メルマガ連載記事 「特別支援教育に役立つアシスティブ・テクノロジー」
第9回


アシスティブ・テクノロジーの確かな活用のために-QIAT指標とは- 

棟方 哲弥 (企画部 総括研究員)  
 

はじめに

 連載の第1回から第7回で、アシスティブ・テクノロジーとは如何なるものであるのか、どのような種類があって、どのような役に立つのか、どこで探せば良いのか、どのような支援機器があるのかなどについて紹介してきました。さらに、前号では、子ども(S)を中心に置いて、特定の具体的な場(E)を想定して、ある活動(T)を実現させるツール(T)を決定する“SETTフレームワーク”の考え方を紹介しました。
 これまでの全8回を理解して実践に活かすことで一人一人の子どものニーズに応じたアシスティブ・テクノロジーの選定や活用を一歩前進させることができると信じます。その一方で、学校内では、特定の障害の子どもだけが対象となってアシスティブ・テクノロジーの活用が行われたり、特定の先生だけが関わったりする状況があるかもしれません。すなわち、個別のアシスティブ・テクノロジーの選定や導入手法の知識や実践だけでは、学校全体の中で一貫して、アシスティブ・テクノロジーを必要とする全ての子どもたちに、その支援を行き渡らせることは難しいと思われます。
 もちろん、より多くの先生方が、支援機器の知識を持ち、その効果的な導入方法を理解することは、学校全体のアシスティブ・テクノロジー活用の大きな一歩となりますが、個別の導入手法の充実ばかりでなく、学校全体で一貫したアシスティブ・テクノロジーの活用を推進するための取組が必要となります。
今回もアシスティブ・テクノロジー活用の先進国である米国に、その知見を求めてみましょう。学校全体でアシスティブ・テクノロジーの確かな活用を推進するための「質の高いアシスティブ・テクノロジー活用の指標(Quality Indicators for Assistive Technology Services: QIAT)」について紹介します。
 

質の高いアシスティブ・テクノロジー活用の指標(以下、QIAT指標)とは

 QIAT指標とは、アシスティブ・テクノロジーの活用について、学校や学校区の一つのスタンダードの確立を目指したものです。学校全体で、一貫した質の高いアシスティブ・テクノロジー活用が行われるためのスタンダードであり、学校全体で、まず何に努力すべきか、次に何に取り組むべきか、という指針を与えてくれます。
 QIAT指標の考え方の根底には、例えば、学校に新しい技術革新が浸透していく過程は、その変化が直ちに起こるのではなく、長期的に段階を経て理想型に向かうものであるという考え方があるようです。すなわち、アシスティブ・テクノロジーの活用でいえば、その学校では「ATは障害のある生徒に対しては検討されていない。」など「許容不可」(unacceptable)から、「ATは障害のある生徒すべてに対して検討され、個々の生徒の教育上のニーズが常に反映されている」という「理想型」(ideal)まで、それぞれの段階があることを前提とします。
 その上で、その学校の現状を把握し、このQIAT指標を理想型に向かって継続的な改善を導くためのベンチマークとして用いるのだと、説明しています。
この「許容不可」から「理想型」までの段階的項目の例を「アシスティブ・テクノロジーの導入に関する検討作業に関するQIAT指標」から具体的に説明してみましょう。
  

例)1.アシスティブ・テクノロジーの導入に関する検討作業に関するQIAT指標

品質指標1
支援技術(AT)機器・サービスの利用は、障害の種類・程度にかかわらず、障害のある生徒すべてに対して検討されている。
品質指標2
 個別教育計画(IEP)の作成中、IEPチームはAT機器・サービスに対する個々の生徒の潜在ニーズを体系的に検討するため、一貫して協力的な意思決定プロセスを採用している。
品質指標3
 IEPチームのメンバーは、ATについて十分な情報を基に意思決定を行い、必要な場合には支援を求めるための知識と技能を共有している。
品質指標4
 AT機器・サービスの必要性に関する決定は生徒のIEP目標・目的、課内・課外活動への参加、一般カリキュラムでの成績に基づいている。
品質指標5
 IEPチームは生徒のAT機器・サービスの必要性を検討する際に、生徒、習慣的環境、教育目標、課題についてデータを収集・分析する。
品質指標6
 ATが必要な場合、IEPチームは把握されたニーズに対応するAT機器・サービス、その他支援の種類について調査する
品質指標7
 ATの検討プロセスと結果はIEPで文書化され、決定の根拠とそれを裏付ける証拠を盛り込む。

