【質問内容】 

(1)実践への位置づけについて

(2)活用事例について

(3)キャリア教育との関連について

(4)ICF関連図の活用について

(5)他職種との連携について

(6)ICIDH(国際障害分類、1980)について

(7)本人の特性について

(8)活動と参加について

 

(1)実践への位置づけについて

1)子どもの実態把握と担任間の共通理解でICF関連図を活用できないかと考えています。その際、①複数担任で特別支援教育経験年数に差があって子どもの実態のとらえ方が大きく異なると予想されるのですが、その場合でも機能するでしょうか。また、②年にどれくらいの回数、どの時期にICF関連図作成のための話し合いを持つとよいでしょうか。

 ①のような状況であれば、なおさらICFが有効になると思われます。それは、経験の違いやその人の見方の特性にかかわらず、多面的・総合的に人の生活を見ることができるのが、ICFの特徴だからです。

 ②については、学校のサイクルによるのだと思います。例えば、個別の教育支援計画において活用される場合、実態把握や指導・支援の介入後の評価をいつ何回行うか、によると思います。もし仮に実態把握に使うとすると、作業量の面からは4月に行うのは難しいのかもしれません。ある学校では、3月に大まかなものを作り、夏休みにじっくりと捉え直しをされていましたので、そこでは取組やすかったようです。

2)巡回相談においてICFを活用する際、相手校の教員間の共通理解を図っていく上でICFをまず理解してもらうことも必要になると思っていますが、その際は相手校のコーディネーターもしくは担任、全職員等、どのような立場の人たちと共有していったら、効率的且つ効果的に進められるでしょうか。

 仮に特別支援学校によるセンター的機能を想定し、特別支援学校側に指導・支援の主導権があるような段階では、特別支援学校側の先生がICFを活用する手法及びICFそのものについて知っておき、窓口となる先生を通して可能な範囲で校内の先生や保護者等のコーディネートをするとよいのではないかと思います。その際は、特に「ICFとはそもそも・・・」という話から始めるのではなく、ICFの活用を絡めた実務的な関わりの後で、背景となった考え方の一つとしてお話することもありえるのではないでしょうか。一方で、小・中学校等側に主導権があり、それを後方支援するようなかかわりの場合には、相手先でコーディネートをされる方に必要な知識や技能があったほうがよいのではないかと考えられます。 

 

3)ICFの活用とは、ある子どもについてICF関連図を用いて分析することで中心課題につながり、そこから実際の授業につなげていくということだと理解しています。ところで、個別学習では、そのICF→授業ということは何となく理解できるのですが、生活単元学習などの集団での学習に関連づけるとしたらどのように考えていけばよいのかがよくわかりません。また、授業改善につなげるとしたら、授業の評価とICFの視点というのがあると思いますが、それをどのように改善につなげていけばよいのかについてもよく分かりません。単元設定とか課題設定とか、全体として弱いというのが現状のように感じていますがどうでしょうか。

 まず、ICF関連図を用いて個々の中心課題を見いだすための活用、という方法は確かに多く報告されていますが、それが絶対的な方法ではないと思います。集団での学習に活用する例としては、静岡県立御殿場特別支援学校において、ICFの概念図を模した支援シートと呼ばれるものに、その授業に関連する子どもの実態や目標、手立て等を収め、検討した取組などが報告されています。

 授業改善について、仮にその授業の中で期待される活動(≠ICFでの「活動」)等が行われるために、どのような教材(環境因子)が求められ、どのような知覚運動の状況(心身機能)が必要なのか、子どもの興味関心(個人因子)に合致しているのか、、、等、ICFの概念的な枠組みから検討する、というのが一つの方法かと思います。また、この考え方に基づけば、単元設定や課題設定そのものは、子どもの活動の在りようを左右する重要な環境因子として位置づけることができると思います。

 4)本校では、ICFの活用には全く取り組んでおらず、その理念はもちろん活用の仕方を学んだりしてはいません。まず、校内の研修会を開き周知徹底することが先なのか、それとも担当分掌部等の中で小さく活用し利便性をアピールしていくことが先なのか・・・もちろんダブルがよいのか、それとももっと別のやり方があるのか。以前、他の内容のことで学校に導入しようとして職員の抵抗感からうまくいかなかったことがありましたので、どのようなところから始めればよいか、教えてください。

 

  「そもそもICFとは・・・」というところから始まると以前と同じことが起こる可能性がありますし、必ずしもそこから始める必要はないのだと思います。もし貴校の状況に合うのであれば、ICFを活用した方法を試されてみて、効果が認められた際に、ICFについて補足説明のようなことをされるのもよいのではないかと思います。いわゆる「理念」とツールは表裏一体です。「理念」を大事にして実践に移していくためにも、「ツール」等で使いながら、というのも現実的にはありえるのだと思います。

