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本文 IV あとがき
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IV あとがき
 本調査研究は、主要諸外国の特殊教育の動向、とりわけ特別な教育的ニーズを有する子どもへの指導及び援助の実際とその改善充実の動向について、平成11年度から平成13年度の3年間にわたって各国を実際に訪問し、調査研究を行ったものである。
 この調査研究の背景として、我が国において、障害のある子どもたちに対する指導のより一層の充実を目指した取り組みがあった。すなわち、学習指導要領の改訂と「21世紀の特殊教育の在り方」についての文部省調査研究協力者会議である。学習指導要領の改訂においては、障害のある児童生徒に対する指導の工夫として「特殊学級」及び「通級による指導」が明確に位置付けられるとともに、小・中学校や特殊教育諸学校等の間における交流教育についても明記されている。これらは、通常の教育と特別支援教育の相互交流のより一層の接近・重なりであると同時に、これまでの特殊教育の資源を生かした教育指導の展開をより可能にするものとして捉えることができる。
 また、「21世紀の特殊教育の在り方について」の最終報告書には、“ノーマライゼーションの進展や障害の重度・重複化や多様化、教育の地方分権など特殊教育をめぐる状況の変化が生じており、これからの特殊教育は、障害のある児童生徒等の視点に立って一人一人のニーズを把握し、必要な支援を行うという考えに基づいて対応を図る必要がある”と提言している。その中で、“通常の学級の特別な教育的支援を必要とする児童生徒等に積極的に対応する”ことや“児童生徒の特別な教育的ニーズを把握し必要な教育的支援を行うため、就学指導の在り方を改善する”などの基本的考えが挙げられている。そこでは、「特別な教育的支援を必要とする児童生徒」や「児童生徒の特別な教育的ニーズ」という表現がなされているが、これは、欧米で使われるようになってきた“特別な教育的ニーズ(Special Education Needs)”と同様な考え方を、我が国においても導入していこうとすることが伺われる。
 本調査研究は、新学習指導要領の趣旨や21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究に対応して、主要諸外国における最近の特殊教育の動向、とりわけ特別な教育的ニーズを有する子どもの教育状況を、国レベルの施策、地方レベルの施策、そして学校レベルでの取り組みに等について実際に訪問し、実地調査を行った。
 それは、これまでは海外における特殊教育の研究動向については、当研究所の研究員が10か月の長期在外研修及び3〜5か月の短期在外研修における成果報告として、また、国際学術研究や国際派遣集会報告を中心に「世界の特殊教育」(I〜XV)として毎年刊行報告してきており、特殊教育の情報資料として関係諸機関へ配布してきたところであるが、これらの情報資料は、研究サイドや教育実践などの視点でまとめてきたものであり、それぞれの国の全体的取り組みについてまでの資料は少なかった。また、これまで諸外国の特殊教育の実情を、国の施策から地方の施策、そして学校現場における施策と教育の実際という一貫した体制で、全体的に調査研究を行ったものは少なかった。ましてや、同時に各国間の状況を調査したものはほとんどなかった。
 そこで、本調査研究では、国および地方行政レベルから、地域の教育現場までの一貫した教育情報を得ること目的として、イギリス、イタリア、ドイツ、フランス、アメリカ、の主要5カ国の状況について実地調査したわけであるが、インクルージョン教育が原則とはいっても、その在り方は一様ではなく、各国によって状況はかなり異なっていた。また、国や地方の行政レベルの調査ということで、外務省等を通じて各国大使館から、所轄省庁の担当者を紹介していただき、貴重な情報を得ることができた。
 本報告書では、各国の状況が分かりやすいように報告スタイルの統一を図ろうとしたが、それぞれの国の施策や状況が異なっており、若干の報告スタイルの違いがでたが、社会的文化的背景の相違としてお許し願いたい。
 さて、この調査研究を通して、我が国における検討課題として次のようなことが考えられるのではないか。
1)「一人ひとりが異なっている」教育の実施
 障害のある子どもへの指導や配慮は当然であるが、障害をもたない子どもに対しても「障害の有無にかかわらず、一人ひとりが異なっている」「異なって当たりまえ」という教育を実施していく必要があるのではない。
 これには、これまでの特殊教育からの「交流教育」の経験や成果を踏まえるとともに、一人一人による個による対応による「いじめ」などへの取り組みの経験を生かすなど、個による教育をさらに充実していく必要がある。
2)専門教育の教員養成と実践研究
 各国に共通しているのは、インクルージョンを展開していくに当たって、障害児教育の専門教員養成・教員研修は不可欠であることが分かった。強力な法律によっていきなり変わるのではなく、すでに幼稚園および小・中学校に在籍している障害のある子どもへのサポートについての実践研究が必要であり、各地の教育委員会および教育センターと、障害のある子どもが通常学級に在籍している学校との連携を中心に、特殊教育語学校が協力して研究プロジェクトを進めることがいま必要なのではないか。
3)盲・聾・養護学校の役割の拡大
 インクルージョンが進んできている欧米においても、保護者の希望が特殊教育のサービスの必要性を求めている。我が国においてもこのことは同様で、障害のある子どもたちとその保護者にとっても、特殊教育は重要であり、盲・聾・養護学校は、重要な特殊教育の専門機関であるという位置付けは大切であり、より一層の充実を図る必要がある。特に、学習指導要領や21世紀の特殊教育の在り方についての報告にもあるように、地域の相談や学習の支援センターとしての役割が求められているが、この役割の一環として、通常学校へのサポート機能も必要とされてくるのではないか。
 なお、本報告書は、各節ごとの執筆について、文責として執筆者及び研究分担者名を明記した。本調査研究を進めるに当たっては、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課をはじめ、各国大使館の職員の方々からの多大な尽力があってこそ報告書としてまとめることができたものである。本紙上をかりて心よりお礼を申し上げる次第である。
 最後に、本調査研究に携わっていただいた研究所内外の研究分担者のみなさまのご協力に対し、ここに改めて感謝を申し上げる次第である。

研究代表者  千 田 耕 基
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