社会生活 F 言語理解 ・「おいで」「ちょうだい」「いけません」などの要求が分かる
・自分の名前を呼ばれると分かる
・自分の体の部分(顔目耳鼻口頭手足)がたいてい分かる
・「~を持っていらっしゃい」などの簡単な命令を実行する
・「あした」「あとで」が分かる
・「もう1つ」「もう少 し」が分かる
・男女の区別が分かる
・上・下,前・後が分かる
・「さかな」「野菜」「果物」 物」などの抽象名詞が分かる
・「二つ」ということが分かる
・色の名が5つ以上分かる
・数字,ひらがなを拾い読む
・簡単な命令ならば同時に3つ言いつけても覚えて実行する
G 言語表現 ・「パパ」「ママ」「プーブー」「ワンワン」「バイバイ」な どの単語を3.3話す
・「イヤイヤ」「イタイ」などの感情を表わす 言葉を使う
・欲しい物があると「ちょうだい」ともらいに来る
・2語 文(「オンモイク」「パパイッタ」など)を話す
・「ここ」「こっち」「あっち」「これ」「あれ」などの代名詞 を使う
・人の言った言葉を真似る・「なあに」といろいろ尋ねる
・自分の姓と名が言える
・自分のことを代名詞で言う
・「なぜ」「どうして」を文章として使う
・日常の会話に事欠かない
・「でも」「だって」「それか ら」などの接続詞を使う
H 対人関係
集団参加

・単純な動作を真似る
・ほかの子どもと一緒に遊ぶ
・友だちと手をつなぐ
・親がそばにいなくても友だちと遊ぶ
・友だちとけんかを すると言いつけにくる
・友だちと順番に物を使う
・友だちと互いに役割を演じな がら遊ぶ
・他人の物を使う場合承諾を得てから使う
・電話で十分受 け答えができる


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