5)本校では、ICFの考え方を取り入れ、次年度への引き継ぎの資料にもなっているのですが、理解も取り組み方も様々で、残念ながら十分に活かされていない状況です。作ることになったから作るもの、年度初めと年度末に見直すもの、というような感じで身近な物にはなっていません。作成する際も、ほぼ一人で行い、話し合いながら共有していくという状況にはなく限られたシートの枠の中に、どのような内容、項目を選んで書けばいいのか、迷いがある人が多いようです。赤い本を見ずに作成することがほとんどで、項目の偏りなどに気付くことは少ないように思います。せっかくだったら、ICFの考え方を取り入れ、有効活用しながら日々の実践につなげていきたいと思うのですが、ICFというと難しいと構えてしまう人が多く、十分に研修もできていないような状況ですがどうしたらよいでしょうか。

  導入されてしばらく経ち、キーパーソンが転出された中で、方法のみが残った場合には、なぜICFが導入されたのか、何のためにICFを活用しようとしたのか、という部分が抜け落ち、教職員の動機付けが弱くなりがちになることがあるかと思います。ICFを活用することは絶対的なことではないので、活用しないようにするという選択肢もありえるかと思いますが、その際にも、なぜICFを活用しようとしたのかという背景と今の状況をあらためた確認した上で判断されたほうがよいかと思います。本研究で開発した「特別支援教育においてICF又はICF-CYの活用を検討している学校等のための活用手順(試案)ver.7(近日公開予定)」では、既に活用されている学校の状況をあらためて確認するためにも使えるのではないかと考えています。また、貴校での研修のねらいや内容としては、「ICFとは何か」というより「本校におけるICFの活用とは」といったもののほうが良いように思います。

 6)進路指導の場面で、保護者との共通理解及び連携にICFを使いたいと思っていますが、本人の進路について学校の見立てと保護者の希望がかなり相反しているとき、どのように考えて使っていくと良いのでしょうか。本人の意思確認はわずかですができますが、子どもの実態を考えたり、一番近くで子どもを見ていて、この後も一緒に生活する保護者の希望を考えたりすると判断が難しいところがあります。ICF関連図を作るとき、本人の気持ちや主観が本人から明確に出ない場合など、どのようにその部分を捉えていくと良いのでしょうか。  

 子どもの気持ちを推し量る、というところは、とても重要なことでありながら、同時にこのことはICF活用の有無にかかわらずとても難しいことです。特別支援教育におけるICFの活用を研究されている方の中には、子どもの内面の育ちを重視され、その手がかりを得るものとして、外側から見える子どもの生活の状況についてICFを用いて理解し、内面に迫ろうとされている方々もいます。一方、ICF関連図を用いた方法では、多面的・総合的に子どもの生活を捉え、その状況を視覚化することで子どもの気持ちを推し量る手がかりが得やすくなるのではないでしょうか。また、そのことで保護者を含めた関係者との情報の共有や話し合いもしやすくなるのではないかと思います。

(2)活用事例について

 本校では、特別に「ICF」という言葉を用いて何かに活用しているということはしていませんが、何となく要素は取り入れているような感じです。現在、学校現場でICFをどのように、どんな場面で活用されているのかという具体例が詳しく知りたいです。一番活用したいのが「個別の教育支援計画」です。現状では実態把握の視点も書く人によって様々であり、目標の視点もそのときの担任裁量になってしまう傾向にあります。

  興味を持っていらっしゃる方のニーズに併せて事例を見ることができるデータベースを公開しています。次のアドレスでの検索項目のうち、「活用の場面」で「個別の教育支援計画」を指定するといくつかの報告を見ることができますのでご覧下さい。

 https://www.nise.go.jp/cms/8,556,18.html

 ただし、個別の教育支援計画のことも含んでいても、こちらが登録の際に他のキーワードをわりふっている事例については、システムの関係上、ヒットさせることができないことを御了承ください。なお、個別の教育支援計画と一言で言っても、学校や自治体で様々な状況にあるので、個別の教育支援計画そのものが、ご自分のイメージされているものと同じかどうかも確認ください。