 

品質指標1に関する「許容不可」状態~「理想型」の5段階の内容

1.許容不可
  1. ATは障害のある生徒に対しては検討されていない。 
     
  2. ATは重度障害の生徒または特定の障害区分にある生徒に対して検討されている。
     
  3. ATは障害のある生徒すべてに対して検討されているが、個々の生徒の教育上のニーズが反映されるかについては一貫性がない 
     
  4. ATは障害のある生徒すべてに対して検討され、個々の生徒の教育上のニーズが概ね反映されている
     
  5. ATは障害のある生徒すべてに対して検討され、個々の生徒の教育上のニーズが常に反映されている。
  
5.理想型


 いかがでしょうか。ご自身の学校について考えて見ましょう。もし、現状が3レベルだとすれば、次は4レベルを、その次は5レベルを目指せば良いことが分かります。

実際のQIAT指標には、上記を含めて以下の8領域が説明されています。

  1. 支援技術ニーズの検討のための品質指標(上の例です。)
  2. 支援技術ニーズの事前評価のための品質指標
  3. IEPに支援技術を盛り込むための品質指標
  4. 支援技術実施のための品質指標
  5. 支援技術の有効性評価のための品質指標
  6. 支援技術の移行のための品質指標
  7. 支援技術の運営サポートのための品質指標
  8. 支援技術における専門能力育成・訓練のための品質指標

 この理想型の状態までの各レベルを検討したのが、米国のQIATコンソーシアムという団体であり、その構成員は、アシスティブ・テクノロジーの活用の意義を実感した教師や障害のある人を支援する専門職の方の集まりでした。
以下のQIATコンソーシアムのWebサイトに、その主要メンバーの集合写真が掲載されています。テクノロジーの活用がテーマですが女性が多く参加しています。年齢もさまざまです。今後、学校でも全てのメンバーがアシスティブ・テクノロジーの活用を推進するという意味でも良いモデルになると思われます。
 http://natri.uky.edu/assoc_projects/qiat/index.html

 もう一つ、QIAT指標では、それぞれの領域で学校が陥りやすい誤解を説明しています。この内容を示すことで、それぞれの品質指標の5段階の意味が、より分かりやすくなります。
 例えば、上の例に示した導入段階の検討については以下のようになっています。
 

学校が陥りやすい誤解の例 

  1. アシスティブ・テクノロジーは重度の障害のある子どもだけに検討されるものである。
  2. IEPの作成メンバーに誰一人アシスティブ・テクノロジーの知見のある人がいない。
  3. 子どもの状態(S)、活用環境(E)、活動内容(T)について、一貫したデータに基づく手続きでニーズが検討されない。
  4. 検討されるアシスティブ・テクノロジーが、学校のあるものに限定されて検討される。
  5. アシスティブ・テクノロジーの活用が、教育課程やIEPの指導の目標に合わせられていない。
  6. もし、検討の結果、アシスティブ・テクノロジーが必要ない場合に、その結果が書類として残されない。

 (アシスティブ・テクノロジーの検討段階における陥りやすいエラー, Joy Smiley Zabala & Diana Foster Carl (2005), p.184)

 いかがでしょうか。読者の身近にも、上記のような「陥りやすいエラー」があるのではないでしょうか。
 

QIAT指標を活用した実践に向けて

 ところでQIAT指標は、上に述べたように事項の数も多く、また、学校区が行うべき領域の詳しく書かれています。QIAT指標を活用する場合には、全ての領域についてチェックするのではなく、最初の段階として、例えば、上に紹介した「アシスティブ・テクノロジーの導入がどのように行われるべきかの検討に関するQIAT指標」についてとりあげると良いでしょう。
 また、現状の把握についても、初めから、いきなり学校全体の状況をチェックするのではなく、まず、担任するクラスで、次に、それぞれの学部や学年の状況をチェックしてみると良いかもしれません。もし、「理想型」でなければ、次に、担任するクラス、学年や学部の中で「理想型」までレベルを向上させる努力をします。
 その後、管理職に学校全体の状況をチェックしてもらい、自身の経験をもとに、学校全体が「理想型」に近づくような働きかけをすることが効果的であると思われます。
文献にある国立特別支援教育総合研究所(2011)の報告書の資料で紹介されているQIAT指標では、以下の注意書きがあります。

