メルマガ連載記事 「特別支援教育に役立つアシスティブ・テクノロジー」
第5回


特別支援教育に役立つ支援機器の紹介-その2:コミュニケーション-
 

棟方 哲弥 (企画部 総括研究員)  
 

はじめに

 特別支援教育に役立つ支援機器の紹介の2回目です。コミュニケーションはとても重要な活動です。国連障害者権利条約では「言語(音声言語及び手話その他の形態の非音声言語)、文字表記、点字、触覚を使った意思疎通、拡大文字、利用可能なマルチメディア並びに筆 記、聴覚、平易な言葉及び朗読者による意思疎通の形態、補助的及び代替的な意思疎通の形態、並びに利用可能な情報通信技術を含む手段や様式」とされています。すなわちアシスティブ・テクノロジーを使った意思疎通は、人のコミュニケーションの1つの形態なのです。今回も東京大学の『エイティースクウェアード』、国立特別支援教育総合研究所の『支援機器等映像マニュアル』、『iライブラリー』、保健福祉広報協会の『福祉機器製品検索』、テクノエイド協会の『福祉用具情報システム』などから紹介します。
これらのデータベースについては、前号で紹介していますので、それぞれのサイトの説明をご覧になる方は下記(連載第4回目)をご参照下さい。
https://www.nise.go.jp/cms/6,6905,13,257.html
  

一覧表:特別支援教育に役立つ支援機器-コミュニケーション- [155KB pdfファイル]  

 一覧表は、上から順にローテクからハイテクへと支援機器が並ぶようにしています。それぞれの項目に該当すると思われた支援機器名称を挙げて、説明や詳細情報を紹介したリソースを記述しています。

低価格/
ローテク




 



 
高価/          
ハイテク
特別な入出力装置/ソフトウェア

 注:最近はハイテク製品がかならずしも高価とは限りません

 

特別支援学校における最近の活用事例 
-国立特別支援教育総合研究所のアシスティブ・テクノロジーに関する研究報告書から-

 これらの機器やソフトウェアを活用した例を挙げておきたいと思います。上記の報告書では研究協力機関から得られた“アシスティブ・テクノロジーを活用した実践や特定の機器を使った経験”のリストが掲載されています。その中から「コミュニケーション」に関連する活用の実践タイトルを紹介します。実際の活用事例の一部は巻末に上げたケースブックにも掲載されています。

  1. VOCAによる職員室入室時の挨拶支援–入室時と退室時の挨拶の違いの理解へ-(滋賀大学教育学部附属特別支援学校)
  2. 保健室VOCAで,要求を伝える支援(滋賀大学教育学部附属特別支援学校)
  3. VOCAで「給食できました」報告支援(滋賀大学教育学部附属特別支援学校)
  4. 場面緘黙児の高等部生徒に対して,アウトプット手段の1つとしてトーキングエイドを使用し,他者との音声も含めたやりとりを通じて,緊張の緩和や話し言葉の積み重ねをねらった指導の経験(筑波大学附属桐が丘特別支援学校)
  5. 重度重複生徒の「VOCA」を使ったコミュニケーションを高める事例(北海道八雲養護学校)
  6. VOCAを使用することで友達同士のコミュニケーションを促した実践(筑波大学附属久里浜特別支援学校)
  7. VOCAを使用することで,一人で自立的に役割活動に取り組むことを目指した実践(筑波大学附属久里浜特別支援学校)
  8. 携帯電話のメール機能(音声表出)を利用して,要求手段としている実践(筑波大学附属久里浜特別支援学校)
  9. 儀式における次第や校長の話をプロジェクターを使用して,視覚的に提示している実践(筑波大学附属久里浜特別支援学校)
  10. 給食場面で,VOCAを使い,10秒間噛んで食べることができるようになった事例(香川大学教育学部附属特別支援学校)
  11. コミュニケーションブックを活用してコミュニケーションの相手を広げてきた事例(香川大学教育学部附属特別支援学校)
  12. VOCAを使って,行き先を伝えられるようになった事例(香川大学教育学部附属特別支援学校)
  13. VOCAを使って交流学習での自己紹介を行うことができるようになった事例(香川大学教育学部附属特別支援学校)
  14. VOCAを使って,朝の会などの司会の役割を担うことができるようになった事例(香川大学教育学部附属特別支援学校)
  15. VOCAを使って要求や拒否,報告などのコミュニケーションの向上をめざした事例(香川大学教育学部附属特別支援学校)
  16. 発語の困難な児童に,発語の代替としてビックマックに録音した教師の言葉を用いて,友達に問いかけることを促している事例(筑波大学附属久里浜特別支援学校)
  17. スーパートーカーを使用して,朝の会で友達の名前を呼名する実践(筑波大学附属久里浜特別支援学校)
  18. 携帯電話のメール機能を使用することで,要求を伝えるなどのコミュニケーションを円滑にすることを目指した事例(筑波大学附属久里浜特別支援学校)
  19. PICシンボルを用いたLLブック制作の試み(シンボルを利用し読みの支援,語彙の理解を図った実践)(大阪府立茨木支援学校)
  20. 知的障がいと上肢の動きに制限のある肢体不自由高等部生徒を対象に,絵カードをマトリクス上に並べるタイプのVOCAを用いて学級会の司会ができることを目指した事例(長野県稲荷山養護学校)

(同報告書, pp.66-69より抜粋)
 

 終わりに

 コミュニケーションの支援におけるアシスティブ・テクノロジー活用は事例も多くあり、最も重視されている分野であると思われます。その一方で、子どもが音声出力装置(VOCA)を使うことで、子ども自身の発話を身につける指導にマイナスの影響を心配する場合が多いと聞きます。海外や国内の研究論文によれば、そんなことはないようです。すなわち、絵カードやVOCAを用いた指導によって発声やコミュニケーションの頻度が増すという成果です(例えば、Millar, 2009など)。
すなわち適切なアシスティブ・テクノロジーを用いることで、より多くのコミュニケーションのチャンスを作り、人と人のコミュニケーションが成り立つ経験を積むことが大切なことだと考えられます。
 

注:本資料では、一部に具体的な支援機器の名称が紹介されていますが、このほかにも多くの製品があると思います。ここでは特別支援教育に役立つアシスティブ・テクノロジーについて実際的な知識を得ることが目的であり、特定の製品を推奨するものではありません。
 

文献・サイト(サイトは全て平成24年8月27日に確認済み)

  • Millar, D.C.(2009) Effects of AAC on the Natural Speech Development of Individuals with Autism Spectrum Disorders, in Autism Spectrum Disorders and AAC, P.Mirebda & T.Iacono Ed. Baltimore, Paul H. Brookes Publishing Co.
  • 保健福祉広報協会国際保健福祉/福祉機器情報 http://www.hcr.or.jp/search/index.html
  • 国立特別支援教育総合研究所iライブラリー http://forum.nise.go.jp/ilibrary/htdocs/

  • 国立特別支援教育総合研究所、特別支援学校におけるアシスティブ・テクノロジー活用ケースブック、ジアース教育新社、平成24年4月 

  • 国立特別支援教育総合研究所、平成21-22年度専門研究「障害の重度化と多様化に対応するアシスティブ・テクノロジーの活用と評価に関する研究」研究成果報告書  https://www.nise.go.jp/cms/7,5214,32,142.html

  • テクノエイド協会福祉用具情報システム
    http://www.techno-aids.or.jp/TaisCodeSearch.php

  • 東京大学・学際バリアフリー研究プロジェクト http://at2ed.jp


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