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本文 作製の方針

2 作製の方針

1.作製の基本方針
 ここに掲載された全ての触る絵本について、勘や経験に依らず、また通常の視覚的な絵の引き写しでもなく、あくまで触覚的に適切な絵を作製するために、次のことを作製の基本方針とした。

 絵の特性を決定すると考えられる諸属性(触素材、大きさ、数、形、提示位置、向き、傾き等)を自覚的かつ適切に操作することによって触る絵本を作製する。(例えば、風船の絵について、触素材はゴム、大きさは直径7cm、数は1個、形は円、提示位置はページの下方中央等である)


2.絵が触ってよく分かり楽しめるための方針
 絵が触ってよく分かり、かつ楽しめる絵本を作製するための方針として、以下のような方針をとった。

(1)自作による触る絵本の場合は、触覚的に分かりやすい絵を提供することを第一義として、原則として絵の方を優先し、それに合わせてストーリーを作る。

(2)絵本の中のそれぞれの絵を異なる触素材で作製する。また、その際、実物と同じか、実物の触感と出来るだけ同じ触感の触素材を選ぶ。こうすることで、そこに手(や指)をおいただけでも絵が何であるか容易かつ確実に分かるようにする。(例えば、風船の絵はゴムの素材、ネコは毛の素材、流しはステンレスの触感の紙等)(絵の輪郭をたどって初めてその絵が何か分かるというようにはしない)

(3)絵の属性としての形については、単純な形にすることとして、できるだけ、直線、円、四角等の簡単な形にするか、あるいはそれらを要素として絵を構成する。(例えば、風船は円、流しは四角等)

(4)絵の形としては単純でも楽しめる絵本にする方法として、形以外の属性としての大きさ、数、提示位置、向き、傾き等を工夫する。特に、より単純でかつ楽しめるものとして、同じ絵の一つの属性のみ(例えば大きさのみ、提示位置のみ)をページごとに変化させる。(例えば、風船の絵の大きさのみをページごとに変化させることや、ネコの絵の提示位置のみをページごとに変化させる等)

(5)自作による触る絵本を、まず作製し、次いでその成果を元にして、既存の通常の絵本の翻案による触る絵本も作製する。翻案による場合の作製方針については、項をあらためて記す。

(6)立体コピー形式の触る絵本については、上記の(2)の方針は利用することができない。そこで、立体コピー形式の 触る絵本については、 a.絵の属性として、触素材以外の、大きさ、数、形、提示位置、向き、傾き等を工夫して絵を作製する。 b.1ページ中の絵の構成要素のうち、主たる要素を塗りつぶしで表現し、それ以外の要素を線図(白抜き)で表現して、それらが相互に弁別しやすいようにする。


3.触察の仕方の向上を促すための方針
 触察の仕方の向上を促すための方針として、以下のような方針をとった。なお、括弧内に、各方針によって作製した絵本名を記した。

(1)手指で「さがす」動きを生じさせるための設定として、絵本の中で、特定の絵やその構成要素の提示位置をページごとに変化させる部分をつくる。(この方針で作製した絵本:「風船」「石鹸」「ねこ」)

(2)手指で「たどる」動きを生じさせるための設定として、絵本の中に、子どもがたどることを起こしやすいと思われる直線、直角の線、輪の形等を絵(あるいはその構成要素)として配置する。(この方針で作製した絵本:「石鹸」「木の実」)

(3)より高度な「さがす」動きとして、左手(右手)を基点にして右手(左手)で探す動きを生じさせるための設定として、絵本の中に、関連のある絵の構成要素2つを縦、横、斜めなどの位置関係で配置する。(この方針で作製した絵本:「チョウチョ」)

(4)より高度な「たどる」動きを生じさせるための設定として、絵本の中に、斜線、折れ線、曲線、螺旋など、より複雑な線、あるいは/及び、より長い線を、絵(あるいはその構成要素)として配置する。(この方針で作製した絵本:「ビー玉君の冒険」「のりまき」)


4.翻案による触る絵本の作製方針(1)−一般的な方針−
(1)上記の諸方針のうち、「基本方針」及び「絵が触ってよく分かり楽しめるための方針(2)(3)」は、翻案による触る絵本作製の場合にも採用する。