 個人やチームがQIATマトリクスを利用する際には、評価結果は個人・チームが携わるサービスに対する認識が合理的に反映されるだけであり、組織内の一般的なサービスについては反映されない場合があることを理解する必要がある。QIATは、組織内のすべての生徒に対する支援技術サービスの質と一貫性の向上がその主な目的であるため、個人やチームの働きがベストプラクティスの水準にあるという認識であっても、引き続き組織全体でのサービスの質と一貫性の向上の必要性が示される場合もある。(QIATコンソーシアム, 2005)
 

学校長など管理職の役割の重要性

 上記のように、学校全体で一貫したアシスティブ・テクノロジーの活用を進めるためには、学校全体の推進体制が重要となります。
米国では、The Council for Exceptional Children (障害のある子どもやギフティッドの子どもなど、特別なニーズのある子どもたちの教育に関する世界最大の団体。「米特殊教育評議会」「特別の子どものための評議会」「特殊教育評議会」など、さまざまに呼ばれています。)の「テクノロジーとメディア」部会では、QIAT指標を含めた管理職のためのアシスティブ・テクノロジー活用ガイドを発行しています。
 そこでは学校長などの管理職がアシスティブ・テクノロジーの法律や定義を知って、リーダーシップを発揮し、予算を含めて学校管理の枠組みに位置づけ、アシスティブ・テクノロジー活用の観点を踏まえて職員を指導し、アシスティブ・テクノロジー関連のサービスの研修や指導の評価を行う重要性を指摘しています。
 それぞれの事項についてチェックリストを提示して、学校全体で一貫したアシスティブ・テクノロジーの活用を実現できる唯一のキーパーソンが学校長であり、学校区の管理職であるとしています。

 文部科学省の「教育の情報化に関する手引」(平成22年10月)には、その推進体制の整備の中で、校長、副校長(教頭)、教務主事によるリーダーシップの発揮を求めています。特別支援教育におけるアシスティブ・テクノロジーの活用が学校全体で一貫して行われるためには、学校長などの管理職のリーダーシップによる推進体制の整備の下、系統的で、一人一人のニーズに応じたアシスティブ・テクノロジーの検討が全ての子どもたちに行わることが大切と思われます。
 

 終わりに

 全10回の連載も、次回で最後になります。その意味で、次回は、これから出現が期待されるアシスティブ・テクノロジーについて、さまざまな先端的技術を含めて紹介し、その可能性を検討してみたいと思います。
 これまで先端技術が開発されても、その後長い時間が経過しても、必ずしも身近になるものでは無かったことや、技術にニーズを合わせるような現実があったことも事実です。その一方で、携帯端末やゲーム機など、先端技術が急速に身近になっている例も少なくありません。このような背景から東京大学先端科学技術研究センターでは「身の回りにあるテクノロジー(アルテク)」を活用するというプロジェクトが進められているようです。これらを含めて、これから期待されるアシスティブ・テクノロジーについて検討します。
 

謝辞

 最後になりますが、国立特別支援教育総合研究所(2011)の報告書のQIAT 関連資料の翻訳にあたってはQIAT コンソーシアムの先導者であり,SETT フレームワークの開発者であるJoy Zabala 博士より快諾を頂きました。ここにQIATコンソーシアムの先導的役割への敬意も合わせて、改めて謝意を表します。
 

文献

  • Joy Smiley Zabala & Diana Foster Carl (2005), Quality Indicators for Assistive Technology Services in Schools, Handbook of Special Education Technology Research and Practice, In D. Edyburn, K. Higgins, & R. Boone( Eds.), Knowledge by Design, Inc., Whitefish Bay, USA
  • 国立特別支援教育総合研究所(2011), 平成21-22年度 専門研究A「障害の重度化と多様化に対応するアシスティブ・テクノロジーの活用と評価に関する研究」成果報告, 国立特別支援教育総合研究所. http://www.nise.go.jp/cms/7,5214,32,142.html(参照日2012.11.20)
  • 文部科学省(2010), 教育の情報化に関する手引, 文部科学省, 平成22年10月.
  • Technology & Media Division of the Council for Exceptional Children (2004), A School Administrator’s Desktop Guide to Assistive Technology, Council for Exceptional Children, Arlington, USA.
  • The QIAT Consortium (2009), Self-Evaluation Matrices for the Quality Indicators in Assistive Technology Services, http://natri.uky.edu/assoc_projects/qiat/qualityindicators.html(参照日2012.11.20)

     


 <目次のページに戻る