(3)キャリア教育との関連について

 「ICFとキャリア教育を縦と横の軸にして」とはどうようなことですか。 

 大まかにいうと、ICFを活用することで、ある時点での一人ひとりの生活を多面的・総合的に捉えることができますが、その中には、時間軸は含まれておらず、いわば横軸の捉えということができます。また、ICFを活用した実態把握そのものには、子どものどの部分に焦点を当てるのかやどの方向に伸ばすのかという視点は含まれていません。一方で、キャリア教育は、勤労観・職業観を中心にしたキャリア発達を促す教育であるため、それそのもので横軸の実態把握をできるものではありませんが、子どもに身に付けさせたい力が縦軸にそって整理されています。

 したがって、ICFを用いて横軸で把握した子どもの実態を踏まえ、縦軸の視点を持つキャリア教育の視点を参考にしながら、どの方向に子どもを伸ばそうとするか等を検討することができるのではないか、ということになります。

(4)ICF関連図の活用について

1)子どもの全体的な情報をICF関連図で整理・検討する際に留意すべきところにはどのようなことがありますか。

 その時点で把握している情報をまとめた後、他に落としている情報や視点がないかどうかICFの項目を参考にしながら検討してはどうでしょうか。その際、詳細に見ていくことはたいへんなので、第一レベル(章レベル)で大まかに見ていくとよいかもしれません。

2)子どもに関するある内容に絞った関連図で留意すべきところにはどのようなことがありますか。

 現在の実態に関する情報を出し合うだけでは、課題となっていることばかりが多くなってしまうこともあるので、①本人の中で得意なところや興味・関心等を含めてとらえたり、②望ましいゴールの姿を想定して、そのためにはどのような心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子、本人の気持ちであったらよいのかを関連図を用いて検討してみたりしてはどうでしょうか。

(5)他職種との連携について

共通言語としてICFを保健、医療、福祉、介護に関わる人たちに普及啓発することが言われているようですが,厚生労働省はどのような立場をとっているのでしょうか。後の関係者となる学生たちの教育課程には,ICFは入っているのでしょうか。 

 厚生労働省所管の社会保障審議会統計分科会生活機能分類専門委員会というものがあり、活用の推進について検討され、普及のためのシンポジウムなども開催されています。また、医療・保健・介護等の専門職の教育段階からの多職種間連携とそこでのICF活用も学会等で検討されています。また、各分野の養成についていえば、例えば理学療法士等の養成段階では障害の捉え方等の内容が含まれており、その中でICFがとり扱われることになっています。

(6)ICIDH(国際障害分類、1980)について

ICIDHについての誤解やモデルの捉え方について教えて下さい。

  ICFについて説明される際、ICIDHについて批判的な意見の紹介がよくありますが、一方で障害の状況を三層構造でとらえなおした等の成果も知っておいたほうがよいのではないかと思います。また、ICIDHの概念図には、環境とのかかわりのことが描かれていませんが、説明の本文には、社会的不利が生まれることに環境的な要素が大きくかかわることなどが書かれています。

(7)本人の主体性等について

ICFは、本人の主体性、内面的な捉えをしていないとのことでしたが、具体的にはどのようなことなのでしょうか。

  本人がどう思うか、という部分については、主観的な側面として、日本の上田敏先生が中心になったWHOの国際分類ファミリー内の研究チームで検討されていますが、今のところICFの中には含まれていません。また、主体性や内面というものをどう捉えるかによりますが、分類項目の中には「b1301動機づけ」のようなものも含まれています。

(8)活動と参加について

ICFの構成要素に「活動」と「参加」があります。定義では、「活動」は課題や行為の個人による遂行、「参加」は生活や人生場面へのかかわり、とされています。ただ、領域が同一のものとして提示され、それぞれについて能力と実行状況を評価することとなっています。活動は個人の課題遂行にかかわる能力とその状況、参加が心身機能・身体構造や活動の要素を含みつつ生活や人生の参加の状況を示しているように感じていますが、領域が同一なだけに、明確な違いが難しいようにも感じています。また、とくに重度重複障害児であると、より二つの違いをとらえるのが難しいなと感じています。この二つの違いをどのようにとらえるのか、それぞれの評価を実際の指導場面へどのように反映させるか、徳永先生からお考えを教えていただきたく思います。

  ICFでの活動と参加については、いわゆる「赤本」の中にある定義程度しか区別がありません。本研究での活用の積み重ねの中では、個人の中で収まることを「活用」とし、生活や社会の文脈が加わる際に「参加」として判断し、どちらに分けるかを厳密に分けることよりも、便宜的に整理しながら、子どもの多面的・総合的理解をはかることのほうに重点を置くようにしてきました。

 一方、ICFの検討段階では、ICIDH-2の段階まで活動と参加は分けられていました。それらを参考にされて検討されるのもよいかもしれません。活動と参加を整理した文献も発行されていますので参考にされてはどうでしょうか。

 

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