(2)「絵が触ってよく分かり楽しめるための方針(4)」の、一つの属性のみページごとに変化させるという点について、この条件を満たす既存の絵本を選んで、触る絵本へと翻案する。(ここに掲載した絵本の中では「三匹の子豚」が、これにあたる。この場合の属性の変化とは、次の3点である。 a.三匹の子豚が、次々に、それぞれ異なる家を建てることに関して、その藁の家、木の家、レンガの家のそれぞれの違いを、それぞれ触素材を変えて表現する[触素材の変化]。 b.藁の家や木の家がオオカミに吹き飛ばされてバラバラになる様子を、完成されている家をいくつかの部品で作り、次のページではその部品をページ上でバラバラに配置することで表現する。また、レンガの家については、完成された家を、次のページでも同じ絵にして表現する[様態の変化]。 c.レンガの家を吹き飛ばせなかったオオカミが煙突の上から家に入ろうとする場面を、オオカミが、家の前にいる絵から、次のページでは煙突の上に移動している絵によって表現する[提示位置の変化]。)(その他、人や動物の数が次々と増えていく「大きなかぶ」なども、数という属性の変化として、この方針にあてはまる。)

(3)上記以外のことについては、翻案の元となる、それぞれの絵本の特性に対応した方針を、それぞれの作製の際に決定し、触る絵本へと翻案する。(その例としては、ここに掲載した「赤頭巾」を作製するにあたって採用した諸方針がある。その諸方針については項をあらためて記す。それらは「赤頭巾」を翻案するために採用した諸方針だが、他の絵本の翻案についても有効なものが多いと考えられるので参照していただきたい。)


5.翻案による触る絵本の作製方針(2)−「赤頭巾」の翻案を元にして−
(1)物語の本質的な部分を理解するうえで、重要と考えられる場面を選んで、その場面を絵にして、触って分かるようにする。また、その場合、触覚でも確実に分かるように、できるだけ単純な絵本にするために、原則として、その目的のために必要な最小限の場面を選び、必要であれば、それ以外の場面も加える。それは、この絵本では、あかずきんが最初に登場する場面、次いで母親があかずきんにおばあさんの家へのおつかいを頼む場面、次いであかずきんがオオカミに出会う場面等の11場面となった。ちなみに、絵の翻案の元とした絵本では、全部で18の場面の絵があった。

(2)選んだ場面を絵にする場合、(1)と同様、できるだけ単純な絵にするために、物語の理解のうえで絶対に必要と思われる情報をもることを優先し、それ以外の情報については原則として省略する。この絵本では、あかずきんの登場の場面では、ページの中央にあかずきんの絵を作製し、それがあかずきんと分かるように、その頭に三角形のビロードの布をつけた。それ以外の絵はない。ちなみに、元となった絵本では、あかずきんの他、草原、樹木、道、太陽、家などがある。

(3)また、(2)で述べた必要な情報を、場合によってはそれだけが抽出されやすいように、強調して表現するようにする。この絵本では、おばあさんになりすましたオオカミをあかずきんが不審に思って、オオカミに質問する周知の場面では、オオカミの正面を向いた顔だけをページいっぱいの大きさで作り、左右の手は、顔から左右に少し離して手のみを大きく作り、顔については、その耳を大きく作り、目と口は、その素材を大きくくりぬいて台紙を露出させて作製した。それは、オオカミが大きな耳、目、手、口を持っていることが理解されることが、この場面の本質的な部分だと考えたからである。ちなみに元となった絵本では、その場面はベッドに寝て顔だけを出したオオカミと、その寝室のカーテン、オオカミをみるあかずきん等で構成されており、オオカミの顔や手は小さく、これをそのまま触覚的な絵にしても上記の点は理解されがたい。

(4)同様に、できるだけ単純な絵にするために、絵の同じ構成要素がページを通して出現する場合には、その構成要素の提示位置を固定する。この絵本では、当然ながらあかずきんがページを通して出現することが多いが、それが他の構成要素と共に登場する場合、その位置は、ページの左側に固定した。そして、その右側に、その他の構成要素として、お母さん、オオカミ、花畑等を配置した。ちなみに、元となった絵本では、あかずきんの位置はページごとに変化している。


6.点字への興味を喚起し、その学習を促すための方針
 表紙の題名及びストーリーの文章について、墨字(通常の文字)の他に、点字も透明のタッグペーパーなどで添付する。
 そうすることで、やがて、子どもが、その点字を触って、興味を持ち、何と書いてあるか係わり手に尋ねたり、暗記したストーリーの文章を、点字を触りながら言うことも起こりうる。これらのことが、点字学習の土台となり得る。さらに、点字学習において覚えた点字を、触る絵本の文章において、拾い読みすることも生じうる。2)
 また、触る絵本導入以前に重要なこととして、物語の読み聞かせ、即ち、耳のみで文章を聞くことが挙げられる。そのうえで、触る絵本を導入し、その絵を触りながら、題名やストーリーの文章を耳で聞くことへとすすむことが有効であると考えられる。さらに、そのうえで、上記のように、題名やストーリーの文章の点字に興味を持つことも生じうる。


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